殺人鬼エリリンの愉快な死に様。 作:不可思議可思議
私は聖教教会の神殿騎士やハイリヒ王国の近衛騎士達に護衛されながら、各地の農村や未開拓地を回っています。こんなことをしたいわけではありませんが、できることなら生徒達の近くにずっといたかったのですが、作農師という天職がそれを許してくれません。
計画では次の村の農地を改善すれば、一段落として王宮に戻ることになっていました。
そしてその計画は、最後の最後で頓挫していました。
王国の近くに位置するその村に住人は居らず、不細工だったとしても鼻を塞がずにはいられないくらい、異臭に包まれている。地面と建物が黒と茶色の粘土で塗りつぶしたような光景が広がっていて、半分くらいは重機が衝突したみたいな壊れ方で崩壊していた。
護衛の人達と共に村を散策してると、一人の女性を見つけました。この汚染されたような場所なのにもかかわらず、メイド服のような格好を。それも、ただのメイド服ではありませんね。
萌えという歪んだレンズを通して設計された、造形された、デザインされた、独自路線のメイド服。実用性を捨て、華やかさと可愛らしさと肌の露出に重点を置かれた紛い物のメイド服。
そんな、オムライスの似合う格好をした黒髪の女性は、私を見つけると笑顔で応えてくれました。
「やぁ、お嬢さん。迷子かい?」
「……へ?」
言われて、ふと後ろを見ると、誰もいない。さっきまでいらっしゃった筈です。なのにどうして……。
「ちなみに私も迷子なんだ。道案内とかは期待しないでね」
「は、はぁ」
……変な人、ですね。顔を見た感じ、生徒達とそう歳は変わらないように見えますけど、なんだか年上の方と話しているような感じもする。
「散歩をね、していたんだよ」
「お散歩、ですか?」
こんな、呼吸をしていても苦しいような村だと言うのに、彼女は平然と話を続ける。
「久しぶりに実家に帰れたから、のんびりしてたんだよ。そしたら、邪魔だから出かけてこいって言われちゃって」
「休日のお父さんですか」
「残念。私の父親は子供をあちこち連れ回すタイプでね。家に住まない人だった」
「はぁ、そうですか」
あまり悠長に話してる場合じゃないんですけども、なぜか私は、彼女の話を最後まで聞かなきゃいけない気がしてならない。
「適当にプラーっと出かけて、帰りにコンビニにでも寄って朝ごはんを買って帰ろうと思ったんだよ」
「え、……え? コンビニ?」
「うん。ローソンでツナマヨのおにぎり買って、自動ドアから出て帰ろうと思ったらここにいた」
「ちょ! ちょっと待ってください!?」
急に話が急展開しましたね!? 私も人のこと言えませんけど!
「ん? なんだよ、愛子ちゃん」
「もしかして地球の、日本の方ですか? それに今、私の名前……」
尋ねると、答えを予想する間も無いくらいすぐに答えが返ってくる。
「轢殺専門と刺殺専門を同時に相手取れる人間なんてそうはいない。それに見た目が可愛いくて名前が畑山愛子ちゃんなんて、忘れる理由もないね」
「あの、あなたは、一体何者なんですか……?」
「
神刺、刹那さんですか。日本のお名前、ですよね。やっぱり、私たちと同じように、この世界に召喚されたのでしょうか。そんな話、聞いていませんけど。
「あの、神刺さん」
「苗字で呼ばないでもらっていいかな。確かに神刺ってのは苗字だけど、同時に、というかそれ以前に役職、この世界風に言うなら天職でもあるんだ。愛子ちゃんだって社会科教師ちゃんとは呼ばれたくないだろう?」
……確かに嫌ですけども。
「……はあ、ごめんなさい。あの、刹那さん。お聞きしたいのですが」
この世界の情報とか、帰る方法、手がかりとか。同じ境遇で別口であるのなら、情報共有をしておきたい。
「だろうね。でも残念ながら、その疑問の答えを私は持っていないよ」
「え?」
まだ、私は何も聞いてません。もしかしたら何か、私の知らない何かを知っているかもしれない。小さなことでも、僅かなことでも。
「なに、心配はいらないよ」
刹那さんは何かを懐かしむような目で、私の顔を見る。
「私的には数年前、高校生の時の話だけど、担任の先生の名前は畑山愛子先生っていってね、社会科の先生だったんだ。愛子ちゃん的には数年後、あるいは十数年後の未来の話になるけどね」
「何を、言っているんですか?」
刹那さんの高校時代の担任が私で、それは未来の話?
