アサルトリリィ -RED THISTLE-   作:ブリガンディ

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本文前に前回の解説等の入れ忘れ部分を追加

・アリス・クラウディウス
隼人と同じくCHARMを取り扱える者。三年前に瀕死の隼人を発見したのは彼女。
普段飯を作るのは彼女であることが多いが、玲と由美に味の違いを理解してもらえないのが悩みどころ。


・加賀美玲
CHARMの整備を請け負ってくれてる女性。
技術自体は正規の手順で学んでいる為、そこで人を不安にさせるようなことは無い。


・明石由美
ヴァイパーの追跡、隼人の右腕の治療を一身で引き受ける人。
軽くチートに片足突っ込んでるようなスペックしてるが、上手いこと立ち回って資格を滅茶苦茶取得すれば不可能ではないと思ってる。


長くなりましたが、本文どうぞ


第2話 調査

「そう言えば……CHARMって、男の人でも扱えるの?」

 

「ええ。スキラー数値さえ足りていれば、男の人でもCHARMを扱えるわ」

 

入学式を終えた夜──。梨璃はルームメイトである腰辺りまで伸ばした青い髪と、紫色の瞳を持つ、しっかり者そうな少女にCHARMに関することで質問してみた。

彼女の名は伊東(いとう)(しず)。彼女は自分たちの所属するガーデン、百合ヶ丘女学院から『素人である梨璃に色々教えて上げて欲しい』と頼まれ、彼女のルームメイトになっている。

ちなみに彼女は内部入学生と言う、梨璃とは違って元々付属の初等部からずっとここにいたリリィでもある。彼女とは逆に、梨璃のように今日からこの百合ヶ丘で過ごすことになるリリィは外部入学生である。

 

さて、CHARMに関してだがこれはスキラー数値と呼ばれるマギを扱う能力の資質を、1~100までの数値で表したものであり、どれだけマギを一度に出力できるかの示しにもなる。

これが50以上ならばCHARMが起動でき、ものによっては更に数値が必要なものもあるが、それを扱える人と認定され、ガーデンに受験する資格やリリィとして戦う資格を得られるのだ。

何故梨璃が男女指定があるのかを問うたかと言えば、今日出会った少年を省き、現存するリリィは皆少女だからであり、男性がいない理由はCHARMを扱えないからだと考えていたからだ。

ただそんなことは無く、男性でもスキラー数値が50以上ならばCHARMの使用は可能である。

 

「けど、どうして急にそんなことを?」

 

「実は今日、男の人がCHARMを使ってたの……確か、『蛇を追う者(アヴェンジャー)』って呼ばれてた……」

 

「……蛇を追う者が近くに来ていたの!?」

 

梨璃がこれを聞いた理由に閑は驚きを隠せなかった。脱走ヒュージ一体を討伐するだけのはずが、急に規模が大きくなっていたのもあるし、もう一つ理由があった。

 

「と言うことは、ヴァイパーも……?」

 

「うん。あの蛇みたいなヒュージだよね?」

 

まさか当たっているとは思わず、閑は思わず手で頭を抑える。ルームメイトになった少女は、初日から命の綱渡りをし過ぎていたのだ。

──本当にこの子、どうして無事でいられたのかしら?少なくとも初陣で経験するような内容じゃないそれに、閑は梨璃の先が思いやられるように感じる。

少なくともヴァイパーの特性上、今日の梨璃の様な相手は格好の餌でもあった為、蛇を追う者と呼ばれる少年が間に合わなければ、何らかの悲劇が起きていただろう。

 

「……何かあったの?」

 

「実は、あなたが今日目撃したヴァイパーのことなんだけど……」

 

今まで公開されている、ヴァイパーの活動範囲の記憶を叩きお越して、閑は一つ不可解な点に気づいている。

それは、ヴァイパー出現から三年前経った今、初めて起きた出来事である。

 

