【本編完結】星をなくした子   作:フクブチョー

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薄氷の道に亀裂が立ち塞がる
引き返す道がないことを知る貴方は足を進めるだろう
星をなくした子は詩を紡ぎ、歌を残す
愛した星たちが輝き続けられるように


117th take 最期の前に

 

 

 

 

 

 

時間は試写から少し遡る。撮影スタジオの中の一室。仮眠などで使われる休憩室に、彼はいた。

 

───凄い集中力

 

一心不乱に何かを書いている。空いた左手はリズミカルに机を叩く。何らかの拍子を取っていることは素人でもわかった。

 

「用があるなら早く入れ」

 

視線を一瞥もせず、声をかけてくる。集中すれば周りの音が聞こえなくなるタイプと感覚が鋭敏になるタイプの2種類がいるが、アクアはどうやら後者らしい。

 

「作曲中?」

「マリアか……ああ。この映画のとリバドルのと二曲な」

「二曲……」

 

そういえば聞いてはいた。アクアは他にも映画撮影もやってる、と。アクアにとって最大の代表作と言っていいリバーシ・アイドル。その完結編の映画。THE・ラストステージ。15年の嘘より公開は少し後の予定で、アクアが芸能界を引退するのはこの映画の上映が終わってからということになっている。

 

「曲もアンタが作ってるのね」

「劇中歌は流石に違うが、まあ映画向けの主題歌だけな」

 

机の上を覗き込む。たくさんの文章が書かれては二十線で消され、また書き足されるといった、いかにも作曲中という様子が見て取れた。

 

「…………やっぱり難しい?」

「ああ」

 

頭を抱え、蜂蜜色の髪を握りしめる。それでもペンを持つ右手は動き続けていた。

 

「詞もメロディも、溢れてしょうがない。5分程度で抑えなきゃいけないんだが、どれも削ることが出来なくて困っている」

 

こういう時に、筆が止まらなくなる芸術家は、いる。

 

常人にとっては絶望で。何かするどころか、立ち上がる気力さえ起きないような闇が目の前に広がっていたとしても。それを力に変えることができてしまう人種。その絶望を糧に、素晴らしい創作ができてしまうタイプの人種が。

 

───ほんと、厄介ね。才能って

 

暗い顔。アイを演じていた時から大概だったが、カミキ役を演じるようになってから、どんどんヤバくなっていた。病んでいると言われても何らおかしくなかった。それも当然と言えば当然。アレだけ役の内面に憑依できる天才役者だ。役柄に引っ張られて堕ちてしまっても不思議じゃない。今から自殺する、と言われても、私は驚かない。必死で止めるけど、驚きはしない。

 

───不知火フリルを抱いて。妹にキスして。母親を殺した。全部創作の中での出来事だけど、アクアなら全て現実に犯した罪と変わらない罪悪感を抱いてもおかしくない

 

現実で彼本人がやったことではないけど、アクアなら現実と空想を差異なくリンクさせることなど容易だろう。だからこそ彼は天才で、そして危うい光だった。

 

「意味のない才能さ」

「は?アンタ何言ってんの。その能力を欲しがる人が世間にどれだけいるか…」

「じきにAIが全てにとって変わる時代が来るさ。人の代わりに曲を作り、人の代わりに詩を書く。楽曲だけじゃない。近い将来、人間の才能が意味をなさなくなる日が必ず来る」

 

そのことを、アクアは悪いことだとは思わない。誰か1人の才能に頼らなければいけないなんて状況にはならない方がいい。突出した何かはいつか必ず平凡になる。この楽曲を作るためのタブレットも、かつて革新的な大発明だったが、今では誰でも当たり前に持つように。

 

そうなれば、アイのような悲劇もきっとなくなる。一部の天才が神のように崇められなくなる日が、きっとくる

 

───でもそれは、多分まだ先の話だろうから

 

「マリア。ルビーのこと、頼むな」

「…………」

「この映画が終われば、もうオレは近くで見守ってやることはできないから」

 

この映画とリバドルを最後に引退する。だから今までのようにそばで支えてやることはできない。普通に考えればそういう意味にしか取れないが、今のアクアの様子を見て、ただ字面だけの平和な意味だけに解釈することはできなかった。

