転生TSサキュバスは独占欲が強い   作:葛城

11 / 31
第十話: まずは情報収集

 

 前世の知識というだけではないが、通貨というのはその時によって姿形が全く異なるモノになることを、私は知っている。

 

 

 例えば、私の前世で広く流通していた貨幣もそうだ。

 

 

 国の権威を含めた諸々の思惑や理由が重なることで、そのデザインが一新され、新しい貨幣として広く流通されるようになる。

 

 そうなると困るのが旧貨幣だが、だいたいの場合は新貨幣に移行するまでの猶予期間が設けられる。

 

 

 つまり……新しい貨幣が作られたとしても、そうすぐに切り替わる事は無いということだ。

 

 

 なので、よほど金を溜め込んだ資産家か、名の売れた大商人でない限り、そう大した問題にはならない。

 

 何故なら、いちいち気にするよりも前に、日常生活を営むうえで自然と貨幣の切り替えが行われ、気付けば家の中にある旧貨幣の全てが新貨幣に交換されているからだ。

 

 

 規模の低い商人とて、それは同じだ。

 

 

 なので、意図的に貨幣の交換をしないと全ての交換が出来ないぐらいの資産家以外は難しく考えず、時の流れに任せておけば良い……というわけなのだが。

 

 

 ……私の場合、そういうわけにもいかない。

 

 

 何せ、私は100年以上生きているからだ。

 

 それと同時に、人間たちのように食料を必要とせず、愛しき彼らの腕の中にいれば、彼らは腹いっぱいの『愛』を私に与えてくれる。

 

 その過程で、彼らからの一定の信用を得る為に金銭のやり取りを行っていたわけだが……相場よりも安く、回数も抑えてはいたが……それでも、100年分。

 

 時代によって(世界によっても)身体の値段は移り変わるが、基本的には高額だ。単価の安い夜鷹等なら1食2食分だろうが、普通はそうじゃない。

 

 屋敷の材料や、愛しき彼らの為に掛かった諸経費等を差し引いても……その額たるや、相当なモノ。つまり、けっこう溜め込んでいるわけで。

 

 加えて、私には年貢を始めとした税金も、一切払っていない。

 

 愛しき彼らに渡るならまだしも、何が悲しくて『敵』にも恩恵を与えねばならぬのか。そう思えば、どうしても……納得出来なかった。

 

 

 ……とまあ、そんな諸々の思いの結果が、私の屋敷には眠っている。

 

 

 それが有るのは、屋敷の奥。だから、屋敷の奥へと向かい、普段は出入り口を隠している置物を退かして、中へと入る。

 

 すると、そこには金具で蓋を固定するだけの簡易な箱が幾つも置かれている。飾り付けどころか窓一つ無い殺風景な部屋に、13個の箱……いや、宝箱。

 

 

 第三者が見れば、不用心過ぎて呆れて言葉も無くしているだろう。

 

 

 けれども私は気にすることもなく、錠前すら取り付けられていない金具をさっさと外して……蓋を開ける。

 

 

 そこには──ギッシリと詰め込まれた金貨と銀貨が、変わらず有った。

 

 

 そして、これこそが……100年に渡る結果である。その数、13個。ちなみに、この内3箱は、銅貨である。

 

 生きる為に掛かる必要経費がほとんど掛からない私だからこそ、出来た事だ。と、同時に、愛しき彼らへばら撒こうとして、思い留まったおかげでもあった。

 

 

「……銅貨は銘柄が変わっているだろうから作り直すほかあるまい。(きん)(ぎん)も、溶かすなり作り変えるなりするしかない……か」

 

 

 ──で、だ。

 

 

 換金するにしても足元を見られるか、身元を探られる可能性がある。確かめてみないと分からないが、問題なく使えるのであれば、そのまま使った方が良いだろう。

 

 使えなかったら……仕方がないので、何処ぞの蔵にでも忍び込んで、本物を参考にして模造品(とはいえ、材料は極力同じモノを使うが)を作る他あるまい。

 

 

 ……やろうと思えば、現在流通している金子を『無』から作り出す事は可能だが……止めておこう。

 

 

 己の知らないモノを正しく、それでいて無い所から生み出すなんぞ、神々の領域だ。下手すれば、一個作っただけで『力』の大部分を消耗してしまうやもしれない。

 

 

(昔取った杵柄(きねづか)ならぬ、前世で取った杵柄のおかげで、素人よりも細工の腕前はあるつもりだが……うむ、『力』は消耗するが、場合によっては魔法を使うしかないか)

 

 