「この近くに出てきたの、今日が初めてなのよ」

 

「……えっ?」

 

ヴァイパーはこれまで都心近くにしか出現情報が無く、急にそこから外れた場所に現れたのだ。

今日まで全くその傾向を見せなかったのだから、ヴァイパーに何かがあったとしか考えられない。

 

「あの人が追い払うから、行きづらくなった……?」

 

「それもあり得そうね。確か彼、ヴァイパーを追いかけ回していたから……」

 

実際蛇を追う者が現れてからと言うもの、ヴァイパーの被害は大幅に数を減らしている。

これは少年がヴァイパー出現の現地に赴き、実際に戦闘で有利に立って撤退させる。これをずっと繰り返しているので、ヴァイパー側は嫌がってこちらへ来たのは確かに考えられる話だ。

だが、今の段階では推測の域を出ない為、これ以上は話しても真相には辿り着けないのは明らかだった。

 

「ただ、一つ言えることがあるとすれば……」

 

──今後、何かあるかも知れないわ。備えておくに越したことはないと言うのが、今出せる結論であった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

{ 第  話 }

 

調 査

Investigation

 

 

本懐遂げる為の準備

──×──

If you are prepared, you will not suffer

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「やはりそうね……ヴァイパーがここへ出現したのは、昨日が初めてよ。しかも今までの前例を覆す大移動ね」

 

翌日──。先日のヴァイパーの出現個所を改めて確認した由美は断言した。

今までの出現範囲から外れている為、これから出現位置等の調査を行う。

 

「やっぱりか……そうなると、この辺りの地形も覚えた方がいいのかな?」

 

「いずれ戦わねばならない可能性もあるから、そうして欲しいわ。玲、もう一本はいつでもいいのよね?」

 

「ええ。今日調べに出るなら、そっちを出しておきますね」

 

整備内容が少ないとは言え、何度も連続して使うのは避けたい。故に今回は、既に整備が終わっているもう一本の使用を決断する。

 

「そう言えば食材が底を付きかけていたわ……隼人、調査のついででいいから、買い出し頼めるかしら?」

 

「了解。必要な物があるならメモしといてくれるか?」

 

隼人が非番になる日であればアリスが行くのだが、今日は隼人が入り用である為、ついでに頼んでしまう。

細かい話が済んだ後、玲から昨日使わなかった方のCHARMと、秘匿性の高いイヤホンを受け取る。

このイヤホンは隼人が外に出てる際に、由美や玲たちと連絡を取るためのものであり、行動の邪魔にならないことと、連絡していることを悟られづらくなるのが長所である。

 

「何かあったら私が出るわ。だから、その分調査は抜かりなく頼むわ」

 

隼人が戦うようになるまではアリスが今の彼のようなことをやっており、隼人が戦えるようになってからは隼人が対応しきれない場合の緊急出撃担当にシフトしている。

とは言え、最初の数回の出撃はアリスが面倒を見ながらであり、慣れてきた段階で本格的に隼人の単独出撃が始まった。

 

「では、隼人君は準備が出来次第出発。なるべく短時間で調査を終わらせましょう」

 

由美の号令から二十分して、全ての準備を完了させた隼人は百合ヶ丘女学院近辺に赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、都心近く程事前の予防態勢は整って無いみたいですね……」

 

『その辺りはしょうがないね……それに、百合ヶ丘は()()()()()たちとは対立気味だし』

 

百合ヶ丘を目指して足を進める最中、隼人は放置されているせいで老朽化が目立ち、苔がこびりついてしまっている建物郡を見つける。

隼人が軽く老朽具合を話すと、玲は恐らく、自身がリリィとして戦っていた当時よりも深刻なのではないかと推測した。

なお、隼人が言った「事前の予防態勢」とは、電波(ジャミング)を用いて一帯(エリア)からヒュージの出現を防ぐエリアディフェンスのことで、この辺りはそれの設置ができていないようだ。

