前回に続き九龍編となってます
<翌日>
目が覚めた。やはり目に写るのは紅い天井。夢では無かったようだ。体を起こしベッドから降りる。部屋に備え付けられている洗面所で歯を磨き顔を洗う。
一通り支度を終えて部屋から出る。
「咲夜ちゃじゃなくて咲夜じゃないか」
危うくまたちゃん付けで呼びそうになる。どうも自分と同い年くらいの女の子を見るとちゃんで呼んでしまう癖が有るようだ。
「朝食ができたので呼びに来たのですが許可無く部屋に入るのもいかがなものと思いまして」
「あぁ、気にしないでいいよ。勝手に入っちゃって」
「では今度からは叩き起こしに行きます」
「お、おう」
咲夜がそんな言い方をすると思わなかったため少し驚いた。それにしてもいつも無表情だな。
「ついてきて下さい」
そう言って歩き出した咲夜の後を追っていく。朝であるのにやはり館内は薄暗い。当主がヴァンパイアだからだろうか。ヴァンパイアの弱点といえば一番はやはり日光だからな。
そうこうしている間に広い部屋に到着した。そこには大きなテーブルがあった。テーブルには純白のテーブルクロスが敷かれその上には几帳面に盛り付けされた料理が並んでいた。
既に4人がイスに座り食事を始めている。その中にはもちろん当主であるレミリアも居る。
「あら、貴方がレミィの言ってた新入り?」
レミィ…恐らくレミリアの事であろう。咲夜のようにお嬢様等言わないため友人か何かだろうか?
「あぁ、この度紅魔館で働く事になった九龍一輝だ。よろしく頼む」
「私はここの図書館の管理をしているパチュリー・ノーレッジ、こっちは私の使い魔の小悪魔よ」
パチュリーが隣に座っている女を指差しながら言った。
「パチュリー様と図書館の管理をしている小悪魔です」
「私は門番の紅美鈴です。よろしくお願いしますね~」
「私は昨日ご説明した通り、メイド長の十六夜咲夜です」
「そして私がこの偉大な紅魔館の当主であるレミリア・スカーレットよ」
不思議とレミリアからは昨日のような威圧感を感じる事は無かった。昨日は色々状況が理解できなくてそう感じただけなのだろうか。
「ところでお嬢様、俺の仕事とは一体何なんだ?」
「あ~それね、執事でもやってもらおうかしら」
執事と言われても具体的に何をするか思い浮かばない。
「執事の仕事って何があるんだ?」
「屋敷の事はほとんど咲夜が管理してるから咲夜に聞いてちょうだい」
「分かった。それより一つ聞いていいか?」
「何かしら?」
「ここの空席は誰の席なんだ?」
俺はずっと気になっていたことを尋ねた。今ここには6人しか居ないが席は7席有る。
「フランドール・スカーレット、私の妹よ。今は訳あって地下に閉じ込めてるの」
「閉じ込める?何故そんな事をする必要が?」
「数日前から何かに憑かれたように暴れ回って危険なのよ」
言い終えるとレミリアはイスから立ち上がり部屋を後にした。それに続くようにパチュリー、小悪魔、美鈴も食事を終えて部屋を後にする。残ったのは俺と咲夜の二人だけ。
なんだか非常に気まずい雰囲気だ。とりあえず、仕事の事を聞いておかないとな。
「え~と、俺は何をすれば良いんだ?」
「そうですね、とりあえず買い出しに行ってほしいです。人里の近くにある店に行けば全て揃いますので。メモと地図を渡すので迷う心配も無いと思います」
「了解、今からでも行ってくるよ」
そう言うと咲夜はポケットから取り出したメモ張に手早く地図とメモを書きそれを切り離し俺に渡した。
「徒歩だとそれなりに時間がかかるので飛行することを推奨します」
「飛ぶって、咲夜は何を言ってるんだ?」
「詳しい事は門の所に居る美鈴に聞いてちょうだい」