 

「イヤよ。あいつの面倒見るなんて。私だって今年でB小町辞めるんだから」

 

紙面に向かっていたその綺麗な顔の両頬をパチンと手で挟む。無理やり私に視線を向けさせた。

 

そう、私は今年でB小町を卒業する。アイドルを辞めて、役者一本に集中する。アイドルの世界で一番になるのは私じゃない。それがよくわかったから。

 

私が一番になりたい世界は、やっぱりあそこしかないとわかったから。

 

───けど、それでも。

 

「芸能界引退しようが、役者やめようが、アンタはアイツの家族でしょ。なら幾らでも近くにはいけるじゃない。もう私がアイツの面倒見るのは終わり。これからは芸能界から逃げ出して身軽になるアンタが最後まで見守ってあげなさい。アイツの先を行って導く者としてじゃなく、家族として」

 

私だってルビーやメムのことは気掛かりだ。2年も仲間で友達だった。芸能界で初めて出会った。ライバル以外の同性はこの16年間で初めて出会えた。

 

あの2人を残してB小町を辞めることに私だって心残りはある。ルビー達なら大丈夫だって。もう芸能界の右も左もわからなかったあの頃とは違う。立派になった。アイドルとしては私なんかより遥かに眩い輝きを放つ存在になった。

 

それでも、一寸先は闇なのがこの世界。

 

仲間以外の支えは私だって欲しかった。家族が近くにいれば、なんてこと考えたのは百や二百じゃない。

 

仲間だった。友達だった。だからこそ守りたかった。守ってきた。守られてきた。

 

でも、これから私にそれはできない。守ってあげることも、守られてもらうことも、もうできない。出来るとすれば、それはもうアクアしかいない。

 

「長生きしなさい。あの子がおばちゃんになってアイドルを辞めても。あの子がおばあちゃんになって孫に囲まれても。アンタはずっとあの子のお兄ちゃんなんだから」

「…………そうだな」

「イヤなことがあってストレス発散したくなったらコレ食べなさい!⚪︎しの子ポテチ!頭おかしくなるほど美味しいから!これ食べてれば大抵のイヤなことは忘れられるわ!あ、でもこのライフハックルビーには内緒ね!事務所のポテチ食べ尽くされちゃうから!」

「はは…」

 

⚪︎しの子ポテチを一枚手に取り、食べる。ぱきりといい音がアクアから聞こえた。

 

「お前といると、なんかホッとするよ」

「…………なによ。煽ててもポテチしか出ないわよ」

「本心だよ。初めて共演した役者が、お前で良かった」

「はぁ!?意味わかんない!言っとくけど私まだあの事恨んでるからね!この映画の間で私に参ったって言わせてやるんだから!あーもう!バカ!このバカ!あまり根詰めすぎるんじゃないわよ!たまにはシャワーじゃなく湯船にしっかり浸かって疲労取りなさい!このバカ!おやすみ!」

 

勢いよく扉を閉める。そのまま膝から崩れ落ち、自覚できるほど紅くなってる頬に両手を添えた。

 

「───この映画が終わったら、私だって抱いてもらうんだから」

 

呟かれたその一言を聞いていた人間は、いたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハッピバースデートゥーユー』

 

マンションの一室。暗くした部屋に小さなケーキが一つ。真ん中に蝋燭が一本。灯された火はケーキを囲む三人をわずかに照らしている。

 

『ハッピバースデーディアきーずなー♪ハッピバースデートゥーユー♩』

 

そう、今日は不知火フリルと星野アクアの娘。不知火絆の一歳の誕生日。多忙な両親である2人もなんとか時間を作り、愛娘の誕生日を祝った。

 

テーブルにはお子様ランチ風のパーティメニュー。真ん中には小さなホールケーキ。見た目は普通のケーキと変わらないが、まだ離乳食期の赤ちゃんのためのケーキなので、お砂糖や油分をかなり控えた赤ちゃん専用のケーキ。いわゆるスマッシュケーキだった。作ったのは不知火フリル。絆のために色々調べ、試作し、準備を進め、今日という日を迎えていた。

 

