アサルトリリィ -RED THISTLE- 作:ブリガンディ
放課後を迎え、合宿の為に移動し、夕食等も済ませた夜──。ヴァイパー討伐の為の陣形に関して、隼人から驚きの提案が出る。
「……隼人君、もう一度言ってくれないかしら?」
「驚くのも無理ないでしょうけど……なら、もう一度。みんながノインヴェルト戦術の準備をする間、
認めたくなかったなこの人──。夢結が眉をひそめてもう一回聞いた辺りで疑問を持たれていることに察しが付いてなお、隼人はその提案を取り消さない。
勿論、こうして提案した以上、ちゃんと理由自体はある。無ければこんな提案は出していない。
「わ、私なのっ!?」
「お待ちになって?梨璃さんはまだ、対ヴァイパーの経験がありませんのよ?安全の為にも、経験のある人が担当するべきですわ」
「それを言ったら俺とお前……いや、単独での経験まで入れたら俺以外全員そうだろ」
危険なのは重々承知しているが、楓の問題点を言い出したら絶対に実行できない提案なので、隼人はその理由だったら問答無用で蹴り、上手いこと賛成を取るつもりである。
その為に、理由自体をしっかりと説明する必要がある。
「ごたごたのせいで話すの遅れちゃったけど、最近ヴァイパーは俺と交戦した際に逃げ出すのが早くなってる……」
──このままだと、ノインヴェルト戦術を完成させる前にヴァイパーが逃げ出すかも知れないんだ。隼人が今回当たれない理由はそこにある。
ヴァイパーの位置を特定から接触、そこから逃走までの時間を考えて、ノインヴェルト戦術を完成させる余裕があるだろうか?恐らくは無い。
隼人が足並みを合わせれば、数に気づいて逃げられる。隼人が速すぎれば逃げられる、これではダメなのだ。撃退はできても討伐はできない。
「で、俺より強い人はヴァイパーが逃げるのを早まらせる可能性が高いから、夢結様と梅様も外すしかない」
──特に、梅様は縮地すら考えたら俺の上位互換まであるし。上級生組が元アールヴヘイムのメンバーと言うこともあり、こちらも厳しい。
こんな風に、「逃げられないように時間を稼ぎつつ、ヴァイパーを捌く」行為が非常にシビアなせいで、早速三人が省かれた。理由は全員、時間稼ぎよりも前に逃げられるからである。
「まあ、それはしょうがないか。お前の言ってる通りなら、梅は戦い方を理解された時点で逃げられるしな……逃がさないようにするには全力封印も同然だし」
梅の場合、今のヴァイパーを考えると逃がさないをしづらい要素が山盛りなせいでダメだった。
縮地持ちで隼人より強いとあれば、彼奴は間違いなく逃げ去るだろう。それならいざという時に、一瞬だけフィニッシュショットまでの間の時間稼ぎをやってくれた方がいい。
「で、これ以外に外した方がいい人は誰だって言うと、鷹の目でヴァイパーの居所を捉えられる二水。索敵やって囮やってからノインヴェルト戦術はちょっとな……余りにも負担が重すぎる」
「そこはしょうがないですね……でも、その分索敵はお任せくださいっ!」
とてもではないが、一人で背負う負担が大幅に増えてしまう。流石にやらせるわけには行かない。彼女の場合、鷹の目があると知った以上、対ヴァイパーの訓練は専ら自衛が目的になっていたので、ここも特に問題はない。
こうなると消去法で、誰が向いているかになる──のだが、隼人は一個の要素に可能性を見出していた。
「俺の知る限り、ヴァイパーと単独で交戦する羽目になりかけたのは梨璃だ。戦う可能性はあったのに、それを逃しているって考えると……
「……梨璃なら、長い時間惹きつけられる可能性があるってこと?」
隼人が梨璃を推す理由を一言で表すならこれだ。確固たる証明等はできないが、理由とすることはできる。
ちなみに、他のメンバーをダメとするなら、雨嘉には狙撃のバックアップとして、万が一の為にノインヴェルト戦術を開始するまで残って欲しい。ミリアムは自身の持っているレアスキルによるダメ出し要員になるかもしれない。
他にも、楓はレアスキルの都合上万が一に備えて残って欲しい。鶴紗も戦闘力が高く、場合によってはヴァイパーを逃がしてしまいかねない。自分と上級生を省くなら、一番選びづらい。
こうなると残りは神琳と梨璃の二人だが、ここまで来るとこう言った引き付けやすい要素を持つ梨璃を優先するかしないかだけになる。
「確かに、今回の目的を考えると隼人君が当たるのは不適任ですね……」
「ここしばらくでビビり癖が着いたのはビックリじゃが……まあ、それはさておきとして引き付けるならそうなるかの」
──と言うか、わしのダメ出しは本当の最終手段じゃな?ミリアムの問いに隼人は頷く。何しろノインヴェルト戦術で決められない=倒せる可能性はダメ出しになるからだ。
そう言うこともあり、隼人は梨璃を抜擢したのだ。
「じゃあ……後は、梨璃次第?」
