一番星と交わった星たちは新たな星を産み落とす
寵愛の瞳と豊穣の琥珀はそれぞれの生き方を恥じるだろう
抱える偶像が同じだからこそ
Extra take1 一番星のカケラ
かつて一番星だった少女と、その星をなくした子たち。三つの星の物語はひとまずの区切りを迎えた。
しかし人の生が物語ではない以上、生きている限り続いていくのが人の一生。
かつて星をなくした子が一番星の過ちの形の一つであったように。
傷で成る絆
寵愛の瞳
星に望まれた希望
豊穣の琥珀
この四つの星もまた、一人の天才が懸命に生きたゆえに生じる罪の証だった。
星をなくさず、それぞれの偶像を抱えた四人が新しく星座を作る物語
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夢中になれるものが、欲しかった。
幼い頃から僕らの子守唄は父さんの声と父さんが弾くピアノだった。その声の美しさと流麗な指使いが奏でる旋律は幼い僕らにとってはまるで魔法のようだった。嫌なことがあった時。悲しいことがあった時。それらを忘れさせてくれるのが父さんの魔法だった。僕らは父さんの歌と演奏で育ってきたといっても過言じゃない。
父さんの美しさに。強さに。技術に憧れを抱くのは必然だった。父さんみたいになりたいと思ったのは僕も姉さんも当然だった。
ピアノを習いたいと言った時、父さんも母さんも反対しなかった。というか、僕らが何かをやりたいと言った時、反対されたことなんて一度もなかった。まずはやってみろ。父さんも母さんもよく言う言葉だった。
『特別になんてならなくていい。ただ、お前が本気で夢中になれるものが一つあれば、それでいい』
真面目に、一生懸命にやってれば人はついてくる。ちゃんと挨拶して。適度に気を遣って。意見はぶつけて。喧嘩もして。同じくらいふざけ合ったり、笑い合ったりもして。そしたら仲間はきっと増えていくから。
父さんは僕にそう言ってくれた。実際間違ってなかった。誰より貪欲にやっていれば仲間は出来た。最善を尽くすために意見を出して、喧嘩もして、けど最後には納得して、笑い合って、目標へと突き進んだ。
だけど、それは足並みを揃えることができる範囲のみの話で。やっぱり条件はあって。嫌になることも多かった。
「勝手にアドリブを加えるな!楽譜に沿って!丁寧に!」
───こっちの方が楽しそうだったから
結果を出していても理想の動きをしなかっただけで先生は信じられないくらい怒るし。
「あいつの演奏って優等生っていうか、バカ真面目っていうか。コンクールのためだけって感じだよな」
「こないだもこれ見よがしに居残り練習とかやっててよ。意識高いアピールお疲れ様」
「あんなレッスン漬けの人生楽しいのかね」
真面目にやってるだけなのに陰口を叩かれ───
「昨日レッスン来なかったらしいぜ」
「ちょっと上手いからって調子乗ってるよな、アイツ」
「それでコンクールグランプリ獲っちまうんだからいいよな、天才様は」
少し手を抜いたら今度は違う内容で責められる。
上からの理不尽な指示。横からの嫉妬から逃れることは結局できなかった。
勝ちすぎても負けすぎてもバッドエンド。やるからには中途半端はなし。全力で。完璧を目指す僕の当たり前は受け入れてもらえなかった。
だから僕は下方修正を覚えた。適度に勝って、適度に負けて。百点満点ではなく及第点を狙って。その他大勢に紛れる。その方が生きやすくて、楽だった。
そんな僕の嘘を。信念を曲げた生き方を見抜いているのは世界で三人だけ。か
「琥珀。周囲と波風立てずに上手くやるって、凄く難しいことだよね。競技の世界なら尚更。お母さんもそうだった。琥珀が傷つかないように生きられるなら、それが一番だってお母さんは思う。どんな生き方を選んだとしても、私とお父さんは琥珀の味方だから」
星野あかね。今やその実力は世間に知れ渡り、第一線で何年も活躍し続ける。芸能史にその名を残すことは確実の天才女優。
「今は色々試す時だ。何か一つに絞る必要なんてない。ゆっくりやりたい事を探していけばいい。平穏が一番だと思うならそれでもいい。それはオレにはできなかったすごい事だ。生きたいように生きろ、琥珀」
星野アクア。かつて日本でその名を知らない人間はいないとすら言われたマルチタレント。歌って踊れて演技もできて。バラエティやドラマ、音楽、多岐に渡り超一流の名前を欲しいままにしてきた。けれどとある映画に出演した際に狂信的なファンに襲われて右腕に大怪我を負い、引退に追い込まれた悲劇の俳優。今は精神科医として生計を立てている。
僕の両親。二人とも芸能界という伏魔殿で生き、成功を収めた天才。きっと僕なんて目じゃない理不尽に晒されて来たのだろう。僕の下方修正を見抜くなんて息をするより簡単なはず。そして僕の気持ちを理解してくれるのも簡単だった。
