殺人鬼エリリンの愉快な死に様。   作:不可思議可思議

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第四話 ボク、意外と強いかもね


 

 

 

 翌朝。

 オルクス大迷宮の正面入り口がある広場にボク達は集められた。

 ドラクエの洞窟みたいなのを期待してたってのにさ。なーんか、博物館みたいな入場ゲートがあるし、受付窓口には制服姿のお姉さんが営業スマイルで接客してるし。

 やってることはチケットの半券を切ったりとかじゃなくて、ステータスプレートをチェックして、記録することで死亡者を把握しやすくしてるんだってさ。卑弥呼はまぁともかく、使駆、入れないじゃん。正面突破くらいしそうだけど。

 

 騎士団長の先導のもと、ボク達は迷宮へと慎重に踏み行った。

 

 迷宮の外は期待外れだったけれど、中の方は期待通り。むしろ期待以上かもしれない。

 縦横五メートルは余裕である広い通路は、明かりがあるわけでもないのにうっすら光ってて、松明も懐中電灯も無いのに周囲の視認が出来る。ただの洞窟じゃこうはならないだろうし、一層ゲームらしく思えた。

 

「……鈴? ボクのお尻を触るのはいいけど、リアクションは期待しないでね?」

 

「その反応は期待外れが過ぎるよエリリン!?」

 

「あなた達、緊張感をどこに忘れてきたのよ」

 

 モンスター、じゃなくて魔物の一匹も出てこないから暇で鈴と遊んでたら、八重樫ちゃんに怒られた。

 そんなことをしてたら、ドーム状の広間のような場所に行き着いた。天井たっかぁ。十メートルくらいあんじゃね?

 

「よし、光輝たちが前に出ろ! 他は下がれ。交代で前に出てもらうからな、準備しておけ」

 

 騎士団長がそう言った途端、示し合わせたように、灰色の魔物がうじゃうじゃと湧き出てきた。赤黒い目で、筋骨隆々で二足歩行の鼠。名前はラットマンというらしい。

 

 八重樫ちゃん、天之川君、坂上君が前衛として突っ込んでいくのを見送りながら、ボクと鈴は魔法攻撃の詠唱を始める。

 

「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――螺炎」」

 

 前衛三人の射程から微妙に離れた位置で固まっているラットマン数匹目掛けて、二人分の螺旋状に渦巻く炎が巻き込みもやし、灰になるまで焼き尽くす。

 

「やったねエリリン!」

 

「イェーイ!」

 

 鈴のハイタッチに応えつつ、改めてラットマンの死骸、ってか灰を見やり、思わずため息が出た。

 魔法もゲームみたいで確かに面白いけど、手応えが無くて仕方ない。どうせ殺すならナイフでサクッと殺りたいし、どうせ遠距離で殺すなら銃がいい。とびきり反動の強いやつなら尚のこと良し。

 

「エリリン……? 大丈夫?」

 

「アッハハー。別になんでもないよ」

 

 全く、全く。鈴は変なときばっかり鋭いんだから。勘のいいガキは嫌われちゃうんだぜ?

 

 

 


 

 

 

 今日の目標であった二十階層まで、ボク達は誰一人として、苦戦らしいことは何一つとしてなかった。

 無能と呼ばれてきた非戦闘職である南雲君だって、錬成をうまく使って魔物を地面に縛り付け、剣で殺していた。

 

 ここは鍾乳洞のようになっている。氷柱状というか、溶けたみたいというか、なんとも歪で複雑な地形をしている。

 過去に来た冒険者の作ったマップによれば、今歩いてる通路の先には二十一階層への階段があるとか。そこが、今日のゴールになる。

 

「えっ、エリリン! いま鈴のお尻触った!?」

 

「ん? 気のせいじゃない?」

 

「絶対触ったって! ムズってしたもんムズって!」

 

 上の階層と比べてここは道幅が大分狭くなってて、どうしても縦列になって進まなきゃいけない。おかげで前を歩いてる鈴にちょっかいをかけたらすぐにバレた。

 

