アサルトリリィ -RED THISTLE-   作:ブリガンディ

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auの回線トラブルにやられてました……


第27話 感謝

「本当にいいのね?」

 

「ええ。俺は同時に二つも扱えませんし、同型だから違和感も少ないはずです」

 

時刻は夕方──。隼人は百由のラボに顔を出していた。

百由の問いかけには肯定を返し、自分の決断は本当であることを示した。

 

「あなたが持って来ていたグングニルの登録を解除して、結梨ちゃんに再登録させる……。確かに、新しいパーツを寄せ集めなり何なりして、組み立てるよりは早く済むけれど……」

 

「殆どブリューナクで戦っている俺には、無用の長物になりかねませんからね……求める人のところに送ろうと思うんです」

 

かつて抱いていた復讐心を体現した色は、結梨には合わないかも知れない。なので、塗り替えるなら塗り替えるで構わないが、それはそれで手間だろう。

とは言え、以前まで使っていた当人の癖が残ってしまっている可能性があるので、隼人の登録を解除した後、パーツごとに分解整備をする必要はある。

だが、結梨のCHARMの準備が早まるのはそれだけでもありがたいので、報告だけして実行することを百由は決断する。

 

「それじゃあ、解除だけお願いするわ。その後はこっちでやっちゃうから」

 

「分かりました」

 

──結梨のこと、よろしくな。こっちに来てから碌に使用してやることは無かったが、それでも始めて触れたCHARMはコイツである。

これを手にしてから今までのことを振り返りながら登録解除を済ませ、今度こそこのCHARMとの縁が切れることになる。

解除する際に、拗ねているような反応をしたのは暫くほったらかしにしたせいだろうと、隼人には予想できた。

 

「それじゃあ、準備できたら結梨ちゃんに届けるわ。一週間くらいで用意できるって、本人に伝えておいてくれるかしら?」

 

「分かりました」

 

こうして部屋を後にした後、運よく結梨と顔を合わせた隼人はそのままCHARMの準備ができることを伝えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

「(あの時、結梨を助ける行動は褒められたものじゃないけど、間違っていなかったんだな……)」

 

夜──。歩きながら隼人は目が覚めてから今日までのことを振り返る。

これは結梨が皆と笑っていて、それをみたリリィたちが微笑ましい目を向けている光景を見た時、隼人が思ったことであり、無駄では無かったと断言できた。

ただ、数人を怒らせたり、不安にさせてしまっていたこともまた事実で、隼人はこれから気を付けねばならないと改めて戒める。

そんな風に思いながら、隼人は己の右腕を見つめた。

 

「(こうすることができたのも、アリスが俺を助けて、玲さんがCHARMを用意してくれて、由美さんが足取りを追ってくれたおかげ……)」

 

──一人じゃたかが知れてるけど、人間って結局……そう言うことなんだろうな。誰かと助け合って生きる姿を見て、人の広義的な在り方を隼人は結論付ける。

ヴァイパー討伐も、最終的には一柳隊の協力無くては不可能だったし、結梨を助けることも、梅と縮地を使えるリリィがいなければ無駄死していただろう。

そう考えると、一人ではすぐに限界が来てしまうのが良くわかる。だからこそ、楓ら一柳隊を筆頭に言われてしまったのだが──。

 

「……隼人君?」

 

「夢結様?」

 

そして、そろそろ校舎内に戻ろうかと思ったところで、隼人は夢結に遭遇した。

お互いそのまま戻るつもりだったので、ラウンジに移動して腰を下ろし、少しだけ話すことにした。

 

「先ほど言いそびれてしまったことだけれど、改めて……結梨を助けてくれて、ありがとう」

 

「ああ。いや、俺の方こそすみません。アレだけは戻る算段途中で投げ捨てたくらいに行き当たりばったりだったんで……」

 

