アサルトリリィ -RED THISTLE-   作:ブリガンディ

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ここから百合ヶ丘に編入した隼人の話が始まります。


第5話 入学

「はい。隼人君が使うCHARM二本分だよ」

 

「ありがとうございます。やっぱり二つ分って結構運びづらいな……」

 

適性検査から四日後──レストア討伐の為にヴァイパー撃退を請け負った日から早くも二週間が経過した朝に、隼人は玲から整備の終わったCHARMの入ったケースを二つ受け取った。

二つ分を背負うのは大きさ的に無理があるので、片方は手持ちで移動することになる。

尚、本来ならガーデンに合わせた制服を着るべきなのだが、元がお嬢様学校の百合ヶ丘に男性用の制服が無かった為、暫くは赤のジャケットとその他の格好になる。

ただ、隼人からすればヴァイパーを討つまではこのままの格好で行くつもりであり、男性用の制服が用意されて着るのは、少なくともその後だと考えている。

と言うのも、ヴァイパーを討つ自分は復讐者であると同時に外部協力者の認識が強く、本格的に百合ヶ丘のリリィと認識するのはその後だと確信しているからだった。

 

「隼人、これも渡しておくわ。私たちに極秘連絡する時に必要でしょうから」

 

「戻ってくる時は連絡を貰えるかしら?そうすれば、右腕の確認はすぐにできるわ」

 

「了解。覚えておきます」

 

使い慣れた秘匿性の高いイヤホンを受け取り、隼人は早朝に施設を後にし、百合ヶ丘へと向かう──よりも前に、一度慰霊碑に行って香織にその旨を告げてから今度こそ百合ヶ丘に向かった。

隼人が早朝に施設を出たのはこの為で、ここからは暫く電車の乗り継ぎをして目的地に向かうことになる。

百合ヶ丘も都心に近いはずなのだが、そちらから少し離れる都合か、電車に乗る人は全くいないと言う状況になっていた。

 

「(これもヒュージの影響か……?ヴァイパーが絡んだ影響って訳でもないだろうし)」

 

ヴァイパー一体でこんな影響を出すわけ無いので、隼人はそう考えた。

とは言え、CHARM二つと言う大荷物を持っている身としてはスペースを占有しても怒られないこの状況は気が楽だった。

そして百合ヶ丘の最寄り駅にたどり着いた後、そのまま校門前まで歩いて行く。

 

「ごきげんよう、如月君。来てくれてありがとう」

 

「おはよう……じゃなかった。ごきげんよう(まつり)様。検査の時はお世話になりました」

 

危うくいつものノリで挨拶しかけたが、どうにか軌道修正に成功させる。格式がある以上、順応しなければ後が大変になる。

ただでさえ男一人の環境下に飛び込むのだから、気を遣われることがあろうとも、格式関連はこちらが合わせる側なのだ。

それはさておき、目の前にいる銀色の髪を持った少女は(はた)祀と言い、隼人の適性検査に居合わせていたリリィである。

隼人が敬語で話しているのは彼女が夢結の同級生で、ルームメイトあからであり、これは隼人が彼女らより年下であることから来ていた。

この後彼女に案内され、職員室にてクラス担任となる先生と顔を合わせ、そのまま教室に向かうこととなる。

 

「本日から、この椿組のみんなと共に学んでいく転校生を紹介します」

 

──入って来て。と、担任の先生に声を掛けられた隼人はその教室の中に足を踏み入れる。

クラスは椿、李、杉に分かれており、隼人はその中で椿組であった。

 

「……えっ?」

 

誰か一人、聞き覚えあるソプラノトーンの声が隼人の耳に届くが、それを気にする暇は無く、取り敢えず黒板とチョークを使わせて貰って名前を書く。

意外と字は誰が見ても問題なく書くことはできており、一安心しながら粉の付いた手を払いながら他の生徒たちがいる方に向き直る。

 

「(あっ……見知った顔が二人もいた)」

 

──これは運がいいな。そんなことを思いながら担任の先生に自己紹介するよう促されたので、それを始めることにする。

 

「この度編入が決まった如月隼人です。えっと、皆さんには蛇を追う者が伝わりやすいでしょうか……?」

 

