アサルトリリィ -RED THISTLE- 作:ブリガンディ
《──……》
「……」
ヴァイパーが威嚇行為、梨璃がCHARMを構えてから数秒。風が煽って肌寒さを感じさせるが、梨璃は決して恐れない。
教えられた通り、臆する姿勢を見せず、確実に対応するつもりだ。そして、ヴァイパーに付け入らせなければ、そこからいくらでもできる。
「(来た……!)」
梨璃が全く動かないことに痺れを切らしたヴァイパーが、その場から右側の刃を伸ばして攻撃を行う。
対する梨璃は、CHARMを横薙ぎに振るうことでそれを弾き、懐に飛び込んで突きを入れる。
「やっぱり硬い……」
それでも事前に彼奴の硬さは教えて貰っている為、特に焦りはしない。すぐに攻撃を捌けるように少しだけ距離を取る。
すると左右の刃が順番に襲って来たので、梨璃は先に来た左側側の刃をCHARMで弾き飛ばし、右側の刃は片足を軸に回転するようにして避け、もう一度伸ばして来た左側の刃を受け止める。
《──?》
「大丈夫。見えてる……動きも間に合う」
仕掛けて見たヴァイパーは、梨璃の様子を見て違和感を感じた。コイツ、妙に強くないか?と──。
ほんの少し──それも二ヶ月以上前ではあるが、それでもヴァイパーは確かに自分を見てCHARMを構えるも、足を震えさせていた梨璃のことを覚えており、今度味見をしてみようと思っていた。
だが、現実は今の有様であり、予想より奮闘し、尚且つ全く自分に動じない梨璃を見て困惑に至る。
原因は主に二つで、一つは隼人に邪魔されすぎてそこまで覚えられなかったこと。もう一つは至極簡単、この味見に至るまで時間が掛かり過ぎたのである。
特に二つ目は大きく、二ヶ月もあればリリィとして成長できる。初心者であれば尚更である。更には時折ヴァイパーに対する特化訓練も行ったのだから、当然ねじ伏せることは容易く無い。
「私……最初は怖かった。まだCHARMの使い方も分かって無かったし、逃げてもダメ。戦ってもきっと勝てなかったから……」
《──!?》
次に来る攻撃を再び捌き、CHARMによる一撃を加えながら梨璃はヴァイパーに告げる。その姿にヴァイパーは焦り、攻撃のペースを速める。
だがそれでも、梨璃は防ぐ攻撃を最低限に抑え、回避を優先することで対応してみせ、段々と彼奴に余裕が無くなっていく。
「でも、訓練して、実戦も重ねて……この日の為に準備だってして来たから……!だから……」
──あなたなんて、怖くないっ!梨璃の一言で、自分が甘かったことをヴァイパーは告げられることになった。
* * *
「ノインヴェルト戦術を開始するわ。隼人君、準備いいわね?」
「いつでもどうぞ。行けるタイミングで飛び出します」
梨璃が戦闘を始めた直後、隼人に確認を取った夢結は全員に呼びかけ、ノインヴェルト戦術の特殊弾を装填。味方のリリィがいる方へ飛ばした。
ここから先は如何にヴァイパーを惹きつけられるかどうかに掛かっているので、
「(始まった……!)」
その特殊弾から形成されるマギスフィアを見た梨璃は、思い切って接近し、ヴァイパーを釘付けにする行動に打って出る。
《──?》
何かがおかしい──。そう感じるも、理由が分からないヴァイパーは戦闘続行を選んだ。
梨璃のCHARMとヴァイパーの二つの刃がぶつかり合い、一回目のパスが通り過ぎていく。
「(大丈夫。みんなと一緒だから……!)」
《──……》
少しずつ苛つき始めたヴァイパーだが、梨璃はそれに付き合わないようにし、力勝負も付き合わずに自分から少しだけ離れる。
それをチャンスと見て飛ばして来た攻撃を再び弾き、今度はシューティングモードで何発か弾丸を当ててすぐにブレードフォームへ戻す。
この間にも、二回目、三回目とパスが進んでおり、ドームの完成が近づいてきている。
《──!》
「……!動きが……!?」
相手のペースに持ち込まれているようで鬱陶しく思ったヴァイパーが動きを変え、それに対応の遅れた梨璃が体制を崩す。
そこにすかさずどこかをお別れさせてやろう──と思ったが、そうは問屋が卸さなかった。
「(これを撃ったら、すぐにパスへ移ればいいだけ……)」
《──!?……!》
スタンバイしていた雨嘉が狙撃を敢行し、ヴァイパーに衝撃を与えて行動を中断させる。
邪魔されたヴァイパーが下手人を探そうと辺りを見回すが見つからず、何なら梨璃は体制を立て直しており、目論見が完全に潰れていた。
