【本編完結】星をなくした子   作:フクブチョー

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星の海に散った愛との違いはただ一つ
ソレは一番星を直接見たことがあるかどうか
星が夜空から消えた後
ホシノアイを受けてきたかどうか


EXTRA take6 一番星になりうる者

 

 

 

 

 

 

私のせいだ。

 

星海さんの話を聞いた時、真っ先に私を埋め尽くしたのは自責の念だった。

 

父さんは人気絶頂期に襲われ、腕を怪我して引退した。当時のスケジュールは分刻みで組まれており、昼夜逆転、睡眠時間2時間なんてザラだったらしい。

 

その中でなんとか時間を作って母である不知火フリルに会いにきて、私の面倒も見てくれていた。黒川あかねとの交際を続け、日本を代表するスターの仕事をこなしながら、私の父親としての責務を全うしていた。

 

けれど、そんな生活が長く続けられるはずもない。

 

限界はすぐそばに来ていたんだろう。このまま完璧で究極の星野アクアを演じたまま、私たちを守ることは不可能だとわかっていたんだろう。

 

だから引退するチャンスを伺っていた。キッカケさえあればいつでも身を引ける状態だった。

 

そしてあの事件が。新野冬子が、父さんを刺した。

 

キッカケだったのは確実だろう。世間を納得させる材料の一つには間違いなくなっただろう。

 

けれど、あの怪我を父さんが不幸中の幸いなどとしていたことは私が見てきた限り一度もなかった。

 

父さんが家に帰ってきて一緒のベッドで眠ってくれた時、傷の痛みで目を覚ます姿を何度も見た。

 

母さんが夜中にうなされ、父さんの名前を呼びながら飛び起きる姿を何度も見た。

 

父さんの傷を母さんが撫で、涙ながらに飛び起きた母さんを父さんが抱きしめている。お互いがお互いの傷を慰め合う姿を何度も見てきた。

 

あの事件は父さんと母さんの心に消えない傷を刻んだ。

 

腕の傷だけなら、父さんは芸能界を引退しなかったかもしれない。星海さんの言うとおり、怪我が治ればダンスも歌も演技も出来たから。

 

けど、心の傷はそんな簡単に治らない。

 

あの傷を心に負ったまま、分刻みのスケジュールをこなすなんて無理だった。あんな心に傷を負った母さんを放っておくなんて、父さんには出来なかった。

 

もし母さんが私のことを身籠らなければ、父さんはもう少し芸能活動を続けていたかもしれない。

 

あの怪我は引退のきっかけに過ぎない。もっと大きな理由は。芸能界No. 1のスターとしての仕事と私生活を二人とも維持できなくなった理由は…

 

全てだなんて烏滸がましいことは言わない。父さんと母さんの当時の心情を推察できるなんて思わない。

 

けれど、引退の理由の一端に、不知火絆がいることは間違いない。それは確かなことだった。

 

───私は父さんを、人前でも父さんと呼びたい。

 

星野アクアが私の父親であるという事が些細な問題と思われるほどの成功と地位を積み上げる。このオーディションはその為の第一歩。

 

けど、最終審査の前に、もう一つ目標ができた。

 

───私の芸能界での功績が、星野アクアと不知火フリルの功績だと言われるようにしてみせる。

 

父さんが芸能界を引退したから、私という存在が生まれた。母さんが母親に専念してくれたから、私はここまで育つことができた。私のなすこと全てがあの偉大な両親の功績だ。

 

あの二人に恥じないタレントになってみせる。

 

だからこそ、この最終審査。ただ合格するだけでは足りない。他の受験生と圧倒的な差を見せて合格する。それくらいは出来なければこの目標を目指す資格もない。

 

ステージへと繋がる暗い廊下を歩きながら、私は改めて気合を入れ直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを聞いた時、正直私は特に強い感情は芽生えなかった。

 

アーくん本人が言っていた。オレの引退を勝手だという人もいるだろう、と。オレを嫌う人も恨む人もいるだろう、と。人気商売をやっていれば賛否両論は何をやっても付きまとう、と。

 

だから星海さんがアーくんの悪口、というか反転アンチであることには驚きもしなかったし、意外でもなかった。そういう人もいるよねっていう感想しかなかった。

 

ただ、私はアーくんなら何を言われても気にしないという事を知っていて、かつアーくんが決めたことならなんだって受け入れるアーくん全肯定オタクだからなんとも思わないだけで。

 