その服装が特徴的なものそのままであった為、教室内にいるリリィ全員が納得した。

編入理由は大体分かるだろうが、最低限説明だけして他の方に移る。これだけでは他の人が接しづらいからだ。

 

「趣味は筋トレと読書。これから練習しようと思ってるのは紅茶の入れ方。欲しいのはバイクの免許です」

 

バイクの免許が欲しい理由は当然、迅速な移動手段の確保であり、助けられる命を増やすためである。

実は今まで隼人は「命が掛かっているから」と、()()()()()()()()()()()()おり、人命救助の為に完全なルール無視をしていた。

ただ、ガーデンに入るのであればそんな真似は許されず、流石に教習所で取らざるを得ない。

 

「今までの生活が生活だったので、こっちでの言葉遣いとかにまだ慣れていないので、色々教えてくれたら助かります」

 

──以上、今日からよろしくお願いします。そう言って頭を下げ、歓迎の拍手を貰った後、自分の席に移動する。

そして、その席は──。

 

「如月さん……同い年だったんだ……」

 

先日も顔を合わせた梨璃だった。

 

「俺、まだ15だから……。改めてよろしく、一柳さん」

 

「こちらこそよろしくね。如月さん……ううん、如月くん」

 

改めてここから友好関係を作っていくのが決まったところでHR(ホームルーム)が終わり、ここからクラスメートたちの質問ラッシュが始まり、一つ一つ答えていく。

また、ただ質問に答えて行くだけでは無く、免許を取るにはどうすればいいか等も聞いておき、放課後はまず申し込みから始めることに決めた。

そうして有意義な情報を得ながら自分の情報もそれなりに伝えた後、実際にクラスのリリィたちと共に授業を受けることになる。

元から戦場で動き回っていた身である為実技は全く問題ないのは当然で、座学も特に問題なくこなしていた。強いて言えば、悪印象を持たれないように、真面目さをアピールするのが少し面倒に感じていたくらいだ。

何なら、唯一異性だから遠慮されるんじゃとも考えていたが、そんなことは無かったようだ。

 

「(『ノインヴェルト戦術』はまだやらないのか……後で資料貰えるかな?)」

 

尚、この日の段階で隼人が欲しかった内容が授業に出なかったことを記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

{ 第  話 }

 

入 学

enrollment

 

 

新しい生活の始まり

──×──

a person who jumped into a lily garden

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ノインヴェルト戦術──それは、複数人で作成した超威力の魔法球を的に叩き込む戦術である。

ヒュージの核から作った特殊専用弾を用い、その専用弾を元に作られる魔法球を複数人でCHARMを通してマギを込めながらパス回ししていくことで強力なエネルギー弾に育て上げ、最終的にこの魔法球をヒュージに撃ち込む流れになる。

なお、ノインヴェルトとは『九つの世界』を意味するが、これは基本的に9人で行う戦術であることが由来しており、少ない人数でも実行可能である。

 

「これがノインヴェルトに関する資料よ。分からないところがあったら、また聞いてね」

 

「ありがとうございます」

 

それが隼人の求めていた戦術であり、免許取得の予約を済ませた後、祀にその資料を貸出してもらったのである。

その後はリリィたちが休憩や昼食等を取ったりする場所として使うラウンジの方へ移動し、そこで資料を読み進めていくことにした。

なお、梨璃たちが放課後案内することを言い出してくれたのだが、今回は予め資料の貸し出しを頼んでいたので、泣く泣く断る羽目になったことを記しておく。

 

「(これ、ヴァイパーが放り込まれたらどうなるんだろうな……?)」

 

ノインヴェルト戦術は、ヒュージを逃がさないためと万が一魔法球を外した際の周囲への被害を防ぐ措置として、特殊専用弾を起動すると半透明のドームが出現する。

これにより必殺の可能性を高められるのだが、同時にリリィたちの退路を奪う諸刃の剣とも言えるモノになっている。

気になるのは、自身が絶対に勝てる相手で無いと分かれば基本的に逃走するヴァイパーが、このノインヴェルトによって退路を封じられた場合である。

せめて誰か一人でも道連れにしてやろうと必死になるのか?それとも何もせずにやられるのを待つのだろうか?またはどちらでも無い他のことが起こるのだろうか?

