アサルトリリィ -RED THISTLE-   作:ブリガンディ

6 / 51
連続でアニメ4話に位置する話です。
アニメ4話分の所は今回で終わりです。


第6話 決意

「さて……今後のこともありますから、彼を迎え入れるかどうか……引いては、わたくしたちもヴァイパー討伐に参加するかどうかを決めてしまいましょう」

 

時刻は少し遡って夕方。梨璃たちは一度メンバー探しを中断し、隼人をレギオンメンバーに入れ、ヴァイパーとの戦いに関わって行くかどうかを決めることにした。

なお、夢結を見つけることは出来なかった為、一先ずは梨璃、楓、二水の三人で話し合って、この三人の答えを出すことに決める。

 

「私は話でしか知らないんですけど、ヴァイパーってかなり異質なヒュージなんですよね?」

 

「ええ。では、まずはヴァイパーに関する情報の確認からしましょうか」

 

口頭で伝える形にはなるが、まずは自分たちが隼人をメンバーに加える場合、どんなヒュージと戦うかは知っておく必要がある。

楓が二人にその情報を伝え、隼人が何故百合ヶ丘に入学したのかも改めて説明する。

入学した理由自体は梨璃も知っていたが、戦力の低いリリィや、戦力を持たない一般人なら戦闘や活動を継続し、強いリリィが相手なら撤退する傾向がある。

 

「私、そんなことも知らずについていくって言っちゃったんだ……」

 

「あ、あれは想定外のことですから……!」

 

ヴァイパーがまさかこっちにやって来るなど、誰も想像できなかったのだから、巡りあわせが悪いとしか言いようがない。

この他にも、ヴァイパーの傾向から考えると、参加するなら訓練もしっかり積む必要があるのは目に見えていた。

いざヴァイパーと戦う時に、戦闘を継続されてしまったら彼も気を張る場面が増えて返って損してしまうだろうし、こちらも後悔する。

 

「そうなると……訓練とか、結構必要になりますよね……」

 

「間違いなく。とは言え、流石に向こうもその辺りの融通は利かせるでしょうから……迎え入れるならこちらのことも手伝って貰うくらいいいでしょう」

 

実戦経験無しの二水は不安だったが、楓は割と前向きな──または開き直った思考をしていた。

何も彼自身、『今すぐにでもヴァイパーを討てる程の戦力』を欲している訳ではない。要は、『最終的にヴァイパーを討つことが可能になる戦力』になればいいのだ。故に二水も梨璃も拒否されなかったし、楓に対して是が非でもと固執もしなかった。

彼我の実力差を向こうが正確に知っているかは分からないが、さっさとヴァイパーを討ちたいのなら、このガーデン最高戦力と言えるレギオン『アールヴヘイム』に参加すればいいのだから、それをしないと言うことはその考えを持っていないか、持っていてもヴァイパーからの防衛を優先していることを意味する。

 

「ですので、後はわたくしたちがどうしたいか……ですわね」

 

多少訓練等が増えるかもしれないが、隼人を迎え入れる。自分たちのペースで進めるが、隼人を諦める。この二択である。

楓自身は最終的に梨璃に合わせるつもりではあるが、別に迎え入れること自体は問題ないと考えていた。ヴァイパーの意図的に力ない人を傷つける行為には思うところがある。

 

「私、如月くんを迎えたい……」

 

「ヴァイパーと戦うのを承知の上で……ですわね?」

 

楓の問いに、梨璃は頷く。梨璃にあまり無茶をして欲しくないと思う楓だが、何か理由があるのは確かだ。

その為、せめて理由だけは聞いておこうと決めた。

 

「如月くんにはあの時……大怪我しちゃうか、死んじゃうかも知れなかった私を助けてくれたから……だから、彼のやろうとしてることを手伝いたい」

 

──それじゃダメかな?少し困り気味な笑みと共に問いかけられ、楓は思わず勢いで賛成したくなってしまったが、理由等にも意識する。

迎え入れようと改めて決めた動機は、入学式の日に参加した脱走ヒュージ戦と近しく恩返し。ただし、その時と明確に違うのは、CHARMの契約も済ませてなく自殺同然のことをしかけた当日と違い、今回はしっかりと長期的になるかもしれない目標として見ている。

楓からすれば、梨璃は命の恩人(運命の人)なので、その気持ちを尊重したいし、危ない目には遭わせたくない。だが、今回のこれは時間をかけて危険の可能性を減らしていける点が非常に大きい。

