アサルトリリィ -RED THISTLE-   作:ブリガンディ

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残業が多過ぎてこの日まで投稿出来ませんでした……。

アニメ7話まで暫く時間があると仮定し、数話掛けて隼人の正体と、対ヴァイパー決戦の話を行います。

ちょっと時間軸がおかしくなっている箇所があったので、そこを修正しました。

来週に控えた合宿

再来週に控えた合宿


第12話 詮索

初のノインヴェルト戦術を実施した戦闘から早くも週末を迎えた早朝──。隼人は周囲を警戒しながらバイク置場にやって来る。

 

「(今のところ誰も引っ掛からない……)」

 

──誰だ?俺のことを見ているのは?自らの事情からこうなるのも時間の問題ではあったが、探りが本格化してきており、少し動きづらい状況ができてきていた。

最悪はどこに行ったか分かりづらくする方法を取るしかないだろう。

 

「なら今の内だ……」

 

善は急げ。素早く校門前までたどり着いた隼人はそのままアクセルを入れ、施設まで移動を始めた。

 

「(隼人さん……一体どこへ行くのかしら?)」

 

それを影から見ていたのは楓で、今日は再来週に控えた合宿の場所や日程を決める為に話す予定なのだが、隼人が午後にずらして欲しいと頼んだので探りも兼ねて要求を飲み込んだ。

一応、隼人が乗ったバイクのドライブレコーダーは調べて貰っており、基本的に外出する場合は二パターンであるところまでは判明している。

二つのパターンの内片方はそのまま都心近くまで走っていくパターン。これは梨璃の誕生日祝いの時の買い出しでもやっていた。

もう一つのパターンはどこか都心近くでも、百合ヶ丘近辺でもない場所への移動をし、そこから少しして都心近くに移動する。或いは逆の順で移動する。こちらの方が多いパターンである。

今日はどっちになるか?一つ目だと元居た場所の様子や知人の顔を見に行くで終わってしまう可能性が高いが、二つ目の方だと情報を聞き出すチャンスである。

 

「(さて、あなたはどちらを選びますの?)」

 

隼人の動向次第となった為、楓はガーデン内での行動に戻る。

 

「じゃあ、今日もそっちの方面ですか?」

 

「恐らく。彼、今までの外出は全て都心近くかそこにしか行ってませんもの」

 

隼人の外出を見届けた後、一柳隊の皆で状況の共有を行う。

初の対ヴァイパー訓練時の引っ掛かる発言、移動先が必ず都心近くか、都心近くと都心近くから外れたどこか。この二点が隼人のヴァイパーを追う理由と、ノインヴェルト戦術が使えた理由に関係していると考えている。

 

「百由様の方からも、検査装置のアップデートができたから、今日から再度確認するそうじゃ。こっちで何か掴めたら楽に聞けるの」

 

あの詳細不明のマギデータは何なんだと思いながらも、ミリアムは百由から共有を頼まれた情報を伝える。今回の再検査で掴めてしまえば、隼人の事情はどうやっても掴める。

後は隼人の移動ルートを元に追跡ないし、待機するメンバーは誰にするかの話が出てくるが、この話に終始乗り気になれないメンバーが一人いた。

 

「(隼人くんが話してくれるまで待つっていうの、ダメなのかな……)」

 

それが梨璃であり、彼女はヴァイパーから身の危機を救ってくれた隼人に対する詮索は無理にやらないと考えていた。

──だが、行動パターンがほぼ固定化されている部分は日課で済ませていい訳のない情報があり、これが原因で断念されている。

 

「梨璃、大丈夫……?」

 

「雨嘉さん……ありがとう。もうちょっと待てないかなって思っちゃうんだ……」

 

そんな彼女を見て、今まで姉妹のことで一人悩んでいた雨嘉が聞いてくれたのは少し助かったところだ。

実際、雨嘉も自分の悩みが影響して無理に聞こうと考えてはいないらしく、そう言う意味でも一人味方がいると考えられるのが嬉しい。

自分が担当になった場合は敢えて失敗しようかと考えながら、梨璃はその話に入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(大事を取って違反や邪魔にならない場所に停めはしたけど……今後どうする?移動が凄く面倒になったな)」

 

右腕のチェックを受けるべく移動していた隼人だが、普段と違い、施設の近くにある公園の駐輪場にバイクを停め、そこからは徒歩移動をしている。

前日に前もってそう言う移動をするとは告げてあり、由美からも承知を得ているのでここは問題ない。

それよりも幸いなのは、その公園が都心近くへ行く道と、施設へ行くための道で共通する交差点にあり、ここで意図的にバイクを停めれば追跡先を迷わせることができる可能性が見込めた。