なら、戦場で試せる機会があるなら試してみよう──と、決断する。問題は自分と共にそれができる人を最低でも8人見つける必要があるのだが。

 

「(まあ、それはなるようになれだ。どの道友好関係作らないと難しいだろ)」

 

今すぐ勧誘したところで相手からすれば『えっ……?』となってしまうのが目に見えている。それなのに行動へ起こすのは少し違う。

その為、取り敢えず聞けることを聞いて友好関係を広げて行くのが重要だと考えた。

この他にもノインヴェルトのパス回しの方法が、組んでいるリリィたちによって異なったりするらしいが、それは知識程度になるだろうと考えた。

 

「(ヒュージと戦うリリィたちの前線基地であり、憩いの場でもある、か……)」

 

──考えて作られてるな。校舎の構造と、リリィたちの様子を見て隼人は納得する。

ヒュージとの戦いにて最前線に出るリリィたちは、確かに戦場を舞う戦士であると同時にまだ多感な少女でもある。

そんなリリィたちにも心と体の休息は必須事項であり、それを提供するのがこのガーデンになるのだ。

実際、同じラウンジでもお菓子と紅茶を用意して談笑する人たちだっているし、ちゃんと休める場所になってもいるのだと教えてくれる。

 

「基礎はこれでいいとして、次は何がいいだろう……?」

 

幸い資料自体は一週間単位で借りさせて貰った為、後で読み直すことができる。

その為、次の選択肢としては訓練施設の確認、校内の探索、分からないところを質問する体で友好関係作り──考えればどんどん出てくる。

が、一人で、いる時の方がやりやすいことがもう一つある。

 

「(取り敢えず、寮の確認でもしてくるか)」

 

ガーデンは基本的に寮制であり、基本的には二人ごとに部屋が割り当てられるらしい。

らしい──と言うのは、隼人は現状唯一の男性リリィである故に、一人部屋が用意されている。

部屋の確認は、貸出してくれた資料を置きに行く意味でも、送った荷物の確認をする意味でも丁度良かった。幸いにも一人なので、何食わぬ顔で動ける。

 

「荷物は……全部あるな」

 

それを確認した隼人は、早速部屋に自分の荷物を置いていく。二人部屋となる場所を一人で使うのだから、ある程度贅沢にできるのはいい点だった。

物自体を置き終えたのはいいものの、今度は部屋でやることが筋トレや読書くらいしかないことに気づき、流石に暇すぎるし、今のうちに校内探索をしようと考えたところで、一つやることを思い出した。

 

「そうだった。工廠科(アーセナル)の人に顔を出してくれって頼まれてたな……」

 

工廠科と言うのは、CHARMの整備や戦闘で撃破した残骸からヒュージの解析、リリィの状態確認等、言わば技術屋や研究家と言った役回りを学び、行う学科である。

以前顔を合わせたリリィに今後のことで連携したい話があると言われたので、それに付き合うのである。

であれば余り待たせるのもよくない。隼人は早速移動を始めることにした。

迷うかと思ったが、途中に度々見えた地図のおかげで意外にも迷うことなく目的の工廠科のフロアまで辿り着き、自分を呼んでいたリリィの部屋に辿り着いた。

 

「ここか……」

 

連絡用のベルやら端末やらが見当たらないので、隼人はそのまま「如月隼人です。入ります」とだけ告げて部屋に入ると、そこに自分を呼んだりりィがいた。

 

「ご到着ね?待っていたわよ」

 

そのリリィは一度作業を止め、席を立ってこちらに来た。

 

「改めまして……ようこそ百合ヶ丘女学院へ。私は真島百由。レストア撃退戦の時はありがとうね」

 

「どういたしまして。俺は如月隼人です。今日からよろしくお願いします」

 

レストア戦以来にに百由と顔を合わせ、握手を交わす。彼女に今後のヴァイパーに関する話と、自分に対する頼みがあるらしく、来るように頼まれていた。

 

「どうかしら?百合ヶ丘の生活を始めてみて」

 

「一人だけ異性ってのは大分不慣れなところありますけど、そこでの壁を作んないで向こうから接して来てくれたのは助かりましたね……なんていうか、温かい感じがしました」

 