《──!》
「!次は……」
「いや、もう大丈夫だ」
攻撃に備えて身構えたとほぼ同時、一瞬でヴァイパーの真横に現れた隼人がCHARMを振るい、ヴァイパーを斬りつける。
《──!?──!》
「梨璃、夢結様が待ってるから、受け取って俺に回してくれ!」
「ありがとう!ちょっとだけ待っててっ!」
ヴァイパーが怒りの声を向けるがなんのその。梨璃が離脱を始めると同時、隼人はヴァイパーの眼前にシューティングモードにしたCHARMを突きつける。
この光景を嫌と言う程見ていたヴァイパーは恐怖を煽られ、動きが固まってしまう。
「ここからは俺に付き合ってもらうぞ!そして……!」
──今日でお前を地獄に叩き落してやる!殺意と怒りに満ちた声音をぶつけながら放たれた一射はヴァイパーの鼻先にぶつかり、最初に百合ヶ丘付近で戦った時のように呻きを上げる。
「逃げられると思うなよ……!」
《……──!》
また何回も撃たれたら堪らない──!そう考えて逃げようとしたが、既に隼人は逃走しようとしていた先に回り込んでおり、そのままブレードフォームで一度斬りつける。
これも縮地を活用したかく乱戦法であり、攻撃しては消え、攻撃しては消えを繰り返し、ヴァイパーがヤケクソに刃を振り回し捲る状態になるまで続けていく。
この時、消えてから現れる際に、毎回背後や逃げようとする方向に回り込むだけで無く、先読みを見据えて敢えて同じ場所に現れることで背後を取る等も行う。
《──!》
「(よし、これで少しの間止まってくれる)」
ならばと皆に合図を飛ばし、その直後に一斉射撃が開始される。
一度に複数の方角から弾丸が飛んでくるので、さすがのヴァイパーも防御姿勢を取らざるを得ず、そこで完全に足止めされてしまった。
その際に隼人が梨璃の飛ばしたパスを受け取っており、もう後はそれをぶつけるだけになっていた。
「攻撃中止!後は、彼にお任せしますわ!」
「あれだけ撃っても、全く傷なしですか……」
神琳も呟いたが、やはりヴァイパーの硬さは異常の一言だ。雨嘉の狙撃も衝撃を受けて反応しただけであり、ダメージ自体は殆どない。
これがヒュージの中では最小サイズだと言うのだから、如何に能力が偏っているかが伺える。
「全部はあの一撃が通るかどうか……」
「上手くやれよ……隼人」
これでダメなら現状ヴァイパーを仕留められる手段は無いに等しい為、半分お祈りが入っている。
だが、決まってしまえば全て終わりであり、一度事態は収束することになる。
「(香織、みんな……今度こそ終わらせるからな……!)」
隼人がCHARMを構え直したと同時、ヴァイパーは何が何でも逃げ出そうと背を向けたが、おかしい点に一つ気付く。
《──!?》
「そのドームがある限り、お前も俺も逃げられない……」
──決着をつけるぞ、今日!ここで!CHARMを横水平に構えて宣言した直後、縮地で一瞬にして姿を消す。
最早逃げる思考すら奪われてしまったヴァイパーは、その場で滅茶苦茶に刃を振り回し始めた。まるで、自らが死ぬのに酷く怯えたように。
今更何を怯えているんだと、今までお前がやった──やろうとしていたことだろうがと隼人は思うが、無駄に長引かせるつもりは無い。一思いに切り捨てるだけだ。
しかし、振り回しても隼人は現れることなく、無駄に徒労してしまったヴァイパーは一度行動を止め、落ち着いて時を待とうとしたが、それが生死を分けることになる。
《──……!》
「もらった!」
迎撃体制が碌に整えられていないヴァイパーの胸元を、隼人のCHARMから放たれた銃の一撃が突き刺さる。
いくら防御力の高いヴァイパーの甲殻でも計十人分のマギを込められた一撃は耐えられないらしく、少しずつヴァイパーの体に深く入り込んでいく。
《──!──!》
「そのまま沈め!」
ヴァイパーは死の恐怖に負けてしまい、もう抵抗する余力すら無い。自らの声で、伝わらぬ命乞いで必至なだけだった。
そんなものは当然隼人に通じるわけも無く、彼が左手でサムズダウンを見せると同時、完成されたマギスフィアが胸元を抉り抜き、そこから上と下をお別れさせる。
直撃を確認した隼人が即時離脱すると同時、マギスフィアが爆発を起こし、それによってできた爆風が晴れると、そこには胸元から上だけとなったヴァイパーの甲殻が残っていた。
「息はもうないか……けど、念の為だ」
