アサルトリリィ -RED THISTLE-   作:ブリガンディ

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ラスバレ一周年記念ってことで、私もアサリリ小説やってみようと思います。

本編前にちょこっと解説
・タイトルのRED THISTLEとは
赤アザミと言う花。花言葉は「権威」「報復」「復讐」。

・CHARMの扱える設定に関して
Twitterにある公式二水ちゃんより。一応男もCHARMを使えるだけならできるらしい。

男主人公を使ったn番煎じかも知れない作品になりますが、お付き合い頂けたら幸いです。

追記……残酷な描写無い風にタグ付けてたけど思いっきりありますわ……本当にすみません。


BOUQET -少年とリリィたち-
第1話 開幕


魔力とも呼べる力──『マギ』を体内に内包する生命体である『ヒュージ』。これらが現れて以来、人類は存亡の危機に立たされていた。

現代兵器では全く歯が立たず、一方的に蹂躙される結果となっていたことが原因で、暫し敗走を強いられることとなる。

しかしながら、そんな出来レースに近しい状況下に追い込まれた人類も、何も出来ずに終わったわけではない。

それはヒュージと同じくマギを扱うことでヒュージを倒せる武器、Counter Huge ARMS(対ヒュージ可変型決戦兵器)──通称『CHARM(チャーム)』と、それを取り扱うことのできる存在である『リリィ』のおかげだった。

CHARMを振るい、ヒュージと戦うリリィの奮闘により、今日日までおよそ五十年間の間、幾つかの拠り所を失いながらも、人類は抗い、生き延び続けてきたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして続いているそのヒュージとの戦いにて、一人のリリィが窮地に陥っていた。

 

「(な、何あれ……?あれもヒュージなの……?)」

 

塀がいくつもあり、通りの悪い道のところで、黒と白(モノトーン)のお嬢様を思わせる制服を着るリリィとなった少女──一柳(ひとつやなぎ)梨璃(りり)は目の前にいる蛇を思わせる見た目をした鉄色の生命体を前に動揺していた。

肩に掛からないくらいにくらいに短く整えた桜色の髪に、幸運の象徴とも言える四つ葉のクローバーの髪飾りをつけている彼女は今日リリィとなったばかりであり、入学して早々に自身のいる『ガーデン』にて研究対象であったヒュージが脱走し、それの対処に当たっていた。

ガーデンとはリリィを育成する軍事教育機関であり、本来ならばそこでリリィとしての戦い方や、リリィが扱うCHARMの整備方、ヒュージの特性等を学んだりする場所である。

命の危険が付きまとうことから、リリィによっては幼少の頃から戦う術を学ぶ者もいるが、梨璃はそうではなく、二年前に窮地を救ってくれたリリィへの憧れからリリィになる決意を固めた為、それはできていない。

 

「(ど、どうしよう……?夢結(ゆゆ)様はまだ目覚めないし、(かえで)さんも戻って来るか分からない……)」

 

彼女のそばで気を失っている青みがかった黒い髪を持つ少女──白井(しらい)夢結が、その梨璃が憧れたリリィであり、彼女の力になりたい故に梨璃が無理言ってついて来た形である。

そして、無理言ってついて来てしまった事から登録を済ませていないCHARMを現地で、しかも戦っている最中に登録し、それでどうにか一回だけ、もう一人のリリィと共にヒュージに攻撃を加えて夢結がヒュージを討つ手伝いはできたのだが、問題がこの先だった。

斃れたヒュージの体液と、倒し方が悪かったのか、真っ二つにされたヒュージの体の当たった位置が悪く、崩落する建物が落としてくる瓦礫(がれき)からもう一人のリリィを梨璃が突き飛ばす形で助け、その梨璃を夢結が庇う行動を取った。

これ自体は元々倒すヒュージがその脱走ヒュージ一体だけなので、間違った選択肢ではないのだが、このヒュージを追っている最中の通信妨害が起きている間にこの蛇型の生命体が接近しており、その連絡が彼女らに回って来ていないと言う、非常に不味い自体が起きている。

梨璃が気づいたのは楓を探す前に夢結に声を掛けて見ようと試みた直前であり、いくらリリィとは言えど、碌に戦い方を学んでいない、更に疲労もしている梨璃がまともに太刀打ちできる理由が全く無かった。

