転生TSサキュバスは独占欲が強い   作:葛城

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もう少し手直しするべきか……とも思ったが、この部分の生々しさを抜いてしまうとサキュバスの性質というか話全体が軽くなってしまいそうなので、少しばかりだけ手直し

精神的BLの注意を入れるべきかとも悩んだが、思考の口調こそ変化が薄いけれども、その精神は『人の姿をしたサキュバス』であり、性別=サキュバスなので、それも違う気がする

ちなみに、ボーイズラブは念のため。実際にボーイズラブ描写は無いよ


第一話: 目覚めたケモノ

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、ふと。

 

 

 ふわふわと身体が舞い上がるかのような感覚に、俺は目を開けた。

 

 目の前は真っ暗で何も見えないし、自分が今どうなっているかも分からないが……俺はまだ、俺としての感覚があった。

 

 

 ……一瞬ばかり、凄まじい勢いで様々な疑念が脳裏を過った。だが、不思議と困惑してパニックに陥りはしなかった。

 

 

 それは、命を落としたことを思い出したばかりではない。

 

 それに加えて、視界一杯に広がるその光景に、俺は目を瞬かせる他出来なかったからだった。

 

 

(……あれ、は?)

 

 

 一言でいえば、俺の前(実際の距離は分からない)には光輝く天の川が暗闇の彼方から彼方まで伸びて、その先がどうなっているかは……ああ、そうだ。

 

 

 ──思い出した。アレは、輪廻だ。

 

 

 死した生き物が最後に辿り着く場所。

 

 全ての命はあの川へと還り、また新たな器を経て現世に旅立つ……始まりであり、終わりでもある場所。

 

 それが、暗闇の彼方から彼方まで、幾つも伸びている。先端は、どちらも見えない。

 

 この世界全てを横断しているかの如く伸びる天の川はあまりに長く、大き過ぎるせいだ。

 

 そこへ……俺の身体が引き寄せられてゆく。抵抗の仕方など分からないまま、緩やかに一番近しい天の川へと近づいてゆく。

 

 

(あそこに行けば、また俺は記憶を失って、新しく……)

 

 

 パッと視線を動かせば、俺以外にも……色々な姿かたちをしているやつが、ゆるゆると天の川へと引き寄せられているのが見える。

 

 どのような基準で引き寄せられているのかは分からない。だが、明確に定まっているのだろう。

 

 その証拠に、引き寄せられている誰も彼もの動きに迷いはなく、まっすぐ、予め定められているであろう天の川へと向かっている。

 

 

 ……しかし、俺とは少し違う。

 

 

 というのも、他の奴らは何時も意識を失っているからだ。

 

 いや、意識云々以前に、自我すら残っていないのだろう。こうなると、毎度毎度、意識を保ったままの俺がおかしいのかもしれない。

 

 

 ……どうせ、次に会うなんてことは無いのだけれども……少しばかり、寂しいなあ。

 

 

 脳裏を過るのは、今生において出会ってきた人々。所詮は不定期に顔を合わせる客でしかないにしても、だ。

 

 これまで7回の転生を果たした時と同じく、8回目の転生を前に、俺は眼前へと近づいてゆく天の川を見つめ──あっ。

 

 

「あっ」

 

 

 と、思った時にはもう、呟いた時にはもう、遅かった。それは、7回の転生を果たした俺にとって初めての出来事であった。

 

 

 何が起こったって、ぶつかったのだ。

 

 いったい何にって、それは……俺を殺したサキュバスと、だ。

 

 

 何時の間に近づいて来たのか、それとも偶然か……おそらく、偶然だろう。逆さまになった視界に映るサキュバスの顔は、虚ろであった。

 

 元々、俺自身もここでは上手く身体が動かせない。そして、俺以外のやつらが身体を動かしている所を見た覚えは一度として無い。

 

 だから、もつれ合えば最後、俺たちの身体が自然に外れることはなく……気付けば眼前の天の川から離れ……別の天の川へと飛ばされてゆく。

 

 

 ──もう、どうにもならない。

 

 

 逃げる事も離れることも出来ないまま、眼前へと迫る光は俺とサキュバスを覆い隠し、そのまま俺たちは光の中へと沈んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………沈んで、そして。

 

 

 ハッと、次に意識を取り戻した私が目にしたのは……前世でも見慣れていた木目であった。それが、天井の木目であることに気付いたのは、その直後であった。

 

 

 ……いや、待て、前世って? 