エリアディフェンスはヒュージが出現、退避の時に移動手段として使用するワームホールである『ケイブ』の発生を防ぐ為のものであり、この手の研究機関と折り合いが悪いガーデンはこれらの用意が遅れ気味である。

とは言え、その研究機関が余りにも非道過ぎる面もある為、一概に百合ヶ丘等、反対派のガーデンが出てくるのも仕方ないのだ。

なお、ケイブの出現を防ぐことはできるが、別のところからやって来たヒュージそのものには効果が無い。

 

「昨日ヴァイパーと戦った場所だ……」

 

『どうやらここ、ヒュージ迎撃の為に見通しや道の通りを悪くしているみたいだね……隼人君が面倒に思ってたのも、間違いなくこれが原因だよ』

 

ヒュージが周りの人間に意識を向けないようにと作ったのだから、通りの悪さ等は仕方ないところがあるだろう。

今現在、百合ヶ丘がヒュージの移動を制限し、被害を抑える為に舗装された道を進んでいる。昨日は由美によるガイドがあったから良かったものの、無ければ最悪昨日いたリリィに被害が及んでいただろう。

──大事にならなくて安心したよ……。安堵しながら周囲を見渡しつつ歩いていると、壁の一つに斬り跡が見つかった。

 

「……!斬られた跡だ!」

 

『隼人君、その壁の斬られ方、確認できる?』

 

ヴァイパーの追跡を行う由美に代わり通信をしている玲の問いに頷き、それを調べる。

そこの壁で発見したものであり、その斬り跡には、見覚えがあった。

 

「この斬り方、ヴァイパーがマーキングする時にやる斬り方だ……」

 

『なら、少なくともここからは現れる可能性があるんだね……』

 

ヴァイパーは自分が始めて出現した場所の近くに、まるで野生動物が「ここは自分の領土(テリトリー)だ」と証明するかのように軽く斬りつける癖がある。

また、こうして場所を変えて現れる場合は、何らかの理由で元居た場所での活動に飽きたので、場所を変えるのだ。

実際、昨日より一個前の戦闘ではヴァイパーが飽きた時に発する声を上げた後ケイブに帰って行ったので、こうなれば理由は絞り切れた。

強いて言えば、これほど大規模の移動が初めてだったくらいだろう。

 

「今後はここに来ますね……」

 

『なら、地形把握は抜かりなくやっておこう』

 

ともあれ、ヴァイパーが現れそうな位置を一つ特定できたのは大きい。

ならば、このまま地形を把握しつつ、ヴァイパーが現れそうな位置を割り出していくことになる。

舗装された道が歩きづらいと思いながら周囲を確認すると、所々に小さなクレーターのできている場所が見つかった。

 

『明らかにヒュージとリリィが戦闘した形跡だね。でも、ヴァイパーじゃない……』

 

「昨日会った子の言葉を信じるなら、研究対象の脱走ヒュージとでしょうね。聞いた感じ妙に強かったみたいですし……」

 

煙幕等を使って敵の同士討ちを誘うヒュージと言うのは、聞いたことが無く、今回が初めての事例だった。

迷彩能力持ちであったりすることも考えると、元から正面戦闘で勝つのは最終手段にし、搦め手に特化したヒュージなのだろう。

 

「戦う時のウザったさで言えばヴァイパー以上……でも、総合的に見ると主観も入ってやっぱりな……」

 

『でも、隼人君はよく抑えてるよ。そうじゃなきゃ、最初にアリスちゃんの訓練をすっ飛ばしてヴァイパーを探しに行っただろうし……』

 

ヴァイパーに怒りや憎しみが今もあるのはそうだが、三年前はよくもまあヴァイパーへの情を抑えて訓練を真面目に受けたものだと思う。

恐らくは怒りに燃えてても、そのままでは勝てないのが自分には分かっていたのだと考えれば納得できるが、それでもビックリするくらい冷静ではあった。

それでも最初の頃はヴァイパーへの憎悪に駆られ、第一回の対ヴァイパー模擬訓練の時は殺意を剝き出しにしてしまっていたが──。

 

