【本編完結】星をなくした子   作:フクブチョー

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一番星をなくしてもワタシ達は生きていける
欠けたものはみんなで埋めればいい
だけど忘れないで
あなたがいるから笑えることを


エピローグ そしてまた星座が昇る

 

 

 

 

 

「おはよう、あなた」

 

キッチンに立つあかねがオレに気づいて笑顔で挨拶をしてくれる。おはようと返すと小さな足音がトタトタと聞こえてきた。

 

「お父さん、おはよー!」

「おはよう瞳。今日も元気だな」

 

一度頭を撫でる。母親によく似た青みがかった黒髪はきめ細やかで心地いい。嬉しそうに目を細めると、父との触れ合いに満足したのか。少女はテレビの前へと走っていった。朝のアニメが始まる時間だ。

 

「もう」

「はは」

 

いつもの朝のルーティンに、あかねは呆れ、オレは笑う。普段聞き分けがいい分、好きなものがあるのはいいことだと思った。

 

この子は、オレとあかねの子供。名前は星野瞳。女の子だ。

 

あの後も、オレとあかねは交際を続けていた。

 

劇場版リバーシ・アイドルの撮影が、オレの俳優としての最後の仕事だった。ドラマでのヒットを受け、すでに日本中にファンがいる人気作だった劇場版は大成功を収め、俳優星野アクアの有終の美に相応しい作品となった。

 

映画の完成度もさることながら、最大のヒットの要因はアクアが作詞作曲を手掛け、実際に歌った劇場版の主題歌だった。

 

映画の内容は幼馴染で、主人公で男性のルイをアイドルにした張本人。そしてずっと仲間だったアイドル、雫との対決。紆余曲折を経てルイに雫は勝利し、ルイはようやくアイドルを卒業できるようになった。

 

しかし、中身が男性であるという正体がかつてルイに敗北したアイドル事務所にバレ、全てが破滅しかける。

 

それを救ったのは、ルイを見初めたハリウッドの超大物マドンナ。アフロディーテだった。

 

今までアイドルとして関わってきた全員に救われ、ルイは静かに芸能界から姿を消し、煌びやかに輝く雫を渋谷の液晶パネルから見上げる。

 

『さよなら、雫。ずっと輝いててね』

 

雑踏に紛れて呟いたルイの一言に、雫の言葉が重なる。

 

『さよなら、ルイ。ずっと私のヒーローだった、一番星』

 

映画の内容とこれ以上なくリンクした主題歌。そのタイトルは──

 

『推しをなくした子』

 

国内のおもだったあらゆる賞を総ナメにした名曲が、劇場版リバドルの大ヒット最大の要因だった。

 

『この映画のために、アクアはすでに完成していた曲を全て消し、ゼロから作り直していました。彼にとってもリバドルは思い入れの深い作品だったのでしょう。だからこそあの名曲が出来たのだと思っています』

 

本人からはコメントを貰えず、答えたのは事務所の社長だった。真実を知る人間はおそらく1人しかいないだろう。

 

リバドルの公開が終わり、芸能界をあっさりと引退したアクアは、やはり多くの引き留めと、少なくないバッシングにさらされる。

 

その全ての声をアクアは全く配慮しなかった。

 

国立大学の医学部を受験。心療科の医師としての道を志す。

 

「芸能界だけに限らない。闇に晒され、心を病んでしまった人はこの世の中に沢山いる。オレのように家族をなくしてしまった人も。そういう人たちを支えてあげたい。あなたは異常なんかじゃないって言ってあげたいんだ」

 

それに精神科医ならこの腕でもできるから、と未だ痛々しい傷跡が残る右腕を撫でていた。

 

あかねはアクアの夢を全力で応援した。進学したアクアと本格的に同棲を始め、仕事量も減らし、献身的にアクアを支えた。

 

そして、一年の後、あかねの妊娠が発覚。同時に結婚。アクアは学生だったけれど、資産は引くほどあったため、周囲も大きく反対はしなかった。

 

