【まるで蜘蛛の】転生したら多脚戦車に乗ってるんだが【行進】 作:NTK
ちょいとリアルが忙しくなりましてね…
さて今回はお知らせした通り共和国でのお話です。
サンマグノリア共和国 2148年8月28日
レーナに話があると言われたエルマンとアネットの2人はアネットの家にて集い、彼女の話を聞いていた。内容は特別偵察任務についてだった。
「そうか…知ってしまったか…」
「…やっぱりエルマン兄様は知っていたんですね」
「君より軍歴は長いんだ。いやでも知ることになるさ…いずれ伝えようかと思っていたんだが…」
「だったら!何故今までこんな命令を放置してたのですか!エルマン兄様が今まで担当して生き残った彼らがこの命令で死んでいってるのですよ⁉︎」
実際、彼が担当した戦隊のメンバーのその後の生存率はかなり高く、各第一戦区第一戦隊配属まで生き残る者も多く、特別偵察任務に関してもそれまで1人2人が通例だったのが、一小隊が編成出来る程度には生存するくらいになっていった。故にエイティシックス達を大事にしている彼がこの命令を黙認している事がレーナには理解できなかった。
「…それで?仮に命令を撤廃して、そのあとはどうする気だ?」
「え?」
「残りの任期を満了させて彼らをここに戻すか?前例を作って彼らに希望を与えないための特別偵察任務だ。例え脅迫してもできる筈がない。いや、仮に戻したとしても、今の共和国民がそれを認めると思うか?」
「それは…っ」
それが無理だということはレーナには嫌というほど理解していた。戦争初めならともかく、この現状なら一歩でも入る事を毛嫌いするだろう。
「彼らに待ち受けるのは差別や侮辱の視線や言動を日常的に受ける生活だろう。それに食事にしても、86区で採れる天然食材と違って、こっちはお世辞にも美味いとは言えない合成食糧だ。レギオンと戦わなくていい代わりに、わざわざマズイ飯を食い罵詈雑言を受ける毎日を、彼らに強いるつもりか?それらのケアを君は出来るのか?…中途半端な優しさは偽善だと、君は知っているだろう?」
「…」
エルマンがそう言うのも、以前レーナが指揮してた隊の一人が戦死した際の失言で他の隊員から叱責を喰らった事に起因していた。当時はエルマンは彼女が自分と似た志を持っている事を知りその際に『彼らを部下として扱っているなら本当の名前も聞いてて当たり前』といった思考のすれ違いゆえに起きたことであり、それからはこれ以上の戦死者を出させないためエルマンに頼み込んで本格的に戦術指南を受け、先日の超長距離砲での攻撃及び追撃で死んだ四名を除いた16名が今日まで生き延びていたのであった。
「ですが、このままでは彼らは間違いなく死んでしまいます!現実的じゃないのはわかっていますが、行動しないよりはマシです!」
「レーナ、それ以上はやめなさい」
アネットが止めるも、熱くなっているレーナはさらに言葉を続けた。
「彼らを生き延びさせても、これではあんまりです!まだ救う手立てはある筈です、他に手がないか一緒に…」
「いい加減にしなさい‼︎彼が今まであの人たちを救う手立てを考えてなかったと思ってるの⁉︎」
アネットに怒鳴られ、レーナはエルマンの手が固く握られ震えてるのに気づき、自分の発言ミスに気がついた。自分と違い、初めから自分の意思でエイティシックス達の名前を聞き、支援し続けた彼が死にゆく彼らを救う手立てを考えない方が不自然だ。おそらく一つ二つではなく幾つも考え、その全てが非現実的と理解しているのは彼の悔しそうな顔からしてわかっていた。
「あ…すみません、エルマン兄様…言いすぎました」
「いや、いい。俺も君と同じくらい必死に考えたからな。…だがな、こちらじゃ救う手立てはないが、彼らが助かる可能性はあるにはある」
「え?」
「本当ですか⁉︎」
その言葉にレーナとアネットは顔を上げて彼の話を聞いていた。
