アサルトリリィ -RED THISTLE- 作:ブリガンディ
神おまは貫通ライトで周回するか……w
再び翌日──。収監室で四日目の朝を迎えた梨璃だが、この日に一つの変化が訪れる。
「……?」
朝食を取った後だが、何かが地面に落ちる音がした。どういうわけか四つ葉のクローバーを模した髪飾りが欠けるように壊れてしまったのである。
それを拾った梨璃は、その髪飾りが「今回は肩代わりしておいた」と言ってきそうに感じた。もしかしたら、結梨や隼人の生存と言う幸運を、この髪飾りが持って来てくれたのかも知れない。
「……」
それと同時に、「このような幸運は二度もない」──。「また幸運が欲しいのなら、自らが動けるようにしろ」と促されているような気もした。
事実、結梨の生存は隼人がいなければ絶対に出来なかったことで、梅や現地のリリィがいなければ助けても全員で帰って来れなかった。その中で、梨璃は決定的な部分に関与できていない。
今ここに夢結や楓がいれば、今の梨璃を見て「無理に追い込んではいけない」と窘めるだろうが、当の本人たちはここに来れるのは四日後である。
「私に……できること……」
──それって、なんだろう?今すぐには思いつかないが、少しずつ探していこうと梨璃は決めた。
* * *
「これ、本当にいいの?」
「ああ。結梨には必要だと思うから」
それから更に翌日、一柳隊の部屋では結梨に渡ったグングニルの登録が行われようとしていた。
どうやら一日で整備と同時に塗り直しまでやったらしく、百由曰く「結梨ちゃんに、復讐者としての色は合わないでしょう?」とのこと。これを聞いた隼人がノータイムで首を縦に振ったのは当然の帰結である。
「(頼むぞ……グングニル)」
──結梨を守り、戦う力になってくれ。CHARMの登録を見ながら、隼人は
そして登録が終わり、今後は時間を見つけて結梨はCHARMの習熟をやることになる。
とは言え、それは梨璃が戻ってきてからでも遅くないので、今のところはCHARMに自分のマギを馴染ませるくらいだろう。
「なんかCHARMの用意が早いと思ったら、そう言うことか」
「予備のCHARM様様だね」
隼人の予備として控えさせていたCHARMである為、用意は非常に早かった。
本来はグングニルのパーツの斡旋から、必要であれば整備等も必要だったので、もっと時間がかかっていたはずである。
「ですが、こちらに来るまでの資金はどちらから?ガーデンの時と違い、出撃の報酬等も無いはずですが……」
「確かに……CHARMは非常に高額ですからね。どうやって取り寄せたんですか?」
アウトサイダー故に資金面のやり取りが厳しいのではないかと、神琳と二水を筆頭に一柳隊が思った疑問である。この話が全く理解出来てないのは、事情故に仕方ない結梨くらいだ。
事実、彼女らの指摘通り、隼人は出撃時の報酬等は一切受け取っていない。実は政府で例外的に報酬を渡そうと言う話も出たらしいが、渡そうにも口座など知らないし、手渡ししようにも見事に滞在先を掴めず、断念と言う形で結局報酬支払の話は無しになり、それが響いてガーデンで出撃した時の分しかもらえていない。
「向こうの人たちが研究成果やら、元リリィだったから出撃報酬の額やらで補填してくれたよ。後、グングニルは元リリィだった人からアリス、アリスから俺に渡ったみたい」
──その時、剥げてた塗装を思いっきり別の色で塗り直してああなったんだ。これが、隼人がCHARMを二本も持っていられた理由である。早い話が使い回しだった。
本来は青と銀、アリスが使っていた頃は白と金で構成されていたグングニルは、その時に隼人の復讐心を表す血のような赤と黒で塗り直されたそうだ。
そして、結梨に渡る時、あまりにも彼女に似合わない色だと判断した百由が塗り直しを決断したのである。誰が何を言わずに、彼女自身の選択である。
この結果、このグングニルは三回の模様替えをして、別の担い手に渡されることとなったのだ。
「ところで、あなたのブリューナクはそのままでいいんですの?」
「うーん……ヴァイパーは討ったし、もうあの色は合わなくなったからどうするかな……?」
実はブリューナクもグングニルと同じく、赤と黒でカラーリングされてあり、今の隼人の心境には似合わないものとなっている。
とは言え、変えるにしても明確に何にしたいとかが無いので、今しばらくは無しだろう。
「まあ、それは今度でいいんじゃないか?」
梅の一言に納得し、それはそうだと割り切ってこの思考を隅に置いておいた。であれば、後は各々がやるべきことをやるだけである。
