アサルトリリィ -RED THISTLE- 作:ブリガンディ
* * *
それから程なくして、雨嘉は神琳と一緒に戻ってきた。
「みなさん、申し訳ありません……ご心配をおかけしました」
間違いなくやっただろうということから、神琳は最初に詫びを入れる。
しかしながら、一柳隊メンバーや艦長は特に気にした様子はなく、むしろ戻ってきてくれたことに一安心だった。
「神琳さん、お帰りなさいっ!」
「雨嘉もお疲れ。大変だったな」
梨璃の本当に心から喜んでいる笑みと、隼人の労いの言葉で二人が揃って安心する。神琳の行動は特に否定されもしなかった。
「昨日から既に気を回している人がいる通り、何も一人で戦う必要はありませんもの。わたくしたちにも、手伝わせてくださいな?一人で戦おうとするアホンダラなんて、この中には
「(楓……その節は本当にごめん)」
ちょっと含みのある言い方に思い当たる節しかない隼人は、ただただ心の中で詫びる。実際、今回もやりかけたので反省しかない。
ただ、これをいつまでも繰り返すつもりは無いので、意識をしてすぐに切り替える。後は、あのヒュージをどうするかである。
神琳も、先程までは最悪自分一人で刺し違えてでもと考えていたが、それをするつもりはもう無い。
「ただ、それを考えてしまうくらい時間が無いのは事実です……艦長さんも、申し訳無いのですが力を貸してください」
これに関しては艦長も即答で協力を約束してくれたので、もう気にする必要は無い。
そして、肝心なヒュージを討つ方法であるが、やはり討つ為にはノインヴェルト戦術が必要であることは確実であり、これを決める必要がある。
ただし、これには一つ大きな問題があり、こちらの有効距離よりも遠くからあのヒュージは自らの尾からレーザー攻撃が可能であり、この艦で寄るにもいい的なのでアウトだ。
故に、先ずはこれを止めなければ始まらない。幸い、この問題点は百由やミリアムの方で雨嘉に協力を頼んだ専用パーツを使うことで解決は可能になる──。
「そっか……!あれを使えば、何とかなるかも」
「ですが、そのパーツはどのようにして用意するんですか?今から持って来てもらうのはとても……」
──が、神琳の指摘通り、あれは作ったばかりのモノ。とても間に合うとは思えなかった。
しかし、そこは抜かりなく、既に対策は打ってあった。
「やっほー♪ぐろっぴに呼ばれて大急ぎで来たわ」
「すまんの百由様。わざわざ来てもらって」
「「……百由様!?」」
二人はその時いなかったので知らなかったのだが、百由が組立用のパーツと共に来ていたのだ。
実は元々、パーツのみの取り寄せを予定していたのだが、「自分も行った方が速い」とのことで、彼女はこちらに出向いてきてくれたのである。
なお、そのパーツ自体、昨日の実験で破損していたらしいのだが、その後改善等をしてもう一度組み立てれば使えると言う状態にまで漕ぎつけていた。技術屋の面目躍如──と言ったところだろうか。
「そう言うわけで……手段に関しては問題ないわ。後は実行するだけよ」
こんなこともあって、実行手段に困ると言う問題は無くなった。夢結の言った通り、後は本当にやるだけなのだ。
とは言え、何も盤石と言うわけでは無く、急造故の無視できない問題点も存在する。
「ただこれ、一回撃ったら壊れちゃうのと、あのヒュージのレーザー攻撃と射程は同等だから、撃ったらそのまま撃ち返されちゃうのもあって、チャンスは一回きりね……」
──どうしても、そこまでは改善できなかったの。撃てるだけまだマシだがまさか多重の意味でチャンスが一回しかないとは思わなかった。であるならば、役割はすぐに決めることはできた。
幸いにも、艦で狙撃距離までの移動なら十分可能な為、これも大きな助けとなる。
「でしたら、狙撃は雨嘉さん。そのサポートを神琳さん。取り巻きのヒュージが出てくるので、その防衛を鶴紗さん。その他は防衛ですが、隼人さんと梅様、結梨さんの三人は状況次第で鶴紗さんの手伝い──言ってしまえば、遊撃をお願いしますわ」
「分かった。じゃあ、その時は梅が臨時指揮を執ろう。お前らもいいな?」
「うんっ!」
「はい」
事態が事態なので、必要ならば遂にそれを使う時が来た。その時は梅が基本は指揮を執ることになる。
ヒュージ自体の戦闘力を考えれば
これら全てに承諾が得られたことで、決戦に向けて動き出すことになった。
* * *
そして、楓が万が一に三人を遊撃に回した采配だが──結果として正解だったと言える。
「あれ……?ヒュージが……?」
防衛に回っていた梨璃たちを尻目に、進路を転換。何割かが艦の方へ向かい出したのだ。
