殺人鬼エリリンの愉快な死に様。   作:不可思議可思議

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第七話 地獄で仲良くしようぜ


 

 

 

 不可視のトンネルの上を、色とりどりの魔法が飛んでいく。プラネタリウムなんてロマンチックな光景じゃないし、そうでなくても周りにうじゃうじゃいるトラウムソルジャーが見苦しい。視線を下ろし、魔法の飛んでいく方向をみれば、頭を埋めて動けなくなっているベヒモスと、こっちに向かって走る南雲君が見えた。

 

「エリリン! 行くよ!」

 

「え? ああ、うん。そうだね」

 

 南雲君を迎えに行くつもりだったけど、トラウムソルジャーの群れの向こうで、その姿を見て、大丈夫そうだと安堵した。焦る様子の鈴に腕を引かれるがままに階段目がけてボクも走った。

 骸骨のトンネルを通り抜ければ、クラスメイト達の顔が見えた。ボク達も魔法を撃った面々の中に混ざり、南雲君の方を見て、何人かの口から小さく声が漏れた。

 

「は?」

 

 無数の魔法の中の一つが不自然に軌道を変え、南雲君を狙い撃った。ステータスがほぼ一般人の南雲君は、高威力の魔法の衝撃を無抵抗に浴び、来た道を引き返すように吹き飛んだ。

 

 それに、ベヒモスもやられっぱなしとはならなかった。

 なんとか南雲君が立ち上がった直後、その後ろでベヒモスが吼える。角を赤熱化させ、しっかりと南雲君を見据えている。

 

「鈴。あれ、届く?」

 

「むっ、無理だよぅ! 魔力がもう無いし、あの距離じゃ流石に届かない!」

 

 ……はっはー。なるほど、そっかー。結局そうなるんだねぇ。いや、否定はしないけどね。人心あれば下心ありじゃないけど、恋心の否定は人道の否定だもんね。

 

 それでもクソだよ、これは。

 

 

 

 橋はベヒモスの放つ衝撃に耐えられず、トラウムソルジャーも南雲君も、眼前の何もかもが崩れ落ちていく。空を爪で引っ掻くベヒモスの悲鳴が奈落の底から響き、最後には南雲君の伸ばした手も闇に溶けていく。

 

 落ちるものがもう何も無くなったところで、痛ましい女の子の声が聞こえた。

 

「離して! 南雲くんの所に行かないと! 約束したのに! 私がぁ、私が守るって! 離してぇ!」

 

 声の方を見れば、白崎ちゃんが今にも飛び出そうとしていて、それを必死に八重樫ちゃんと天之川君が抑えている。ステータスには結構な差があるだろうに、ボクみたく不思議原理でも働いてるのか、天之川君に負けず劣らずであろうパワーで引き剥がそうとしている。

 あのまま放っておけば、二人を振り払って飛び降りて行っちゃうんだろうね。想い人が死んじゃったから後を追うっていうのは否定しないし、ボクは止めないけど、周りはそうじゃない。

 

「香織っ、駄目よ! 恵里も見てないで手伝って!」

 

 見届けるつもりでいたら、八重樫ちゃんに呼ばれちゃった。仕方ないか。白崎ちゃんが死んで嬉しいってわけでもないしね。

 

「はいはい」

 

 ボクは歩み寄って、白崎ちゃんの顔に指先で触れた。目元を親指で撫で、耳周りを指先で摩る。

 

「え……、え?」

 

 人の顔って性感帯とは別の意味で敏感でね。どんなに怒ってたり、消沈してても、ふと他人に触られれば、感情とは別の反応が表に出てくるものなんだよ。

 

 

「えりちゃ――」

 

 目を丸くさせて、力が抜けたであろうタイミングで、ボクは白崎ちゃんの鳩尾に拳をめり込ませた。

 

「ちょっと恵里!?」

 

「なんてことするんだ!」

 

 抑えてた二人がボクに憤り、白崎ちゃんから手を離すと、意識を失った白崎ちゃんは崩れ落ちるように倒れた。下手に怪我しないように、膝をつく前にちゃんと受け止める。

 

「白崎ちゃんを死なせないためには、これ以外ないでしょ。むしろどうするつもりだったの?」

 

 きっと、二人の背後に回っている騎士団長も似たようなことを考えてたはず。ボクは首をトンってして気絶させるような、そんな漫画みたいなことできないからね。

 

「……ごめんなさい。ありがと」

 

 天之川君は相変わらずボクを睨むけど、八重樫ちゃんは一度ため息を吐き、ボクから白崎ちゃんを受け取って礼を言ってきた。殴っただけだってのに。

 

