見習い商人の見るヒスイ   作:Cicla

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できれば3/3まで一気に投稿したいものの3/3書き切れるかは微妙なところ


8.獣と嵌合-2/3

少女が二人、森の中を進んでいる。小声で童話的に楽しげな様子で会話をしながら歩いているが、真夜中の森林では狂気的に映っただろう。

二人と、護衛として出しているそれぞれの相棒以外に気配はない。人っ子一人いない木々の隙間にも普段ならポケモンがいるはずだったが、森の異変に怯えてしまったのか疎らになっていた。少女の片割れがここ数日何度も通って出来た微かな獣道の向こう側に、ようやく"広場"が見えた。

 

「結構奥まっていたのね」

「そう。私も夜に来るのは初めてだから、気を付けてね」

 

無防備に草むらから飛び出そうとする少女をショウが引き止める。

彼女からすれば、いくら友人たる少女の腕が確かだとはいえ、夜間の、しかも初めての調査に同行するのは反対だった。行きたい、いや駄目だというやりとりを何度も繰り返して、シクラの先輩に当たるウォロが「ジブンはベースで荷物番してますから。行って来たらどうですか」と横から舟を出したために、そのまま押し切られる形でショウが同行を認めたのだった。商会のトレードマークの一つでもあるリュックを置いてきたシクラは、最低限の装備を制服のポケットなどに詰め込んでいる。

 

「……ん、とりあえず安全そう。ここが、例の場所。木が薙ぎ倒されて広場になってるの」

 

ポケモンの気配がないのを確認して、シクラを制していた手を離す。一度雨が降ったせいで地面の凹凸はもう大分均されていた。

短く生えつつある雑草も相まって、乱雑に倒された木々とそこに残る爪の跡にさえ目を向けなければただの開けた場所である。唯一の痕跡を指差して、二人並んで観察する。

 

「こっちの傷は虫ポケモンらしき鋭い爪で出来たもの。あっちは鳥ポケモンの翼っぽくて、向こうは魚の尾びれ。でも全部、この辺りのポケモンじゃないし、何のポケモンかはっきり断定できないの」

 

たくさんの調査をしてる私でも、とショウが暗く呟く。独り言のように「なるほど、それで五種類ね……」としばらく思考の海に沈んだと思えば浮かんでくる。

 

「見つけたのは、ポケモンの痕跡だけ? 人の足跡とかはないの?」

「勿論あるよ。ここ、元々採取隊がたまに立ち入る場所だもの。雨で流される前は点在してたよ。詳しく調べてないけど」

 

同じように、シクラが短く質問し、ショウがそれに答えるというやりとりを数度繰り返す。

 

──野生のポケモンだって断定できているの? 

──この時代、モンスターボールは開発されてそんなに経ってないんだって。これだけ暴れられるほど強いポケモンは従えられないと思うよ。仮にそれができるほど強いトレーナーの手持ちだったら、それだけで容疑者絞れちゃうんじゃないかな。

 

──五種類って言ってるけど、何匹かわかるの? 

──同じ形で大きさがはっきり違う跡は見つけてないけど、はっきり一種類一匹とも言えないみたい。

 

──目撃情報があるって言ってたけど、どういう情報? 

──四つ足の恐ろしい獣で、大の男よりも大きなポケモン。するどい牙を持っていて、鎌のようなものを持ってるんだって。

 

「鎌?」

 

少女が首を傾げる。更なる説明を求めたが、ショウは聞いた話をそのまま繰り返しただけであったため、答えることができなかった。シクラは無事に残っている近くの木の幹に持たれかかると、人好きそうな笑みと共に、もうめっきり癖になった青年と同じ仕草を始める。

 

「アブソルってポケモン、知ってる?」

 

 

災いを知らせる時人前に姿を見せるというそのポケモンを知っていたのは、シクラの他にほとんどいなかった。ショウも名前に心当たりはあったが、姿は数度メディアで見たか見なかったか。名前を聞いて思い出せるほどではない。

シマボシもその名前を故郷で聞いたことがあるそうだ。ただし、災いを連れてくる不吉なポケモンとして。当然その姿を見たことはない。

 

「わたしも天気が()()と悪い日に()が良ければ目にできたってだけなんですけどね、なんちゃって」

 