 幸いにも、原材料となる金と銀は有るわけだし……さて、とりあえずは、当面の資金の目処は既に付いている……と、考えて。

 

 

(……今の私に残された『力』は、残り80年分。今後も蓄えていくにしろ、今の調子ではすぐに枯渇するのが目に見えている……だな)

 

 

 彼女より与えられたこの魔法はとにかく便利だが、消耗が酷い。考えなしにポンポン使っていれば、すぐに『力』が底を尽いてしまうだろう。

 

 故に、目下の問題は、兎にも角にも『力』の補充……すなわち、生命力を得る為の方法だろうか。

 

 ……少なくとも、これまでのように3日の間を開けてなど、やってられない。

 

 これまで通りに時を過ごすのであれば十分だが、私がこれからやろうと思っていることを成す為には……ならば、だ。

 

 

(──やはり、遊女屋なり娼館なりを作る他あるまい……か)

 

 

 胸中にて、私は一つ頷いた。

 

 それは当然の帰結でしかなく、諸々の理由から今まであえてソレを避け続けていたが……手段を得た今は、ソレを躊躇する必要もない。

 

 

 しかし、どうしたものか……ふむ、と私は頭を悩ませる。

 

 

 店を構えるに伴って最重要となるのが立地だが、とにかく人が多い所が望ましい。これまでのように、安全の為に道行く彼らを寝床に誘う夜鷹……等と言っている場合ではない。

 

 

 ……というか、もう無理だ。疼き始めている(はら)を、私は衣服の上から叩いて黙らせる。

 

 

 これまでは色々な理由が有ったから自身の欲望を我慢出来ていたが、『魔法』という、やろうと思えばやれる手段を手に入れてしまった今……自制心が何時まで持つのか、私自身、見当も付かない。

 

 だからこそ、より多くの人々が行き交っている……そう、『江戸』が一番望ましいところだが……そこまで考えた辺りで、私は……そういえば、と顔をあげた。

 

 

(今が何時なのかもそうだが、今の江戸がどうなっているかを調べなければならんな)

 

 

 これから私がやろうとすることは、かつてとは逆。つまり、乱世ではなく太平の世の方が良い。

 

 最初の私がいた世界と似たような流れで時を経ているのであれば、徳川家の治世が続いているだろうが……どうなっているのかは不明だ。

 

 

 

 ……まずは、情報収集からだな。

 

 

 

 そう、ひとまずの結論を出した私は……ぱちん、と指を鳴らす。一拍遅れて私の眼前に出現した『扉』を見やり……一つ、頷く。

 

 この『扉』は、言うなれば……何処にでも繋がれているワープ装置みたいなものだ。

 

 距離と移動するモノが何であるかで消耗具合が変わるが……江戸までの距離なら、ほとんど消耗しないようだ。

 

 

(感覚的に、使う前に有る程度消耗する量が分かるとはいえ、発動しないと実際の消耗具合は分からない……といった具合か)

 

 

 頭では分かっていても、身体が慣れていないせいだろう。

 

 そう判断した私は、チラリと自らの恰好を見やる。

 

 

 ……ぱちんと指を鳴らせば、ふわりと自らの裸体が衣服に包まれる。それは、この屋敷に保管していた変装用の着物であった。

 

 

 少しばかり使い古した見た目は、如何にも何処ぞの村娘、あるいは町娘といった感じだ。

 

 とりあえずは、これで大丈夫だろう。変に視線は集まらないと判断し、『扉』に手を掛け……その先へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──そうして、意気揚々と『扉』を通った、その先に広がっていたのは……細い路地裏。おそらくは人の往来からも外れた、江戸内の端っこに当たる場所に出た。

 

 

 いや……はたして、ここは路地裏なのだろう──と。

 

 

 びゅう、と。突如、吹き込んできた、少しばかり肌寒いであろう風に目を細める。腕で、ふわりと舞い上がる砂埃から目元を隠しながら……風が治まるのを待つ。

 

 

 ……どうにも、江戸の風は埃っぽいようだ。

 

 

 何と言えばいいのか、砂が細かいというか、纏わりつくというか。久方ぶりに(体感ではそう間を開けてはいないが)訪れた江戸に対して抱いた率直な感想が、それであった。

 

 

(……ふむ、不慣れな魔法ゆえに、思っていたような位置からズレてしまったか?)