 

「でも……私が逃げたら……!」

 

この蛇型の生命体が何もしないなら逃げるが最善だが、それをした場合、運悪く楓がこの生命体と鉢合わせると疲労したまま戦わねばならず、更には今動けない夢結は抵抗すらできずに葬られる。

故に梨璃は、絶対に勝てないだろう戦いをここでしなければならなず、何もしない選択肢で待っている未来を嫌い、今思い描ける理想の姿を脳裏に書き起こしながらCHARMを構える。

──いつか、夢結様のようなリリィになりたい。そう願う彼女だが、目の前の脅威へ対処できるビジョンが見えず、怖くて足が震えるのを感じながらも逃げることはしなかった。

そんな絶体絶命と言っても差し支えない状況下だったが、蛇型の生命体の後ろから誰かが走ってくるのが見えた。

 

「……えっ?」

 

「ようやく追いついたな……!」

 

もう一人のリリィかと思ったが、それは違い、少年の声だった。

腰より少し先まで届いてる血のような赤いジャケットを着て、やや癖っ毛な黒髪に、ジャケットと同じく赤い瞳を持った少年は、今にも抑えていた情が爆発しそうな表情をしていた。

その少年は待ち望んでいた旨を告げると同時に、地面を強く蹴って空中に飛び上がり、手に持っていたCHARMを大上段に構える。

彼が飛んでいく方向には蛇型の生命体がおり、先程の発言からして、あれを追って来ていたのが梨璃には分かった。

 

「ヴァイパーァァァッ!」

 

まるで怨敵の名を呼ぶかのように、怒りの情が籠った声を上げながら、着地する直前に合わせて持っていた武器を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

{ 第  話 }

 

開 幕

Opening

 

 

振りかざすは復讐の刃

──×──

Sadness turns into anger and strength

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

蛇型の生命体──ヴァイパーと呼ばれた存在は、少年が持っていたCHARMを振り下ろす直前に彼の存在に気付き、横に滑るかのような動きでギリギリ避けて見せる。

 

「まだだ!」

 

この一回の攻撃で決められると考えていなかったので、少年はヴァイパーに対して今度は横薙ぎにCHARMを振るって攻撃を行う。

すると今度は自身の体の右側の横腹にある刃を触手のように伸ばして防ぎ、反対側の横腹にある刃で同じように伸ばして反撃をする。

それならばと少年は体を捻りながら、自身の攻撃を防いでいた刃を押し出すように避け、再びCHARMを振るって攻撃に出る。

そこから少年の振るうCHARMと、ヴァイパーが繰り出す両横腹にある刃による応酬が、リリィで無ければ目にも止まらぬであろう速さで行われていく。

 

「す、凄い……!」

 

そして、リリィである梨璃はその戦いを目で追うことができており、その光景に圧倒されかけていた。なお、こうして梨璃が見ることしかできないのも、明確に理由がある。

まず初めに、もう一人のリリィを見つけることが出来れば夢結を連れて逃げることもできたが、そのリリィを探すにも夢結の安全を確保できない為、今回はそれが叶わない。

であれば、少年の戦いに参加するという選択肢も可能だが、梨璃が碌に戦い方を身につけていない為、行けば返って足手纏いになってしまう為これも選択することはできない。

更には少年がこちらを意識しているのか、ヴァイパーが自身以外見る暇が無いようにと僅かに引き離した位置で戦ってくれていた。故に梨璃はここに留まるのが正解となっている。

 

「(怪我、しないで欲しいなぁ……)」

 

図らずも自分を助けてくれた人なのだから、そう思わずにはいられなかった。

本来、ヒュージはマギと言う魔力にも等しい力を体に内包している為まともな攻撃が通らず、倒すには同じくマギを扱うことでそれを倒す武器であるCHARMと、それを扱う人であるリリィがいて始めて倒せることになる。

また、とある事情から男性のマギでは戦うヒュージとは戦えないとされ、現存するリリィは皆少女なのだが、目の前にいるのは少年だった。

落ち着いて来たことで何故リリィでない人がCHARMを持っているのか等、疑問が浮かんできたが、助けられた以上、彼が嫌がるなら無理に聞かないことを梨璃は決めた。

そして、両者の攻防は少年側が優位に立っており、ヴァイパーの防御態勢を完全に崩し切り、CHARMの銃口をヴァイパーの顔に押し付ける。

 

