【まるで蜘蛛の】転生したら多脚戦車に乗ってるんだが【行進】   作:NTK

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今回は掲示板ではなく、有能ハンドラーことエルマンくんについてです。
前回より時間が経ってるし、一部キャラの経歴にオリ設定があるのでご注意を。


優しき煙霧の火の元は

星暦2148年 4月5日

 

ひび割れた桜並木の街道の真ん中で、配属されたばかりのスピアヘッドの面々は花見に興じていた。どこから来たのかとか、誰か気になる子はいるかといった他愛のない話をしながら酒代わりの水を飲む中、クジョーが何処から聞いたのか、ハンドラーをしているお嬢様がいると話した途端、その人物について色々と好き勝手な偏見を言い合って盛り上がっていた。

何しろ相手は自分らを86区というクソったれたところに追いやって、自分らは壁の中でのうのうと暮らしている白ブタである。これくらい言ってもバチは当たらないだろう。当たるとすれば、レギオンからの砲撃だろう。

 

「…ま、もしホントにそんな奴がいるなら、一度お目にかかりたいモンだな」

 

「そんなのいるわけないでしょ。所詮は白ブタのお姫様なんだから」

 

『『ですよねー‼︎』』

 

「いや、そうでもないぞ。というか俺の二つ前のハンドラーがそうだった。…お姫様じゃなくて男だがな」

 

隊員の一人、トーマの一言に注目が集まり、彼は言葉を続けた。

 

「二つ前にいた戦線がさ、北部戦線だったんだ」

 

「え⁉︎北部戦線って執拗に首を狩るレギオンがいるっていうあの…?」

 

「あぁ、俺らはハーヴェスターって呼んでる。何年か前くらいから出てきた新型いるだろ?アレ多分そいつの戦術が元になってる」

 

「あのゴキブリみたいな動きする奴か」

 

「あたしあいつ嫌い!動きキモイし速い上に地味に硬いし!」

 

「僕の前の隊も何人かそいつにペシャンコにされてたよ」

 

新型についての話が出ると彼らはその新型について嫌悪感を露わにして口々に話した。ちなみにその新型はその見た目と挙動からギアーテの言葉でゴキブリを意味する駆逐戦車型(キュッヒェンシャーべ)と名付けられたが、奇しくもレギオン側での名称と一致している事は彼らの知るところではなかった。

 

「まぁそんなとこに配属されて、そのハンドラーが俺らに繋いできた時…自分の名前名乗っただけじゃなく、こっちの名前を聞いてきたんだ。パーソナルネームとかじゃくて、ホントの名前をだ。それがすげぇ印象深かった」

 

「名前を?」

 

「なんでわざわざ?」

 

「『部下の名前を聞かない上官が何処にいる?』ってさ。それ聞いた時は能天気な白ブタが綺麗事言ってるかと思ってムカついたから、言ってやったよ。その大事な部下を今まで何人死なせましたか?って。そしたらさ…」

 

──前の戦隊の時点で、137人だ。俺の至らなさで死なせた者達だ。無論、名前も覚えてる。

 

『『っ!』』

 

「どう聞いても嘘言ってるようには聞こえなかった。というか、黙ってたらそのまま死んだ奴の名前言い始めてさ、その中に知り合いの名前があった奴がいて、信じざるを得なかったし、そこまで言わせて名乗らないのはアレだから名前教えたよ」

 

そこまで聞き、スピアヘッドの面々はそのハンドラーに興味が湧いてきた。何せ死んだ奴の名前どころか数さえも翌日には忘れてるようなハンドラーが大半のなかでそのようなハンドラーがいるのは初めてであった。また、名前を覚えているという点では彼らの戦隊長のシンエイと似通っていたというのもあった。

トーマはさらに話を続けた。そのハンドラーは指揮も優秀で、レギオンの出現パターンや戦略や編成を読み取り、地形に合わせた指示を出し、被害を抑えるよう努めていたのであった。そして予想よりレギオンの数が多いときは迎撃砲を使用して掩護を務めていたのであった。

 

「ウッソ⁉︎あれ動かせたんだ?」

 

「俺らに対してだいぶ好意的だな」

 

「それで?結局どうなったの?」

 