夢結からは礼を、隼人からは謝罪を送る。夢結は目の前で二回も、大切な誰かが死にゆく姿を見ないで済んだことから、とても安堵していたようだ。

この時、隼人は夢結がそんな経験をしたのは始めて聞いたので、思わず「……二回?」と聞き返してしまった。

彼の呟きを聞き、夢結は隼人がその辺の事情を全く知らないことに気づき、今から二年と半年前に起きた甲州撤退戦のことと、当時自分のシュッツエンゲルであった川添(かわぞえ)美鈴(みすず)のことを話してくれた。

また、目の前で大切な人を失った隼人と夢結だが、前者は無力故に助けられず、後者は己の力の制御不足が招いた悲劇と言う違いがある。

そして、この悲劇を経験して以来、夢結はルナティックトランサーを意図的に封印する決断をしており、今でも何らかの形で精神的に追い込まれない限りは一度も発動していない。

 

「力の使い方を間違えると、大切な人を……或いは己を殺しかねない、か……。あの人たちは、訓練と言う事前準備でそれを教えてくれたんだな」

 

そう考えると、自分は幸運だったのだと思えた。ヴァイパーに右腕を斬られ、アリスが助けに来るまでの間以外、彼は一人じゃなかった。

だからこそ、彼はこうして今日まで生きることが出来ているのだ。

 

「人との繋がりは大事にしなさい。私のように、一人になってはダメよ」

 

「……俺は、夢結様が一人だとは思えないですね」

 

そもそも一人でいる人間と言うのは、全ての他人から関心を向けられなくなった──または全ての他人が自分のところに駆けつけられなくなった人()()|のことで、そうでなければ一人と言うことは無いのだ。

こう言う意味では、夢結も決して一人では無いのだ。

 

「……どういうことかしら?」

 

「一人じゃなかったけど、それに気づけなかっただけってことですよ。梨璃を筆頭に、周りにいるでしょう?」

 

──理由は何であれ、夢結様に接してくる人が。そう言われると、夢結は隼人の返答とその理由に納得する。

大切な義妹である梨璃、ルームメイトの祀、同じく前代アールヴヘイムに所属していた梅、一柳隊のメンバー──。その他にも意外に接してくる人は多かった。

──どうやら、私の思い込みだったようね。何か一つ、しかし想像よりも大きな抱えごとによる心の重荷が、少し軽くなった気がした。

 

「ありがとう。少し、気分が楽になったわ」

 

──今度何かで悩んだら、誰かに頼ってみよう。夢結は心の中で、そう決心する。

それはそうとして、隼人には改めて周りを頼るように催促もしておいた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ん、んん……」

 

翌日──。隼人が右腕の確認を兼ねて外出へ出る日の朝になる。梨璃は収監室で三日目の朝を迎える。

この部屋で時間になったら来る食事を取り、特にできることも無く過ごしていく日々は控えめに言って退屈であり、寂しくもあった。

 

「(お姉さま、今頃どうしてるんだろう……?結梨ちゃん、元気にしてるかな……?)」

 

朝起きて、毎回考えるのはこれで、確認できないからこそ気になっている事柄である。

自分がいない時の結梨を見たことが殆ど無いので落ち込んでいるかも知れないし、それを夢結や誰かが見てあげてるのかも知れない。

ただ、こうやって考えられるのは隼人が無茶にも程がある突貫で結梨を助けてくれたからであり、それはとても助かっている。

 

「(私、何もできなかった……)」

 

それと同時に、あの場で自身が出来たことなど何もないことも思い出す。強いて言えば、梅に連れてもらい、結梨を真っ先に迎えに行ったくらいだろう。

あの後結梨は元気な姿を見れたのでいいが、隼人の方は起きたところまでしか聞けていない。故に、どんな状態でいるかは分からないのだ。

こんなこともあって、もっと何かできなかったのか……とか、自分の力が足りなかったのか……とか、余計なことを考えてしまう。一人で何もすることのできない時間だからこそ、尚更である。

 

「(早く、みんなに会いたいなぁ……)」

 

出入口になる部屋のドアを、梨璃はどこか遠くを見ているような目で見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「問題無しよ。ナノマシンの交換は意味があったようね」