これでも気休めにしかならず、バレる時はあっさりなのは覚悟するしかない。

 

「さて、これでチェック完了よ。ノインヴェルト戦術にも付いていけてるみたいね」

 

「ありがとうございます。アリスにも、礼言っておきますね」

 

自らのマギ遷移データ等を見せて貰い、隼人は一安心する。

ここまでは特に問題ない一幕であったのだが、問題はここからであり、隼人は本題に切り出す。

 

「何人か俺を探っているみたいです。このままだとここがバレる危険もあるんで、別の移動手段を使おうかと考えています」

 

「なるほど……なら、いっそのことこっちから誘い出してしまっても構わないわよ?こちらに関する情報の口外無用さえ約束してもらえれば」

 

「……マジで言ってるんですか?」

 

余りにも大胆過ぎる発言に、隼人が驚愕する番となる。

一応、他の人たちもそう言うことになってしまったら承知の上らしく、穏便に済ませられる相手ならそうしてしまう考えになっているようだ。

 

「隼人、いざという時にこれを渡しておくわ。と言っても、最終手段だけど……」

 

そう言ってアリスが隼人に渡したのは閃光玉であり、取り押さえられる前の緊急手段である。

拳銃等も選択肢にはあったが、離脱を優先するなら、少しでも相手を止められるこちらであり、拳銃は人を盾に取って脅すしかできない。

 

「使い方は分かるわね?」

 

アリスにそのまま問われ、当然の如く頷く。出来れば使わないで済むことを祈るが、あるに越したことはない。

 

「大丈夫。本当にどうしようもないなら、既に移動先は用意してあるし、いつでも逃げれるようにはしてあるから」

 

玲の言う通り、実は各種必要なデータはすべてバックアップを常時取得しており、即時全データデリート用のバッチファイルも作成済み。

更には玲の使うCHARMの整備場はどうしようもない部分のみ再調達すれば、すぐに整備再開可能と大分周到に用意されている。

極めつけには当人たちにしか知らない専用ルートも用意しており、早々捕まることはない。最も、この施設を破棄しないで済むことが一番いいのだが。

 

「そう言うことだから、あなたは釣り出す相手に気を付けて頂戴。それさえ失敗しなければ、後はいくらでもフォローできるわ」

 

由美から最後の告げを貰い、その後停めていたバイクのところに徒歩で戻っていく。

 

「(話すとしたら誰がいいんだ……?)」

 

一柳隊に絞るのであれば、梨璃と二水は顔に出るだろうからダメ。梅と鶴紗は接点が浅過ぎるので一番動向を読めずに危険。この二組は少なくとも無理だろう。

こうなると残りの五人から選ぶことになるのだが、この中だと雨嘉も梨璃と二水に近い理由で難しい。ミリアムは真面目さが必要になればできるので、無理ではない。

そして、残った夢結、神琳、楓の三人は最もこの手の話しやすく、特に楓はこっちがヴァイパーを追う理由を気にしていたし、こう言った手合いの話ができないようには見えない。

口外無用の取引さえ成立すれば一番恙なく話を進められる為、出来れば彼女であってほしいとは思う。

なお、資料を提供してしまうのもいいが、こっちは一柳隊の探りよりは、百由の検査に対しての回答に近く、今回使うのは適切とは思えない。

 

「(腕のことに関してはどの道皆に話すけど、あの人たちのことは流石にな……)」

 

恩人を売る真似など、死んでもやるつもりはない。そんなことをするくらいなら、隼人はガーデンを去り、また単独で活動を行うだけである。

 

「ともかく、またここに停めて次に来る奴を誘い出そう」

 

行動方針を決めた隼人は、そのままバイクを走らせ出した。

なお、帰路を走る際、隼人が「面倒臭いなぁ……」と、走りながらぼやいていたことを記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

{ 第 12 話 }

 

詮 索

pry

 

 

やりたくなかった駆け引き

──×──

due to the presence of a reason

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「戻りましたわね?」

 

「ああ。わざわざ助かったよ」

 

「では、揃ったことですし、今回の合宿に関しての話を始めますわ」

 

