【本編完結】星をなくした子   作:フクブチョー

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貴方がアナタになってしまった未来
先の魂が輪廻の輪に還り、今の命が生きる未来
今日も偶像が星照らす闇で輝く
たくさんの愛に守られながら


Last take 星をなくした子

 

 

 

 

 

 

私が好きになる人は、みんな死んじゃうのかな。

 

ママが殺されて。せんせーが殺されたのを知って。私はそんなことを本気で思った。あの時の私は、結構危なかったと思う。

 

だけどおにいちゃんが。おにいちゃんがせんせーだってわかって。そんなことないって。ずっと見守ってくれてたって教えてくれた。嬉しかった。やっぱりせんせーはあの時と変わらない、私の初恋の人だった。

 

だけど、それも所詮は誤魔化しで。時間稼ぎで。運命は変わらなかった。

 

私が好きになる人は、やっぱりみんな死んでしまう。

 

ドクドクとお腹から血を流し、地面に伏せるせんせーを見て。

 

命が失われていく最中、私たちに笑顔を見せるせんせーを見て。

 

「愛してる」

 

この一言を絞り出したせんせーを見て、私は……

 

「ぁああああぁあああああ!!!?!?!」

 

私の意識は、闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

この目を知っていた。

 

あのオーディションで、あかねがオレに向けた目。

 

美しさと醜さ。煌びやかな恋慕と薄汚い憎悪。

 

憧憬を見上げながら、現実を見下ろす。真っ暗な光。

 

新野冬子を知っていた。

 

アイの殺害がカミキヒカル1人によるモノだと考えるには、矛盾点が幾つかあった。アイのストーカー殺人について洗い直したら、被疑者である菅野良介と交際していたことが発覚し、新野冬子もアクアの警戒対象として捜査線上に上がっていた。

 

彼女と会う時、オレはいつも警戒していた。何をされてもおかしくないと気を張っていた。何かしてくるならオレに矛先を向けるよう誘導していた。だから見学に来た時、彼女の前でアイを演じて、アイが言うだろうセリフを彼女に言って、抱きしめた。ターゲットを。殺意をオレに向けさせるために。

 

今日の試写に彼女が来るかどうかはわからなかった。だからカミキヒカルの時のように防刃ベストとかヘルメットとか。そういった装備で身を守ることはできなかった。

 

けれど、警戒は解いていなかった。

 

 

だからこそ、この腕が間に合った。

 

 

鈍色の輝きがアクアの右腕に突き刺さる。滴る血が、カーペットを染め始めた時、周囲の人間が現状を理解し始めた。

 

「…………え、なに、が……」

「血……は?なに?演出?」

「アクアくん!!」

「あなた!!」

 

真っ先に動いたのはあかねとフリル。アクアに飛びつき、新野冬子から引き離す。突き刺さった包丁がニノの手から離れた。アクアが残った腕で包丁の柄を握りしめていたから。

 

包丁を取り返すべく、新野がアクアに掴み掛かろうとする。アクアを庇うように、あかねは手を広げ、フリルはアクアを抱きしめ、背を向けた。

 

「きゃっ!?」

「あなたっ!!」

 

血の滴る右腕とは逆の腕で、あかねとフリルを押し除ける。新野に向かい合ったのは、星の瞳の青年だった。

 

「取り押さえろ!」

 

アクアに掴み掛かろうとするより少しだけ早く、斎藤壱護がニノの腕を捻り上げ、地面に伏せさせる。会場の警備員たちも壱護に続き、実行犯を押さえ込む。

 

新野冬子が拘束されたのを確認してから、アクアは地に伏せた。

 

「アクアくん!!アクアくん!!」

「救急車!救急車を呼んで!」

「あなた!傷を見せて!腕で防いだのよね!?お腹には刺さってないよね!!」

 

包丁を抜かないまま傷口を見る。しかし残念ながら、鈍色は腕を貫通し、腹部へと届いていた。

 

「そんな……」

「はは……まったく、学習しないな。オレも」

 

