アサルトリリィ -RED THISTLE- 作:ブリガンディ
「へぇ?この額でトイレとキッチンは勿論、風呂まで付いてくるのか……」
「あら、自分の考えでも出しておくつもりでして?」
「その時になってからでいいとは思うんだけど、一応ね」
その日の夜──。自室で隼人はいずれ過ごすかも知れない、新居にできそうな場所を探していた。
どこかへの逃げ道も当然用意する必要はあるが、比較的住みやすく、知人とも近い場所を基準に選んでいる。
結梨は立ち位置上どうやっても由美たちに託すしかないが、隼人はまだ選べる。その為にも、リリィらしい動きをするつもりではいる。
「いいんですの?日の出町の近くで……」
「慣れてる場所の方が過ごしやすいと思ってね……まあ、思い切って変えるのもアリなんだけど」
そうして、未来に目を向ける隼人の表情は明るい。心なしか、目も輝いているように見える。
自分が恋したのもあるかもしれないが、それでも初めて会った時とは雲泥の差だった。
「もし、よろしければなのですが……こちらはどうでしょう?」
「随分遠い場所だな……いや、待てよ?俺が見つけた場所より広いし、条件も中々いい……」
自分が探している区域から市や県どころか、国すら離れているが、それでも住居としては自分が求める限り最高レベルのものである。
そして、これを見て隼人は楓に何か狙いがあることも察していた。
「その、わたくしの家元の近くでして……。こちらで過ごして見ませんこと?」
「いいのか?俺……言っちゃ悪いけど、ほぼ世捨て人も同然なんだぞ?」
「……ダメでしたら、わざわざ誘いませんわっ」
自分の立ち位置のせいで非常に危険な選択肢であることを理解していた隼人が聞いてみると、楓は本気だった。
どことなく頬が朱色になっているように見える横顔からは、「断ってもいいが、せめて望みある結果で終わりたい」意思を感じさせる。
だが、今後の出撃報酬次第では全然余裕を持って過ごせる可能性はある為、その選択を全否定する理由もない。自分の決心さえできればここで過ごしてもいい。
その為、隼人は前向きに考える旨を返した後、彼女の右手の甲にそっと左手を乗せる。
「は、隼人さん……?」
「ありがとう。俺の為に考えてくれて……」
笑みと共に告げれば、楓が驚きと共に顔を真っ赤にした。
* * *
「……正体不明の飛行物体が接近中?」
「ああ。何でも百合ヶ丘の近くに落ちるって予測らしいから、全員が避難することになったゾ」
翌日──。緊急事態を前に、隼人ら百合ヶ丘のリリィは近くの避難所に移動することになった。
当然、隼人も彼女らと共に行動することになり、いざという時のCHARM、連絡用のイヤホン等、最低限だけ持って移動する。
「(由美さんたちの場所……は、無理だな。スペースが足りなすぎる)」
当然、この選択肢はできない。隼人が百合ヶ丘を脱退する前提なら自分だけはできるが、その選択は余りにも不義理だ。
故に、隼人からアプローチできる方法は無い。せいぜい、無事の避難を祈るくらいである。
実際、彼女らもその飛行物体が地球を一周しながら落ちてくるのもあって、万が一の避難の用意を始めていた。この為、どの道そこへ避難してもまた避難の始まりで意味がない。
「(あの時、一葉もこんな想いをしてたのかな……?)」
せっかく戦うための術を学んだり、力を得たものの、それを活かせることは無く、ただ皆と共に逃げるだけ──。この歯がゆさを、あの惨劇で一葉は経験したのだろう。
そして、自分がこう思うのなら、自分以外の誰かも感じているはず。となれば、それを口にすることは無く、隼人は己をセーブする。
こうして割り切ると、今度は携帯食料等の問題が出てくる。レーションの一つや二つは持ってこれたら良かったと今になって思う。
一度死にかけている身としては、空腹は非常に危険な状態だと認識している。確かに、ものを食う分には味のいいものを──。と思うが、背に腹は代えられない。
「あ、あれ……?」
「梨璃さん、どうかしまして?」
「お姉さまがいない……」
「……ホントだ。どこにもいない」
楓が聞いて、鶴紗が気づいて一柳隊全員が気付く。
ここで考えられることとしては、真っ先に一人で逃げるような人間ではない。となれば、何かに備えて待っているのか?そんな予測が出てくる。
「けど、待ってるって……何に?」
「まさかですが……例の飛行物体にですか?」
「ええっ!?ま、まさか……戦ったりするんですかぁ!?」
「そもそもじゃが、待ってたところで無事に戦えるのかの……?」
大丈夫な確率は低い。何しろ、落下による影響にやられる危険が高いからだ。