「隼人。分かっておるとは思うが、今のCHARMは前以上に丁重に扱うんじゃぞ?予備を譲ったのじゃからな……」
今まではブリューナクがダメになってもグングニルを使えばいいのだが、今回からはそうすることができない。
これは確かに重要な事案である為、隼人は今後どうするかを考える。
「……よし、楓のところに注文するか」
「まあ!いいんですの!?」
ならば、前々考えていたことを実行に移すだけである。その結果、この一言で楓が目を輝かせた。
それなら後で契約の話をしようということになり、それも隼人はあっさりと頷いて承諾する。
「……?今思ったんじゃが……」
「ミリアムさん、どうしたんですか?」
──楓に契約の話を持ち込んだの、あやつが初じゃないかの?ミリアムの一言に、皆がそう言えばと気づいた。
* * *
「では、これで契約終了ですわ」
「ありがとう。助かるよ」
その日の夕方──。隼人の自室で行われた契約は無事に完了した。
CHARMの額は尋常ではない程の高額である為、流石にローン返済の形で返していくのだが、それもそれで大分高い。
しかしながら、隼人もヴァイパー撃退やその他ヒュージ迎撃で出撃し、その資金がある為、どうにかプランは建てられている。
何なら、一出撃ごとに振り込まれる破格の報酬を見た時、隼人は目を点にするほど驚いたりもしていた。
「なんて言うか、こうして過ごしていると夢でも見てるみたいになるよ……」
「夢……ですか?」
「あれだけ復讐に執着して、全く先を考えていなかった俺が……リリィとしての先とリリィが終わった後のことを考えてる」
──正直、こうなる日がこんなにも早く来るとは思って無かったんだ。大事な話が終わった故か、ある程度くつろいだ様子を見せながら隼人は楓に自分の想いを告げた。
当時の想定として、編入直前にあったヴァイパー戦の時点でこう言うことができるのは、少なくとも後一年は先だと考えていた。それが、その創造よりも半年以上早くなっている。
当然、それは喜ばしいことであり、表情からもそれが見て取れる。
「(こんなにも、穏やかな顔ができますのね)」
もしかしたら、何事も無く成長した場合の、本来の性格を取り戻したのかも知れない──。編入直後や、ヴァイパーと対面している時期の表情を思い出しながら、楓はそんなことを考える。
また、これと同時に自分しか知らないものだと思うとちょっとした背徳感も得られた。
「……?俺の顔に何か付いてる?」
「いいえ。ただ、あなたの身の回りが大分落ち着いたのだと思いましたので」
「確かに。そうみたいだね」
答えながら相手を許容するように表情を緩める隼人をみて、楓も合わせるように穏やかな表情を見せる。
──たまには、こんな時間もいい。そんな風に二人して意図せず同じことを考えていると、隼人が机に置いていた端末が着信音を鳴らす。どうやらメールのようだ。
一言断りを入れて内容を確認すると、それは一葉からのものであり、久しぶりに来た近況報告だった。恐らく、結梨の件もあったので、落ち着いただろうタイミングに送ると決めていたのだろう。
実際、こちらも落ち着きはしているので、近況報告を打って返信する。
「……」
「どうした?そんな微妙そうな顔して……」
「分かりませんわ。ただ……」
──何かこう、モヤモヤするものを感じましたの。ちょっと申し訳なさそうに、それでいてどこか恥ずかし気に楓はそう言う。
それと同時に、隼人も何故か少し申し訳なく思うが、明確な答えは出せない。強いていうのであれば、自分が彼女に嫌われていない。ないし、気にかけられているのは分かるくらいだ。
「……俺、そんなに想われるような人間なのか?」
お世辞にも褒められたような人間では無いと言う自覚はある。何しろ、気に入らないことを言う相手は誰でも平気で喧嘩を吹っ掛けるわ、女の子相手でも容赦なく泣かすわ、友人関係における周り気遣いは無視するわ、自らの復讐心に任せて伝えるべき相手に無事を伝えないわで、こんな阿呆を誰が思うのだろうか?隼人には全く想像できない。
──いや、本当に何かあるのか?そんな風に自己評価が低い分析をしていると、背中に何か柔らかいものが押し付けられた感触がした。
「……楓?」
「大丈夫ですわ。あなたを想う人は、ちゃんといますもの……」
いつの間にか後ろに回り込んでいた楓の優しい抱擁を、隼人はそのまま受け入れた。
* * *
「どうやら間に合ったみたいだな」
「ええ。後は、明日渡すだけですわ」
それからさらに二日後の夜──。工作室にて、楓は無事に四つ葉のクローバーを形どった髪飾りを完成させた。