「何年か前に、北部戦線のレギオン指揮官機、通称《ハーヴェスター》が一週間近く戦線を離れた事があった。奴は3日以上戦線に現れなかった事はなかったからこの長期離脱は不自然なんだ。修理や補給にしても数日もあれば充分な筈だし、そもそも長期の修理がいるほどの損傷を残念ながら与えられてない」
「確かに、それは妙ですね…他の指揮官機に召集された可能性は?」
「あり得なくはないが、奴は首狩りを専門とするレギオンだ。なら考えられるのは…他の国に赴いて首狩りを行う事を命じられたからと俺は思う。ならば、運良くその国家の軍に保護してもらえれば…」
「他の国が残ってるの?でも、帝国は…」
「共和国だけ残ってると考える方が無理があるさ。ギアーテ帝国にしても、こっちと同じで正規軍だけ滅びた可能性もある。辿り着けるかは彼ら次第だが、それまで生き残る術を教える事ならこちらでもできる。俺がその辺りを教えよう。君はその日まで彼らを死なせるな」
「…っはい‼︎」
喜色満面といった様子を見せるレーナに対して、アネットはどこか暗い顔を浮かべていた。それに気がついたエルマンが彼女に声をかける。
「どうしたアネット?」
「いえ……私にあなた達ほどの熱意があれば、結果を変えられたんじゃないかって思うと、悔しくてね…」
「…昔、何かあったのか?」
「まぁね。この際だし、話しておくわ。前にあなたの昔話聞いといて自分の事を話さないのもアレだし」
そう言いアネットは自分の過去について語り始めた。隣の家に父親の研究仲間の一家が住んでおり、その一家の兄弟のうち弟の方とは同い年のためよく遊んでいたが、レギオンとの戦争にて例の政策が行われ、彼らと関わっていた彼女はイジメを受け、その後その少年との口喧嘩で汚い色つきと罵ってしまい、匿う事も拒絶した結果、86区へと連れてかれたというのだ。
それを聞いたエルマンは、以前より彼女はどこか自分と似てるような気がしていたが、その正体がわかった。言いたかった事を言えず後悔した自分と、言ってはならない事を言って後悔したアネット。正反対の境遇を二人は経験していたのであった。
さらに、その一家のうち父親以外が持つ異能に目をつけた軍部がアネットの父親に命じてエイティシックスの子供らに対して安全性を考慮しない人体実験を行い、数多の死者を出した結果生まれたのが、エルマンやレーナらハンドラーが付けているレイドデバイスであり、彼女の父親はそれに耐えかねて自殺したのだというのであった。
「そんな…ことが…!」
「
「だから、エイティシックスに入れ込むのをやめたの。何をしても今更だから、無駄だから。正直、貴方達の考えは嫌いだったわ。でも、エルマンから色々話を聞いて考えを改めたわ。私に出来ることがあれば協力するわ」
「アネット…」
ひとまずその場は解散となり、翌日から指揮を取りつつ特別偵察任務での生存戦略を練ることとなるのであった。
2148年 10月13日
あれから時が経ち、スピアヘッド戦隊はその後誰も欠けることなく特別偵察任務を実行していった。その際、彼ら…正確には戦隊長のシンエイと因縁のある羊飼いとの交戦時にレーナは迎撃砲にて彼らを援護したのだが、無許可で迎撃砲を使用した咎で彼女は謹慎後大尉に降格、またエルマンもそれに関わった可能性があるとして少佐へと降格させられたのであった。もっとも、迎撃砲の使用方法を教えていたのでこの処分はあながち間違いではないが。
そして彼は今、カールシュタール准将に呼ばれ、執務室にいたのであった。
「それで…何の御用でしょうか?追加の罰則が発令されたのですか?」
「いや、召集をかけたのは個人的な用件だ。…ヘイズ少佐、プロセッサーの消耗を抑えるのは良いが、程々にしたまえ」
「…おっしゃる意味がわかりません。ただでさえ自分以外での消耗率が高い彼らをこれ以上消耗させれば、レギオンの停止を待たずして全滅してしまいますが?」