「う~ん、分かったよ」
イスから立ち上がり歩き出す。大きな扉を開けて外に出る。薄暗い屋敷の中にずっと居たため太陽の光が眩しい。次第に目が慣れていき視界もはっきりしていく。
俺の目の前には綺麗に手入れされた庭園が目に入った。その先の門に美鈴が居るのが見えた。
「一輝さんじゃ無いですか。どうしたんですか?」
「ちょっと人里まで買い出しにな」
「早速仕事ですか~、大変ですね」
「それよりさっき咲夜に飛行した方が良いって言われんたんだが、そんなことできるのか?」
いくら異世界でも人間が空を飛ぶなんて信じ難い事だ。ヴァンパイアのレミリアなら悠々と飛べそうだが。
「ここに居る大半の人は飛べるんで一輝さんも練習すれば飛べると思いますよ」
「マジなのか?」
「マジなんです」
そういえば昨日レミリアが幻想郷の説明をしている時に能力が何とかって話していたな。もしかしたらそれの一環で飛べるのだろうか。
……ということは俺にも何か特殊能力が有るかもしれないって事か。これはワクワクが止まらんぜ!
おっと話が逸れてたな、今は飛ぶことに集中しないとな。
脳内で俺は飛べる俺は飛べる俺は飛べると自己暗示をかけながら地面を蹴る。
すると僅かではあるが地面から足が浮いたまま浮遊することができた。
「おぉ!浮いてるぜ」
「いきなり浮遊できるとは一輝さん何かの才能が有るのかもしれないですね」
「ふっ、天才の俺にかかればこの程度、ふおっ!?」
浮遊したまま腕を組んで話していると落下してしまった。
「いてて…」
「だ、大丈夫ですか?」
「あぁ、心配は無用だ」
そう言って立ち上がりズボンに付いた砂ぼこりを払い落とす。
全く、女の子の前でダサい真似をしてしまうとは…俺一生の不覚だ。まぁいい次でキメればいいことだ。
再び地面を蹴り飛び上がる。さっきよりも高さを保てている。走るのと同じくらいの速度だが自由に移動することもできる。
「よしっ!これでどうだ」
「ちゃんと飛べてますね」
「おうよ、じゃあちょっくら行ってくる」
「お気をつけて~」
美鈴が笑顔で手を振って見送る。
地図を見ながら人里がある方向に合わせて飛行する。慣れきたのかそれなりにスピードも出るし高度も調節できる。
しばらくして人里と思われる場所が見えてきた。ちょっと待った、飛ぶのは練習したが着地は練習してないじゃないかっ!
「ええいっ!着地練習もしないで飛行すると!」
空中で体勢を整え衝撃に備える。勢いよく地面に落ちるが何とか足から着地できたため怪我をすることは無かった。
「あっぶねー、頭からだったら死んでたぞ?」
着地の衝撃で足が痺れる。下手するとヒビでも入りそうな勢いだったが痛みは無かった。
地図を確認し目的の店へと向かう。
「……ここ店なのか…?」
15分程人里を歩いて到着した建物を見た率直な感想である。地図を見直してみたがどうやら合っているようだ。看板をよく見ると香霖堂と書かれていた。
扉を開けて中に入る。
「どうもーっす」
中は確かに商品とおぼしき物が並べられていが…。
「店っていうより倉庫じゃないのか……」
それに埃が凄い。
「誰か来てるのか?」
店の奥の方から男の声が聞こえる。
「俺、九龍一輝がご来店だぜ?」
店の奥へと踏み込みながら名前を伝える。
「あぁ、どうも。僕はここの店主の森近霖之助だ。ところで君のその服装なんだが昨日ここに来た…確か霧島だったかな?と同じ服装だが知り合いか何かかい?」
今何と言った?俺の聞き間違いじゃなければ間違いなく霧島と言ったはずだ。
「店主よ!その霧島って奴の下の名前は分かるか?」
「えぇと、確か唯斗と言ってたかな」
