星をなくした子の半身は天使で半身は悪魔
しかし忘れてはいけない
一つの星は二つ分の輝きにはなれない事を
「───これが、今回の顛末だ」
アクアの口から語られた、2人の出生の真実。父親がカミキヒカルであること。母親がアイであること。アイはカミキによってアクアとルビーの存在をリークされ、殺されたこと。いずれ自分達もターゲットになり得ること。その危険性を語り、その危険を回避すべく、手を尽くした。その結果、カミキヒカルの逮捕に至ったこと。その代償として疲労で倒れてしまったことを語った。
実際に殴られたことや自分自身を囮に使ったことは隠した。無用の諍いを招くだけだ。
「貴方って子は……」
全てを聞き終えた後、口を開いたのはやはりミヤコだった。全力で目で息子を非難した。
「そこまで突き止めてたなら、なんでもっと早く私に相談しなかったの!」
「ここまで突き止めたのは結構最近なんだよ。それになんでもやたらめったら話せばいいってものじゃない。情報っていうのは知るだけで危険性が増す事もあるし、人を踊らせる事も、殺す事だってできる。下手に話してカミキヒカルの殺しのターゲットを増やすわけにはいかなかった」
東ブレの時、倒れた時の緩みで話してしまった反省。あの時のことをアクアは未だに後悔している。だからこそ同じ轍を踏むわけにはいかなかった。あの時、話してしまったことでカミキのターゲットにあかねとフリルが加わってしまった。これ以上増やすわけにはいかなかった。
自身の手を見つめる。ギターやドラムの練習で何度も皮がむけ、硬くなった手。この手でいろんなものを掴んできた。だけど、いや、だからこそ、よく知っていた。
「この手が全てを守れるわけじゃないから」
この一言を聞いて、ミヤコも怒りを呑み込む。本音を言えば引っ叩いてやりたいくらいの気持ちはあったが、彼の優しさと愛に守られていた自分がそれをするのは理不尽すぎる。
「───で?それをバーター記事にしようっていうの?」
「ああ。カミキプロダクションは結構成功してる部類の芸能事務所だ。その事務所社長の殺人未遂。しかも被害者は星野アクア。映画監督と売り出し中アイドルのスキャンダルなんかよりよっぽど高火力だろ」
「それをすることの、貴方のメリットは?」
コレでは一方的にこちらが守られているだけだ。アクアにもダメージはないだろうが利益もない。どころか、この事件をきっかけにアクアとカミキの関係性を洗い始める人間も出てくるだろう。2人……いや、3人の親子関係がバレるのも、アイの隠し子だったということがバレるのさえ、時間の問題かもしれない。そうなったらルビーはともかく、アクアはダメージしかないだろう。今更炎上商法的な売名をアクアはまるで必要としていない。
「警察がオレとカミキの背後関係を洗っている。オレ達とカミキの関係も、アイのことも、いずれバレる。向こうからバラされる前にこちらからバラせば、ダメージは最小限。そしてそれ以上の利益を遠くない未来に生み出す」
「…………その方法は?」
不敵な笑みを見せ、耳を寄せるようサインを出す。メムはこの顔に見覚えがあった。今ガチであかねの炎上解決時に見せた、アクアが悪巧みをしている時の顔だ。
恐怖心もあったが、好奇心がそれを上回る。全員がアクアの元に耳を寄せた。
『───っ!!』
誰もがのけぞり、驚愕の目で星の瞳の少年を見る。確かにそれならアクアにもメリットはある。安全も確保されるし、カミキヒカルの余罪も追求できる。アイの名誉回復も不可能ではない。そして有馬かなのスキャンダルなど、遥か彼方に消し飛ぶだろう。確かに全てを解決する妙策だ。