膝をついて座り込む。そのまま壁に寄りかかった。

 

「大丈夫!助かるよ!気を強く持って!」

 

助かるのか。どうなのか。ちょっと判断がつかない。こんな怪我をしたことなんて、今までの人生で一度もない。助かるのか、死ぬのか、自分ではわからなかった。

 

───だからこそ話がしたいけど、ちょっと無理そうだ

 

声を発するには腹部に力を込めなきゃいけない。だがそれをすると出血が酷くなる。患部にタオルを押し当てて、少しでも止血することが、今できる最善だ。

 

───アイは凄いな…

 

オレより深い傷だったにも関わらず、最期の言葉をオレたちにくれた。同じ立場になって、あの一言を搾り出すのが、どれだけすごいことだったかを知る。

 

───ああ、やっぱりオレは、オレとルビーは、愛されていた

 

あの言葉は絶対嘘じゃない。嘘で、この状況で、あの言葉は言えない。自分より大切な存在が相手でなければ、絶対にあの言葉は出てこない。

 

───フリル。あかね。有馬。ミヤコ。ルビー。

 

暗くなる意識の中で、みんなの顔が見える。泣いているあかね。オレを鼓舞するフリル。パニクってる有馬。現状をまだ現実と受け入れられていないルビー。みんなの顔が、見える。

 

話すことのできないオレは傷ついていない方の手で手招きする。伝わったのか、そうでないのか。わからないが、みんなオレの近くに来てくれた。

 

───オレに、アイのような凄いことはできないけど。

 

それでも、せめて、この言葉だけは…

 

「愛してる」

 

ああ、やっと言えた

 

コレは絶対

 

嘘じゃない

 

愛してる

 

「ぁああああぁあああああ!!!?!?!」

 

遠い昔にどこかで聞いたような、その絶叫を最後に、オレの意識は闇の中へと堕ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、死にぞこなった訳か」

「そんな言い方しないで。アイに続いて貴方にまで死なれてたら私はどうなってたかわからないわ。次同じようなこと言ったら引っ叩くわよ」

 

救急病院の個室。事の顛末を聞かされたアクアは左手を自身の目を覆う。隣に寄り添っていたのは目を涙で腫らした妙齢の美女。斎藤ミヤコだった。

 

「新野冬子は逮捕されたわ。カミキヒカルとの関与も自供してる。あなたに恨みはなかった。だけどあなたがアイを超えることは許せなかった、と」

「そうだろうな」

 

彼女もまた、カミキヒカルの笛に惑わされた蛇の1人に過ぎない。アイという星に狂わされ、カミキに都合のいい事実を囁かれ、そしてオレを狙った。オレがカミキを逮捕していてもしていなくても、新野冬子だけは確実に動かされていただろう。

 

───その確信があったからこそ、この右腕が間に合った。

 

包帯とギプスで覆われた白い腕。オレが寝ている間に緊急手術が行われ、形成されたらしい。

 

「その腕が間に合ったこと。刺されたナイフが骨に引っかかったこと。そして女性の腕力だったことが、お腹の傷を致命傷に至らしめなかった要因だったそうよ」

「…………そうか」

 

ミヤコの言葉は悲壮感に溢れていた。その理由も何となくわかった。何かとの別れにアクアはとても敏感だったから。

 

「腕の大事な腱が切れてたらしいわ。ある程度手術で再腱はできたけど。その右腕でもう長時間繊細な作業をすることはできないそうよ。日常生活なら、大きく支障はないらしいけど……」

「ギターもドラムもピアノも長時間は弾けないだろうな。外科医になるのも、もう無理か」

 

アクアの才能の。そしてアクアの将来の目標の大部分は消されてしまった。その事実をミヤコは口にすることができなかった。涙で視界が歪み、喉が詰まる。けれど泣くわけにはいかなかった。アクアの方が。息子の方が遥かに辛いのだ。自分が泣くわけにはいかない。目元を拭い、口元に手を押し当て、嗚咽を飲み込んだ。

 

