アサルトリリィ -RED THISTLE-   作:ブリガンディ

50 / 51
第12話 突入

「……」

 

隼人らがアリスと共闘を始めて少ししたころ、他の場所にある避難場所にて、叶星は落ち込んだ様子を見せていた。

理由は他ならぬ隼人のことで、最後の瞬間は今でも覚えている。

 

「(彼、私のことを……)」

 

そう。彼は庇ったのだ。自らの危険を冒してまで──。しかもその瞬間思いっきり背中を打ってしまっただろう声も聞こえていたので、尚更考えてしまう。

自分がもっと早く逃げ出せば、または自分がもっと速い速度で逃げることができれば或いは──と。しかしながら、一人建物に非常に近い状況だったので、どの道ああなってしまった可能性も否めない。

 

「隼人君のこと?」

 

「高嶺ちゃん……ええ。どうしても考えちゃうの……」

 

後で知ることになるのだが、ここは隼人や結梨がいたそれぞれの場所よりも重傷者や死傷者が多く、その苦しい光景が余計に自責の念を生み出していた。

高嶺自身はと言うと、内心では非常に安堵してしまっている。何せ、叶星が頭を打ったりでもしようものなら、自分が彼女よりも酷い様子で抱え込んだだろうから。もちろん、隼人も軽傷であってほしいのはそうだが、叶星がひどい状況になれば、隼人が軽傷でも安心はしなかったのは容易に想像できる。

それどころか、どうして助けてくれなかったのかとせめてしまいそうな自分を想像して少しゾッとする。彼も気づけなければそんなことは起こらないだろうが、彼の行動力を考えるとできる方が自然に思えてしまう時がある。

 

「(……私も考えすぎね)」

 

不味い悪循環を感じて、思考を放り投げる。これ以上は本当に危険だ。負のスパイラルが続いてしまう。

 

「あっ……お二人とも、大丈夫ですか?」

 

丁度いいタイミングで二水が来てくれたので、悪い空気も少しは紛らわせそうだ。給水用の水分を持ってきてくれていたので、尚更ありがたい。

なお、二水は一柳隊では唯一ここにいるメンバーであり、他のメンバーを探そうにも戦闘力が一柳隊で最下位の彼女が一人で無理するのは、マギの消耗具合からも非常に危険なので、無理しないで待機を選んでいる。

仮に行くとすれば、ここにいるいるグラン・エプレ全員と、同じくヘルヴォルで唯一いる遙も一緒に七人で行くだろう。

 

「ごめんなさいね。叶星、隼人君のことで考えこんじゃってて……」

 

「あはは……そうですよね。ああいうことを毎回やられると、こっちも気が気じゃなくなっちゃいますよね」

 

二水もかなり困っている様子で、これを機にやめさせられないかと考えているようだ。

というのも彼、結梨を助ける時にマギの使用効率を無視した水上での全力縮地機動に始まり、無茶した神琳を庇うべく割り込み、そして今回の叶星を庇う……等々、大分無茶という無茶をやっていたようで、その分の不満みたいなものが一柳隊では溜まっていたようだ。

比較的平気にしているのは結梨くらいで、彼女は寧ろ感謝の念が強すぎるようだ。

 

「まあ、大丈夫かどうかで言えば大丈夫だと思いますよ。後で怒るなら、みんなで一緒に怒っちゃいましょう」

 

「え、えーっと……二水さん?」

 

「それでいいの?らっぎー、泣きっ面に蜂にならない?」

 

「だ、大丈夫……なんでしょうか……?」

 

「……思うところはあるんだね」

 

どうやら二水がそんなことを言ったタイミングでみんな戻って来たらしく、それぞれ困惑していた。

とは言え、実際ヘリオスフィアも間に合っているので、そこまで酷いことにはなっていないことが予想できたので、あーだこーだ考えすぎるのは止めにした。

 

「(元気でいてくれるといいんだけど……)」

 

特に何事もなく、ケロっとしていて欲しいと思いながら、今は体を休めながら、あのヒュージをどうするか等の対応を待つことにした。

 

「あった。ここがあのヒュージに一番近い避難場所みたいだね」

 

「中に誰かいるかもしれませんし、入ってみましょう」

 

それから暫くして、隼人や楓がいるグループがその避難場所に合流した。

 

「!隼人君、大丈夫なの?」

 