そして、迎えた午後──当たり障り無い会話をしてから、本題の合宿日程決めに入る。

使える場所は百合ヶ丘近辺にある指定地域。ここで模擬戦等による訓練や、対ヴァイパー討伐に向けた陣形考案などを行う。

余り遅くなり過ぎないように七月上旬を予定しており、ここの二日間を使って訓練を実施することになる。

一応、移動自体は金曜日の放課後に行い、夕食等は現地で作ることになるそうだ。

 

「……それ、調理用具とかも持参するのか?」

 

「それに関してはガーデンでの貸し出しがあるから、気にしなくていいわ。防護用のケースもセットだから、持ち運びでの危険も無いわ」

 

夢結の回答で隼人の疑問は解決する。ただ、食材に関しては鮮度維持や、当人たちの食べたいもの等の都合から持参になる。その為、ここだけは事前に準備しておく必要がある。

後で神琳から作りたいメニューと、必要材料の分量を聞いて、合宿の一つ前の休日に買って来るのがいいはずだ。

 

「(そうなると、都心近く行く時に今回みたいな停め方した方がいいかもな……。いや、いっそのこと最寄り駅確認してそこに停めるか?)」

 

「(恐らく、バイクで行き来ができるからと隼人君はわたくしと話して引き受けるはず……その時どう動くのを見るか、或いは張り込むか……)」

 

食材関連のことが出た時点で、もう一部から探り合いの空気が出始めて、真面目に話しているはずが余計な詮索合戦をする羽目になっていた。

他の人が行動や立ち位置の特殊過ぎる自分を知りたいのは分かるが、隼人はアリスや由美(恩人たち)に不利が被るのだけは何としても避けたい。

ともかく、隼人はどの道一対多を強いられている以上、不利が着くのは承知の上なので、せめて恩人たちの安全さえ保証してくれるならそれでいいのだ。

 

「(ってなると、問題は俺から何を引き出そうとしているかだ。百由様なら多分アリスになるんだけど……他の人は何だ?)」

 

楓ならヴァイパーを追う理由があるが、プラスαで何かあるかもしれない。他の人らは全く読めない。

これなら意図的に次の外出もバイクはあの位置に停め、誰かが来ていたらこっちで問いだしてしまうしかないだろう。

と、そこまで纏めてから、思考を切り上げて合宿の方の話に戻る。

 

「ちなみに、こう言った時の為に訓練服があるんですが……」

 

「あるんだけど……?って、そうか。隼人(こいつ)にそれは支給されてないね」

 

「はい。なので、隼人さんはいつも通りの格好になると思います……」

 

──揃うチャンスが来なさそうです……。鶴紗が気づいたことに肯定しながら、二水がちょっとガッカリした旨をこぼす。

これに関しては不可抗力なのでしょうがない。と言うか、自分一人の為にそんなものを男子用に用意する可能性はないだろう。ノインヴェルト戦術を使える事情が事情である。

 

「そうそう。合宿前にCHARMの整備はこっちでやっておくから、各自出すのは忘れずに頼むぞ。まあ、隼人の場合は放置されているもう一本を使うのも手じゃが……」

 

「流石にそれはしないよ。ブリューナクはちゃんと出しとく」

 

連続した日にちでCHARMを持ちっぱなしになるので、ミリアムの催促には素直に従う。

話すことは話し切ったので、これで一度解散となった。

 

「(とにかく一週間前の外出だ……。ここで勝負に出るしかない)」

 

ある程度の安全を確保すべく、隼人は決意した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(よし。取り敢えず今日もここだ。後々行くのが面倒になるから、先に右腕のチェックだな)」

 

そして迎えた合宿一週間前の休日──。隼人は自分の立てた戦法通り、どちらに行ったか分からないように中継点となる公園の駐輪場にバイクを停めて施設に向かう。

施設からここに戻り、誰かが来ているなら上手いこと逃げられないようにして問いただし。誰もいないなら都心近くまでバイクで移動、その後帰りに確認である。

また、都心近くまで行ってから戻った後、誰かを釣り出してしまったらチェックに行きづらくなってしまうのだ。故にこうするしかない。

 

「さて、ここが二つの行き先で中継点となる場所ですが……あっ、ありましたわね」

 

隼人が駐輪場から離れて凡そ三十分後──。徒歩にて楓が隼人が停めたバイクを発見した。

彼の動向を探し出す人員は、ほぼ消去法で楓が選ばれ、こうして足を運んできた次第である。

と言うのも、隼人が当時予想していた通り、梨璃、二水、雨嘉の三人は表情に出やすくダメ。鶴紗と梅は接点が少なく、怪しまれるからダメ。

こうなると残りは四人になるが、ミリアムは百由の手伝いもあるので、流石に無理は言えない。神琳は隼人に頼んだ身である為、今回は絶対にバレる。

そして残った二人になるが、今回は前々から隼人がヴァイパーを追う理由に興味を持っていた楓が自ら買って出た形になる。

 