万一に備えて隼人は動かぬヴァイパーの体にバスターキャノンを叩き込み、その体を粉砕する。最早抜け殻に等しいヴァイパーの体に、当時のような防御力は残っていなかったようだ。
ようやくやるべきことが終わった──と、思ったところで、隼人の右腕から突然力が抜け落ち、CHARMを手から落としてしまう。
「腕が……!?けど、ここまで持ったならいいか……」
なんとなくではあるが、右腕のナノマシンがイカれたのだと察しはつけられるので、それ以上は考えない。寧ろ、今度はしっかり残ってくれて安心した。
「こちら隼人。ヴァイパーの撃破を確認──作戦は成功と判断します」
そう告げて他の皆の安心する声や、自分を労う声が入るが、隼人は後から何を言われたかと言われれば全く思い出せない自身がある。
と言うのも、別の理由に意識を持っていかれてしまっていたのだ。
「これで、やっと終わりだ……無意味に殺される人も、夢を奪われる人も、俺のように命を弄ばれる人も……もう、増えない……」
三年以上に渡る戦いはようやく終わったのだ。それが分かった隼人は目尻から涙が浮かんでおり、声も震えていた。
「このクソ蛇を討ったところで、あいつも……俺の腕も返ってくるわけじゃない……!そんなこと分かってるんだ……!」
別に期待していた訳じゃない。そんな方法を探していた訳でも無い。何ならこんな事して香織が喜ぶかと言えば寧ろ逆で、自分から危険に飛び込むことを悲しむだろう。
ただそれでも、隼人は自分たちのような人が増えるのは放置出来なかったし、彼女のように夢を抱いたばかりの人が命を落とすことを許せなかったのだ。
確かに、自分が戦うことで被害は減らせたが、それでも、ゼロにはならなかった。
「けど、これでもう……!俺も、みんなも……奴を気にして、怯えることもない……!」
この辺りで一柳隊のメンバーが近くに来ており、そこで感情が爆発して身の内を吐露する隼人の姿が見えた。
「やっと……やっと終わったんだ……!」
この日、
* * *
* * *
「隼人……」
「……香織?」
どこかの公園のベンチで座っていた隼人の前に、最後見た姿──正確に言えば惨劇に巻き込まれる直前の姿の香織がやって来た。
過去に戻ったのかと思えばどうやらそうでもないらしく、隼人は現在の復讐の赤衣を着た姿である。
「(なら夢か……)」
そう納得したところで、香織が反応してもらえて喜んだのも束の間、すぐにぷりぷりと怒った様子を見せた。
「香織、どうした?何で怒ってるんだ?」
「どうしたも何でもないよ!隼人、自分で分かってたじゃん!私が悲しむって……!止まらなかったら意味ないじゃん!」
「えっ?あっ……その、ごめん」
そりゃそうだと、隼人は言われて納得した。やはりと言うか、自分はこう言った他人の感情に配慮した行動が苦手なのは変わってないらしい。
実際、知人たちの感情に配慮するなら、会いにいくために行動しても良かったはずで、それをせずヴァイパーを討つことに走っていたのだから、言い訳も何もない。
何なら小学生時代も時折、納得の行かない考えを持った相手に強めの言葉で自分の意志を伝え、それが原因で喧嘩になることも度々あった。
早い話、自らの中にある思考を優先して、他者の感情に気を使えないこの悪癖は、小学生時代から全く治っていないのだ。
「でも、ありがとう」
──これで、私たちみたいな人、少しは減るんだよね?香織の問いに、隼人は頷いた。少なくとも、ヴァイパーからはもう出ないからだ。
それで一安心した香織は、ヴァイパーに関する話はもうやめにした。隼人が助けられなかったことを悔いていることを告げると、他の人が助かるならいいと赦した。
「あっ、そう言えば……今って誰かと一緒にいるの?一人ぼっちじゃないよね?」
「流石にそこは大丈夫だよ。第二の家族みたいな人たちがいるし、今なら偶然の重なりでできた仲間もいる」
──多分、俺も香織と立場が逆ならできるんだろうけどな……。自らが他人に安心させる言い方ができてる風に感じられず、こんなことを考えた。
「ちょっとだけ考えちゃうんだ……。俺が今、この力を持ったあの時に戻れるなら香織を助けられたのかなって」
「私を助けてくれるのは嬉しいけど、それで隼人が助からなくなっちゃうなら、私は嫌かな……」
「俺もちゃんと助かる上でなら……って、訳でもないか」
そもそもそう言う無茶をやめろと言うのだから、行けたとしても行ってはダメだろう。隼人はその考えは捨て置くことにした。