今日が梨璃の収監されている最後の一日であり、明日から彼女はあの部屋から解放され、普通の学生生活に戻ることができる。
明日は早朝に隼人と数名が最後の準備を済ませた後、一柳隊全員で出迎えに行くことになる。
「ん……っぅ……」
「……大丈夫か?」
楓が少し体を伸ばしてみると、関節が音を鳴らす。同じ姿勢を維持して作業した故の影響だろう。
大分お疲れの様子を見たので、隼人も行動を起こす。と言っても、マッサージやその辺がせいぜいなのだが。
やろうとすれば、楓から「足を伸ばせる場所」をリクエストされたので、隼人の部屋に招くこととした。
「っ……はぁ~……効きますわぁ……」
「(やってみればできるもんだな……)」
その肝心なマッサージ方法は指圧であり、楓の望む位置に合わせてやってみればこれが結構好評で、頼まれたら応えようと思った。
何か事あるごとに部屋で二人きりになっている二人だが、こうなることへの抵抗感がどこかへ行っている。これに関しては二人とも全く気付いていない。
指圧による幸福感と快感で、時々楓が嬌声に近い声を出しているが、幸いにもボリュームが抑え気味であること、隼人が特にその辺を意識してないこともあり、
「よし。こんなところかな」
「ええ。とても助かりますわ……」
非常にご満悦な様子なのが声から伝わり、応えた隼人も満足である。マッサージ中に隼人が汗をかいていたので楓、隼人の順でシャワーを浴びてその汗を流した。
その後は二人分のコーヒーを用意して、それを飲むことにする。
「そう言えば、一つ気になったのですが……」
「どうした?」
ガーデンを卒業すれば、リリィたちは各々が本来過ごしていた場所に帰る、それは楓も例外ではない。
結梨の場合は隼人が過ごしていた施設へ帰る為、ここは例外に当たる要素だが、隼人もこの例外の一人である。
だが、結梨のようにもうそこ以外ない──と言われれば、それは少し違う。
「ガーデンを去った後、あなたはまたあの施設に戻りますの?それとも……その、幼馴染みの方のところへ?」
「俺か?まだ分からないな……もう少ししたらあいつ同伴で、親御さんに顔見せに行くんだけど……その時の話次第じゃないかな?でも多分、迎えられたら応えるとは思う」
「そう、ですのね……」
「(……?妙だな。楓にしては歯切れが悪い)」
一瞬だけ言うのを躊躇ったであろう問いかけと、納得しているようでしていない様子に隼人は気付くが、変に追求するのも良くないと思い、今は問わないことにした。
隼人の言っていた幼馴染みが女子であることを覚えていた為、楓は気になって今回問いかけた。
今回の回答には何とも言えないモヤモヤしたのを感じており、今後のことを考えると後者の方がきっといいのだが、できれば前者であって欲しい気持ちもある。
だが、最終的に選ぶのは隼人である為、自分から口出しするつもりは無い。あくまでも問いかけだけで終わらせるように楓は自制心を働かせる。
「まあでも、最悪どこかで一人暮らしできる場所探したり、用意してもらってそこで過ごすかも知れないし……結局その時次第だな」
「……」
自分のモヤモヤしたものを知ってか知らずか、隼人は第三の選択肢──。それも、こちらが一番スッキリできる内容を持ってきたことに楓は一瞬目を丸くするも、すぐに笑みを浮かべて肯定を返す。
ちなみにこの回答、隼人は至って自然に思いついたことをそのまま言っただけであり、もしこれを楓が知ったら思わず吹き出すことだろう。
その後は他愛ない話をしながら、コーヒーを飲み進めていくが、この後今のような様子を、楓が見せることは無かった。
「(やっぱり、楓にはこっちの顔をしてもらいたいな……。その為にも、取り決めしたことは守ろう)」
「(気を遣ってくれたのでしょうか……?ですが、それは嬉しいですわ♪)」
──この時間、またできないかな。二人してそう思いながら、この一時を過ごしていた。
* * *
「……!お姉さま、結梨ちゃんにみんなも……」
そして翌日の朝──今日から通常の生活に戻ることになる梨璃が収監室のドアを開けると、一柳隊全員が顔を出していた。
これについては夢結から全員で迎えに来るのを決めていたと話し、梨璃もそれで納得する。
「あら?梨璃さん。髪飾りはどうしましたの?」
「実は……これ、ダメになっちゃって」
真っ先に違和感に気づいた楓が問いかけると、非常に寂しそうな笑みと共に欠けてしまってダメになった髪飾りを見せてくれる。
──これ、作ってて正解だったな。それを見た隼人は偶然の巡り合わせに驚いた。
「でしたら、こちらをどうぞ。作っている途中も、果たして必要になるか分かりませんでしたが……」