『そろそろ百合ヶ丘だね……裏側は確認しておく?』

 

「行けそうだったら確認ですかね……」

 

ガーデンの中を堂々と突っ切るしかないのなら、その時は諦めるつもりでいる。流石にガーデンへ喧嘩を売るかの様な行為は避けたいところである。

そんな決断をして校門前に来たのはいいが、案の定、裏側を確認するなら突っ切るしかない様な景色が見えてしまい、当初の予定通り諦めて戻ることにした。

 

「(リリィたちの前線基地でもあり、憩いの場でもあるガーデンか……)」

 

ガーデンはリリィたちが戦いを終えた後、心に安らぎを与えたり、リリィたちの日常を少しでも豊かにできるような配慮がされているらしい。

らしい──と言うのは、隼人が実際に見たことがなく、話でしか知らないところが大きい。

リリィにとってガーデンは非常にいい場所だと聞いた話では判断できるが、隼人は少し気になることがあった。

 

「そう言えば玲さん、百合ヶ丘とかみたいなガーデンって、確か元はお嬢様学校なんでしたっけ?」

 

『うん。そうだよ。あっ、そういうことなら今日から練習する?私手伝えるよ?』

 

玲の進言に、隼人は素直に「お願いします」と返した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(まだ油断はできない……次)」

 

隼人が百合ヶ丘周辺の調査に来ていたのと同刻。夢結は射撃訓練場にて射撃訓練を行っていた。

普段なら動かない的くらい余裕で全部ど真ん中に当てて、途中からその的を弾丸が突き抜けて行く光景が見えている。

だが、その内心は微妙に焦っていることが夢結には自覚できており、落ち着かせながら狙いを付ける。

何故焦りがあるのか、その理由は明白だった。

 

「(昨日のヴァイパーが出現した時、私は不覚にも意識を失っていた……)」

 

昨日の状況では自分の身を守るはおろか、昨日までCHARMの登録を済ませていなかった梨璃を逃がすことすらままならない。

それは大切なものを()()失うも同義であり、夢結としては到底耐えられるものでは無かった。

何故ヴァイパーが今になってこの近くに来たかは分からないが、どちらにしろ討つべきヒュージの一体であることに変わりはない。

そう結論づけてまた一回引き金を引く。再びど真ん中を通り抜け、奥にある鉄製の壁に弾が激突する。

ちなみに、気を失った理由は想定外のアクシデントの連発と、また自分のせいで誰かが犠牲になるかもしれないと言う強いプレッシャーの相乗効果であり、どちらかが欠けていれば、夢結一人でヴァイパーの撃退に追い込むことは間違いなく可能だった。

 

「(蛇を追う者は味方として認識していい。けれど……)」

 

だからといって頼り切りになるつもりはない。自分は……否、自分たちはヒュージから人を守るリリィなのだから。

とは言え、共闘するならばせめてお互いがしっかり生き残れる保証は必要だろう。連絡が無かったとは言え、昨日の自分のように、倒れたままヴァイパーに討たれかねない状況は不味い。

ヒュージは自分のことなど待ってくれないのだから、誰かがいなければそのまま討たれる。故にその状況を作らないようにする。それらを意識することが、お互いに悲しみを増やさない心構えになるのだから──。

意識を固めてもう一発──。再びど真ん中を弾が通り抜けていく。

 

「(彼もまた、何かを失った者……それは間違いないでしょうね)」

 

自分が目を覚ますよりも前に去って行ったので分からないが、今まで知られている経歴や通り名を考えるとそうだろう。

それがヴァイパーの被害を抑え、力なき人々を守り、昨日に至っては自分と梨璃を窮地から脱させた。

向こう側から協力を要請するなら手伝える限り手伝うつもりではいるが、正直なところ夢結は自分の協力など必要ないように感じている。

 