「そんなことより鈴、ちょっと止まって」

 

「そんなこと!? 美少女のお尻を無料(タダ)で触ってそんなこと!?」

 

「いいから、止まってって」

 

「え? う、うん」

 

 鈴が不思議そうな顔で足を止める。当然、後ろにいるボクも立ち止まるから、後ろにいるみんなも足を止める羽目になる。

 

「ゴツいくせに擬態なんて、なかなか愉快な体だね」

 

「へ、……へ?」

 

 鈴のすぐ真横の壁に、ボクは地球にいた頃から愛用してるナイフを突き刺した。

 岩のような外見の皮膚やら肉やらを突き刺せたようで、すぐに抜けば断末魔と共に、少しばかり血が噴き出た。当然、隠れてた魔物の真横にいた鈴に血が掛かる。

 

「ひゃっ!?」

 

「あーあ。だから言ったのに」

 

 鈴の上着に返り血でべったりと染みが……。

 もう何歩か前から、止まってって言ったのに。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 剛腕だぞ!!」

 

 もっと前の方でも同じ擬態能力持ちの魔物が現れたらしくて、前も後ろも騒々しくなる。

 

 新たに現れた魔物は、ボクが殺した奴よりもずっと大きい、ゴリラの魔物だった。二本の足で立ち、ドラミングをしているのがボクや鈴にも見えた。

 

「グゥガガガァァァアアアーーー!!!」

 

 ドラミングと強烈な咆哮で、部屋全体が振動しているような衝撃が走り、前衛にいた天之川君達が一瞬硬直。その隙にロックマウントは、傍らにあった岩を持ち上げ、鈴目掛けてぶん投げた。

 

「なんで鈴!?」

 

「アッハハ。鈴が子供を殺したと思ってるんじゃない? 返り血べったりだし」

 

「エリリンのせいじゃん!?」

 

 キャンキャンと叫んでいても、鈴の天職は結界師。ボクのせいにしろ、なんにしろ、近くにいる何人かはこのままじゃ巻き添えをくらう。

 鈴はほとんど一言になるくらい省略された詠唱を叫んで、シンプルに物体を跳ね除けるだけの結界を生成。投げつけられた岩は、……ボク達の目の前に着地した。なんとびっくり、投げつけられた岩もロックマウントだった。

 

 天之川君達は投げた方のロックマウントと戦ってるし、今目の前にいるロックマウントと戦うには、ボク達が前衛を努めなければならないわけだ。

 

 ボクは魔法の為に寄越された、そこそこの杖をその辺にほっぽり捨てて、さっき子供のロックマウントを殺したナイフを構える。

 

「アッハハハハハッ!! さあやろうすぐやろう! 地獄目指してまっしぐらだ!」

 

 走る──ワオ!

 全力で一歩目を踏み込んでびっくり。体の動きが筋繊維レベルで速いし強い。魔法職だから近接戦闘の訓練なんてろくすっぽしてなかったけど。

 

「ボク、意外と強いかもね」

 

 足の腱を切って姿勢を低くさせて、それから首を刻むつもりだった。だけど、思ったより高く跳べて、一息に首を切り落とせた。

 

 他人の体を動かしてる、みたいな身体能力におっかなびっくりしつつ、胴体を直立させたまま落下した頭を踏み潰そうとして、急にどこからか強烈な光と、岩か何かが崩れる音が、目と耳を眩ませた。

 

 音の方向から聞こえてくる騎士団長の声を聞くに、天之川君がロックマウントを倒すために範囲攻撃みたいな大技を使って、迷宮を崩落させかけたらしい。

 

「おー、こわ」

 

「エリリンの方が怖いよ!? なにっ、アサシンか何か!?」

 

 天井からパラパラって、破片か何かが落ちてくる。これ、マジで一歩間違えたら崩落して生き埋めになってたんじゃないかな。あと鈴、地味に惜しい。

 

 騎士団長のお叱りが終わり、幾らか空気が緩むと、白崎ちゃんが何かを見つけて、天之川君が盛大にぶっ壊した方向に指差す。

 

「あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。光り物には疎いボクでも、まぁ綺麗な水晶だなとは思う。白崎ちゃんや鈴はまぁいいとして、八重樫ちゃんまで見惚れてるのはちょっとばっかびっくり。この辺は同類だと思ってたのに!