 

 

 一瞬、そのまま納得しかけていた思考が止まった。

 

 これまでにはない、鮮明に思い出せるこれまでの記憶に、思わず身体の動きも止まった。

 

 

 ──まるで、記憶の濁流だ。いや、これはもはや、人生の濁流であった。

 

 

 それも、前世だけではない。前世の前世の記憶も、そのまた前世の記憶も、同様に。

 

 次から次へと、いったい私の何処に眠っていたのかと不思議に思うぐらいに、止め処なく湧いてくる。

 

 

 こんなことは、初めてであった。

 

 

 前世の記憶が噴き出してくるのはいつも、死んだ後だ。

 

 だが、今の私は死んでいない。

 

 生きているという感覚を、胸の奥の鼓動が教えてくれる。

 

 なのに、どうして……しかもこれは……私だけではない。

 

 そっと、私は仰向けのまま己の頭に手を宛がう。

 

 脳裏を過るのは、男たちの顔だ。

 

 ある者は愉悦に頬を染めながらも緩め、ある者は悦楽に涎を顎まで垂らし、ある者は慈悲を乞うように……涙を流して射精している、そんな者たちの顔だ。

 

 そのうえ……記憶しているのは顔だけじゃない。

 

 抱き締めた男たちの逞しさが、噴き出す汗の臭いが、燃え上がっている鼓動と声色。それら全てを、私ははっきりと思い出せた。

 

 これは……見知らぬ誰かの、それも女の記憶なのだろうか? 

 

 噴き出してくる記憶の中に、それらがある。

 

 というか、それらしかない。

 

 私以外の記憶が、これまでの私の人生には無かったモノが混じって……いや待て、これは……まさか……っ!? 

 

 

(もしや、サキュバスの記憶……か?)

 

 

 脳裏を過ったのは、私が転生を果たす直前の事。

 

 それまでには一度として無かった……サキュバス(おそらく、魂なのだろう)との衝突事故であった。

 

 

 ……その可能性に思い至った瞬間、『そんな事はありえない』と否定した。

 

 

 だが、我ながら信じ難い事に……いや、違う。交じり合ってしまった感覚が、私が抱いた淡い期待を即座に打ち砕いてしまった。

 

 どういうことなのかって、嫌じゃないのだ。記憶が想起させる全てが、嫌じゃない。

 

 

 いや、むしろ……喜ばしく愛おしいとすら感じている私が──っ!? 

 

 

 そこまで思考を巡らせた瞬間、痛みにも似た疼きが下腹部から走った。

 

 

 反射的にそこに手を宛がった私は……愕然とした。

 

 

 女……そう、女だ。今世の私は、女だ。だが、驚いたのはそこじゃない。私が驚いたのは、伸ばした手の小ささではなく……掌から伝わる、熱い滑りであった。

 

 小便……いや、違う。眼前にて広げた、粘液の糸を見て……これは……それに、コレだけじゃない。分かる、そうだ、分かってしまう。

 

 

(……甘い、な)

 

 

 気づけば、私は……自分が分泌した粘液に、舌を這わせていた。嫌悪感は、全く無い。全ては感覚的な話だ。だが、感覚的な部分だからこそ……確信を持って言えた。

 

 

 ──今世の私は、人間ではない。

 

 

 見た目こそかぎりなく人間であり、人間の胎より生まれ出たのは事実。だが、それでもなお、人間ではない。

 

 言うなれば、未成熟であるが故に、今までは人間に擬態していただけ。

 

 本質は、サキュバスの魂が交じり合って生まれてしまった、変異したサキュバスであるということを。

 

 

 ──それならば、抱いた疑問のほとんどは解決する。

 

 

 今世の私は、人の胎から生まれた人間モドキ。今までは人間だったのだろうが、身体……いや、サキュバスとしての部分がある程度成熟したことで……肉体が変異した。

 