「(ともかく、まずは周辺を確認。その後張り込みですわ)」

 

自分たちが来るのを見越して公園内のどこかに隠れているかと思えばそんなことは無く、張り込みに移行する。

楓が待機する位置は、隼人がどこから出てきても必ずバイクと双方を捉えられる位置である。向こうがここに張り込んでいないこと前提に行動するので、流石にバレやすいのは覚悟の上だ。

仮に先手を取られてしまったとしても、最低限何故毎回都心近くまで足を運ぶかが知ればそれでいい。また、これは非常に個人的な事情もあるが、万が一彼が強行手段に出るのであれば一柳隊の皆──最悪は梨璃だけでも安全を確保する心積もりである。

 

「(今、どっちにいるのかしら?)」

 

困ったところがあるとすればこれで、隼人の足跡を追えない状態である。とは言え無理に動いても仕方がないので、このまま待機するしかない。

だが、流石に今は夏場であり、木々が多い公園内のおかげで日陰に居られるものの、それでも結構暑いものは暑い。熱中症対策で飲み物を忘れずに持ってきたのは正解だった。

 

「そう言えば、都心近くと言えば前に……」

 

──慰霊碑のような場所に立ち寄っていたはず……。聞きそびれてしまっていたが、隼人がヴァイパーを追う理由の一端がそこにあるかもしれない。

それなら聞き出してしまえばいいのだが、問題はタイミングである。

 

「悩みどころですわね……って、冷たっ!?」

 

「こんなところで考え込んでも答え出ないだろうし、一杯どうだ?」

 

いきなり首筋に冷たいものを当てられてビックリし、即座に振り向いたら、そこには飲み物の入った缶を二つ持った隼人がいた。

下手人が知人で安堵したと同時、自分側の行動が失敗して(既にバレて)いたことも悟る。思考の海に沈んでしまったのが敗因だと分析できる。

 

「で?俺の何を知りたいんだ?」

 

更には自分たちの張り込み理由さえ織り込み済みだったらしく、今回は完全に一本取られてしまったようだ。

隼人からすれば理由は余りにも絞り込むのが簡単過ぎる為、張り込みに勝てたくらいにしか思っていない。

 

「外出の際、何故わざわざ都心近くまで行くのか。それと、時折どこか違う場所に行く……知りたいのはこれですわ」

 

飲み物を素直に受け取りながら、楓は理由を告げる。どうやら隼人は自分に原因があるのを分かっているので、張り込みの理由さえ聞ければ十分らしい。

今回の神琳に頼まれた買い出しだってそうだ。百合ヶ丘近辺で済ませられるのに、隼人は毎回決まって都心近くまで足を運ぶのだ。梨璃の誕生日の時もそうだった。

しかも都心近くへ行って戻るだけならいいのだが、稀にどこにでもない別の場所に移動することもあったので、尚の事怪しまれていることを告げる。

 

「理由は二つある。けど、片方は今すぐには話せないな……説明する為の資料が手元に無い」

 

「でしたら、もう片方は?」

 

いずれ話せるのなら、今は気にしない。楓はすぐにそう割り切った。

そして、もう片方は今から都心近くへ行くので、そこで改めて話すと確約を貰えた。

 

「んじゃ、歩きで行くのも遠いから乗っていくか……」

 

──後ろに乗ってくれ。流石にこの距離を歩かせるのが酷だと分かっている隼人は、楓を後部座席に乗るよう促す。

詮索されているのを引き出した以上、もう回りくどいことをしないんだなと思ったと同時、楓は一つ気づいてしまった。

 

「そ、その……余り、意識しないで頂けるといいのですが……よろしくて?」

 

後ろに座る──。バイクだとそもそもスペースが狭い都合上、豊満なそれを押し付ける形になってしまうのだ。

故に、恥ずかしく思いながらも頼み込んだのだが──。

 

「……?何で頬赤くしてんだ?」

 

当の隼人は全く理由を察していない。何を迷っているだとすら思っていた。

ただ、楓に隼人の身に起きた悪影響に気付ける理由など無く、これが噓偽り無い本音とも考えられない。

 