「吹き飛べぇ!」

 

《──!?》

 

至近距離で発射された銃弾が顔に叩きつけられたヴァイパーは悲鳴を上げ、激しい土煙を巻き上げる。

巻き上げてから間もなく少年がその煙の中を突き抜け、煙の先に背を向けないまま梨璃の隣りまで後退して来た。

煙が晴れるまで分からない──。と思ったが、梨璃には煙の先にいる影が見え、それが自分たちに背を向けて逃げ出していくのが見えた。

更には先程まで感じていた悪意も薄れており、それが遠ざかりながら薄まっていくのだから、梨璃にとってはもう確信できるものだった。

 

「あ、あの……!逃げちゃいましたよ?」

 

「何だって?クソッ……!今回もダメだったか……戦闘力は大したことないのに、何だあの耐久力と生命力は……?」

 

梨璃の声を聞いた少年は、ヴァイパーの能力に毒づきながらCHARMを腰辺りに下げ、戦闘体勢を解いた。

その後は周囲を確認した後、梨璃の方に顔を向ける。

 

「ところで、怪我は無いか?」

 

「は、はいっ!私は大丈夫……って、あぁっ!?右肩怪我しちゃってますけど、こっちはあの敵との戦いじゃないので……」

 

少年の問いに肯定したかったのだが、自身の右肩の傷口ができてしまっていることに気づき、ヴァイパーとの戦いに限っては違うことを告げる。

それを聞いた少年は「ちょっと触るぞ?」と問いかけながら、梨璃の右腕を手にとってその傷を確認する。

 

「あんまり深い傷じゃない……化膿を防ぐ為に、消毒とかくらいで良さそうだな」

 

「あ、あの……っ!いきなり何を……!?」

 

「ん……?ああ、悪い。そりゃそうか」

 

こちらの怪我を見過ごせないのは分かるが、それでもいきなり異性に触れられれば流石に梨璃も慌てた。

少年からすれば生死に関わるなら不味いのでお構いなしだったが、それでも梨璃の言い分は理解できているので一言詫びる。

 

「取り敢えず、その傷悪化しないように応急手当だけ済ませようと思ってな……消毒とテーピングだけするけどいいか?」

 

「あっ……はい。お願いします」

 

梨璃から許可を貰えたので、今度こそ少年は応急手当を始める。

その手つきは非常に慣れており、傷も少ないことからものの一分強程度で完了した。

 

「ありがとうございます。ここまでしてくれて……」

 

「気にしないでくれ。俺がやりたくてやっただけだ」

 

簡単な受け答えをした後、少年は梨璃が若干落ち込んでいる様子に気付く。

何があったのかを少年が聞いてみれば、梨璃は彼がヴァイパーに追いつくまでの経緯を話してくれた。

 

「話を聞く限りだと、寧ろついて来て正解だったかもな……君がいなかったら最悪全滅まであったし」

 

「なら、いいんですけど……」

 

その話を聞いた限りだと、梨璃がいなければ帰って来れたのは彼女のそばで横になっている夢結一人、最悪は夢結すら帰って来れなかっただろうと少年は判断する。

先程のヴァイパーの影がハッキリと見えていたのもそうだが、梨璃の目の良さは、少なくとも突き飛ばして助けたリリィの命を救っている。

 

「てことは、もう一人の子を探さないとか。それくらいなら手伝うよ」

 

「……いいんですか?」

 

「合流の予定はあるけど、助けを待ってるかも知れないなら放置は……」

 

「梨璃さーんっ!」

 

出来ない──。と、言おうとしたところで何者かが自分の後ろから梨璃の名を呼びながら走ってくる音が聞こえたので、少年は横にずれることで道を開ける。

その直後に梨璃に抱き着いたのは誰かと思って顔を向ければ、波立つような茶髪を持った育ちの良さを感じさせる少女がそこにいた。

突き飛ばされて落ちてしまった影響で髪が汚れ、タイツが破れてしまっているが、それでも気品というものを少年が感じられるので、大分いいところで育ったのだろうと考えられる。

 

「……!楓さんっ!無事だったんだ……よかったぁ」

 