 

 ──こうなった原因は、あの時の衝突が原因だ。

 

 

 この昂ぶりもそうだが、客観的に考えてみても、そうでなければあまりに説明がつかない。それに、この見知らぬ記憶は……あまりに多淫に過ぎていた。

 

 もう本当に、男を貪っているなんて生易しい言葉では言い表せられないぐらいに、酷い。私という自我を持ったうえで、サキュバスの記憶を追体験しているから、余計に分かってしまう。

 

 

 まさに……本能の獣だ。あるいは、多淫の化身か。目が覚めている間は……いや、寝ても覚めても男を求めて活動しているのだ。

 

 

 サキュバスの頭の中にあるのは、如何に男を捕らえるのかという謀略と、如何に狂わせて搾り取るかの食欲と、それに伴う快楽への渇望。

 

 それ以外には何も無く、強いて挙げるとするなら、如何に男をその気にさせるかという……結局は、如何に快楽へと繋げるのかという手段を求める、そんな考えだけしかない。

 

 

 ……これは、どうしたら良いんだ? 

 

 

 状況が、上手く呑み込めない。ぐるぐると渦巻いていた思考が、最終的にはそこへと着地する。

 

 けれども、どうしようもなく、頭が混乱しているのが自分でも分かった。

 

 

 7回……いや8回の人生においても初となる事態。

 

 

 まあ、当たり前ではあるが……困惑のあまり、しばしの間、目を瞬かせて周囲を見回すぐらいしか出来なかった。

 

 

 ……辺りは、真っ暗だった。

 

 

 今は外ではない、建物の中だ。閉め切られているというよりは、今が夜なのだろう。暗闇の中で耳を澄ませれば、寝息らしき呼吸音が幾つも聞こえてきた。

 

 その数、私を除いて7つだ。

 

 位置的には、私の右側に3人、左側に4人。漂う臭いから嗅ぎ取る限りでは、男が4人に女が3人。その内、成人していると思われる個体は……2人。

 

 

 ……確かめなくても、分かる。というか、覚えている。

 

 

 その2人は私の両親であり、他のやつらは私の兄弟姉妹だ。霧が掛かった記憶が、徐々に私の中に存在感を大きくしてゆく。

 

 

 ──くん、と。

 

 

 鼻を鳴らせば……それが、キッカケか。

 

 

 まるで霧が晴れる様に様々な事が思い出せて……いや、分かってくる。何時もの事のように、頭が身体に順応してゆくのが分かる。

 

 ここは……とある山間に作られた村の中にある家だ。

 

 豊かな大地……というわけではないが、そこそこ安定して作物が育てられる場所。そこで暮らす農民たちの、その子供たちの内の一人……それが今世での私のようである。

 

 暮らしは……けして、良くは無いだろう。

 

 私自身の身なりもそうだし、けして衛生的ではない室内もそうだし、私や傍の家族たちもそうだ。十分に栄養が取れていないのが分かる。そういう記憶があるし、臭いもしている。

 

 何故か……年貢という形で、取れた作物を没収されているのが原因のようだ。

 

 どうやら、ここは作物が取れる分だけ税収も大目にされているようだ。生かさず殺さず飢えさせず、時々満腹になれる程度にだけ残しておく。

 

 脱走や反逆を企てる者には、厳罰を。

 

 しかし、大人しく従う者には施しを。

 

 それを数十年繰り返し続けてきた結果……なるほど、だいたいは分かった。

 

 誰が、そのように決めたのか? 

 

 その答えを、今世の私は正確には把握していなかった。

 

 だが、今の私なら分かる。

 

 幾度の転生を果たした私なら、記憶が戻る前の私では理解出来なかった様々な単語を、正確に理解する事が出来た。

 

 

(村長……大名……お殿様……つまり、ここは?)