同姓同名にして俺と同じ制服を着ている…ヤツに間違いない。異世界に来てまで巡り会う事になるなんてとんだ腐れ縁だな。
「有益な情報をありがとう店主よ!」
「それより何か買いに来たんじゃないのか?」
「危うく忘れるとこだったな、このメモに書いてある物を頼む」
何だかよく分からないカタカナの単語が書かれたメモを見せる。
「えーと…これは全部紅茶だね。君もしかして紅魔館で働いているのかい?」
「ご名答、よく分かったな」
「この辺りで紅茶をこんなに発注するのは紅魔館くらいだからね」
そう言って霖之助は紅茶を取りに店の奥へと消えていった。
ただ待っているのも暇だし適当に店内を見渡す。様々な物が有るが大半が用途が分からない物ばかりであった。その中に壁に立て掛けられた剣を発見した。
剣を手に取ってみる。かなりの重量があるため両手剣として用いられるのであろう。長さは1,6メートル程。ここまでは単なる大剣だ、この剣の最大の特徴は柄の部分が2つ有ることだ。
「お待たせ、その剣が気になるのかい?」
紅茶の葉を入れた紙袋を持った霖之助が店の奥から戻ってきた。
「あぁ、珍しい剣だと思ってな」
「その剣はツヴァイヘンダーという物で刀身の根本にリカッソと呼ばれる刃の無い部分が有るのが特徴の両手剣だよ」
「なんだか妙に詳しいな」
「それは僕の道具の名前と用途が判る程度の能力による恩恵だね」
「それは店主にはもってこいの能力だな」
「名前と用途が分かるだけで使い方が分からないんだがね。霧島が置いていったこのスマートフォンという道具も連絡、情報収集ができるという以外には分からないしね」
「それの使い方なら分かるぞ?」
「本当かい?なら簡単にでも良いから教えてくれないか?」
「任せなさい!」
霖之助からカウンターの上に置かれていたスマートフォンを受けとる。
「まずはこの横のボタンを押し起動する。そしたらこのように指で画面をタッチ、スライドして使用したい機能を選ぶ。まぁ連絡するには相手も同じ物を持ってないといけないんだがな」
「なるほど、こっちにあるガラパゴスケータイというのに似ているね」
「基本はそのガラケーをより便利にしたような物と思ってくれればいい」
「そうかい、ありがとう。お礼にそのツヴァイヘンダーを持っていくといい」
「良いのか?見たところそんなに繁盛してなさそうだし、この剣だって高価な代物じゃないのか?」
革でできた鞘から抜いてみたが、刃こぼれも無く重厚な刀身だった。それに重量もある。
少なくとも俺が教えた情報と釣り合うはずがない。
「その剣は拾ってきた物だし、店は半分趣味でやってるようなものだから。それにこの辺りには人を襲う妖怪だっているからね」
「店主がそう言うなら貰ってく事にするよ」
はっきり言うと大剣の使い方なんて全く知らないから使えるか分からないんだがね…。
「じゃあ俺はそろそろ戻るよ」
紅茶の葉の入った紙袋を手にして店を出ようとした時に気づいた。
お金持ってねぇ!
剣は店主からのプレゼントであるが紅茶に関しては普通に買いに来たのであった。
「店主よ、非常に言いづらいんだがな…紅茶の代金を払う金が無い!」
「紅魔館の支払いはいつも一括で行っているから大丈夫だよ。説明されなかったのかい?」
「…勤務初日目だからな……」
全く、そういう事は事前に説明してもらいたい。質問しなかった俺も悪かったんだがな。
「それじゃ俺は今度こそ戻るよ」
「あぁ気を付けて」
「アディオス店主よ、また会う日まで!」
そう言って俺は香霖堂を後にした
読んでくださった方ありがとうございます
次回も引き続き九龍編を投稿する予定です