アサルトリリィ -RED THISTLE-   作:ブリガンディ

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果たして結果や如何に?


第25話 ■■

「そう言えばさ……」

 

「……?」

 

時は遡り凡そ三年前──。隼人が由美たちの指導の下、リリィとして──正確にはCHARMユーザーとしての訓練を受けている時期に当たる。

状態としては、復讐心に呑まれないように矯正が終わって間もない頃──。復讐心の経過観察をしながら戦闘技術を高めている、入り口に入ったばかりの頃だった。

一度休憩時間を貰ったので、そこで隼人がアリスにとあることを問いかけた。それは、最初からずっと聞き忘れていたことである。

 

「どうしてあの時、俺を助けてくれたの?」

 

香織がもう無理なのは分かっているから、助けるなら自分を助けることになるのだろうが、正直自分でも既にギリギリな状態だったことは今でも鮮明に覚えている。

ヴァイパーへの憎しみと、己の無力を呪っていた隼人からすれば死ぬつもりは無かったが、ただ死ぬのを待つだけな地獄の状況──それをアリスが見つけてくれ、由美が寸でのところで繋ぎ止めてくれた。

この為、正確には二人で助けたになるのだが、そもそもアリスが見つけてくれなければ死んでいたので、隼人からすればアリスの方が恩人と言う認識度合いでは強い。勿論、由美も恩人の認識である。

 

「私ね。諦めたくなかったのよ」

 

「……諦めたく、無かった?」

 

「もう五年くらい前になるわ……私も一度、ヒュージの襲撃で家族を失って、このままだと一人で野垂れ死ぬかも知れない……て、なった時があるの」

 

──その時、私はお義母さまに救われたわ。自分の両親との約束であったことは教えられているが、それでも助けに来てくれたのは彼女で、彼女が無理だと諦めなかったから、自分も生きている。

この恩義もあり、アリスはいつか自分のような状況に陥った人がいるなら、何としても見つけ出し、義母と協力してでも助け出そうと考えていた。

そして、偶然にも隼人が自分と似たような状況に陥り、それを見つけたアリスは諦めずに由美へと連絡を繋ぎ、今日に至るのである。

 

「そっか……それで俺を」

 

「ええ。だからもし、あなたが助けてくれたことをありがたいと思っているなら、私みたいにやってみるのもいいと思うわ」

 

──当然、力をつけてからにはなるけれど、最後は自分の意志で決めるのを忘れないで。隼人は頷いた。

当然ながら、この三年後に自分の意志で誰かを助けに行くとは、この時夢にも思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

縮地を使って全速力で走っていく隼人は、目の前でヒュージが展開している砲台に取り付き、破壊を開始している結梨の姿が見えた。

 

「(ミリアムがフェイズトランセンデンスも一緒に使ってるって言ってたけど、本当に速いな。アレ……)」

 

大体ヒュージと自分たちの間から、ヒュージの方に近くなる直前辺りで走り出したが、結梨が取り付いたタイミングで隼人は三分の一を進めたくらいである。

これはフェイズトランセンデンスのかけ合わせが出来ている結梨と、それが出来ていない隼人の差が表れており、どうしても速度で負けてしまっているのだ。

 

「来たか……!」

 

そこからもう少し進んで五分の二を超え、もう少しで半分に行こうかと言う距離──。ここでヒュージが隼人に気づいたらしく、迎撃をこちらにもいくらか飛ばして来るようになった。

これは幸いにも避けれるからいいのだが、問題はこの先にある。

 

「結梨!?速すぎる……!」

 

こうなると結梨が避ける為に必要なプロセスが減り、攻撃が早まってしまう。その結果結梨の砲台撃破速度が上がってしまい、隼人は避ける為に意識を割いて減速するしで非常に不味い。

どれくらい不味いかというと、結梨のところに辿り着くよりも速く彼女が撃破を完了してしまい、彼女を助けられないか、間に合ったとしても自分──或いは、二人揃って脱出できない可能性がある。

 

「(あそこに辿り着いて、逃げ切るまででいいんだ……そこまで持つなら、もう少しだけマギを回していい!)」

 

このままでは間に合わない──そう判断した隼人は更に加速することを選択。本当にギリギリで突っ走っていくことを決めた。

加速すると回避が難しくなってしまう点はあるが、そんなことを気にしている余裕は無い。とにかく間に合わせるのが重要と割り切っている。

戻って来るタイミングで確実にマギが枯渇して倒れるようなギリギリ過ぎる計算だが、こうでもしないと間に合わない。

 