僕なんか比べ物にならない理不尽に晒されてきたのに、妥協を選ばなかった両親。この二人に僕の嘘がバレるのは当たり前だと思うと同時に怖かった。けれど二人とも受け入れてくれた。嬉しかった。優しく、聡明で美しい父と母を、僕は尊敬し、敬愛している。
そしてもう一人。僕の嘘を見抜ける人間がいるとすれば、それは…
「───嫌い」
僕のことを生まれた時からずっと見続けていた、もう一人の家族だけだった。
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私は弟が嫌いだった。
私には一つ下に弟がいる。容姿は姉の目から見てもとんでも優れていて(もちろん私も負けてないけど)、頭も良くて、運動神経もあって、何より音楽的センスに溢れている。
私達は天才の両親のもとに生まれた。
母は演技と洞察力の天才。今やベテラン女優として数々のドラマに引っ張りだこで、私の目から見てもお母さんの演技力は飛び抜けていた。
そしてテレビだけではわからない才能が母にはあった。それは洞察力だ。私や琥珀が隠し事をした時、母にバレなかったことは一度もない。まるで見てきたかのようにこちらの心の意図をズバズバ言い当て、嘘をつくという行為が無駄だと慣れるのに時間はかからなかった。
けれどお母さんは私たちの嘘を知っても怒ったりはしなかった。もちろん内容次第だけど、頭ごなしに嘘を否定することは一度もなかった。
理解を示し、時に嗜め、時に打開策を一緒に考えてくれた。私はお母さんが好きだし、尊敬している。
父はあらゆる事に才能を持つ人だった。
昔は母以上の実力と知名度をもつ俳優だった。父が主演級を張った作品はいまだに伝説として語り継がれており、ネトフリやeye-MAXで観ることができる。
歌手としての活動もしていて、自分で歌うだけじゃなくギターで演奏したり、作詞作曲まで手がけていた。代表曲の『推しをなくした子』は今でも根強いファンがいる名作となっている。
ドラマでも映画でも音楽でも主だった賞を総なめ。特に日本映画賞の主演男優賞とギャラクシー賞は私でも知っている大きなトロフィーだ。
けれど光が強ければその分闇も強く成る。人気絶頂期、かつて祖母と同じグループで活動していた新野冬子によって大怪我を負ったお父さんは引退に追い込まれた。
───無念だっただろうな
努力に見合った成果を得られ、将来の成功も約束されて、これからって時に理不尽な暴力によって全てを台無しにされた。お父さんの無念は察して余りある。
けれど私はお父さんが家族の前で辛そうにしているところとか、悲しそうな顔をしているところを見たことは一度もない。いつも優しくて、時に厳しくて。穏やかで、暖かく、美しい。たくさんの愛で私たちを包み込んでくれた。
自分を律し、目標に向かって常に全力を尽くす。最善を尽くしたなら胸を張る。どんな結果でも受け入れ、新しい目標へと進み続ける。
私の両親はそんな人達だった。尊敬している。敬愛している。子として誇れる親だ。この二人に恥じない娘でありたいとずっと思っている。
───そのことを、この子も知ってるはずなのに。
私の弟は、最善を尽くさない。
同じ環境で生きてきた。両親から差別されたことはおろか、比較されたことさえ一度もなかった。同じ食事。同じ教養。同じ愛。全て平等に受けてきた。同じ両親から生まれ、完璧な遺伝子と環境を与えられてきた。
その全てで、弟は私より優秀だった。
その事に不満はなかった。私より優秀な事について、琥珀に落ち度は何一つないからだ。同じ環境、同じ教育、同じレッスンを受けている。私と琥珀、贔屓をされたことは一度もない。
だからこそ、弟の方が優秀な成果を出すのは、私が悪い以外の理由はなかった。
だから、努力した。
特別な弟に負けないように。琥珀にとって誇れる姉であるために。努力して、背伸びした。
それでも、私に興味を持ってくれる人は誰もいなかった。
『弟さんのことはどう思いますか?』
『琥珀くんは家で特別なレッスンをしていたりするのでしょうか』
『お父さんはあの星野アクアさんですよね?ピアノをお父さんから教わったりしますか?』
『お父さんと弟さんはやっぱりよく似ていますか?』
たくさんの大人が、私にいろんな質問をした。聞かれ続けた。けれど誰も私に興味はなかった。私の価値は『星野アクアと星野あかねの娘』『星野琥珀の姉』という二つしかなかったから。
父のこと、母のこと、弟のこと、常に聞かれ続けた。その度に私は即答した。
「私は家族を愛しています」
嘘じゃなかった。父も母も凄い人だ。尊敬している。敬愛している。弟も疎ましいと思ったことは一度もない。私の後ろについてきて、実力的に私を追い越しても、姉として敬意を持って接してくれた。私は家族を愛していた。
私がコンクールで初めて弟を上回った、あの日までは。