「あはは。口周りベタベタだね。やっぱりまだスプーンとフォークを使うなんてのは無理かぁ」

 

人生で初めてのケーキを夢中になってほうばる絆は口周りどころか顔中ケーキ塗れになっている。用意していたスプーンなど一切使わず全部手掴み。マナーも行儀もあったものでは無い。しかしその様子が親から見れば可愛くて仕方がない。手に持ったカメラの手をフリルが止めることは一切なかった。

 

「絆。これを君に」

 

アクアが取り出したのはUSBメモリ。何らかのデータが収められている端末だった。

 

「一歳になった絆のために。絆のためだけに作った曲が入ってる」

 

映画に向けた作詞作曲。メロディも詩も溢れて仕方がないアクアは、その衝動のまま絆のための曲を書いてしまっていた。

 

「今はまだ何もわからないだろうけど、いつかこの曲を聴いて、大きくなってもたまに思い出してくれると、とても嬉しい。たとえ一緒にいられる時間は短くても、オレの心はいつも絆のそばにいるから」

 

クリームを拭き取ってから、柔らかく小さな手にUSBを握らせる。当然何のことか分かってはいないだろうが、自分の手を取った父を見て、絆は天真爛漫に笑った。

 

「…………ぃ」

「フリル?」

「ずるい」

「は?」

「プロがプライベートでその才能を駆使するのはずるい」

「…………別にいいだろ、これぐらい」

「私こんな素敵な誕生日プレゼント用意してない」

「お前のリュックだっていいじゃん。可愛いよ。これから何年も使えるだろうし」

「こんな素敵な誕生日プレゼント用意してもらったことない」

「そっちが本音か……だってお前にこんなの贈ったらバカにされそうだ」

「しないよ。内容次第で笑うかもしれないけど」

「一緒じゃねーか。それに絆にこんな事できるのも多分今だけだと思うし」

 

汚れた口周りを拭いてやる。絆にこんな贈り物ができるのは今だけだろう。思春期になったらウザがられるだろうし、キモイとさえ思われるかもしれない。こういうのが受けいれられるのは幼少期だけだ。

 

「ね。今度私に曲作ってよ。バカにしないし、笑ったりしないから」

「信じられるか」

「私あなたに嘘ついた事ないでしょ?」

「嵌められたことは何度もある」

「それはお互い様じゃない。私なんて物理的にハメ───」

「やめろバカ。絆が変な言葉覚えたらどうする──」

 

しばらく2人のいつもの口論が繰り広げられる。この程度ならいつものことで。最後にはキスをして仲直りまでがいつものパターンなのだが、今日は少し違った。中断せざるを得ない事態になった。

 

「おとしゃん。おかしゃん」

 

パーティ中に、絆が拙いながらも言葉を口にしたのだ。

 

「絆凄い!天才!流石私とアクアの子!よくできました!そうだよ!私があなたのお母さんだよー!」

「遂にまともに喋ったな。あーうーばっかだったのに」

「もっと喜びなさい!あなたの方が先に呼ばれたんだから!」

「ほとんど同時だったじゃねーか」

「それでも悔しい。なんで私が先じゃないのよ絆。やっぱりお父さんの方が好き?」

「片想いの辛さをお前も少しは味わいな」

「私はこの3年で充分味わった。あなたこそ少しは片想いの辛さを味わいなさい」

「オレの15年は大半片想いに捧げてきたよ」

 

その後も絆がはしゃぎ疲れて眠るまで、パーティは続いた。 

 

 

 

 

「楽しかったね」

 

後片付けをし、娘が寝静まったのを確認し、夫婦の時間が始まる。初夏に差し掛かる頃の静かな夜。薄着の2人が寄り添い合ってソファに座っていた。

 

「どんどん成長していくな。絆は。去年の今日、お前から生まれたばかりなのに」

 

それに引き換え、オレはこの一年で少しは変われたんだろうか。多分変わってないだろう。バッドエンドの成れの果てのままだ。

 

「もう一年か」

「まだ一年でしょ」

「早かったな」

「色々ありすぎたからね」

 