「(大丈夫。やれる……!)」

 

一方で、結梨は目の前に集中しきっており、もう既に砲台が残り半分になっていた。

自分の方に来ない迎撃が時々あるのは気づいており、それがみんなの為にも急ごうと気持ちを急がせる。

意識していることはとにかく止まらない。そして、可能な限り迅速に敵を無力化することであり、これが救助の為に走る隼人を更に急がせる結果に繋がっていた。

 

「(俺への弾幕が止まった……!)」

 

残り三分の一辺り、弾幕が結梨へ集中したのが見えたが、それでもペースは落とさない。寧ろチャンスとしてこのまま速度を維持して突っ走っていく。

 

「アリス、頼む!届けさせてくれ……!」

 

自らの命を救い、力の源をくれた少女へ向けて祈り、隼人はそのまま結梨の方へ走り続ける。

ヒュージまでの距離は凡そ五分の一──。砲台を全て破壊した結梨が、トドメの一撃を決めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

隼人が飛び出してから少しした時に遡る──。浜辺の方では結梨がデュアルスキラー──。二つのレアスキルを使えるリリィである疑惑が出ていたり、自分たちも何かできないかと考案したが、距離が問題で全て却下になる話が出ていた。

 

「あ、あいつ……!マギの配分調整を捨てたのか!?」

 

その最中で、梅は彼がしでかした行動に気づいた。先ほどまでは最低限戻って来れる保証を残していたのだが、今は結梨を連れ、ヒュージから離れることしか考えていない速度の出し方である。

マギを追加消費して速度を上げているのだが、無理にやったせいでその消費が多くなっており、下手すればフェイズトランセンデンスを使い終わった後になってしまいかねない。

これが陸地ならまだいいのだが、彼がいる場所は海面上だ。マギが枯渇して動きが止まろうものなら溺れてしまう。そうなっては結局二人共助からず行動の意味が無くなる。

しかも、これまた海面上故の問題で、足元にマギを集中させて足場を作っている都合上、これで余計にマギの消耗が入っている。枯渇する危険があるのはこれのせいでもあり、陸地ならあの速度でも自力で戻って来る余裕は残っているはずである。

 

「(でも、行けるのは梅だけか……)」

 

彼が戻って来れない場合、迅速に救助に行けるのは梅だけであることもまた事実であるが、二人も背負って戻って来るのはとてもでは無いが厳しい。

であれば、誰か一人を背負って救助に向かうのが正解である。ただ、それでも片方は到着まで遅れてしまうが、これ以上は望めない。

 

「二水さん、隼人君はどうかしら?」

 

「半分を超えて、そのまま走っています!ただ、結梨ちゃんの攻撃ペースを考えると、あれでも間に合うかどうか……」

 

それでもギリギリと言う判断が出たのは厳しいが、信じるしかない。

であれば、自分たちは成功を前提に何か補助を用意するだけだと割り切り、夢結は梅に縮地による救助準備をお願いする。

ぶっつけ本番で不安が残るが、実際目の前でその状況で敢行している隼人もいる以上、音を上げるわけにもいかない。先輩としての矜持(プライド)が、梅に実行を選択させた。

 

「なら、一人おぶられてくれ。梅一人じゃ二人も連れて帰れない」

 

「それもそうね……なら、梨璃にお願いするわ」

 

「……私ですか?」

 

夢結が梨璃を抜擢したのは、彼女が何らかのタイミングで飛び出す傾向があるのを把握していたからであり、結梨の危機を前にその可能性があったからである。

実際、梨璃も飛び出してしまう直前だったようで、ならばと引き受けることにした。

 

「梅様、私は大丈夫ですっ!」

 

「よし……ちゃんと捕まってるんだぞ?ちょっと行ってくる!」

 

──隼人に文句あるなら、後で何言うか考えとくんだゾ!そう言い置きをして、梨璃を背負った梅も走り出す。

到着は間違いなく結梨がヒュージを討伐するタイミングは超える。故に、彼女が成功させ、隼人と共に生還することが前提になっていた。

 

「(お願い……どうか無事でいて)」

 