仮にそうだとしたら、急いで呼び戻さねばならないが、とうとう例の飛行物体が地面に落ちる寸前になっていた。
「あの距離なら、ガーデンには……」
──落ちないな。と、言おうとしたところで落下の衝撃が伝わる。
何やら三つほど物体が地面深くに刺さったらしいが、それ以降特に動く様子は無い。
代わりに、何かがあったのか、薄黒い結界らしきものが自分たちを含め空を覆った。
「私、戻って様子を見てきますね」
それを聞いて、楓と結梨が随伴を宣言。早速二人でマギを使った跳躍による移動を試みるが──。
「「っ……!?」」
「結梨ちゃんっ!」
「楓!」
二人が体制を崩したので、梨璃と隼人で咄嗟にフォローを入れる。
聞いて見たところ、マギが入らないと言う旨を返されたので、隼人も確かめてみる。
「……ダメだ、俺も入らない。この空が影響してるのか……?他の人たちは?」
「……!私もダメだ」
鶴紗が確認してくれた後、他の人も──少なくとも、一柳隊は全員CHARMが動かないことを確認した。この為、隼人は原因の分析を始める。
流石に工廠科の整備不良は有り得ない。そして、意図的にCHARMを動かなくするような外道もいないのを記憶している為、残りはこの空が原因となる。
「私、先に行ってますねっ!」
ともあれ、梨璃のみしか動けない現状、何か理由があるし、梨璃が動ける以上、夢結を探しに行けるのは彼女しかいない。
こうなれば送り出すしかなく、ガーデンへ飛び去るのを見送った後、改めて理由を考えてみる。
「これがCHARMの起動を邪魔してるのは間違いないな……」
「ええ。ですが、梨璃さんだけ動けた理由は何故ですの?」
全く分からないことだらけだが、こうなると梨璃を信じるしかない。
であれば、自分にできることをできないなりにやるしかないのだが──早速一つ見つけた。
「結梨、気持ちは分かるけどストップだ」
「隼人……」
それは、今もなお何度もマギを使った跳躍を試みる結梨を窘めることだった。
動きたくても動けなくて、それが悔しいのは皆同じ──それを伝える。
「だから、今はその時を待つんだ。焦ったって何にもならないからさ」
「……うん」
そうやって窘めることにより、隼人もまた己を抑えるのであった。
何故抑える必要があったのか──。それは、日の出町時のように誰かを助けられないことへの焦りで、これを自らがやるべきことと、結梨を救えた時と今の違いで相殺を図る。
「(行くなよ……?間違えても行くんじゃないぞ……今行ったところで無駄死にするだけなんだ。結梨の時だって、可能性があったから走れたんだ……見つからない今はダメだ)」
そうして焦る気持ちをどうにかして抑えようとしていたところに、誰かが自分を抱き留めてきた感触が伝わる。
誰かと考えたが、自分に体を寄せて来たものの柔らかさと匂いで
「今は待つのでしょう?でしたら、待ちませんと……」
「ありがとう、助かるよ。楓……」
彼女が自分の胸元に出してきた左手を、空いている左手でそっと触れる。
こうして隼人は己を落ち着かせ、自らを律することができた。
「(梨璃、無理だけはするなよ……)」
──誰かが死ぬより、全員で逃げた方が全然いいんだからな。飛び立った梨璃の無事を祈らずにはいられなかった。
* * *
避難によって人気の感じない百合ヶ丘にて、一人の少女がCHARMを手に持って残っていた。
誰かと思えばそれは夢結であり、無自覚に発動してしまいそうなルナティックトランサーの狂気に対し、必死の抵抗をしていた。
「(あれからずっと……美鈴様の幻を見てから嫌な予感がしていたけれど、アレのことね?)」
寮の自室から見える、赤い体を持つ巨大なヒュージを見て、夢結は確信した。
どんな能力を持っていて、どれだけの強さをしているかは知らない──。だが、アレだけは何としても打たねばならない。しかし、CHARMが反応する様子は無いし、一人で行ったところでどうしようもないが、今にも飛び出しそう。そんな雁字搦めな状況下に置かれていた。
しかしながら、どれだけ必死に抑えようとしても、もう持ちそうにない。自分を誘う何かに釣られ、そのまま一歩を踏み出してしまいそうになる。
「お姉さまっ!」
「……!」
それに待ったを掛けたのが、空いている窓から入って来た梨璃である。
だが、それと同時に夢結は気づいた。自分のCHARMは碌に動いてくれないのに、何故か梨璃のCHARMは正常に動作していることに──。
「どう、して……?」
「お姉さま……?」
「どうして、あなたのCHARMは正常に動いているの……?」
「まさか、お姉さまも……?」
この状況を見れば、梨璃にだけ動ける理由があるのは明白だった。だが、それが何かは分からない。
しかしながら、夢結は一個だけ考えられることがある。