 

 

 単語から推測出来る中で、最も可能性として高いのは……ここは、『日本』だ。

 

 それも、私が記憶している限りでも最も古い……かつての私が暮らしていた、あの世界の……ああ、けれども。

 

 

 ──その瞬間、私の胸中を過ったのは、僅かばかりの歓喜と……多大な寂しさであった。

 

 

 そして、その後に出て来たのは……疑念。

 

 それは、『果たして、ここは本当にかつての私が暮らしていた過去なのか』という、根本的な疑問であった。

 

 伊達に、何度も転生してはいない。

 

 同じ世界に生まれ変わったかと思ったら、実際は全く別モノだったなんて経験は、3回もあった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………何にせよ、分からない。現時点では、何も。今世の私が、まだ子供であるから。

 

 

 いや、そもそも調べる方法が無いのだ。

 

 

 何せ、今世の記憶を思い出す限りでは、この村には『電話』という言葉すら存在していない。

 

 というか、村だけではない。おそらく、この世界にはまだ『電話』を生み出すまでに文明が発達していないのだ。

 

 纏っている衣服や、家屋の質から考えても……まだ、『明治時代』にもなってはいないのだろうか……そう、私は推測した。

 

 

(……ここがどういう世界であるかは、ひとまず置いておくとして……今後はどうすれば良いのだ?)

 

 

 次いで、私の脳裏を過ったのは……これからの事であった。

 

 前世の記憶が戻っていなかったのならば。

 

 私が私としてではなく、何も思い出していないのならば。

 

 何も、思う事は無かっただろう。

 

 そのまま、何時ものように誰かに愛されようと頑張って、何時ものように愛されないまま人生を終えて、何時ものように思い出して、何時ものように……そうなるはずだった……のに。

 

 

(……駄目だ、それはもう出来ない)

 

 

 自覚してしまったからこそ、無理だ。

 

 自覚しないままだったら、せいぜいが『ふしだらな女』で終わるはずだった。

 

 でも、自覚したら……もう、止められない。

 

 サキュバスの本能は、意志や理性で止まるものではない。いや、これはもはや、本能だけではない。私の肉体が、求めてしまう。

 

 人が生きる為に息を吸って吐くように、サキュバスもまた生きる為に……生命力を得る為に、男を襲う。

 

 サキュバスにとって、それが食事なのだから。

 

 

(食物は……駄目だ、この身体にはあまり意味がない。人間の見た目をしていても、やはり中身は全くの別物か……!)

 

 

 人間の部分があるからこそ、嫌でもサキュバスの性質を思い知ってしまう。今も私はこうして考え事が出来ている。

 

 

 だが、それも時間の問題だろう。

 

 

 何せ、変異したサキュバス……変異サキュバスに成った影響はもう、精神に及んでいる。

 

 つまり、私は男として生きた前世の私があるのに、既に男と致すことに何の忌避感も嫌悪感も抱いていない。

 

 

 ……自分を、誤魔化せる状況ではない。

 

 

 記憶で覗いただけの『過去の男(獲物)たち』を思い浮かべただけで、体液が随所から溢れ始めている。自分の身体が、薄らと熱気を放ち始めているのが分かる。

 

 

 ……既に空腹なのだ。それも、飢餓に等しい状態だ。

 

 

 腹に手を当てれば……酷いモノだ。

 

 ぎゅるぎゅると、唸っている。長期に渡る飢えを自覚してしまったからこそ、辛い。自然と溢れ出して来た涎を腕で拭い、何か気を紛らわ──あっ。

 

 ──その瞬間、私の視線が捉えたのは……父親だった。いや、正確には……寝息を立てている男の、下腹部にであった。

 

 

(……ああ、これはもう)

 

 

 目にした瞬間、駄目だと思った。

 

 相手は父親だし、今後の事を考えれば絶対に手を出してはいけない相手だ。露見すれば、母親の手でこの家を追い出される可能性だって高い。

 

 

(我慢……そう、我慢だ)

 

 

 だから、耐えなくてはならない。

 

 たとえ、犬のように舌を垂らし涎が滴り落ちようが。

 

 たとえ、発情期の獣のように身体が疼いていようが。

 

 耐えなくてはならない。身体が言う事を聞かないのなら、頭だけでも。頭が言う事を聞かないのであれば、心だけでも。

 

 

(……まだ、下着が一般的では……あ、ああ……良い匂いだ。むせ返るぐらいに濃くて、生暖かくて……)

 

 

 せめて、体重を掛けないように。

 