「ええ。背中はちょっと痛みますけど……大丈夫です」

 

「良かったぁ……」

 

特になんともない隼人を見て、叶星は安堵する。本当に大したことは無さそうだった。

 

「……って、えぇっ!?アリスさんっ!?何でいるんですかっ!?」

 

「まあ、こうなるわよね……」

 

自分のことを見てビックリした二水の反応からして、他の人と合流すればまたそうなるのだろうことが予想できた。

 

「あっ!みんないる……って、アリス?」

 

「あら、結梨に一柳隊の皆さんも一緒だったのね」

 

「だ、誰……?あの子?」

 

やはりアリスの紹介は必要になるので、一室借りてそこで話すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「隼人の命の恩人……」

 

一室を借りた後、アリスのことを簡単に紹介させて貰った。

少し前から共闘してもらっていることと、実力の方は全く問題ないので、この戦線を切り抜けるに限り協力を続けてお願いすることにした。

そして、実際に自分たちのレギオン同盟には例の繭から孵ったヒュージ──エヴォルヴと命名されたヒュージを討つことを要請されており、これを皆で対処することになる。

これをやるに辺り、エヴォルヴを中心に集まったヒュージを何とかしなければならないことと、通常のノインヴェルト戦術ではどうにもならない程の防御力をどうにかしなければならない問題があった。

 

「一つ解決策……と言うよりは、正直望みと賭けに近い方法があるわ」

 

高嶺が言うには、梨璃のレアスキルがその活路であり、彼女のレアスキルはカリスマではなく、ラプラスなのではないかという推測が出ており、それを使ったこの場にいる全員のマギを集めたノインヴェルト戦術で攻撃すれば或いは──というものだった。

とは言え、やるにはそれしかない為、後は全員がやるかどうかと言ったところである。

 

「私のことなら心配いらないわ。その為に来たもの」

 

アリス自身は特に問題ないので、後は各メンバーがどう思うかである。

 

「やりましょう。このまま放っておいたら、怪我したりする人たち……もっと増えちゃいますから」

 

「そうだな。後……早い内に倒さないと、学習されて本当に討てなくなるかもしれないし」

 

梨璃の言うように被害者を減らすのは勿論のこと、隼人が危惧した通りになると本当に不味いので、一柳隊は参加を決める。

とは言え、他のメンバーが参加しないなら撤退するしかないので、その時は可能な限り人をこの新宿から逃がしてになるが。

また、百合ヶ丘に所属する一柳隊はリリィたちの自由意志が通りやすく、このように現場判断が下しやすいのもあってすぐに決められるのは強みだった。

 

「今回に限ってはあまり行かせたくはないわ……。情報が少ないし、討てる保証もないから」

 

神庭女子の教導官をやっている女性はリリィたちの身を案じるのが理由で、乗り気では無かった。しかしながら、神庭女子は出撃選択制を採用している為、最終的にはリリィたちに委ねられることになる。

 

「私たちも行きましょう。エヴォルヴを討つにしても、そうでなくても、人手は必要になるわ」

 

叶星の決定に全員が賛成したことで、グラン・エプレも参加してくれることになる。

こうなると、最後はこのレギオン同盟の中では最も自由が利きづらいヘルヴォルが参加するかどうかになった。

 

「こちらとしては撤退を選択したい。情報が不足している以上、収集しきるまでは待ってもらいたいところだ」

 

神庭女子とは違い、実力派レギオンのメンバーの損失を避けるのが理由だが、確かに不確定要素が多いのも事実であり、一理はある。

一葉としては強制的な言い方をしてこないのは不思議に思ったが、こちらとしては出撃をしたいところで、理由もしっかりしている。

 

「確かに、情報は一つでも多い方がいいですが、隼人の危惧した通りになる可能性も十分ある……。故に、討てる見込みがある今こそ、出撃すべきだと私は思います」

 

「……そうか。ならば、確実に仕留めろ。それが絶対条件だ」

 

そうして一葉が自らの意見を述べれば、特に反論や嫌味等は飛んで来ず、そのまま出撃は認められ、告げることも告げた教導官たちは退室する。

 

「エレンスゲの教導官。お義母さまの意図は全く理解できていないようね」

 

「みたいだな。俺らを見て遠慮したって、あっちの体制が変わらなきゃ意味ないのに……」

 

「す、すみません。面倒な思いをさせて……」

 

