【本編完結】星をなくした子   作:フクブチョー

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燻る熱は鎮まっているだけ
消えたわけではなく、燃え尽きたわけでもない
才能という名の熱い原石
練磨の炎となるのは、きっと


Extra take5 熱の行方

 

 

 

 

 

 

別に、不幸って程じゃない。

 

小さい頃はお父さんもお母さんも私に優しかった。愛してもらった。あまり裕福な家じゃなく、生活は結構大変だったけど、それが当たり前だったから、不幸だなんて感じたことはなかった。

 

夢を追いかけているお父さんは好きだった。夢をお父さんに託し、支えているお母さんは立派だった。

 

けど、夢を追いかける事ができる時間は限られていて。お父さんもお母さんも大変になってきて。私が口論の原因になる光景も増えてきて。お父さんは家族が鬱陶しくなった。お母さんも私が煩わしくなったみたい。

 

それでも不幸だなんて思わなかった。ご飯はレトルトとか弁当が増えたけど、ちゃんと食べさせてくれたし、暴力とかも振るわれはしなかった。

 

ただ、お互い干渉しなくなった。興味がなくなったと言い換えてもいいかもしれない。

 

学校へ行くと友達は楽しそうに家族の話をしていた。習い事で賞を取って褒められたとか、遊園地に連れて行ってくれたとか。そういう話を聞いて、羨ましくなってしまうのは当然だと思う。

 

でもそんなことを言えばまた怒鳴られるのはわかっていたから。私は一人の世界へ逃げた。

 

アパートの小さな部屋。備え付けられた、小さなテレビ。それが私の世界の全て。

 

───死んじゃおっかな

 

特別不幸じゃなくても。絶望的に追い詰められてはいなくても。人間こんなことを考えてしまうのはよくある事。何のために生きているのかわからなくなって。生きる理由みたいなものが見えなくなって。理由がなくなれば死にたくなるのが人間で。何もかもリセットしたくなるのは普通なこと。

 

そんな普通なことをしながら眺めていたテレビから煌びやかな音楽が流れ始め、ぼんやりしていた意識がちょっと現実に帰ってくる。

 

何年か前に大ヒットした映画の地上波放送が行われていた。タイトルは私も聞いた事があった。襲撃され、引退に追い込まれ、人気絶頂のまま姿を消し、伝説となった天才俳優の最後の主演作品。タイトルは───

 

 

『リバーシ・アイドル』

 

 

私は生きる理由を見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───才能って何だろう

 

人より習得の速度が速い事?早熟なだけで大成しない人なんて幾らでもいる。

 

特殊な感性を持っている事?僕が他人と違う視点を持っている事なんて当たり前だ。人間それぞれみんな違うんだから。

 

運動神経がいい事?歌が上手い事?持って生まれた美貌?

 

僕より運動神経がいい人なんて沢山いる。僕より歌が上手い人だって沢山いる。僕より美しい人だって───

 

『父さん』

 

それなのに僕はいつも集団の中心に立っている。走り出せば先頭を任される。僕より優れた人なんていっぱい居るのに。

 

『才能って何だと思う?』

 

別に中心にいたいなんて思わない。先頭を走りたいなんて思ったこともない。ただ、自分の最高を目指しているだけなのに。僕は僕が満足できる演奏ができればそれで満足なのに。

 

中心にいたら妬まれる。僕より中心にいたい人は沢山いるから。

 

先頭を走れば憎まれる。先頭を取るというのはその前に先頭だった人を抜くことになるから。

 

『父さんだって、才能なんてないよ』

 

努力はした。実力もつけた。その能力を持って、結果を出し続けた。そしたらいつのまにか天才なんて呼ばれるようになっていた。

 

『結局、情熱に勝る才能は無いと思う』

 

父さん、情熱に勝る才能がないのなら、何でこの人たちは結果が出せないの?