──私のようにはならないで……。自らの過去がある夢結は切実な想いだった。

そして、梨璃を背負った梅が五分の一を進み切った頃、結梨はヒュージに対して最後の一撃を与えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(これで、終わり……!)」

 

全ての砲台を破壊し終えた結梨はCHARMを頭上に振りかぶり、ありったけのマギを込めていく。

その結果、CHARMの刀身を覆い尽くし、更にそれよりも長く、マギによって形成された光の刃が伸びて行った。

 

「やあぁぁあああっ!」

 

一意専心(いちいせんしん)──。人として、皆を守る為に討つ決意を乗せてCHARMを真っ直ぐに振り下ろす。

それは自身の体格から見て、何倍もある大きさのヒュージが形成するマギリフレクターなぞまるでバターを切るかの如くあっさりと突破し、本体を縦一文字に切り裂いて見せた。

これで無事撃破となるのだが、代償は非常に大きく、結梨が扱っていたグングニルはマギを制御する為のコアの部分から砕けてしまい、全く使い物にならない状態にまで破損する。この一戦でとんでもない無茶をした反動である。

更に、これは本人が後で知ることではあるが、フェイズトランセンデンスと縮地のかけ合わせのせいでマギを使い果たしてしまい、一歩も動けない状態になってしまった。このままではヒュージが起こす爆発に飲まれてしまうだろう。

 

「梨璃、みんな……私……」

 

もうすぐこのヒュージも形を維持できず、爆散するだろう。それを表すかのように、ヒュージの周囲から光が上り始めている。今すぐ逃げねばならないが、この体はもう言うことを聞かない状態まで疲弊しており、このまま運命を共にするのが近づいている。

だがそれでも、結梨は一つだけ誇れるものを胸に残していた。何もないよりはずっと良かった。

 

「できたよ」

 

今度は模擬戦では無く、実戦で──。実際に皆に教えてもらったことを実践し、見事にヒュージを倒した。これだけでも誇れるものだった。

このまま自分も光に包まれ、その先は──とはならなかった。

 

「結梨ーっ!」

 

「……隼人?」

 

──掴まれ!間一髪、浜辺の方へ体を向けながら滑り込む形で隼人が結梨の隣まで到着し、左手を伸ばしたのが見えたので、それを左手で掴む。

それを確認した隼人は咄嗟に彼女をお姫様抱っこするかの如く抱え直し、すぐさま浜辺の方へ向けて走り出した。

結梨を抱えて走り出してからものの五秒した頃にヒュージは巨大な爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「全員無事かしら……?二水さん、申し訳ないけれど、確認急いで」

 

「は、はいっ!」

 

雲まで届く高さの爆発を見て一瞬気圧されはしたが、己のやるべきことをしっかり見据えている夢結は己を律し、二水に指示を飛ばす。

梅と梨璃はヒュージから距離が離れていた為、無事がすぐに確認できた。問題は隼人と結梨の二人である。

何しろ非常にギリギリのタイミングで接触、離脱を行った為、無事かどうかが非常に怪しい。

 

「(お願いだから……二人共、どうかご無事で……)」

 

今まで苦楽を共にしてきた仲間が、一瞬で二人も失われるなどシャレにならないので、二水も冷や汗をかきながら必死に鷹の目で捜索を続ける。

もう少しで浜辺とヒュージがいた位置の丁度間に到着する梅も、爆発によって出来た煙を前に停止の判断が浮かび始めていた。

理由は無策に煙の中に突っ込んで、自分と梨璃が戻って来れず、最悪は四人とも死ぬと言う事態を何としても避ける為である。そんなことをすれば、レギオンメンバーどころか百合ヶ丘のリリィ全員のメンタルに尋常では無いダメージを与えてしまう。

 

「頼むゾ……お前ら。せめて、その煙の中からは出て来てくれよ……?」

 

「結梨ちゃん……隼人くん……」

 

その最悪な事態を避ける為にも、隼人らには何としても爆発の中から出て来て貰っていなければならない。

無事を祈りながら、二人掛かりで煙の中と煙の周りを見渡していく。

 

「あっ……!梅様っ!あそこ……前の方に……」

 

「前……?いた!」

 

梨璃が気づいて指さす方を見れば、脱出した直後でフラフラになりながらも結梨を抱えて海面上を歩いている隼人の姿があった。

それに気づいた梅も梨璃に一言掛けてから急行する。結梨も十分持たないだろうが、隼人はもっと不味い。今すぐ連れて戻る必要がある。

 