「仕方ないさ。命と引き換えだったんだ。腕の一本なら安いと思わねーとな」

「アクア……」

「だからそんな顔しないでくれよ。オレは大丈夫だから」

「っ!!」

 

笑顔を見せる息子の強さが。誰よりも辛いのに、平気そうに振る舞うその姿が、やり切れなくて、ミヤコは蜂蜜色の髪を抱きしめ、胸元にかき抱いた。

 

「無理、してないのよね。貴方は」

「ミヤコ……」

「泣いていいって言っても、貴方は泣かないのよね」

「…………」

「だからせめて。もう少しこうさせて」

「ありがとう、母さん。愛してる」

「アクアっ」

 

柔らかく、温かい胸の中に全身が埋まる。それでもアクアから涙は一滴も零れなかった。

 

 

 

 

 

 

アクアが目を覚まし、ある程度回復したと聞き、みんなが彼の病室に見舞いに来てくれた。

 

メムは純粋に、オレが生きていた事を喜んでくれた。

 

「本当にアクたんの命が無事で良かった。これから色々大変かもだけど、私で良かったら何でも相談してね。いつでも、どんな事でも力になるから」

「ありがとう、メム。これからは友人として頼らせてもらうよ。愛してる」

 

有馬は怒った後、少し泣いた。

 

「新野冬子がヤバいこと知ってたんですってね!なんで私たちに……私に教えないのよ!情報共有してればこんな事になる前にあの女取り押さえられたかもしれないのに!」

「まさか衆人環視の中、あそこまでの行動を取るとは流石に思ってなかったんだよ。マリアを軽視してたわけじゃない。だから泣かないでくれ」

「うっさい!泣いてないわよ!バカ!」

「ありがとう、マリア。愛してる」

 

フリルはいつも通りだった。飄々としていた。でも最後に謝られた。

 

「私はまた、あなたに守られた。ごめんなさい。私と出会ったせいで、あなたの人生を大きく歪めてしまった。ごめんなさい」

「フリルと出会えて良かったよ。フリルと親友になったことも、絆のことも、一度だって後悔したことはない。お前のおかげで人生楽しくなった。ありがとう。愛してる」

 

あかねは大粒の涙を流して、オレを抱きしめた。そして自分を責めていた。

 

「私は知ってたのに。カミキヒカルの単独犯では矛盾が生じる事。新野冬子は共犯者の可能性が高いこと。私は知ってたのに。何もできなかった。全然対等なんかじゃなかった」

「ずっと支えてもらってたさ。東ブレの稽古でオレが倒れた時も。宮崎で死体を見つけた時も。カミキヒカルを特定した時も。何度もあかねはオレを支えてくれた。守ってくれた。あかねが彼女で、本当に良かった」

「私がアクアくんの右腕になる。アクアくんを支え続ける。どんな事があっても。絶対。一生」

「ありがとう、あかね。愛してる」

 

他にも、ハルさん。ナナさん。レン先輩。アビ子先生。吉祥寺先生。壱護元社長。姫川さん。五反田監督。鏑木P。白河さん。辻倉さん。事務所社長。今ガチの皆。オレが芸能界で関わった人たちほぼ全員が見舞いに来てくれた。オレは全員に感謝と愛を伝えた。

 

しかし、たった1人。オレと深い関わりを持つにも関わらず、見舞いに来なかった人物がいた。

 

その人はオレの隣の病室で眠っていたらしい。オレが車椅子に乗れるようになるぐるいに回復した頃、ようやく目を覚ました。

 

「あ、お兄ちゃん」

「よう、ルビー。目、覚ましたんだってな」

「まあね。なんか身体変な感じ」

 

そう、あの事件があってから、ルビーはずっと昏睡状態だったそうだ。兄が目の前で刺されるという、あまりに衝撃的なシーンを目の当たりにしてしまい、現実を受け入れ切れなかったルビーは、意識をシャットアウトすることで精神を守っていた。

 