「(私の力は誰かを傷つけるだけ。彼の目的には間違いなく合わないわ)」

 

とは言え、これは将来思い返せば自分でも驚くほどの自己不信から来るもので、それが夢結にそう感じさせているだけである──が、それを引きずっているからこそである。

自己嫌悪を振り払うべく引き金を引いて、弾丸は──出なかった。

 

「(弾切れ……らしくないわね。碌に弾を数えないだなんて)」

 

射撃訓練中だと言うのに弾の数え忘れをするくらい意識が逸れていたのに気づき、頭を冷やすべく訓練は終了することにした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(久しぶりに落ち着いて来れたな……)」

 

時間は進み、都心近くまで戻って来た隼人は自らが住んでいた場所にできている慰霊碑にやってきていた。

この町は三年前にあったヒュージの襲撃で多くの犠牲者が出てしまった場所で、隼人も巻き込まれた一人である。

当時ヴァイパーによって右腕を斬られると言う重傷を負った隼人は、どういうわけかそこに居合わせたアリスに発見され、由美の手によって一命を取り留めた。

何故病室では無く、今住んでいるあの施設で治療されたのかは当時こそ疑問だったが、理由自体は納得したし、そのおかげで自分は生きている。何なら向こうもこっちを実験道具(モルモット)として扱わず疑似的な家族として接してくれるので文句は無い。

 

「花束、これで足りてるかな?」

 

慰霊碑に名を刻まれたとある人に向けて返って来ない問いかけをしながら、花束を置く。

花束を置いた後は最近何をしたか、今一緒に過ごす人たちとどうしているか、等を簡単に話して行く。

 

「お前はきっと、敵討ちとか頼まないと思う。だけど、あいつのせいで傷つく人たちは放っておけないんだ……」

 

隼人が語りかける相手は自分の大切な人が無茶して傷つくことを嫌う。故に今自分がしていることは、その人が望まないことであることも理解(わか)っている。

だがそれでも、ヴァイパーによる被害を止める手段があって、放置するのは違うと考えている。隼人は自分と同じように、ヴァイパー──引いてはヒュージによって誰かと別れさせられるのを無視できない。

 

「さて、みんなが待ってるからそろそろ行くよ」

 

「じゃあな」と声を掛け、隼人は慰霊碑を後にした。

隼人が来ていた慰霊碑に刻まれた何人もの内の一人に、『彩月(あやつき)香織(かおり)』という名があった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

彩月香織は、幼少期から三年前まで共に隼人と過ごしていた幼馴染で同い年の少女だった。

この二人ともう一人の少女の三人は仲がよく、共に行動することも多々あった──のだが、その平穏を崩される事件が起きた。

それが三年前、彼らが共に過ごしていた町がヒュージの攻撃によって大打撃を受けてしまう『日の出町の惨劇』と呼ばれるものである。

指揮官の采配ミス、敵戦力の過小評価、人材の運用方法などが原因として挙げられるが、隼人に取ってはそれ以上に因縁のできる相手がいた。

 

「隼人、道が……!」

 

「とにかくそれぞれ走ろう!逃げ切ればまた会えるよ!」

 

もう一人の幼馴染みの少女は建物が崩れた都合上別れて逃げねばならなくなり、隼人と香織の二人で逃げる時に起きた出来事である。

何かが爆発していった影響で、火によって燃えている建物に挟まれながら走っていき、避難所までもう半分を超えると行った時だった。

 

「よし、もう半分だ……」

 

「良かったもう少しで……っ……!」

 

安堵した香織が突然驚いたかのように表情を変え、直後に力なく倒れていく。

地面に倒れるよりも前に彼女の体を抱えるが、何者かに背中を斬られたらしく、そこから血が流れて来た。

 