アクアが大学二年時にあかねは無事出産。名前は瞳と名付けられた。

 

「ちょっと古臭いかな」

「ううん!すっごく素敵!ありがとうアクアくん。私を母親にしてくれて、ありがとう。瞳。生まれてきてくれてありがとう」

 

感謝を込めて我が子を抱きしめるあかねの姿は、美しかった。

 

大学を卒業後はツテを駆使して開業。今は自宅兼医院として新しく建てた家に住んでいる。

 

オレも、あかねも。ルビーも、ミヤコも。そして───

 

「パパ。おはよー!」

希望(のぞみ)。何度言えばわかる。伯父さんと呼べと言ってるだろう」

「えへへ、つい。私にとってのパパはアクア伯父さんだけだから」

「まあいいじゃん、お兄ちゃん。希望の好きなように呼ばせてあげてよ」

 

2階から降りてきた親子。どちらも朝日を眩く反射する蜂蜜色の髪に凄まじく整った顔立ちは母親とよく似ている。しかし目だけは赤ではなく、紫色を帯びた黒だった。

 

星野希望(のぞみ)。ルビーが産んだ1人娘。オレとルビーとミヤコの三人で育て、途中からあかねが加わった。オレたちの家族だ。

 

ルビーはクリスマスイブのライブ後、活動休止を発表した。

 

公式発表では心身の回復に努めるため、とされており、大衆はこれをあっさり信じた。

 

【星野アクア殺されそうになったもんね】

【目の前で兄が刺されたの見りゃそりゃ病むわ。お大事に】

【普通の家族でも病むのに、ルビーはあれだけブラコンだったんだから】

 

そう、オレが刺されたあのニュースがルビーの休止直前に報道された事が功を奏した。まさに怪我の功名。ルビーの休止理由が妊娠だなどと気づく大衆はいなかった。

 

そして約半年後、その時が訪れた。

 

『よく頑張ったな、ルビー』

『ねえ、お兄ちゃんが名前付けてよ』

『いいのか?』

『今日からはお兄ちゃんがこの子の父親代わりなんだから。名付け親ぐらいにはなってもらわないと』

 

ルビーに頼まれ、アクアは姪の名前を希望と名付けた。

 

『君は、家族から望まれて生まれてきた、オレたちの希望だ』

 

アクアが名前に込めた意味だった。

 

「ようチビども!来てやったわよ!」

「あ、かなちゃーん」

「重曹ちゃん」

「その呼び方やめろ!かなお姉様とお呼び!」

 

有馬はよくウチに来る。ハリウッド映画で二度目のブレイクを果たして忙しい盛りだろうに、なんとか時間を作って。かつて苺プロに入り浸っていた元アイドルの新たな宿木はアクアの新居だ。子供達の遊び相手を務めてくれると同時に役者として英才教育もしている。親としてはありがたいような、あまり芸能界に関わってほしくないような。複雑な気持ちだ。

 

「よし。それじゃあ行ってくる」

「お父さん、行ってらっしゃい」

「あなた、気をつけて」

「パパ、早く帰ってきてね」

「お兄ちゃん、行ってらっしゃい」

 

見送りに来たみんなの頭を撫でる。仕事道具を持って、自宅すぐ側の職場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「次の人」

 

星野心療医院は中々に繁盛している。

 

病院が流行っているのはあまりいいことではないのだが、それでも閑古鳥が鳴いているよりは個人的には助かる。というのも、アクアのツテで芸能関係者が良く来るのだ。

 

何年の時が経っても。いくら時流が変わっても。芸能界には闇が存在し、その闇にさらされる人たちが何人もいる。

 

そういう相談は家族にはある意味他人よりもしにくい。共感してくれる人も、解決策を講じてくれる人も素人にはまずいない。

 

その点、星野アクアは都合が良かった。自身が元芸能関係者であり、誰よりも芸能界の闇についてよく知っている。共感も打開策も考えられる。その場限りの他人だから、相談もしやすい。