 

 

 江戸の中で、人の目に付かない場所という程度の感覚で移動したつもりだが……もしかして、江戸の中でも最も最下層の住まう辺りに移動したのだろうか。

 

 きょろきょろ、と。

 

 視線をさ迷わせてしまうが……うむ、全く見覚えが無い。少なくとも、以前に江戸を訪れた時の記憶と、現在の景色とが一致しない。

 

 

 ……まあ、いい。思考を、切り替える。

 

 

 まず、私の視線を吸い寄せたのは、まっすぐ前方へと続く細い道と、左右を囲うようにして連なっている建物。

 

 屋根は全て繋がっていて、各家の出入り口と通路を指し示す板の道標が伸びている。

 

 

 家屋の質は……まあ、一般的だ。

 

 

 いや、むしろ、質は悪い……というか、おそらくここは江戸の至る所に点在している住宅街……いわゆる、『長屋(ながや)』だ。

 

 

 ──長屋とは、細長い一つの建物の内部を壁で仕切り、幾つかの住まいにしたものだ。

 

 

 幾つかの家をくっ付けて連ねているのではないので、外から見ると屋根の瓦が途切れず伸びているのが分かる。だから、長屋と呼ばれている。

 

 長屋は、確か……そう、江戸の庶民たちが暮らす、一般的な家だったような……と、古ぼけた記憶を私は思い出す。

 

 それも、この感じ……建物の古ぼけた感じから推測する限り、主に貧農(ひんのう)(読んで字の如く)や日雇人夫(にやといじんぷ)(日雇い労働者の事)が暮らしている、裏長屋(うらながや)と見た方がいい。

 

 

 ……前回は、立ち寄らなかった場所だ。

 

 

 立ち寄らなかった理由は当時、まだまだ開発途上だった『江戸』ではとにかく人の出入りが激しく、長屋にもしょっちゅう人が出入りしていて入り込めなかったからだ。

 

 江戸の人達の暮らしを知るうえでは重要な場所ではあるが、長屋の出入り口は『木戸(きど)』と呼ばれる格子状の柵が取り付けられた扉が一か所しかない。

 

 その出入り口は普段、『木戸番(きどばん)』と呼ばれる交代制の門番が見張っていて、顔見知り(あるいは、事前に話を通しておく)でなければまず入れない。入れたとしても、泥棒を危惧して長屋を出るまでは監視されている。

 

 それ以外の出入り口は無く、区画ごとに長屋全体を囲うようにして板が張られており、強引には入れないようになっているのだ。

 

 加えて、兎にも角にも長屋に住まう者たち……すなわち、コミュニティの結束力が半端ではない。

 

 また、夜は夜で木戸は閉じられてしまうし、そもそも当時の江戸は開発途上……長屋とて顔ぶれがしょっちゅう変わるし増えるしで、もう少し落ち着いてからと放置したのだ。

 

 

(あの時にあった喧騒は無くなっている。この区画の開発が終わったぐらいには、時が流れている……のか?)

 

 

 振り返れば、行き止まり……いや、突き当りか。

 

 何処ぞの蔵(あるいは、物置か?)の裏手のようで……耳を澄ませて周囲の音を拾ってみれば……一つ、分かった事がある。

 

 それは……この長屋からは、人の気配をまるで感じないということだ。

 

 息を潜めているというわけではなく、誰もいない。

 

 日の位置から考えて、外に出るにも戻るにも些か中途半端な時間だが……ふむ、と一つ頷いた私は、近くの障子へと手を伸ばし……がらりと、中を覗いた。

 

 

(……いない?)

 

 

 案の定、そこには誰もいなかった。

 

 

 ……だが、どうにも様子がおかしい。

 

 

 家主が出かけているにしては、内部が殺風景というか、どうも……不自然な点が多い。

 

 例えば、砂埃に塗れた畳もそうだが、台所に置かれた食器がそうだ。

 

 洗っておいたのかもしれないが、それにしてはずいぶんと……こう、無造作に放置されている。

 

 私が生きた最初の世界ならばいざ知らず、この世界では何もかもが基本的に手作り故に、品物が軒並み高い。

 

 数百年後にはなんてことはない茶碗一つとっても、質屋である程度は引き取ってくれるぐらいには、今はまだ物の価値が高い。

 

 

 だから……不自然なのだ。

 

 

 さすがに金庫に仕舞ったりはしないが、それでも粗末な扱いはしない。特に、貧乏な者が多い長屋住まいならば、余計に。

 

 なのに、この家はそれをしてしまっている。

 

 食器だけでなく、取り変えるとなると相当に高額になる畳も、そうだ。嫁入り道具としても扱われる箪笥も、壁の隅に放置された寝具も……手入れ一つせず、掃除一つせず、そのままに。

 

 

 ……気になった私は、そのまま隣の家を覗く。

 

 

 すると、そこも同じであった。

 

