見習い商人の見るヒスイ 作:Cicla
アブソル。災いポケモンと呼ばれる彼らは、災いを呼び込むと言われているが実際は人間には察知できない領域でそれを予感し、伝えにきてくれるありがたいポケモンなのだと、それを知る数少ない人物である友人は言った。
彼女の故郷である雪深い山岳にしか現れず、そこに住んでいても一度姿を見て、それをスマホロトムに記録させただけだというほど相見えること自体珍しいポケモンだ。嘘はついてなさそうな雰囲気ではあったが、しかしそれが事実であることとイコールではなかったのだと、今まさにそれと相対するショウは友人を恨みたい気持ちになる。
大きな体躯だが、巨大というほどではない。異様な雰囲気を持つポケモンだった。いや、ポケモンなのかすら怪しい。硬質な面持ちと、無機質に鋭い目からは有機生物のような本能を感じない。淡々と獲物を前に戦闘態勢を整える姿からは、当然他のポケモンからは幾許かは感じられるはずの、縄張りから出ていけだとか自身の身を守らなくてはだとかといった類の感情を読み取ることができなかった。
鶏冠のように、あるいは後から付け足したように頭頂部から垂直に伸びた翼は硬質に後方の空を向いており、逆説的にクロバットにもあるような鉤爪が頭突きと共に対面の人間の肉を抉ろうとして前を向いていた。それこそ死神の鎌のように。
はがねタイプのような顔面とは裏腹に今にも地を蹴り、肉薄する勢いのままにショウを射止めんと力が込められた前脚は種類の違う鋭さを持っている。猛禽類でもない、肉食昆虫でもない独特な形状の爪はしかし陸上を疾走するのには不向きなように見受けられる。
不恰好なスケッチを並べてみたときは、悩みながらも同じ存在だと結論付けたが、あれとアブソルを実際に見たならば、それらを同一視することなど正気ではできそうになかった。曖昧な人の記憶を更に曖昧に図示するという行為の不正確さと愚かさを痛感しながらも、ショウは相棒に指示を出す。
「ジュナイパー、矢で牽制して!」
月が頂点にて輝いている。とはいえ人の目で認識できる視界は精彩を欠いていて、ショウは勿論、夜目が特別効くわけではないジュナイパーにとって特別得意なフィールドではなかった。
蛇行しながら辿った森を頭の中で再度マッピングする。ベースは直線方向なら4時、しかし明るさを求めて森を抜け、平野に出るなら7時方向が早い。
ショウがこれまで積んできた調査隊としての判断がそう告げると、トレーナーとしての経験がどちらに行くべきか頭を回り始める。森に留まる、という考えは初手で投げ捨てた。くさタイプであるジュナイパーは森に慣れているが、その主人であるショウは自由に戦えるほど慣れていない。樹木を薙ぎ倒せるほどの怪力を持つポケモンを前にして、それ本体だけでなく倒れてくるかもしれない周囲に注意を割きたくなかった。
ジュナイパーの矢が連続して放たれ、その間隙に鋭い蹴りが刺さる。おおよそ2メートルを超える巨躯であったが彼女の相棒よりは素早い。避けきれず当たった矢も大して痛がらない様子を見て、その正体不明のポケモンのタイプはひこうかそれともエスパーか、と推測するが、どちらもそれらしい姿ではなく、それと何かを複合しているようにも見えなかった。
「走ろう!」
重たい一撃がジュナイパーに返される。効果は抜群なようで、よろけたのと同時に折られた枝がジュナイパーより遥かに後ろにいたはずのショウの近くまで飛んできたのを見て、7時、平野に出ることを選択する。当然逃がしてくれるはずもなく、また彼女としても逃さず事件をこのまま解決することを望んでいたため、適度な技の応酬を交えながら、じわじわと森を進んでいく。
「シャドーボール! 弾かれたらリーフブレードで詰めて!!」
ジュナイパーの使える技を片っ端から使わせた。かくとう技はいまひとつ、ゴースト技は普通で、今切り結んだ草の剣も等倍に見える。あの見た目でフェアリーだろうか、いや何らかとの複合かなどと思案する。人間にとっては小走りに近い速度でもつれあいながら走り続け、森をもうすぐ抜けると言うところでまばらになった木々を縫うようにもう一匹のポケモンを繰り出す。二匹同時に出せば混戦になり、指示が出しにくいと普段なら嫌うことも、今回ばかりはそもそも押し負けることを嫌った。
