殺人鬼エリリンの愉快な死に様。   作:不可思議可思議

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第六話 死んどけってそこはさぁ!


 

 

 

 意図せずして上がる口角。五月蝿いくらいに高鳴る心臓。ほのかに香る鉄の匂い。緊張と興奮を混ぜたようなこの感情を解消する術を、ボクは一つしか知らない。

 

「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――神威!」

 

 ベヒモスと対面している天之川君が、長ったるい詠唱とともに突き出した剣から光を放つ。光はベヒモスの突進ほどじゃ無いけどあちこちを震動させ、直進する。

 今までに見てきた魔物なら、死骸も残らないであろう威力の一撃は、ベヒモスに躱す間も与えずに命中した。

 

「はぁはぁ、流石にやったよな?」

 

「だといいけど……」

 

 坂上君と八重樫ちゃんが天之川君の元に駆け寄り、舞った埃で隠れたベヒモスの方を睨む。

 

「……あーもぅ、焦れったいな」

 

 ボクはこの場に背を向け、ベヒモス目掛けて一目散に走る。鈴やら騎士やらに止められるけど、我慢の限界だった。

 

「やえがっちゃん! 剣借りるよ!」

 

「ちょっ、恵里!?」

 

 警戒すれども抜いていなかった剣を掠め取り、扱いやすいように持ち直して、適当に構える。

 

「恵里! 何をしてるんだ!」

 

「全てを切り裂く至上の一閃! ――絶断!」

 

 天之川君からも何か言われたけれど、もう遅い。

 八重樫ちゃんの動きと詠唱を見よう見まねで、舞う砂埃のなか戸惑うベヒモスの懐から首を切り上げる。

 

「グリュアアァァァ!!?」

 

 ……ワオ。

 クリティカルヒットだと思ったんだけど、ベヒモスは叫ぶばかりで血の一滴も出やしない。これでも無傷とかマジ?

 つーか、八重樫ちゃんの必殺技っぽいの全然効いてねぇじゃん。

 

「刃の如き意志よ、光に宿りて敵を切り裂け――光刃」

 

 怯んでるうちに懐から飛び出し、一息に跳躍。今度は天之川君のをパクった、剣を光らせてパワーアップさせる技。このかったい首を上からギロチンする。が──

 

「グルァ!!」

 

 ベヒモスはギロチンを迎え撃つかのように首を真上に振って迎え打ってきた。そして──

 

「はぁ!?」

 

 ──折れたぁ!?

 ボキって! 鋼鉄の剣を首でへし折るって! 生物としてダメでしょそれは!? 死んどけってそこはさぁ!

 

「来たれ風よ――風爆っ!」

 

 低威力の大したことのない風魔法を放ち、反作用に身を任せてベヒモスの背から退避する。

 

「暗き炎渦巻いて、敵の尽くを焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――螺炎っ!」

 

 杖が無いとはいえ、木端魔物ならすぐに灰になる火力。けれど、炎熱系にも耐性があるのか、火傷ひとつも負っているようには見えない。

 

「ちょっと恵里!」

 

「ゴッメーン! 折れちったぁ!」

 

 借りるって言ったのに、悪いことをしたなぁ。返すつもりだったのに、十秒足らずでダメになっちゃったよ。

 

「あんな硬いの、使駆以来じゃないかな」

 

「……それ、人間じゃないでしょ」

 

 要らなくなったし、刀身のほとんどが無くなった剣を八重樫ちゃんに返しつつ愚痴ったら、結構な切れ味で突っ込まれちゃった。

 

 こうなったらあと、爪楊枝が奇跡的に脳味噌くらいは貫通することに期待する、くらいしか手がないんだけどねぇ。

 

「お前ら、動けるか!」

 

「それ、超こっちのセリフなんだけどねぇ」

 

 立ち上がった騎士団長が叫ぶように尋ねてくるけれど、どう見てもそっちの方が重症。身体がまだ麻痺してるっぽいし、内臓も結構やられてる。

 

「っ!? 坊主! 何をしに──」

 

 なんか喋ってたら、ベヒモスは兜のようなツノを赤熱させて今すぐにでもボク目掛けて突進する体制をとっていた。

 アッハ、どうしよ。避けられないこたぁないけど、無傷で生還とは絶対いかないもんねぇ。考えなしに今すぐ来ないのもなんかきもい──

 

 お。

 

「錬成!」

 

 どうにかして横殴りに、ベヒモスを橋から落とそうと考えてたら、なんと駆けつけてきた南雲君がかましてくれた。

 錬成でベヒモスの足元に大穴をあけて、ベヒモスをずっこけさせた。

 

「天之川君! 早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」

 

「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない!」

 

「そんなこと言ってる場合かっ!!」

 

 ボク達がどんな攻撃をしても通じなかったベヒモスに、一定の成果を初めて得た南雲君は、ベヒモスよりも天之川君に厳しい目を向ける。

 

「みんなパニックになってる! 纏めるリーダーがいないからだ!」

 

 南雲君が叫んで指差す方向を天之川君は釣られて見て、唖然として口を開ける。

 ボクも流れで見てみればそこには、かろうじて誰も死なないだけで右往左往しているクラスメイト達がいた。あれでも拮抗しているだけ、ボクが率先してた時よかマシなんだろうけど、それだって時間の問題でしかないし、天之川君はあっちにいた方が良策だろうね。

 

「一撃で切り抜ける力が必要なんだ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」

 

 天之川君は未だ納得のいかなそうな顔をして、しかしクラスメイトが危険であるのも事実であり、自分を必要としているを理解はした。ブンブンと頭を振り、無能な同級生に苦言を呈されたことを一時忘れ、ようやっと頷いた。