 

故に日本一芸能人が通う病院として、業界では少し有名だった。

 

だから、彼女が混ざっていても、特に違和感はなかった。

 

「あなた」

「フリル」

「父さん」

「よく来たな、絆」

 

母親とよく似た、美しく利発そうな娘が父の元へと駆け寄る。抱き上げ、そのまま抱きしめる。私的な時間が中々取れない中、絆とアクアはなんとか親子の時間を作っていた。

 

時にアクアが直接会いにいくこともある。が、絆がどうしても父に会いたくなった時はこうして医院に来るのだ。

 

「学校はどうだ?」

「今日も一番だった」

「凄いな、絆。父さんなんかより、ずっと凄いぞ」

 

近況を聞いて。まず褒めて。時に叱って。短い時間でも精一杯親としての仕事を務めた。

 

フリルは絆の存在をもう世間に公表していた。

 

彼女が実の娘である事。父親については現在一般人なのでシークレット。発表された内容は一応嘘は一つもなく、大衆の反応も概ね良好だった。

 

スキャンダルに溢れる芸能界。しかし彼女たちも人間であるという風潮が広がった令和の時代。表面的には受け入れる態勢というものが出来上がりつつある。その時流にフリルと絆は救われていた。

 

そして子供の存在を公表してから程なく、フリルも芸能界を引退した。五反田監督が撮る映画の主演を最後に。

 

映画のタイトルは『水の中』。

 

死に迷う者と遺された者を繊細な生死観で描いた作品と聞いている。

 

『本来ならお前に主演をやってもらいたかったんだがな』

 

一度だけ監督本人から話を聞いた。『15年の嘘』がアイを追いかけたノンフィクションとするなら、『水の中』はオレを追いかけたフィクション。不安定で危うくて、だからこそ妖しくて美しかった星野アクアの幻影を撮ってみたい、と。

 

『私がアクアの代打を務める日が来るなんてね』

 

社長は少し不満そうだったが、本人は笑っていた。最後を演じるにふさわしい作品だと。

 

『ずっと追いかけてた……ううん。今も追いかけ続けているあなたを演じる。私の集大成をあなたに観られる。やりがいしかない。あなたにも絆にも誇れる引退作にしてみせる』

 

その言葉は正しかった。映画は日本スクリーン賞を受賞し、不知火フリルの有終の美を飾る作品となった。

 

そして今。フリルと絆は幸せに暮らしている。世間に認められ、胸を張って生きている。芸能界を引退したことに後悔は微塵もなかった。

 

『あなたがいないあの世界が、あんなに退屈だなんて思わなかった』

 

このセリフが全てだった。

 

まあ、堂々と絆と親子ができるのはフリルだけで、父親は未だ世間の目を盗んで会わなくてはいけないのだけれど。

 

そのことを絆はこの歳で理解し過ぎているほど理解している。父が自分に愛を注いでくれていることもわかっている。だからこそ会いたいし、会えた時は精一杯の甘えを見せていた。

 

「今度はいつウチに帰ってくる?」

「長期の休みの前に一度必ず」

 

別れ際、絆を抱き締め、母と娘にそっと口付けする。このやりとりもいつものことで、この様子を見ても絆は恥ずかしがったりも嫌がったりも全くしなかった。

 

 

 

 

 

 

15年の嘘が公開されると、瞬く間に記録的なヒットとなり、興行収入は年間で二位を記録する。一位はリバドル。放映期間が一部被ってしまったのはアンラッキーだった。

 

まあ元々内容が内容の映画だ。クセも強いし才能あるクリエイターが複数集結し、意気投合しただけあってめちゃくちゃトガッてる。万人受けはしない、人を選ぶ映画だっただろう。それで二位なのだから健闘した方だ。

 

ノンフィクションと銘打たれたドキュメント映画。その話題性とセンシティブな内容はあっという間に世間を席巻し、逮捕された新野冬子の自供もあり、警察および大衆の捜査が本格的に始まった。