 

この人たちは僕なんかよりはるかに情熱を持っているのに。

 

この人たちは僕なんかよりはるかに一番になりたがっているのに。

 

『オレも結局、その才能は見つけられなかった。熱の出所は知ったけど、オレの中にそれは見つからなかった。だから怪我した時、すぐに辞めた。オレのことを恨んでる人も沢山いるだろうな』

 

その椅子に座りたくても座れない人がごまんといる中で、こんなに熱のない。夢中になっていない人間が、3年もの間座っていたのだから。

 

自嘲するように笑いながら、父さんは古傷の残る右腕を撫でていた。

 

『オレの愛は、芸能界にはなかったから』

 

 

夢中になれるものが、欲しかった。

 

 

何か一つでいい。それ以外何も見えなくなるような。それさえ手に入れられれば他に何もいらないと思えるような何かが、父さんさえ見つけられなかった何かが、欲しかった。

 

僕はずっと自信がなかったんだと思う。いや、今でも自信なんてないんだけど。

 

だって僕より優れてる人なんて沢山いる。僕が人より多少歌やダンスが上手いのは、生まれ育った環境が良すぎたからに過ぎない。僕自身の努力や情熱の結果じゃない。

 

何かに夢中になったおかげで得られたものじゃない。

 

この人たちは見つけている。僕よりはるかに情熱を持っていて、それでも僕より結果が出せない人たちは見つけている。

 

「アンタがいなければ!」

「お前なんて死ねばいいのに!」

 

人に罵声を浴びせたくなるほど夢中になれる何かを。夢中になれるほど愛している何かを。

 

僕には、それが───

 

 

「羨ましい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがこの後、貴女達に踊ってもらう劇場です」

 

小さな段の上にある小さなステージ。客席もパイプ椅子よりちょっと質がいい程度の席。シアターと呼ぶには少し粗末で、贔屓目に見ても学校の体育館よりはマシなぐらい。其処が最終審査が行われる試験会場だった。

 

───ホールのあるシアター借りてオーディションやってた謎が解けた。

 

技能見るだけならスタジオでいいし、面接やるだけならそれこそ賃料激安の公民館でも良かったはず。それなのに客席も入れられるホールを借りたのはこの最終審査のためだった。

 

───まあこのホール、事務所所有の施設だから賃料もクソもないんだろうけど

 

「では今から1時間後にスタートです。打ち合わせ等は各自で行うように。それでは」

 

試験官が裏手から出ていく。ステージ裏の練習スペースにとりあえず全員移動した。

 

「えーっと、それじゃあこれからどうするか、大雑把に決めようか」

 

誰も何も喋れなかった空気を打ち破ったのはチームキャプテンを任された不知火絆さんだった。

 

「各自割り当てられたフリを覚えるのに10分。全体練習40分。最後の10分は自由にしようと思うんだけど、何か意見はある?」

 

真っ当なスケジュールだと思った。1時間という短い時間を適切に割り振っていると思った。でもそれはこのオーディションに受かろうが落ちようがどうでもいいと思っているような人間の判断。

センターという最も目立つ場所に立つことを許された、余裕のある人間の冷静で客観的な判断。

 

「なによ、えらそーに」

「キャプテンなんて名ばかりのくせに」

 

このオーディションに死んでも受かりたいと思っている、それなのに一列目に立つことも許されない受験生にとっては、彼女の発言は全て憎々しいものにしか聞こえなかった。

 

「立場をひけらかすつもりはないよ。みんなが言う通りキャプテンなんて勝手に言われただけの役目だし。でも練習しなきゃお客様に失礼なステージにしかならないじゃない」

「全体練習したければ勝手にやってれば。私は私なりのやり方で1時間過ごすから」

「私も〜」

 

バラバラと散会していく。絆さんの周りに集まったのは一列目の中心部に位置する僕たち数人のメンバーだけだった。

 

「あの子達、ちゃんと割り当てられた場所で踊るかな?」

「少しでも目立とうとルール違反してくる姿が目に浮かぶね」

「多少のイレギュラーはあるものと思って練習しよう。みんな、まずは自分のフリを覚えて。それからここにいるメンツだけででも全体練習しよう」

「はーい」

「ハイは伸ばさない」

「ハイハイ」

「一回!」

『ハイ!』

 