せっかくヴァイパーを討ち、より未来を見ることができるようになったのだから、過去は振り返る程度でいい。
「あの子には会った?」
「いや。それっぽい子は前に見たんだけどな……」
「ちゃんと会ってあげるんだよ?ずっと寂しがってたから……本当、無事で良かったよ」
自分が憂いてる要素は無くなったのだから、次以降の外出は暫くその子を探す目的を追加していいだろう。そう考えて隼人は頷いた。
「さてと……お父さんとお母さん待ってるから、私そろそろ行くね」
「そっか。なら、
人はいつか死が訪れる──。が、簡単に死ぬつもりは無い。隼人はそれを遠まわしに告げるが、香織は分かってくれたようで、笑みを浮かべる。
「それはそうだよ。立派なお爺ちゃんになるまで、こっちに来ちゃダメだからね?」
理由は当然これで、早い話が天寿を全うしたら初めてこっちに来いである。
それに強く頷き、満足した香織が手を振ってから立ち去るのを、隼人は見えなくなるまで見送った。
* * *
「……?」
形態端末の着信音に促され、隼人はゆっくりと目を覚ます。今日はヴァイパー討ってから翌日の朝である。
誰から電話が来ているかと思えばミリアムからだった。
「もしもし?」
『朝からすまんの。百由様が昨日から進めてたバイタルチェック、今日の朝からできるようじゃ』
「早いな……分かった。身支度したら行くよ」
──色々気を遣わせてるな。と、思いながら感謝の旨を告げ、電話を切る。
昨日はヴァイパーを討った記念として、一柳隊のメンバーで祝勝会をしようと話が上がっていたのだが、せめて右腕が治るまで待とうとなった。
それがたまたま居合わせた百由の耳に届き、超特急で準備を進めてくれたのである。
「(あれ……?外の景色って、こんなに明るかったっけ?)」
カーテンを開けて差し込んだ光に目をしかめながら、見てみた外の景色に違和感を感じた。
確かに、日差しも雲に隠れてはいないのだが、それでも今までと比べて明らかに明るく感じる。
「(そうか……
後ろを見続けなくていい──。それがこれだけ楽になるものだとは思わなかった。納得できたところで、自然に笑みがこぼれていた。
前を見て進めるのだから、前もって決めていたことは今日からやることにする。
「(こいつはもう着ない。だから、今度新しく買いに行くか)」
Q.何でこんなに早く決着になった?
A.ヴァイパーが想像以上にラスボス向きの設定してなかったのと、隼人が復讐を終えた後を書くべきと思った。
決着着いたので解説入ります。
・如月隼人
遂に本懐を遂げた復讐者。代償は右腕(のナノマシン)がイカれる。
流石に今までが今までだったので、情が溢れた。
赤のジャケットは後ほど処分予定で、もう今後着ることは無い。
今後見える世界は体感ではあるものの、ゲームの設定で言うところの輝度が2~3上がった世界になる。
・一柳梨璃
途中危なげながらも囮を頑張った本編主人公。
自己暗示で半ば無理矢理乗り越えることに成功している。
・王雨嘉
救助の為に撃った狙撃は本話・本戦闘におけるファインプレー。
勝利をほぼ確定させたも同然な一撃と化しており、その後ヴァイパーがなす術も無く死んでいる。
・ヴァイパー
後に周囲と都心近くに伝わり、時間と共に忘れ去られていく。
敗因は雨嘉の狙撃に気を取られたこと。だが、今回の戦闘は雨嘉に気づけなかった時点でもう負けが決まっていたようなものでもある。
要するに、梨璃一人しか見ていない時点でコイツは詰んでいた。
・真島百由
隼人の右腕の事情を知り、超特急で準備をしてくれた人。
どれくらい急いだかと言えば、徹夜で仕上げたレベル。
・彩月香織
隼人の予想通り、復讐者と化していた彼にお怒りだった模様。
ただ、彼がどんな形であれ、無事だったことには安堵しており、爺になってから来てくれたら本当に憂いが消える。
今後アニメ版準拠の展開はどのようにしてほしい?
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今みたいな感じで大丈夫
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もうちょい細かめが嬉しい
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サクサク気味がいい