「お兄ちゃん、刺されたんだって?いつかそうなるんじゃないかって心配してたけど、遂にって感じだね。これに懲りたらあんまり女の敵って思われることしない方がいいよ」

「痴情のもつれで刺されたわけじゃねーよ。少なくとも今回は」

 

そしてルビーは事件前後の記憶をなくしていた。アクアのことは覚えてるし、家族のことも、B小町のことも覚えている。ただ、アクアが刺されたという記憶だけがなくなっている。カウンセリングの結果をアクアは専門医から聞いていた。だから驚かなかった。

 

驚いたのは、ルビーの目がいつもと違っていたこと。

 

紅玉の瞳の双眸に、眩い星の輝きを宿していることだった。

 

「なあ、ルビー」

「なに?」

 

一度大きく深呼吸する。今頭の中にある最悪を口にするのは、さすがのアクアにも勇気が必要だった。

 

「天童寺さりなって、知ってるか?」

「?誰その人?女の人?お兄ちゃん言ってるそばから──」

「もう一つ。アマミヤゴロウって、誰かわかるか?」

「誰だっけ。どっかで聞いたような……あっ、思い出した。映画でちょろっと出てきたお医者さんだ……で、その人がどうかしたの?」

 

───演技じゃない

 

とぼけてるわけじゃない。何も嘘をついていない。わかる。わかってしまう。今のオレは演技と嘘が見抜けてしまう。ルビーの演技力のレベルも、嘘をついていない時の様子も、よく知っているからわかる。

 

───なくしている…

 

事件のショックで。自らの精神を守るために、解離性障害を引き起こしている。

 

自分が天童寺さりなであったこと。そしてオレがアマミヤゴロウであったこと。

 

天童寺さりなが、アマミヤゴロウを愛していたこと。

 

前世の記憶と、愛していた人の記憶を、なくしている───

 

 

 

 

 

 

 

 

気がついた時、ワタシは病院にいた。

 

外傷は特になく、身体自体はいつも通り。寝過ぎてちょっとだるいくらいだった。

 

目を覚ましたあと、ミヤコさんがきてくれた。ナースコールを鳴らして、簡単な問診とカウンセリングを受けた。

 

そこで初めて、お兄ちゃんが新野冬子さんに刺されたことを知った。

 

ワタシもその場に居合わせていたそうだ。でもその時のことをワタシは覚えていない。詳しく聞くと、解離性障害という症状らしい。

 

「目の前で家族が刺され、殺されそうになる。大の大人でもPTSDを発症して何らおかしくないショックです。まだ少女と呼べる年齢のルビーさんが受け止めきれないのも当然のことです。おそらくルビーさんの精神を守るために、脳が事件の記憶をシャットアウトしたのでしょう」

 

高熱で倒れたり、精神的ショックを受けて、気絶した人が前後の記憶をなくすということはままあることらしい。特別な病気じゃないとわかって、ワタシもほっとした。一応念のため全身の検査もすることになった。

 

目を覚ましてから、少し経つと、車椅子に乗ったお兄ちゃんがきてくれた。

 

「天童寺さりなって、知ってるか?」

 

知らなかった。名前からして女の人だろう。また兄の知り合いかと少し呆れた。

 

「もう一つ。アマミヤゴロウって、誰かわかるか?」

 

この人は聞き覚えがあった。ワタシも出演した映画でちょろっと出てきたお医者さんだ。確かママの担当医だったはず。だけどわからなかった。お兄ちゃんがそんな質問をしてくる意図がわからなかった。

 

今のワタシには、もっと重大な問題があったから。

 

「お兄ちゃん、泣いてるの?」

 

俯いたお兄ちゃんの両目から煌めく雫がいくつもこぼれ落ちてた。星の砂のようなその雫は、とても美しく、それなのに見ていてとても悲しかった。

 

「初めて見た……お兄ちゃんがワタシの前で泣いてるところなんて、初めて見た」

「…………うるせぇ」

「泣かないで、お兄ちゃん」

「泣いてねぇ」

「お兄ちゃんが泣いてると、ワタシ凄く辛い」

「泣いてねぇって言ってんだろ」

「泣かないで……泣かないでよ、お兄ちゃん」

「お前が泣いてるじゃねえか」

「泣かないで」

 