──これなら無理なく生活できそうです。その一言に百由も安心した。余りにもやりにくいのならそれはそれで申し訳ないからだ。

恐らく隼人はこの後も交流を広げるだろうことが予想できたので、百由の方から早速本題に持っていくことにする。

 

「まず、ヴァイパーのことに関する話ね。ちょっとこの端末の画面を見ながら説明するわね?」

 

部屋の中にある大型機器の画面を百由が指さすそこには、何かヴァイパーの情報だろうものとこの百合ヶ丘周辺の地図だろうものが移されていた。

 

「こっちが先週、都心近くのガーデンから融通してもらったヴァイパーの情報。これを使って、こっちで位置情報を追跡できるようにしておいたわ。出現したら真っ先にあなたへ連絡届けられるようにしたいから、連絡先を交換しておきたいんだけど……大丈夫かしら?」

 

「本当ですか?助かります。そう言うことならこっちからお願いしたいです」

 

交渉は成立し、ヴァイパー発見時には自動通達の設定をもして貰い、隼人としては非常にありがたかった。

今までいたあの場所とは違って百合ヶ丘は広く、自分を一々探す余裕などないだろうから、これは大きい。隼人としても、一々ここに来るのは面倒だ。

なお、元の情報があったとは言え、由美が作った追跡システムと全く同じものをたった一週間で作れたのは見事だと隼人は思っている。由美の場合、自分が訓練している間に一ヶ月の時をかけて作成していたからだ。

 

「後、ヴァイパーの情報のすり合わせをさせてもらえると嬉しいわ。都心近くのガーデンが持っていなくて、あなたが持っている情報……またはその逆もあるでしょうから」

 

百由の頼みに承諾し、お互いの持っている情報を出し合う。

その結果ガーデン側が尋常な耐久力の更新情報持っていなかった程度の差異であり、全く同じ情報を得ていることが判明した。

ヴァイパーに関してはこれで話は終わりで、次は隼人に対する頼みごとである。

 

「……俺がノインヴェルト戦術適正を得ていたことに対する調査、ですか?」

 

「血液サンプルを基に調べるから、それだけお願いしたいんだけど……」

 

ヴァイパー討伐の協力をしてくれる分──もあるかもしれないが、男性リリィの存在の復活に繋がるかも知れない要素になる為、確かに分かる理由だった。

一応、分量に関してはそこまで多くないようになので、それならばと協力することに決める。その結果、この後保健室に寄り、そこで血液サンプルを提供することになった。

予想通り、左腕から注射器を通して血を少量だけ抜かれることになるが、特に問題なく終わり、その後は一度部屋に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「あら、一度部屋に戻っていたのね?丁度よかったわ」

 

「祀様?どうかしましたか?」

 

百由との話を終えて自室の前まで来た時、祀に声を掛けられたのでそちらを振り向く。

彼女は物事を話す前に、先ずはこれを──と、一枚の紙を隼人に渡した。

 

「……『レギオン』の体制と俺の待遇について?」

 

「ええ。あなたが百合ヶ丘のリリィとしているのは、極めて特殊なケースだから」

 

レギオンとは、各ガーデン内で組織される複数名で1組のチームのことを指し、ヒュージ発生時はレギオン毎での出撃が基本となるようだ。

脱走ヒュージの時は小規模。レストアの時はガーデンに接近してきたヒュージの撃退を主としていたので、例外となるらしい。

生徒同士で自主的にメンバーを集めて教導官の許可を得る教導官認可制、ガーデンがメンバーを選抜し指名するトップレギオン制といったように組織の仕方はガーデンによって異なるようで、この百合ヶ丘は前者を採用している。

また、レギオンはノインヴェルト戦術等の連携戦術の使用を想定している為、それが使える必要人数をレギオン発足の最低人数としている。

なお、隼人は特例として既に発足済みのレギオン、またはこれから発足するレギオンに十人目のメンバーとして参加することを許されている。

これは一人だけ異性故のコミュニケーション要素の不利、ヴァイパーを追う先で共闘するリリィはおれど、元は単独行動をしていたことが起因していた──のだが、どうしても避けられない問題はある。