若干の皮肉を交えて答えるエルマンにカールシュタールはエイティシックス達は全滅すべきという考えを口にした。要するに、戦争終結後に共和国が彼らにした仕打ちを世間に知られれば社会的地位を失うことは必須である為、彼らをレギオンの停止と共に全滅させれば『そもそもそんな奴らはいない』と言い張れるということであった。遺体の回収の禁止や特別偵察任務もその為のものであるというのだ。そのためエルマンが彼らを生存させると『効率』が落ちるというわけである。
そこまで聞いたエルマンはしばしの沈黙の後、何故かくっくっ、と肩を揺らして笑い始めたのであった。
「何が可笑しい?」
「いえ、失礼。なるほど、何故経験を積ませた兵をむざむざ死なせるか色々考えてましたが、そのような考えとは…ならば特別偵察任務など命じずとも、適当な罪状をでっち上げて処刑した方が確実では?…まぁ、そんな度胸もないからレギオンに殺させるのでしょうが」
「……」
「確かに特別偵察任務ならば、ほぼ確実に死ぬでしょう。ですが、万が一他国の部隊に保護でもされたらその時点でお終いでしょう?いや、もう保護されてるかもしれませんね…
嗤う、という表現がふさわしいくらいに頬を吊り上げて話すエルマンにカールシュタールは彼の意図に気がついた。
「まさか…彼らを生き残らせているのは、他国に彼らの存在を知らしめる為か…⁉︎」
「えぇ。ですが彼らに生きて欲しいのは本心ですし、他国の生存の可能性こそ話しましたが、保護された際に自分らのことを話せとは命じておりません。そもそも彼らがそれまで絶対に生き残るとは限りませんから。それでも…自分は軍人として、部下の彼らを生き残らせていた。それだけです」
「それに、彼らのことを知った他国は既にこちらより優れた対レギオン戦略を有しており、同胞たるエイティシックス達の保護を名目にこちらへ『救援』に来る可能性もあるので悪くない物と思われますが?」
そこまで聞いてカールシュタールは彼の行動に驚愕していた。共和国がエイティシックスを全滅させんとする理由を鑑みると彼のやろうとしていることは反逆罪とも言えるがそれにしては色々と問題があった。確実に辿り着く保障がない以上、計画にしてはあまりにも穴だらけ、例えるなら嵐の日に手紙を括り付けた風船を飛ばすようなものである。目的地までに割れる可能性が高いし、目的地とは違うところに着くかもしれないのだ。
しかし、レギオン支配域内とはいえ常にレギオンがいるわけではないこと、異能を発現しているエイティシックスがいれば異能次第では切り抜けられることに加え、軍人であるエルマンから生存戦略を教えられれば生き延びる可能性は充分にあり得る。
「…何故このような真似を?」
「戦時下とはいえ、自国の民である筈の彼らを少数派だから、敵性市民かもしれないという理由で人権を剥奪して壁の外に追いやり、レギオンの贄にするばかりか、当時幼子で何も知らない筈の世代の少年少女まで戦わせ、死なせる非道を見過ごせる筈がなかったからです」
「罪は裁かれるべきであり、その結果共和国の社会的地位が失われようが、我々共和国民が迫害者の烙印を押されようが、それは自業自得であり知ったことではありません。…それで、自分をどうしますか?反逆罪で処刑しようにも、それを行うには遅すぎますよ。自分は彼らとは高い信頼関係を築き上げてますから」
自分が処刑されたと知れば、如何にその数を大幅に減らした彼らといえど報復としてこちらに攻め込むかもしれない、暗にそう話すエルマンにカールシュタールは苦い顔を浮かべた。実際彼らがそうするかは常日頃仲間の死を目にしている彼らからすれば正直微妙ではあるが、エルマンの指揮下にいた者には彼を慕っている者が何名かいる事もまた事実であった。
またカールシュタールは知らないが、若いハンドラーには彼の息のかかった者もいる上、エイティシックスに関しても以前より彼の指揮下にいた者の口から彼の事が広まっており、知らない者の方が少ないまであった。
