天才も凡人も神様でさえも
星をなくした子たちを見守るかつての少女
その瞳は星をなくした子の希望の絆が絡まる琥珀を見つめて
私は知っていた。彼のことを。彼女のことを。彼女達のことを。
愛する夫の子供達だ。写真も見せてもらったし、実際に見たこともあった。あかねが彼らを産む前に私に会いにきて、彼らのことを話していった。そして私もあかねに娘のことを話した。
だから知っている。彼らが星野アクアの実子であること。私の愛娘と半分血が繋がっていることを。
知った上で、息を呑んだ。
最終審査。何百…いや、書類審査を含めれば何千名もの参加者達の中で、ここまで勝ち残った精鋭達。全員が光る何かを持っている子達だった。
しかし、その光がまるで蛍の光に思えるほど儚く感じてしまったのは、この4名の光があまりに眩すぎたから。
最終審査は勝ち残ったメンバー達でグループを作り、即興でライブをすること。
勝ち残ったメンバー達は皆ダンスが上手く、歌唱力も高く、ビジュも良かった。
しかし、そんなものはここまで来るメンツであれば当たり前に持っていることで。
それだけじゃない何かを。思わず目が引かれてしまう何かを持っていたのは。
不知火絆
星野希望
星野瞳
星野琥珀
煌びやかな服装ばかりの女の子達の中で、あまりに普通な衣装に身を包んだ4人だった。
───血は争えないね、あなた
4名全員から感じるオーラの源流について、審査員の中では不知火フリルと、もう一人だけが知っていた。
▼
僕は激しく後悔していた。姉さんに引っ張られて、いつもの買い物か何かと油断していた僕はされるがままを許してしまって。気がついたらホール入り口前に来てしまっていた。やめろと騒いでいるとオジサンに怒られて。あまりの剣幕に流されて。無理やり列に並ばされて。あっという間に引っ込みつかなくなって、一次審査が始まってしまった。
超大手プロダクションの大規模オーディションなだけあって参加人数も多くて。8人1組ランダムで振り分けられた一次審査では流石に姉さんとは別々の組になっていた。
オーディション参加の女の子達はやっぱりピリピリしてて。服装も明るい色で派手だったり、スカート超短かったりと少しでも自分が目立つための戦略を練っていた。
そんな中、黒のビッグタグのTシャツに地味なパンツなんてザ・普通の服装で着ていたのはオーディション受ける気なんてさらさら無かった僕と。
「まさか琥珀も来てるとはねー」
風評や衣服にこだわらず、実力と美貌で周囲全てを黙らせてきた父さんを知っている。天才・星野アクアを本気で目指している父さんガチ勢の希望さんだけだった。
希望さんがいたのは本当に偶然で。僕の従姉妹で家族としてずっと一緒に育てられてきたあの人が一緒の組だった事にピリついた空気に晒され続けた僕はホッとしたと同時に───。
「手を抜いてわざと不合格になるような真似はしないでね。この場にいる女の子たちにも、審査員にも、アーくんにも失礼だから」
わざと不合格になることも出来なくなってしまった。
希望さんに釘を刺されては、流石にちょっと逆らえなかった。その通りだと思ってしまったからだ。審査員や参加者達はともかく、父さんに失礼だと言われてしまっては、手を抜くことはできなくなった。
歌もダンスも演技も、僕らは父さん達に教わったから。
「琥珀、演技はイメージだよ。想像して、創造するの。もう一回」
演技指導は母さんも加わっていた。いつも笑顔で優しくて、滅多に怒ったりしない母さんだけど、演技に関してだけは母さんはいつも厳しかった。
「コハくん、こうだよこう!指の先まで意識を張り巡らせて!」
ルビーさんはダンスと歌の指導をしてくれた。一緒に体を動かしながら笑顔で指導をしてくれて、できることが増えていくのは楽しかった。
「琥珀も筋が良い。教え甲斐がある」
歌もダンスも演技もできる父さんは、どのレッスンでも指導に来てくれた。声の出し方。身体の使い方。気持ちの入れ方。全て丁寧に教えてもらった。そしてよく褒めてくれた。
母さんも、ルビーさんも、かなちゃんも、父さんも。手本を僕らに見せる時、とても上手だった。子供の頃の僕は、指導者とはみんなコレくらいのことは出来るのかと思っていた。
でも外に出て、幼稚園とか小学校で歌やダンスをやる事になって。生まれて初めて父さん達以外の人に指導を受けた。
同級生はもちろん、大人の先生も。音楽の先生すら、父さん達と比べれば拙いと思ってしまった。
僕らは最高の師達から教わったんだとようやく自覚した。