 

午前中に施設へたどり着き、隼人は右腕のチェックを受けた。

モニター越しでも何も問題なく動いている様子が見えており、隼人はこのままCHARMを扱うことが出来る。

 

「あの子、無事に助けられたんだよね?」

 

「どうにか。そう言えば、アリスは部屋に?」

 

「うん。もうすぐするとお昼の準備始めちゃうから、今のうちだよ」

 

玲の返答を聞いた隼人は、善は急げで彼女の部屋に向かうことにした。

ノックして彼女から許しをもらった後、彼女の部屋に入ると、髪をポニーテールに縛り、話が済んだら昼の用意を始めると言わんばかりの姿勢を見せるアリスの姿があった。

 

「あら……その表情を見るに、本当に助けられたようね?」

 

「ああ。結梨は無事だよ」

 

結梨のことは由美へ事前に連絡しており、隼人の様子を見て三人が確信に至っている。

事実、隼人の表情が穏やかなものになっており、ヴァイパー討伐が終わって角が取れた今でも分かりやすかった。

 

「アリス。改めて、礼を言わせて欲しいんだ……」

 

「いいわ。聞かせて?」

 

隼人の穏やかながら真剣な眼差しに、アリスは迷わず肯定して先を促す。

 

「ありがとう。あの時助けてくれて……俺に力を与えてくれて……遅くなっちゃったけど、これで恩を返せたと思う。これも、アリスが俺を見つけて、先を作ってくれたからだ」

 

「私も、その力を渡すのがあなたでよかったわ……。それと、私の方からもお礼を言わせて?」

 

──あなたのおかげで、()()()()()()が救われたわ……だから、ありがとう。それが誰を指すか分かった隼人は、それを素直に受け取る。

それは、隼人が三年前の恩を返した証明にもなる言葉であった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

{ 第 27 話 }

 

感 謝

thanks

 

 

お前のおかげで助けられた

──×──

And then we move forward again.

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(凄い久しぶりに筋トレ出来た気がする……)」

 

その日の夜──。戦技競技会前日以来、久しく出来ていなかった筋トレを済ませた隼人はガーデン内を歩いていた。

外出の頻度自体は、来年度からは問わなくていいらしいので、それまでは辛抱だと自らに言い聞かせる。

 

「(ただまあ、買い物を大容量でやらなきゃいけないのは面倒なんだよな……)」

 

バイクで持ち運ぶには容量に限度があるのに、外出頻度を抑えねばならないので大量に持ち帰る必要がある。これが厄介で、隼人は外出の度に悩まされることになる。

外出の頻度はこれを理由に納得してもらおうと思ったら、来年度の下りがあったので、ならいいやと隼人は割り切る道を選んだ。

そうして歩いていると、一室だけ明かりの付いている部屋を見つけ、その部屋名を確認して中を覗いてみる。

 

「(工作室に……楓?)」

 

──何があったんだ?普段なら絶対に有り得ないだろうその光景を見て、隼人は見ているのがバレないようにまずは覗くのを止めてから思考の海に入る。

彼女が何を作っているかは想像も付かないが、何かあったことだけは間違いない。少なくとも、これだけはすぐに断言できた。

ここを利用している理由自体はこの際置いておくとして、その部屋に入ってどれくらい時間が経っているかは気掛かりである。

 

「そうなると喉が渇いたりとか、何かあるはずだよな……」

 

──飯はちゃんと食ってる?そもそもあの部屋、飲食は大丈夫か?一人で張りつめていると時間を忘れるのを理解している隼人は、それを危惧した。

誰かに確認を取った方がいいかも知れない──。そう考えて動こうとした時、偶然にもこちらに来る人影があった。

 

「……六角(ろっかく)さん?」

 

「ごめんね。驚かせちゃったかな?」

 

そこにいたのは、自分と同じ椿組に所属する灰色みのある茶髪を持った少女──六角汐里(しおり)で、どうやら自分がここに来たのを偶然みて、声をかけようとしていたようだ。

