【本編完結】星をなくした子   作:フクブチョー

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新たな息吹が舞う季節
数多の夢を潰す二つの台風が合流する
一人は星をなくした子、一人は火を恐れぬ少女
太陽と闇が作るのは新たな銀河か滅びの深淵か



12th take 合流

 

 

 

「───というわけで、暫くはお二人に会える機会も減ると思います」

「ふーん、アッくん恋愛するんだぁ。へぇー」

 

事のあらましを話すとなんか一気にめんどくさい態度になった。まあ敢えてそういうムーブして楽しんでるんだろうけど、フォローする方は結構しんどい。

 

「するとは限りませんよ。ああいうの、くっつかない人の方が遥かに多いし、くっついても大概一年持たずに別れますから」

「アッくんって、そーやってすぐ別の女のとこに行くよね」

「スッゲー人聞き悪い。やめてくれません?」

「私たちなんてどうせ身体だけの関係よ。ね?ナナ」

「ナナさん巻き込まないでくださいよ。かけがえのない相談相手の一人なんですから」

「…………私はそれでいいと思ってるけど」

「ナナさん、乗らないで」

「いいのよ、貴方がどこで女作っても。私は別に気にしないから」

「ハルさん悪いけど言うわ。めんどくせぇ。こういう時サバサバしてるのがハルさんのいいとこだろ」

「サバサバしてる女子なんてこの世にいないよ。そういうふうに見せかけてるだけ。どうでもいい男子相手なら幾らでもサバサバしてあげるけど」

 

ふー、と一つ息を吐く。空を仰ぐその横顔はいつもより大人びて見えた。

 

「アッくんだとやっぱり話は別だった。こういう事、言いたくなっちゃった」

 

それを言われるともう何も言い返せない。仕事だからという言い訳で納得してくれるわけがないのは歴史が証明している。

 

───でも、ホントに珍しいな。ハルさんがこんな事言うなんて

 

オレをリアリティショーに出させたくない特別な理由でもあるんだろうか?疑似恋愛なんてこの人オレの100倍してるだろうに。なんかリアリティショーに特別なトラウマでもあるのか?それとも、何か他の理由が?

 

───ダメだ、答えはでない。現時点では情報が少なすぎる

 

考え込んでいると紅茶とクッキーを食べ終えたはるかが立ち上がっていた。

 

「ごめん、今日は帰る。紅茶ご馳走さま。じゃね」

 

性格上、不機嫌な顔は見せない。だが彼女にしては明らかに不満が見えた。理解はする。でも納得できない。言葉に言い換えれば、そんな態度だった。

 

「…………やっぱ断ろうかな」

 

ハルさんのことは好きだ。明るいし面白いし、綺麗だ。彼氏彼女になる事はまあないけど、これからも付き合いは続けたいと思う。貴重な相談相手の一人だ。その人にあんな顔をさせてしまうくらいなら。情報源は鏑木Pだけではないし。

 

「断っちゃダメよ、アクアくん」

 

独り言に応えたのはナナさんだった。予想が外れた。どっちかというと反対してくるのはナナさんで、賛成するのがハルさんかなと思っていたのに。

 

「今の仕事が即、次に繋がるなんてこと、普通は起こらないわ。恋愛リアリティショーって言えば今や世界中で行われてる若手の役者やアイドル、ミーチューバーの登竜門的番組。ここから名前を売った芸能人だっている。チャンスがあるなら逃しちゃダメ。次があるなんて思ってたらあっという間に奈落に叩き落とされるわよ」

「……………」

「私はわかってた。アクアくんと付き合うってことはこういう事も起こるって。それでも付き合いたいって思ったから私は此処にいる。言い方悪いけど、ハルは覚悟がなかったのよ。いつまでもアクアくんが可愛い弟分でセフレとしか思ってなかった」

 

でも、私は違うとナナさんは言う。

 

「貴方は私やハルとは違う。貴方は選ばれてる。芸能の神様か、偉人か、分からないけど、目に見えない何かに。選ばれなかった私たちにできる唯一のことは貴方の枷にならない事。枷になるっていうなら貴方はハルを切らなきゃいけない。そういう意味ではアクアくんも覚悟が足りない」

 

思わず息を呑んでしまう。ナナさんが甘い人だと思った事はない。特に音楽に関してはとてもストイックだ。だけど3年近い付き合いの中で、オレを窘めるような事を言った事はなかった。オレが甘いと言った人は今までいなかった。自分で言うのもなんだが、オレは自分には厳しい方だったから。

 

「アクアくん、自分に厳しくするのは得意だよね。自分が頑張れば良いだけだから。貴方は10の努力が12の結果で返ってくる人だし、努力する事も苦じゃないんだと思う。でも他人に厳しくするのが苦手。アクアくん時々クズだけど、根は優しいもんね」