アーくんのファンで今の星海さんの言葉を受け入れられない人もいるだろうってことも容易に想像がついた。

 

私はなんとも思わなかった。そんなことよりずっと気になる事があった。

 

「琥珀、着替え終わった?」

 

衝立の裏に隠れた従兄弟に声をかける。ステージに上がる前、渡された衣装に皆が着替えている。同性だけということで殆どの受験生が堂々と肌を晒していたが、何人かは恥ずかしがり、人目につかないように着替えていた。

 

そして琥珀は着替えを見られるなど論外だった。

 

「琥珀って意外と自分に自信ないのかな?貧乳気にしてるの?」

「やー、まあ、そうかも?」

 

堂々と着替えていた不知火絆が衝立の裏に隠れた琥珀を見て感想を述べる。言うだけあって絆さんのスタイルは凄まじかった。年相応の発育に加え、ウエストは絞って、臀部は引き締まっている。優美な脚線はしなやかさと柔らかさが同居しており、白い肌にはシミひとつない。美しく魅せるために作り上げた身体だということは一目でわかった。

 

衝立の裏をチラチラと見ているのはひとみん。女の子の服は着るのが難しい。ステージ衣装となれば尚更だ。琥珀に誰かの手伝いは不可欠だった。

 

───でも、意外と…

 

「琥珀」

 

もっと嫌がるかと思った。

 

オーディション受けるだけでもあんなに騒いでたから。衣装を着て、ステージに立って、センターで踊るなんて、もっと嫌がるかと思った。文句を言うと思った。最悪最終審査辞退するなんて言い出すかと思っていた。

 

 

息を呑んだ。

 

 

太陽の光がそのまま髪になったかのような眩い黄金色。

青い瞳は真っ直ぐに何かを見つめていて。

目の奥の星の光からは先程まで明らかになかった熱が感じられる。

 

煌めく衣装に身を包んだ星野琥珀が、衝立の裏から出てきた瞬間、希望は息を呑み、言葉を失ってしまった。

 

───ワクワクするね。

 

仏を作って魂入れず、とはよく言ったもの。星野アクアと黒川あかねという特級の素材で作られた仏。完成度は文句のつけようがない。けれど明らかに入っていなかった。入っていないまま、才能だけでここまで通過してきた。

 

けれど、予想外のところから熱を叩き込まれた。星海愛来から、自分が最も敬愛する人への、理不尽ではない不評を突きつけられた。

 

正直、再現度はまだまだだ。あの頭のてっぺんからつま先まで、貶すところ一つない美しさを琥珀はまだ備えてはいない。それも当然。あれは才能ではない。努力だ。歩き方、佇まい、視線、呼吸すら訓練された完璧な星野アクア。あの美しさにたどり着くまでにアーくんさえ何年もの時を要した。琥珀はまだなんの訓練もしていない。あのクオリティにたどり着くにはまだまだ何もかも足りない。

 

けれど、辿り着きうる才能を見てしまった。琥珀が誰になりきってこの最終審査を受けようてしているか、わかってしまった。誰よりも追いかけていたから。ずっと推してきたから。

 

「行くよ希望、瞳」

「はい」

 

イエス以外の言葉を返すなんて発想すら出てこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さん」

 

久しぶりにまとまったオフが取れた時、愛しい娘が肩をいからせて私に抗議しにきた事がある。

 

「瞳、どうしたの?」

「なんでお母さんも琥珀が手を抜くの許してるの」

「…………」

 

その一言で全てを察する。その事か、と笑ってしまいそうになる。夫から聞いてはいた。ピアノコンクールで琥珀がわざと手を抜いて銀賞になった事。コンクールで初めて瞳が琥珀より好成績を残した事。

 

それに瞳がめちゃくちゃ怒っている事。

 

幼い頃、瞳と琥珀は仲のいい姉弟だった。瞳は元々面倒見のいい子だ。世話をするのも好きで、琥珀が幼児だった時、よく着替えとかを手伝ってくれたし、琥珀も姉を頼りにしていた。一姫二太郎とはよく言ったモノだ。兄弟姉妹の関係において、姉と弟が1番家族に不和をもたらしにくい。二人の仲が良いことは母親として自慢だった。

 

小学生になって、二人とも本格的にピアノのレッスンを受けるようになり始めた頃から、少しずつ仲は疎遠になっていった。競技者となってしまった以上、家族といえどライバルなのだから仕方がない。

 

まして瞳は私に似てしまい、琥珀は夫にそっくりだから。

 

