「ウォーターセブン?ブルーノんとこの?」
「あァ、潜入捜査だと」
「へぇ。……時間がかかりそう?」
「無期限と聞いとるな」
「そりゃまた」
すぐ先程任務の言い渡しを受けたらしいカクがジョセフを見るなり抱き上げた。ジョセフィーヌは出来うる限りの抵抗をしたが、六式使いの彼にとってはささやかなものだった。
「カリファと、ルッチもかい?」
「うん」
「随分……気合が入ってるね。頑張っておいで」
「仕方ないのう。ジョセフにそう言われちゃあな」
「そこは誇りでしょうに」
「オプションは大事じゃろ」
カクはジョセフを肩車してぐんぐん歩いた。ジョセフィーヌはしばらく黙って乗せられてやった。カクが寂しがっているから、仕方ないので甘えさせているのだ。ここにいる彼らはその手のことに関しては驚くほど奥手で下手なのだ。ジョセフィーヌはそれを知っていたから黙って甘やかしてやるのである。
「ルッチ、カリファ」
「あら、新鮮ね」
「いいじゃろう」
「まあ快適であることは認めよう。廊下が短く感じたよ」
歩いた先には同じ任務を拝命した同僚二人。カリファは嫌がる素振りも見せずにカクの肩に乗せられているジョセフィーヌを見てにっこり笑った。
「お前は……」
ルッチが何かを言いかける。逡巡しているようだった。ジョセフィーヌは決心を後押しするつもりで「何だい?」と一言尋ねた。
「お前は、なぜアレのそばにいる?」
「アレって……主様のこと?」
「……あァ」
「あくまでも上司をアレ呼ばわりはちょっとマズくないかい?」
「知るか」
言っても聞かないタイプなのは知っていたので苦笑に留める。そも、本当にスパンダムが嫌がっていたなら彼はきっとそういう風に振る舞うのだから、そこまで気にはしていないのだろうけれど。
「主様が私を救って、もう一度生きる術を与えてくれたからだよ」
「……アレは誰にでもそういうことをする。信仰はするだけ無駄だ」
「…………ふうん」
目を伏せつつ、眉を顰めて放たれたそれは、存外可愛らしいものだった。子どもっぽいというか、年不相応に幼いというか、カリファもカクも微笑ましいものを見るような、生温い目をしていた。
反してジョセフはジットリとルッチを見つめていた。普段からジョセフは彼らを保護者のような子どもや孫を見守る目付きで眺めていたので、随分と珍しいことだった。
「癪だね。信仰だとしてもそれが無駄かどうかなんて君にはわかるはずがないだろ」
ルッチは反論されるとは思っていなかったのか、一瞬目を見開いてそれから貧乏揺すりみたいに足を二、三度小さく床に叩きつけた。
「おれにはわかる。……アレはずっとタチが悪い」
「そう。君にとってはそうだったのかもね」
弾かれたようにジョセフを睨みつけるルッチは、ほんとうに、まるで子どもだった。尊大で頑固で無遠慮で凶器を手に走り回って大人をヒヤヒヤさせる、危なっかしい方の。
「君に対して理想通りにならなかったからって私に当たらないでくれよ。しったかぶるのは勝手だけれど、それを押し付けるのはやめておくれ」
カクやカリファはびっくりしたまま固まっていた。こんなに怒った……怒るというか、きつい物言いをするジョセフィーヌを見たことがなかったから。その見た目のとおり、他人を傷つける術を持たないものだと思っていたのだった。初めての赤ん坊が手も付けられぬほどギャンギャン泣きだす寸前にも似た、あわあわと施す術を探すような腑抜けた気持ちを味わった。平和ボケってこんな感じかしら。
「後悔するぞ」
「いいさ。それでもと思えるからここにいるんだ」
「……」
「嫉妬するくらいなら、諦めなきゃ良かったろ」
「諦めてなきゃあ……ここにはいない」
何度も繰り返した問いに答えるように、消せと言われたから了解するように、なんの揺らぎもなくルッチはそう言った。考えることをやめた声音。深入りしてはいけないと言い聞かせたような答えは、もう知らない!と言い捨てる子供じみていた。
ジョセフは二、三度瞬きをして、ゆるゆる首を振った。
「じゃあ前提から違うよ、ルッチ。私は諦めてないからここにいるんだ」
「……お前は、一体、アレの何なんだ」
「サァ……私にもそれは図りかねるよ。ただ……」
「ただ、何だ」
「……ただ、私の最後を看取るのは主様じゃないといけないのさ」
ルッチは不愉快そうに眉を上げて、しかめっ面で腕組みをした。カクとカリファは不可解そうにジョセフを見上げた。間抜けな話、この会話はカクの上に乗ったまま応酬されていたのである。