 

「分かりました。そうでしたらこの楓・J・ヌーベル、お手伝いさせていただきますわ」

 

なので、寧ろ楓もヴァイパーを自分たちでどうにかできる機会と考え、乗っかることにした。上手く行けば、隼人のヴァイパーを追うと決意した動機を知ることができる。

こうなれば賛成二、未回答一だが、このまま多数決──と言うのも今回は良くない。ヴァイパーの性質もある為、一人でも反対するなら、今回は諦めた方がいい。

 

「私も、如月さんを迎えたいですっ!もちろん、訓練だってちゃんとしますから!」

 

長めに見積もっても猶予は二年半──。長そうに見えて短そうではあるが、それでも十分に時間はあるのだ。これが二水に参加の決意を後押しした。

これで今この場にいる三人が全員賛成し、隼人を迎え入れると言う決断が降りた。

 

「じゃあ、今度はお姉さまに聞きに行こうっ!」

 

決まれば早く、今日は時間が許す限り夢結を探しに行くこととした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

{ 第  話 }

 

決 意

determination

 

 

不安を乗り越えて

──×──

regret one does more than regret one doesn't

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うことでお姉様さえ良ければ如月くんを迎え入れようと思うんです」

 

翌日──。夢結を捕まえた梨璃たちは昨日の出来事と、自分たちの答えを伝える。残念ながら、昨日は行方を掴めなかったので、今日話すことになった。

三人で話した結果、梨璃のヴァイパー相手もやっていくと言う決意が事を決め、こうして夢結に問いかけることになった。

話を聞いて「なるほど……」と、納得した夢結は自分の回答を告げる。

 

「構わないわ。如月君を迎え入れましょう」

 

微笑みと共に返された承諾に、三人揃って喜びを分かち合う。

この朗報を早速本人に伝えたかったのだが、生憎隼人は今日、免許の研修中である為、戻ってくるまで時間がかかるだろうと言っていた。

 

「じゃあ、その研修から戻ってきたら伝えましょう!」

 

「うんっ!そうだね」

 

一応、そろそろ戻ってくる時間のはずなので、募集の方向性が変わる為に出てくる内容の討ち合わせをしておくことにした。

その結果、今掲示させて貰っている募集の旨を示す紙を作り直す必要はあることが確定する。

 

「募集する人は絞り込めた……後はこの方針で、どれだけ興味を向けられ、踏み込んで貰えるかね」

 

対象を絞り込むことは、同時に条件に合わない人は最初の段階で諦めることを意味する。

だが裏を返せば、条件を受け入れられる人なら来てもらいやすいので、後は今まで通りのところに問いかけを追加し、動向を伺うだけである。

 

「(やっぱり、最初の講習は楽すぎるな……乗り方分かっちゃってるし)」

 

「あっ、帰って来たみたいですよ」

 

何か考えているような表情を見せる隼人を見つけ、二水が手を振って隼人を呼ぶ。

レギオン加入の成否があるので、隼人はそちらに足を運んだ。

 

「どうだった?」

 

「夢結様からゴーサインをもらえましたっ!」

 

それはよかったと隼人も一安心する。

この後はまたメンバー探しに行くのだが、隼人が免許の為の講習から戻ったばかりである為、一度隼人の休憩が終わってからに決めた。

 

「ところで、如月君。今更とやかく言うつもりはないけれど……あなた、無免許運転していたわね?」

 

「まあ、人命掛かってますから……って、何で分かったんですか?」

 

「「……えぇっ!?」」

 

「乗る時が緊急事態だからとは言え、危険な橋を渡り過ぎてますわね……」

 

絶対都心付近から情報流れて来たんだろうなと予想を立てるが、事実は事実である。実は祀以外の生徒会のリリィの内、一人が隼人を警戒していたのはそのせいである。

人命救助の理由で現場急行は理解できるが、かと言って無免許運転と言う無謀は、入学式の脱走ヒュージ戦についていき、この前のレストア戦で夢結へ接触しに行こうと無茶をした梨璃からしても話が違った。

それとは逆に、隼人からすれば梨璃のような無茶は、()()()()()()()()()()自分もやっただろうと考えていた。

実際、一度だけ訓練不十分を理由に出撃を止められたことがあり、その時は渋々受け入れていたが、止められなければ現場にすっ飛んで行ったのは間違いないだろう。

 