その少女のなは楓・J(じょあん)・ヌーベル。梨璃と共に脱走ヒュージを討ちに来ていたリリィであり、彼女に命を助けて貰った身でもある。

とは言え、彼女自身リリィとしての実力は非常に高く、今回のヒュージが特殊過ぎただけで、普段戦うヒュージとの一対一なら余裕勝ちできるし、何なら複数相手でも一人でどうとでもなってしまうほどだ。

 

「梨璃さんこそ、右肩を怪我してしまったでしょう?戻って手当てを……あら?応急用具をお持ちでしたの?」

 

「これはこっちの人がやってくれたんだよ」

 

「簡単な応急手当だから、後でちゃんと診て貰うことは忘れないでな?」

 

少年がやったことはあくまでもその場しのぎの処置である為、そこは忘れずに促しておく。

彼の声を聞き、そちらに顔を向けた楓は彼の風貌を見て、一つの確信があったので問いかける。

 

「あなたが噂に聞く『蛇を追う者(アヴェンジャー)』……ですわね?」

 

「えっと……その呼び方、誰かが俺をそう呼んで定着したんだっけ?」

 

ヴァイパーを追うその姿が復讐者に見えることから、彼のことはこの呼び名で通るようになった。

CHARMを扱い、リリィたちを育成する軍事教育機関となる『ガーデン』にも所属していないが、ヴァイパーを執念深く追う未知の存在と言うことで最初こそ政府も警戒していたが、今は彼のことを放置している。

と言うのも、ヴァイパーを追う過程で他のヒュージがいればそちらとも戦うし、人命救助が必要なら協力する姿も見れたので、『ヒュージを討とうとしているなら敵ではない。リリィに等しい存在だ』と認定された為だった。

 

「今日も、例の個体を追っていましたのね?」

 

「ああ。だが、今日もダメだった……あの野郎、相手が自分より強いと分かればすぐに自慢の足で逃げやがる」

 

ヴァイパーが戦闘を継続する場合は『自分より弱い相手』、『消耗させれば自分が絶対に勝てる相手』に限定されており、人数は問わない。

この少年相手に逃走したのは、ヴァイパーがこの二つの条件を満たさないと早期に判断したからで、この条件を満たす場合は数が不利でも普通に戦うのが見られている。

なお、この基準はリリィや自衛官等に適用されるものであり、一般人が相手なら容赦無く襲い掛かり、誰かに様々な方向で苦痛を与えに行く。これが理由で、少年も一度大変な目に遭っている。

また、先程少年が毒づいたように耐久力も相当なもので、一撃の威力に秀でたリリィが放つ近接攻撃ですら倒すのには至らなかったらしい。

 

「ヴァイパー……三年程前に姿を見せるようになったヒュージで、どういうわけか弱者を苦しめることに特化した動きを取る特殊個体……そしてあなたは、ヴァイパーからの被害を減らす、或いはヴァイパーを討つためにそれを追いかける存在……そうですね?」

 

「個人的事情から後者の方が理由としては強いが、前者の理由もちゃんとある。今回はそっち二人に被害出なかったから良かった」

 

ヴァイパーは今より三年程前に現れるようになった特殊個体のヒュージであり、少年はヴァイパー出現から凡そ半年後辺りから姿を見せるようになっている。

楓の問いかけの内、前者は上手く行っているのだが、後者はたったの一度も成功していない。幸いにもヴァイパーは一体しか目撃されていないが、これが増えるとなったら溜まったものではない。

できる限りヴァイパーの所在はハッキリさせておきたいが、無理に追っても捉えられないのは今までの経験から把握できており、追えない相手を追うくらいなら、周囲の安全確保等に時間を割いた方が余程建設的だった。

 

「一度聞いて見たかったのですが、何故そこまでヴァイパーに執着なさるの?」

 

「……どうしても聞きたいか?」

 

「ま、まあまあ……!それを聞くのはまたにしようよ」

 

問いかけた際、少年が暗い表情をしたのに気づいた梨璃は自身の決断に基づいて楓の問いを無しにしようと動いた。

案の定楓も「梨璃さんがそう言うなら」と引いてくれたのでこの話は終わり、少年も梨璃に礼を言う。

 

「さて、アイツを追ってもしょうがないし……こっちの人、大丈夫だよな?」

 

