アサルトリリィ -RED THISTLE- 作:ブリガンディ
隼人が一葉の家の養子になる誘いを受けてから早一週間と一日──つまり、あの大型のヒュージと戦ってから十日がたち、梨璃と夢結がヒュージネスト破壊を実行してから九日経った日になる。
この日、百合ヶ丘に──中でも一柳隊にとっての大きな朗報が入ることになる。それだけ待ち望んだものである。
「本当ですかっ!?梨璃さんと夢結様が見つかったって……!」
「梨璃たちに会えるのっ!?」
「ええ。座標もバッチリ補足しているわ」
それは、隼人以外のCHARMの修復が終わり、そこからずっと捜索していた梨璃と夢結、両者の行方である。
見つかったなら早速現地に向かうことになるのだが、空腹に飢えてるかも知れないので予め用意していた食事と、万が一に備えて隼人の所有している膝辺りまで届く上着二着を持っていくことが決まった。
これらの運搬は隼人がバイクに乗って行うことになり、CHARMが届いておらず、戦闘力の無い彼を護送する為、後部座席に楓が座ることになる。
一応、ヒュージネストを破壊した今、ヒュージは暫く出てこないのだが、別の所から流れ込んで来たヒュージへの対抗を考えてである。
「(毎度思うけど、やっぱ凄いな……楓の。いや、これだけで決めるのはダメなんだけどさ?)」
「(いい反応……やはり、押し付けるならこうですわ♪まあ、他のところも加味して決めて欲しいのですが)」
風に揺られながら、ほぼ同じようなことを考えていたのは完全に偶然である。
そうして現場に到着した後、隼人は後部座席に入れてある上着を楓に託し、暫くその場で待機することになる。
「これ?」
「ええ。それに軽く触れれば解放されますわ」
そして、浜辺にある黒い球体を見つけた。これがコクーンであり、この中に夢結と梨璃がいるのだ。
楓の説明に従い、結梨はCHARMでそれを軽く小突くと、風船が割れたような音と共にコクーンは破裂し、下着姿の状態の梨璃と夢結がそこにいた。
『……!』
「やっと……!やっと迎えに来れました……!」
二水を筆頭に皆、それぞれのように喜ぶ。一週間以上いないというのは、やはり長かったのである。
それと同時に、二人揃って下着姿だったので、二水がよく発行するリリィ新聞に無事とは違う意味で取り上げられそうだと言う声もあったが、皆でまた会えたのだから、それは些細なことだろう。
「お……!お二人して何て恰好でイチャコラしてらっしゃいましたの……!?」
また、ずっとその格好で一緒にしていたとなれば、流石に楓も気が動転する。
自分も梨璃とそうしてみたかったと言う願望はあるが、それはそれ。一度己を落ち着かせて、隼人から預かっていた上着を一着ずつ渡し、彼を呼びに戻る。
「梨璃っ!お帰りっ!」
「うん。ただいま、結梨ちゃん」
歓迎の声と一緒に、涙目で結梨が抱きついて来たのは寂しさから来るものだと理解し、梨璃は優しく抱き返す。
「まあ流石に男性ものか。サイズが合わないな」
「ええ。想像より背丈高いわね。彼」
それなりに背の高い方である夢結だが、彼の背が更に高いのもあり、袖の中に手が隠れてしまっている。
「お待たせしました。これをどうぞ」
──流石に一週間以上何も食ってないんじゃ、腹も減るでしょう?そう問われた二人が少しだけ考え込むと、腹の虫が盛大に音を鳴らした。
* * *
* * *
梨璃と夢結が帰って来た朗報は瞬く間にガーデン内に広がり、その日の内に祝うパーティーまで開催されたのは夢にも思わなかった。
「(それにしても凄い元気だな……)」
その会場の隅に避難した隼人は一人、大きなあくびと共に内心感心する。捜索していたと言うのに、複数人で集まって元気にしていた。
隼人も今の状態でなかったら混ざっていたのだろうが、それでも程々に切り上げ、最後は今みたいになっているだろう。
元より輪の中心にいたがるタイプではなく、本来はこういった隅っこで特定の人と話したりしているのを好むタイプである為、ようやく気が楽になったとも言える。
「こちらにいましたのね」
「もうあっちはいいのか?」
「皆さん揃って、それぞれの方に行きましたわ」
楓の指さす方を見れば、大体は一柳隊の中でよく見る二人組か三人組、或いは別のところに混ざる形でまた分かれていた。まとまって話す時間は終わったのだろう。