 さすがに全てが同じというわけではないが、大まかな点は一緒だ。放置された寝具や、何なら家主のモノと思われる衣服も壁に掛けられた状態のままだ。

 

 隣も、その隣も、そのまた隣も……一緒だ。

 

 結局、周辺の家々を回って確認してみたが……どの家にも生活感が途絶えている。

 

 おまけに、長屋(区画の)の中心辺りに設置された共同井戸も共同便所も、最近で使われた形跡がない。

 

 何もかもが、途絶えていた。

 

 

 ……そう、途絶えているのだ。

 

 

 だがそれは、言い換えれば誰かが生活していた跡があるということでもある。

 

 実際、どの家にも誰かが暮らしていたという痕跡は有った。

 

 けれども、どれぐらい前から途絶えているのかは……私には分からなかった。

 

 

(彼らの匂いも、『敵』の臭いも全く感じない……いったい、どれほどの間、ここは放置されているんだ?)

 

 

 普通に考えて……有り得ない事だ。そう、私は思った。

 

 何せ、江戸だ。

 

 かつて私が居た世界とは異なる『江戸』ではあるが、その差異はほとんど感じられなかった。少なくとも、私が痛みで眠る前は……記憶の中にある歴史通りに物事が動いていた。

 

 

 ──ならば、江戸は長屋に限らず人の往来があるはずだ。

 

 

 しかし、実際に私は長屋にいるが、人の気配すらない。まるで、住人たちが一斉に此処を離れ……あるいは、死んでしまったかのように、何も……いや、待て。

 

 そこまで考えて、ふと、気になった私は──井戸へと戻り、桶を放り入れる。

 

 

 ……少しの間を置いてから、ぱちゃん、と、かこん。

 

 

 桶と水がぶつかり跳ねた音と、滑車の手応えから察しは付いたが……念のために桶を引き上げれば……思わず、私は舌打ちを零した。

 

 

(井戸の水がほとんど枯れている……なるほど、人がいないわけだ。だが、それなら住人たちが此処にいない説明がつかない……)

 

 

 ちらりと、少しばかり離れた位置にある共同の(かわや)(共同トイレのこと)を見やった私は……桶を元の位置に置くと、木戸を通って通りに出る。

 

 すると、通りには……長屋と同じく、人の気配が無かった。

 

 一人ぐらいはいるだろうと思っていたが、肩透かしを食らった気分だ……まあ、気を取り直しつつ、歩き出す。

 

 

(……おおよそ、前回の訪問から数十年ぐらいは経っているようだな)

 

 

 そうして、歩き出してから数十分……立ち並ぶ家屋や整備された通りの状態、江戸の至る所を走る用水路(見た目は、小さい川だが)を見やった私は……どういうことだと、内心にて首を傾げた。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 

 長屋へと通じる通りは『裏通り』とも呼ばれる故に、人通りはそこまで多くはない。

 

 だが、出店などが揃っている『表通り』に行けば、いくら何でも……と、思っていたのだが。

 

 

 ……まさか、何処も彼処も人が少ないとは思ってもいなかった。

 

 

 いや、人通り自体はあるのだ。だが、明らかに数が少ない。

 

 以前に訪れた時に比べたら、明らかに……そのうえ、何といえばいいのか……道行く人たちの顔色が、悪いのだ。

 

 さすがに倒れ伏している者はいないが、どうにも元気というか、覇気が無い。

 

 誰も彼もが足は重そうで、店の前で世間話をしている者たちも例外なく……そのうえ、顔色の悪さだけではない、暗い顔もしていた。

 

 

 ……戦の可能性は無いが、病気という感じでもない。

 

 

 今まで何度か目にしたことが有るから、分かる。

 

 流行病(はやりやまい)が広がっている時の空気は、もっと張り詰めて……どうにも、言葉では言い表せられない何かが秘められている。

 

 けれども、ここにはそれが無い。

 

 

 有るのは、諦観だ。

 

 

 何もかもを通り越した諦めが、少しばかり肌寒く乾燥した風に乗って……通りをぐるぐると行き交いしているように、私には思え──いや、待て。

 

 そこまで考えた辺りで……ふと、脳裏を過るナニカに私は足を止めた。

 

 何処か……覚えが有る。

 

 人の少なさもそうだが、この顔色……流行病とは異なる意味での悲哀に満ちたソレを、私はこれまで何度か目にして……あっ。

 

 

 ──まさか、飢饉が起こっているのか? 