「任期の少し前まで誰も死ななかった。でもその後ハーヴェスターの部隊とかち合って3人死んだ。でも奴を相手にした戦隊は殆ど全滅してたから3人で済めば上出来なんだけど、あのハンドラーはすごく悔しがってた。何の偶然か、奴と何回も戦ってるのに討ち取れないばかりか、被害を防げなかったって」

 

「……すげぇ良い奴だなそいつ。名前はなんて言うんだ?」

 

「エルマン・ヘイズって言ってた。階級は中佐」

 

「ふーん。でも、なんで僕らにそんなに尽くしてるの?どうせ無駄なのに…」

 

「あぁ、それなんだか…」

 


 

「…はい、検査終わったわよ」

 

「わざわざすまないなアネット。夜遅いのに」

 

身体検査を終えたエルマンがアネットにそう言い労うと、彼女は時間が合わないなら仕方ないわと返してデスクを片付けていく。

 

「だいぶ知覚同調(パラレイド)を使っているわね。過度な使用はやめた方がいいわよ?」

 

「これがなきゃ部下との円滑な指示やコミュニケーションが出来ないんだ。仕方ないだろう?」

 

「プロセッサー消耗率最小の中佐どのは真面目ね。何年も前から中佐止まりだけど」

 

「上の連中が、俺みたいな若造が自分らの階級に近づくのが気に食わないのさ。ま、金のため働いてるわけじゃないから昇級しなくても構わないが」

 

そのうちレーナに階級が追いつかれるかもな、とエルマンは笑みをこぼす。ちなみにエルマンの方が歳は上なのだが、敬語じゃなくて良いと本人が告げたため、こういった話し方となっていた。

 

「…レーナもだけど、何で貴方はそうまでしてエイティシックス達に入れ込む訳?しかも迎撃砲まで使って。どうせそんなことしても…」

 

「5年の任期完了前に確実に死ぬから無駄、と言いたいのか?それくらい知ってるさ」

 

当然ながら彼は特別偵察任務、つまりは実質的な死刑宣告については把握していた。それを知りつつもなお彼はエイティシックス達への支援を続けていたのだ。

だったら何故、とアネットが問うと彼はこう答えた。

 

「どうせ死ぬから何しても無駄というのなら、この世に医者はいないよ」

 

「どう言うこと?」

 

「だってそうだろう?怪我や病気を治しても、()()()7()8()0()()()()()()()()()()()()()()()()()?君が言っているのは、そう言うことだ」

 

「ッ!」

 

「でも医者は患者を治すだろ。それが医者の本分だからだ。俺もそうだ。軍人として、部下である彼らを最後まで生かす。5年以内に死ぬからといって、わざわざ今日死なす理由はない。…ま、大半のハンドラーにそんな御大層な考えを持つ奴は少ないがな」

 

アネットは彼の言葉に衝撃を受けていた。少なくとも、彼のような考えはしたこともなかった。5年以内に死ぬから何しても無駄と、それを理由にエイティシックスに入れ込むのをやめていたが、彼の言い分に納得してしまい何も言い返せなかった。

だが、それはそれとして腑に落ちない点があったため、それをエルマンに尋ねた。

 

「…なるほどね。でも、あなたがそう考えるようになったきっかけは一体何なの?」

 

「ッ…」

 

あ、マズイ質問をしたなとアネットは表情を僅かに歪めたエルマンを見てそう思った。しかし、彼は気にするなといいその理由を語り始めた。

 

「12歳の時だ、俺の家の近くにな…」

 


 

「彼の近所に、黒系種(アクィラ)の一家がいたらしいんだ」

 

エルマンというハンドラーが自分らに尽くそうとする理由を聞いた一同はどこか自分らと似通った考えを持つ彼により興味が湧き、何かそうなるようなきっかけとか聞いていないのかと聞いたところ、それも聞いてあるとトーマは言い、語り始めた。

 

「そこに彼と同じくらいの女の子がいて、その子に惚れてたんだけどなかなか告白する勇気がなくてうだうだしてたみたいでさ。で、ようやく告白する決心がついて明日に言おうとした日の夜…その一家は86区に連れてかれたって」

 

「…それで、その子を探すために軍に?」

 

「そうらしい。でも年齢的に俺らの兄世代で、彼が入隊してハンドラーになった時は俺らが戦場に出始めた頃だから、もう…。だけどその子には俺らと同じくらいの弟がいたみたいだからせめてその子だけでも見つけてレギオンが停止するまで生き延びさせようって思ってたみたいだ」