人間性を考慮に入れないのであれば。
「だから事前に話した。
ミヤコ、そしてルビー。星をなくした子に残された最後の家族に視線を向ける。目の奥の光が強く訴えかけた。
「この策に協力できるか?」
正直痛みは伴う。批判する人も絶対にいる。アイを蔑む人も、オレたちを穢らわしいと思う人も。批判が趣味の暇人たちには格好のネタだろう。他人の墓を暴き、アイの名誉も傷つける。
その代わり、全てを救える
有馬を守ることも。ルビーを守ることも。彼女たちの知名度を上げることも。確かにいいことずくめだ。
今、生きている人間にとっては。
───私が、誰よりもルビーが、アイの名誉が傷つくことを何よりも嫌がることはわかってる。だからこそ話した。独断では進めなかった。
義息子の心配りを嬉しいと思う。正直なところを言えば、義母は息子の策に賛成だった。アイの名誉が傷つくと言ってももう死人。今更多少傷ついたところで、アイ自身はなんにも言わないだろう。ついにバレたか、と開き直るだろう。息子の手によってバラされたとなっても、笑うだけだろう。アイの名誉が傷つくか、有馬かなが失脚するか、二つに一つ。どちらにしろ痛みを伴うことには変わらない。ならミヤコは息子と娘を守れて、有馬も救えるこの策に賛成だった。
───けど、ルビーは……
恐る恐る視線を娘へと向ける。葛藤しているか、問答無用で反対するか、どちらかだと思って。
けれど少女は穏やかだった。紅い瞳をいつもの輝きで満たしながら、兄を愛しい何かを見る目で見つめていた。寧ろアクアの方が辛そうな顔をしていた。痛みに耐えるような顔。これから起こる未来を疎む顔。眉間に皺を寄せ、組んだ両手が震えていた。
ルビーが立ち上がり、兄の元へと歩く。何かに耐えるような震えを見せるアクアを慈愛の抱擁が包み込んだ。
「ありがとう、おにいちゃん。私のことをそんなに気遣ってくれて。心の準備をする時間が欲しいって言った約束守ってくれて」
苦労も、配慮も、気遣いも。全て尽くしてくれた上で、自分以外も痛みを伴う策を提案した。何もかも背負い込んでここまで来たこの万能のひとが、ついに背負った一部を自分達にも分けてくれた。ここからは私たちの協力が必要だと、頼ってくれた。
嬉しかった。自分の痛みには鈍感で、他人の痛みに人一倍敏感なこの人が、一緒に痛みを背負ってくれと言ってくれたことが、嬉しかった。
「私おにいちゃんの言うことなら全部肯定するって言ったじゃん。そんなに気を遣わないで。いいよ。おにいちゃんの作戦、実行しよう。私たちの知名度も上がって、作戦の成功率も上がって、何より先輩も救える。そのためなら多少の痛みは仕方ないよ。この世界、基本的にクソッタレなんだから」
ルビーが賛成した。それはもうこの場の誰も反対できない状況になってしまった。有馬かなだけは自分のためにアクアたちが痛みを伴うこの作戦にどちらかと言えば反対だった。
───私のために、そこまで……
このセリフが喉元まで出かけたが、それは傲慢だと気づく。気付かされる。アクアの作戦のメインはルビーを守る事。それ以外は副産物だ。タイミング的に被ったからおまけで助けてもらうだけ。やらかしたのがメムでもアクアはこの策の実行を提案しただろう。
「ありがとう、ルビー」
「ありがとう、おにいちゃん」
目の前の、愛に溢れる2人の抱擁を見た後で、そんな傲慢なセリフが言えるはずもなかった。
───ねえ、アクア。私はやっぱりバーターなの?
貴方の人生において、私の存在はどれくらいの比重を占めてるの?抱いてくれたのは愛情?それとも哀れみ?悲劇のヒロイン気取った、イタくて可哀想な女の子を慰めただけ?