「二人とも無事ですっ!梅様たちが今合流しましたっ!」

 

その連絡に安堵し、二水には鷹の目を終了していいように告げる。

後は梨璃たちが戻って来れるように、誰かを手配した方がいいかも知れないと言う思考が回り、夢結は辺りを見渡し始める。

 

「取り敢えず、隼人はこのまま運んで行く。梨璃にはちょっと悪いが、結梨を連れて、少しの間歩きで戻って来てくれ」

 

迎えが来てくれればそれが一番だが、そんな前準備はしていないので、自分たちで戻るのが一番だろう。

一先ず隼人を担いだ梅は、彼の自重もあるので急いで走り出した。

 

「隼人、後で皆からの文句を楽しみにしとけ」

 

「それ、ちょっと……嫌ですね……」

 

どれくらい元気なのか声を掛けてみたが、普段からじゃ考えられない程力尽きた様子を確認し、無駄口叩くのも無理そうだと判断できる。

そのまま急いで戻り、ある程度進んで行った頃には、隼人の無茶と自分の救援を見てたのか、他のリリィ二人が縮地で梨璃たちの方へ走っていくのが見えた。

 

「(助かった……これなら、梨璃たちもあの距離から帰って来れる)」

 

正直なところ、これだけの距離を数往復するのはマギの量的に大分厳しい。その為、この迅速な対応は非常に助かった。

安堵したところで、ペース配分を気にする必要が無くなった梅はそのまま無理ない範囲で速度を上げ、浜辺まで隼人を連れて戻る。

体格差が影響して、隼人の足元が常時海に浸かっていたのは申し訳ないが、彼の方針を考えれば死んでないだけ安上りである。

 

「来てくれたんだ……結梨ちゃん、もうちょっとで帰れるから……って、結梨ちゃん?」

 

「……」

 

何やら背負ってる結梨が沈黙気味だったので声を掛けてみると、何かが自分の髪に当たる。

──どうしたんだろう?と思えば、後ろから結梨がすすり泣いている声が聞こえた。

 

「梨璃……っ……!私……っ……私……!」

 

「結梨ちゃん……」

 

なりふり構わず助けに来て、今は力尽きている隼人。自分たちの為に、後追いで駆けつけて来てくれた梨璃と梅。そして今、自分たちの為に迎えに来てくれているリリィ二人。どれか一つでも欠けていれば自分はもう、こうして梨璃と話すことも出来なかったのかもしれないと、結梨は考えた。

それが自分の中に死への恐れを思い起こさせ、無謀過ぎた行動に反省を促していた。ごめんなさい──と、それを悔いている言葉が結梨から発せられた。

 

「私、本当に心配したんだよ……?もしかしたらって……!」

 

──でも、無事でよかった……!結梨につられて、梨璃も涙を流しながら本心を言葉にする。

この後で、結梨は梨璃と緊急時以外このような無茶はしないと約束し、この件は丸く収まったことを記述しておく。

 

「(アリス……やっとお前に、助けて貰った恩を返せたよ)」

 

梅に担がれている隼人は、恩人に心の中で呟きながら、そのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

{ 第 25 話 }

 

救 助

rescue

 

 

ようやくできた恩返し

──×──

Memories of tragedy are not repeated.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「……で?言いたいことはそれで全部かしら?」

 

「いや、だって……放っておけなかったから……」

 

今より四年程前──。隼人は母親からお説教を受けていた。

と言うのも、隼人は今日、自分のクラスにいる人と喧嘩をしたのだ。と言っても口喧嘩だが。

動機自体はリリィになることを誘われた香織が嫌がっているのを放っておけなかっただが、相手が女子だし、思いっきり泣かすまで問題点を指摘するしで今に至る。

これは隼人の当時からの悪癖であり、自分に取って納得できない事態が起きると自ら首を突っ込んでいってしまうのである。しかも、それを言っている人がいるなら、その人の感情を全部無視するくらいで。

もし、今回の相手が香織で無ければ我慢して無視をする努力をしたかも知れないが、残念ながら今回は困っているのが香織であり、到底無理な相談だった。

実際、今も自らは間違っちゃいないと言いたげに、謝罪の言葉を出さない隼人を見て、彼女は思いっきりため息をついた。

 