「まさか、あなたもカリスマ……?」
「私が……カリスマ?」
カリスマと言うレアスキルは所有者が希少故に、情報が少ないが、邪悪なマギの力から身を守り、近くのヒュージ側のマギエナジーを反転させて己のものとし、入りきらないものは周囲のリリィに帯びさせるものだと言われている。
大雑把に言ってしまえば、敵を弱体化させ、己と味方を強化するものだと言える。
しかしながら、相手の記憶を操作したり等物騒な能力も有しているような記録もあり、自らのシュッツエンゲルであった美鈴がこれを所有していたことから、夢結は梨璃も自分を操るのではないかと警戒してしまった。実際、美鈴が自らのダインスレイフを手に取ってヒュージへ向かった後、その記憶が無い為に考えてしまったのだ。
だが、そう警戒してしまった自分にも嫌悪感が湧いてくる。どうやったって梨璃がそんなことをするような人柄をしていないからだ。
「美鈴様と梨璃……カリスマ……っ……!そういうこと……!」
「お姉さま……!?どこへ行くんですかっ!?お姉さまっ!」
それと同時に、何かに気づいた夢結は身を翻して部屋を後にする。
完全に予想外な行動に出遅れてしまった梨璃は慌てて追いかけようとするも、部屋を出た時点で姿を見失ってしまった。
「どこに行ったの……?」
あの様子の夢結は何としても見つけねばならない──。そんな確信を抱いた梨璃は、捜索の為に走った。
* * *
* * *
「(あった……ダインスレイフ)」
夢結がその後どこに行ったのかと言えば、百由のラボで、そこに置かれているダインスレイフに用があった。
登録者は現在美鈴のものになっていたが、元は自分のものであったこと。隼人が結梨に譲った時と違い、正式に登録解除をしていないことの二点がある。
この二点が重なり、このCHARMを自分が使える可能性。カリスマ所有者の美鈴が使っているのなら、このCHARMが正常に動く可能性を残しており、一縷の望みに掛けてそれに手を触れる。
「まだ、私を覚えていたのね……」
その結果、夢結に反応し、正常に動いてくれることが判明する。理由の是非はこの際後回しだし、分からなくてもそれは仕方ないと割り切る。
ただ、ヒュージと戦うための力が残されている。それだけでも十分であり、自らの目的は果たされた。
──ならば、やることはただ一つだ。狂気に呑まれながらも、明確に分かっている一つのことを為す。
「あのヒュージを……私が討つ……!」
狂気に抗うのはもう限界だ。あのヒュージを討つまで、もう止まらないだろう。
一度抵抗の意思が薄れた後は早く、夢結は他のものには一切目をくれずに走り出す。
「っ!?お姉さまっ!」
すれ違った梨璃の声も届かず、そのまま走っていく。
不味いと思った梨璃も急いで追いかけるも、夢結の方が圧倒的に早く、自分が到着する頃には戦闘が始まってしまうだろう。
「急がなきゃ……!お姉さま、結梨ちゃん、みんな……待って下さいっ!」
──今、私が助けますっ!大切な人たちが死にゆくことないように、梨璃は足を速める。
急ぐ梨璃がガーデンを再び出た頃、夢結は現れたヒュージを捉え、斬りかかるべく飛び込もうとしていた。
ちょっと短いですが、11話はこれで終わりになります。
以下、解説入ります。
・如月隼人
卒業後の新居探しは、施設から旅立つ可能性を考慮して。
楓と約束して間もないのと、今現在直接的な解決手段も無いので、飛び出すことができない。その為、結梨を落ち着かせることに。
何度も体を密着させた影響で、楓の接触に大分鋭敏になった。本人は特別悪いと思ってない。
・一柳梨璃
原作と違い、飛び出した夢結を追う形に。
本来はガーデンへ戻る際に、ノインヴェルト用の特殊弾を楓に渡していたが、今回は……?
・白井夢結
原作と違い、梨璃よりも先に飛び出して戦闘直前。
梨璃にマギが入っていないことを指摘されるより前に気づけたのは、本来より心境がマシだったから。それでも雀の涙程度だが……。
・楓・J・ヌーベル
あわよくば、卒業後も隼人と顔を合わせるくらいはしたいと考えている。新居の紹介はそれが理由。
本来なら、梨璃に体を支えられた時に特殊弾を渡されているが、今回は隼人に支えられている。なら、特殊弾は持っていない……?
・一柳結梨
梨璃や彼女と一緒に過ごすガーデンの皆を守りたい。何度もマギを入れようと躍起になっていたのはそれが理由。
今回、梨璃に支えられたのはこっち。なら、特殊弾を持っているのは……?
次回から、アニメ本編の最終話分が始まります。
ラスバレ編は読みたい?
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