疑問符のついたような言葉を出しながら、少年はうつ伏せになっていた夢結の体を仰向けになるように回し、首筋に触れて脈を確認する。

よく躊躇い無くできるな。と、楓も梨璃も思うが、人命が掛かっているなら寧ろ彼のように即時行動がいいので、責めはしない。

 

「正常な打ち方はしてるな……なら、後は時期に目を覚ますだろ」

 

「本当ですか!?」

 

少年の判断に、梨璃も一安心だった。自分を庇ってそうなったのだから、その安心は大きい。

残りは脱走ヒュージの残骸は梨璃たちが所属する場所に回収される未来は見えているので、少年がこの場でやることは今度こそ無くなった。

 

「さて、時間になったし、俺はそろそろ合流先に行くよ」

 

「はい。危ないところを助けてくれて、ありがとうございました」

 

梨璃の礼に頷き、少年は木々の続いている場所へ今度こそ移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(一応、あの至近距離での高出力射撃(バスターキャノン)は効いてる……)」

 

梨璃たちと分かれてから凡そ一時間半経過した後──。木々に囲まれた道を抜け、都心近くまで人目の付かない道にバイクを走らせる少年──如月(きさらぎ)隼人(はやと)は今回の戦いを振り返っていた。

CHARMは近接戦闘を主に行う近接攻撃(ブレード)形態(モード)と、遠距離からの射撃攻撃を行う射撃攻撃(シューティング)形態(モード)の二つがある。

そして、CHARM次第では近接攻撃形態を二つ持つものがあったり、CHARMごとに遠距離攻撃形態で使える弾種に違いが存在し、隼人のCHARMは近接攻撃が一形態、遠距離攻撃では高威力射撃のバスターキャノンを使用するものになっている。

今回はそのバスターキャノンを至近距離で放ち、ヴァイパーの撃破に臨んだが結果は未達成に終わってしまった。

一応、今までもある程度距離がある所からバスターキャノンを撃ち込んでダメージを与えることはできたが、結局撃破に至ってはいない。至近距離と違って複数発当ててもである。

 

「(弾切れまでは撃ってなかったけど、あれを全部撃たせてくれるくらいヴァイパーは悠長にしてるか?)」

 

耐えらえないと断定すれば間違いなく逃げる未来は予想できる。やるとしたら、その時間を向こう側がくれるかどうかになるだろう。

考え事をしながら歩いていると、目的地である鉄のゲートで閉ざされた場所にやって来た──のだが、隼人は一度建物の横側に回り込んでバイクを停め、ゲートの横側にある小さいドアの前まで移動する。そのゲートはカモフラージュであり、出入口はこのドアである。

開錠の為のコードを数字八桁で入力する形式になっているのだが、念の為周囲を確認し、セキュリティ漏れが起きないように確認をしてから入力をする。

『20201001』と入力したコードは正しく認証され、ドアノブを捻って軽く引けばそのドアが開く。

 

「今戻りました」

 

「あら、お帰りなさい。怪我は無いようね?」

 

ドアを開けて通路を挟んだ先にあるドアを開けて声を掛けると、何やら巨大なディスプレイと睨めっこしながら作業をしている、肩より少し先まで伸ばした赤い髪を持つ、眼鏡を掛けた女性が歓迎の声を返す。

怪我の云々は彼女自身もう既に判別しているだろうが、一応二十確認の意味合いも込めて自身の状態は返しておく。判別していると言うのも、出撃した隼人のバイタルチェックはリアルタイムで把握していたからだ。

 

「すみません由美(ゆみ)さん。せっかくヴァイパーの位置を捕まえてくれたのに……」

 

「気にしなくていいわ。討伐より、犠牲者を出さない方が大事だもの」

 

ディスプレイと睨めっこしながら自身の指先を、コンソールの上でタップダンスさせていた女性──明石(あかし)由美はその手を止め、隼人にサファイアブルーの瞳を見せる。

この女性は隼人の追っているヴァイパーの位置情報をこの場で追跡・特定更には隼人の()()()()()()()まで行っており、彼女の協力あって初めて隼人はヴァイパーの追撃を可能としている。

その協力を貰う対価として、彼女が求めていたヴァイパーによる被害の防止と、近隣の地域──主に都心近くで起きたヴァイパーを含むヒュージによる被害を受けたエリアにおける救助活動要員になっている。

