宇宙戦艦ヤマト・シン   作:ジム・ビム

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バタフライエフェクトならぬ宇宙船エフェクト

 全ての始まりは1941年11月29日、ハワイ州オワフ島真珠湾への攻撃に向かう日本海軍機動艦隊が作戦行動中に空から落ちてきた巨大な船と遭遇した事から始まる。

 

 ハルノートをはじめとしたアメリカからの圧力と外交の失敗によって追い詰められていた日本は、起死回生の一手としてアメリカ海軍への宣戦布告と同時の奇襲攻撃を行おうとしていた最中だった。しかし突如として空から落ちてきた巨大な船は、住んでいた星をゼントラーディと名のる異星人からの攻撃で滅ぼされ命からがら逃げ出したアズリスと名乗る女性の姿をした異星人の船であった。

 

 その数なんと1万人。

 

 日本は奇襲作戦を一時中断し、アズリスの人々を救助する事を優先。宇宙という人類が進出はおろかまともな知識すら持ちえない場所を移動できるほどの技術力が目的でもあったが、ゼントラーディという問答無用で星を滅ぼす存在がいるという事の恐怖と資源の入手先が無くなっているという国家の危機を対処すべく、アズリスの代表と彼女らの持っていた現代の技術では到底作れない道具をアメリカへ送り込んだ。

 

 日本の思惑としてはアメリカが日本への敵意を弱め物資の、特に石油の輸入の再開が成されればいいと思っていた。しかしゼントラーディという惑星を躊躇なく滅ぼす存在と、それに滅ぼされ日本に拾われたアズリスの技術力にアメリカは日本の想定より強く激しい反応をするのであった。

 

 アメリカの思惑としては日本を強く刺激して暴発させ、アメリカに正義を持たせて戦争を行うという筋書きだった。しかし日本が暴発する寸前にアズリスとゼントラーディという消火剤がぶちまけられ、一気に日本は冷静さを取り戻した。これではアメリカに正義をもたらす事はできず、何より日本にアズリスの技術力がもたらされたらこちらが一気に不利になる。

 

 今まで味方だった時間が、アメリカの敵になった瞬間だった。

 

 とはいえ日本は自国だけで世界滅亡の危機に対処するつもりはさらさらなかった事、そしてアメリカで起こった大事件により日米共に歩みよりがなされることとなった。

 

 その大事件とはソ連のスパイがアズリスの道具を盗み出し、本国に送ろうとした事件の発覚を発端としたソ連による大規模なアメリカへの政治干渉の発覚だった。 結果としてルーズベルト大統領はなんとか失脚を免れたものの、ハリー・ホワイト財務次官補を筆頭にアメリカ政府中枢に入りこんでいたソ連のシンパは軒並み排除されることとなった。政府以外でも共産主義者の追放運動(レッドパージ)が行われ、アメリカとソ連との関係は一気に悪化した。アメリカからソ連への援助は最低限なものになり、ソ連は一気に苦境に立たされることとなった。ちなみにこの騒動はアメリカ全土へ一気に燃え広がったものの、期間にしてわずか三カ月でおおよそ収束した。

 

 最終的に日本はハルノートの撤回とそれとは別の(機密含む)条約をアメリカと結ぶこととなり、日米間での戦争は回避されることとなった。

 

 

 日本が発端となり、アメリカで行われたレッドパージを含む騒動をイギリスとドイツは茫然と見ることしかできなかった。日米ともにアズリスなどの情報はトップシークレットとして扱われていた事とソ連スパイの発覚で、イギリスのMI6エージェントもまともに動けなかったからだ。なのでイギリスから見たら日本がいきなり冷静になり、アメリカでソ連のスパイがあぶり出されたと思ったらたった三カ月で日米関係が修復されたとなる。いかに暗闘に長けたイギリスとて、ここまで劇的かつ短期に物事が移り変わると何もできなかった。

 

またドイツとの戦争が行われていたと言う事もあり、イギリスは日米関係の修復のきっかけを探ると同時に日本との開戦を想定して東南アジアに配備していた軍をドイツ戦に転換するように動いて行った。

 

 ドイツはイギリス以上に混乱していた。

 

 なにせ憎きユダヤの国であるアメリカと日本が開戦すればアメリカからイギリスへの援助も滞り、こちらがより楽に勝てると思っていたのだ。それがなぜかいきなり日米両国の関係が修復され、戦争が起こることがなくなったのだ。未だイギリス本土への進行ができていない以上、イギリスとの戦いは厳しいものになるのだ。しかしアメリカとソ連との関係が一気に険悪なものになったのは喜べる事だった。

