殺人鬼エリリンの愉快な死に様。   作:不可思議可思議

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第八話 妾を前に何時迄も眠れると思うな


 (鈴視点)

 

 

 ……え。なにこれ。天国?

 晴れやかな朝からエリリンに抱きしめられてて、甘酸っぱい匂いに包まれて起きる朝。すー、はー。すー、はー。

 大きさは控えめだけど、ちゃんと柔らかいおっぱいが目と鼻よりも近くにあって、寝てる間の記憶が無いことが恨めしいくらい幸せな光景が目の前にあった。鼻でムニムニできる。うにうに。

 スラっとしてる足が鈴の足に絡んできてて、簡単には起きられそうにない。つまりこれは不可抗力! ……腿、細いのにプニプニしてる! なんかずるい!

 

 てかあれ、なんでエリリン裸なの? ご褒美? 堪能するよ? いいの?

 

 

 

 コンコン。

 

 ……うぇ。急なノックに変な声出た。

 もー、タイミング悪いなー。これからお楽しみだったのに。

 しかもノックの力加減的に男子か、シズシズ。どっちにしても今の状態を見られるのは、ひっじょーにやばい。

 

「恵里、話があってきたんだ」

 

 と、天之川くんの声が聞こえて、返事をするより先に扉が開い――ちょお!?

 

「ばっか出てって! 女の子の部屋に勝手に入るとかなに考えてんの!?」

 

「す、すまん!」

 

 しんっじらんない! イケメンだからってなんでも許されるとか思っちゃってんじゃないの!? 寝巻き姿だって見られたら恥ずかしいのが女の子だよ!? 顔洗ったりお化粧したりとかも全部まだなのに! すっぴん見られた殺さなきゃ!

 

「ん……、鈴?」

 

「グルルルルルルルゥ」

 

「え、なに、どうしたの……」

 

 心を番犬にして、扉の向こうにいるであろう天之川くんをケルベロスの心持ちで威嚇してたら、咄嗟にシーツで覆ったエリリンが起きちゃった。

 

「……エリリン。なんで裸なの?」

 

「ごほーび」

 

「わっ、わっ」

 

 シーツを取っ払ったエリリンに、頭に腕を回されて、顔をおっぱいに押し付けられる。えっち! このパフパフすっごいえっちだよこれ!

 

「……あー、恵里。話があってきたんだが、いいか?」

 

 むぅ。あいっかわらず空気読めないなぁ、もう。

 

「お昼まで待ってー。ボク達、これからお楽しみだからさ」

 

 え。

 

 え?

 

 

 


 (恵里視点)

 

 

 午前中にホルアドの町を鈴と一緒にデートして、お昼を屋台で済ませて、ほどよい疲労感と共に宿屋へと戻って来たら、入り口あたりで天之川君が待ち受けていた。……いや、なにしてんの、きみ。

 

「恵里、緊急事態なんだ。協力してほしい」

 

「へぇ? 八重樫ちゃんにうっかりしちゃった? それとも白崎ちゃん? 鈴だったらぶっ殺すぞ」

 

「エリリンの愛が重い……」

 

 白崎ちゃんだったら軽蔑するなー。八重樫ちゃんに聞いたけど、まだ起きないんでしょ? 死姦趣味ならともかく、睡姦趣味はシンプルに下衆いよ。

 

「冗談を言ってる場合じゃない! 檜山がいなくなったんだ!」

 

 ……誰?

 まぁ、人探しくらい別にいいけどさ。顔も分かんないのに探すのは、まぁまぁしんどいかな。

 

「宿の管理人さんに聞いたんだ。恵里も昨晩外に出てたんだろう? 何か知らないか?」

 

 この世界、プライバシーの概念どうなってんの? なにを軽々しく言っちゃってんのさ。

 

「残念だけど、心当たりはないね。鈴、知ってる?」

 

「んーん。出掛けてても見なかったよ」

 

 昨日は一人ぶっ殺して、あとは屋台で買い物して帰ったからね。檜山君だか檜山ちゃんだかとは会わなかったかな。

 

「そうか。この後もみんなで町を探そうと思うんだ。二人も手伝ってくれ」

 

「デートのついででよければ、もちろんいいとも」

 

「エリリンが感じ悪いナルシストみたいなこと言ってる……」

 

 ナルシストってだけで大概のやつは感じ悪くない?