「私たちじゃ止められないから恵里が止めてくれたのよ。……女の子が腹パンはどうかと思うけど。でも、今は時間がないの。香織の叫びが皆の心にもダメージを与えてしまう前に。何より香織が壊れる前に止める必要があった。……ほら、あんたが道を切り開くのよ。全員が脱出するまで。……南雲君も言っていたでしょう?」

 

 やたらめったら不服そうだった天之川君も、八重樫ちゃんに説得されて、表情を変えた。

 

「そうだな。早く出よう」

 

 目の前でクラスメイトが一人死んだ。友達でなくても、良い印象をあまり持っていなくても、それでも南雲君の死はクラスメイト達の精神に多大なダメージを刻み込んでいた。中には、「もう嫌!」って言って、座り込んでる子もいる。

 

「皆! 今は、生き残ることだけ考えるんだ! 撤退するぞ!」

 

 天之川君の言葉に、みんなノロノロと動き出す。全員が上層へと続くであろう階段に足を踏み上げた。

 行先は見上げても、奈落の底のように暗闇で、ずっと上方に続いている。

 

 ……うへぇ。見るだけでもしんどいね、これ。

 

「そうだ、恵里。ナイフ返しておくわ」

 

「いいの? ボクはボールペンあるし平気だけど」

 

「どうせ香織を背負っては戦えないもの。あなたが使って頂戴」

 

「ほーい」

 

 

 


 

 

 

 上階への階段は、ばっかみたいに長かった。なんかの罰ゲームで、東京タワーの最上階まで階段で登ったときを思い出したけど、バトりまくった後だからかこっちの方がしんどい。

 三十階か、四十階くらい登った気がするあたりで、ついに魔法陣の描かれた大きな壁が現れる。

 騎士団長が駆け寄り詳しく調べ始めた。すぐにトラップである可能性はなくなり、その魔法陣は目の前の壁を動かすためのものだとわかる。

 

 忍者屋敷の隠し扉みたいに壁が回転して、そこを通れば、元の二十階層の部屋に戻ってきた。あ、ボクの杖もあるじゃん。

 

「エリリーン!」

 

「ん、今は許す」

 

 すっかりバテてる鈴は、杖を拾って片手の塞がったボクに抱きついてくる。ボクのペラッペラなおっぱいに顔をうずめて、安堵の息を吐く。うわ、なんか、ムワッてした。

 

「お前達! 座り込むな! ここで気が抜けたら帰れなくなるぞ! 魔物との戦闘はなるべく避けて最短距離で脱出する! ほら、もう少しだ、踏ん張れ!」

 

 ……そっか、あと二十階は登らなきゃいけないんだ。しんど。胸から離れた鈴も、ちょっと泣きそうになってるし。もう疲れたし、ここで一泊してこうよ。駄目かぁ。

 

 

 

 

 あからさまに口数が減ったまま、最小限だけ戦いながら一気に地上へと突き進み。ついに一階の正面門と、相変わらず無粋な受付が見えた。

 

 外に出て安堵の表情を浮かべるクラスメイト達。広場に大の字で倒れ込むようなやつまでいる、そんな光景を横目に、騎士団長は受付へと報告に行く。トラップの報告とか、あと南雲君についてだろうねぇ。

 

 さて、と。どうしよっかな。

 

 

 


 

 

 

 ホルアドの町に戻ると、みんな疲れ切った様子で宿屋の部屋に入っていった。中には話してる人もいるみたいだけど、ボクと相部屋の鈴はさっさと着替えて寝てしまった。

 ボクは鈴の頬にキスを残してから、最低限の外着で宿を出る。

 

 宿の多い町というだけあって、夜になっても幾らかの騒々しさが残るものの、隅の方まで来れば流石に静かになる。

 そういう季節なのか、虫とかの声も聞こえないし、正気の欠けた人の呼吸なんて聞こえすぎるくらいに聞こえる。

 

「ヒ、ヒヒヒ。ア、アイツが悪いんだ。雑魚のくせに……ちょ、調子に乗るから……て、天罰だ。……俺は間違ってない……白崎のためだ……あんな雑魚に……もうかかわらなくていい……俺は間違ってない……ヒ、ヒヒ」

 

 あら。犯人発見。

 

 南雲君に火球をぶつけて、奈落の底に落として殺した殺人犯。数人の候補に絞るくらいはしてたけど、こんなこと聞いちゃったらもう、ね。

 後ろからグサでもいいけど、下手に抵抗されたり、叫ばれても、まぁ困る。

 だからってまぁ、下手に作戦を立てたりもしないのがボク流だけどね。

 

 ボクは口角を歪めるように笑みを浮かべながら彼に近寄る。

 

「よくもまぁ、やっちゃったねー。さすが、さすが」

 

「ッ!? だ、誰だ!」

 