 

「一日やそっとじゃできないでしょうけど……」

 

「ま、まあ、時間はあるんだから、焦らないで……」

 

友好関係自体はそんなすぐにできるはずもないのだ。こればかりは時間をかけてどうにかするしかない。

それで肩を落とし、祀に励まされることになったのはここだけの話であり、これを語られることは無かった。

 

「そう言えば、今日貸し出した資料で分からない所はあったかしら?」

 

「一応、方法自体は把握できました。気になるのは、アレをヴァイパーにぶつけたらどうなるかですね……」

 

隼人の疑問には祀も悩ませることになった。何しろ、今までノインヴェルト戦術を試した記録は無し、自身が絶対に勝てる相手ではないなら基本的に逃走するヴァイパーの退路を封じ込めるのだから。

逃げ場を無くせば諦めるのか、それともヤケクソ気味に一人でも多くを道連れにしようとするのか。またはそれ以外か──それは誰にも分からない。

これに関しては見当も付かないが、判明次第真っ先に隼人へ情報を回すことを約束し、この話は終わりとなる。

 

「それじゃあ、私は行くわ。また分からないことがあればいつでも聞いてね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

祀を見送った後、隼人は貰った用紙に改めて目を通す。

レギオンに入ることはヴァイパーを討つのには当然だが、他にも重要だと感じる理由がある。

 

「(俺がみんなでヴァイパーを討った後、()()()()()()()()()()()活動するのならレギオンには入っておくべきだ)」

 

仮にここを去るとしても、ここに残るとしても、自分に選択肢を与えるためにはやはりレギオンに入るのは必須事項だ。

ただし、どこでもかしこでも入ればそれで終わりでは無く、活動を続けられると思えるレギオンに入るべきである。

 

「……てなると、発足済みよりはこれから発足するところとかがいいか……?」

 

「如月くん」

 

聞き覚えのある声が自分を呼んだので、そちらに振り向く。

誰かと思えば梨璃であり、楓と、三つ編みにした茶髪を持つ小柄な少女が一緒にいた。

 

「俺に何か用?」

 

「うん。実はレギオンのことでちょっと話がしたいんだけど……いいかな?」

 

「分かった。そう言うことなら三人とも上がってくれ」

 

梨璃の話に応じることを決めた隼人の計らいにより、三人は隼人に割り当てられた部屋に入る。

何も出さないのは流石に酷なので、不慣れながら紅茶を出すことにした。

手元にあるならインスタントコーヒーにしようと思ったのだが、用意は出来ていなかった。

 

「なるほど……これは練習ですわね」

 

「なるべく早めにマシなものにするよ」

 

三人の中で誰よりも紅茶を飲みなれている楓に評され、隼人は宣言した。

とは言え、不慣れにしては結構マシなものだったらしく、今後に期待と言われたので一安心だ。

 

「えっと、一柳さんとヌーベルさんは前に顔合わせしてるからいいとして……君は同じクラスにいたよね?」

 

「はい。私、二川(ふたがわ)二水(ふみ)と言います」

 

小柄な少女──二川二水は梨璃と同じく補欠合格で入学した少女であり、入学式の日──つまりは百合ヶ丘近辺に始めてヴァイパーが姿を現した日に梨璃と交流を持ち、翌日に梨璃と戦線を共にした楓と交流を持ったようだ。

それ以来、楓と共に梨璃と仲良くしており、時に『リリィオタク』と称される程の知識で梨璃をサポートすることもしている。

リリィオタクと言うのは、リリィやそれに関連事項に強い興味と関心を持つ人──狭義的にはリリィたちのことを指す言葉である。

このリリィオタクの中でも細かい分類があるようで、二水はレギオンで戦う時の戦術、主にノインヴェルト戦術での陣形やポジショニングや動き方についての知識方面が強いタイプで、この知識量で合格を勝ち取ったらしい。

とまあ、途中から梨璃の説明と一緒に二水の話を聞いた隼人は「なるほど……」と、納得した様子を見せる。

 

「改めて、俺は如月隼人。よろしくな、二川さん」

 