 

 

 


 

 

 

 あれから五日が経って尚、檜山君が見つかることはなかった。って言っても、騎士団の人達にも予定があるわけで、五日間丸々探したわけでもないけどさ。

 今は王国に戻って来ている。一人が死に、一人が行方不明になったとあって、すぐに迷宮で訓練再開とできるような状況では無くなった。それに国王やら教会やらに報告が必要だった。

 

 

 

 国王やイシュタル、つーかこの世界の人達全般の反応は、南雲君と檜山君で全く違うものだった。南雲君の死には誰もが安堵の息を吐き、檜山君の失踪には誰もが顔を青くさせ、いち早く見つけるよう叫んだ。立場のある人達はまだ分別のある言葉だったけど、貴族同士の世間話なんて、それはもう聞いてて殺意を掻き立てられるものだった。

 

 そういえば噂に聞いたけれど、天之川君が抗議したらしくって、無能にも心を砕く勇者とかって言われてた。

 南雲君は無能どころか、あの場で誰よりも英雄だったと思うんだけどねぇ。誰も彼もが、手も足も出なかったベヒモスに一定の成果を得たっていうのに。

 

「あなたが知ったら……怒るのでしょうね?」

 

「全く、全く。むかっ腹の立つ話だよねぇ」

 

「……なんでいるの? 別にいいけど」

 

「あらひどい」

 

 ボクは未だ眠る香織ちゃんの部屋へと来た。看病している八重樫ちゃんにお弁当を届けに来ただけなのに、その言いようはひどくない?

 

「今日はカツサンドだってさ。ソースないけど」

 

「敗北の味がしそうね」

 

「バターの塩味がするのさ」

 

「涙の味?」

 

「それ言ったらコックの人に睨まれた」

 

 カツサンド、と言いつつも豚肉じゃなくて牛肉のフライが挟まったサンドイッチの入ったカゴを八重樫ちゃんに渡す。

 

「ありがとう。そういえば鈴は?」

 

「あっははー。別に、ボク達だっていつでもセットってわけじゃないよ。カップルじゃあるまいし」

 

「え……」

 

「その()こそ心外だよ」

 

 鈴は親友だからね。恋人なんて生臭い関係になんて、なってたまるかってもんさ。

 

 ボクもカツサンド擬きを食べつつ、浅い呼吸だけを何日も繰り返す白崎ちゃんをただ見守っていると、外からの気配に気がついた。

 いや、気配っていうか、むしろ殺気と言ったほうが適切かもしれない。この部屋が三階だってのに、どうやって跳んできてるのか、窓の向こうに紅白が見える。その勢いは物理法則に従い、窓ガラスを突き破った。

 

「なっ、何!?」

 

 八重樫ちゃんも、その音に鳥肌を立てながら振り向く。

 随分久しぶりに見る、相変わらず偉っそうな顔をした、巫女服の殺人鬼。

 

「クフフッ。久しいのぅ、恵里。それに雫もいたか」

 

 片手には長槍ではなく、酒瓶を持っているけれど、やって来たのは間違いなく、指名手配中の卑弥呼だった。

 

「おひさー、何しに来たの?」

 

「ひまつぶし」

 

 なんだこいつ。言ってやったぜ感ある顔しやがって。

 

「いやまぁ、流石に冗談だがの。うぬらに死者が出たと聞いて、こうして見舞いに来た。土産もあるぞ?」

 

 そう言いつつ、持参したらしいコップに酒を注ぐ。いや、病人の前で酒盛りすんなし。

 ボクが睨むのも無視して、卑弥呼は白崎ちゃんに近づく。

 

「ほれ、そこを退け」

 

「ちょっと! 香織に何する気よ!」

 

 卑弥呼は八重樫ちゃんに掴みかかられようと、酒一滴も溢さずに、そのコップを白崎ちゃんの口に運ぶ。……地球じゃないからいちいち止めないし、なんか考えがあるんだろうけども。巫女服の女が寝たきりの女子に酒を飲ませる光景は、どうしようもなく犯罪じみていた。

 

「――っけほ、けほっけほっ! かっ、かへっ」

 

 飲まされたのはほんのちょっとだろうけど、白崎ちゃんは拒絶反応みたいに咳き込んで、その勢いのままに卑弥呼を払い除け、上半身を起こした。

 

「うぇ、変な味……。……雫ちゃん? それに恵里ちゃんも、…………あれ、卑弥呼ちゃん?」

 

「うむ、久しいの」

 

 卑弥呼はコップに二杯目を注ぎ、今度は自分で飲んだ。その光景を見て、八重樫ちゃんは怪訝そうな顔をする。

 

「……香織に何を飲ませたの」

 

「そう心配するでない。ウルという町で買った、市販品の酒よ」

 

 お酒って、そういえばこの匂い覚えがあるんだけど。飲まされた白崎ちゃんが起きるような酒って、御神酒(おみき)? てか日本酒?