 

「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ――」

 

「下がれぇーー!」

 

 一言伝えてから下がろうとして、騎士団長に振り返ったタイミングで、轟音と共に橋が揺れた。

 穴に足を踏み落として転けたベヒモスが、強引に踏み込み、南雲君が即興で作った穴も壁も強行突破する勢いで突進を始める。

 

「鈴!」

 

「あいさー!」

 

 ボクの声が聞こえるくらいの距離にいた鈴を呼べば、すぐにトラウムソルジャーの群れから抜け出して、こっちに杖を向け、ベヒモスの前に結界を張る。

 あの巨体の足止めなんて過度な期待ははなっからしていない。ただちょっとばかり、威力を殺せて、一瞬でも止められればそれでいい。

 

「錬成!」

 

 南雲君が地面に手をつき、一言叫ぶだけの時間が稼げれば成果は十二分。

 さっきよりずっと気合と魔力の込められた錬成で、ベヒモスの前半身を石中に埋めて動きを止めた。それでもベヒモスはもがき、橋をひび割れさせるも、さらに錬成を重ねて補強する。

 

 今のうちにと、騎士団長は天之川君達を多少強引にでもこの場を離れさせる。

 

「待ってください! まだ南雲くんがっ!」

 

 ボクもベヒモス相手じゃ手も足も出なかったし、トラウムソルジャーの方に戻ろうと思ってたら、撤退を促す騎士団長に抗議する白崎ちゃんの声が聞こえた。

 

「坊主の作戦だ! ソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら、魔法で一斉攻撃を開始する! もちろん坊主がある程度離脱してからだ! 魔法で足止めしている間に坊主が帰還したら、上階に撤退だ!」

 

「なら私も残ります!」

 

「ダメだ! 撤退しながら、香織には光輝を治癒してもらわにゃならん!」

 

「でも!」

 

 いいねぇ。愛されちゃってまぁ。

 この場にボクは無粋だね。さっさと一仕事終えようか。

 

「天翔羽ばたき天へと至れっ! ――天翔閃っ!」

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――天翔閃!!」

 

 ボクを真似たのか、偶然か。先に走り出してたボクに追いついた天之川君が、ボクがボールペンで放とうとしてる技と同じ物をほぼ同時に放った。なんかやなんだけど! なんでボクがこれのヒロインみたいなことしてんの!?

 

 飛来し光る斬撃が、トラウムソルジャー達のど真ん中を一直線に切り裂き、吹き飛ばした。端にいた奴なんて、メダルゲームみたいに奈落へと落ちていく。ボロ儲けだね。

 

「皆! 諦めるな! 道は俺が切り開く!」

 

 そんなクサいセリフと共に、二発目の天翔閃がさらに敵を減らしていく。

 勇者の格好いい声にみんなの混沌としていた精神が同じ方向に向き、さらに遅れてやってきた白崎ちゃんの精神を沈める魔法が相乗効果を起こす。

 治癒魔法の使い手達がこぞって負傷者を癒し、ボク以外の魔法的性の高い面々が長ったらしい詠唱を始める。

 

「ちょっと恵里! 私の剣折れてんだけど!?」

 

「言ったじゃん! ごめんて!」

 

 八重樫ちゃんはボクの話を聞いてなかったのか、今更気がついたように怒りながら、ナイフよりも短い刀身で一体ずつ倒していく。いや、十分に流石だよ。

 

 ボクはナイフの他にボールペンもあるし、ナイフを八重樫ちゃんに貸したりなんかしてるうちに、ついに階段までの道が開ける。

 

「皆続け! 階段前を確保するぞ!」

 

 天之川君の掛け声と同時に、皆が走り出す。

 そんな中、ボクがこの場を離れずにいると、鈴に手を引かれた。

 

「エリリン! 行くよ!」

 

「アハッ! まっさかぁ」

 

 ボクに殺しを教えてくれたのは、悪を挫き善きに計らう最高の殺人鬼二人なんだぜ? 何かを継ぐ気は無いけど、見捨てはしても見殺しにはしないのさ。

 

 ボクと鈴以外の全員がトラウムソルジャーの包囲網を突破し、すぐに開けた道は閉じにかかる。魔法を撃ったり結界で阻んだりして、どうにか抑えるけれど、流石に二人がかりじゃ無理がある。

 

「皆、待って! 南雲くんを助けなきゃ! 南雲くんがたった一人であの怪物を抑えてるの!」

 

 白崎ちゃんの声が聞こえた。

 

「鈴、十秒稼ぐからさ、とびきり頑丈なトンネル作ってよ」

 

「まかせろーい!」

 

 よし、よし。壁で覆われた通路さえ出来れば、逃げ道の確保はボク一人でも十分にできる。

 

「とびきり素敵な地獄を作ろうか」

 

「エリリン怖いよ!?」

 

 鈴。早く詠唱始めて。

 

 




 後書き。というか、今後しばらくは語られないであろう設定。


 轢殺専門の殺人鬼、巻解使駆の伝説、逸話。

・全力疾走したらスピード違反で捕まったことがある。

・新幹線と並走して乗客を窓から引き摺り出した。

・半日で仏像を四つ破壊した。

・米軍の戦車と戦闘機を相手に完全勝利を収めた。

・ギロチン使いの殺人鬼の攻撃を首に直撃して無傷だった。

・上空を飛行しているジェット機と生身で衝突事故を起こして無傷だった。

・メイド喫茶のメイド長と殺し合って、重傷を負ったものの引き分けた。
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