「あっ、忘れない内に伝えておきますね。ヴァイパー討伐に協力するので、訓練の時、お力添えをしてくれると嬉しいんですが……大丈夫ですか?」

 

「こっちが頼んでる分、それは引き受けるよ。必要な時言ってくれたら行くよ」

 

訓練等の協力は隼人の通すべき義理である為、何ら迷うことなく受け入れる。例えこうやって二水に問われずとも、隼人個人がそれをするべきと考えていた為、その時は自分から言い出していただろう。

ちなみにレギオンの勧誘は、隼人が加入したことにより、募集の用紙を修正する必要が出たので一旦手直しをすることになる──と思ったが、それ前提に修正版は用意済みだったので、まずは募集用紙の貼り換えをしてから勧誘活動を始める。

昨日の時点で、ガーデン内を歩き回って大丈夫そうな声を掛けると言う方法を取ってこの成果である為、来る人を待つ方針を取ってみることにした。

 

「なんか悪いな。俺のわがままで、他の子遠慮気味にさせちゃってる……」

 

「だ、大丈夫だよっ!私たち、それも分かった上で引き入れたんだもんっ!」

 

──が、進捗はよろしくない。その原因が本人も述べた通り隼人が加わり、ヴァイパー討伐が視野に入ってしまうことも原因である。

これは梨璃たち四人しか知りえてないことなのだが、隼人が即戦力を求めていないことを気づいていないことにも拍車を掛けている。

隼人の意思を伝えるべきか迷ったが、変に伝えて更に遠慮されるとお手上げになってしまうので、それは辞めにした。

 

「他に心当たりある人はいる?いるなら、先にその人誘ってもいいんじゃないか?」

 

こうして興味を持ってくれる人を待つのもいいが、いっそ先に残った可能性を確かめる方がいい。そんな隼人の思考がこの提案を出した。

隼人の提案には、一人いるから聞きに行ってしまおうと二水が乗り、百由のラボに移動を始める。

 

「百由様のところによく出入りするってことか?」

 

「みたいだよ。凄い特徴的な喋り方をするから、如月くんも覚えやすいと思う」

 

「二水さんに負けず劣らずのちびっこでもありますから、尚更ですわね」

 

「ま、またちびっこって言われた……」

 

移動している最中、サラッと楓による二水弄りがあったが、二水自身は確かにちびっこ呼ばわりを心外に思うものの、その内慣れる自分がいるかもなとも考えていた。

この後も今までの勧誘具合がどうだったのかを隼人と共有しながら移動していると、道の途中で腰の先まで伸びた銀色の髪を耳より少し高い位置でツインテールにした、二水に負けじと小柄な少女と出くわした。

 

「あっ、ミリアムさん」

 

「おお。お主らか……で、そっちが例のか」

 

「よろしく。俺は如月隼人」

 

「ミリアム・ヒルデガルド・v(ふぉん)・グロピウスじゃ。よろしくの」

 

少女──ミリアムと軽い自己紹介を終えた後、レギオンメンバー探しをしていることと、隼人の加入を認めたのでヴァイパー討伐に関わることになるのを話してみる。

 

「なるほど……ヴァイパーに関しては百由様から実戦でのデータ取りも頼まれておるし、お主らが討つと言うなら同行させてもらうとするかの」

 

──もちろん、早く倒せるのがいいことに変わりはないがの。と、付け加えがあったが、それでも加入してくれることには変わりない。

であればと、隼人の時は例外なのでしていなかったが、レギオン結成用紙の名簿覧に、彼女の名を記してもらった。

 

「それじゃあ、そろそろわしは移動する。メンバーが見つかるのを祈っとるぞ」

 

別れ際にミリアムがくれたのは激励の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「これで六人……あっ。えっと、如月くんは入れちゃダメだから五人かぁ」

 

「特殊編成って、思ったより大変ですね……」

 

「レギオンを結成するにあたって、人数換算できないのは面倒ですわね……」

 

ミリアムを勧誘した後、同じクラスのリリィでまだレギオンに入っていない人から声を掛けて行こうとなって移動をしている際に、現状の整理と隼人の特殊性による難儀を確認した。

これに関しては、隼人も非常に申し訳無く思っており、せめて入りづらくしないようにと、レギオンの話をする際は彼も同行して最終的にヴァイパーが討てれば実力を問わない旨を伝えるようにしている。