私はアクアの比重、めちゃくちゃ大きいよ?貴方が辞めろというならアイドルも、女優すら辞めてしまうかもしれない。俺の隣にいろと言うなら、私は一も二もなくその言葉に従う。大好きな貴方がそう言うなら。
最初は嫌いだった。憎んでさえいた。旬が過ぎ、人がいなくなり、仕事がなくなって、残ったのは貴方に負けた時の敗北感だけだった。
でもあの時の天使なアンタを忘れられなくて。記憶からなくなることはなくて。
忘れられなかった。私の中からアンタがなくなることはなかった。ずっと嫌いで、悔しくて、憎んですらいた。
それなのに、ずっと頭の中にアンタがいたのに。芸能界という狭い世界で10年近くしがみついてるというのに、ずっと出会えなくて。名前すら聞かなくて。苛立った。何遊んでんだとムカついた。あの才能を腐らせているのかと思うと、さらに憎しみは大きくなった。
ある日、クルッと裏返った。
芸能界から身を引いた、ぐらいならまだ良い。何か病気でもしたのか。怪我でもしたのか。それとも心に大きな病を抱えてしまったのか。どれだとしてもまるで驚きはない。自分だって何度も病んで、ヘラって、引退という言葉が頭をよぎった数など数えきれない。
苛立ちは心配になり、怒りは風化し、憎しみは思い遣りに裏返った。
だから、アンタを再び見つけた時の高揚は今でも忘れられない。
女の格好をしたアンタはあの時のオーラをそのままに、私の前に現れてくれた。嬉しかった。久々にワクワクした。あの地獄の現場で、一筋の光を見た時、私の胸が希望でいっぱいになった。
ウチの高校を受けると聞いた時、一も二もなく、アンタを探した。アンタを見つけた。
子供の頃からずっと追いかけてたライバルは、私の想像なんか遥かに超えるほどすごくて、綺麗で、カッコよくて、素敵で。
人生で初めて演技をせずカメラに映ってしまったあの時の喜びと快感と嬉しさは、アンタには一生わからないだろう。ずっと高みにいて、人々を見下ろしてきた、本物の天才のアンタには。
───貴方に本気の恋をしているのは、やっぱり私だけ?
聞きたくてたまらないその言葉をなんとか飲み込んで、私はアクアの作戦の計画プランに参加した。
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「星野アクアを襲った暴漢とその真実」
ザッとアクアが企画し、書き上げたバーター記事を社長に見せる。反対されるかと思ったが、社長は意外と簡単にOKを出してくれた。
「その代わり、ウチとコネのある芸能誌にもこれ載せるわよ。より詳細な記事をその週刊誌掲載日と同日に」
これが、条件だった。
「これは売れるわ。1.5軍のアイドルスキャンダルなんか余裕で吹き飛ばせるほどに」
社長の予言は正しく、星野アクアが襲われた報道の後、身を案じる声や犯人への怒りが大量に巻き起こり、そして時間が経つと、カミキヒカルの犯罪疑惑へと世間の関心は移って行った。
そしてアクアがこの記事について会見を求められるのも必然だった。
「世間で噂されるカミキ氏の真相について、アクアさんご本人が、何か知っている事は?」
記者たちの質問に対し、無表情に当たり障りのない答えだけを返していたアクアだったが、この質問が来た時、その雰囲気は一変する。
薄く目を開き、口角が妖しく上がる。その場にいる全員が、一瞬で彼のオーラに飲まれた。
「現在、その件を追った映画の企画が進行中です。完成すれば、皆さんに真実をお届けできるかと。私からは以上です」
この発言は格好の宣伝となった。
映画制作にあたり、何社もの大手が手を挙げ、一気に金も人も集まる。主演を張るのはおそらく星野アクアであろう事は業界人なら誰もが気づいていた。そして不知火フリルもこの映画に出演することを公式SNSで表明。この二人が出るというだけでもはやヒットは約束されている。勝ち馬に乗るべく、何とか繋がりを作ろうと業界関係者は皆躍起になった。
───これで、下地はできたか
