殺人鬼エリリンの愉快な死に様。   作:不可思議可思議

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第五話 死ぬ気で死ね!


 

 

 

「団長! トラップです!」

 

 という、同行した騎士の言葉は、なんの意味も為さなかった。

 

 南雲君をいじめてた、小悪党の一人が、グランツ鉱石に向けて、光に集る虫みたいに崩れた岩を登って近寄る。騎士団長も慌てて、「勝手なことをするな!」と叫ぶも、小悪党はその言葉を無視して、ついに鉱石まで辿り着く。

 

 鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。

 魔法を齧ったからこそわかる、巨大すぎる魔法陣。部屋全体に広がって、輝きの増していく様は、教室からこの世界に転移したあの日の再現にも思えた。

 あの日、愛ちゃんがしたように、騎士団長がこの場を離れるよう呼びかけるも、しかしやっぱりあの日みたいに、誰一人として逃れられなかった。

 

 

 

 転移した先は、巨大な石造りの橋の上、中央あたり。滅茶滅茶にでかくって、端から端までは百メートルくらいありそうだし、天井も遥かに高い。橋の下は覗いてみても何も見えず、ただ闇が広がっている。

 

「お前達、すぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け! 急げ!」

 

 雷の如く轟く、騎士団長の号令。指差す方向を見れば確かに、橋の端より先には、通路と登りの階段が見えた。

 そこまで走るだけなら十秒とかからない。けれどこれはトラップ。ただどこか分からない場所に飛ばすだけで終わるとは、限らない。

 

 ボク達を挟むように、二つの魔法陣が現れ、一つからは大量の魔物が。もう一つからは、巨大な魔物が一体出現する。

 

「まさか、……ベヒモスなのか」

 

 巨大な魔物を呆然と見つめる騎士団長は、呻くように、嘆くように呟いた。

 

 階段への道を塞ぎ、今なお増え続ける大量の魔物。剣をもった、肉なき骨格、トラウムソルジャー。

 行きたい方向とは逆側に出現した、体長十メートルはありそうな、トリケラトプスっぽい魔物、ベヒモス。

 

「グルルァァァァアアアア!!!」

 

 ……あ、やべ。杖置いてきちゃったじゃん。

 ボクが今持ち合わせてる武器は、右腿のホルダーのナイフと、上着のポケットに入れてきたボールペン型携帯長槍。流石に、あの数かあの大きさを相手にこれはしんどいなぁ。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

 

 すぐそばで尻餅をついた鈴の手を取って起こしつつ、どっちとバトりに行くか考えてたら、騎士団長達の声が聞こえてきた。

 

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

 

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、最強と言われた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

 口答えする天之川君は、騎士団長の鬼気迫るような顔に怯むも、すぐに「見捨ててなど行けない!」と、言うことを聞かずに踏みとどまる。

 

「え、エリリンどうしよ」

 

「アッハハ。ほんとにどうしようね」

 

「笑い事じゃないよ!」

 

 アッハッハ。マジで笑えないわ。ベヒモスが咆哮上げながら、結構な速さで突進して来てる。音速でドッカーンが通常技な使駆ほどの威力ではないだろうけど、この場の全員を轢き殺すに十分な速度と、何より質量を持っている。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――《聖絶》!!」」」

 

 そうはさせるかと、誰一人とて死なせるものかと、騎士団が全力で多重障壁を張る。

 二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回だけ、それも一分間のみの防壁だけれど、その間は何物にも破られない絶対の守り。

 純白に輝く半球状の障壁にベヒモスが衝突した瞬間。震度なんて単位じゃ表せないくらいに、橋全体が揺れた。先にトラウムソルジャーを退けて撤退しようとしてたクラスメイト達はパニック状態になっている。

 ベヒモスの方は障壁でどうしようもないし、ボクもトラウムソルジャーの方に行こうか。

 

「鈴。魔法で援護よろしくね」

 

「え? ってエリリン杖は!? 魔法じゃないの!?」

 

 鈴の心配の声を振り切って、ボクはナイフとボールペンの二刀流で一息に飛び込む。

 

「アッハハハハハッ! ハハハハハハッ!!」

 

 脆い脆い!

 ペン先で突けばガラスみたいに砕けるし、ナイフでなぞればチーズみたいに裂ける。

 

「中村さん!?」

 

「ハハハハハハハハ!!! ハハハハハハハハハ!!!!」

 

 パニックによるものか、誰かに突き飛ばされて転倒した女子に、一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。そこをボクが、腕を砕き、背を叩っ斬ってやった。

 

「ほらほら来いよ骨お化け! 諦めず頑張って張り切ってやる気出して応援して鼓舞して美化して強化して覚醒して死ぬ気で死ね!!」

 

 男子が四方四体に囲まれて殺されそうになっていたところをボクが、尾骨を蹴り飛ばし、首を刎ね、頭蓋を破り、肋骨を背骨ごと踏み砕いてやった。

 

「物量で押し潰して殲滅してみろ! 剣先揃えて蹂躙しろ! その手の剣で亡骸を吊し上げろ! 女子供を犯し殺せ!」

 

 単純な力不足で剣を振り飛ばされ、他に武器を持っていない女子が為すすべなく殺されそうになっているところをボクが、ナイフを眼球のあるべき場所に突き刺し、鼻、口にかけてぶっ壊してやった。