現に、戦闘力はガーデン内最下位でも、リリィに関する膨大な知識を武器に入学した二水を迎え入れているのだから、それに関してはある程度理解されるだろう。事実、加入しない場合は方針の合わなさや既にレギオンに加入済みが起因していた。

 

「(……名前からして中華とかそっちの出身か?)」

 

方針について従ってやって来たのは、寮の部屋の一つで、そこにいるリリィの名は『(くぉ)神琳(しぇんりん)』と、『(わん)雨嘉(ゆーじあ)』と書かれてあった。

実際、名前の通り中華出身であるのだが、隼人がそれを知るのはまた今度になる。レギオンの話をするので、一先ずノックをして部屋にいるかの確認を行う。

少し待つと、背まで伸びた深めの金髪と、左が金、右が赤で左右で違う瞳(オッドアイ)を持つ育ちの良さそうな少女が出迎えてくれて、事情を話せば中に入れてくれた。

部屋には大人しそうな黒髪の少女もおり、彼女は形態端末を弄って何かをしていた。なお、招き入れてくれた方が神琳、部屋で形態端末を弄っていた方が雨嘉である。

 

「(これ、アリスの部屋行った時よりも強いな……)」

 

隼人が部屋に入った直後に感じていたのは女子特有の甘い匂いであり、決して広くない部屋に二人分も充満するのだから、どうしても意識してしまう。

一人分くらいであればアリスのお陰で大分慣れていたのだが、二人分はそれを余裕で上回ったこれはまた時間がかかりそうと確信したので、一先ず今回は顔に出過ぎないように気を付けることとした。

 

「(あの格好……百合ヶ丘のじゃないな?最近編入した子か?)」

 

隼人は雨嘉の格好が外部から来たことを告げているのに気付く。ミニスカートかつスリット有と非常に危ない格好だが、大丈夫なのだろうかと言う疑問がついた。

とは言え、自分が突っ込むと面倒ごとが起きてもおかしく無いので、それは触れないことにした。

 

「なるほど……腕前を問うのであれば、わざわざこんなことしていませんものね?」

 

「まあ、そう言うことだよ。この三年間の内に討てればベスト……最悪ダメでも、後続に託せればいいんだ」

 

そして、タイミング良く神琳から話を振られたので、そちらに乗っかって雨嘉の恰好から意識を逸らすことにした。

実際、神琳の言う通りのことをするならば、梨璃と二水がいる時点で夢結と楓がいても諦めるだろう。

だが、そんな風に選んでいるといつまで経っても参加できないし、その結果ヴァイパー討つために来たのにその準備ができずに終わるという本末転倒になってしまう。

 

「分かりました。そうでしたら、わたくしも参加しますわ。都心近くで三年以上も問題になっていたヴァイパーがこちらに来た以上、放置はできませんから」

 

神琳は滞りなく参加を示してくれたので、これで六人。後三人になる。

この直後に、神琳が雨嘉にレギオン加入の是非を問うが、何やら迷いがある──或いは自身が無さそうな様子だった。

隼人が予想できるのは、こっちが気にしていない腕前云々か、ヴァイパーへの恐怖心かの二つだが、後者の場合はリリィを続けられるかが非常に怪しくなってしまう事案でもある。

 

「もしかしてだけど、腕前とかの方で?」

 

「ごめんね……。せっかく、大丈夫だって言ってくれてるのに……」

 

聞いてみたら案の定だが、これが梨璃や二水のように補欠合格等で実戦経験が少ないからなのか、それとも過去の出来事が原因かは分からない。

これが前者だったらこれ以上は無理強いだが、もし後者の場合は、一つ提案を出せる。

 

「これ……俺が言うのは変かも知れないけど、君の腕前を見て、俺たちが判断するのはどう?」

 

「……私の?」

 

「勿体ないと思ってさ……何もやらないで諦めちゃうの。だったら、思い切って一回やっちゃおう」

 

後者だった場合、皆で評価して決めてしまえばいい。評価が高ければ後押しするだけで彼女は入る決断が可能なはずだ。故にこの提案であり、その方法自体は反対されない。

 

「私もそう思う……。私、最近リリィになったばかりだから、腕前も経験も全然足りてない……だから、雨嘉さんの実力も見てみないと分からないよ」

 