金も人も集まった。公開前からトップニュースになる程の広告も話題作りもできた。スタートダッシュとしては申し分ない。ここからは取捨選択の時間となる。
この間にアクアはアイと自分の関係についても少しずつ露出させ始める。
情報操作においても、アクアは実にうまく立ち回った。
まずは事件とアイの紐付け。カミキヒカルの過去についてをクローズアップし、その過程でアイと関わりがあったことを匂わせる。少しずつヒントを与えられたSNS上の暇人たちはアイとアクアたちの関係について無責任に色々語った。
『カミキヒカルとアイって同じ劇団にいたんだ!』
『カミキヒカルの顔写真公開されたけど星野アクアと激似じゃね?』
『妹ちゃんはアイそっくり。アクアもだけど、彼はちょっとカミキ寄り?』
『もしかして親子?』
『父親はカミキで母親がアイ?』
『遺伝子つっよ』
『2人とも顔の良さは知ってたけど、道理で』
『父親の凶行を息子が止めて、母親の意志を娘が継いでB小町やってるってこと?』
『なにそれめっちゃエモい!』
アイ・アクア・ルビー・カミキヒカル・B小町など、彼らに関係のある名前がトレンド上位を独占する。妄言から真実に近いレスまで玉石混交全て出尽くしたころに、アクアはアイが自分達の母親であることを公表。特にストーカーによって殺害された事と、その殺害には教唆した人物がいるであろうという推測を強調した。
すでに予想されていたパターンの一つであった答えに、批判よりは同情的なコメントが溢れる。未だ現役アイドルというならこうはいかなかっただろうが、すでに死人。まして若くして志半ばで殺された悲劇のヒロインとして、SNS上でアクアが作り出した空気。同情が多数派になるのは必然だった。
そして星野アクアというビッグネームが関わっていることも大きかった。
今や国民的タレントの1人となった星野アクア。彼を易々と誹謗中傷出来るものなど中々いない。下手に石を投げようものなら圧倒的なアクアのフォロワーに石を投げた人物が袋叩きに合う。
それはアイに対しても同じ事。
アイに石を投げることは実子であるアクアに石を投げるも同義。長いものに巻かれるのが大多数の日本国民は前例通り流されてくれた。
『今ガチ』の時、爆弾発言をした不知火フリルが全く叩かれなかった時と同じように。
今や星野アクアも彼女と同じことができる立ち位置にいた。
『母が死に際に言ったんです。アクアは大きくなったら役者さん。ルビーはアイドルかなって』
大勢の報道陣の前で、テレビに映った妹は、凛として記者たちの質問に応えている。アクアだけでなく、ルビーも会見が求められる事も当然想定内。だからこそ心の準備ができるよう時間も取ったし、会見の準備もさせてきた。
『兄の夢は、母を超える誰よりもすごい役者になる事。私の夢は、母が立つはずだったドームの夢を叶える事です』
ルビーの会見から映像が切り替わり、ニューススタジオへと戻される。一連の事件を纏めたパネルの前に立ったアナウンサーへとマイクが移った。
『被害者が殺害され、犯人も自殺。事件の全貌は有耶無耶のまま終わってしまった。この悲劇の事件を追いかけたドキュメント映画の企画が進行中とのこと。公開前の現時点で、日本中の注目が集まっていると言っても過言ではないでしょう』
ニュースキャスターが口にしたその言葉をテレビの前で視聴した星の瞳の少年は満足そうに息を吐き、リモコンでオフの操作をした。
───なんとかなった、か。
母の想いに応える子供達という、絶対的な真実が、周りの不誠実を全て飲み込み、このスキャンダルを美談として決着させた。まだ残っている謎は日本中が注目している映画のネタバレとなるため、テレビはもちろん、SNS上ですらも話題にするのは禁句になっている。カミキヒカルへの追求は映画の上映が始まるまでストップするだろう。
それに伴い、オレは変わらないが、ルビーの仕事も増えてきている。オレから約一年の遅れで、ルビーもトップタレントとして、軌道に乗り始めた。
