宇宙戦艦ヤマト・シン   作:ジム・ビム

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ミノフスキー粒子万能説~その時歴史が壊れたを添えて~

 高度技術成長期の終わり際である2012年、世界を大きく変える発明が二つ出現することとなる。一つは空間を重力制御で折りたたみ、二つの座標を隣り合わせるフォールド技術。そしてもう一つがミノフスキー粒子の開発とミノフスキー物理学の成立である。

 

 フォールド技術による長距離転移はより利便性の高い波動エンジンによるワープ技術が存在したため一般的なものにはならなかったが、電波やレーザー通信を空間転移させることで宇宙の遥か彼方まで通信をつなげる事に成功し、これまでの通信技術を過去の物にした。そしてミノフスキー粒子を用いることで小型の常温核融合炉の開発が容易なものとなり波動エンジンの搭載が難しい小型の宇宙船、特に民間の宇宙船に多く用いられるようになる。そしてなによりこの粒子を高濃度に散布することで長距離通信を遮断し、レーダーの精度を大きく低下させる効果を発生させることができるという点に各国の軍部や同盟軍は注目した。

 

 ミノフスキー粒子の通信遮断効果はマイクロ波よりも波長の長い電波に有効であり、フォールド技術を用いた通信はミノフスキー粒子の影響を大幅に軽減することができるのが確認されたからだ。これは敵味方の距離と連携がより重要になる宇宙での戦いにおいて最大のアドバンテージを得る事になる。中規模の艦隊の展開する横幅の距離が日本の仙台から東京くらいの長さになると言えばわかりやすいだろう。それほどの範囲に艦隊を布陣させるとなるとレーダーと通信による相互確認は必須と言え、攻撃を開始するとそこに戦術や命令による布陣の変更などが加わるのだ。それらの前提をミノフスキー粒子はあっけなく砕くことになる。命令は届かずに戦術の変更はできず、レーダーも精度を下げるという宇宙戦にとって重要な要素を一方的に奪い取れるのだ。同盟軍はミノフスキー粒子の散布による相手へのレーダー・通信妨害とフォールド通信による確実な命令伝達を組み込んだ戦術を多く編み出すこととなり、それは後に人類を守る最大の盾となる。

 

 2017年にはミノフスキー粒子を圧縮して撃ち出す「メガ粒子砲」が開発され、これは主にエネルギー確保の関係でショックカノンの搭載が難しい駆逐艦や軽巡洋艦に搭載されることとなる。またミノフスキー物理学の根幹を成すIフィールド技術を用いることで宇宙要塞にビームシールドを張る事が可能となり、既存の波動防壁と合わさることで並の攻撃ではビクともしない鉄壁の防御力を得る事に成功した。

 

 

 

 時は少し巻き戻り2015年、中華民国政府は世界に向けて声明を発表した。それは自国の保有しているコロニ―を改造、巨大な宇宙船として動かしフォーマルハウトの居住可能惑星への移住、いや国家移転を目的とした計画であった。

 

 今まで書く事が無かったが、アズリスの墜落船に残されていたデータに最後のワープ以降に放たれたドローンにより、自動で行われていた居住可能惑星の調査結果が残っていた。そのデータは1964年に全て解析され、政府の施設からは自由に閲覧できるようになっており地球以外にも居住可能惑星が存在している事は周知の事実であった。しかし各国もまずは地球の防衛を最優先とし見向きはせず、そのデータを見る者は宇宙に浪漫を馳せる夢追い人がほとんどだった。しかし中華民国は違った。およそ1980年代中ごろより秘密裏に計画を開始し、そのデータをより詳細に解析した。国を移すのに適した惑星を探す為だ。

 