───想像できる。できてしまう。イメージは役者にとってとても大事なスキルだから

 

天才と同じ家族に生まれてしまった姉の気持ち。生まれた時からずっと才能の差を見せつけられ続けた姉の気持ち。

 

───私から見れば、瞳だって充分才能ある子なんだけど。

 

一人の大天才の陰に隠れてしまった、不遇の天才。時代が変わっても、20年近くの時が流れても、変わらずある話。どんな世界も頂点に立てるのは一人。たった一人が輝くために切り捨てられた才能はこの世にいくつもある。

 

───私の娘も、その一人だった。かつて私がそうだったように

 

「そりゃ気持ちはわからなくはないよ!追われる側のプレッシャーは私には想像もつかないほど辛いものなんだろうね!真面目にやってても、ちょっとサボっても、何しても妬み嫉みに晒されるもんね!私だって聞いたことはあったよ!琥珀が陰で悪口言われてるの!その時私には何も出来なかった!あの子を守ってあげることも擁護することもできなかった!そんな私に何か言う資格はないのかもしれない!だけど天才だって知らない辛さはあるじゃない!私は琥珀のこと、ライバルだって思ってたのに!私に勝とうが負けようがどうでも良かったってこと!?私と競い合うことより琥珀にとっては周りと歩幅合わせて楽に歩く方が大切だったって!?ふざけないでよ!じゃあ琥珀に勝つことを目標にしてた私はなんだったの!?」

 

───同じだな

 

悔し涙を浮かべる愛娘を見て、かつての自分の姿が重なる。同世代に有馬かなと言う天才を持ち、その陰に埋もれ続けた、かつての私と重なってしまった。

 

───天才は知らない

 

情け。憐憫。余裕。勝者が敗者にかける言葉。それがどれほど傷口を踏み躙るかを。

 

天才は知らない。傷つけられることは沢山あっても、敗北の傷というものを受けた事がないから。

 

子役の頃のかなちゃんがそうだったように。

全盛期のアクアくんがそうだったように。

 

───貴女にはそんな痛みを知ってほしくなかったけど

 

申し訳ない事に、貴女は私に似てしまった。琥珀はアクアくんに似てしまった。アイさんの才能はアクアくんに受け継がれ、そしてアクアくんから琥珀に受け継がれてしまった。

 

「瞳」

 

努めて優しく。物語を話し聞かせるかのように名前を呼ぶ。愛しさと慈愛とほんの少しの哀れみを込めて。

 

「世の中にはいるの。自分が何よりも優先で、そのためなら何を言われても気にしないっていうメンタルの人。そういう人は基本自分のために本気にはならないわ。他人が自分をどう思ってもまるで気にしないから。批判も称賛もどうぞご勝手にってね」

「…………お母さんもそうだったの?」

「まさか。お母さんはめちゃくちゃ気にする人だったよ。他人の評価とか悪口とかクチコミとか。全部見て、全部受け止めようとしちゃってた。瞳もエゴサするなとは言わないし言えないけど、批判なんてできるだけ見ないようにした方がいいよ。世界全部が敵になったって錯覚しちゃうから」

 

でもね、と一つ付け加える。

 

「お父さんは違った。他人がなんと言おうとまるで気にしなかった。自分の意志だけが行動指針の全てだった。そういう人は自分のために本気にはならないの」

 

そういう人が本気を出すのは。熱を込めてしまうのは。

 

「自分より大切な人のためにだけ、熱くなる」

 

だからもし、琥珀がまた本気になる日が来るとしたら。

 

あの眩い星の光を放つ目に熱が篭る日が来るとしたら。

 

「自分より大切な何かを守るためかもしれない」

 

だからね、瞳。

 

「貴女がなるのよ。琥珀にとって大切な何かに。馬鹿にされる事が許せない何かに。それまでは貴女は常に本気で。使えるものは全部使ってその人の特別になって。ずっと傍にいなさい。そうすればいつか琥珀は貴女のために本気になってくれるから」

 

 

 

 

───確かにあの時お母さんはそう言ってた。

 

お父さんは自分のためじゃなく、自分より大切な何かのために本気になれる人だったと。お父さんと琥珀はよく似ている。琥珀が本気の熱を込める日が来るとすれば、それは自分以外の大切な人のためかもしれない、と。

 

思えば、この最終審査に至るまで、琥珀が手を抜かなかった理由もそうだった。

 