コレでルビーはオレが芸能界からいなくなっても、トップでやっていけるだろう。オレが舞台から降りる準備も、また着々と進んでいる。
───内容がセンシティブ過ぎるだけに、人や金を集めることが最初のデカいハードルだったが、想像以上に上手く片付いた。これで大手の配給会社も出資者も付く。資金は充分。裏取りも完璧。なにせ情報提供者が実の息子なんだ。説得力で言えば最強。
第一関門はクリア。ここに至るまでは全て計算通りに進んでいる。次に必要になることは、人材とデータ。
この二つを手に入れるため、アクアは旧い友人に会いに行った。
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「おお、スゲェ。ほとんど脚本できてるじゃん。当時のデータ…ステージで踊ってるのとかは苺プロに腐るほどあるけど、舞台裏とかメイキングとかのデータをどうやって手に入れるか。それがネックの一つだったが、一気に解決したな」
五反田スタジオ。撮影機材やパソコン、カメラ、その他諸々映画撮影に必要なものが全て揃っているこの場所で、アクアはPCを立ち上げてデータを見せてもらっていた。
中身はアイのアイドル時代の舞台裏や映画などのメイキング動画。ミヤコに聞いたが、実は昔、旧B小町のドキュメント映画作製の企画が上がっていたらしい。上映のスケジュールまで本決まりしていて、ドームライブの撮影を残すのみだったそうだ。
そして、アイが殺されたことで全てポシャった。
映画作製のために撮り溜められたデータの全てが今アクアの手元にあった。
「監督の物持ちの良さにも感謝だな。もうポシャって17年近く立つ映画の材料を消さずにおいててくれたとは」
「…………消す気にはどうしてもなれなくてな」
「けどホントにいいのか?タダで貰っちゃって。金なら出すぞ」
「いいって。いずれアレと一緒にお前達に渡すつもりだったんだから」
アレ、というのはこのデータとは別の封筒に入っているDVD。15年後のアクアとルビーに宛てた、アイからのメッセージ。ちなみにアクアはまだ見ていない。ルビーは存在すらまだ知らないらしい。
───どこの母親も考えることは、大体一緒なのかもな
出産の後、ビデオレターを撮りたいと唐突に言い出した内縁の妻の顔が脳裏をよぎる。もうオレなどよりフリルの方がよほどアイに近い位置にいるのかもしれない。
「ありがとう、監督。ごめんな」
片目を閉じて、謝意を示すその仕草から思わず目を逸らす。あまりに似ていた。17年以上経っても脳裏から消えてくれない、彼の母親と。
───謝るのは、俺の方だ。
自分は、ああなることを阻止できたかもしれない。アイに手を差し伸べ、この少年とあの少女にあんな残酷な思いをさせなかった、数少ない大人の1人だったかもしれないのに。
「監督?」
返事がないことを訝しんだアクアが首を傾げる。一度軽く頬を叩くと、なんでもないと星の瞳の少年に向き直った。
「お前の方こそいいのか。そこには変に取り繕ったり、嘘で塗り固めてないアイが収まっている。きっとお前ら子供にも……いや、実の息子と娘だからこそ見せなかった姿があるはずだ。それでも──」
「だからこそ、良いんだ」
ずっと知りたかった。あの画面の奥の素顔を。オレがなくしてしまった星野アイを。そのために13年を費やした。才能を磨き、コネクションを増やして、努力して、技術を増やした。そのためにオレの芸能人生の全てがあったと言っても過言ではない。その答えが今、目の前にある。オレのプロファイルと、実際の答え。
この二つを照らし合わせれば、オレは死せずして生まれ変わることができる。
「しかし上手くやったな、今回のこと」
「これ以上なく慎重に進めたからな。監督あんまり驚いてないみたいで、オレとしてはちょっとガッカリだけど」
映像を見つつ、脚本に手直しを加える部分を書き足していく。このドキュメントは旧B小町のみを追った作品。コレからオレが作ろうとしているのはカミキヒカルの過去も混ぜたドキュメント。手元にある脚本をそっくりそのまま使うわけにはいかない。背骨にはしつつも、起承転結を考えて新たなストーリーを作らなければならない。