「そうだね。まあ、俺以外全員が反対だったらこれの実行は取り消しになるけど……」
自分でも結構無茶を言っているという自覚はあるので、拒否されても恨むことは無い。
その場合は他の人が温めていた提案の中から、最も有力そうな物を選択するだけである。
「大丈夫。私、やるよ」
「……梨璃、いいのね?」
まさかの本人が承諾の旨を告げてくれたので、隼人としてはありがたい結果となった。
夢結からの確認も頷いて肯定を返し、梨璃の意思が固まっていることを告げている。
「俺としてはありがたいが……本当にいいんだな?」
「元々決めてたんだ……隼人くんが困ってる事があるなら、絶対に手伝おうって。あの時、色んな意味で助けられてるから……」
早い話が恩返しである。実際、入学式当日に消耗した状態でヴァイパーと戦うことになりかけていたので、本当に助かっていたのだ。
こうなったら梨璃の意思が非常に固いのは分かっているので、この方針で進むことになる。
「(なら後は、心構えと接近戦技術か……)」
──今回ばっかりは頼むぜ……。梨璃に祈りつつ、隼人は自分にできることを全うすることを決めた。
* * *
* * *
「……?この反応……まさかね」
隼人らがヴァイパーを討つ為の会議をしているのと同刻。由美はノインヴェルト戦術を実行した直後と、それ以外の右腕のデータを見比べ僅かな違いを発見する。
そのデータを確認してみると、今は大丈夫でも、後々響きそうなものであることも判明した。
「(やはりね……始動役であれば負担が大きく無いから気づきにくかったけれど、今の内蔵ナノマシンでは九人分でやるのがギリギリね)」
──それを超えたら、
作った当時のナノマシンが既に数年前の旧式である為、ノインヴェルト戦術に対するマギ負荷耐性が追い付いていないのだ。ノインヴェルト戦術を何人で撃っても平気なように、新型のナノマシンを準備する必要がある。
「由美さん。新型ナノマシンの設計データ、出来ましたよ」
「ありがとう。早いわね」
玲から受け取ったそれを素早く確認する。全て問題なしで、これを二週間以内に完成を頼むことになる。
「苦労を掛けるわね……」
「大丈夫ですよ。私、この仕事も生活も……凄く満足してますから」
──多分、天職だと思うんです。技術屋として合間を縫って学んだ技術を使え、他のことも学ぶことができたのは、玲にとって非常に幸運だったのだ。
リリィとしての戦いが終わりを迎え、その後のやりたいことが全てできる場所が無くて困っていたところ、由美に誘われ、ついてきたことに玲は一度も後悔していない。
「なら良かったわ……それならお願いね」
「はい。仕上がったらまた来ますね」
玲はそれだけ告げると、作業部屋に戻る。隼人の右腕が関わっているので、作業は急務を要する。
そして、それと入れ替わる形でアリスがやってきた。
「お義母さま。もうすぐなのね」
「ええ。彼の悲願は達成されようとしているわ……」
三年間、自分の夢や将来のことすら考えず、ひたすらにヴァイパーを追った時間が無駄でないことを告げられる日々が近づいてきている。
ヴァイパーの底無しとも言える防御力を見ると不安になるかも知れないが、レストアすら一撃で葬れるノインヴェルト戦術を、あの小柄で逃げ腰のヴァイパーが耐えられることは無いだろう。
否、仮に耐えられるとしても、隼人の執念が食いついて何らかの返しをするだろう。
「ねえ、アリス。ヴァイパーを討った後……隼人君はどうしたいと思う?」
「私は隼人じゃないから分からないけど、そうね……」
──失った時間を取り戻したいんじゃないかしら?アリスの一言に、由美は納得する。
失った時間を取り戻すと言っても、何も過去に戻る訳じゃない。学生時代にしかできないことを、今のうちにやってしまうとか、そう言うことである。
そうでなかったとしたら、隼人は自分が何をしたいか探しに行くか、一度ここに戻ってきてゆっくり考えるかだろう。
「勿論、どうするかは隼人の自由……私たちがとやかく言うこともないわね」
「ええ。ヴァイパーを討った時点で、私たちと隼人君の協力する条件が消えるもの」
隼人はヴァイパーを討ちたい。自分たちはヴァイパーやヒュージから人を守る為、都心周辺へ送れる救援要員が欲しい。この二つで協力していたが、この内ヴァイパーを討つ為の協力要素が消滅するのだ。
こうなると隼人はこちらに対して要求するものが無くなり、対するこちらも協力への対価を払えないことになる。ここが一つの節目になるだろう。
「ただそれでも、立つ鳥の為にできることをするだけね」
やることは変わらず、由美は再び自分にできることを始める。
「(隼人、あなたが望む未来は何?)」
──焦らなくていいわ……ゆっくり考えなさい。今奔走する復讐者に、アリスは心の中で問いかけた。
* * *