ピリついてたメンバーに軽く笑いが生まれる。僕も軽く笑ってしまった。絆さんは面倒見がいいというか何というか。お姉ちゃん気質なのかなって思った。

 

「琥珀練習!センターなんだよ、わかってる?」

「10分は覚える時間だろ。頭に入れてイメージするからちょっと待って」

 

QRコードを読み取り、フリを見る。そんなに難しいダンスじゃない。10分あったら充分過ぎると思った。

 

 

 

 

「───とりあえずは形になった、かな」

 

全体練習を数回重ねた後、映像をチェックする。と言っても真ん中付近で踊るメンバーだけの全体練習だったが。でもこの辺りのメンツがちゃんとしてれば公演という形には、まあなるだろう。

 

「琥珀、本番では本気で踊りなさいよ」

「…………手は抜いてないつもりだったけど」

「入ってないのよ、色々と」

 

ステップは踏めてた。歌も上手い。技術的には何ら問題ない。

 

だが、明らかに魂が入っていない。

 

上手いけど上手いだけ。

 

琥珀のパフォーマンスを端的に表すならこれ以上の言葉はない。

 

素人は騙せても瞳の目は騙せない。幼い頃から本物にだけ囲まれていた。母の演技。父の演奏。叔母のダンス。一流の中の一流に浸されて生きてきた。

上手いだけじゃない。魂が。オーラが。言葉にできない何かが入ったパフォーマンスを子供の頃からずっと見てきた。

子供の頃は本気で、夢中でやっていた琥珀のピアノをずっと聴いてきた。

 

だから、わかる。

 

「最終選考に残ったメンツのセンターよ。この公演、成功するかしないかはあなたにかかってると言っても過言じゃないんだから」

 

───大袈裟な。

 

キャップの蓋を開け、軽く唇を潤しながら、心の中で息を吐く。センターなんて言っても所詮ただ真ん中で踊るに過ぎない。ずっと真ん中にい続けるわけでもない。かわるがわるその位置を交代する時間はある。最初と最後が決まっているだけだ。誰がやっても大きな差はない。アイドルグループの大多数が大人に言われたからやってるだけだろう。代わりなんていくらでもいる。

 

───いきなりやる気出せなんて言われてできるわけないじゃん。別に僕はこのオーディション受かりたいわけじゃないんだから

 

事ここに至っては逃げるわけにいかないから。夢を持って、情熱を持ってこのオーディションに受けにきた人達が立ちたくても立てない場所に立つことになってしまったから。最低限役割は果たす。それ以上の熱を求められても困る。

 

「琥珀ー。最後の10分。ミーティングするよ。集まって」

「はーい」

「ハイは伸ばさない」

「ハイハイ」

「一回!」

「ハイ」

 

 

 

 

 

 

10分間のミーティング。立ち位置の確認や決まりごとのチェックを終えると、残りはコミュニケーションの時間となった。

 

何が好きで何が嫌いか。どんなきっかけでオーディションを受けることになったか。琥珀たち4人に他数名を加えて雑談が始まる。呑気と言えば呑気だが、このオーディションに受かったら仲間となるメンバーたちなのだ。友好関係を築いて損はないし、おそらくはこのレッスン内容も審査対象のはず。コミュ力は見せておいた方がいい、とこの1時間を協力に使ったメンバー達は考えていた。

 

そしてアイドルを夢見る人間たちの会話となれば、この話題になるのは必然だろう。

 

『憧れているアイドルは誰?』

 

皆想い想いの推しを語った。どこが好きでどこが推している理由か。好きなものを紹介する女の子たちは饒舌で、皆楽しそうだった。

 

琥珀たち四人と、一人を除いて。

 

「アイドルなら誰が好き?」

 