「レントラー! 回り込んででんじは」
ジュナイパーに矢を放たれ、気を取られているところを背後からレントラーが襲った。動きを鈍らせる敵を横目に、最後の木をすり抜けた。
同じ夜でも、葉で月光が遮られない分平野の方が明るい。闇に慣れ切った視界で動きにくそうに森から飛び出る影の詳細を初めて見て、そして驚愕する。
それはアブソルでもなく、レントラーでも、ウィンディでもなく、ましてやヌメルゴンでもない。虫の爪に似た肉を抉り切り裂くのに向いた前脚と、地を蹴り疾走するのに向く陸上動物の後脚、鳥の翼のようで死神の鎌のような硬質な鶏冠を頭部に持ち、水中生物のヒレのように力強く空を掻く尻尾を持ったポケモン。あちらこちらの生物を連れてきて、強い部分だけを嵌合させたかのようなちぐはぐなポケモン。
自然界にありふれたそれではないのは一目瞭然だった。異質な存在、しかしアルセウスのような近寄りがたい神聖さを感じるものではない、ただひたすらに狂気的な歪さだった。恐ろしさに言葉を失う。
「……っ」
釘付けになっていたその一瞬は、麻痺したとはいえ間隙を暴力的に突くには十分なもので。体当たりでも、捨て身タックルでもない、エネルギーを纏った突撃に対応できなかったジュナイパーがショウの後方まで突き飛ばされる。
トレーナーの責務を放棄しかけていたことにはっとするが一歩遅く、目を回していた相棒はもう戦えないと判断し、手早くボールに戻した。悔いることを後回しにできたのは手持ちたちとの絆と、少女の双肩にかかる村を守らなくてはという義務感だろう。深く息を吐いた。下手をすればキングやクイーンよりも苦戦するだろう。シズメダマなどないのだから。
「レントラー、必要以上に間合いを詰められないで」
レントラーもジュナイパーも接近戦に比重が傾いているタイプだ。そして、おそらく眼前の存在もそうだとショウは予想していた。遠距離が得意な誰かをもう一体、と考えながら警戒行動を取るように指示を出す。今のショウの手持ちにあの破壊力を余裕で耐えられるようなポケモンはいなかった。前衛と後衛という役割を持たせた二匹の組み合わせは、前衛が安定できることが前提条件だろう。前衛二匹で相手の狙いを定めさせない動きをとろうとした瞬間、夜の原野に似合わぬ閃光が走る。
「なに──」
視界が一瞬塗りつぶされる。強くはないが確かに暗い洞窟を照らすように、それは敵の新手かと体をこわばらせる。甲高い小さな鳴き声が聞こえれば、何も見えないままにレントラーの名前を呼んで、そのまま後方に大きく回避をした。攻撃が見えたわけではないが、来る可能性が高いと感じた故だった。
一瞬の光が消えて周囲が再び鮮明に見えるようになると、空を舞う小さな物体が目に入る。毛皮のような、しかしどこか人工的に整えられた造形は心当たりがあった。このヒスイに存在しないみがわりのぬいぐるみは怪物とショウたちの間に滑り込むように落ちると数回小さくバウンドした。夜闇への目の慣れがリセットされた中でも原色だとわかる二色のコントラストが森から出てきたのに気付いて、いつかの挟み撃ちと同じ構図に少女はどこか安堵を覚えた。
「コットンガード」
シクラの声が聞こえる。商会の制服こそ着ているが帽子はなく、髪も解いた状態だからかショウの知るいつもの彼女とは印象が違って見えた。フラッシュを使ったのだろうロトムスマホと珍しい、草タイプのようなポケモンを連れている。光や声によって、十分に気を引けていたのだろう、怪物はシクラの方に再度同じ技と思しきものを繰り出すが、その直前、少女の腰より小さなポケモンがその身に纏う綿を増大させることで身を守る。コットンガード、と呼ばれた技なのだろう。
ショウの知らないポケモン、知らない技を繰り出す様は、確かにジムバッジを8つ集めた一端のポケモントレーナーだと納得させられるような、毅然とした佇まいだった。フラッシュを焚いたきり遊ぶように空中に浮いていたスマホロトムを乱暴に掴んで引き寄せると、ショウに向かって「怪我はない!?」と大声を張り上げる。いつだったかと逆転した立場であることを思い出しつつ、返事代わりにレントラーに10まんボルトの指示を出す。