「ヴァイパーと戦う時だけど、一番大事なのはビビらない……要は怖がらないことだ」
「怖がらないこと……?」
近接戦闘の訓練を一度休憩している際、隼人が梨璃に向けてアドバイスを一つ送る。
隼人が何故こう言ったかを考えると、ヴァイパーの特性に焦点が行った。
「大雑把に言えば、弱い者虐めだっけ?だから、梨璃が怖がってたら調子に乗る……」
「逆に言えば、梨璃がビビんなければアイツも慎重になるかもしれない……ってわけか」
鶴紗と梅の簡潔に纏める姿を見て、理解の早い人たちで助かると隼人は思った。
「なら、ここからの近接戦闘訓練は梨璃に圧を掛ける形で行きましょう」
夢結の提案に賛成し、早速誰が行くかになるが、圧掛けが無理そうな人は一度除外していくことにした。
今回は相手が梨璃なこともあり、楓は真っ先に除外されたのを記しておく。
「ああっ!?わたくしと梨璃さんの二人でいられる時間が……!」
「そうは言うが、お主梨璃にプレッシャー与えるの嫌がるじゃろ?」
「当たり前ですわっ!梨璃さんを怖がらせてどうしますのっ!?」
楓のブレなさを見たミリアムは「ダメじゃこりゃ」とお手上げのジェスチャーをした。まあ、それだけ梨璃を大切だと思うからなのだろうが。
結果、シルトの為にと心を鬼にした夢結が引き受けることにし、近接戦闘訓練が再開される。
「隼人君、ノインヴェルト戦術による交代のタイミングは二通りあります。一つは、ドームが完成し、ヴァイパーが逃げれなくなった時。もう一つは……」
「ノインヴェルト戦術が完成する直前……要するに、フィニッシュのタイミングか」
神琳が隼人に対して言いたいのは、どっちのタイミングで交代が望ましいかである。前者はヴァイパーの好き勝手にさせないが、隼人がフィニッシャー前提だと少々不安定か。
逆に、後者の場合はフィニッシャーとしては安定するが、ヴァイパーの妨害が安定する保証は無い。
「なら、フィニッシュの直前……俺がパスを受ける時に一瞬だけでいい。ヴァイパーの足止めを頼むよ。それさえあれば、俺は途中から交代して、そのままフィニッシュを叩き込む」
流石に複数人の射撃を一斉に多方向から浴びれば、ヴァイパーとて無視できない。そこで気を取られたら最後。隼人がノインヴェルト戦術を叩き込んで終了の流れである。
「でしたら、後は陣形の取り方を決めておきましょう。隼人君は梨璃さんと近い位置で大丈夫ですか?」
「ああ。万が一があったらすぐに駆けつける」
梨璃と隼人の位置取りはすぐに決定し、そこから練り込んで行くことになった。
「(待ってろよ、
──お前を絶対に殺してやるからな……!隼人の怒りと憎悪が生み出した殺意が通じるか否か。結末の時は近い。
* * *
そして、その訓練を活かす日が来るのは、思いの外早かった。
二泊三日の訓練を終えた翌週の週末──。ヴァイパー出現の方が鳴り、一柳隊のメンバーは対策の予定通りに行動する。
「あっ、見えました!2時の方向にヴァイパーですっ!」
「では、梨璃は先行してヴァイパーと交戦。他のメンバーは定位置に付き次第、ノインヴェルト戦術を開始。いいわね?」
全員が返事をすると同時、隼人を残して全員が素早く散開する。隼人もこのまま定位置に移動し、交代次第梨璃がそこに退避してノインヴェルト戦術に参加する手筈となっている。
「いた……!」
《──?》
隼人では無く、梨璃が来たことにヴァイパーは困惑したような声を出すが、深く考えるのはすぐに止めた。
以前チャンスだと思ったところを邪魔され、味見の出来なかった相手である為、それを確かめられるいい機会と判断し、試しに威嚇してみる。
「(そう。怖がっちゃダメ……気を強く、臆さずに……!)」
その威嚇行為を直視せず、深呼吸して自分を落ち着かせ、梨璃はCHARMを構え直した。
次回、ヴァイパーとの決着です。
最終決戦直前と言うことで、ちょこっとだけ解説入ります。
・如月隼人
確実にヴァイパーを討つことを考えて、自分が囮にならない道を提案。
討った後どうするかはまだ未定。取り敢えずヴァイパーを討つ。
・一柳梨璃
まさかの囮に抜擢された。
危険ではあるが、当の本人がやる気なので訓練で準備。
・白井夢結、楓・J・ヌーベル
梨璃の囮を提案されてビックリした。特に後者は抗議までしてる。
が、最後は梨璃が決めたので訓練等で支えることに。
今後アニメ版準拠の展開はどのようにしてほしい?
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今みたいな感じで大丈夫
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もうちょい細かめが嬉しい
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サクサク気味がいい