ワタシとお兄ちゃんは、しばらく身を寄せ合って泣きあった。なくしてしまった大切な何かを、お互い埋め合うように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきの事は忘れてくれ」

 

泣き止んだお兄ちゃんはいつものクールさと美しさをあっという間に取り戻し、なんでもなかったかのように振る舞った。

 

それで話はおしまい、にはならないだろうと思ってた。事実、お兄ちゃんの話はこれからだった。

 

「そんなことより、今のお前のことだな」

 

そう。倒れたワタシは病院でいろんな精密検査を受けた。その過程で、一つの事実が発覚した。

 

「妊娠、してるそうだな」

 

ワタシのお腹には、新しい命が宿っていた。

 

「父親が誰か、本当にわからないのか」

「本当だって。ワタシだって今更隠さないよ。ホントに身に覚えないの。相手が誰かもわかんない」

 

嘘じゃなかった。赤ちゃんはコウノトリが運んでくるものじゃない事ぐらい、ワタシだって知ってるけど、今回ばかりは本当に記憶してなかった。身に覚えがなかった。ミヤコさんに問い詰められたけど、わからないとしか返せなかった。

 

「やっぱり処女受胎なんだよ。ママもワタシも。父親なんていなかったんだ」

 

朗らかに笑うワタシのそばに、車椅子に乗ったアクアが近づいてくる。手を取り、そのまま抱きしめられた。

 

「無理するな」

「…………あれ?」

 

またボロボロと涙が零れ落ちる。なんでだろう。この腕に抱きしめられることがとても嬉しく、そしてなぜかとても申し訳ないと感じてしまった。

 

処女受胎なんて、あるわけがない。

 

芸能界でできるだけ異性と関わらず生きてきたつもりだった。けど一切隙を見せずに来たわけでもなかった。

 

仮眠室で1人で眠っていた時もあったし、気がついたらミヤコさんの車の中だった、なんてこともあった。

 

ワタシの意識がない時に何かされたのかもしれない。ワタシが思い付かないような手段で、何かされたのかもしれない。この身体を、顔も名前も知らない人に触られたかもしれないと思うと、怖くて仕方がなかった。

 

「一緒に育てよう」

 

しばらくお兄ちゃんの腕の中で泣き続けた。ワタシが泣き止んだのを確認してから、お兄ちゃんは優しい声で囁いた。

 

「父親が誰だろうと、その子はルビーの子だ。オレたちの家族だ。なら父親なんて誰でも構わないさ。みんなで。家族で育てよう」

「みんなで……」

「そうだ。オレはその子の父親にはなれないけど、家族にはなれる。その子と、お前と、一緒に生きることはできる」

 

一緒に生きる。その一言で力が湧いてくる。ずっとその言葉を求めていたかのような。その言葉と共に生きたかったかのような。お兄ちゃんの言葉に心が燃え上がった

 

「一緒に生きよう。オレとルビーと、ミヤコと、その子の。4人で。ずっと一緒に」

「うん……うんっ」

 

ママと同じようなことになってしまったけど、多分結末までは一緒にならない。

 

ワタシは1人じゃない。

 

ワタシを守ってくれる、ワタシとお腹の子を愛してくれる家族がいるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレの責任だ。

 

お腹の子は、オレの子ではないかもしれない。記憶をなくす前のルビーには、知らないだけでオレ以外にそういう相手がいたのかもしれない。

 

けれど、今オレが考える最悪の可能性をゼロにする事はどうしてもできなかった。

 

ルビーは一年近くの休養を余儀なくされるだろう。今年のクリスマスのライブが取り敢えずの最後だろう。そのステージが終わったら、ルビーは表舞台からしばらく消えざるを得ない。

 

せっかく掴みかけたところだったのに。

 

何年もかけてアイドルになって。かつてのアイを超えうる才能とまで呼ばれるようになって。これからという時に。

 