──今度その知識を当てにさせてくれ。理由はあれど、凄い豊富な知識を持ったりりィが自分からこちらにコンタクトを取ってきたことは非常に大きく、そのチャンスは逃したく無かった。

自己紹介も済ませた後、本題に入る。

 

「なるほど……レギオンを作るから、俺もどうかってことか」

 

「うん。入学してからいきなりな話だとは思うけど……どうかな?」

 

正直なところ、隼人からすると悩んでいたところに持って来てくれた話なので渡りに船である。

また、万が一自分を入れて八人。後から二人来て十人と言う状況下になっても、自分の特殊な立ち位置のお陰で問題なく十人のレギオンとして発足ができる。

 

「それ、あなたがヴァイパーを討った後まで見据えられていませんこと?」

 

「だろうな……俺が抜けても最悪九人で活動可能だし」

 

どうするかは完全に未定だが、ヴァイパーを討った後は完全に世捨て人になるも同然で、あの三人がいる場所に帰ることだって出来る。

ただ、これはせっかく世捨て人にならないチャンスを投げることも意味する為、自分はよくても誰も喜ばないだろう。そういう意味では選びづらい。だったら百合ヶ丘のリリィとして三年間生きる方がマシである。

また、ヴァイパーのことが話に出たので、忘れない内にそれは話しておかねばならない。

 

「俺をレギオンに迎えるのはいいけど……一回メンバー内で、これだけは話しておいて欲しいってことが一つある」

 

「もしかして、ヴァイパーのこと?」

 

梨璃の問いに頷くことで肯定を返す。なんでこんな話をしたかと言えば、理由はすぐに出てくる。

 

「そうでした……!如月さんが、百合ヶ丘(こっち)に来た理由って……」

 

「二つ名が指す通り、ヴァイパーを討つため……この方をレギオンに迎え入れることは、わたくしたちもヴァイパー討伐を付き合うことを宣言するのと同義になりますわ」

 

流石にそこまではちょっと……と言う人がいるなら、隼人はレギオンに入らない方がいい。だが裏を返せば、全員がそれでも構わないなら、以後はヴァイパー討伐に付き合ってもいい人だけに絞って募集ができる。

この回答次第で結果が相反するので、流石に今すぐ決めろとは隼人も言えない。

 

「だから、一回みんなで考えて欲しいんだ。それでも構わないって言うなら、俺は一柳さんたちのレギオンに入るよ」

 

この促しをした結果、この三人以外には既に夢結がいるらしく、回答は後回しにすることが決まった。

今できる話は終わり、一度夢結と確認を取る為移動を決めた三人を隼人は部屋の外まで見送る。

 

「さて、結果はお楽しみってやつだな……」

 

一発で通ってくれればそれでいいが、必ずしも通るとは限らない。天に運を任せながら、隼人は複数用意している今の服装セットを洗濯に持っていくことにした。

ジャケットの下に来ている黒のインナーシャツと、同色のスラックスは着こなしやすいと言うファッションセンスの欠片も感じられない理由で選択したが、インナーシャツの上に来ている赤のジャケットはヴァイパーへの報復を誓ったものであり、いつしか不要となる──着用しないと決める日が来る。

こんなことを意識したのは始めてだし、いつ来るかは分からないが、暫くはこのセットを使い回していくことになるだろう。

 

「(復讐の赤衣(ジャケット)を脱ぎ捨てる……ヴァイパーを討った後は、まずそこからやるか)」

 

ヴァイパーを追いかけて三年、隼人は始めて復讐後のことを考えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「しょうがないとは言え、風呂は暫く使えないか……」

 

その日の夜、寮でシャワーを終えた隼人は全リリィが共用して使う入浴所の説明を思い出していた。

一時間単位で学年ごとに使用するらしいのだが、隼人は唯一異性故にその取り決めとはまた別枠の存在であり、処遇をどうするかが全く決めきれていないのだ。

ノインヴェルト戦術を唯一使用できる男性リリィ故に検査をせねばならなかったり、彼の為の席の用意、部屋割り等々──準備せねばならないものが多すぎて追いついていない。仮に、隼人がまだ着るつもりはないと言って制服の用意を後回しにしてもらっても大して変わらないだろう。