聞いてみると、工作室を使わせて欲しいと頼まれて楓に使わせているらしく、何を作っているかは特に聞いていないそうだ。ただ、それだけでも隼人からすれば情報源としては十分すぎる。

 

「多分梨璃の為だろうな……ってことは、あいつの持ってるものとかに何かあった……?」

 

「一柳さんの……?でも、あの時までは大丈夫だったよね?」

 

汐里の確認には頷いて肯定を返す。あの四つ葉のクローバーを形どった髪飾り等も、特に問題は無かったはずだが──。

であれば、自分の知らない間に何かがあった。或いは、楓が梨璃の気持ちを切り替えられるようにと贈り物で何かを作っている。このどちらかになる。

 

「(見れていない以上、聞かなきゃ分からない……)」

 

一人で解決できるだろうとは思うが、それでも何か差し入れ的な手伝いはできるだろうと思う。

そう考えていると、汐里からはここのことを何も言わないようにしてくれればOKと告げられたので、素直に礼を告げて行動に入った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

結論を言ってしまえば、楓がこのような行動に出たのは後者──思いやりの心から来るものだった。

早い話が、隼人と共に軽食を作るメンバーとは別に、自分からプレゼントを用意するようで、彼女がパッと思いついたのが梨璃が身に着けていた髪飾りである。

また、更に話を聞いてみると、どうやら昨日の夜からこのように作業を始めているらしく、その作業時間は今日のように人知れずやる為遅い時間にやっており、結構ギリギリなスケジュールになっているようだ。

 

「……お前も結構無茶をやるんだな」

 

「あら、あなたのあれほどではありませんわ」

 

──なんていうか、他人の為になると、自分のことを後回しにする人多いな。そう思いながら、隼人は小休止の為に持ってきた飲み物を渡す。

楓も丁度休憩を挟もうとしていたらしく、それは彼女の手に問題なく渡った。

 

「これが、梨璃さんに必要かは分かりませんが……」

 

「でも……途中でやめて、それで後悔するよりはいいんじゃないか?」

 

「……それもそうですわね」

 

気分転換で付け替えてくれるかも知れない──。そう考えれば、この不安も気にならなくなる。

本当に彼女がつけてくれるかどうかは分からないが、やること自体が無駄かも分からないし、途中でやめたらそれこそ本当に無駄と言うのは分かるのだ。

であれば、動く方がいい──。それが、話した結果楓の出した結論であった。

 

「差し入れありがとうございます。そろそろ戻りますわ」

 

「ああ。結果は当日の楽しみにするよ」

 

空き容器は隼人が然るべき場所に捨てる為に回収し、部屋を後にした。




2話分で決着ならず。次回でアニメ10話が終わりです。


以下、解説入ります。


・如月隼人
礼を言いたい相手に言えた。
コイツが使っていたグングニルは、今後結梨が使用することになる。
実のところ、グングニルは長らく使わなかったせいで、隼人の感覚が変わってしまっている為、いい加減譲り時でもあった。


・一柳梨璃
原作よりメンタルがマシでも、一人で狭い空間に居続けるのは苦痛。
自己嫌悪に陥ったのは、低い自己評価から来るもの。そのせいで尚更収監室での一週間がキツイ。


・白井夢結
自らと似た悲劇が繰り返されなかったので、心境が大分マシ。
少しは他人を頼ろうと思えたのも、心の余裕が少しできたから。


・楓・J・ヌーベル
原作と理由は違うものの、髪飾りの制作を開始。
少なくとも、煮るなり焼くなりの下りは起こらないだろう。


・アリス・クラウディウス
隼人からちゃんと恩を返して貰った。
後は彼がリリィとして最後まで戦い抜き、人としての生活に戻れたら思い残しは完全に消える。


サンブレイクやるので、次回の投稿は遅れます。

今後アニメ版準拠の展開はどのようにしてほしい?

  • 今みたいな感じで大丈夫
  • もうちょい細かめが嬉しい
  • サクサク気味がいい

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