その想いはこのオーディションでも変わることはなかった。最大手事務所のタレントになろうって人達だけあって、流石に普通のクラスメイト達よりはマシだったけど。
才能が集う芸能界で何年にも渡ってトップに君臨し続けたホンモノに囲まれた僕らにとってはお遊戯会レベルにしか見えなかった。
そして時間は過ぎて今。順当に通過してしまった僕たちは、最終審査を前に控え室に集められていた。
───うわ
懐かしい。この空気。ピアノコンクールで予選を通過して本戦に出場するプレイヤーたちがホールに集まった時とよく似ている。自分の技術。努力。才能。ここに来るまでに積み重ねてきたモノに過信でない自信を持っている者達特有の殺気。今までのメンバー達とは明らかに違う。ここにいる連中は全員何かしらの一芸を持っているのだろう。
「ちゃんと通過してきたみたいね」
軽く頭を撫でられる。振り返らなくても誰かわかった。見渡した時いなかったからもしかして、と思ってたのに。後でいじれなくてちょっと残念だ。まああのレベルの審査なら姉さんが通過してないわけはないか。
「ひとみんもやっぱり来てたんだ」
「え、ノンちゃん!?ノンちゃんもオーディション来てたの?!なんで!?」
「やー。流石にスカウトとか勧誘とかいちいち断るのもめんどくさくなっちゃってね。グランマに相談したらちゃんと事務所と契約したタレントになりなさいって言われて。丁度タイミング良かったから受けに来たの。ひとみんは?」
「私はいつかアイドルになりたいってずっと思ってたから。ノンちゃん琥珀と同じ組だったの?凄い偶然………ああ、だからアイツ手を抜くこと出来なかったんだ」
「瞳、知り合いいたの?紹介してもらって良い?」
姉さんの後ろから現れた人に僕は思わず息を呑んだ。翠がかった艶やかな黒髪は音が鳴るのではないかと思えるほど美しく。翠の瞳は真っ直ぐに僕らを見つめていて。右眼の星の光は心臓を鷲掴みにされたかのような真っ直ぐな強さが宿っていた。
この感覚には覚えがあった。
レッスン中、ピアノを演奏する時、父さんが僕を見つめるときにそっくりだった。
───こんな綺麗な人。父さんと母さん。ルビーさん以外で、初めて見た。
「琥珀。ノンちゃん。紹介するね。一次審査から私と同じ組だったキズナさん」
姉さんの言葉で我に返る。誰かに見惚れるなんてことも、父さん以来だった。
「不知火絆です。ハジメマシテ。琥珀さん。ノンちゃんさん」
「星野
「この子は黒川琥珀。私は瞳。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
姉さんに紹介されて、頭を下げる。苗字は黒川の方でいくつもりらしい。まあ家族なことを隠すのは無理だろうし、星野姓だと色々勘繰られるかもしれないから賢明な判断だ。
「不知火って、もしかして──」
「あー。この事務所受けててかつこの苗字な時点で普通に連想できちゃうよね。そ。不知火フリルは私の母だよ」
「やっぱり!言われてみればお母さんそっくりですね!そりゃ超美人なわけだー!」
「ははは…」
乾いた笑いが絆さんから漏れる。目も全然笑ってない。おそらくあの人の人生で母親と比べられるなんて数えきれないほどされてきたんだろう。偉大な親を持ってしまうと二世は苦労するものだ。絆さんもその例に漏れないと、その笑いだけでよく伝わった。
「…………男の子?」
ビクリと身体が震える。瞳も口元が引き攣り、希望は大きくのけぞった。
「琥珀さん、男の子みたいに背高いですね。私もそこそこある方だけど確実に私より上……何センチですか?」
「えっと、167、です」
「歳は?」
「14……今年で15です」
「うわ、私より4歳も下なんだ。若いわけだ。肌も綺麗。だけどメイクはイマイチ……ていうかほぼスッピン?素材は特級なのにもったいないよー?」
「あの、あんま触らないでもらえると──」
ペタペタと触ってくる絆さんの手を軽く抑える。男とバレたわけじゃないっぽくてちょっと安心した。姉さんも希望さんも息を吐いている。もうちょっとポーカーフェイス貫いて欲しい。バレるだろうが。
───いや、いっそバレた方がいいのかな。それならワザと落ちたとかじゃないから不可抗力っていうか…
「なんか、視線感じるね」
4人でしばらく会話していたが、誰ともなくお喋りをやめてしまう。確かに周囲から注目を集めているような気がした。
「僕……私達が見られてる?」
「見られてるのはほぼ絆さんだと思うよ」
「そうなの?」
「研修生とはいえ、元々プロダクション所属の先輩だし、実力も知名度も頭ひとつ抜けてるから。子役の頃から映画とか出演してるし、モデルとかで活動してるのも見たことあるし」