絆も、希望も、瞳も、琥珀も。好きなアイドルはちゃんといる。憧れている星は輝いている。しかし、それを正直に言ってしまうことには躊躇があった。瞳と琥珀はもちろん、絆も希望も親のことは出来れば口にしたくなかったからだ。

 

───それに、レジェンドとはいえ、世代ではないし…

 

共通の話題で仲を深めると言う儀式に対し、星野アクアという存在は最適とはいえなかった。

 

星の子供達は自分の話す番が来る前に10分が経つことを願っていた。

 

「私の好きなアイドルは、川原ルイ」

 

琥珀の隣に座っていた少女が声を上げるまでは。

 

「嫌いなアイドルは、星野アクア」

「えっと、川原ルイって確かリバドルの……なるほど、理想のアイドルは作品の中にいたって感じね。わかるわかる。演じているその人よりそのキャラが推しになるって事あるよねー……ってアレ?嫌いなアイドルが星野アクア?ルイ演じてたのってあの人だよね。推しじゃないにしても、嫌い?」

「だって、あの人腕怪我しただけで引退したんでしょ?確かにピアノとかはできなくなるかもしれないですけど、歌も歌えればダンスもできるし、演技だって怪我が治れば出来たじゃないですか。それなのにたった一つ技能を失っただけであっさり辞めて。元々ガツガツした熱さのない人だったけど。あなたの歌もダンスも演技も必要としてる人はいっぱい居たのに。たった一つ完璧でなくなっただけで全て捨てた。ファン軽視もイイとこですよ。芸能界辞める理由ずっと探してて、怪我が重なってそれを理由に逃げ出した。やる気ないのに才能ある人が、私は嫌いです」

 

星海愛来(あいら)の言葉を聞いた時、血が騒いだ。心がざわめいた。

 

自分の周り全てを飲み込むような熱が、湧き上がってくる。苦しくも懐かしく、体が震える。星の瞳を両目に宿した少年が握りしめた心臓から、湧き上がってくる。

 

───この熱の出所は……

 

『愛に決まってるじゃん』

 

星野琥珀の中で、何かが揺らめき始めた。

 

 

 

 

 

 

 




最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

いかがだったでしょうか。今回は琥珀が燃え始める回。最終選考で本気を出しちゃう前準備です。いかがだったでしょうか。

星海愛来は今回の序盤のモノローグをしていた少女です。オリキャラです。読者様方がイメージしやすいように、プロフィールちょっと紹介します。

星海愛来

身長・158センチ
年齢・16歳
体重・デリカシーなさすぎですよ
髪色・紫がかった黒髪
瞳・紫紺色。両目に暗い星の光
B/W/H・85/59/84
趣味・映画鑑賞
特技・どんな時もカメラ映りが良いこと
大切なもの・リバドル関連商品

星海愛来
世の中に数多溢れる『リバーシ・アイドル』ファン。伴って星野アクアのファンでもあったが、引退の経緯を知って翻った反転アンチ。両親は元劇団俳優。結婚を機に母親は夢を諦めたが、父親は諦めなかった。が、そのおかげでネグレクトになり、最終的に母方の実家に引き取られる。現実逃避の手段として映画などの創作の世界に夢中になる。そのきっかけは地上波放送をしていた劇場版リバーシ・アイドル。主人公の川原ルイに憧れ、アイドルの道を志す。世の中にどこにでもいる、心を病んでしまった人。明日を生きていくために推しが心の光となる、アクアやアイが救いたいと願っていた顔も名前も知らない人々の1人。

とまあ、こんな感じです。愛来の外見はアイに激似です。違いは瞳の光くらいかも。星の海に散った愛の再来。アクアの血縁以外にも才能はいるよねって話です。環境に恵まれた才能は琥珀たち。そして才能以外に恵まれなかった原石が愛来です。
次回は最終審査。本気を出した琥珀を見て、3人の姉たちはどうなるか。そして血の繋がりは関係なく、突発的に現れた才能は──。

それでは感想、評価よろしくお願いします。面白かったの声が1番のモチベーションです。よろしくお願いします。時間がかかっても感想には必ず返信します。
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