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 騎士団長が綺麗な水晶について簡単な説明をするけれど、はて、どれだけの人が聞いているのやら。

 

 

 


 

 

 

 赤い海。赤い空。赤い村。

 鉄の臭いの充満する小さな村は、しかし半刻ほど前には至って普通の村でしかなかった。

 王国から流れ込んだ人間至上主義的な風潮はあったものの、差別対象である亜人も奴隷とはいえ、飢えることも傷つくことも決して無かった。近辺に強力な魔物が発生することもなく、村の住人は怯えることを忘れるほど、長閑な暮らしを送っていた。

 

 だから死んだ。

 

 王国からそう遠くない村というだけあって、勇者一向に紛れ込んだ犯罪者、指名手配犯の情報は、召喚されたその日のうちに届いた。

 

 だから死んだ。

 

 やって来た異国の男女の二人組。彼らの顔は、手配書に書かれた似顔絵と瓜二つであり、男の特徴的な関節の情報も一致していた。

 

 だから死んだ。

 

 村人達は慣れない武器を構えて、二人を捕らえようとした。

 

 だから死んだ。

 

 轢殺(れきさつ)専門の殺人鬼に住居ごと轢き殺された。

 

 刺殺専門の殺人鬼に岩盤ごと刺し殺された。

 

 日が暮れた頃には村は半壊。住民は全滅。家畜一匹、亜人一体すら残されず、地面や壁の染みとなった。草木は濡れた。

 

 それだけのことをしておいて尚、大量猟奇殺人の実行犯である二人は罪悪の一切も感じた様子を見せず、レストラン跡地に残った客席に向き合って座る。

 

「そういえば、恵里はまだ上手くやっておるかのぅ」

 

 刺殺専門の殺人鬼、卑弥呼はふと呟き、調達したりんごに齧り付いた。

 

「ギャハハッ! 心配はいらねぇだろうさ」

 

 血で染まったテーブルを挟んで対面する轢殺専門の殺人鬼、使駆は笑いながら、常人とは構造から違う顎で、肉屋で調達した肉を生のまま喰らう。

 

「あいつは天才だ。タイミングが良けりゃ、……悪けりゃか? まぁどっちでもいいが、もっと早くに殺してれば、今頃俺らと同じになれてたさ」

 

「うぬのそれは期待のし過ぎにも聞こえるが、しかしてやむを得んか。今暫し、妾らはただ無事を祈る他あるまい」

 

「そーだな。ナンマンダブ、ナンマンダブ」

 

「妾を前にしてほざいてくれるな。殺すぞ?」

 

「ギャッハハ! やってみやがれ、神様」

 

 鉄の臭いが腐臭へと変わり始めるまで、殺人鬼達は語り合い、殺し合った。

 




 後書き。というか、今後しばらくは語られないであろう設定。

 恵里のナイフ
 手足や腰、ベルトなど、どこにでも装着可能なホルダーに収めて持ち歩いている。
 原材料は、恵里の生まれ育った家で使われていた安物の包丁。切削、研磨、熱処理まで行い、殺人に最適な形状に改造されている。
 肉体の破壊に優れており、深く切られると即死でなくても、応急処置ではすぐに間に合わなくなる。すぐに病院に駆け込めばなんとか助かる、かもしれない。

 弾丸を受けたり、卑弥呼の槍に刺されたりしたら普通にへし折れるし、耐久性はあまりない。恵里も気に入ってはいるが、執着はあまりなく、同じ形状の予備が数本、別物の刃物が多数、卑弥呼の神社にある。
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