確かにヒュージ自体は強くないし、実際あれだけの数も鶴紗が全て倒し切っているのだが、急なヒュージの進路転換分だけは不味い。
裏を返せば、その分こちらに来るヒュージは減り、戦力が余り、機動力の高いメンバーはそちらに回すことができる。
「でしたら……梅様、お願いしますわ!」
「任せろ。二人共、陣形は基本パターンで行くゾ!」
「了解!結梨、あいつら助けるぞ」
「うんっ!」
やると決まれば話は早く、素早く陣形を組んで前進を始める。
結梨と隼人がヒュージを可能な限り薙ぎ倒しながら進んでいき、取りこぼしは梅が撃ち落としながら進んでいく。
「……?そうか!こっちに来てたのか!」
戦闘の音が近づいて来ていたのに気づき、鶴紗はあの戦術が必要になったことに気づいた。
実際、一方向から増えていたヒュージの流れはそこで打ち止めになっており、ヒュージの来るペースは先程と同じ状態に戻っている。
「助かるよ。三人共……!」
そこまでやってくれれば、二人を守るのはこっち一人で事足りる──。鶴紗ブレードフォームにしているCHARMを構えなおして再び艦の上を走り回る。
いくらヒュージたちが弱くても、対処できる数を超えるとどうにもならなくなってしまう。だが、数さえ越えなければどうとでもなるのだ。
「(一回で当てればいい……でも、外したら終わり……)」
皆が奮闘している中、雨嘉は圧と戦うことになっていた。無理もないことだ。何しろチャンスは一回だけで、ここを守れるか否かの瀬戸際なのだ。
その緊張で震えている雨嘉の肩に神琳が優しく手を乗せ、引き金に手をかけている方にも手を添えてくれた。
「大丈夫ですよ、雨嘉さん。あなたならできるわ……」
「神琳……」
忘れてならないのは、今の雨嘉は一人ではない。今回、神琳の支えを持って撃つのだ。
なら、変に恐れる事は無い。大丈夫だ──。圧が和らぐのを感じた雨嘉は落ち着いて狙いを定める。
「……!神琳、行けるよ……!」
「では、行きますよ。雨嘉さん……!」
その言葉に迷う事なく、二人で引き金を引く。それと同時にヒュージの尾からこちらに対するレーザー攻撃が行われた。
二つの光線がぶつかり合いあい、暫し拮抗する──とはならず、すぐにヒュージのレーザー攻撃が押し返され、その尾まで届き、彼奴の尾は砕け散った。
「当たった……届いた……良かったぁ……」
「お見事です。言ったでしょう?雨嘉さんならできるって……」
「あはは、そうだね……でも、神琳が支えてくれたの嬉しかった……」
「終わったか。そっちの仲も元通り……っていうか、なんか更に良くなってない?」
尾が破壊されたことで打ち止めになったのか、こちらにヒュージが来なくなったので鶴紗が戻ってくれば早々に仲睦まじくしていた。
そして、この問いに対して二人は揃って言葉を返した。
「「だって、朋友ですから」」
「……そっか」
二人して満足そうな笑みを見せるのを見て、鶴紗も納得した旨を笑みで返すのだった。
「隼人、お前はアレが使えた場合ヴァイパーを撃ってたか?」
「いや、使えても撃たないと思います。周囲を巻き込む趣味は無いです」
梅の問いに対して、隼人は即刻否定を返す。あの威力があれば確かにヴァイパーとて一撃で倒せる可能性は極めて高いが、その場合周囲に被害が及んでしまう可能性が高い。故に、隼人はその選択を捨てた。周囲の人間が退避済みであるならば話は別だが。
それに、もう終わったことである為、隼人はそれ以上考えるつもりは無い。故に、この話はここで終わり、ノインヴェルト戦術を使う為にそれぞれ合流を始める。
当然、今回のフィニッシュショットを行うのは神琳で、彼女の手でその復讐に終止符を打つことになる。
「これで……終わりです!」
迷う事なくヒュージの本体ど真ん中に射撃を放ち、寸分の狂いもなく直撃したそれをヒュージが耐えられるわけも無く、あっけなく爆散することになった。
「空が晴れて来た……」
あのヒュージが出てきた時は大雨になると言っていたので、その存在がいなくなったから元に戻ったのだろう。
しかも、そのヒュージが自らの気まぐれで去った等ではなく、撃破によってなので、これは間違い無い。神琳の仇敵はもう現れないのだ。
「さようなら、お兄さまたち……」
──これから神琳は、前を向いて生きて行きます。自らが過去を引きずる元凶に引導を渡せた神琳は、自らが敬愛する者たちに静かに別れを告げる。
唐突に機会が現れた彼女の復讐は、まるで台風が過ぎ去るかのように短く終わりを迎えたのだった。
* * *