「あら。希望さんだってステージで踊ってるの、観たことあるよ。バックダンサーの中でダントツ上手かったから、覚えてる」
「いやぁ。あの不知火絆に認知されてるなんて、私も中々やるなぁ」
周囲から視線を集めている事に気づいても、二人とも緊張も警戒もしていない。少なくとも表には出てない。場馴れしているのがよくわかった。
ついでに僕も姉さんも平常心だった。オーディションではないけれど、こういう空気には慣れている。僕も姉さんもコンクール上位陣常連だったから、注目も警戒もよくされていた。
「二人のことはあまり知らないね。見覚えあるような気もするんだけど」
「あはは。アイドルとしての実績はこの子も私もゼロで……厄介な素人だとは思わないでくれると嬉しいです」
「思わない思わない。私たちくらいの歳ならまだ実績なくても仕方ないよ。でも3人は知り合いみたいだね。友達?」
「えっと、親戚です。ノンちゃんと私たちは従姉妹で、こっちはお…妹」
「そっか。道理で3人ともなんか雰囲気似てるワケだ」
「でも絆さんともなんか親近感感じるよね。あんまり他人な気がしないっていうか。なんでだろ」
「…………他人じゃないからねー」
「え?どういう意味?」
小声で呟かれた言葉は3人全員の耳に届いていた。自分で言うのもなんだが、僕達は感覚に優れているから、内緒話や陰口の類を聞き逃したことはあまりなかった。
「候補生の皆さん。お待たせしました。最終審査を始めます。番号順に呼びますので一人ずつ入室してください」
待ち時間が終わり、最終審査に残った実力者達が番号順に呼ばれ始める。ピリついた中、穏やかだった絆さんさえも笑みは消え、真っ直ぐに視線を向けている。特に右目に宿す光は強く、思わず息を呑んでしまった。
さっきの言葉の意味を問いただすことを、3人とも忘れてしまうほどに。
▼
「皆様お集まりいただき、ありがとうございます。最終審査は即興力のテストです。勝ち残った皆様でグループを作り、今から1時間後、観客の前でパフォーマンスをしていただきます。審査員は我々と、今回研修生公演にきていただいているお客様達です。彼らに恥じないパフォーマンスを期待します」
───コレはまた……難しい審査内容だ。
控え室に集められていたのはメンバー内で交流をして、少しでも馴染みを深めるためだった。でもそれは通常無理な話だ。最終審査まで残った強力なライバル達。敵視するのが当たり前だし、まして仲良くなんてそうそう出来ない。事実ろくに会話をしている人たちさえいなかった。コミュニケーション0の状態から客の前で歌って踊る。確かに良いオーディションだ。即興力。瞬発力。総合力。コミュニケーション能力。全てを見ることができる。個人能力が高いだけではクリアできない審査だ。
───悪いけど、ピリついてた人達はほぼ消えたな。
この審査を通った後は仲間になる相手。敵視するのは当たり前だけど、それだけでは困る。少なくともユニットを組める最低限のメンバーと会話くらいはしなければいけなかった。
───残ってるのは、絆さんを含めた僕ら4人と、他にも何人か知り合いっぽい子と話をしていた何人か。
それでもこの急造グループでハイパフォーマンスを出すのは難しいだろう。相互理解も、メンバーの長所も短所もまるでわかっていない。だいたいセンターはどうやって決める?キャプテンは?調整役は?本来グループを作る前に決めておかなければいけないことが何ひとつ決まっていない。手探りの状況の中、そんなことはまるで配慮してくれない観客達の前に立つ。まともな公演になるかも怪しい。
───ま、この状況でも存在感を出せる才能を求めてるんだろうけど
「それでは、課題曲の提示の前に、最終審査の審査員を紹介します」
部屋に入ってきた何人かが、私たちの前に立つ。プロダクション社長。ダンスの振付師。映画監督。妥当かつオーディション審査員にしては豪勢な人達が紹介されていく。流石に今回のオーディションは結構本気で力を入れているのだとわかった。
「カメラマンの星野レンさん」
「皆様、よろしく」
サングラスとマスクで顔を隠した人が呼ばれる。体格と声で女性だというのはわかるが、それ以上はわからない。苗字で少しギョッとしたけど、それ以外は特に印象に残らなかった。
前に座る絆さんがガタンと椅子を鳴らしていたけど。知り合いなのだろうか。
「審査後、合格者達のコーチ兼プロデュースを担当するプロデューサー。ツクヨミさん」
「やあ。みんなかわいいね。どうぞよろしく」
