アサルトリリィ -RED THISTLE- 作:ブリガンディ
翌日の朝──。一柳隊のメンバーはガンシップに乗って早速新佐世保港に向かって出発することになる。
「(由美さんに聞いてもそんな情報は無かったし、後は現地で事を知るしかないか……)」
昨日の時点で確認を取った結果、隼人が出した結論はこれだった。昨日に続いて明らかに様子がおかしい以上、何か原因があるはずだ。
担当の場所がどうなるかは実際に行ってみてからだが、彼女が暴走しないことを祈るばかりだった。
「(……あっ、そうだ)」
思い立ったが吉日、隼人は楓に声を掛けることに決めた。
「どうかしましたの?」
「ああ。ちょっとな……」
あまり周囲に不安を煽っては行けないと考えてたので、この二人の間で神琳に関することを連携しておいた。実際、そういうところに敏感な結梨が不安を感じている為、あまり長続きさせるわけにも行かない。
これは放置できない問題だと感じ、楓は一つの提案を出す。
「でしたら、こうしましょう。分担が必要な時は神琳さんと組ませますので、そのまま彼女をマークしてもらいますわ」
「分かった。なら、そうするよ」
恐らく数人ずつで分散して活動する可能性が高いので、楓はそのように答える。
色々無茶を言っているかもしれないと思っていた隼人だが、案を通してもらえるだけでも助かった。
「けど、いいのか?こんな独断みたいなこと……」
「本当はあまりいいとは言えませんわ。実際、あなたの言っている通りですし……けれど、今回は仲間を配慮した上での打診ですから」
それに──と、楓は付け加えの前置きを作る。
「そうやって話してくれる分、あの時よりは全然いいんですのよ?」
「……うるせ。もういいだろ?アレは」
どこかイタズラっぽさのある笑みをみせる楓に対し、隼人も少し困った様子の笑みを返すのだった。
* * *
* * *
新佐世保港に到着して全員がガンシップを降りて現地に足を付けるや、トビウオを思わせる見た目をした多数のヒュージに歓迎された──。
「……?攻撃してこない?」
──のだが、いきなり大ピンチと言うことはなく、攻撃してくる様子が全くなく、ただただ真っ直ぐ、ゆっくりと進んでくるだけだった。
この新佐世保港に現れたヒュージは攻撃性がなく、出てきた被害も倒しきれなかったヒュージが建物等に激突しているくらいのものである。
とは言え、ヒュージであるのは事実で、これを放置する理由は無かった。その為、複数人にメンバーを分け、分担してヒュージの殲滅に向かうこととなる。
「(神琳……早まったことをしなきゃいいけど)」
気になりはするものの、今は信じるしかない。
「ヴァイパーを見たから驚きはしないけど、全く攻撃する気のないヒュージって結構変だな……」
「確かに。後、数が多くて面倒だね」
班分けに関してだが、神琳の様子の把握も兼ねて、隼人は神琳、雨嘉、鶴紗の三人と共に班を組ませてもらった。
そして、この会話はそれぞれ隼人と鶴紗の二人がそれぞれ出した所感であり、全く持って同感である。その影響か、二人共大体同じ感想を抱いており、それを後で話したら間違いなく二人そろって同感するだろう。
余裕ができたので一瞬だけ神琳の様子を見るが、表面的には平静に見えるも、どうも気が立っているとそのオッドアイの瞳が訴えているように見えた。
「(何があったんだ……?)」
その理由を探る時間はないので、今はヒュージの撃破へ集中する。
「(弾、結構使うなこれ……)」
弾数消費が増えてきており、もしかしたら最悪は近くに来るヒュージを薙ぎ払い続ける、ホームランダービー的なものを開催しなくてはならないかもしれない。
だが、一度ヒュージの襲来が止んだ後、一つ予想外の事態に見舞われる。
「……!あれは……一般人ですか!?」
「えっ!?直ぐに助けないと……!」
「隼人、行ける?」
「勿論!援護頼むよ!」
この中で最も機動力が高く、縮地で水上でも十分動けるのは隼人だけだった。その為、隼人が三人の援護射撃をもらいながらその少女のところに突貫していく。
補助として三人もついていくが、縮地が使える分、隼人の方が速い。その為、三人には退路を確保する手伝いをして貰う形になった。