シクラはそうお茶目にウインクしながら絵を描いてみせた。言葉を選べば少女らしい味のある絵だ、とショウは内心感じつつも、目撃者の男に以前描いてもらったものと比べてみる。

どちらもお世辞でギリギリ上手いと言えるレベルだった。数人で微妙な顔をしながら見比べてみる。似てるとも言えず、かと言って全く違うとも言えない、玉虫色の結論しか出なかった。

 

しかし今まで出てきた候補の中では一番似ている。結果的には、シクラの話とシマボシの知る話のどちらが正しいにせよ、姿を見たことと災いがあったことの因果関係、すなわち姿を見た後にその場を訪れれば大乱闘の跡があったという結果が言い伝え通りのことが起こった証左なのだ、と半ば無理矢理に解釈して、暫定的に目撃されたポケモンをオヤブンのアブソルとすることになった。通常の個体ならば小さな子供くらいの高さしかないという少女の弁に多大に依拠した推理である。

 

「この辺の鳥ポケモンは粗方調べました。……結果はお察し。ここまで何の痕跡も見つからないとなると、生き残ってるのは隠れるのが上手い一匹だけで残りは全部食われたとかなんじゃないか?」

「一匹だけの場合、きのみも食べてることになるから肉食はないはず。あと、流石に食べられたなら食べられたで骨とか落ちてると思う」

 

今日も今日とてシマボシの執務室で調査隊が頭を突き合わせていた。テルの推理をショウが否定する。その前はラベンの推理をシマボシが否定し、ショウの推理はラベンによって否定された。浮かんでは否定されていく数多の推理は、アブソルというヒントが見つかったからと言って調査が順調ではないことを示していた。

 

「ううん……そもそもこの痕跡。翼と呼んでいますが、この傷は樹木に対してまるで攻撃するような打ち付け方をしています。飛ぶための翼ならこんな自傷も厭わないことはできないと思いませんか?」

 

ラベンが目に焼き付くほど眺めた翼状の傷のスケッチをなぞりながら言葉を発する。先が枝分かれしたような形状のそれを翼だとしたのは単純な形からの結びつけだった。

鳥だけでない、生物が重力に逆らい飛ぶための翅や翼は空気を捉えるのに適した形状をするものだ。ショウらの時代の知識では、揚力を得やすい形とも言うだろう。

この時代で未だ解明されていない複雑な物理法則に従うには、その器官のデザインは緻密にならざるを得ない。それこそ、傷がつけば鳥は空を飛べなくなるのだ。それを忘れたかのように木には翼状の凹みがつけられている。それは、尻尾を打ち付けるように乱暴に翼をぶつけたことを意味している。

 

「例えばエンペルトの翼みたいな、腕に近い役割を担う翼ってことですか」

「ええ。ですからそれこそエンペルトのように、翼を持っていても飛行タイプではない可能性があります」

 

鳥ではなく、武器として使えるような翼を持つポケモン。該当するものが記憶の中にないか全員で頭を捻る。ジュナイパーは脚力自慢だが翼も同じくらい使う。エンペルトの翼は先の尖った楕円形に近く、先が分かれていない。推論のその先に辿り着けないでいつものように議論が停滞していたが、テルとショウが同時に話を動かした。

 

「アブソルの鎌を翼っていうのは無理が……あるね」

「時間忘れてた! 調査行きます!!」

 

しかし議論が進むような結果は得られない。テルが広げていた調査メモ用の冊子を急いで懐にしまって走り出すのを残りの三人で見送って、埒が開かないから解散しようかという空気感を誰ともなく醸し出したところで、部屋を飛び出すテルとすれ違いざまに「ごめんくださーい」と気の抜けた調子で少女の声がする。猛ダッシュをする少年を不思議そうな目で見送りながら執務室に入ってきたのは、ショウやラベンに聞き覚えがあったようにイチョウ商会の見習いであり、本件に関して協力者という名目を得たシクラであった。いつも緩くまとめていた髪を邪魔にならないようにきっちりまとめ、腕まくりもしている様子から何がしかの作業後のようにも見えた。

数秒テルに視線を向けていたがやがて興味を失ったのか部屋の主であるシマボシに向かって「今お邪魔しても良いですか?」と尋ねれば、淡々と「許可する」という返事が返ってきたため、お決まりのようにショウの隣に寄る。