その後、艦長に礼を述べたり、神琳が自分と一柳隊メンバーは友人かどうかの再確認等があったが、それも恙なく終わり、ガンシップに乗って帰ることになった。
ちなみに、乗る直前に雨嘉が神琳に朋友は自分だけか聞いたのだが、それは彼女らのみ知る話なので、隼人たちは何も知らない。
「(ああやって、三年間追い続けられた俺は恵まれてた方なんだろうな……)」
ガンシップに乗ってる最中、隼人は己の当時を振り返っていた。
途中までは僅かな協力だけだったが、自らが追いたい敵に殆どを割くことができた自分と、最初から協力は多くあるものの、今日でいきなり許せぬ相手と遭遇した神琳。同じ復讐者でも、状態はだいぶ違う。
とは言え、こんなことにならないのが一番なのはお互い同じであり、そんなことを比べるのも変な話だろうと隼人は思い、この考えを隅に追いやった。
少し周囲を見やれば、皆今回の遠征で疲れていたのだろう。それぞれの姿勢でぐっすりと眠っていた。それを見た隼人は後で食材を確認して、全員分の飯を作ろうかと考えた。
「……あら?まだ起きてましたの?」
「楓か……ちょっと、今回と俺の時のことを振り返ってた」
「やっぱり、気になりますのね……」
それもそうだろう。隼人も元々は復讐者なのだから、気にしないはずがない。
先程見た限りなら、神琳ももう何ともない状況になっていると言え、もう気にしないでいいだろうという結論が出ている。
「二日間お疲れ様でしたわね……でしたら」
「……?」
何をするかと思えば、楓は隼人の頭をそのまま自らの膝の上に持って来た。
「……今のうちに、ゆっくり休んでくださいな」
「お、おう……」
自分もされるがままに姿勢を直していた隼人だが、いきなりのことで暫し硬直してしまった。
早い話、何をされたのかと言えば膝枕であり、この辺の知識やら何やらが頭からすっぽ抜けてしまっている隼人だからこそ、理解するまで数舜の時間を要したのだ。
「あっ、えっと……その……嫌でしたら、そう言って頂ければ……」
「ん?ああいや、そう言う事は無いんだ……」
ちょっと寂しそうにする楓の声音を聞いたので咄嗟に弁明する中、何かそのまま眠れそうな気がしたので、お言葉に甘えてそのまま眠りに入ることに決めた。
隼人が眠りに沈んだ後、楓がその頭を撫でていたり、百合ヶ丘に到着した後、その光景を見てみんながビックリしたり見られた楓が顔を真っ赤にしたりするが、隼人がそれを気にすることは無かった。
「(何はともあれ、これで一件落着だな……)」
そして、いつも以上に仲良くしている神琳と雨嘉を見て、隼人は今回の件が全て終わったことを確信するのだった。
イベントシナリオの尺回し、回ごとのバラツキ激しいからもう少し調整出来ればな……と個人的には思いましたが、やってしまったものはしょうがない。
次またイベントシナリオやるときに調整頑張ります。
長話はさておき、以下、本章最後の解説です。
・縮地持ち三人での高機動戦術
描写的にちょびっとだけど初お披露目。消耗具合の激しさによっては陣形が変わる。
今回は特に問題ない状態だったので、基本パターンのまま敢行。
・如月隼人
神琳の復讐も終わってひと段落。
復讐者やってた時代に膝枕の文化が抜け落ちてしまっていたが、それを取り戻す。
今後もこうやって、何かを取り戻していくだろう。そして、次は何を取り戻す?
・郭神琳
復讐完了。これで彼女も前を向いて進んでいける。
後日、隼人に対して個人として改めてお礼の挨拶に行く予定を決めている。
・王雨嘉
今回の特殊ヒュージ戦の要。ヴァイパーの時もあって、やたらと復讐者補助の戦績が高い。
神琳の荒れた様子も終わったし、前より仲良くできたしで、とても嬉しく思っている。
・真島百由
久しぶりの登場。今後もこんな感じで何かあったら出てくる感じになる。
・楓・J・ヌーベル
自分の気持ちに気付いている隼人にだからこそ、あの膝枕ができた。
それはそうとして、今後は今回のネタでちょくちょく弄られていく可能性が出てきている──というか、高い。
最後に、ちょっとしたお知らせですが、次回以降はラスバレ本編の1章をやっていくことになります。
そこが終われば、一旦この小説としては完結扱いで、隼人と誰かで一緒に過ごす日常やら、イベントシナリオを少しだけやって終わりって感じになると思います。
この小説も終わりが見えてきた形になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
読みたいイベントシナリオはどれ?
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