 

しかしさすがというべきか。怪物というべきか。新野冬子の全面的な自供があっても、カミキヒカルの殺人教唆まで辿り着く事はなかなか難しかった。

 

自分に決定的な疑いが掛からないよう手を尽くす。安全のためにあらゆる手段をとる。誰でも利用する。そういうところも自分と似ていると、アクアは少し自己嫌悪した。

 

新野冬子の証言だけでは立件にこぎつける事は難しかっただろう。彼自身が手を汚した殺人未遂。星野アクアが囮となって逮捕にこぎつけたあの一件がなければ、カミキヒカルの極刑はありえなかった。

 

星野アイやアマミヤゴロウ。判明しているだけでも6名の死者を出したカミキヒカル。彼らとの因果関係は完璧に掴めたわけではなかったが、躊躇なく殺人未遂に至った経緯は数多くの警察関係者が目撃している。殺人教唆の決定的な証拠はなくとも、裁判官の心象は最悪だった。そして殺人未遂の際、他の殺人にも関わっていると示唆した本人の発言も有力な証拠となった。

 

最後までカミキヒカルは否認を続けていたが、状況証拠や多くの証言。そして実際に犯行に及んでいる経緯も含め、裁判官は死刑を求刑。

 

その命は法によって絶たれることが決まった。

 

今あの人がどうしているのかはオレも知らない。多分まだ生きているのだろうけど、判決が降った今、特に興味はない。

 

オレはこれからも生きていく。

 

悩んで、苦しんで、のたうち回って。結局何一つままならかった。何一つ思い通りにはいかなかった。

 

けれど、もういい。

 

オレがついた嘘の結果が現実だというのなら、もうそれでいい。全てを背負って生きていく。全てを守るために生きていく。

 

楽な死を安易に選ぶには、オレには大切な存在が。愛する人たちが増えすぎた。

 

推しが出来すぎた。

 

オレはこれからも嘘をつき続ける。オレの推しを守るために。

 

嘘で塗り固められた今を守るために、周囲全てを騙し続ける。

 

あかねには頼れる夫であり続ける。瞳には立派な父親であり続ける。オレと結婚してくれて、家族になってくれた人達を幸せにし続ける。

 

フリルにも誠実であり続ける。オレたちがつけた傷は消えないけど、その傷を癒すために力を尽くし続ける。絆には普通の父親であれない代わりにそれ以上の愛を捧げつづける。

 

ルビーのことは一生守る。家族として。仲のいい兄妹として。かつてあった愛はなくしてしまったけど、今のルビーへの愛は忘れずに。希望には頼れる伯父として扶養していく。

 

芸能活動を頑張り続けてる有馬も。アイドル引退後、ユーチューバーをやりつつ、B小町のプロデューサーをやってくれてるメムも。ミヤコ母さんも。あかねの家族も。全員に嘘をつき続ける。全員を騙して、誰がみても非の打ち所がない。完璧で無敵な星野アクアであり続ける。

 

どれだけ向き合おうと消えない過去と、自分が犯した罪は全て抱えて。

 

それでも、星野アクアは前へと向かって歩いていく。

 

あなたに、幸せになってほしいから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───結局、殺せなかったか。

 

日本のどこかにある刑務所。絞首台の前に立つ男が、皮肉げに口角を歪める。

 

あれから新野冬子がアクアの殺害に失敗したことは聞いた。もし、この身がシャバにあったのなら、二の矢三の矢は放てたけど、刑務所の中では流石にできることなどなかった。

 

刑務所に収監されている間も、僕に面会に来る人は1人もいなかった。おそらくアクアの手回しだろう。口先三寸があれば人を操作することは可能であると誰よりも知っている彼は、誰1人僕に会わせようとしなかった。カミキプロダクションのタレントも、従業員も、側近も、全てにアクアは手を回していた。

 

───完璧主義、か。

 