「まあ、香織ちゃんのことを放っておけなかったのは分かるし、それはいいわ。けど、もう少し自分を抑える練習をしなさい?そのままだと、友達増えないままよ?それに、偏見持たれて距離だって置かれちゃうのよ?」

 

「いいよ別に。人の嫌がること平然とやれる友達なんか……俺には要らないよ。後、その偏見とか意識して香織を見捨てる気なんて、俺にはないから」

 

こんなことをあっさりと言ってのける我が子に、母親は頭を抱えたが、これだけ小学生生活を送っても一向に増えないのなら、仕方ないんじゃないかとも思ってしまっている。

何しろ隼人も小学校に上がってからすぐは友達を作ろうと努力はしていた。していたのだが、話した子がどうも性格やら趣味やら合わない子ばかりで、隼人から身を引くか衝突するかで失敗に終わってしまっていた。

極めつけには、担任の先生に似たようなことを言われた時、今自分が言ったことと全く同じ様なことを言ってのけており、ここまで来てしまったならしょうがないのかもと思えてきた。新しい友達よりも、昔から一緒の友達・大切な子を選んだのなら、強要するのも酷かもしれない。

よく言えば自分の意思がこの頃からしっかりしている、悪く言えば頑固で感情の配慮に欠ける子であった。

 

「分かった。そこまで言うなら友達のことはいいわ……。ただ、改めて言うけれど、言い方や自分を抑えることだけは忘れないで?将来仕事をする時とか、色んな所で起きる会話で苦労することになるから……」

 

「……はい」

 

仕事は生活に関わってくるのは、父を見て何となく理解していた為隼人は素直に頷く。それが分かれば良しとして、要点を改めて伝え、そこでお説教を終わりにする。

ただ、怒ってだけ終わらせるつもりは無い。褒めるべきところは褒め、悪いところはちゃんと反省してもらう。それがこの如月家で決めた育て方である。

 

「香織ちゃんの為に動けたこと、それは良いことよ。それは、大切な人の為に動ける……隼人の中にある優しさだから」

 

「……うん」

 

ダメなところはダメ。でも良いところは良い。これが後々隼人に分析力や決断力、行動力を与えて行くきっかけになった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ん……んん……っ」

 

暗闇で見えなくなっていた視界を、隼人は重たくなっていた瞼を開くことでそれを確保する。

──随分と懐かしい夢を見たな。と、思いながら暫しの間目を慣れさせた後、自分のいる場所が寮の部屋でないことに気づいた。

 

「どこだ……ここ?」

 

そのまま見た限りでも、かなり広い部屋で、鼻に届く匂いから、すぐ近くに花があることを感じられる。

また、自分の左側にはカーテンがあり、この部屋の大まかな特徴を掴むことができた。

 

「(病室か……?てことは)」

 

──俺は何日寝込んでたんだ?あの後結梨帰れたのか?そもそも、ここは百合ヶ丘だよな!?とにかく確認せねばならない。

体を起こしてすぐに──とはいかず、起こそうとした時に自身の腹から重みを感じられた。

 

「……楓?」

 

「……っ……」

 

恐らく結構早い時間から来ていたのだろう。その疲れで自身の腹を枕替わりに寝てしまっている。

そして、よく見たら目尻から涙が見えており、自分の為に泣いてくれていたことが理解できた。

 

「ありがとう。俺なんかの為に……」

 

それが嬉しかった隼人は彼女の涙を拭ってやり、寝た彼女を弄るよりも前にそっと起こしてやる。この起こす過程で確認したが、この部屋には自分たちしかいなかった。

すると楓は「んん……」と、こちらのアクションに反応したような声を出しながら目を開ける。

 

「おはよう。ぐっすり寝れた?」

 

「隼人……さん……?」

 

まさか自分が起きていると思っていなかったらしく、彼女は目をパチパチとして面食らったのを示した。

その直後、自分がどんな状態で眠りこけたかを覚えていた楓が涙を慌てて拭う様子を見せるが、想像より自分の手に来る涙の量が少なく、隼人に先取りされたことに気付く。

これが影響で顔を真っ赤にし、今回は理由が分かっている隼人は思わず表情が緩んでしまう。

 

「それはさておきとして……何が無謀なことをしないのか、教えて頂けませんこと?」

 

「今すぐに?答えるのはいいけど、先に状況どうなってるか教えてくれないか?」

 

「嫌ですわ。先に教えて下さいな?」

 