「……?」
苦しそうに呻く怪物の様子を見て、ショウは眉をひそめた。違和感を確かめるように記憶を繰り返そうとしたが、そんな隙はない。盾だったみがわりがどこかに突き飛ばされていく隙に回り込んできたシクラに駆け寄って、頼もしい仲間を傍近くにする。
「怪我はない? 大丈夫? 痛いところは?」
「大丈夫。心配してる暇じゃないでしょ今は……かみなり!」
心配気な少女をいなして指示を出す。先程のロトムよりもあたりが眩しく照らされるが、ショウら自身が意図的に呼んだものであったため驚くこともなく、閃光から一瞬視線を外すことで目を潰されることもない。効果抜群のそれに何とか耐えた怪物がレントラーに向けて反撃を送るが、するりと割り込んだシクラのポケモンがその綿毛で受け止めた。
痛くも痒くも、どころではなく楽しそうですらある鳴き声を主に向けると、それを聞いた少女は白桃色の目を細めて笑う。恐怖を吹き飛ばすように、どこにも恐怖なんてなかったように、どこか芝居がかって指を鳴らすと「やっちゃえ」と主語も目的語もない指示を出す。あるいはパチンという軽快な音が彼女たちにとってその言葉足り得たのだろう。
任されたとも訳せそうな気合いのこもった声は、ふわふわの真綿の声だったか、けてけてと笑う電子の妖精の音だったか、あるいはそれを受け止めようとする鋼の嵌合体の雄叫びだったか。
三度世界は白に染まる。それがマジカルシャインだとショウが感じたのは、半ば本能的な判断によるものだった。くさタイプのような見た目だったシクラの相棒はどうやらフェアリータイプの技を扱えるらしい。
これこそ予測していなかった眩さが今日一番の強さで襲いかかり、咄嗟に小さく呻き声を上げてショウは腕で顔を覆うことになった。完全に目を潰される中で耳をそばだてて周囲を探る。彼女のものよりも苦しそうな呻き声。勝ち誇ったような緑の妖精の声。何かが倒れる音と、そのすぐ後に鳴る電子音。少女の安堵したようなため息と、また笑うロトムの囀り。
視覚が戻ったとき、何事もなかったかのような静けさと対称的に原野に残る爪の跡と黒く焦げた草原に息を呑むことになる。どこかで見たようなものと完全一致する爪痕に広場の正体を見たが、当のポケモンの姿がどこにも見当たらず、ショウの背中に冷たい汗が流れかける。シクラに問えば、霞のように消えていったと言う。自分で指示したという事実以上にクリアな視界に内心驚く。
「しっかり打ちのめしといたから、きっともう二度と人前に姿を現さないと思うわ。きっと」
ポケモンをボールに仕舞って、ロトムをポケットに押し込んで「それより」と少女は調査隊の制服を風に靡かせる友人に詰め寄った。柔らかく腕を取り、いつになく真剣な表情に意図せずショウの顔が強張る。
「あれの攻撃を食らってない? 腕とか噛まれてない? 突き飛ばされて頭とか打ってない? それと──」
考えうる怪我の仕方を列挙しながら腕や足を確認して回る。左側面から始まって背中、右側へと回る途中、制服の袖が少し切れていることに気付くと名状しがたい悲鳴と共に「ショウちゃん!!!?」と名前を呼んだ。初めて見る友人の過保護すぎる様子に名を呼ばれた彼女はくすりと笑いながらも腕を確認し、それがごくごく浅い切り傷で、恐らく森を抜けるときに小枝で引っ掛けた程度のものだと伝え、安心させた。
それは後にアブソル事件と呼ばれる。あの夜を皮切りに不審なポケモンの影もなく、きのみが極端に減ることもなかったことから、ムラは徐々に警戒を緩めていき、やがて起こったことも言われなければ思い出せなくなるほど人々から印象が薄れていく。
大量に積み上げられた調査記録の書類と、不自然に開けた広場だけがその痕跡として残り続けることになる。地面の跡は雨の日に混ざり合ってしまい、焦げた草も裂けた木も、若く生えた生命力に覆い隠されてしまった。
あの日、商会がなるべく控えていた仕入れに一人出ていたという少女は「だって売れるでしょう?」などと宣ってシマキの力強い抱擁という名の攻撃に悲鳴を上げていたが、数日も経てばそのことを忘れるようにけろりとしていたのを見ると反省はしていないのだろう、とショウは能天気さを羨んだ。対称的に夜、暗いところで自分より大きな四足歩行のポケモンを見るのが少し苦手になってしまった。