「……とぼけてますの?」

 

「は?何をとぼける必要があるんだ?ってか、何を気にしてるんだよ?」

 

逆に、隼人からしても楓は何を深読み、ないし邪推しているのかと思っており、全くの平行線になる。

 

「なっ……!あなた、わたくしの口から言わせようとしてますの!?悪趣味にも程がありませんこと!?」

 

「俺の何が悪趣味なんだよ!?理由分からないんだから察せは無理だろ!」

 

こうなるとただただ時間を浪費してしまうので、楓は諦めて後部座席に座ることにした。

 

「(この男……本当にそうなんですの?けれど、口調や声音的に噓でもなさそうですし……。はぁ。どうせなら、梨璃さんにサービスしたいですわ……)」

 

「(アリスは全く気にしてなかったのにな……何が問題だ?)」

 

隼人がこの辺に無頓着過ぎるのはヴァイパーが最大の原因ではあるが、実はアリスも遠因を作っていた。

と言うのも、隼人とアリスが二人乗りでバイクに乗って移動する時があったのだが、アリスもその辺を全く意識していなかったのである。

何なら、以前一度風呂上がりのアリスの全裸を見てしまったこともあるが、その時彼女は「不慮の事故だからいいが、凝視はよせ」と言った旨を恥ずかしがる様子もなく(無感動そのもので)平然と告げたレベルであり、これが隼人に対する異性のイメージと化してしまった。

そんなこともあってか、隼人にその手の色気やら何やらの効果は今のところほぼ死んでいる。よって、楓の豊満な膨らみが押し付けられたとしても、「落ちないように安全確保をちゃんとやってる」程度にしかならないのだ。

 

「移動中に聞いて置くんだけど、俺たちが都心近くで始めて顔合わせた時……慰霊碑があったのは分かるか?」

 

「ええ。そこに立ち寄りますの?」

 

そう言えば隼人がそこに立ち寄っていたのを思い出しながら、楓は肯定旨を返す。ちなみに、隼人の声音等は完全に平時のそれであり、そっちに関する反応が全くないのも確認できた。

──こ、この男……!まさか頓着が消えてまして!?常時平静を保てるのはいいかも知れないが、それはそれで男子としての欲が消えてるのは危険だろうと楓は感じる。

ちょっと不味い事態に気づいた後、都心近くに付いてからは花束を一つ買い、そのまま慰霊碑に足を運ばせる。

 

「この彩月香織ってあるだろ?俺と同い年の幼馴染なんだ」

 

「お墓参り代わり、と言うことですのね……」

 

理由自体は比較的納得できるものだった──が、もう一つの場所に行く場合はこれはついでになるのも予想できた。

そして、この香織と言う少女の墓前がここにあるのも、恐らくの理由にたどり着く。

 

「まさか、この子は……」

 

「ああ。ヴァイパーに殺された……。俺の隣で」

 

「……!」

 

隼人は行方不明者なので、ここには載せられていないが、恐らく死亡したとされている。両親も隼人が知る限りでは同様である。

更に聞いてみれば、この香織と言う少女──当時医者を目指す夢を持ったばかりであったらしく、夢と言う名の希望を得たばかりの知人が目の前で殺されたことが隼人の琴線を触れ続けているようだ。

とは言え、どんな理由であろうと()()()()()。そこを弁えている分、隼人は他人に強要することをしなかったのだろう。

事実、施設での訓練は頼み込み、承諾を得たこと。由美がアリス以外にもう一人現場で動ける要員が欲しいの二点が重なって始めて踏み出たのだ。

 

「ヴァイパーのせいで、俺とこいつの様な目に遭う人を一人でも多く減らす……。それが、奴を殺す為に追うって決めた理由なんだ」

 

──何故、夢を持ったばかりの人が死ななければ行けなかった?常々出てきてしまう疑問と怒りであり、その下手人であるヴァイパーへ怒りは収束する。疑問は理不尽なことが起きたで無理矢理片付けている。

最初の頃は何故彼女ではなく自分が生きているんだと考えすらもしたが、流石にそれは助けられた命を粗雑に考えすぎなのですぐにやめている。

 

「根本はそれでも、もう一つあるんでしょう?」

 

「ああ。けど、細かい話は待ってくれ。さっきも言った通り資料が必要だからな……」

 

それでもざっくりと言うことはできる。その為、隼人はそれだけ教えることにした。

全てを伝えるその時まで待っていいとも思ったが、早いか遅いかになるだけの今、大して変わらないと言う考えに至る。

 