 

「御神酒上がらぬ神はなし、とはよく言ったもの。妾を前に何時迄も眠れると思うな」

 

 卑弥呼は曲がりなりにも、そして歪みなりにも天照大神。本来、人が裸眼で見ていい存在ではないし、口をきける相手でもない。

 だってのに、卑弥呼は何をするでもなく、さっき割った窓ガラスに足を掛ける。

 

「ではの」

 

 短い別れの言葉と共に、人を刺す時によく浮かべてるおっかない笑みを見せる。

 なんだよ、いいやつかよ。

 卑弥呼は窓際に酒瓶を置いて、今度は飛び降りていった。

 

「あ……南雲くん……」

 

 違った。あいつ、わざわざ飛び降りることで白崎ちゃんのトラウマほじくって帰りやがった。正面からも出れるくせに。

 ほらもー。白崎ちゃんの顔、思い出しちゃって顔色真っ青どころか真っ黒だよ。

 

「……だいじょうぶ、なんだよね? 私が気絶した後、南雲くんも助かったんだよね? ……ね、ねぇ?」

 

「…………」

 

 今にも吐き出しそうな表情で、白崎ちゃんは八重樫ちゃんに問う。だけど雫ちゃんの顔色も苦しげになり、互いに相乗効果を起こしあう。

 

「嘘、だよね? みんな帰って来たんだよね? 南雲くんだって、ね? ねぇ、恵里ちゃん……」

 

 全くもう。あの殺人鬼は殺す以外の人助けが下手くそなんだから。ボクだって似たようなものだってのに、押し付けないでほしいよ。

 

「悪いけれどね、白崎ちゃん。ボクにはその淡い期待をぶっ殺してあげることしかできないぜ?」

 

 何せボクは、殺人鬼だからね。

 

「死んださ。君以外の全員が確信してる。奇跡的に生き延びて落下で死なずとも魔物に殺されてるだろうね」

 

「やめて……」

 

「ちょっと恵里!」

 

 嫌ならボクなんかに任せるなよ。

 はいはい、やめるさ。出ていくさ。白崎ちゃんの隣にいるべきはボクじゃない。

 

 半分残ったカツサンドを白崎ちゃんに押し付けて、聞く耳持たずにさっさと部屋を出る。

 

 あーあ。これは鈴に八つ当たりしなきゃ収まんねーや。

 

「おっと、天之川君じゃあないか。空気読めない仲間同士、これから仲良く殺ろーぜ?」

 

「えっ、恵里!?」

 

 アッハハ。何を怯えてるんだか。別に今から殺したりとかしないっつーの。

 

 でもいつか殺す。必ず殺す。鈴のすっぴんを見た罪は死罪も軽い。







 後書き。というか、今後しばらくは語られないであろう設定。


 メイド喫茶のメイド長、神刺( かんざし )刹那( せつな )の二つ名と由来。

・メイド喫茶のメイド長
 飲食業を営むというのは、つまり世界の危機や人類絶滅、宇宙人の侵略などに立ち向かうことと同義。メイド喫茶で最強である神刺刹那は、誰もが認める人類最高峰のメイドであり、メイド長である。

・次元規模の方向音痴、旅人
 前に進めば後退し、右折すれば空を飛ぶ。創作物であろうと異世界だろうと、未来だろうと過去だろうと、足一つで迷い込む。人生においても迷いっぱなしで、血迷いっぱなし。進路指導と対極の人間。

・神刺家長女、神殺しの系譜、神刺
 父親の家系が神殺しを生業とする家系。

・神の子、神子、巫女
 母親が現人神、妹が奇稲田姫の写し鏡(卑弥呼の同類)。

・宇宙飛行士、月の兎、最新の偉人
 宇宙飛行士時代、月面を徒歩で一周した。

・兎算
 一度の蹴りで、鼠算式に敵を殺した。

・海賊、最後の海賊、海賊殺し
 海賊団を率い、世界中の海賊を絶滅させた。

・トレジャーハンター、墓喰らい
 トレジャーハンターの組織に属していた過去がある。詳しくはあまり知られていないが、喰らうように財宝を集めたという。

・魔法使い、占い師、詐欺師、博士、大泥棒
 詳細不明。しかし確かに、魔法使いであった過去があり、占い師であった過去があり、詐欺師であった過去があり、博士であった過去があり、大泥棒であった過去があった。

・刺殺の師
 刺殺専門の殺人鬼、卑弥呼の槍術の師。

・赤信号
 轢殺専門の殺人鬼をその身一つで停止させた。

・不死身
 自殺専門の殺人鬼と五分間会話した。

・台風の目
 鏖殺専門の殺人鬼の犯行現場と思われる絶滅地帯で、彼女と足元の地面だけが生存した。
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