*
「今思えば、ぜんぶ、出来レースだったってわけだ」
腹立つなあ、と英雄となった少女が吐き捨てながら道端に設置されていた長椅子に腰掛けるが、不機嫌そうな声色ながらもどこか愉快な感情が潜んでいて、本気で苛立っているわけではないことが窺えた。
夜空はあいもかわらず暗くヒスイを覆っているが、そこにはもう丸々と大口を開けていた裂け目は消えて無くなっていた。そんな澄み切った空の下、煌々と明かりという明かりを付けて回って開かれた祭りは、色鮮やかに夜を彩っている。
友人の子供っぽい苛立ちを向けられたシクラは返事をしなかった。先程ショウが座った長椅子の端を占拠しながら、屋台で配られていたのだろう、飴でコーティングされたきのみを頬張って、口を動かすので忙しかった。
英雄に「ね、いい加減種明かししてよ。あの子のタイプ」と横腹を突かれて初めて、飴から口を離すと嚥下を済ませて「種明かしって、何を知りたいの?」と首を傾げた。心当たりがないのか、それともありすぎて絞りきれないのか。意図的に語らないことを多用する彼女のことだ、絶対に後者だろうと確信したショウは「アブソル事件」と短く呟いた。ムラを脅かし、そして英雄ではなかった少女たちが撃退した正体不明のポケモンによる事件。本物のアブソルには風評被害に他ならないが、通称として広く呼ばれたのはその名だった。
「結局あれは何タイプなの? ──ううん。どうやってタイプを変えているの? あれ。えっと、シル……」
「シルヴァディ」
アブソルでもなく、レントラーでも、ウィンディでもなく、ましてやヌメルゴンでもない、未知であった怪物の名をシクラが呟く。馴染みないポケモンのタイプが戦う度に、あるいはその途中でも急に変化していることにショウは気付いていた。
格闘がいまひとつ、ゴーストと草が普通、電気が抜群。パズルのようにいくら18のタイプを組み合わせても成り立たない複合タイプだった。怪物としてではない、シクラのポケモンとして相対した時は、そもそも戦闘の中で同じタイプの技が効いたり効かなかったりしたのだ。机上のモヤつきが確信に変わったのはそこであったが、そのマジックの仕掛けは皆目見当がつかないでいた。
「そうそれ。どんなポケモンなのか知りたいの。あとついでにアブソル事件のこと、なんで暴れたのか、どうして採取され尽くしていたのか、裏話というか、種明かし? とにかく全部洗いざらい吐いて欲しいんだけど」
「なんでどうしてって、小さな子供みたいに質問するのね」
淡紅色の瞳が細められる。皮肉めいた挑発をするが、はぐらかす気はないようで、口元に近い位置にあった飴を膝の辺りまで下ろすと滔々と、それが義務だろうと言わんばかりに真実を語り始める。
「シルヴァディね、人工的に作られたポケモンなの。ほんとはメモリを持たせるとタイプを変えられるんだけど……ほら、不便じゃない? 持ち物固定になるのって」
さらりと放たれたのは驚愕の事実。人工的に作られたポケモンはいくらかいると聞いたことはあるが、実際ショウはそれを見たこともなければ名前も知らなかった。「え?!」と声を上げるが、彼女はその反応を予期していたのかショウを置いてけぼりにしたまま話を続ける。
「だからメモリのデータを色々いじって、ロトム越しにデータを送れば戦闘中でもタイプが変わるように……ショウちゃん? 聞いてる?」
「聞いてるけど、軽々しく常識を歪めてこないで欲しい」
造られたポケモンで、持ち物によってタイプが変わる生態を持っていて、かつそれを少し服の裾を調整するくらいの気軽さで改良した。嘘だと吐き捨てるのは楽だが、しかし事件に関して抱いていた疑問を全て解消させる、まさに種爆弾であることを明かされた。パンクしそうな頭と戦う姿を横でけらけらと笑いながら見つめられるが、待つ気はさらさらないようだ。
「元々、わたしフワライド以外の手持ちは隠しておくつもりだったの。自分の身は守る必要があるし、そもそも元の時代でも気軽に出せる子じゃないし、過ごしてみればポケモンと距離の近い人間なんてほとんどいないし」
