アサルトリリィ -RED THISTLE- 作:ブリガンディ
「では、始めましょう。始動役は……」
「アリスさんに回してあげてくださいっ!」
「配慮に感謝するわ。特殊弾をこちらに!」
このメンバーで始動役を誰がやるのか──。そう言う問題があったが、梨璃は即断でアリスを指名した。
メンバー内で唯一ノインヴェルト戦術を想定から外した戦いしかしてこなかったこと、隼人を省いて全員と始めて連携して戦うアリスは始動役に回して残りのサポートに徹するのが一番と言う判断だった。
実際アリスもこれは非常にありがたく、梨璃に特殊弾を回して貰った後、アリスは結梨に声を掛けて始動を開始する。
「じゃあ……姫歌っ!」
「任せて!」
ノインヴェルト戦術に慣れている一柳隊は後に回した方がいいと感じた結梨は、別のガーデンのメンバーに回すことを選ぶ。
グラン・エプレのメンバーで順に回していき、高嶺から最後は叶星に回そうとしたところで、エヴォルヴが動きを見せる。
「不味いわ……チャージを始めてる!」
「どこへ撃つ気だ……?」
このまま撃たれると幾ら千香留のヘリオスフィアがあろうとも、せっかく集めたマギスフィアがロストして今度こそ勝機を失うことが予見できた。それだけは非常に不味い。
「一葉、手伝って!」
「分かりました!」
ここで動いたのは叶星と呼ばれた一葉の二人で、彼女らは今残っているマギの内、ノインヴェルト戦術に回せるギリギリだけ残すように意識しながら、残りはありったけのマギを込めてCHARMを下から振り上げるようにしてエヴォルヴへと振るう。
二人同時と多量のマギが重なり、その一撃でエヴォルヴの体が少し傾く。
「いいわ……これを繰り返して、発射までにエヴォルヴの角度を空中までずらすわよっ!」
「はい!全力で手伝わせて貰います!」
「ならそれ、私もやらせてもらうわ」
ノインヴェルト戦術の始動をやった身ではあるが、まだできることがある。アリスも混ざった三人で、何度もマギを多量に込めたCHARMを振るい、エヴォルヴの体を打ち上げていく。
「ヒュージも来た……ヘルヴォルの人、回すから受け取って!そのままパスが終わったら、私たちであれらを引き受けましょう!」
「分かった!ならこっちにパスを回して!」
このまま待っていても自分たちが苦しいだけと判断した高嶺と、呼びかけた恋花の間でパスが行われる。
パス回しの終わったグラン・エプレのメンバーはそのままヒュージの撃退を始め、ヘルヴォルもメンバー間で急いでパスを回す。
「「これで……!」」
「最後よ!」
その間に彼女らが空中へ角度をずらし切ったと同時にエヴォルヴの攻撃も発射されるが、どこにも着弾することなく、虚空へ消えていくことが確認された。
「よし……二人とも、そっちに回すよ!」
「では、叶星様……」
「ええ。隼人君、後は一柳隊にお願い!」
二人でほぼ同時にマギを込めて、隼人にパスを回す。隼人はこの中では最も中継役を担いやすかったので、今パスを回されたのだ。
「了解!よし、楓、そっちに回すぞ!」
「ええ……!って、何てマギの重さ……!二水さん、そちらに回しますわっ!」
「は、はいっ!いつでもどうぞ!」
あの時のヒュージと違い、かなり丁寧にパスを回している為、そのマギの重さを直に感じることになってしまっていおり、もう既に13人ものマギが込められているので、相当なものを手元のCHARM越しに感じている。
それでもどうにか踏ん張ってしっかりとパスを回し、そこからさらに繋いでいく。
「お、重い……!」
「雨嘉さん、こちらに!」
「うん……お願いっ!」
残りのマギを込めていない人は雨嘉を含めてあと四人になっていたが、長い戦闘での消耗と、非常に大きいマギが理由でもう維持しながらのパスが限界に近いところまで来ていた。
長時間の保持が危険と判断した神琳は、すぐに雨嘉がパスしやすいところまで移動してそれを受け取り、夢結の方へ回し、そのまま梨璃の方まで回される。
「う……うぅ……っ!?」
自分を含めて合計で22人。さらに長い戦闘による消耗。これらが重なって、最早一人でフィニッシュショットを撃つにしてもまともに動けないレベルになってしまっていた。
しかし、このままの状態でいるといつかエヴォルヴに撃たれてしまう為、どうにかしてフィニッシュショットを撃つ必要があるのだが、無理に動くとここまで来てロストする危険性も孕んでおり、この状況で繊細な動きを求められていると言うのも中々痛い。
必死にマギをロストしないように制御しながらどうするかと考えていた梨璃のところに、夢結がCHARMを重ねて負担を和らげてくれる。
「これなら大丈夫なはずよ」
「お姉さま……」
夢結が負担を軽くしてくれたお陰で、狙って撃つくらいは十分に動けるようになった。
自分を支えてくれた
「これで……最後ですっ!」