たどり着くや否、直ぐに拾い上げ、片腕ではあるが抱きかかえる。ただ、水中にいる状況でヒュージに襲われそうになった影響か、パニックを起こして暴れていたので、何度もしっかりと支えなおす。
そして、さっきまでいた場所に戻ろうとするが、いつの間にか囲まれていたことから、今回のヒュージが音探知タイプであることが分かる。非常に弱いヒュージだが、それでも面倒なことには変わらない。
しかし、楓、二水、ミリアムの三人で組んだ班が援護に来てくれたので、そのまま離脱させてもらうことになった。
「あ、あれ……?どうして……?」
「よし、落ち着いたな……大丈夫?」
少しずつ落ち着いてくれたようで、少女はこちらの問いかけに返事した後、ヒュージがいない方向へ逃げていった。
それから間もなくして、ヒュージの迎撃は終わりを迎えたが、今回は最後まで最小サイズである、同一個体のヒュージしか現れなかった。
「終わった……?」
その為か、結梨も少し拍子抜けしたような声を出す。実際、非常に弱い同一個体のヒュージを何体も倒していたのだから、こうもなるだろう。
また、今回のヒュージのことを鑑みてか、神琳が救援要請に対して疑問視をする声を出し、これを見て隼人と雨嘉は勿論、話を聞かせて貰った楓も彼女に何かあったことを察した。
このヒュージの出現に裏があるのかもしれないが、今は今日の朝から不安を煽られてしまっている結梨の為に話を切り上げさせようとしたところ、もう帰っても大丈夫と言う連絡が来る。
「四人とも海水浴びてしまって大変でしたね……」
「ちょっと、海水浴するにしては時期がずれすぎてた……」
実際、秋の終わりが近づき始めており、水温はかなり低い。故に後で風邪を引かないか少し心配だ。
「早いところ着替えてしまいたいですね」
「そうだね。ザラザラした感じが……」
「まあ、塩あるしそれは仕方な……あっ」
『……あっ』
「……?」
海水に浸かってしまった三人がどういう状態かと言えば、それは制服のシャツから下着が薄っすら見えてしまう状態になっているわけで──。実際に見た隼人は面食らった。
それに気づいて、結梨を省いた九人も察した。本来なら女子しかいないからあまり問題にはならないのだが、今回は
「い、いや。その……ごめん」
少しずつ顔を赤くしながら視線を逸らして謝る隼人と、少しだけ赤面しながら胸元を隠す三人。それはそうだ。今まで全く気づかず会話していたのだから、気まずくもなる。
『(あっ、反応した……)』
とは言え、反応が年頃相応のものになってはいるので、少し安心もしたが。
それはさておき、隼人が毎度大変な想いをしてしまうので、少し控えよう──そう皆が心の中で決心したものの、それはそうとして隼人に身の思いをぶちまけたい者が一人いた。
「……隼人さん。少々、よろしくて?」
「えっ!?な、何の用で……?」
目が笑っていない楓を見て、隼人は素っ頓狂な声を上げながらそちらに顔を向ける。
──何でそうなってるの?と思ったが、少し話を聞けば理由はすぐに納得できた。
「……どうしてですの?どうして、わたくしの時はああでしたの?」
「お、おい?いや、それに関しては確かに申し訳……って、いやいやいやいや!最近の俺はそうでもないだろ!?」
「違いますのっ!最初!一番肝心な最初でしてよっ!?そういうのが戻っているのは既に確認済みでしてよ!?」
今だからこそ納得できる話だが、これを当時のように情が戻っていないままだったら完全に空気の読めない奴になっていた可能性もあり、後々で隼人は震え上がったことを示しておく。
とは言え、こんな会話を流石に無言で見ているかと言えば、そう言うこともなく。
「最初……?結梨と会った時かの?」
ミリアムを始め、事情を知らない人はこうなるのだが、残念なことにもっと前である。結梨に至っては終始頭の上に疑問符がつき続けている状態でもあるが。
「おや、何やらお困りのようだね?」
このままでは収集が付かない事態になりそうだったところに男性の声が聞こえ、その会話はようやく中断を迎えることができた。
* * *
その男性は救援要請を出した艦の艦長だったらしく、ずぶぬれになってまで民間人の少女を助けに向かった四人に対して着替えを貸してくれる話を持ち掛けてくれた。