アクアとアイの大きな共通点の一つだ。彼は自分以外の全てを守るために、あらゆる手を尽くし、誰でも利用した。

 

───残念だ

 

君を殺せていたなら、僕はもっとアイを感じることができただろうに。

 

「囚人番号45510番。前へ」

 

首に輪がかけられ、仕掛けの施してある床へと歩かされる。あとは刑務官がスイッチを押せば、奈落の扉が開き、僕の首は宙に吊らされる。

 

「何か言い残すことはあるか」

 

言い残すことなんてない。やり残しはある。彼と彼女の命を僕に宿したかった。そうすれば僕はもっと自分の命に重みを感じることができたのに。

 

彼に何か言い残す?無駄だろう。僕が何か言ったところで彼は3日で忘れる。彼にとって僕はもうどうでもいい人間のはずだ。

 

やり残しはあるけど、言い残すことはない。強いていうなら、この後が少し不安だ。

 

次に目を開けた時、アイは僕のことを待ってくれているかな。

 

「…………いやだ」

 

自分で考えてわかった。そんなわけがない。もし死後の世界なんてものがあるとしても。天国と地獄なんてものがあったとしても、僕は絶対にアイと同じところにはいけない。アイも清廉潔白ではなかったけど、僕ほどの罪は犯していない。

 

僕は、死ぬ?

 

死んだらどうなるのだろう。死後の世界があって、釜茹でにでもされる?それならまだマシだった。もし、死後の世界なんてものなくて。熟睡しているときのような。何も感じず、何も触れることのできない、闇だけの世界が未来永劫続くのだとしたら。闇を恐れてずっと生きてきたのに、もう逃げることもできない闇の中に囚われ続けるのは絶対嫌だった。

 

「いやだいやだ!死にたくない!死にたくない!はなせ!僕はまだ何も手に入れられていない!何も成していない!」

「抵抗するな!おい!腕を縛れ!頭に被せろ!」

「はなせ!はなせ人殺し!」

「お前が殺した人たちだって死にたくなかったはずだ!その後悔も含めてお前の罰だ!」

 

猿轡を噛まされる。もう喋ることもできない。ただ、立っていることしかできない。

 

あと数秒後、死の奈落が開く。

 

僕は多分アイには会えないだろう。

 

会えるとしたら、多分きっと……

 

重力を支える何かがなくなる。フッと一瞬軽くなり、そのまま頚椎に全体重が掛かる。

 

体重以上の何かの重みが、僕の身体を引っ張った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

芸能界最大手プロダクションのオーディション。新しいスターを発掘するため、門戸を大きく開き、大々的に行われた。

 

何万倍もの倍率を勝ち抜いてきた4名が、今日顔を合わせる。

 

「私は不知火絆。19歳よ」

「星野希望(のぞみ)です!17歳です!」

「黒川瞳です。15歳。アイドルです」

「く、黒川琥珀です。14歳です」

「私のぉ……妹です。よろしくお願いします」

 

新しい星たちが、また星座を描くために夜空へ昇る。

 

───やっぱり血は争えないか

 

星野家の墓と刻まれた墓石の前で、報告する。貴方の孫たちはまた貴方と同じ道を歩もうとしている、と。笑おうとして、うまくできなかった。我が子達の歩む道が険しいことを誰よりも知っていたから。

 

この世界で心の底から笑えるのは、一体誰なんだろう。

 

才能のある者?環境の恵まれた者?彼らの所属事務所の社長?裏から操る者?愛を手に入れた者?