 彼は慌てて振り返り、ボクの顔を見て顔を青くさせる。

 

「お、お前、なんでここに……」

 

「それはもちろん、君を探していたからさ」

 

 ボクは自分の顔を見せつけるようにして笑いながら、なるべく威圧感を与えない声音で話す。

 

「おっと、勘違いしないでね? 犯人はこいつだー! なんて言いふらす気はないからさ」

 

「……そ、そう、か」

 

 ちょろい。白崎ちゃんへの情欲はそんなもんかよ。顔から青さは薄れ、その目はボクの顔から、段々と、舐るように下がっていく。まぁ、見るだけなら許すさ。触るのは鈴以外許さないけど。

 

「……じゃあ、なんの用だよ」

 

「単刀直入に言うとね、殺したい奴がいるんだよ。協力、してくれるよね?」

 

 暗い中でもわかるくらい、赤みの増した顔が、今度は唖然とした。けっこう表情豊かなのね。

 

「……それが、お前の本性なのか?」

 

 本性? はっ、本性、ねぇ。

 

「そんなの、とっくの昔に殺されてるさ」

 

 素敵な二人の殺人鬼に。

 

「だから殺したいんだよ」

 

「ど、どうしろってんだ!?」

 

 取り返しのつかない道に足を踏み入れたことに気がついていないのか、まるで罪を知らぬかのように彼は狼狽える。

 

「しー。バレたら拙いのは君の方だろう?」

 

「っ!」

 

「そう、それでいい」

 

 慌てて口を抑えるけれど、そうするように促したけど、心配はいらないさ。聞こえる範囲に人がいるようなら、場所の移動を先にしてたからね。

 

「白崎ちゃん、欲しくなぁい?」

 

「な、何言って……」

 

 背後に回り、指先で首筋をなぞって、耳元で囁くように話す。

 

「やることさえやってくれれば、ちゃんと従ってくれれば、君のいるべき場所まで、立つべき位置まで連れて行ってあげるよ」

 

 耳元まで赤くさせて、ボクの口から逃げるように大きく頷く。

 

「おぅけい、嬉しいよ。地獄で仲良くやろうぜ、殺人犯君」

 

 彼から離れ、手でも振ってやりながらボクはこの場を一度離れる。

 建物の影に隠れる程度まで来てから、彼のいる方を覗けば、どうやら頭を抱えて、座り込んでしまっている。

 

 よし、やるか。

 

 愛用のナイフを腿のホルダーから抜き、足音を殺して走る。空気を切る音も鳴らさない、卑弥呼直伝の無重力走法。

 気配を察知させる間も与えずに、出せる全速力でナイフを振るう。使駆直伝の暗殺技法。

 最初の殺人からは想像もつかないくらい軽々しく、低姿勢だった彼の頭は無気力に、ゴロンと落ちた。

 

「先に地獄で待っててよ。そのうち、ボクも行くからさ」

 

 返り血を浴びないように注意しながら離れて、最後に詠唱。

 

 放つのは南雲君を撃った魔法と同じ、火球の魔法。けれど火力はあれよりもずっと高く、音を抑えるために衝撃は弱く。

 

 肉の焼ける臭いと、風で舞う灰を残し、さっさとボクはこの場を離れる。

 

 お土産買って、さっさと帰ろう。

 

「……そういえば誰だっけ。名前覚えてなかったや」

 

 

 


 

 

 

「……、お肉!」

 

「あ、起きた」

 

 宿屋の部屋に帰ってきて、屋台で買った串焼き肉を鈴の顔に近づけたら起きた。

 

「あーん」

 

「あむ」

 

 四つ刺さった大きめの肉を差し出せば、鈴はかぶりつき、半分くらいで噛み切った。一本しか買ってないし、食べかけのお肉はボクの口の中に。

 

「……エリリン、間接キス」

 

「そーだね。いやーん」

 

「…………」

 

 脂っこいけど、なかなか美味しいね。塩と胡椒と、あとなんだろ。ソースじゃないけど、一癖あるなんかが掛かってるっぽい。

 

「あーん」

 

「あむ」




 後書き。というか、今後しばらくは語られないであろう設定。


 刺殺専門の殺人鬼、天神卑弥呼の伝説、逸話。

・ビリヤードで球に(キュー)を貫通させた。

・サッカーボールに蹴りで風穴を開けた。

・ボウリングのボールの穴を指で増やした。

・清水の舞台から蜂の巣死体を七つ落とした。

・死の予言を万発万中させた。

・殺さず、動かず、信者(■■■)からの供物だけで半年生き延びた。

・みたらし団子三本で、槍使いの殺人鬼五百人を殺した。

・ボールペン型携帯長槍を使いこなす。

・殺人鬼になる前はメイド喫茶で看板娘をしていた。
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