服自体は軍服で、男性である隼人は一般のものを用意してもらえたが、女性の軍人が多くない都合上、他の三人は式典用のものを借りることになった。
これはこの艦長が自分たちの姿勢を気に入ってくれたところが大きく、その人が出す感謝の形がこうなったのである。
「先程はすみません。彼女、どうも昨日から気が立ってるみたいで……」
「いや、構わんよ。不甲斐ないのはこちらも事実だからね……」
その際に神琳が色々とこの人を責め立ててしまったので、一足先に着替え終わった隼人はその詫びを入れることにした。
とは言え、今回の襲撃は確かに自分たちでどうにか迎撃できたのは事実である為、艦長の所感は変わらない。
その為、何か事情があることは理解できただけよしとなり、神琳の件は一度終わりとなった。
「しかし、君も大変だな……今現在、男子のリリィは君一人だけなのだろう?」
「ええ。色々気を配る所は多いですね……でも、俺が選んだ道なので、そこは大丈夫です」
戦うことを選んだ理由のヒュージを討ったので、本当ならそこを去ってしまうこともできた。だが、隼人はそれを選ばなかった。
共に戦ってきた彼女ら──仲間を放ってそのまま去るのを良しとしなかった。それだけのことだが、それは
「我々も、君たちのような者が増えるのをどうにかしたいのだが、ああいうタイプくらいでないと効きが悪いものでね……」
「そのお気持ちだけでも嬉しいです。やっぱり、そう言うのを見過ごすの、難しいものですから……」
戦場に出るもの同士、その想いは同じだった。きっと、他の場所で戦う者達も同じだろうと思いたい。
隼人も最初こそ復讐──対象を殺してやりたい思いからCHARMを手にとって戦ったが、今は純粋に仲間と手を合わせて少しでも多くの人を守るために戦っている。
そんなこともあって、最初は感情のコントロールで苦労したのも少しだけ吐露していた。
「だが、コントロールできただけでも立派なものだよ。その憎悪による自滅を止められて、だからこそ仇敵を討てたのだから」
中学に上がる直前と言うこともあり、それに関して相当厳しかったはずだ。その術を教えた者の教え方が上手かったのだと考えられた。
それに関しては事実で、隼人はそのおかげで憎悪を開放しながら冷静に戦うと言う、人が聞いたら「何言ってんのコイツ」と言われかねないことをやってのけられたのである。
「(確かに、隼人君は怒りを見せながらもずっと冷静だった……)」
着替え終わっていた三人も、途中からその話が聞こえていたので少し落ち着くまで待っていたのだが、神琳はヴァイパーに対する隼人の状態に気づく。感情こそ激しているものの、判断や行動は終始自らを保ち続けていた。
それはつまり、隼人が精神面を安定させていた証拠でもあり、周囲の被害等にも配慮できていたのはそれが原因だろう。
この事実を理解すると同時に、一つの不安要素が彼女に生まれた。
「(もし、わたくしの危惧通りになって、そのヒュージと出会った時……わたくしは冷静でいられるかしら?)」
そう考えた瞬間、神琳は自分の内にある何かが急に脆く崩れやすいものに感じられた。
* * *
着替えが終わった後、観光を勧めてくれた艦長の言葉を聞いて観光に行っていた。
「(どうでしたか?)」
「(間違いなく何かあった……ってことは。今回のヒュージの件で気が立ってるし、何か知ってるかも)」
その間に、自然を満喫している様を装って、隼人は楓と状況の連携をする。
「(もしかしたら、直接聞き出す必要がありそうだ。その時は俺がやろうとは思うけど……)」
「(ええ。ですが、無理だけはなさらないように……ことが来るまで待った方がいいかもしれませんから……)」
時間で解決できるならそれが理想ではあるが、そう簡単にいくかは分からない。
それ故に、こうして身構えておくくらいしかできない。今はこれが精一杯だった。
簡潔な打ち合わせが終わった直後に梨璃の端末へ救援要請の連絡が届き、急いで戻ることになった。
今回のヒュージは前回のそれと比べて強いヒュージが多く、攻撃もそれなりにしてきていた。遅れてたら被害は大きくなっていただろう。
「(何だっけ……?前に、何かで調べたことあるような気がするな……)」