「二人とも……ありがとう。私、やってみる」

 

何なら、レストア戦の時もそうだが、入学して以来何らかの要因で閉ざし切っていた夢結の心を開かせた梨璃が後押ししてくれた。

この二人の言葉に雨嘉もそのまま終わってしまうのは違うと思い、決心をする。

 

「如月さん提案にワカランチンで乗っかるとは……まあ、そこが魅力でもありますが……とはいえ、一つ問題はありますわね」

 

──その方法、どうなさいますの?楓の指摘通り、これが問題である。言ったはいいが、彼女の腕前を確認する内容すら決まっていないのだ。

 

「なら、その方法はわたくしにお任せを。雨嘉さんの強みに合うものを用意できますわ」

 

幸いにも神琳が方法を用意できるので、早速入団試験の為に移動を始めるのだった。

移動の前に夢結にも事情を伝え、監修として彼女も同行することになる。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……如月君、だったよね?さっきはその、ありがとう……提案出してくれて」

 

「こっちこそ、何かごめんな。ロクに何するか決まって無かったのにあんな事言って……」

 

そして入団試験を行う為に移動した後、雨嘉は隼人に礼を、反対に隼人は雨嘉に詫びを告げる。

実際、雨嘉は隼人の一言で挑戦する方向に舵を取る決心ができたのだから、それだけでも嬉しかったのだ。

 

「ちなみに聞くんですけど、どうしてあの提案をしたんですか?」

 

「俺の所感なんだけど……諦めるならやれること全部やって、それでもダメだった時だと思うんだ」

 

二水の問いに対する回答は、それだけでも十分に伝わった。そうじゃなければ、彼がこの百合ヶ丘に来ることはおろか、そもそもCHARMを持って戦うことすら無かっただろう。

これには聞いてた雨嘉、梨璃、楓の三人も、ああやってすぐに切り出せたのはそういうことだと納得する。方法が思いついてるかはさておきだが。

この会話が終わった後、雨嘉の携帯に神琳から電話が来て、試験内容が伝えられる。

 

「……確か、向こう側にいるんだよね?」

 

「神琳さんは、夢結様とご一緒に向こうですわ」

 

今現在、並んでいる廃墟になったビル群の内一つの上に立っており、神琳と夢結はそこから離れたビル群ところにいるようだ。

なお、訓練を行う際にCHARMの信号機能で光を発し、位置を知らせてあるので伝えた訓練自体に索敵は入っていない。

──この距離で訓練するのでしたら……まさか?神琳と雨嘉の距離と試験で、楓は一つの答えを導き出した。

 

「雨嘉さん、猫、好きなの?」

 

「えっ?う、うん……」

 

内容の通達が終わった後、梨璃が雨嘉の携帯に付けている猫のストラップに気づき、「可愛いね、この子」と好意的な評価をする。

この何気ない一言は、雨嘉の持っている価値観を一つ肯定したことも意味しており、彼女が梨璃のいるレギオンに入りたいと言う気持ちを確かなものにする決定打となった。

 

「これ、持っててくれる?」

 

梨璃にその携帯を預け、雨嘉はスナイパーライフルかのような射撃形態となっている青いCHARMを構える。

そして右目の前に何やら薄い蒼の円盤が現れ、それがどんどん表れて10cm程離れたところまで伸びていく。

 

「やはり、『天の秤目』でしたわね」

 

「長距離射撃向けのスキル……なら、やることは狙撃か」

 

雨嘉の使った天の秤目もレアスキルの一種で、遠くの標的を正確に見るための異常レベルの視力を得て、それの距離・方角を極めて正確に把握できるものである。

このスキルと、CHARMの中に装填した模擬弾10発を使い、対象を狙撃。全弾命中させるのが訓練内容らしい。今回は1キロほどと肉眼で見ることは到底不可能な距離まで離れているので、尚の事レアスキルと本人の腕前が出る内容になる。

 

「ちなみに、何を撃つの?」

 

訓練内容自体は興味があるので、梨璃が聞いてみる。

その間にも、神琳は雨嘉に自分の脳天を狙えと言わんばかりにジェスチャーを向けて来ている。

 

「……神琳」

 

「「えぇっ!?」」

 

「「……は?」」

 

雨嘉の回答に対するリアクションは前者が梨璃と二水、後者が楓と隼人である。

何か用意しているかと思えばまさかの自分自身なので、驚かないことはないだろう。事実、梨璃と二水は危ないよと大慌てしている。

 