僕らより少し歳上っぽい、姉さんと同じ白髪の女の人の方が、なぜか気になった。
▼
「では、グループを組む前にまずポジションを決める。これまでの審査の成績優秀者から適任を選抜していく。異論、質問は一切認めないのでそのつもりで。まずは2列目の───」
即興ライブの前の立ち位置が受験生に割り振られていく。三次審査までの成績が低いものから順に目立つのが難しいポジションへと。その辺りは役割もなく、ただ決められた場所で踊るしか許されない。
不公平と思われるかもしれないが、ここは主催者側も曲げられない。今日研修生オーディションを見にきてくれている人たちはちゃんとお金を払ってチケットを購入した人達だ。研修生ということも急造チームということも彼らは知っているが、主催者側はそれらを言い訳にはできない。
この最終審査まで残っているメンツは基本優秀だが、中でもさらに実力と才能のある者を中心に据える必要がある。それが良いチーム、優秀なチームを作るために最も効率的な手段だからだ。
絶対的なエース。それを支えるサポート。全体を統率するキャプテン。最低限のクオリティを保証するために、最低でもこの三つのポジションは適性のある者を振らなければいけない。
「チームキャプテンに受験番号38190番。不知火絆」
「はい」
「中軸2名は41253番、星野希望。45509番、黒川瞳」
「「はい!」」
「センター。45510番。黒川琥珀」
「…………はい」
選ばれた4名はオーディションメンバーの中で、忖度なく光を放っていた4名。最終審査を任されている審査員たちが満場一致で選んだ者たちだった。
「血は争えないわね、あなた」
この4人を。審査員である『星野レン』こと不知火フリルと───
「本当に面白いね、君は。見ていてちっとも飽きないよ。星野アクア」
人から生まれ、時と共に成長したかつての少女、ツクヨミは知っていた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
ついに4人が出会いました。いかがだったでしょうか。
意外とあっさりに収まって筆者も驚きです。けれどあっさりで終わらせてくれるはずがないのが芸能界です。
番外編から入られる読者様方がイメージしやすいように、プロフィールちょっと紹介します。
星野瞳
身長・161センチ
年齢・15歳
体重・えっと、言わなきゃダメですか?
髪色・青みがかった黒髪
瞳・黒に近い青。星の光なし
B/W/H・88/59/84
趣味・コインバランシング
特技・人真似は上手い方だと思います
大切なもの・家族
星野瞳。アクアとあかねの娘。アクアが大学2年時に生まれる。両親に愛され、祖母に可愛がられ、誰もに祝福され、寵愛を一身に受けて育った星野家の長女。容姿は母に似ていてスペックも高い。故に挫折らしい挫折をしてこなかった。一年後に弟が生まれ、彼と比較されるようになるまでは。父と母、弟を心から愛していながらも,この3人に比較され続ける人生を歩んできたおかげか、自分自身の力を認めて欲しい願望を持つようになり,今回のオーディションでは黒川の姓を名乗って参加した。
星野琥珀
身長・167センチ
年齢・14歳
体重・56kg
髪色・金髪
瞳・青。両目に星の光
B/W/H・えっ、知りたい?
趣味・ダーツ
特技・修得が早く、だいたいすぐ飽きてしまうのでコレというのはない
大切なもの・夢
星野琥珀。
アクアとあかねの息子。父と母、祖母,叔母、姉の6人に囲まれて育った。唯一の男の子のため,母や祖母、叔母にイジられつつも溺愛されてきた。そして愛されるだけの容姿と才能を生まれ持っていた。天才だ神童だアクア二世だとチヤホヤされる人生だったためか、性格はちょっと傲慢でペシミスティック。それでもまだ夢中になれる何かを探している。
とまあ、こんな感じです。次回はファーストステージ。合格するのは一体誰なのか。そして琥珀はどうなってしまうのか。
それと先日まねきねこ様からフリルと幼少期の絆を描いたイラストをいただきました。こちらです。
【挿絵表示】
【挿絵表示】
筆者がイメージしていた以上の絆で感激しました。本当にありがとうございます。イメージ補完の一助としていただければ幸いです。他にもイラストなど送ってくださる方がいらっしゃるのなら大歓迎しております。どうかよろしくお願いします。
それでは感想、評価よろしくお願いします。面白かったの声が1番のモチベーションです。よろしくお願いします。時間がかかっても感想には必ず返信します。