エルマン自身の指揮能力も鑑みても彼を処刑するにはあまりにもリスクが高いのが現状であった。
「処刑後に他のハンドラーに箝口令を敷けばその心配はないと思うが?」
「あの呑んだくれ共がそれを守ると思いますか?処刑されるのが他の者ならともかく、日頃彼らが色狂い*1と馬鹿にしている自分ですよ?寧ろ酔った拍子に嬉々として彼らに話すでしょうね」
「……」
もっともな意見にもっともな反論で返され、カールシュタールは押し黙った。もしエルマンの言う通りに生き残った国がすでに特別偵察任務に出た彼らを保護しているのであれば、既に共和国の悪行は知るところとなっているだろう。
ならば彼を上層部に報告し、処刑して万が一にでもエイティシックス達の怒りを買い、彼らに攻め滅ぼされるより他国に後ろ指を指されたりレギオンに滅ぼされる方がまだマシだろう、そう考えカールシュタールは何も聞かなかったことにし、エルマンに退出を促したのであった。
2148年 12月2日 ギアーテ連邦
ギアーテ連邦に保護されたシンエイら元スピアヘッド戦隊16名は隔離室から解放され、後見人となったエルンストの自宅に招かれそこに住まうフレデリカなる少女と一悶着あったのち、エルンストはある事を口にした。
「そうそう、君らに会わせたい人がいるんだ。…入ってきてくれ」
エルンストがそう促すと、ドアを開けて数人の男女が入ってきた。彼らの耳にある傷跡を見てシンエイらは彼らが何者かを悟り目を見開くが、さほど不思議ではなかった。
初めにエルンストが自分らに対して『こんな大勢のお客さんは初めてだ』と口にしていた…まるで『大勢ではないお客さんは』初めてではないかのように。
その次に、君らのハンドラーはエルマン・ヘイズという名かい?と聞いてきた。その時点からある程度の予測は立っていたのであった。
シンエイらの前に現れたのは、彼らと同じエイティシックス達であった。
そのうちの一人の少女が、彼らに向けて話しかけた。
「初めまして、首の無い死神さん。私はあなた達の前のスピアヘッド戦隊の戦隊長、パーソナルネーム『ブルーローズ』、シャーリー・ヴィオレッタ…かつてエルマン中佐の元にいたプロセッサーよ」
ロア=グレキア連合王国
「ふむ…そうか。定例通り健康状態を把握後に検査を頼む」
ヴィーカはそう部下に告げると軽く息をついた。
二年近く前から、南部戦線にサンマグノリア共和国のフェルドレスに乗った少年少女達が数名ほどやってきており、保護した際に聞いた彼らの実態や共和国の現状などを知った結果、彼らを救おうと言う動きが現れ、戦線を広げつつ半年おきに特別偵察任務とやらに出た彼らがいないか探索し続けており、今回は二人を保護することが出来たのであった。
(今回保護した二人も、いずれは従軍を希望するのだろうが…彼らに合う機体がないのが現状か…)
彼らの戦闘スタイルに合致する機体は連合王国ではアルカノストが近しいのだが、あれはシリンの搭乗が基本であり、人間が乗るのは非常時くらいである。かと言って残るバルシュカは鈍重であり、設計上機動戦をせざるを得なかったジャガーノートに乗っていた彼らには不向きではある。
故に現在、彼らに乗せる機体は保留であり、こちらで確保したレギオンの
(それにしても…彼ら自身の能力もあるのだが、彼らを支え、あのような機体での生存戦略を教えたエルマン・ヘイズという人物…興味深いな)
【祝】支配域突破したエイティシックスの先客がいた【やったぜ】
エルマンくん、どことなくエルンストと波長が合いそう。
そしてブルーローズネキ再登場です。シンエイレーダー無しに突破している事からわかる通り、かなりヤベー連中です。
次回はシンエイ側の話とネクロマンサーもとい、クララネキの過去あたりを書こうと思います。