「香織……?お、おい、香織!」

 

体を上向きにしてやり、声を掛ける。どうにか手当てのできる場所に連れていってやりたいのだが、避難所はまだ遠く、こんな状況では病院も期待できない。

更には自分も応急手当する為の道具など当然持ち合わせておらず、とにかく避難所へいくしかないのだが、傷が非常に深く、抱えて走って行ったところで間に合わないと言う八方塞がりであった。

 

「は、隼……人……」

 

「香織、大丈夫だ。今からならまだ……!」

 

「ううん……。私は……もう、ダメ……」

 

噓でも安心させてやりたかった隼人だが、香織が自分のことを何よりも理解していたらしく、それは空振りに終わる。

自分の親しい人が、自分の腕の中で、どんどん弱っていく──。その恐ろしい事実を前に逃げ出したくなるが、当時の隼人にそんな手段は何も持ち合わせていなかった。

当時弱冠12歳の隼人ができることなど、たかが知れていたのだ。

 

「だから……っ……隼人だけ、でも……に、げ、て……っ……」

 

「香織?おい、香織!?返事をしろ!」

 

彼女の体温が失われて行くのを感じながら必死に体をゆするが、全く反応を見せない。

 

「お、おい……!噓だろ……!?」

 

香織が目を覚まさないことに信じられない様子を隠せずにいると、右側から聞きなれない声が耳に届く。

彼女の亡骸を抱えたままそちらに顔を向け、その後右腕を斬られることで、隼人がヴァイパーに因縁を持つ始まりとなったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(もうあんなことが目の前で起きるの、嫌だからな……)」

 

中に入る為の暗証番号を打ちながら、隼人は自分の胸の内を心の中で呟く。

 

「アリス、食材これで足りる?」

 

「ええ。これなら余らせることもないから丁度いいわ」

 

戻った後、アリスに食材の入ったレジ袋を渡し、問題ないことを確認してもらう。

その後アリスは時間も時間なので、早速調理を始めることにした。

 

「特にヒュージは出てないですよね?」

 

「出ていないわ。今日は静かにしているみたい」

 

──明日も出てこないなら、俺が飯を作るかな。今日の流れから隼人はそれを察した。

また、今日はCHARMを使っていないので、玲と話した結果、明日以降もヴァイパーや大型のヒュージが出現しなければこちらを使うことになる。

この時、忘れずにヴァイパーの出現位置に目途が着いたので、それも伝えておく。

 

「了解よ。なら、今日からはそっちを中心に調べた方がいいわね」

 

礼を言った後すぐに由美が作業に入ったので、今度こそ隼人は手が空いた状態になる。

食事を待つ暫くの間は暇になるので、隼人は筋力トレーニングをすることにした。

 

「(ヴァイパー……お前の好きにはさせないからな)」

 

ヴァイパーからの被害を少しでも減らす為、隼人は今日もできることをやっていく。




ASMR結構好きだから、後で雨嘉のやつ聞いておかないと……

前回と同じく、原作からの変更点や、ちょっとした小ネタ等の解説を入れていきます。

・隼人には二人の幼馴染みが存在。内、一人が目の前でヴァイパーに殺された香織。もう一人は一体誰だ……?
・アリスも一応、リリィ。一応の理由は無所属故。
・閑もヴァイパーと隼人のことは知っている。まさかルームメイトの梨璃が、自分と顔合わせする前に死ぬかもしれない状況に連続で陥っていることまでは、流石に予想出来なかった。
・ちなみにこの後、梨璃がCHARMを抱えたまま寝て朝を迎える。夢結とシュッツエンゲルの契りを交わしに行くところまで、百合ヶ丘で起きている出来事は基本的に同じ。強いて言えば、ヴァイパー出現に対し、百由が調査を始めてるところが違う。

前書きと後書きで解説の方式変えてみましたが、統一した方が良いなら次回以降統一します。
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