ノンちゃんが手を抜くことは受験生にも試験官にも師である父さんにも失礼なことだと言ったらしい。琥珀にとって試験官も受験生たちもどうでもいい存在だけど、お父さんは違う。琥珀がお父さんを慕ってることくらい知っている。私だってそうだ。お父さんのことを尊敬してるし、敬愛している。娘として誇れる父だ。

 

けれど私は星海さんの言った事に反論はできなかった。いや、琥珀も反論はできなかったから、理屈ではよくわかってるんだろう。星海さんの言ったことはファンとして持っていて当たり前の意見の一つだということを。

 

実際お父さんもそういう人もいるだろうって言っていた。昔お父さんが天才と呼ばれた俳優だったことを知って、昔話をせがんだ時に『オレは天才なんかじゃない』と笑ってた。アレは自分自身を嘲っている笑い方だったと、当時は気づかなかった。

 

『オレはフリルのようにファンのために熱くなれなかったし、かなちゃんやあかね母さんのように自分のためにも本気になれなかった。ルビーのように夢も持てなかった。ただやらなきゃいけない事があって、オレにはそれができる程度の能力はあったからやってただけだ。オレの目的が果たせるなら別に俳優じゃなくても良かったし、歌もダンスもやらなくていいならやりたくなかった』

 

それでも。やりたくないことを15年もやり続けたのは、自分より大切な何かを守るためだったんだと、お母さんの話を聞いた後にようやく気づいた。

 

───そして今、琥珀はお父さんと同じ境地にいる。

 

この15年。琥珀の姉をやってきて初めて見たかもしれない。琥珀の瞳の中の煌めく星の光に熱がこもっているのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、不思議な感覚だった。

 

熱くなってるのに頭は妙に冷えていて。

心臓は煮えたぎっているのに腹の底は何も感じない。

 

「姉さん、見張ってて」

 

衝立の裏に隠れて着替える。最終審査は客の前に立つステージ。流石に着の身着のままというわけにはいかず、ステージ衣装が配られる。いかにもアイドルといった服装で、オーディションを受ける前の僕なら渋ったかもしれないけど、今は何とも思わなかった。

 

「行こう」

 

表面上は、冷静だったと思う。チームのエースは何度か経験してきたけど、熱くなってる姿より、冷静な姿の方がメンバーには安心感を与える。

 

そう教えてくれたのは父さんだった。

 

『中心に立つとな、どうしても感情が晒される。目立ちたい。注目されたい。一番になりたい。普段思っていない。望んでいない事さえ掘り起こされる』

 

競技者の種。競争の世界で生きるなら誰だって持っている。誰でも持たなければいけない種が、光を浴び、芽吹き始める。

 

『その時テンションが上がって興奮する姿より、いつも通り冷静でいてくれる方が見てる方は安心する。練習は本番のように。本番は練習のように。この言葉を実行できる人間に信頼を置く。プロデュースする側も、演じる側もな』

 

頭は熱くなってるけど、腹の底は冷えている。父さんが教えてくれたことを実行できている自覚がある。

 

『冷静さは必要だ。けど、それは表面だけでいい。センターに立つ以上、注目されないなんてあり得ない。誰もがお前を見る。メンバーも、観客も。メンバーはその背中を目標にして目からビーム出してんのかってほど殺気送ってくるし、観客は監視してんのかってほど一挙手一投足を見てくる。ちょっとでもトチればソッコーバレる』

 

それがセンター。チームを引っ張るエースの宿命。

 

『だからこそハジけろ。小さなミスなんてどうでもいい。自分が世界で一番美しいと思え。最も優秀だからその場に立っていると自惚れろ』

 

自信こそがキレを生み出す。自惚れこそがダイナミックを表現する。センターなんて結局、チームで誰よりも美しければそれでいい。

 

 

『お前の中の、神を信じろ』

 

 

僕の中の神は、いつだって目の前にいる。

 

僕のパフォーマンスは父さんで出来ている。僕の全てこそが、父さんだ。

 

僕はただ、目の前にいる父さんのマネをしていればそれでよかった。

 

それでも僕は、あの時の。僕の心の中にいつも居る全盛期の父さんとは比べ物にならない。足元にも及ばない。それほどの高みに父さんはいる。

 

───言ってみろ、星海愛来

 

このパフォーマンスのどこにやる気がないのか。才能に自惚れているだけなのか。言えるものなら言ってみろ。

 

リズムに合わせてジャンプする。審査員たちの目の色が変わったことになんとなく気づいた。

 