勿論、後者の場合でも被害が出る前に止められればそれで良しであり、なるべく迅速な対応を行うようにしている。

 

「今回戦ってみた所感はどうかしら?」

 

「至近距離のバスターキャノンは効果がありました。ただ、一発じゃ撃破は無理でした……全部撃たせてどうなるかってところですが、それをさせてくれるくらいあいつが悠長にしてるかが問題です」

 

──そこまで行くと賭け事の領域ね……。由美から見ても隼人の回答はいいものでは無かった。早い話、リリィ単独で実現しうる攻撃力での討伐はほぼ不可能であることを意味しているからだ。

だが、実現不能と確定したわけでは無いので、もう一度だけ実行する機会はある。

 

「なら、次に全てを懸けましょう。その為にも、今はゆっくり休んで。後、CHARMはいつものところに持って行って。そうすれば彼女がやってくれるわ」

 

「了解です。それじゃあまた」

 

会話を終え、ディスプレイとの睨めっこを始めた由美を確認し、隼人はこの部屋を入口からそのまま進んで奥にあるドアを開ける。

 

(れい)さん、CHARM持ってきました」

 

「戻って来たね。消費量はどれくらい?」

 

「バスターキャノン一発分、後は近接戦闘分です」

 

部屋に入るや否、隼人は背中まで伸びた蒼い髪と、紫色の瞳を持つ女性──加賀美(かがみ)玲に頼み込む。

CHARMの手入れは主にこの人が担当しており、必要であれば自身の技術によって改造することも可能だが、ただでさえ目立っている隼人をこれ以上目立たせる訳には行かないので、今はしない。

なお、CHARMの扱い方や扱う上での心構えを教えてくれたのもこの人で、由美と同じくらい頭の上がらない相手となっている。

 

「了解。それじゃあ、次の出撃までにはできるようにはしておくよ。一応、もう一本の方は整備終わってるから、間に合わなかった時はそっちを使ってね」

 

「あっちを使う場合は威力が落ちる代わりに死亡率が下がるか……分かりました。お願いします」

 

彼女が指さしたもう一本のCHARMを一瞥した後、彼女に頭を下げた後は部屋を後にする。

この部屋から直接自室として使っている場所には戻れないので、一度由美が作業している場所を経由し、入口の場所から見て左手、玲がいた部屋から出た直後の状態から見て右手へ足を運ぶ。

その先には四つドアがあるのだが、こうしたCHARMのメンテに足を運んだり、モニターで情報を見せ貰ったりと比較的移動が多いため、隼人は右から二番目のドアに自室が存在している。ちなみに一番右は玲の自室である。

部屋に入った後はジャケットを脱いでハンガーに引っ掛けた後はベッドに横になる。

 

「(どれくらいのタイミングでヒュージが出てくるかは分からないけど、まあ仮眠くらいはできるだろ)」

 

ともあれ眠って最低限目を休めて起きたいので、隼人は早速仮眠でもいいからと眠りに入った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい……!噓だろ……!?」

 

地面のアスファルトが所々割れ、高層ビルの幾つかが崩れ落ち、周囲が炎に囲まれていると言う地獄かと錯覚し兼ねない状況下に置かれた場所で、少年が少女に声を掛ける。

肩より少し先辺りまで伸ばした茶髪を持つ少女は、眠るように瞳を閉じており、背中から広がっている傷口によって流れた血の影響で体温が急速に失われていく。

この体温の失い方は人が生命の活動を止めたときと同じであることを知らないが、いつまで経っても目を開けず、力なく体を全体を下に垂らしている様な状態の彼女を見るに、死んだとしか考えられなかった。

──どうして彼女(コイツ)がこんな目に?そんな疑問を持ったと同時、右側から聞きなれない声が聞こえる。少女の体を抱えたまま体を向けると、蛇の様な姿をした生命体がそこにいた。

 

「お、お前が……!お前が……っ……!?」

 

変な声を出す彼奴(きゃつ)が自分の腕の中で眠る少女を殺めたのだと確信し、憎悪の目を向けた瞬間、右腕に重みが無くなったのを感じた。

何があったと思いながら右腕を動かして見るとやたらと軽い感じがし、そちらに目を向けて見れば、肘から先の右腕が体からお別れをして、その切れ目から血が流れていた──。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁああ!?」