「彼女、信じてるんだ……」

 

「でなければ、自分を標的になんてしませんわね」

 

この一見とんでもない標的指定だが、裏を返せば相手の腕前を信じているからこそである。それができないならこんなことは絶対にしない。

チャンスをくれた神琳、隼人と梨璃に答えることを告げ、狙いを定めた一射目を行う。

それは寸分の狂いもなく神琳の方へ飛んでいき、弾を放たれた彼女は手に持っていた近接形態のCHARMで()()()()

二発。三発。四発と。発射されていく弾は全て神琳へと寸分の狂いも無く飛んでいき、彼女も全て弾き返していく。

五発目の射撃を弾き返したタイミングで神琳の使っているCHARMが欠けててしまうが、それでもまだまだ全然振るえる。

 

「(神琳さん、弾き返さない強度にまでマギの込める量を抑えているのね……)」

 

何故CHARMが欠けてしまったのか──これに見ていた夢結は気づいていた。

打ち消す程度のマギしか入れていない為、CAHRMの剛性を()()()()()()()()()()のである。

その分無茶も祟ってしまっており、それが今回の様なことを招いている。

 

「(最後の一発……その時に行きます。それを雨嘉さんなら……)」

 

また、更に神琳は対等な条件で実施したいことから自身が普段使用するCHARMは足元に準備しておき、雨嘉が使っているもの同型で色違いのものを使用していた。

これも雨嘉の腕前なら大丈夫と信頼しているからこそであり、この後の六発目と七発目もそのまま打ち返した後、強くなった風が肌を伝い、髪を揺らす。

 

「(あの距離に風か……相当影響受けるな)」

 

いくらマギを込めた弾丸と言えど実体弾。無視できない影響を貰ってしまう。

神琳のところまで届けるだけならば、このまま風が止むまで待つのも選択肢だが──雨嘉はこの風が吹いている状況下でも引き金を引いた。

本人がとある事情で自分に自信が持てなかっただけであり、腕前が無いなんてことはない。現にこの状況でなお、神琳のところまで届くように微調整して届かせており、彼女もそれを打ち消している。

 

「「凄い……」」

 

そんな状況で当てられるのだから、梨璃と二水(初心者組)でも分かる程の腕前である証明にもなる。

まだ風が止む気配が無いので、一度やり過ごそうかと思ったが、目標の位置まで届かせられるのを確信している雨嘉はそのまま続行を決める。

同じ状況下で九発目も放ち、これも神琳のところに届いて打ち消される。立て続けに十発目を撃ち、これも神琳が打ち消すかと思ったが──。

 

「(雨嘉さん、あなたならこれも対処できるでしょう?)」

 

雨嘉が弾を撃つと同時、即座に本来自分が使うCHARMに持ち替え、それを()()()()

これが何を意味するかというと、今まで返って来なかった弾丸が雨嘉の方へ帰ってくるのである。

しかもこれが1キロ離れていても瞬きする頃には届く速度なのだから、相手側が失敗すればシャレにならない。

 

「っ!?……!」

 

だが、雨嘉は咄嗟にCHARMを近接攻撃形態に変形させ、弾丸に刃を当てる事で打ち消して見せた。

今ので指定された模擬弾十発を使用した射撃が終了。結果は全弾命中判定、尚且つ最後の一発に行われた不意の反撃にも対応成功──と、文句の付けようが無い結果となった。

神琳からも電話で「あなたは立派が優秀なリリィなのは、誰の目にも明らかだわ」と言う素直な称賛を貰い、自分はちゃんと彼女に応えられたんだと確信する。

通話音声が漏れる形で朗報を伝えられ、梨璃と二水が安堵し喜ぶ。

 

「ありがとう。梨璃」

 

「……えっ?」

 

この直後のお礼に梨璃が一瞬固まるが、理由は己の持つ価値観の肯定にあった。

梨璃が雨嘉の携帯に付いていたストラップ──これを素直に褒めてくれたことがそれに当たり、雨嘉はそんな人が一緒にいるならと決められたのだ。

試験も無事に終わり、雨嘉と神琳の加入でレギオンメンバーは七人。後二人加われば、九人揃うことになり、隼人を含めた十人によるレギオン申請ができる。

 

「如月君、だよね?ヴァイパーのこと、教えてもらってもいい?」

 