「楓さん……」
楓が作った髪飾りを見て、何かあったのか梨璃がひくついた声を聞かせ、涙を流し始める。
何があったのかと、問いかけて見れば、髪飾りの方は確かに嬉しく、別のことにあるようだ。
「私……っ……あの時……何もできなかった……結梨ちゃんが飛び出して、隼人くんが追いかけた時……梅様についていくだけで……」
この悔しさと無力感は、いくら紛らわそうとしても収監室で過ごしている間は何度も思い出させられた。
だが、必ずしもそうかと言われれば、それは違うと結梨が答える。
「……結梨ちゃん?」
「私、梨璃が連れ出してくれた時……凄く嬉しかった。あそこで過ごす時、寂しくなかった」
「……!」
──大丈夫。梨璃はもう、
それどころか、梨璃が見つけてくれなければ、結梨はここで過ごすこともできず、そのまま死んでいたと考えれば、彼女は結梨の命を救ってもいるのだ。
「いいのよ、梨璃。今は泣いて……吐き出せる内に吐き出してしまいなさい」
「お姉さま……っ……うぅ……っ……」
抑えられなくなって、無理に抑えようとしている梨璃を見た夢結が寄り添い、優しく促す。溜め込んだ結果、自分がああなってしまった以上、それだけは阻止したかったのだ。
その一言を貰ったのを皮切りに、それを抑えることは無くなった。涙ともに、その悔しさを吐き出していく。そうして自らの気持ちに整理をつけることで、梨璃はまた新たな気持ちで日常に戻っていく。
今日から授業再開──。と、なるかと思えば、今日が祝日なので休みになっており、それは明日からになっている。
こうして収監が終わった梨璃は、朝食は自分で好きなものをと言うガーデン側の意向でまだ何も食べていないので、空腹感に襲われた。
「でしたら、用意もありますので、移動しましょうか」
神琳、隼人を筆頭に、軽食をそれぞれ用意した人たちからの差し入れが入る。
「食べきれないなら昼に残りを……ってのでもいいと思う」
「うん。ありがとう」
ちなみにこの軽食を作ると決めたのは隼人だが、理由は自分が病室の飯を取った時に考えたことがある。
それは、『自らが選んで食べ続ける同じく飯は美味い』が、『自らが選ばず食べ続ける飯はやがて寂しくなる』であり、梨璃が後者の状況に陥るのを危惧していたのだ。
この考えを伝えると、それは大変だと同意をしてくれた神琳と、他にも名乗りを出した数名用意した。
隼人らと違い、軽食作りに参加しなかった人は新しいハンカチやその他諸々の生活用品を買い出してプレゼントしている。
これ以外にも、ラムネが全員分あるが、最初は夢結が梨璃の分だけを予定していたのだが、どうせなら全員分にしようと言う梅と発案と、結梨の後押しでこうなった。
まだ、差し入れの軽食もどうせならみんなの朝食にしてしまうことにし、ラムネと軽食で──と言う、一風変わった朝食を一柳隊全員で取ることになる。
「そう言えば……その髪飾り、いつ作ってたんですか?」
「夜に合間を縫ってですわ。内緒にしておきたかったので」
ちなみに、結局それを作っているのは隼人以外には知られておらず、それも明かすつもりは無いので、それを知るのは誰もいないだろう。
「(私、強くなる……)」
──それで、今度は私が結梨ちゃんを……。いつもの日常に戻りながら、梨璃は静かに決意した。
* * *
これでアニメ10話分が終わりです。
以下、解説入ります。
・如月隼人、楓・J・ヌーベル
お互いの距離感が結構縮まって、大分気を許せるようになってる。
できれば一緒にいたいのだが、現在のままだと隼人が将来的に厳しい(現状ほぼ世捨て人)。
一葉のとこの養子にしてもらえるか、どこかで一人暮らしできればワンチャン。
・一柳梨璃
この子がいなければ、結梨の人生は始まっていない。本来の髪飾りはほぼ原型を留めている。
今回の決意を胸に、再び訓練を進めていくことに。
・一柳結梨
この子の墓標は存在しない。全ては梨璃がきっかけをくれた。
実は梨璃無しであの施設に逃げた場合、自分が人じゃないかも知れない不安に押しつぶされていた危険がある。
今後アニメ版準拠の展開はどのようにしてほしい?
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今みたいな感じで大丈夫
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もうちょい細かめが嬉しい
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サクサク気味がいい