───オレがルビーを、殺してしまった

 

一年の後、ルビーが同じところまで上がって来れる保証なんてない。この新陳代謝が激しい世界。一年という休養はアイドルを浦島太郎にするには十分過ぎる時間。

 

オレが殺してしまったんだ。

 

もうこれ以上誰も傷つけないと誓ったのに。

 

ならせめて。オレにできる事は。ルビーを救う方法があるとすれば、それは一つだけ。

 

オレが今まで培ってきた全てでルビーを支える。

 

出産も無事に終えさせる。子育てもオレがやる。ルビーの復帰までオレがマネジメントする。アイを超え、ドームに立つその日まで、オレがルビーを守る。それしかオレにできる責任の取り方はない。

 

「一緒に生きよう。オレとルビーと、ミヤコと、その子の。4人で。ずっと一緒に」

「うん……うんっ」

 

───ごめん、ルビー。ごめん。

 

オレの胸の中で涙する妹を抱きしめながら、心の中で何度も謝る。自己満足に過ぎないとわかっていても、何度も。何度も。

 

オレは嘘を吐き続ける。ルビーを守るために。お腹の子を守るために、嘘を吐き続ける。命をかけて。死ぬまでずっと頑張って、大切な人たちを幸せにする。

 

だから、どうか、頼む。アイ。

 

オレが嘘を吐き続けることを。オレの卑怯な嘘を。どうか許してくれ───

  

 

 

 

 

 

 

 

ついにこの日が来た。

 

オレたちの誰もが待ち望み、そして誰もが夢を見た、B小町東京ドームライブ。

 

アイが叶えられなかったあの夢を、ルビーは遂に叶えてみせた。

 

「やっと、一区切りだね」

 

オレの隣で座るのは青みがかった黒髪を肩近くまでに切りそろえた美女。腕の中にはまだ幼い子供を抱いている。

 

この子の名前は瞳。星野瞳。星野アクアと、星野あかねの娘だ。

 

結局あれからも、いろんな事があった。

 

傷つく事。傷つけられる事。死にたくなる事。幾らでも出会ってきた。

 

二度と誰も傷つけないと誓ったのに、結局オレは何度も傷つけてしまった。

 

人間なんて、存在するだけで誰かを傷つけてしまうものらしい。

 

生きていても、死んでいても。

 

関われば傷つけるし、関わらなければ、その事実が誰かにとっては傷になるかもしれない。

 

でも、傷つけてしまったことに気づかなければ、それこそ最悪だ。

 

愛の反対は無関心。それは完璧な真実ではないけれど、一部事実があるのも真実だ。

 

誰かを大切にする。それは傷ついて、傷つけられて。それでもその傷を癒しながら生きていく覚悟をすることなんだと思う。

 

オレたちは、泣いて、病んで、崩れ落ちて。とことんまで堕ちたら、涙を拭いて立ち上がった。

 

オレたちは、生きることを選んだ。選び続けて、今日までたどり着いた。

 

1人じゃなかったから。

 

支えて、支えてくれる家族がいるから。

 

「ここで良かったの?もっと近くで観れる席とかもあったんじゃ…」

「いいんだよ、此処で。オレたちだってアイのライブは客席から観てたんだ。特別扱いはできないさ。な、希望(のぞみ)

 

ベビーカーに座る少女、星野希望の名前を呼ぶ。が、伯父の言葉はまるで聞こえていないようだ。ステージに夢中になっている。

 

両目に輝く星をさらに強く輝かせながら。

 

───母さん。オレたちは、今日も生きていく。

 

死にたくなるような事ばかり起こるこの世界で。時に泣いて。時に怒って。あなたを時々思い出して。

 

ルビーはずっと走ってる。苦しさも悲しさも抱えたまま。嘘で隠して。時に心の闇を輝かせて。使えるものは全て使って、大切な人を守り、我が子を守り、そして自分を守っている。

 

その姿は、かつてのオレに似ているらしい。たった1人で全てを守ろうとしていたオレに。オレがあんなに立派だったことはなかったと思うけど、ミヤコ母さんにそう言われると、嬉しかった。