 

 

 思わず、そう叫ばなかった私は……まだ、冷静であったと思う。

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………と、とりあえずは、だ。

 

 

 情報収集の前に、この時代の金子を用意しなければならない。まずは金、それが重要だ。

 

 嫌な予感を覚えつつも、ひとまずの指針を打ち出した私が向かったのは……何てことはない、武家屋敷の一つであった。

 

 敷地全体をぐるりと囲うであろう白い壁をするりと飛び越えれば、中はけっこう広い。

 

 豪華な屋敷だけでなく、畑や馬小屋や井戸なども設置されていて、かなり金の掛かった屋敷であることが伺えた。

 

 

 その屋敷を選んだ理由は、大したモノではない。

 

 

 地理が分かっていない私が闇雲に歩き回って、たまたま最初に見つけた屋敷が武家であった……ただ、それだけ。

 

 江戸全体からみれば如何ほどの格に当たるのかは不明だが、外から見る限りでは中々な格を持つ屋敷であるのは、すぐに分かった。

 

 なので、さっさと侵入を果たした私は、魔法で姿を隠しながら屋敷の中へと進む。途中、女中などとすれ違ったが、息を潜めているだけでまずバレることはない。

 

 

 まあ、中には私の気配に勘付いた者もいたが……それだけだ。

 

 

 まさか、姿形は全く見えない者が息を潜めて侵入しているなど、夢にも思うまい。

 

 そうして、屋敷の中をうろつく事、少しばかり。

 

 うろうろと探し回り、最後は屋敷の中心に当たる位置にあった部屋。そこに、畳や家具を重し代わりにすることで持ち運びが出来なくされている金庫を見つけた。

 

 そのまま、魔法を使って通貨と思わしきモノを取り出し……『解析魔法』を掛ける。この魔法は前世の世界にも似たようなモノが有ったけど、それよりもずっと高性能であった。

 

 何せ、前世の『解析』はどんな材質が使われているのかが限界であったが、この『解析』は、使用した物体がどのような意図で使用され、どれだけの価値があるのかまで分かるのだ。

 

 

 ……もちろん、相応の代償は生じる。

 

 

 それは、解析するモノが私の理解の範疇を超えている場合(たとえば、精密機械など)は、それに比例して『力』を消耗するというもの。

 

 つまり、己の知識に無い物を正確に調べようとすれば、その複雑さに応じて消耗するとうわけで……魔法にばかり頼っては駄目ということだ。

 

 

(……なるほど。偽造への対策は行われているが、この程度ならば幾らか魔法を使ったとて『力』は温存できる。特に、問題にはならなさそうだな)

 

 

 まあ……今はこれ以外の有用な手段が無いから、頼るしかないのだけれども……さて、時間にして20分。

 

 それが、屋敷に入ってからの所用時間であった。

 

 目的を達した私は……再び魔法で『扉』を出して、一旦は自分の屋敷に戻る。行きとは違い、何処に扉を出すかを正確にイメージ出来たので、変な所に出る事はない。

 

 

 ……で、屋敷に戻った私が何をしたかといえば……金子の偽造だ。

 

 

 解析魔法によって得た情報を元に、材料となる金と銀を使って通貨を生成する。そうして出来た金貨と銀貨を解析魔法にて確認した私は……それを丁重に箱に戻すと、銅貨の偽造に入った。

 

 

 ……どうも、だ。

 

 

 江戸の庶民たちの間で主に取引されているのは金貨や銀貨ではなく銭貨(せんか)(銅貨などの事)であり、文銭(もんせん)と呼ばれている通貨が使用されているようだ。

 

 理由として(解析魔法で知り得た限りでは)は、金貨と銀貨の価値が銭貨に比べて非常に高く、下手にその二つで支払うと、店側が釣りを払えないから……らしい。

 

 なので、一般的な取引で利用されている通貨は一文銭(いちもんせん)と呼ばれている銭貨と、四文銭(よんもんせん)(波形が刻まれているので、波銭とも呼ばれているとか)と呼ばれている銭貨の二つ。

 

 喜ばれるのは釣りが出にくい四文銭(要は、100円玉みたいなものだ)らしいので、それを大目に作る。

 

 これも、昔の銅貨を元に生成するから、思っていたよりもずっと消耗が少ない。

 

 

(小判とかは、隠し財産みたいにして、機会があれば幾らかを文銭に両替してもらうか……)

 

 

 そんな感じで、しばらくは補充の必要がない程度に金子を用意した後。

 

 私は、再び魔法で『扉』を出すと、先ほどの散策で見付けておいた目立たない場所を思い浮かべながら、再び町中へと戻った。

 

 

 

 

 




この話とこの次は、情報収集を行います
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。