「右腕のここから先……もう俺の腕じゃないんだよ」

 

「……あなたが五体満足でと伝えていた理由、ですわね?」

 

ただし、ここから先は話せない為、我慢してもらうしかない。

表面上は何ら変わらない普通の腕に見えるが、本来の腕じゃないと言う事実は一生付いて回る為、それで複雑な思いをするのは避けて貰いたいところである。

 

「悪いな。色々隠して……」

 

「いえ。探りを掛けていたこちらもこちらですから」

 

買い物を済ませた帰り道。互いに非礼を詫びて、これ以降はもう余計な探り合いは無しになることになった。

正直言って、隼人からすればこうやって早いところ協定が出来た方が楽である為、問題ない。

 

「ところで、何かやりたいことは見つかりまして?」

 

「候補の一個は出た。けど、確定までは行かないな……」

 

──いっそのこと、それを探す旅に出てもいいかも知れない。

ただ、それもヴァイパーを討って、百合ヶ丘に残るかどうかもある為、それ次第だろう。

 

「(早いとこ、ケリをつけられればいいな……)」

 

夏以内に決めれれば理想だなと、隼人は一人考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜──。別の場所でも事態が動こうとしていた。

 

「うわ……何よこれ?」

 

百由のラボであり、解析装置のアップグレードが完了したので早速隼人の血液サンプルを再度解析してみたところ、一つ明らかに厄ネタなものが転がって来た。

 

「(アリス・クラウディウスって誰かしら……?データ通りなら、この人と何かあったと考えられるわ)」

 

隼人のマギデータから、この少女の名が出てきたことで、百由はこれがアタリだと推察する。

詳しく調べたいところだが、解析装置ではここまでが限界であり、細かいことは隼人から直接聞くしかないだろう。

 

「向こうから情報提供があるなら楽なんだけど……」

 

──来るとは限らないのよねぇ……。百由は頭を抱えるが、一番手っ取り早いのはどの道隼人に聞いてしまうことに代わり無かった。

ならば、どこかで動くしかないが、それで離反等が起きたらシャレにならない。準備した協力体制が一発でご破算する。

 

「(なら、今の段階による資料を纏めましょうか)」

 

必要最低限の人に伝えるべく、百由は次のやるべきことを定めた。

彼女が纏めた、今までの解析結果は次の通りに纏められる。

 

 

 

如月隼人の血液サンプル解析結果と今後の対応考察

 

・レアスキルは縮地。この情報に偽りは無く、現に先日のレストア戦ではヴァイパー撃退から戦線復帰に役立てている。

・ノインヴェルト戦術適正有。この情報も偽り無し。実際にレストア戦で始動役を担当、成功も確認済み。

・その一方でスキラー数値65と妙に高い数値と、男性にも関わらずノインヴェルト戦術適正を得た理由として、マギデータが異常なことが考えられる。

・彼のマギデータにはアリス・クラウディウスなる人物のマギデータが混在しており、過去に何らかの実験等を受けた可能性が高い。

・これが強制的なのか、彼自身が希望してか、はたまた別の場所で協力関係があるかは不明だが、もし強制的な場合は救助も必要と推測。

・ただし、彼の背後は全く洗い出せておらず、それを知れるまでは十分な警戒を要する。




・如月隼人
異性への頓着で、まさかの恩人から悪影響を貰っている。匂いはちょっと厳しいのに、密着は全く平気。
怪しまれる要素があるのは承知の上。今後どこかで自身の秘密を明かす予定。
アリスたちの安全さえ保証されるなら何でもいい。


・一柳梨璃、王雨嘉
隼人の詮索に対して反対派の二人。
残念ながら隼人に怪しまれる要素が多く、詮索は実行された。


・楓・J・ヌーベル
今回の調査代表者。隼人が回り込みを思考に入れなければ、こっちがアドバンテージを取れてた。
身体の密着を気にするも、隼人がアレなせいで自分だけ損した。


・アリス・クラウディウス
隼人の異性の頓着に関して、完全に戦犯をかました命の恩人。
ただし、アリスも性に関しての頓着がかなり薄く、問題ないとかいうまさかの事態になっていた。


次回もこんなに残業が酷くなけりゃ来週投稿を目指します。

今後アニメ版準拠の展開はどのようにしてほしい?

  • 今みたいな感じで大丈夫
  • もうちょい細かめが嬉しい
  • サクサク気味がいい
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