相手の意図を理解できていた隼人とアリスはあきれていたが、それはともかくとして全員でことに当たれるのは大きい。

一葉は思わず謝ったが、彼女が悪いわけじゃないので、二人は気にしないことを告げた。

それはさておきとして、少しでも早く行動した方がいいため、まずはエヴォルヴを討つための段取りを組むことから始める。

ノインヴェルト戦術で討つのは確定だが、一つの問題として周囲にいる大量のヒュージ。これらを討って安全を確保するのは必須事項だった。

そして、時間を掛けるわけにもいかないので、今回は鶴紗の持つファンタズムをルート選定の為に使い、それを神琳と紅巴のテスタメントで補強し、全員にそれぞれのルートを見せるようにし、それに従って突破する方針となる。

 

「それなら、私の負担を多くしてくれて構わないわ」

 

アリスはこの中で唯一大きな消耗をしていないので、その分皆の負担を和らげてあげることができる。

これに関しては願ったりなので、是非ともお願いすることにする。

ルート通りに進んで殲滅をし、その後エヴォルヴにノインヴェルト戦術を叩き込むが、これでダメなら今度こそ新宿は放棄して撤退することになる。つまるところ、これが最後のチャンスでもあった。

幸いにもエヴォルヴは場所を移動する気配を一切見せないが、いきなりケイブに退避される可能性もあるので、早い内に動くに越したことはない。

そうして話がまとまったので、早速現場に向かうことにするのだが、隼人は夢結を筆頭に待ったを掛けられる。

 

「隼人君、あなたは自分が他の人たちを心配させていることを自覚しなさい……!」

 

「言っておくけど本当ですよ?あんなこと何回もやられたら気が気じゃないですからねっ!?」

 

「今回はもうダメだって。わたしも気を付けるから、一緒に気を付けよ?」

 

「お願いですから、わたくしに答えを聞かせるようにしてくださいな。ね?」

 

「実際、百由様も義手とは別で、お主の無茶をボタン一つで止められるようなものを作ろうかと考えておったし、当分控えた方が身のためじゃぞ?」

 

「わ、悪かった!俺が悪かったから……!」

 

一通り詰められたことにより、隼人は降参のサインを出して肯定の宣言を示すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

{ 第 12 話 }

 

突 入

rush into

 

 

終戦を目指して

──×──

And to the last battle

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

やることが決まったレギオン同盟は早速エヴォルヴのいる場所へ急ぐ。

進んでいく最中で、自分たちレギオン同盟を手伝うべく、現場にいたエレンスゲのリリィの一人が代表してそれを宣言する。

ちなみに、そのリリィが周囲にいたリリィを鼓舞した時の口上の一部がこれである。

 

「血反吐を吐いてでも、人々を守って見せる!」

 

「……血反吐?」

 

「あ、あの……これはその……」

 

「原因お前かよ!?しかしまあ、知らない内に随分と物騒な方針持つようになったな……俺のこと言えないんじゃないか?」

 

なんとこれ、一葉に感化されたことによるものらしく、隼人は驚きを隠せなかった。

とは言え、一葉に感化されていると言うことは、エレンスゲが変わるきっかけのようなものは掴めているも同然であり、これは未来ある光景の一つとも言えた。

そして団結して自らの持ち場に向かっていくリリィたちを見届けて、今度こそエヴォルヴのところに向かう。

 

「やっぱりいるわね。小型のヒュージ」

 

「時間も惜しいですし、始めましょう」

 

「よし。じゃあ二人とも頼んだ」

 

「はい……!」

 

行く途中で案の定大量の小型のヒュージがいたので、神琳と紅巴の二人のテスタメントで増幅した鶴紗のファンタズムを使って各々の担当するルートを共有する。

それが分かるや否、早速皆が飛び出してそれぞれのたんとうヒュージの殲滅を開始する。

 

「(縮地を使えば早いけど、これ以上の消耗は無理だな)」

 

ノインヴェルト戦術の事まで考えると無理なペース上げは自殺行為と化すので、隼人はそれをせずに通常機動でヒュージを倒していくことにした。

弾丸の残りも殆ど無いので、ほぼ全てのヒュージを近接戦闘で倒していくことになる。

正直に言えば、エヴォルヴを撃破できる保証はないし、失敗した場合に逃げれる保証も無い。

だが、撃破できれば確実に自分や香織のような目に遭う人を減らすことができる。ならばやってみたいと思う。

 