 

「だがそれも、黒羊や羊飼いが出たことで叶わなくなった…か」

 

そう言いライデンはまだ見ぬそのハンドラーに少しばかし同情した。自身も白系種(アルバ)の老婆に匿われていたことがあるため、自分らを大切に思っている白系種(アルバ)がいる事を知ってはいるが、これではそのハンドラーは報われないだろう。想い人に想いを告げられずに事実上死に別れ、残されたその子の家族も死ぬまで戦わされる羽目になるとは。

 

「もしかしたら生きてるかもしれないって初めに繋げた時もこの名前の姉弟を知らないかって聞いてきたんだ。俺らはどちらも知らなかったけどな」

 

「ん…?おかしくないか?軍にいるのなら、俺らの人事資料とか見れば済むだろ。何でわざわざ聞く必要が?」

 

許可が下りてないにしても最悪盗み見ればいい話であり、自分らに聞く必要がまるでないし、手間である。

 

「死んだのなら、紙の上で知るより俺らから聞いて知る方が良いんだって。資料だと一人だから、誰かがいた方が感情を抑えられるから…共和国を恨まずにできるからって」

 

「自分の母国を恨みたくないから?」

 

「違う…こんな国でも、自分が好きだった子が育った国だから恨みたくないんだと。ホント、良い人過ぎてハンドラーに向いてないよ」

 

「……なぁ、その子の名前って覚えてるか?もしかしたら知ってるかも知れないし、次のハンドラーがそいつなら伝えられるだろ?」

 

「えっと、確か…

 

 

 

 

 

 

 

 

【アリス・アライシュ】って言ってたな」

 

「ッ‼︎」

 

その名前を聞き、シンエイはハッと顔を上げてトーマの方を見た。その様子を見て何か知っていると気づいたトーマが声をかけた。

 

「知っているのか?」

 

「…おれが初めて配属された時の戦隊長だった人だ。だけど、おれ以外が全滅した」

 

「ッ、そうか…その人、弟がいるとか話してたか?」

 

「いや、そんな話はしていなかった。もしかしたら収容所内で死んだのかもしれない」

 

あまりにも呆気なく真相が明かされ、一同はまだその事を知らないエルマンに様々な思いを寄せていた。

 

「次のハンドラーにダメ元で頼んでみるか?エルマン・ヘイズ中佐に繋げてくれって」

 

「やめときなよ。向こうがこっちの言う事素直に聞くはずないじゃん。それで理由とか聞かれたらその人、今まで以上にバカにされると思うよ。ただでさえ僕らの味方してるんだから」

 

ハンドラーを白ブタと蔑む流石の彼らもそこまでの仕打ちをするつもりはなく結局、次のハンドラーがエルマンでなければこの事は話さない。そう決めたのであった。

 


 

「なるほどね…あなたがお見合いを断ってるのも、彼女に対する義理立てから?」

 

まだ歳若く、そこそこの地位についているエルマンの元には度々お見合い希望の手紙が寄せられてるが、その全てを丁重に彼は断っていた。その理由を問いただすと彼は何故か苦笑いをしていた。

 

「ま、まぁ…それもあるんだが…」

 

「?」

 

「彼女が初恋だったせいか、その…黒髪じゃない女性に興味が持てなくなってね…」

 

(あぁ、そういう…)




エルマンくん@黒髪フェチ(共和国では致命的な性癖)

のちのエイティシックス達に性癖歪まされてマトモな恋愛ができなくなった共和国人は絶対いると思うんですよ。
というかコイツ、共和国補正を抜きにしてもだいぶ聖人だなぁ…その分救いがないけど。

なおネクロマンサーと何度かドンパチしてるうえに被害抑えてるためネクロマンサーからは『何故かよく遭遇する、首取らせてくらないうえにワンチャン返り討ちに遭うかもしれない嫌なハンドラー』扱いされてるし、顔無さんからは『あのネクロマンサー相手に抑え込めてる有能な指揮官だから是非ヘッドハンティング(物理)したい』と思われてる模様。

ちなみにこの回でのちに影響があるとすれば8話のアネットのレーナに対するキレ具合とスピアヘッドのレーナに対する初期好感度が下がったくらいですね。
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