 

慌てて起き上がりながら、隼人は自身の右腕を確認する。肘から先もしっかりあるし、()()失った訳ではない。

 

「起きたわね。魘されていたの、気づいていたかしら?」

 

「アリス……?てことはまたあの夢か……全く、いつになったら見ないで済むようになるんだ?」

 

声を掛けられたのでそちらを振り向けば、腰まで伸びている金髪をポニーテールに纏めた、自身の髪と同じ色の瞳を持った隼人と同年代であろう少女がそこにいた。

彼女の名はアリス・クラディウス。隼人に戦う術を教え、瀕死の自分を救ってくれた人である。

隼人が見ていた夢は三年前のヒュージの襲撃に巻き込まれた際の夢であり、そこで幼馴染みの少女を目の前でヴァイパーに殺され、自分は右腕を斬られると言う大怪我を負っていた。

そして、どういうわけかヴァイパーは自分を殺さずに放置し、アリスが瀕死の自分を見つけて由美の所まで運んで、義手による右腕の治療に漕ぎ付けたのである。

アリスが命を救い、戦う術を教え、玲がCHARMを用意し、由美がヴァイパーを始めとするヒュージの情報を収集することで、隼人が現地にて行動する流れが完成した。

 

「さっきの言い方ってことは、特にヒュージの出現は出てないんだよな?」

 

「ええ。もうすぐ食事の準備も終わるけど、シャワーくらいあるはずよ」

 

ならば済ませてしまおうと考え、早速着替えを用意し、自室のシャワールームに移動することにした。アリスは料理当番がある為、そちらに戻る。

ちなみに料理当番は基本的に手の空きやすいアリスと、ヒュージの情報が出ない時は手が空く隼人のどちらかが行うようにしており、後者はたまに程度の頻度だった。

軽くシャワーを終えて着替え終わった後、部屋を出て由美が作業をしていた部屋に行く。

全員が休息を取る際の為にテーブルが一つと、そこを囲うように椅子が四つあり、丁度四人揃って食事が取れる体制ができている。

人数も揃っていることなので、早速食事を取ることにする。

 

「……俺はこの味をまだ出せなそうだな」

 

「練習すればすぐよ」

 

料理の腕前は当番を請け負う回数の多い分、アリスに分があり、この辺りは仕方ないところがある。

とは言え、隼人が下手かと言えばそうでも無く、並みより上くらいの腕前は持っている。

 

「そんなに違うの?私、どっちも美味しいから気にしないけど……由美さんは?」

 

「料理人にしか分からない世界があるのでしょうね。ちなみに私も気にしないわ。どちらも食べられない不味さしてないもの」

 

「「(こ、こいつら……!)」」

 

二人揃って料理当番投げてやろうかと考えたが、玲もメンテナンスとパーツの取り寄せ、由美もヴァイパー等の追跡と料理する暇なんぞ無いので、投げたら自分たちも困るから不可能であった。

向こう側から話を振られない限り、味の話は控えようと二人が決意したところで、少し気を楽にできる話をしながら食事を進めていく。

食事が終わって少し腹を休め、片付けも済ませた後、今後の話を簡単にすることになる。

 

「隼人君とは既に話したけど……バスターキャノンの至近距離射撃を持ってしても、ヴァイパーの撃破には至らなかった。なので、次遭遇した時にバスターキャノンの至近距離射撃を全弾撃ち尽くすつもりで再実行してもらうことになったわ」

 

「それで撃破出来ないのは、相当なタフさですね……。そうなると、次ダメならどこかのガーデンに合流するしかないですね」

 

玲の出した結論には全員が頷く。これでダメならもう単独での撃破は不可能と断言できる。

それはつまり、ヴァイパーの単独撃破に関してもう手詰まりになっていることを査証している。

 

「ところで、お義母さま。合流させるガーデンに目途はあるのかしら?」

 

「そうね……」

 

アリスが由美を義母と呼ぶのは、血は繋がっていなくとも母親代わりをしてくれた彼女への敬意からである。

正直なところ東京付近でも良かったが、そこよりもヴァイパーを討てる可能性を持つ戦術への習熟度が高い場所が望ましかった。

 