ショウも思い返せば、初めて会った時から彼女はそうだったことに気づく。ボールの出し入れを見せようとしなかったのは、ヒスイの技術ではないボールを見せたくなかったから。エレブー相手に相性不利なフワライドを繰り出したのも、その一つ。ロトムスマホは何気なく見せてきたが、それが戦闘もこなせる手持ちだとはすぐには明かさなかった。
「でも、ボールにずっと仕舞っているからってポケモンもお腹が減らないわけではないでしょう? ご飯の手配ってすごく大変だったんだよね」
「わかる。特にこの時代、ポケモンフーズとかないもんね」
ショウがうんうんと首を振る。拘ろうと思えばいつの時代だってどこまでも拘れるが、ショウたちの生まれた時代には科学技術の努力の結晶による手抜きも出来た。一日に数度、袋から適量を器に出してやるだけで最低限事足りた。
しかしそれはここでは遥か未来の話。きのみをもぎ、切り、あるいはすり潰し、手間をかけて与えなければならない。フーズの一粒、きのみの一つ、大きさは後者に軍配が上がれどそこに詰まっている栄養は逆転する。
「わたしもフワライドも大食らいだってことにして、ちょっと多めにご飯を手に入れて、商会のサボりだと思われない程度にきのみ余分に拾ってきて……って誤魔化しながらやってきたけど、五匹ものポケモンお腹が膨れることはないわけで。だから結局、アブソル事件って言ってるけど、単にわたしのポケモンが、ずっと腹八分しか食べられなくて、空腹で癇癪を起こしただけ」
トレーナーとしてなってないよね、と自嘲的に笑ったが、ショウも釣られて笑える話ではなかった。
空腹状態であそこまで暴れられるのは彼女のトレーナーとしての技量を鑑みれば不思議なことではない。シクラが、恐らくショウと会うよりもずっと前から、一人で手持ちの腹事情と戦ってきたことが驚きだった。野営が続いた時の、数日の食料調達だってショウは苦手で、ムラやベースキャンプに頼りきりで調査を続けてきた。体の大きなポケモンが二匹もいる少女にとって、それは長く苦しい戦いだったのだろう。
「大変だったんだね。じゃあ、アブソルの名前も出したのって手持ちを隠すため?」
「……ん。半分はそうかな」
話がひと段落ついたところで飴をまた齧ったシクラは、それを溶かしてから話を続けた。
そも、シルヴァディなるポケモンの存在を知らなかったとはいえ調査隊の推理は、五種のポケモンなどという的外れなところに進んでいた。そのうち4つが、一体のポケモンのものだとはおおよそ想像もできないだろう。少女が森でポケモンが暴れたという話を聞いた時、付け加えられた五種類という言葉に戸惑ったが、詳しく話を聞くに連れそれを利用しようという発想になったという。
「まあ、一種の茶目っ気だよね」
「その茶目っ気、あってもなくても大分苦しめられたけどね」
でも仮の形と名前が与えられただけ、少し楽にはなったでしょう? と何の他意もなさそうに、純粋な好意として返されれば、ショウも詰るような視線を収めざるを得なかった。
「しかし、あの夜は焦ったなあ。わたし、進化する前のシルヴァディに怪我させられたことがあるの」
あなたは無事でよかった、と呟いたのでようやくあの日の少女の心配性に合点がいった。今までショウを心配したことなどほとんどなかったのに、シルヴァディと相対した後だけは執拗に無事を確かめてきたのだ。
「何も言わずに利用したとはいえ、お礼は言わなきゃ。──あなたのおかげで、今度こそ、誰も怪我をせずにあの子たちを抑えられました。ありがとう」
腰のベルトに付けられた、現代的な意匠のモンスターボールを撫でる。その顔は元の時代に帰りたいと呟いていた時より随分穏やかで、ショウも同じくらいにとびきりの笑みを返して「どういたしまして」と呟いた。
シクラちゃんを描いていただきました→
https://twitter.com/0ocep/status/1533035080599252993?s=20&t=VMIwc8HvXrT8RJyYfFzl6Q
これがあるから3話一気に上げたかったんですー。むりでしたー。
二人で「ポケットモンスターハンターレジェンズコライドン/ミライドン」とか深夜テンションでゲラゲラ笑ってる場合ではなかった
さて、次は何を書くか