色々あった。病院でフリルと出会ったあの日から。事務所を移籍して。フリルの穴埋めに忙殺されて。東奔西走し、それでもなんとかやって来れた。家に帰るたびに、身重のフリルがオレを迎えてくれた。オレのせいでこんなことになったのに、オレを責めることも詰ることも一切せず、ただ献身的にオレを支えてくれた。

 

こうして隣に座るのが当たり前になったのは。2人の時間が心地よくなったのは、いつからだっただろうか。

 

最初は親友だった。煽られて、時に煽って。勝負して、喧嘩して、戯れ合った。楽しかった。人生で初めて得られた同年の親友だった。

 

何気ない積み重ねが『好き』になった。好きになった後もたくさん積み重なって、強く惹かれた。

 

いつのまにか。不知火フリルがこうしてオレの隣にいるのが当たり前になってしまった。

 

───でもこの当たり前は、決して当たり前じゃないから

 

「フリル」

 

名前を呼ばれ、こちらを見上げる。いつ見ても、何度見ても美しい。フリルと知り合い、関係を持って3年目。一度も飽きるということはなかった。日を経るごとに増す美しさに、いつも感嘆の息を吐いてきた。

 

「コレをお前に」

 

取り出したのは絆のプレゼントとよく似たUSB。とあるデータが入っている。

 

「なにこれ」

「絆への誕生日メッセージ。15歳までは吹き込んである。それとお前へのメッセージも」

「…………なんで、こんなの今渡すの?」

「なんでって──」

 

当たり前じゃないから。

 

オレがこうしてお前の隣にいることも、絆の誕生日を祝えることも、当たり前じゃないから。

 

「…………絆の誕生日も毎年祝えるとは限らないしな。なんだかんだでこの子はやっぱり特殊だから。その場にいられないことの言い訳にも贖罪にもならないけど、何もないよりはマシだろって───」

 

途中で言葉が遮られる。目の前に稲妻が奔り、頬に灼熱が破裂した。

 

───人生で 二度目のビンタも 不知火フリル

 

ジンジンと痛みが強くなり始めて現状を把握する。思わず一句詠んでしまった。季語もないし字余りだけど。

 

「そんな嘘、私に通用すると思ってる?」

「…………ホントのこと言ったって殴ったろ」

「多分ね」

 

理不尽、とは言えない。殴られるだけのことを、オレはしてきたし、コレからするかもしれないと思ってる。殴られるだけで済むなら安いものだ。

 

「わかってるよ。私だって。あなたが終わりの準備をしてることくらい」

 

そう。オレは終わりの準備をしていた。芸能界を引退する、というだけではない。オレがいなくなっても大丈夫なように。オレの心残りを少しでも少なくするための準備をしていた。

 

「勝手に諦めないでよ」

「諦めてはないんだけどな。最悪、その可能性もあるってだけだから」

 

アクアは常に最悪を予想する。今回もその例に漏れない。それだけのことだった。

 

「そうならないために私たちがいるんじゃない」

「お前たちを巻き込みたくないんだよ」

「私は、あなたの何?」

「…………………」

 

難しい質問だ。フリルの目も少し揺らいだ。多分言いたくないことだった。美しさも、実力も、相応のプライドも持ってるフリルからすれば、不本意な一言。かっこ悪い一言だっただろう。でも言わずにはいられなかった。もう手段は選んでいられなかった。

 

「オレは、妻だと思ってる」

「私だって、あなたを夫だって思ってる。内縁関係だけど。それでもあなただけが私の旦那様だって」

「ありがとう」

「なら生きて。私と。絆と。不安があるなら分け合おう。問題があるなら一緒に解決しよう。1人でなんでも決めないで」

「フリルを巻き込んだら、きっと軽蔑される。オレじゃなくて、お前と絆が」

「誰に?」

「さあ、誰だろうな」

 

あかねか。ミヤコか。有馬か。ルビーか。名前も知らない大衆達か。

 

それともアイか。

 

誰かはわからない。思い浮かんだ全員かもしれない。フリルを巻き込んで、その上で失敗したら、絶対に軽蔑される。オレがじゃない。オレだけじゃない。フリルや絆まで軽蔑される。それだけは絶対に避けたかった。

 