 中華民国、というより中華の地に住む者のほとんどが現状への嫌気を持っていた。なにせヨーロッパ諸国もアメリカも日本も自国を下に見ているからだ。これが明確な格差をもたらすような扱いなら中華民国政府を武力を持って打倒し、各国の支配を受け付けない新しい国家を築くといった野望に燃える者が現れ、実際に中華民国を打ち壊しただろう。しかし日本が世界を引っ張る先進国として活躍しているのでアジア人への差別も年々減少しており、2000年に入った時にはいち後進国の一つとしてしかみられなくなっていた。食糧不足や不当な税率といった政府を打倒する理由もなく、ただただ後進国の一つとして先進国から見られる日々。中華お得意の自国を制し国を作った人種民族を漢民族の数の暴力で乗っ取るというのも、そもそもが中華の地に住む者が国を作っているので乗っ取るも何もなく、国民は積り続ける他国から見下げられているという不満と衣食住が満たされている現状で身動きが取れなかった。とある男が現れるまでは。

 

 その男は元々政府の高官の息子で、日本やアメリカの大学を渡り歩き学び続けた知識人だった。1974年、その男が国に帰り中華民国の行政院に就職したことから始まる。最初は仕事をこなしていただけであったが、やがて父親の縁を頼りに様々な高官と接触し始めた。最初は接待の席で求められれば自身が他国で学んできた事を話す程度だったが、その際にポロリポロリと高官たちの思ってる他国への不満がこぼれ始めるとさりげなくこう言うようになった。

 

「他の星に逃げられればいいのですがね」

 

 中華民国は先進国の日本とはお隣である。中華の人々にとってヨーロッパやアメリカが下に見てくるよりも、ずっと自分たちが下に見ていたはずの日本が下に見てくる方がよっぽど堪えていた。武力で圧倒しようにも下手な動きをすればヨーロッパもアメリカもこちらへ銃を向けてくるのが容易に想像できたがゆえ、ただ耐え忍ぶしかできなかった。そんな最中に男から伝えられた他の星への逃亡という考えは徐々に政府に浸透していき、やがて誰もがその道に希望を見いだすようになっていた。

 

 折しも1970年代後半は宇宙戦艦の建造ラッシュが始まった時で、宇宙を航行できる戦艦が作れるのであるならより巨大な船を用いて他の惑星へ移住もできるのではないか。自分たちを下に見てくる国々から逃げることができるのではないかと思う者も多くなっていった。

 

 またその男以外にも海外の大学で様々な専門知識を身につけた若者が育ってきた時期でもあった。そういった知識人が政治に加わると、夢物語であったはずのそれを現実にすることができるようにもなって行った。そして前述の通り、1980年代より秘密裏に惑星移住計画はスタートした。責任者はそう、あの男だ。

 

 しかし男はすぐには惑星移住用の船の建造計画を打ちたてたりはしなかった。最初に移住惑星の選定を行うと同時に、自身は今なお軍閥の支配が成り立っている地方へ向かった。これはその男が無欲だと言われる由縁となる行動であり、地方を実効支配している軍閥を説得し移住計画の賛同者を募った。そして中央の中華民国政府と軍閥の橋渡しを行うことで、中華の地のこれからを考えられる下地を敷く事に成功した。それらはおよそ10年の歳月をかけて完遂し、最終的に軍閥と中華民国は共同して惑星移住を行い、移住後は別々に国家を作り上げたり地球に残り移住を拒んだ国民を纏めて新しい国を立ちあげたりすることとなる。

 

 話を戻すが国家と計画の地固めを10年かけて徹底的に行っていた時に、丁度宇宙コロニ―建造計画が立ちあがった。男はすぐさまそのコロニ―を改造して宇宙空間でもより快適に暮らす船を作る事を提案した。その提案の中にはより効率的に地球の重力を振り切る為と、計画の機密保持のために地球から一番遠いL2ポイント、次点にL3ポイントの宙域のコロニ―を保有するように求めてもいた。それは受け入れられ、L3ポイントのコロニ―を中華は手に入れることとなる。

 

 そして2010年にコロニ―の建造が完了すると共に、早速コロニーの1基の改造に着手した。表向きは軍事関連専用コロニ―とするためとしたが、実際は宇宙船に改造するためである。その改造が完了したのは2014年、元コロニ―の人類播種船の名は『盤古』と命名された。最大で一千万人が生活できるその船を計画と共に発表し、高度技術成長期最後の発明となる大規模宇宙移民船のお披露目と共に、宇宙開拓時代がスタートすることとなる。

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