 

「それでもお前らは地べたに這いずって死ぬ! 土塊を掴んで苦悶して目を見開いて恐怖の味を思い出して死ぬ! さぁ来いすぐ来いかかって来い! 地獄目指してまっしぐらだ!!」

 

 周りのパニックが段々と収まって来たおかげで、ボクも気楽に動きやすくなった。殺しやすい。足早に歩き回って、すれ違いざまに、頭を落としていく。

 けれど、それでも中には死なない、しぶとい奴もいるらしい。それは鈴が、炎の魔法で焼き払ってくれる。

 

「そろそろ一分、かな」

 

 障壁の効果が切れるタイミングかと思い、背後に振り向けば、ちょうど障壁の砕けるタイミングを見ることが出来た。暴風のように荒れ狂う衝撃波と騎士団長の悲鳴が同時に聞こえて来た。南雲君が錬成で即席の壁を作ったらしく、いくらか威力を軽減したみたいだけど、ほとんど効果はないようで、舞い上がる砂煙もベヒモスの咆哮で吹き払われた。

 

 そこには、倒れ伏し呻く団長と騎士三人。騎士団長達と南雲君の壁が功を奏し他のか、天之川君も倒れてはいたものの、すぐに立ち上がった。

 

 いいねぇ。懐かしい。初めての夜を思い出すよ。膜を裂き肉を破り、血で鼻腔を焼いたあの日を!

 

 

 


 

 

 

 ボクが初めて殺したのは、隣の家に住む一家だった。両親とその娘の三姉妹。顔は昔から知っていたけど、話したことは多分ない。ボクはその人達の声を、悲鳴で初めて聞いた。

 使駆も卑弥呼も、もちろんボクを止めた。何せぼくは、罪の無い人間だからね、悪を殺すことに拘ってた二人は、ボクが殺人鬼となること事態に否定的だった。

 

 だから殺したんだ。

 

 子供にとって、親が絶対的な正義であり、善であるように。ボクにとって絶対的な正義とは敵であり、悪でしかなかった。

 

 だから殺したんだ。

 

 期待してたのに、待ってたのに、我慢してたのに、助けてくれなかった。そんなのもう、殺すようなものじゃん。じゃあもう、殺されたって仕方ないよね。

 

 だから殺したんだ。

 

 まず殺したのは、インターホンを押してすぐに玄関を開けた、次女だった。ボクの家のキッチンで見つけてきた包丁を、その綺麗な顔に突き刺してやった。

 初めて見た顔だった。

 

 次に殺したのは、一秒に満たないとはいえ断末魔を聞いてしまった、長女と母親。訝しむような顔をして玄関へと顔を出した二人の腹を七回刺して、最後は一回ずつ、首に包丁を突き刺した。

 

 ボクはしっかり靴を脱いでからお邪魔して、部屋を一つ一つ見て回った。キッチンでグラタンを作ってる途中だったから、チーズをつまみ食いした。両親の寝室には空になったコンドームの箱を見かけて、見なかったことにした。

 二階の二つ目の部屋で、三女の女の子をついに見つけた。母親と姉の悲鳴を聞いて、すっかり怯えた様子だった。まだ小さかったから、片手でも首を絞めて絞殺できた。

 

 最後の父親は、夜、仕事を終わりに呑んできたのか、着崩したスーツ姿で帰って来たところを出迎えてあげた。そしてその家にあった、パン用のノコギリみたいな包丁で首を切り落としてやった。財布からは一万と三千円だけもらった。

 

 服が血で汚れたから、ボクとあまり体格の変わらなかった次女の服を一式貰い、シャワーも借りてボクは帰った。

 

 大変だったなー。人の肉って意外と硬いんだもん。漫画みたいに上手くはいかないよね。パン用のギザギザした包丁なら上手くいくかと思ったら、意外とそうでもなかったし。次の日筋肉痛だったよ。

 

 今思い返しても、鮮明に当時の情景を思い出せるくらいには緊張した。




 後書き。というか、今後しばらくは語られないであろう設定。

 ボールペン型携帯長槍
 とある武器職人が製作した、伸縮する警棒と似た構造の槍。製作者は「もはや針」と言っており、恵里は爪楊枝と称した。
 轢殺専門の殺人鬼、巻解使駆の肉体と同じ素材で作られており、手入れは不要で使い捨てを前提としている。
 厚い鉄板を貫通させても全く消耗しないものの、少しでも動きにブレがあると簡単にへし折れる。
 刺殺専門の殺人鬼、卑弥呼の蜂の巣にするような殺し方はかなりの職人技だが、それでも何万回と刺してるうちにうっかり折れる。

 恵里はナイフを持ち込めない時の護身や暗具として一本だけ持ち歩いており、基本的にボールペンサイズのまま使っている。
 卑弥呼は百本単位で買い溜めするくらいに愛用しており、巫女服のあちこちに隠し持っている。転べば大怪我だが、時には防具代わりにもなる。

 同じ素材とはいえ、厚さが全く異なるからか、使駆には数ミリ刺さったところでへし折れ、ほとんど通じなかった。

 一本につき、十三万円。
 別の用途として、大弓使いの殺人鬼が矢の代わりとして使ったことがある。ビル二つを貫通した先で三キロ離れた標的を撃ち抜いたという噂。


 あ、タイトル変えました。
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