放たれたフィニッシュショットは寸分の狂いもなく、エヴォルヴに向かっていき、異様なまでに強力だったマギスフィアを突き破って本体に届く。
22人分のマギが込められたマギスフィアの威力は尋常ではなく、あっさりと中心に届いて突き抜けていった。
当然、そんな損傷を負ったエヴォルヴも耐えられることは無かったようで、死に際の絶叫に近い声を上げながら爆散した。
「お、終わった……?」
辺りを見渡して見れば、残りのヒュージたちも蜘蛛の子を散らすように逃げて、ケイブに入り込んでいくのが見えた。どうやら戦意を喪失したらしい。
これは戦場と化した新宿各地で起こっていたことらしく、本当に戦いは終わりを迎えたらしい。
「隼人、右腕はどう?」
「今のところは何ともないよ。ただ、後でチェック頼んだ方がいいよな……」
今回も想定外の大人数でのノインヴェルト戦術を行ったので、それはやっておいた方がいい。
アリスも必要なら由美に連絡してくれるらしいので、帰りに少し寄り道させてもらおうと思った。
「そちらも無事で良かった……」
「はい。幸いにも、地下まで非難することができたので……」
どうやら戦線維持が困難になっているなったらしく、ヒュージを一通り倒した後は被害を受けない為に地下へと退避することを選択したようで、これによって大きな被害を受けないで済んだらしい。
既に市民の避難も終わっていた為、今回のように無理をしない選択は非常にいいもので、無駄な損害を増やさないで終わることができた。
「おっとっと……あはは。流石に、疲れちゃいました……」
「そろそろ帰りましょう。いい加減、休まないといけないから……」
それぞれの教導官に挨拶等を軽く済ませた後、それぞれのガーデンに帰還することになった。
* * *
* * *
あの戦いから早くも二週間が経過した朝──。今日は約束したレギオン同盟が集まって百合ヶ丘で過ごす日であった。
簡単にガーデンの案内をすることと、浴場の貸し切りで堪能することになっているのだが、当然ながら隼人はその浴場に混ざることはできない。今この瞬間だけは非常に悲しかった。
それはそれで仕方ないので、隼人はその間暇を満喫することに決めている。
「(見事に何も無しだったな……正直それは助かるけど)」
帰る前に右腕のチェックをしたところ、異常は無かった。ナノマシンも完全に正常のそれである。
驚くほど問題ないことに全員で驚きはしたが、由美曰く、ラプラスが負担を和らげてくれた可能性が高いとのことだった。
しかしながら、ここ二週間の検査によると、梨璃のレアスキル判定はカリスマが出続けているようなので、過信は禁物だろう。
「それはそうと、どこで伝えるかな……?」
結局、あの戦いの日に伝える予定だった楓の想いへの返答は当日疲労困憊で全員がすぐに眠りにつく、そこから各々の身体検査やらあの戦いにおける現場調査だので、今日まで全くそれをする機会が無かった。
隼人からすれば今日が望ましいと考えているので、タイミングを考えていた。
できることなら二人きりになれるタイミングで──。と思っているが、急かされたらその時はその時だ。
「(あの頃に戻りたいかって言われたら、そう思わないんだよな……)」
香織が生きていて、自分の右腕が斬られない──。つまるところ、ヴァイパーに出会うよりも前への頃への執着はない。それよりも、楓と一緒に生きる未来への方が興味が向く。
恐らく複数の言葉を使えるようにする必要はあるものの、結局はそれさえどうにかすれば、何とでもできるだろう。
「ま、ともあれだ。今日は絶対忘れないようにしないと」
ミリアムは百由に連れられてこの前の現場へ調査に赴いており、「今日中に結果を教えてくれ……頼むぞ」とこちらに念押ししてきていた。少なくとも自分の気持ちは、一柳隊の全員にはバレているようだ。
それならそれで、こちらとしては遠慮しないでいいなと割り切った。
「いいところね。ここは確かに落ち着けるわ……」
「いい場所だろ?俺も結構……」
──気に入っているんだ。と、言葉が繋がることはなく、そちらの方に顔を向けて驚くことになる。
なぜならそこには、自分以外で百合ヶ丘の制服どころか、思いっきり私服でガーデンに居座る、自分がよく知る少女がいたのだから──。
「あ、アリス!?お、お前何でここにいるんだ!?」
「あら、忘れたの?私もあの時呼びたいって言ってて、結局許可は通ったのよ?」
「ああ。そう言えばそうだった……」
アリスも手伝ってくれたお礼に招けないかと百合ヶ丘で交渉したところ、無事にOKをもらうことができたのだ。
それも僅か一日で決まった出来事かつ、比較的多忙なのもあって、頭から抜け落ちてしまっていた。
「てかお前……温泉行かなくて良かったのか?」
「それなら大丈夫よ。上がって少ししたところだから」