以前に調べたことがあったが、それはこの戦闘中には思い出せなかった。
仕方ないので思考を隅に置き、隼人は二体のヒュージに対して縮地を使って近づき、すれ違いざまに横薙ぎをするようにCHARMを振るい、纏めて倒して見せる。気になる事項はあるが、今は後回しだ。
一柳隊のメンバーの活躍もあって数は一気に減っていき、最後の一体は雨嘉の狙撃で撃破され、今回の襲撃も無事にやり過ごせた。
その後、少しだけ話を教えて貰った雨嘉が事情を聞くと、神琳が似たものを見たことがあるとのことで、それを皆に伝えたいと言いだしてくれた。
艦長にもダメもとで話の場として艦を借りたいと言ったところ、快く受け入れてくれた。
今回結構色々言ってしまったのでダメかもしれないと思っていたが、気に入る姿勢を持っていたことが大きかったのだろう。
「実は今回の襲撃、わたくしの故郷である
今回もその時と同じように、最初は弱いヒュージだけだったのだが、今回のように順番に強いヒュージが襲い掛かってきていたそうだ。
そして、台北は少しずつ押されていき、次々と被害が増えてしまっていったのである。
「その時の結果、その台北は今でも陥落状態が続いてしまっているわ」
ヒュージの侵攻によって、ガーデンが指定された範囲の守備を維持できなくなってしまった状態、或いはその地域のエリアディフェンスの機能が止まってしまった状態のことを陥落状態と言われる。
これ以外にも大型のケイブが根付いてしまった場合も挙げられるが、どの道人がいられない場所になってしまったことには変わりない。
話を戻すと、この台北でも起きたヒュージの襲来は、神琳が知っている通りであれば最悪のヒュージがやって来るとのことだった。
更に聞くと、どうも神琳には兄が三人いたらしく、その三人は当時台北での防衛活動をする人たちでもあったようだ。
「手紙で文通を送り合っていたのですが、途中からヒュージの話が増えてきていて──」
──そのヒュージが出現してからは、返ってこなくなりました……。その話を聞いて、隼人は一つ確認することができた。
ほぼ確信の段階まで来ているが、一応念の為である。
「その最悪のヒュージってやつ……神琳にとっては、俺から見たヴァイパーと
「……ええ。その通りです」
「分かった。ただ、そいつが来るまでは抑えるんだ。理由は、分かるな?」
回答がわかるや隼人の行動は早い。感情に関して自由にしたのは自分もそうだったからで、理性に関してはぶっつけ本番すぎるので何も言えない。
「ヒュージである以上、撃破を狙うのはそうですが、最低の場合でも、撃退に持っていきたいですわね……」
楓の出した方針は指揮を執る者の観点から出たものだ。撃退はまた同じような事態を招くかもしれないが、少なくとも当面はなんとかできる最低限だった。
「なら、元復讐者として俺からもいいか?」
「……隼人?」
別の観点から提案するために挙手する隼人だが、その様子を結梨が不思議に思った。何故なら、本来薄弱くなっていたはずの悲しみの匂いが、少し変わって僅かに強くなったからだ。
「そのヒュージを見つけた場合だけど……倒せる手段があるなら、何としても今回の遭遇でそいつを討とう」
隼人が出した提案は、この一回の遭遇での決着であった。
この調子なら5話分で終わらせられそうな感じがする
以下、解説です。
・如月隼人
異性に対する意識が蘇っているので、今回は普通に反応。
元復讐者故に看破が速い。まさか異性に対する反応で今更楓に詰められるとは思わなかった。
一回で決着を提案した理由は、遠征先にいる為、また来るのが難しいことから。
・郭神琳
ようやく気が立っていた理由を話せた。
隼人の安定性の高さを見て、自分に不安を覚える。
本人的には何としても対象を討ちたい。
・楓・J・ヌーベル
隼人の反応が戻ったは良いが、最初の頃からその反応をして欲しかったのは事実。
最悪のヒュージの規模が分からないので、様子見に近い決断。
・一柳結梨
隼人の変化も敏感に感じ取った。ただし、神琳と違ってそれでも結構弱い変化の為、不安に感じたりはしていない。
異性の情とかに関しては完全に疑問符状態。
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