 

オレも、一応頑張っている。嘘をついて、傷つけてしまった責任。傷つけ続けている責任を取りながら。自分ができることだけを。その代わり全力で。ベストを尽くして。

 

そしてなんとか、今日という一つの区切りを迎えた。

 

ルビーが叫ぶ(うそ)が、自分を守り、大切な人を守り、そして名前も顔も知らない、暗闇に生きる誰かの光になって。何かを与えていく。

 

 

それはオレではできなかったことだった。

 

 

───アイの生まれ変わりは、オレなんかじゃなかった。

 

 

一番星の生まれ変わりは。本当にアイの全てを受け継いだ星は……

 

 

この歓声が、全ての答えだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くのか?」

「うん。仕事だからね」

「もういいんじゃないか?ドーム公演だって叶えたんだ。お前はよくやった。やり遂げた。もう吐きたくもない嘘を重ねる必要なんて…」

「そうだね。どんな辛い事があっても、ステージの上では、楽しそうに笑わなきゃいけない。寿命なんて三十路がせいぜい。お金にだってなかなかならない。リスクリターンまるで釣り合ってないお仕事」

 

───だけどね

 

「こんなにどうしようもなく楽しいお仕事なんて、他にないんだよ!」

 

だからやめられない。やめてはいけない。ママとお兄ちゃんが照らしてくれた未来。私も胸を張って生きていきたいから。

 

「行ってきます!希望のこと、よろしく!」

「行ってこい。オレたちの一番星」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星をなくした子、最終幕───了

 

 





最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

本当に最後まで読んでいただきありがとうございました。本編完結です。今までいくつか小説を書かせていただきましたが、ちゃんと完結できたのは初めてです。それも今までたくさんの人たちに読んでいただき、温かい感想や面白いという評価を頂けたからです。
時にオリジナリティないとか、いらんオリキャラ多いとか、原作の良さを汚してるなどの酷評されることもありましたが。それらも含めて原動力でした。本誌と同時に完結できることを嬉しく思います。今週はヤンジャンの表紙見ただけで泣きそうでした。

お気に入り登録数7252件。感想数1420件。UA121万オーバー。もっとすごい作品は沢山ありますが、少なくとも筆者の小説ではぶっちぎりの最高記録です。こんなに多くの方達に読んでもらえていたと数値でわかるのは僥倖です。本当にありがとうございました。

ちょっと子供達プロフィール。

不知火絆・アクアとフリルの娘。フリルが成人してからその存在をテレビで公表。批判の声はほとんどなく、表面上は祝福の声で埋め尽くされる。フリルは堂々と母親を名乗れるようになった。父親は現在一般人のため秘匿。公的にはシングルマザーである。

星野瞳・アクアとあかねの娘。2人は公式に結婚しており、結婚一年後に出産。両親に愛され、黒川家の祖父母にもミヤコにも可愛がられている。何不自由なく育てられている愛娘。だからこそその存在が後に子供達に大きな影響を与えることとなる。

星野希望・アクアとルビーの娘。幸い遺伝的疾患はなく、5体満足で産まれてきた星野家の希望。アクアは芸能界引退後、医大生としての道を歩むが、ルビーが出産してからはミヤコと2人でルビーのマネージャーをしばらく務め、母と伯父と祖母の三人で育てている。

とまあ子供達はこんな感じです。もっと詳細な本編後エピローグを書くかどうかは前話後書きで述べたように感想や評価次第です。カミキのその後とか、引退後のアクアの去就とか。色々設定は考えてますが、蛇足なような気もしますので。ちなみにフリルとあかねは一度しっかり話し合ってお互いの子供の存在を認め合ってます。アクアは知らないですが。たまには君も何も知らない側になりなさい。

今までお付き合いいただき本当にありがとうございました。最終話はもちろん、作品完結したからこその感想と評価もお待ちしています。どうかよろしくお願いします。時間がかかっても感想には必ず返信します。
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