──もうそろそろみんな来るわよ?発言からするに、一緒に入っていたらしい。その上で髪を乾かすのと手入れを綺麗に早く行ったようだ。
それにしても、腰まで伸ばしていると言うのによくもまあそこまでの速度と正確さを合わせて整えられるなと、隼人は内心で感心する。
「私からも聞くけれど、ここを出た後の行き先は決まっているの?」
「ある程度は絞ってる……と言うか、ほぼ固まってるな」
それを聞いてアリスは安堵する。隼人がこちらに戻って寂しい世捨て人生活を送らないで済みそうだったからだ。
未来は明るい──。それを聞けるだけで、自分たちは不安が無くなる。
「ああ、そうそう。気になるお相手はいるの?」
「あ、ああ……それどころか明確に好きって言える子が……」
──てかお前、そっちに興味あるのか……。隼人が呆然していたら、「失礼ね。私も年頃よ?」と返されてしまったので、それ以上は返せなかった。
「何かで盛り上がってまして?」
「おっ、戻って来たか……」
声を掛けて来たのは楓だが、その目が笑っていないということは幸いにもなかった。
この後、ガーデンでの景色を回ったり、食事を堪能したりと、前にできなかったことを思い切って楽しんでいく。
本来はもう少し先になっていたかも知れないし、できなかったかも知れなかったこの時間はかけがえのないものとなったことは違いない。
「そう言えばお前ら、一個聞きたいんだが……」
休憩として一柳隊に宛がわれた部屋に集まっていたところ、梅が隼人と楓の二人を見て話を振る。
「こないだ言ってた答えってやつは何だ?」
「えっ!?あ、えっと……その……」
「ああ……あれですか」
──そう言えば俺を引き留める為に言っちゃってたよな……。この前のことを思い出し、慌てる楓の隣で隼人は冷静だった。
それならばと、隼人はここで言ってしまうことを決めた。
「楓、ここで言っても大丈夫?」
「隼人さん!?え、えっと……ち、ちょっとだけっ!心の準備をさせてくれませんこと!?」
まあそれくらいはと隼人が承諾すると、楓は大きめの深呼吸をして自分をどうにか落ち着かせる。
そして、覚悟の決まった楓はその先を促す。
「あの返事に関してはOKを返す……と言うか、寧ろ俺の方からお願いしたい」
「!と言うことは……」
その先が分かったことで、楓は嬉しさと驚きが混ざった顔になる。
また、隼人は今度は改めて自分から言いたいので、その先をいうことにする。
「俺は、楓のことが好きだ。嫌じゃなければ、俺と付き合って欲しい……」
『あぁ……!』
右手を前に出し、頭を下げて目を閉じる──。その光景に皆が息を吞む。
実際に言われて嬉しかったので楓は少し硬直していたが、すぐに気を取り直してその右手を両手で包むように優しく握る。
自らの右手に来た温もりを感じ、隼人はそちらを見る。他の皆はまた息を吞む。
「そのお言葉……ずっとお待ちしていましたわ……」
「ごめんな。こんなに待たせちゃって……」
「全くですわ。ですが、あなたの気持ちを聞けただけで……それだけで今、わたくしは嬉しいですわ」
「そっか……そりゃよかった。改めて、これからよろしくな?」
「勿論。こちらこそ、よろしくお願いしますわっ♪」
二人で改めての挨拶と一緒に笑みを向け合うと同時に、周りの皆から歓声と拍手による祝福を受けた。
その後日、二水からのインタビューを受けて『百合ヶ丘に男女カップル誕生!』と言う見出しの新聞を作られることになるが、その時写真の二人はそれはもう幸せな様子を見せていたと言う。
「(こんなところにこれただけじゃなくて、こんなにいい相手と付き合えるようになるの、前じゃ信じられないくらいに夢な場所だけど……それが今の俺の現実なんだ)」
数年前から長い暫しの間復讐者として生きていた少年は、遂に幸せの欠片を手にするのだった。
と言う訳で一旦完結です。
後は書いていないルートの方を書いて、余裕あったらなんかボチボチ書いていくって感じになります。
以下、解説入ります。
・如月隼人、楓・J・ヌーベル
遂に気持ちを通わせる。これからの未来はきっと明るい。
暫し熱愛報道的なのに付き合うことになるが、まあいいやの精神。
・アリス・クラウディウス
ノインヴェルト戦術始動役を担当。百合ヶ丘にも来校。
隼人の答えが自らの望む普遍な世界への回帰で安堵した。
一旦の完結なので、最後にちょっとしたご挨拶を……
この小説を最後まで読んでいただきありがとうございました。
特に新しいネタはないので、新しいのを思いつかない限りは読み専でいようと思います。
特型ヒュージを討った後、隼人の行き先は?(選ばれなかった行き先の場所は原作とほぼ変わらないので、スキップします)
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