とは言え、流石に一人だけ入浴所を使わせてやれないのも処遇としてはあんまりなので、整理してどうにかすると言ってくれているし、信じて待つのがいいだろう。

 

「(一旦連絡かな……人が来ても大丈夫なように、資料を読んでいる体制を作っておこう)」

 

自身の何らかの要素を回収し、調べが来ることなど予測済みであり、由美からも「どうせ避けられないのなら、何か一つ使わせてしまえばいい」と開き直った回答を貰っている。

ただ、そうする場合は隼人の活動に保証を用意すべく資料の作成を行うので、連絡を貰いたいと言っていた。その為、隼人は血液サンプルを渡したことを伝えるのだ。

 

《あら、一日お疲れ様ね》

 

「お疲れ様です。今大丈夫ですか?」

 

返答は大丈夫であり、隼人は今日、血液サンプルを提供したことを報告した。

 

《了解。なら()()()として、あなたの安全を保証するものを仕上げるわ》

 

「ありがとうございます。何から何まで……」

 

《それは今度、アリスにも言って上げて頂戴。あの子の考えが、あなたを助けるきっかけだったもの》

 

アリスは『目の前に救える命があるなら、最後まで諦めない』を方針としており、それがあの日隼人を救ったことに繋がった。

戻った時には改めて伝えようと、隼人は決めた。

 

「じゃあ、そろそろ俺はこれで。必要な時はまた連絡します」

 

《ええ。その時はよろしくね》

 

連絡することも無くなったので、変に詮索される状況を減らすべく連絡を終える。

必要にならないのが一番楽だが、万が一に備えるに越したことはない。

 

「(俺は俺で、できることをやっていこう)」

 

──まずは、ノインヴェルトへの理解を深めるか。資料を読んでいるフリをする為に出していたものを、そのまま読み漁ることにした。




いきなり異性が来たら風呂使える時間なんて渡せません。仕方ないね。
隼人は礼儀作法自体は玲から学んで、どうにか形にしました。

ここからまた解説です。面倒な人は読み飛ばしたりしても構いません。

・ノインヴェルトに関して
特殊弾を起動すると、直径50メートルほどの半透明のドームが出現らしいのだが、ラスバレのエヴォルヴや、アニメ最終話のあの全員でやったノインヴェルトとか見ると50メートルじゃ足りないよね?と言うことで、ドームの大きさに関する言及は本小説では撤廃。
隼人はこれをヴァイパーにやった時の反応に興味アリ。

・隼人の無免許運転を良くない目で見ていた人。
代表格は出江(いずえ)史房(しのぶ)様。
ルールを重んじる彼女の性格からして、許せる訳が無かった……。

・如月隼人
赤の上着はヴァイパーへの復讐を誓った証であり、自らが復讐者である証明。
ヴァイパーを撃つ理由に強い私情がある為、梨璃たちの誘いを一度断る。
無免許運転に関してはやはり睨まれていた。
資料を読むのはいいが、本人が実践主義だった故に、あくまでも知識程度。


・一柳梨璃
隼人を年上だと思ってた。レギオンを作れと言われ、行動しているのは原作と同じ。
顔見知りと言うことで隼人を誘う提案を出したのはこの子。
夢結がいない以上決められないので、今回は一時退散。


・楓・J・ヌーベル
アニメでは梨璃がレギオンに誘ってくるまでに、8ものレギオンからの勧誘を断ったとか言うことをやっている梨璃に一途なお人。
ヴァイパーを討つ手段を求めている以上、レギオン加入と同時に友好関係構築で困るだろう二点を持って、梨璃の提案に賛成するも結果は保留に。


・二川二水
何気にこの話でようやく登場した子。隼人とは接点なかったから仕方ない。
知識量は膨大なので、隼人が必要になれば知恵を貸せる。
ちなみに、ヴァイパーと隼人のことは知識として知っている。


・秦祀
この話で初登場。隼人に簡単な案内をする。


・真島百由
百合ヶ丘近辺に登場したヴァイパーへの対応迅速化を用意していた人。
由美みたいな方法で追跡が可能になり、隼人がヴァイパーを追ううえで今後も頼りになるだろう人。


・明石由美
隼人の右腕に関する秘密を知っている人。資料を作成開始。
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