 

 冬の到来でまともな進撃ができなくなったのでドイツとソ連の戦争は厳しいものになると予想されたのが、アメリカがソ連への援助を最低限なものにしたため楽になったのだ。ドイツのまともな将校は来年でソ連を打ち崩せるものと確信し、準備を整えていった。

 

 ソ連は死にかけていた。

 

 ただでさえボロボロの軍隊をアメリカからの援助でどうにかこうにか持ち直していた時に、その頼みの援助が最低限なものになったのだ。今が冬なのででドイツが攻めて来れないのは幸いだったが、冬が過ぎ去ればすぐにでもドイツ軍が進撃を開始する。スターリンはアメリカでのスパイを統括していた者を粛清したものの、それで軍隊が持ち直すわけではない。悪あがきを続けてはいたものの、水面下ではスターリンを排除する動きが始まっていた。

 

 

 アメリカとの条約を締結した日本は一息つく事ができた。

 

 アズリスの技術はアメリカとの共同で解析、開発するなどを機密条約で決められた。しかしアズリスの人々全員が技術者ではないため、1万人以上の人々をどうするかアメリカも交えて協議が行われた。アメリカへ移住した者も少なくはないが、大部分は日本の植民地である満州に住むようになった。そしてそれは秘密裏にアメリカと日本の共同で支援が行われていく事となる。その事で南京政府から文句を言われぬように支援をより増やす事などで対処したり、アメリカから工業製製品を購入するなどで基礎工業力を底上げしたりと、未だ油断成らぬと日本は日々を邁進していた。

 

 

 そして1年が過ぎた。日本とアメリカは共にアズリスからの技術を得ようとしていたものの、やはり基礎技術が未だ成熟しきれてない事もありその歩みは牛歩のものだった。

 

 しかし世界情勢は激しく移り変わっていた。

 

 まずソ連のスターリンが冬の終わり間際に粛清された。新しくソ連の書記長となったモロトフはスターリンのような手腕を発揮できず短期間で粛清される事となった。その後任も短期間でその座を追われ、ソ連中枢は統制を失って行った。ドイツの進行が再開されるとソ連軍は装備の貧弱さと統制の無さも相まって次々と降伏。時には50kmを一発の銃弾を使わずに侵攻できたこともあった。最終的にソ連はバラバラになって崩壊し、8月にはモスクワにドイツの国旗が掲げられることとなった。

 

 そんなドイツは制圧した旧ソ連領の扱いに苦悩することとなった。

 なにせ穀倉地帯であるウクライナと油田のあるアゼルバイジャンやカザフスタンを除いたら旧ソ連領の多くはお荷物となってしまったのだ。苦悩したドイツはウクライナとカザフスタンを除いた地域を細かく独立させることとなった。

 

 イギリスはアメリカからの援助を受け、ドイツからの侵攻を跳ね除け続けていた。と見た目ではそう見えるものの、実際はドイツがイギリスにドイツ領への侵攻する余裕が無い事を見抜き、爆撃機とその護衛機を除いた戦力を多くソ連戦線に投入していた為である。イギリスはそれを察知していたもののそれでもイギリス単体で大陸への侵攻は不可能であったので、歯噛みしながらもそれを見送るしかなかった。

 

 アメリカは活気づいていた。

 

 アズリスの技術の解析は進んでいなかったものの、それでもその一端を現在の技術に落し込んでより優れた工業製品の製造に成功した。イギリスとドイツの戦争の特需と、日本が製品を買ってくれるお得意様となっていた事も相まって経済は右肩上がりとなっていた。アズリスの人々との関係も良好なものとなっており、未来はとても明るいモノとなっていた。

 

 日本はとにかく頑張っていた。

 

 秘密裏にアメリカが支援してくれているとはいえ、いきなり1万人も人口が増えたら負担も大きい。アズリスの人々を満州に住まわせ仕事を回し、それに文句を言ってくる南京政府を説得してなんとかアズリスと大陸の問題は片付いた。またドイツがソ連を攻め落としたことで目の上のたんこぶとなっていた日独伊三国同盟も存在する理由を失った。幾度か協議が行われたが、同盟は失効したものとし日本は同盟から離脱することとなった。イギリスとの関係もアメリカが間に入ることで徐々にだが修復されていた。

 

 

 そして1943年に入り、アドルフ・ヒトラーが急死した。

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