 

「進捗どう?」

「ダメそうかな。どうしたの?」

 

普段は主にアブソルについて、その生態だったり姿だったりをギンガ団側から聞きに行ってそれに答えるという受動的な協力者だった。団が呼んだわけでもなく、商会としての納品の仕事でもなさそうな様子で本部を訪れるのはこの場の誰もが知る限り初めてだろう。

シクラは不思議そうな三人を意に介さず懐のものを机の上に乗せた。オレンジ色の眩しい長方形だった。細部のデザインはともかくとして、図鑑より小さく、ペンよりは大きいそれを、ショウはよく知っている。

 

「スマホ?」

「そう。スマホロトム」

 

ロトム、と呼び掛ければ、その薄っぺらの直方体は浮かび上がり、画面を明るく照らし始める。スマホ以前にロトムすら知らない二人は勿論、ロトムとスマホという組み合わせの実物を初めて見たショウも「ワッ」と小さく悲鳴を上げる。

驚かせることが目的の一つだったのだろう、悪戯が成功した幼子のようにくすくすと笑うと、シクラはそのまま画面が三人全員に見えるような角度でロトムを止まらせ、口を開く。

 

「アブソルの動画、前に撮ったなって思い出してデータをサルベージしてきたの。見るでしょう?」

 

元より拒否する理由もなかったが、未知の技術や調査へのヒントへの渇望から三者とも食い入るように確認する。動画の再生を始めさせれば、轟音の吹雪と共に映像が動き始める。

 

その生物はアブソルであると予測できるが、強い吹雪の中輪郭は霞み、体色が白っぽいのも相まってほとんど判別はできそうになかった。風に煽られてか映像の視点もぐらぐらと揺れ続ける。風音に混じってシクラと思われる少女の声と、その後ろから男が会話しているのがたまに聞こえるが、内容も判然としない。記憶を頼りに会話も高い解像度で思い起こせているのか、少し端末の隣に立つシクラの顔から歪んでいるのにショウは気付いた。

 

『──でもな────わ──で────』

『あはは。────んみた──こと言って──』

 

「これが元動画で、こう、良い感じに加工したのがこっち」

 

ある程度のところで動画を停止し、別の写真を表示する。先程の一場面と構図は全く同じだが、シクラの言う「良い感じ」に調整が加えられており、アブソルの姿がはっきりと見えるようになっていた。

 

「あの人に見せれば、本当にあれがアブソルなのかどうなのか分かるでしょ? ね、呼んでもらえないかな」

 

一頻り少女の持ち込んだ未来の技術に主にラベンとシマボシが感嘆した後、そう提案された通りに目撃者の男を再三呼んで同じ物を見てもらう。写真機すら名前しか知らなかった男は浮遊する映像記録に腰を抜かしかけるほどに驚いたが、落ち着いて映像を確認させればよく似ている気がすると発言した。

 

 

最初の目撃から三週間。アブソルではないかと言う話が持ち上がって、それがどうやらそうかもしれないと言われ始めてから一週間。全く動きのない事件は、採取隊が駆け足でシマボシの執務室に入ってきたことで急展開の予感を見せる。

 

「根こそぎ? それは事実か」

「ああ。今朝出たら木という木からきのみが消えてて……あと薬草の類も無くなってるんだ!」

「隊長!! 例の森のポケモンが異常なほど少なくなっています!」

 

調査隊の部下までもが滑り込むように入ってきたのに対してそうか、と冷静を装って応じる。しかし騒がしいとそれを咎めるのも忘れてしまうほど只事ではないという焦燥に駆られながら、人を呼び集めることを決意した。




鋭利な虫の爪、陸上生物の足跡、怪獣の足跡、水中生物のヒレ、先分かれた翼、鋭利な牙、詳細を掴ませない顔、死神の鎌、異変らしい異変のない森、採取されたきのみ、アブソルとよく似ている、白いそれ。

その世界観をロクに継承せずにシステム上の借用だけするのはあまり好きではないのですがINTと心理学にはことごとく失敗してます。逆に言えば探索技能はほぼ成功しています。
カレーの具材全部あるけどルーの使い方がわかんなくてポトフとチョコレートによく似たものができました、みたいな
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