 

 

 

 

 

打ちのめされた。

 

このオーディションを受けにきて、最初は、というか最終審査まで、特別プレッシャーとかは感じなかった。

 

いつまでもおばあちゃんの家で生活するのも嫌だったから。おばあちゃんも私に気を遣って、私もあの人に気を遣うのが面倒になってきたから。

 

芸能界最大手が開くオーディションなだけあって、合格者には結構立派な待遇を用意してくれていた。中でも私は合格者達にはシェアハウスが与えられるという条件が気に入った。

 

だからこのオーディションを受ける事にした。リバドルを見て、いつかアイドルになろうと思ってたけどタイミングを今にしたのはこの条件があったからだ。

 

今まで歌もダンスも、特に練習したことはなかった。演技に関しては色々やってたけど、両親がやっていた事をマネしていただけでほぼ独学だ。

 

けど、特に不安はなかった。人通りの多いところを歩けばスカウトみたいな人に声をかけられることはよくあったし。実際客観的に見て、私より可愛い子なんて今までの人生で会ったこともなかった。

 

オーディションを受ける段になっても、それは変わらなかった。ランダムに割り当てられたグループで一番可愛かったのは私だったし、歌もダンスも飛び抜けて凄い人はいなかった。だったら1番可愛い私が勝ち抜くのは当然だろう。

 

最終審査まで特に障害もなく通過した。最大手のオーディションといってもこんなものか、と思っていた。

 

しかし、流石に最後まで生き残ったメンツは今までの人達とは違った。

 

みんな歌も上手いしダンスもできる。ビジュも良い。中でも別格が私の他に4人。

 

不知火絆。

星野希望。

黒川瞳。

黒川琥珀。

 

この4名がずば抜けていた。容姿だけじゃなく、実力も。この4名に比べれば私は普通と言ってしまっても過言じゃなかった。

 

この判断は正しかったと試験官によって証明される。ここまでの試験の成績上位者にのみ役割が与えられる。キャプテン。中軸。センター。全てこの四人から選ばれた。

 

私も一応一列目。だけど役職は与えられなかった。

 

───癪だけど、今はこの4人に従った方が得策

 

全体練習に参加した。二列目以降に場所が振られた突っ張ってる子は参加しなかったけど、私は参加した。その方が試験官の印象も良くなると思ったし、あの4人のパフォーマンスを近くで見れると思ったから。

 

そしてやっぱりあの4人は別格だった。最終選考に残った実力者達の中で明らかに抜けているのが全体練習だけでもよくわかった。

 

でも、それだけだった。

 

───あの人とは違うな

 

私の人生を救った人。あの暗い小さな世界で死んじゃおうかと思ってた私に光をくれた人。私の光だったあの人とは、やっぱり違った。

 

あの魂ごと鷲掴みにされて引き摺り込まれるようなオーラは、あの4人にはない。

 

そう、思っていた。

 

───えっ

 

全体練習の時と、明らかに違った。4人とも。鬼気迫る何かがあった。

 

不知火絆は何か大きな罪を背負って、その罰を果たすかのような。傷を背負い、受け入れ、さらけ出すような、悲壮な覚悟を感じた。

 

星野希望は楽しそうだった。期待していた何かを見られたような。もっと見たいと叫んでいるような。新しい希望の光を見つけたかのようなパフォーマンスだった。

 

黒川瞳は辛そうだった。欲しつつも恐れていた現実を突きつけられたかのような。自分では生涯超えられない壁の前に立たされているかのような。理想と現実の狭間で戦っているダンスだった。

 

そして黒川琥珀は───

 

正直なところを言えばまだ及ばない。私が何十何百何千と見てきたあの人には及ばない。

 

けれど、それでも。あの人を惹きつける何か。周り丸ごと引き摺り込むかのようなオーラ。魂ごと振るわせるかのような歌声。心が躍り上がるかのようなダイナミックなダンス。

 

そしてなにより、あの目の輝きは、まさしく───

 

 

「言っとくけどね。星野アクアは、ワタシの千倍凄いから」

 

 

最終審査のステージが終わり、舞台袖に引き上げた私の隣を通る時、私にだけ聞こえる声でそう呟いた。

 

 

 




最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

琥珀の本気に伴い、様々な感情が新しい星達の間で渦巻いています。台風の目となるのは琥珀か、それとも……

それでは励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければモチベーション爆上がりです。時間がかかっても感想には必ず返信します。
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