 だって、下手に体重を掛けたら起きてしまうかも……ああ、そうだ、他の兄弟たちもそうだが……母親が起きると面倒だ。

 

 飢えているとはいえ、今まで一度として使っていなかった体内の『力』を絞り出して、この身体が生まれながらに習得している魔法を紡ぐ。

 

 変異した今の私では、元のサキュバスほどに魔法は使えない。だが、眠りを深くするだけなら。朝になるまで起きないようにするだけなら。

 

 

 ──今の私でも、出来る。

 

 

 そう思った瞬間、ガチリと頭の中で何かが切り替わり……魔法は既に発動を終えていた。先ほどよりも眠りが深くなったのを感じ取った私は……そっと。

 

 

(これで、邪魔者は入らない)

 

 

 細心のの注意を払いながらも……大きく開いた唇で、ソレを招き入れ──あっ。

 

 その瞬間──その時の感覚をどのような言葉に例えたら良いのか、私には分からなかった。

 

 ひとまず、味や臭いに嫌悪感はない。埋めた鼻先のもじゃっとした感触も、平気だ。

 

 嫌じゃない。ああ、そうだ、嫌じゃない。

 

 危惧した通り、私は欠片の嫌悪感も覚えず、むしろ、ようやく空腹を満たせるという喜びしか……喜び……喜び? 

 

 

(──ああ、そうだ)

 

 

 それは、唐突に起こった。

 

 分からなかった感覚が、理解し始める。

 

 理解し始めた感覚が……私に、とてつもない喜びをもたらしてくれた。

 

 涙が、滲む。口内を押し広げられることによる、生理的なモノではない。

 

 もっと原初的な、生物が生きるうえで必要不可欠な……その感覚。

 

 

(分かる……ああ、そうなんだな。これが、そうなのか……!)

 

 

 それは……『愛される』という、喜び。

 

 性器を通じて、愛が伝わってくる。与えた快楽に呼応して、より強く、より激しく……眠りの奥底から滲みだしてくるかのように、私へと伝わってくる。

 

 何と──甘美な感覚なのだろうか。気づけば、私は無我夢中になっていた。

 

 変異したとはいえ、サキュバスだからなのだろう。

 

 分かる、手に取るように、全てが分かる。様々な感情が混ざり合いながらも、方向性は変わらない。

 

 快楽を与えた私を求める、その想い。

 

 ああ、その心地良さ、どんな言葉で見繕えば良いのか……ああ、何と心地良い。何と、愛おしいのだろうか。

 

 

 ──そう、そうだ、愛おしい。

 

 

 そっと指先を這わせれば、まるでひな鳥のように肌が怯える。なのに、けしてこちらを振り払おうとはしない。無意識の中で、私を……この私を求め、震えている。

 

 

 如何なる時も愛を与えるだけだった私が。

 

 如何なる時も愛を求めるだけに終わった私が。

 

 如何なる時も与えてもらえなかった愛が──性の臭いを伴って、私に送り込まれてくる。

 

 

 

 ──求められている。私は今、求められている……愛を、求められている! 

 

 

 

 そう認識した瞬間。脊髄から脳天へと、特大な痺れが走った。と、同時に、私に降りかかる熱気に……自分でも分かるぐらいに、心臓がひと際強く鼓動したのを感じ取った。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そのまま、幾しばらく。寝息しか聞こえない暗闇の中で……私の心は満たされていた。

 

 それは、乾き切っていた孤独を癒した歓喜と、8回にも及ぶ人生の飢えを満たしてくれた満腹感。

 

 

 

 ──愛されるという感覚は、麻薬だ。心身を蝕む、猛毒だ。

 

 

 

 今にも飛び上がらんばかりの清々しさを伴う達成感……と、そして。

 

 

 

 ──この愛は、私のモノだ。この猛毒は、全て私のモノだ。私だけの、他の誰にも……渡さない。

 

 

 

 己へと向けられる愛を妨げる、人間の雌に対しての強い嫌悪感。

 

 並びに、こんなに容易く愛を向けてくれる愛しき者たちを掠め取るかもしれない……雌への敵意であった。

 

 

 

 

 

 

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