「とは言え、これは時間との勝負……できるだけ急ぐぞ!」

 

目の前にいるヒュージの一体を切り捨てながら、隼人はまた走る。

ヒュージを倒し、力なき人々を守る。それはヴァイパーを殺す為に戦っていた時代から変わることはない。

 

「(エヴォルヴのあの攻撃、アレがいつまた来るか分からないんだ……!)」

 

アレが今自分たちのところへ来れば間違いなく終わる。故に、時間との勝負になっている。

そして走りに走り続け、ヒュージを倒しに倒し続けていくと、途中で楓、アリスの二人と合流した。

 

「お二人がいると言うことは……!」

 

「道が重なったのね……なら」

 

「ここを一気に突破する!」

 

であればと、三人は一気に直進する。

突き進みながらヒュージを薙ぎ倒していき、そのままステンドグラスをシューティングモードを同時撃ちして割り、そのまま突入する。

 

「……!三人が……途中で合流した?」

 

「行き道が途中で重なったのね……」

 

「まだあれだけいるのか……!」

 

「ただ、道はこれで終わりみたいね。早いところ掃討してしまいましょう」

 

「皆さん、今そちらに行きますわっ!」

 

出た先にいたヒュージも三人で一気に薙ぎ払い、そのまま合流する。

そこから程なくして他のメンバーも次々と合流し、ここから本格的にノインヴェルト戦術を使って攻撃することになる。

 

「では、行きますっ!」

 

「(これ、やっぱりただのカリスマではないわよね……?)」

 

梨璃がカリスマを使った瞬間のマギを感じ取り、高嶺は自らの推測が合っていた可能性が高いことを察する。

そのマギの流れを感じたのか、エヴォルヴも目覚めただろう咆哮を上げる。

 

「っ……うぅ……」

 

それに気圧されて梨璃が怯んでしまう。集中し直すことになるが、同時に不安にも駆られていた。

 

「(まだ戦える……みんなを助ける……)」

 

必死に自分を鼓舞するが、これで失敗したらどうしよう。そもそもエヴォルヴを本当に倒せるのか?と言う不安は拭い切れない。

その不安をどうにか落ち着かせようとしていた時に、誰かが左手にそっと手を乗せた。

 

「……結梨ちゃん?」

 

「大丈夫。一人じゃないよ。みんながいるから……」

 

自分は一人で戦っているわけではない、ここにいるみんなと一緒にエヴォルヴを止めるのだ。それを思い出せた梨璃は不安を拭い去れた。

もう一度集中すると、少しずつ梨璃の髪と瞳の色に変化が現れ、結梨に近い紫色に変わった。

また、それと同時に梨璃を中心に、周囲にいるメンバーは力が湧いてくるのを感じた。

 

「何となくだけど分かる……これが、ラプラス……」

 

これによって、梨璃はラプラスを発動させることに成功したのだった。




後はこれで、エヴォルヴ戦やって終わりってところまで見えて来ました。

以下、解説入ります。


・如月隼人
流石に一柳隊の面々に怒られた。この戦場はもう無理できない。
ファンタズムでのルート選定を貰った後も、最低限のマギすら残らないから縮地は封印した。
一葉を尊敬したリリィの発言にビックリ。一葉が元なので二重の意味でビックリ。


・一柳梨璃
ラプラス覚醒。今回は結梨の言葉がアシストに。
この子がいないとエヴォルヴ戦は勝てない。倒れた瞬間に詰み一直線。


・今叶星
隼人が助けてくれたので頭を打たず、緊急治療も受けずに済んだ。
彼の安否を不安視していたが、無事なので一安心。
それと同時に、一柳隊の面々に怒られる隼人は気の毒とも、それはそうとも思った。


・宮川高嶺
相方の叶星が無事なので、メンタルダメージ無し。
自己分析が正確過ぎて、もしもの可能性にビビった。


・エレンスゲの教導官
原作だとかなり強行的な態度を見せたが、今回は由美の義娘であるアリスがいたので、それを隠した。要は由美への媚売り。
しかしながら、G.E.H.E.N.A.は本質がアウトなので、効果無し。

特型ヒュージを討った後、隼人の行き先は?(選ばれなかった行き先の場所は原作とほぼ変わらないので、スキップします)

  • 新宿
  • エレンスゲ
  • 神庭女子
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。