「いつから気づいてたの?オレとルビーがアイの子供ってこと」
「さあ、いつだっただろうな。ある日突然フッと急にわかっちまったって感じだよ」
仕事に真面目なところ。努力を隠すところ。嘘が上手いところ。つい目が追っかけてしまうところ。欲張りなところ。自分の痛みには鈍感なところ。
似ている部分を挙げればキリがない。わかってしまった。気づいてしまった。唐突に。なんの前触れもなく。
「…………自分の身だけでなく、大切な人たち全てを守るための力を、お前は身につけた」
「大袈裟だな。流石クリエイター」
なんでもないことのように笑う彼を見て、五反田の胸に痛みが走る。この子は気づいていない。自分がいかに理不尽に晒されているのかを。
───本来、お前やアイくらいの若者なら、身につけなくて良い力。悪意に晒されなきゃ身につけられない力。
それなのに身につけてしまったのは、2人とも守りたい人たちがいたから。
自覚はなくても、彼らが愛している人たちがいたから。
人は恐らく、愛を知るほど愚かではいられなくなる。若さゆえの暴走や冒険を躊躇するようになる。
愛を知るほどに、若さを失っていく。
たくさんの人々に愛され、嘘でも愛を振る舞ってきたこの母と息子は16歳という年齢で、若さを保つ事を許されなかった。
その理不尽な事実が。その理不尽を理不尽と自覚できない2人の姿が、五反田には目を背けたくなるほど哀れで傷ましかった。
「流石に脚本にはもう少し手を加えなきゃいけないな」
映像を見ながら、熱心に脚本に書きこんでいる蜂蜜色の髪の少年の一言に、意識が現実に帰ってくる。彼の背中へと近づき、脚本に目を落とした。
「この企画、どこにプロデュース持っていくつもりだ?」
「今のオレならいくつか心当たりはあるけど……ま、無難に諸々貸しのある人にしておくよ」
そして少し手直しした企画と脚本をアクアと監督は鏑木Pの元へと持ち込んだ。
「───面白い。すごく面白いね」
企画に目を通した後、鏑木さんは薄い目を見開いて脚本を読み込んでいた。
「今話題のカミキヒカルと星野アクアの関係を明かすドキュメント映画。もうすでに日本中で話題だし、資金はいくらでも集まる。事件を憶測で語ってる部分もあるけど、裏どりは完璧。まあ、ちょっと君の手のひらの上で踊らされてる感があるけど、この映画は僕以外の誰にもプロデュースできない。いや、誰にもプロデュースさせたくない」
その言葉が聞けたことに内心でほくそ笑む。この人ならそういうだろうと思っていたからだ。この人もなんだかんだヤバい賭けが好きな人だから。
その後、少し話し合いがされた後、想定キャストが仮決定する。
旧B小町メンバー:星野ルビー・MEMちょ・有馬かな
苺プロ社長:鳴嶋メルト
斎藤ミヤコ:黒川あかね
上原清十郎:姫川大輝
姫川愛莉:不知火フリル
少年A:星野アクア
そして星野アイ─────
星野アクア
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
一番ショボい爆弾の後処理も概ね終わり、後は計画を実行に移すのみ。しかしその計画の中に爆弾がまだまだ埋まってます。そして新たな爆弾ももちろん降ってくる予定です。詳細は今後をお待ちください。
映画の主演は一人二役。このためのリバーシ・アイドルと東京ブレイドだったと言っても過言ではありません。女装と一人二役の経験と前例をすでに積んでいるアクアは、果たしてどこまでアイを演じ切れるのか。演じることを許されるのか。演技になっているのだろうか。
色々筆者すらわかってません。皆さんと観劇しながら描いていきますので完結までお付き合いください。
それでは励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければモチベーション爆上がりです。時間がかかっても感想には必ず返信します。