「隼人君、今日のヴァイパーの追跡で、リリィとは遭遇したかしら?」

 

「はい。黒と白の制服のところでした。今日の場所は鎌倉の方でしたね……」

 

「黒と白の制服……ちょっと待ってね」

 

隼人の回答を聞いた玲が手に持っていたタブレット端末を操作し、操作し終えた画面をテーブルの上に乗せる。

 

「ここの制服だった?」

 

「百合ヶ丘女学院……はい。ここです」

 

隼人が今日出会った三人のリリィはこのガーデンにおり、ここはリリィの実力が全体的に高く、自主性重視のガーデンであった。

とは言え、これはあったら嬉しい要素であるあり、本命があるかどうかである。

 

「なるほど……このガーデンなら、例の戦術も得意分野だったわね」

 

「なら、後は隼人を受け入れてもらえるかどうか……でしょうね」

 

受け入れて貰える糸口自体は、ヴァイパーを追う過程でリリィの──広義的には人間の味方をしているので、ここでどうなるかだろう。

懸念点とすれば自身が何故ガーデンに所属せずにCHARMを振るっているかであり、これを向こう側がどう捉えるかになる。

 

「そこは祈るしかないわね……ところで、CHARMはどちらを持っていくの?」

 

「持っていけるならどっちも持っていきたいですけど……どっちかだけなら、今日使った方にします。玲さん、また使った場合は悪いんですけど……」

 

「大丈夫。ちゃんと整備するから、任せてよ」

 

連携をするのであれば、防御重視よりも攻撃重視の方が数の利点を活かしやすい──。というのが隼人の考えだった。

これで話す内容は全てで、今回の話し合いも終了となる。

 

「(次が最後の攻撃か……上手く行くかは分からないけど)」

 

──ともあれ、やるしかないな。ヴァイパーに対する隼人の思考に、迷いは無かった。




原作からの変更点や、ちょっとした小ネタ等の解説を入れていきます。

・如月隼人
本小説の主人公。過去の出来事が理由でヴァイパーを追っている。
一応、都心近く出身で、今まで百合ヶ丘近辺に来たことは無い。
タイトルの『RED THISTLE』はコイツの赤い格好と、復讐の花言葉から決定。


・一柳梨璃
アサルトリリィ本来の主人公。
脱走ヒュージと戦い、始めてCHARMを登録して倒すところまでは同じ。
運が悪くヴァイパーと遭遇するも、隼人が間に合って事なきを得る。
これからリリィに関する様々なことを学ぶ身である為、ヴァイパーも隼人も詳しくは知らない。


・白井夢結
初っ端から倒れた状態の登場にして申し訳ない……。
この人が倒れて無ければ、そのままヴァイパー撃退してしまうので、主人公の出番が無くなると言うメタも手伝ってしまった……。
脱走ヒュージと戦い、倒すところまでは同じ。
今までにあった悲しき経験とそれに伴うプレッシャー。想定外の連続と心労が溜まり過ぎてダウン……と言った感じ。
一応、ヴァイパーと隼人のことは知っている。


・楓・J・ヌーベル
こちらも脱走ヒュージと戦い、倒すところまでは同じ。
アニメで普通に動けていたことから打ちどころが良く軽傷と考え、今回はその足で梨璃のところまで走って来た形に。
こちらもヴァイパーと隼人のことは知っており、隼人のヴァイパーに執着した理由に興味アリ。


・ヴァイパー
本小説オリジナルヒュージ。コイツを討つことが隼人の目的。
無駄に硬い上にすばしっこく、更に弱い者虐め大好きと、嫌な人がとことん嫌がる感じの能力。
CHARMを登録しただけで、戦う術を理解していない梨璃が一人で勝つのは流石に厳しく、隼人が間に合わなかったらシャレにならない結果が待っていた。


・隼人が入力した八桁番号
アニメ版アサルトリリィこと、BOUQETの放送開始日。
何だかんだもう一年以上過ぎてるんですよね……時間の流れは早い。


・隼人がバイクに乗ってる
リリィは現場へ向かう為の足を確保する為に、免許の取得は推奨されているらしいが、隼人は無所属。つまりそういうことである。


のんびり続けていくつもりですので、これから本小説にお付き合い頂ければ幸いです。
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