「なら、一緒に逃げよう」

「フリル」

「こんな小さな島国出て行って。私とあなたと絆の三人で。私たちのことを誰も知らない場所へ行って。三人で生きていこう。大丈夫。私もあなたも貯えは十分あるんだし。私たちならどこでもやっていける。それだけの力は今の私達にはあるよ」

「…………楽しそうだな」

「でしょ?」

 

オレたちのことを誰も知らない場所へ行って。そこで暮らして。生活が安定してきたらどこかで働いて。どんな仕事がいいだろうか。子供達にピアノを教えてもいいかもしれない。オレが弾いて。フリルが歌って。絆が遊ぶ。楽しそうだ。考えただけでも、物凄く。

 

「でも、無理だろ」

「なんで?」

「お前には、明日も仕事がある」

「休めばいい」

「できねーだろ。お前はもう一年近く休んだ後なんだから。まあオレのせいだが」

「仕事なんて、辞めてもいい。あなたがそうするように」

「それはオレが嫌なんだ」

 

オレが好きになったのは。俺が惹かれたのは。

 

「オレより遥か高みに立ち、誰よりも美しく光輝く不知火フリルを、オレは好きになったから」

 

もちろんそれだけじゃないことはわかってる。フリルにだって相応の弱さがあることを知っている。あの病院で、泣き崩れるアイツを抱きしめた時、オレはフリルを綺麗だと思った。弱いフリルも、弱さを抱えてるフリルだからこそ綺麗だと思った。

 

大衆の理想とかけ離れた醜い不知火フリルを、美しいと思った。

 

───オレはどんなフリルも好きだ。どんなフリルも好きでいられる。その自信はある。

 

だけど、オレのせいでフリルらしさが失われてしまうこと。最もフリルが輝く瞬間を奪ってしまうことには耐えられなかった。

 

「…………わかった」

 

少しの沈黙の後、フリルが口を開く。縋り付くようにアクアの胸元を握りしめていた手が震えた。

 

「私たちとこの国を離れてくれるなら、私は嫌われてもいい。あなたがずっと、私と絆のそばにいてくれるなら、嫌われてもいい」

「フリル…」

「だから、生きて。諦めないで。一緒にいて」

「それは無理だ」

「なんで」

「オレはフリルを嫌いになるなんて、もう出来ないから」

 

フリルは愛しい妻だ。今までも。コレからも。たとえ内縁関係でも、この関係が終わる日が来るのだとしても。その想いは変わらない。

 

「好きだよ、フリル。どんなお前も好きだ」

「嘘つき」

 

ソファの上、力なく項垂れるフリルを抱きしめる。弱々しい力で、袖口を掴まれた。

 

「あなたの嘘つき」

「ごめん。ごめんな」

「私も、嘘つき」

「フリル?」

「あなたに、嫌われたくない」

 

───初めて聞いたかもしれない。

 

フリルの願望。何かをしてほしい。何かをして見せて。そんなことはこの2年で何度も聞いてきた。

 

けれど、初めて聞いた。誰かに何かをされたくないという言葉は、多分初めて聞いた。

 

フリルの涙を見たのも、絆が生まれてからは初めてだった。母親になってから、より一層の強さと美しさを身につけていたから。

 

涙で顔をぐしゃぐしゃにしたフリルは、やっぱり美しかった。

 

「あなたに嫌われたくないよぉ……」

「ごめん。ごめんな、フリル。ごめん」

 

胸の中で泣き崩れる妻を、最期の対面を前に、最悪の想定に自身の死を含めている夫は抱きしめることしかできなかった。

 

 

 

 

 




最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

アクアの最後の終活は重曹ちゃんとフリル様でした。いかがだったでしょうか。一応アクアに死ぬつもりはありません。ただ、最悪そうなる可能性もあるから準備してます。気づいてるのはあかねとフリルだけです。

次回はついにカミキと対談。そして備えていた最悪が迫ります。しかしそれも所詮は薄氷の道の亀裂の一つに過ぎず…この小説を書き始めて最もやりたかったことが迫ってきます。出来ればあと2話で終わらせたいですが、多分あと三話くらい掛かると思います。どっかで週二投稿できれば…筆者の筆では無理か。

それでは励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければモチベーション爆上がりです。時間がかかっても感想には必ず返信します。
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