つまるところ、楓は自分と二人の時間を過ごしたくてこちらに来たのだろう。であれば、いいところまでは持たせて見せると決める。
「俺さ……
「それは何よりですわ。梨璃さんを始め、ここにはあなたがいい方だと思える相手が多かったのでしょうね」
「確かに、そうかも知れないね」
彼女の言う通り、根のいい人たちが百合ヶ丘には多く、隼人自身も非常に過ごしやすかった。
例えそうでなくとも、ヴァイパー討伐への義理もあって残っていたとは思うが、その場合は距離を置いていただろう。そうならなかったのは、彼女らのおかげでもある。
「正直言うとさ、ヴァイパーを討っても討たなくても、俺はほぼ世捨て人になるとは思ってたんだ……でも、今はこうしてガーデンで過ごしてるし、何ならまともな帰る場所ももらえた……」
──まともな生活は送れないと思ってたけど、俺は贅沢者だな……。呆れたような、しかしながら嬉しそうな表情を見せながら、隼人は自らの現状を評価する。
ただ、完全に欲しい回答は引き出し切れておらず、それを引き出すべく楓は彼の右腕に自らの膨らみを押し付ける。
「その贅沢の中に、わたくしとの時間は入ってまして?」
「もちろん。っていうか、入らない方がおかしいくらいだ」
「……!ふふっ。そう言うところは迷わず言いますのね?」
だが、はぐらかされて分からないよりも、この方が全然いい。楓はそう思える。
恐らく、隼人は自分の考え方、感じたことに正直なのだろう。今までの会話や言動を振り返って楓はそう分析した。
そして、その正直さ故に、人間関係で苦労した影響で「人付き合いは苦手」と言っていたのだと考えられる。感情への配慮が下手だったのも、自らに正直すぎるからだろう。
これと同時に、香織やもう一人の幼馴染みとはこの正直さが上手く作用していたのだと考えられる。更には、その上手く作用した例に自分も含まれたのだと。
「多分、この先も色々苦労を掛けるとは思うけど……」
「そこはご心配無く。ダメなものはしっかりと止めますので」
──その代わり、進むべき時は背中を押しますわ。本当にありがたい味方を得られたと感じた隼人は、素直に礼を言うのだった。
* * *
パーティーが終わった後、隼人は自室で一人己の状況を振り返っていた。
「(楓は俺のことを想っている……なら、俺はどうだ?)」
それは楓に対する自分の想いである。向こうの想いがこちらに伝わった以上、尚更真剣に向き合う必要がある。
当然、適当に済ませるつもりなどさらさら無く、しっかりと考え抜いて答えを出すつもりである。
「(俺が気になっているきっかけは、一葉のことが絡んだ時だ……)」
こっちの問題点をハッキリと指摘してくれたのも確かにあるが、何よりもあの時見せた慈愛に満ちた表情と瞳だ。あの優しさが、自らを惹きつけている。
更には自分の為に泣いてくれたり、自分に気を惹こうと非常に分かりやすいアピールが来たり、自分の中での意識が日を追うごとに強くなっているのは確かだ。
「好きか嫌いかで言えば、間違いなく好きだって言える……」
恐らく、自分が異性に求めるとすればダメな所はダメとハッキリと言えると同時、いい所はいいと言える人。そして、自分のことを想ってくれるのが分かりやすい人だ。
そう言う意味では楓は合致しているし、それを抜きにしてもいい人だとハッキリと言える。
「何か一つ……決定的なきっかけさえあれば、確定できるかも知れないな」
この辺りは慎重になっているかも知れないが、それだけ大事に考えている証拠でもある。
故に、その何かを渇望しており、それが自らの答えを出す足掛かりになる確信をしていた。
「(そのきっかっけ、俺に見つけ出せるか?いや、違うな……)」
──俺自身で、何がきっかけかを見出すんだ。復讐者を終えてから早数十日、少年は己の答えを見つける戦いに赴いた。
* * *
それから更に三週間が過ぎた日──。遂に時がやって来た。
「お待たせしました。こちらをどうぞ」
「こいつが、新しいCHARMか……」
「ええ。名を『ヘリテージス』と言いますわ」
「ヘリテージス……確か、『受け継いだもの』を意味する言葉だっけ?」
──合ってるじゃん。新しく届いた白いCHARMを見て、隼人はそう口にした。
継承者と訳すのが良さそうな名を冠したことに対して、楓が自分のことをしっかりと見て決めたんだろうと推測する。