矛盾、どころじゃないパラドックスが生じてませんか。
「私は未来で先生をやっている愛子ちゃんの教え子だったってだけの事だよ。時間と次元の概念から外れている私に、時系列的な矛盾は生じない。愛子ちゃん的には、私は未来人ってことになる。生まれた年代的には、むしろ過去人と言うべきかもしれないけど、異世界で話すようなことじゃないか」
「それって、どう、いう……」
私の口から、それ以上の言葉は続かなかった。
未来の教え子を名乗る、神刺刹那という自称未来人は、言い切る前にもう居なくなっていた。時間と次元の概念から外れているというのなら、きっと今も、どこか別の場所、時間に行ってしまったんだと思います。
でも、そうなんですか。私は未来でも先生をしているんですね。
今は、その嘘みたいな話を信じますよ。信じたい。帰れるだけでも儲けものかもしれませんが、出来ることなら先生も続けたいものです。
「愛子! 無事か! ……一体、何があったというんだ」
刹那さんと入れ代わるように、護衛の人達は私を発見してきたみたい。
「急いで王国に戻り、報告せねばなるまい。小さな村で、亜人と共存していたとはいえ、それでもこの惨状は看過出来ない」
「……そうですね。急ぎましょう」
早く、生徒たちの顔も見たいですし。
(恵里視点)
眼下に広がる、勇者達の勇ましき光景。汗水垂らし、時に血を滲ませ、時に歯を軋ませる。けれど中には剣を握れぬ軟弱者もいて、彼らには優しさという名の鞭が振るわれる。騎士は傷心の子供に心を鬼にして、餓鬼の胃に血を詰める。
そんな光景を肴に泳ぐホルムアルデヒドの海のなんと甘美なことか。
って、あのちっこい歩幅のかわい子ちゃんは……。
「……げ」
「げってなんですか、げって! 久しぶりに会った先生に向かってなんてこと言うんですか!」
「まだ『げ』しか言ってないよ」
いつも通り、訓練をサボって酒瓶片手に王宮をプラプラしてたら、よりにもよって、真面目筆頭の愛ちゃんに出会ってしまった。酔いも冷めるし冷や汗が止まらねーぜ。
そういえば農地改善かなんかの旅から帰ってきてたんだっけ。
「久しぶりに会えたことですし、聞かなかったことにしてあげます」
許された!
「それで中村さん? こんなところで何をしているんですか? 今は訓練の時間でしょう?」
許されてなかった!
「……あー、あれだよ。五月病。季節外れの五月病に罹っちゃって」
「それはもう五月病じゃありませんよね!?」
「じゃあインフルでいいや」
「もうちょっと誤魔化す努力をしましょう!? じゃあって!」
相っ変わらず、可愛い面してやかましいなー。
卑弥呼もこんな子のどこを気に入ってんだか。あ、ツッコミ気質とかかな。
「それに何か、お酒臭いような……」
「そうだ愛ちゃん、ちょっと相談したいことがあるんだけど、いい?」
「え? あ、はい。……って! 誤魔化す努力をしないでください!」
「どっちよ」
「飲んだんですね!? 飲んじゃったんですね!?」
グェッ。
ちょ、ま、揺れ――。
「ギブギブッ、吐くから! ボクのお口がマーライオン!」
「わーわーわー! ごめんなさーい!」
ボクを激しく揺さぶる首元の手は、謝罪とともに離れていく。
ううぇ……。やっぱ酒なんて飲むものじゃないね。好奇心で卑弥呼が置いてった日本酒を飲んでみたけど、あんま美味しくねぇや。
「あー……。床が冷やっこい……」
「ちょっと中村さん!? 女の子がしていい格好じゃないですよ!」
「もう二度と飲まない……」
「そう言って二日後には飲んだくれてる大人を幾らでも見てきましたよ。そもそも、まずどこから持ってきたんですか?」
石の床に寝そべってたら、愛ちゃんに上半身を起こされて、壁にもたれさせられる。
「って、これ日本酒じゃないですか!? 未成年が飲んでいい度数じゃないですよ!?」
「……ツッコミ間違ってない? もしかして愛ちゃんも飲んできたの?」
「この世界に来てから飲んだことはありませんよ……」
あー、だみだ。中途半端に酔い覚めて逆に気持ち悪い……。頭痛いし、心臓うるせーし、体があっつい。
「それで中村さん、先生に相談とはなんですか?」
「ごめ、愛ちゃん、とりあえずウォータープリーズ」
「私は指輪の魔法使いじゃありません」
……変に張り切らないでもらってもいいかね、愛ちゃんや。そのフルパワーな声は頭に響くのよ。あとよく分かったね。
後書き。というか、今後しばらくは語られないであろう設定。
メイド喫茶のメイド長、神刺刹那の伝説、逸話。(極一部抜粋)
・月面を一周した経験から、重力を武器のように扱う武術、重操術を発明する。
「重力が地球の六分の一になるのなら、六倍重く走ればいいんだよ」
・宇宙人や未来人、地底人、他未確認生命体などとの戦いより、重操術を始めとする、ありとあらゆる物を武器とする武術、武器術を発明する。
「たかが宇宙人の百や二百、無重力であろうとも紅生姜さえあれば殲滅できる。シャンプーもあれば絶滅も出来よう。出来なくて何がメイドか。何が日本人か」
・月面一周の偉業を理科、歴史の教科書に宇宙服姿、オンラインゲームのハンドルネームで載った。
「身バレって怖いじゃん?」
・地球に存在した種の一割を絶滅させた。その大半は昆虫の類であり、あくまでも本人の意思ではなく、アルバイトの業務の一環。
「昆虫食は自らの人間性の否定だよ」
・地底人を根絶やしにし、残った地底資源を火星に封印した。
「あれは地球にあっていい物じゃない。少なくとも、別の惑星に移住できるまでは忘れるべき物だった」
・白亜紀の地層に足跡を残した。
「気がついたら恐竜の時代だったんだよ。あんまり美味しくなかったね」
・宇宙人目撃情報の三割は空中散歩で迷子になったメイド長の発見報告。
「みんな、どうやって見つけてるんだろーねー」
・日本からブラジルまで肉声を届けた。
「ブラジルの人聞こえますかー!!!!!」