 

きっとどれも違う。

 

芸能界には凄い人たちがいっぱいいた。オレより才能があるやつなんてザラに。だけどその誰もが一度は泣いていた。心の底から笑っているという事はなかったような気がする。あのルビーですら、嘘の笑顔でステージに立ち続けていた。

 

どんなに才能があっても。環境が良くても。事務所の社長でも。権力者でも。愛を手に入れた人でも。誰もが泣いてきた。泣いて、挫けて、膝を折って、それでも立ち上がって、嘘の笑顔を貼り付けた。

 

───きっといないんだろうな。

 

ずっと笑っていられる人間なんて、この世にいないんだろう。人間なんて、存在するだけで誰かを傷つけ、そして誰かに傷つけられる。

 

オレたちは、傷つけあいながら生きるしかない。

 

傷ついて。傷つけて。自分がつけてしまった傷は懸命に癒し、自分につけられた傷は受け入れる。この繰り返しで人との絆は結ばれていき、そして愛が生まれていく。

 

───あの子たちもきっと、いずれ誰かを傷つけるだろう。

 

四人とも秀でた光を持っている。その光をたくさんの人が求めるだろう。あの子達も光を磨いていくだろう。その過程で誰かを傷つけ、誰かに傷つけられる。意識、無意識関わらず。それは仕方がないことだ。

 

───だからせめて、オレのような失敗だけは、しませんように

 

目を閉じ、深く祈る。墓石の下で眠る母に。そしてどこかで観ているかもしれないアマミヤゴロウと天童寺さりなに、深く祈った。

 

「あなた。いつまでも外にいたら風邪引くよ。最近もう夜は寒いんだから」

「ああ、わかってる」

 

───あ

 

彼方で瞬き、オレたちを見下ろす遠い星が、笑っているような気がする。

 

 

 

 




最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

最終話、たくさんの感想と評価をいただき、ありがとうございました。おかげでエピローグの筆を取ることができました。本当にありがとうございます。それでもフリルの妊娠が発覚した話の方が感想数多かったのは笑いましたが。やっぱりフリル様はすげーや。

というわけでエピローグでした。いかがだったでしょうか?設定は色々考えていたのですが、原作と齟齬があってはいけないので今日まで書き切ることはできませんでした。待っていただいていた人がいるなら幸いです。

ちょっとアクア達の設定補足。

アクアは心療医としての道を志したのは自分とルビーが解離性障害を患っていたからこその選択。これからも人の闇に晒され、傷ついた人たちを拙作のアクアは救い続けるでしょう。

カミキはちゃんと法の罰が下されました。彼を引っ張ったのはやっぱりゴローだったのでしょうね。

あかねはアクアが右腕に怪我をして、退院して以来ずっと一緒に暮らしてました。それまで半同棲くらいだったのが完璧な同棲に。そして何も起きないはずがなく。ルビーと同居するようになったのはルビーが希望を出産してから。一緒に暮らすことに一言も不満を漏らさず快諾しました(表面上)。

重曹ちゃんは仕事一筋。だけどなんとか時間を作ってアクア達に会いに来てます。不倫的な関係は事件後一切なし。後に絆と瞳、希望、琥珀の師匠的存在になっていきます。

不知火フリルはアクア引退後、目に見えて芸能界での活動に意欲をなくしていきました。目標であると同時に自分を追いかけてきてくれる存在がいなくなったことでモチベが著しく下がっていることを自覚し、身を引くことを考え始める。なにより絆との時間を大切にしたかった。五反田監督からオファーが届いた時、引退を決意。その後あかねとの対話に臨みました。

とまあ、その後の人生はこんな感じです。ちなみに最後、瞳が黒川姓を芸名にして名乗っているのは星野姓を隠したかったから。父や叔母の威光なしで勝負したかったからでした。この瞳のプライドが後に火種になっていきます。

あと、琥珀も勿論アクアとあかねの子供。男です笑。せっかくスペックは高いのに性格がちょっと内向的で引っ込み思案。そんな弟の性根を叩きなおすために瞳が引っ張ってきました。実は才能値は四人の中で琥珀が1番高い。そして瞳が一番低い。一般人から見れば充分天才の域ですが。

他の後日談を書くかどうかはこのエピローグの反響次第です。あかねとフリルの対話はイメージできそうかな、と思っているのですが。他にもこのエピソード見たいと要望があれば教えてください。

どうか感想、評価よろしくお願いします。時間がかかっても感想には必ず返信します。
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