他にも、『運命』の意味を冠しているが、そこも命名の際は織り込み済みだったりする。
「じゃあ、早速だけど……」
「始めましょう。
自らの中では三回目となるCHARMの登録を始める。
暫くすると、登録の完了したCHARMが白い長剣を模した状態に形を変えた。
「俺に合わせて作られてるからかな?前より時間がかからなそうだ……」
「あなたが慣れているから、と言うのもありそうですわね」
この後は馴染ませていくだけであり、今日はこれに徹していくことになる。
こうなれば明日から訓練に参加できるようになり、実戦になるまでの間に慣らしていくだろう。
「これで、俺はまた戦場へ行けるし、行くことになる……」
「行くな、とは言いませんわ。リリィは誰しも、自らが行くと決めて赴いている人たちですもの」
自分も、隼人も、他の人たちもそれは皆同じなのだ。誰かだけを特別ダメと言って引き留めることはできない。
であれば、戦場絡みで何かを頼む場合は別のことになる。離れ離れが嫌なら、別の頼みをするのが正解だ。
「ですが、帰って来てくださいね?わたくしも、みなさんも待っていますから……」
「必ず帰るよ。みんなの……何よりもお前のところに」
楓が隼人の胸元に左手を当てながら願って来たのを、隼人は左手で触れながら承諾する。
この約束を胸に、隼人は以後の戦場へ飛び込んで行くことになる。
「(気づいているかも知れませんが……あなたに生きてほしいと思う人は、想像よりも多くてよ?)」
「(これだけ想われるって、俺は幸せものなのかもしれないな……)」
小さな幸せの中で、隼人は己が恵まれていることを改めて感じ取るのだった。
理不尽な出来事による不幸から復讐者となった少年は、時間をかけて──しかしながら着実に、心に平穏を取り戻して行っていた。
Q.ヘリテージスの名前はどっか参考にした?
A.『GOD EATER2』より、『ギルバート・マクレイン』が使用する神機のブレードパーツの名称から。全く同じ名称。参考元が槍だが、こっちは普通に剣型CHARM。
これにてアニメ本編は終了です。
以下、解説入ります。
・専用CHARM ヘリテージス
グランギニョルで注文開発された隼人用の個人宛CHARM。
意味は『受け継ぎしもの』、『運命』。さしずめ、「力と信念を『受け継ぎ』、自分のものに昇華させ、『運命』に抗う」と言ったところで、楓が『己から見る隼人』を意識して命名した。
CHARMの特性自体は本人が愛用していたブリューナクに似ているが、隼人の戦闘データ等を参考に、主に反応速度を強化している。
シューティングモードはバスターキャノンのみにされており、これもブリューナクを意識しているところがある。
・如月隼人
現在、楓への好感度はおよそ80%程。後20%がまだ分からない。
着実に己の心境に平穏を取り戻して来ている。これを守るなら、全員で戦い抜き、生き残ることが大事。
・楓・J・ヌーベル
ヘリテージスの命名者。帰ってきて欲しい願いを元に命名しようかと考えたが、それでは隼人の足かせになりかねないので、この形に。
代わりに、帰ってきて欲しいことは直接的伝え、それは受諾された。
・一柳結梨
レギオン皆がそうだが、誰よりも梨璃に会いたがっていた。今回抱きついたのはそれが理由。
最後に、アンケートの方ありがとうございました。
圧倒的に読みたいと言う方が多かったので、ラスバレ編をやろうと思います。
やるのは29話時に考えていた通り、メインストーリー1章と、一部イベントシナリオです。
その際、メインストーリーをやる前に、隼人が絡んだ状態でイベントシナリオの内どれか一個をやろうかと考えています。
ラスバレ編の投稿開始はプロット整理も兼ねて少しの間休憩期間を設け、その後から始めようと思っていますので、その間にみたいイベントシナリオのアンケートを行ないます。以下の中から回答していただけると幸いです。
今回のアンケートで選ばれなかったもの、または今回のアンケートにないけどできそうなものは、メインストーリー1章が終わった後にやっていく予定です。
それでは、ここまでのご愛読ありがとうございました。
ラスバレ編に付き合ってくれる方は、またその時によろしくお願いいたします。
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