たくさんの大人が取材に来た。初めて私自身に興味を持って質問に来られた。弟に勝ったことが1番の理由なのだろうが、それでも弟を超えて、私に質問に来ている事に間違いはなかった。
私の嘘の勝利に、大人たちはコロリと騙されていた。
───手を抜いていた
たくさんの大人たちは騙せても、私と、お父さんとお母さんは騙せない。琥珀は明らかに手を抜いていた。全力を尽くしていなかった。百点満点を狙って外していた。
あんなに気持ちの悪い勝利と称賛は、初めてだった。
私が弟のことを嫌い始めたのはこの辺りからだ。
天才と言われる事に飽きたのか。周囲の期待に応える事に疲れたのか。弟は全てにおいて手を抜き、下方修正をはじめ、百点満点中の八十点。中の上から上の下あたりを狙うようになった。
───私には、才能がない
子供の頃にお母さんの映画を見た。私も芝居をやりたいって思うようになった。お父さんの動画を見た。私も歌って踊れるようになりたいって思った。
ずっと観てた。観続けてきた。
芝居をやるようになってからも。歌とダンスのレッスンを始めてからも。
観れば観るほど。技術を。努力を。経験を。重ねれば重ねるほど、思い知らされた。
モノがちがう。
父と母とは、持って生まれたものが違いすぎる。
ずっと観てた。私の一年後に生まれた弟。その成長を、ずっと観続けていた。
だからこそわかる。
この子は、あの人たちと同種だ、と。
才能を持って生まれた。そのことを本人も自覚している。だけど琥珀は敢えてその力に蓋をし、下方修正している。
自分が生きやすいように。自分が楽をするために。
そんな弟が嫌いだった。見ていて腹が立った。見てられなかった。
だから、私は───
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「ちょっと姉さん!なんなの痛いって!」
華奢な少年……いや、少女だろうか?黒のシャツに丈の短いズボン。帽子を被ってはいるが、煌めくプラチナブロンドは肩近くで切り揃えられているのはわかる。顔立ちは凄まじく整っており、美少女とも美少年とも言える容貌だ。美しいものに性差は出にくい。服装もユニセックスだ。一見して少女か少年か、判断することは難しかった。
「せっかくの休日に引きこもってるアンタを外に連れ出してやってるの。感謝しなさい」
「どこか買い物でもいくのか?荷物持ち?それくらいならするから、手を引っ張るのやめてよ」
「すぐわかるよ」
手を引っ張っている方。彼女は女性だと明らかにわかる。少女と同じくらいか、少し高いくらいの身長。服装の上からでもある程度わかる曲線美。背中まで伸びた艶やかな黒髪。そして星のように輝く右眼が特徴的な美少女だった。
「…………姉さん。ここって」
「行くよ」
「なんで!僕関係ないじゃん!受けたいなら姉さん一人で受けなよ!無理無理無理だって!離して!助けて父さん母さん!ミヤコグランマ!」
「アイドルオーディション受験番号45509番黒川瞳と45510番黒川琥珀です。よろしくお願いします」
「嫌だー!また女の子にされるー!!」
アイドルオーディション会場でちょっとした騒ぎが起こる。そんなことはよくある事。オーディション当日になってビビる子。受けたくないと騒ぎ出す子。よくある事だった。
だから、特段気にしなかった。
「───何やってんだか」
「あはは。変わってないなぁ。二人とも」
傷で成る絆と、星に望まれた希望が二人を見つめていても───
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
アニメ第3期放送に伴い、番外編がイメージできたので筆を取って見ました。次世代編です。いかがだったでしょうか。本編を読んでいる前提で書いてはいますが、一応番外編から読んでも訳がわかるようにはしているつもりです。が、わからないという方はぜひアニメに伴い本編も読んでくださると嬉しいです。拙作を番外編から読むと言う方は少ないかと思いますが、念のため申し上げておきます。
一応設定説明。瞳と琥珀はアクアとあかねの娘と息子です。大怪我をしたアクアですが、短時間ならピアノも演奏できます。この辺りの情操教育はあかねからのレクチャー。お嬢様なので上流階級の教育というものをよく知っており、子育てに関してはほぼ母親の方針が星野家のメインです(ただでさえアクアはその方面の自信はまるでない)。瞳も琥珀もかなりリッチな教育を受けています。父のピアノを弾く時の美しさ。魔法のような指使いに憧れて瞳も琥珀もまずクラシックの道を志しました。
番外編の続きを書くかは反響次第で決めようと思っています。感想、評価よろしくお願いします。面白かったの声が1番のモチベーションです。よろしくお願いします。時間がかかっても感想には必ず返信します。