──コイツ、ハッキリと断りやがった……。今回のことは相当お怒りだったらしく、これは意地でも聞き出すつもりなのが見えた。

ただ、さっきまで見ていた夢もあって拒否する気も起きず、素直に話してみることにする。内容としては香織の眠る慰霊碑で宣誓した事のすれ違い解消である。

とは言え、これを話したところで理解はすれど納得は出来なかったようで、案の定楓は怒っていた。

 

「……それで?それのどこが大丈夫なんですの?助けたのは事実ですが、あなたはその後どうするつもりでしたの?過剰な使い方までしてますのに……」

 

「結梨を助けるなら、ああするしかないと思ったから……」

 

「そこは分かりますわ。問題はその先、戻る手段ですの」

 

「それは……ごめん。正直に言って、そこは完全に博打にしてた」

 

──動かなきゃ助けられない、でも安全管理する余裕は無い。この二点が隼人に戻れるかは天に身を任せる方針を選んだ。

当然、この方法は問題がありすぎて楓にダメ出しをされる。あまりにも安全性や確実性が欠けている。

 

「そうやってあなたは、周りを頼ろうとしないでっ!一人で飛び出してっ!もう少し、自分のこと……大切にしたっていいのではなくてっ!?」

 

「おぉっ!?わ、悪かったから!泣くのだけは止めてくれ!な?な!?」

 

途中で涙を流しながら自分の問題点を訴えて来た楓を見て、隼人は大慌てながら非を認め、どうにか窘める方向へシフトする。こうなるとどうやっても隼人に勝ち目は無い。

落ち着かせる最中、楓のことを「いい女」と心の中で評しているが、再び梨璃が絡んでそれが崩れ去るのを、隼人はまだ知らない。

 

「約束するよ。無茶は控える、けど……」

 

「ええ。確実性があるなら、それは許しますわ」

 

そうして今度こそ納得できたところで、一度涙で潤んでしまった楓の瞳が落ち着くのを待ってから、ナースコールで自分が起きたことを知らせる。

 

「……そう言えば、日付とかその辺ってどうなってるの?」

 

「寝たきりでしたものね。なら、まずは……」

 

話を聞くと、隼人が意識を失ってから二日程寝込んでおり、結梨は無事で今はレギオンメンバーと一緒に隼人の目覚め待ち。

そして、梨璃は体裁的な意味合いもあるが、脱走した懲罰として、ガーデンの収監室で一週間の謹慎処分であることを告げられることになる。




Q.二人とも無事な理由は?

A.(不幸の上塗り等は)もういい……もういいだろ!?

真面目な話をすると、隼人は物語開始前、そして両親関係で不幸を背負ったし、あの展開で救えないのはちょっと……と思ったから。


てなわけで、解説入ります。


・如月隼人
結梨を救うために突っ走り、成功。代償は消耗と緊張、疲労によるぶっ倒れ。
小学生時代は納得行かないこと言ってたら、相手が女の子すらレスバで負かしに行くくらい容赦の無い鬼畜。この性格が災いして友人関係は幼少期から全く増えていない。


・一柳結梨
隼人により原作の悲劇回避。思えば、原作で誰かに謝ったシーンて無かったな?
無事に生存したため、これからの動向はどうなるだろう?
幸いにも、リリィを終えた後の避難先は確保済み。しかも逃げる準備も万端と、その後の生活は大分マシ。状況が許せばいくらでも選べる。


・一柳梨璃
流石に収監までは変えられなかった。でも、心境は大分マシ。
原作で壊されてしまった髪飾りは壊れていない。付け替えるかどうかは分からない。


・楓・J・ヌーベル
涙を流した原因は大体隼人が起因する。一人で危ない橋渡るわ何だので、もう気が気じゃない。
この他にも、いつの間にか意識を割く量が増えているのもあるが、未だその自覚は無い。


・吉村・Thi・梅
梨璃を伴い、この人が途中から行かねば、隼人と結梨は死んでいた。
海辺渡ることに関する躊躇はここで消えた。


実はこの時点で、本小説でやりたいことはほぼ達成されました。
なので、残りは走り抜けるだけですが、楽しんで頂ければ幸いです。

今後アニメ版準拠の展開はどのようにしてほしい?

  • 今みたいな感じで大丈夫
  • もうちょい細かめが嬉しい
  • サクサク気味がいい
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