「もちろん。手伝ってくれる以上、こっちから聞いてもらおうと思ってるくらいだよ。これからよろしく。えっと……」

 

──ヤバい。王さんとか郭さんとかって余りにも呼びづらくないか?名を呼ぼうとする直前、隼人はその問題点に直面することになってしまった。

楓のサードネームであるヌーベルとかならまだしも、これは余りにもまどろっこしい呼び方である。特に郭と言うファミリーネームなど、絶対ファーストネーム呼びをさせて貰えるよう、頼んでしまった方が楽まであるだろう。

かと言って、いきなり名呼びもどうかと思ってしまうので、ここでどうするかと悩んでいたら、雨嘉は柔らかな笑みと共にこう告げる。

 

「雨嘉……雨嘉でいいよ。呼びづらいの、分かるから……」

 

「助かるよ……改めて、これからよろしく。雨嘉。対等な呼び方ってことで、俺も隼人でいいよ」

 

「うん。よろしく、隼人……」

 

こうして新たな関係も構築されると同時、梨璃、二水、楓の三人が一つの事を考える。

──もしかして彼、自分からファーストネーム呼びを遠慮していたんじゃないか?と、今までの会話から考え、神琳と夢結の二人と合流した後の帰り道で聞いてみた。

 

「まあそのことは否定しないよ。だって、異性にいきなり馴れ馴れしく名呼びされるのって好きって言わないだろうし……」

 

「確かに、如月君は私たち上級生への呼び方は格式に従って名呼びと様付けにしていたけれど、それ以外で名呼びしていた場面を知らないわね……」

 

隼人の理由を聞いて夢結もそこで思い出す。最後は彼が自ら選んだ道とは言え、百合ヶ丘に誘った結果、こんな面倒を背負わせてしまったのは少しだけ申し訳なかった。

 

「異性故にですのね……。わたくし、そこまで気にしていませんから、楓で構いませんわよ?」

 

「わたくしのファミリーネームも呼びづらいでしょうから、神琳で構いません」

 

お嬢様組二人が進言してくれたので、有難く甘えることにする。

 

「私もいいですよっ!と言うか、どうせなら如月さん共々、全員名呼びにしませんか?」

 

「あっ!二水ちゃん、それいいねっ!」

 

「確かにいい提案ね。なら、そうしましょう」

 

こうしてこの場にいた七人全員が名呼びになり、一気に親睦が深まった日になった──。




私の書いてる小説の中だと最もハイペースな展開で進んでいますね。
今までがスローペース過ぎるのもありますがw

ここから再び解説の方に進んでいきます。面倒ならいつも通り読み飛ばしで大丈夫です。
今回ちょっとアンケートを出しますので、そっちに協力して頂けると幸いです。

・如月隼人
名呼びは異性故に遠慮していた復讐者。
全員の賛成が得られたので、十人目のメンバー候補に。
今回はレギオンメンバー勧誘のサポートに回る。


・一柳梨璃
自分の提案した隼人の加入が認められて一安心。
基本的にメンバー勧誘は原作と同じ。
雨嘉が入りやすくするサポートもしていて、神琳のキツイ言葉に対するフォローはしないで済んだ。


・白井夢結
基本的に原作と同じ。
結果的に、隼人の加入どうするか最終的に決める人となった。


・楓・J・ヌーベル
梨璃と二水にヴァイパーへ関して軽く説明もした。
原作と違い、雨嘉の試験についてきた。神琳と雨嘉の部屋に行くところまでは基本同じ。


・二川二水
原作と違い、雨嘉の試験についてきた。神琳と雨嘉の部屋に行くところまでは基本同じ。
隼人に訓練を承諾してもらえて一安心。


・郭神琳
本小説初登場。基本的に原作と同じだが、隼人が先に提案を出したことで、キツイ物言いをしないで済んだ。


・王雨嘉
本小説初登場。基本的に原作と同じだが、隼人のお陰で神琳からのキツイ物言い回避、一番最初に隼人と互いを名呼びしあうと、予想以上にいい役回りに。


・ミリアム・ヒルデガルド・v・グロピウス
本小説初登場。実はレギオンの勧誘をされた場所が違う。

今後アニメ版準拠の展開はどのようにしてほしい?

  • 今みたいな感じで大丈夫
  • もうちょい細かめが嬉しい
  • サクサク気味がいい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。