 

優しくて、真面目で、感受性高くて、必要以上に他人の気持ちがわかってしまう。だからこそ他人に甘い。親しい人間には特に。

 

「なにを趣味として、なにを仕事にして、誰を友達にして、誰を異性とするか、選択しなきゃいけないときは必ず来る。どんな天才も、凡人でもね。私たちは二年前だった。アクアくんは今なのかもね」

 

息を吐くと同時に天井を見上げる。選ばなきゃいけない時。それはあの人にもあったのだろうか。天高い空の上で燦然と輝くあの星にも。オレがなんにも思い出せない。何度見ても他人にしか見えないあの天才にも。

 

耳元で息遣いが聞こえたとほぼ同時。フワリとした温もりが自身を包む。背中に柔らかく、温かい感触が押し当てられて初めて、ナナさんに抱きしめられたと気づいた。

 

「…………ごめん、ちょっと厳しかったね。アクアくん、まだ一応中学生なのに」

「プロに歳は関係ないです。それに甘かったのは事実ですから。オレも選ばなきゃいけない。たとえハルさんやナナさんでも、手が止まる理由になるなら切らなきゃいけない」

 

当たり前のような事で、当たり前じゃなかった。プロのピアニストを目指してきたナナさんでなければ言えない事だった。

 

「ありがとうございます」

「感謝してる?」

「…………なんかデジャヴ」

「大丈夫、今度は簡単なお願いよ」

 

ホントにぃ?という顔で背を抱きしめるななみを見る。アクアは結構疑り深い。他人を無条件で信じるということはまずしない。『人を見たら泥棒と思え』とまでは言わないが、世の中善人の方が少ないくらいには考えている。

そういう意味では、ななみはかなり信を置いている部類に入る。が、前科がある事柄となると、いかにななみといえど無警戒で接する事はできなかった。

 

「今日はうちに泊まっていって。今度は私のピアノを聴かせてあげる」

 

その日、アクアは2回演奏を聴いた。1度目は防音の施された一室で素晴らしい演奏を。2回目はベッドの上で喘ぐななみの(こえ)を。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は嘘で出来ている。

 

時々そんなことを思う時がある。ステージで演奏する時、店の客に作り笑いを返している時。日常を上手くこなすために、嘘を貼り付けて生きている。

 

それでも最近は思わなくなってきていた。嘘だって吐き続ければ真実になるように、いつのまにか嘘を貼り付けるのが当たり前になってしまったここ最近では、自分が嘘をついていると自覚することさえしなくなった。

 

けれど今、強烈に思い知らされた。

 

「───というわけで、恋愛リアリティショーに出ることになった」

 

私は嘘で出来ている、と。

 

アクアくん、恋愛するの?本気で?私との関係は?もう会いにきてくれないの?

 

口に出して言いたい事は山ほどあった。でも、言ってしまったら、もうアクアくんは私に会いにきてはくれなくなる。何もできなくなる。ピアノを聴くことも、聴かせてあげることも、彼に抱いてもらうことも、不安に震える彼を私が抱きしめてあげることも。

 

「アッくんって、そーやってすぐ別の女のとこに行くのよね。私たちなんてどうせ身体だけの関係よ。ね?ナナ」

「…………私はそれでいいと思ってるけど」

 

思ってもいない事を口にする。ああ、嘘だ。嘘をついているとまざまざと自覚させられる。

 

───そっか。人って愛があるから嘘をつくんだ。

 

ステージで嘘をついていた時は、自分のため。そして今は恋のため。愛する人を守る時、人は嘘をつく。それが自分か、他人かはその人次第だろう。多分、私は前者だ。ステージでも、そして今も、自分のために嘘をついている。

 

「アッくんだとやっぱり話は別だった。こういう事、言いたくなっちゃった」

 

ハルにしては珍しく、面倒な女のムーブをする。コレもかなり有効な手だ。普段は軽い女が、時折自分だけに見せる重い感情というのは特別感が増す。

 

───でも、アクアくんには悪手だ

 

自覚があるかどうかはわからないが、アクアくんはあまり他人と距離を詰めたがらない。真面目だし、優しいし、人と仲良くなる事は簡単にできる。でも、一定のパーソナルスペースは必ず確保している。だからセフレはいても本命はいない。友達がいても彼女はいない。そういう女が踏み込もうとして、どうなったか。何度も見てきた。

 

 

アクアくんは人を愛する事は得意だけど、恋する事が苦手なんだ。

 

 

───だからずっと踏み込んでこなかった。私もハルも。でも今回、ハルは踏み込んだ。

 

何でだろう。焦る理由でもあったのかな。空を仰ぐハルの表情は穏やかだったけど、不満と焦燥が伝わってくる。ハルのこれは演技じゃないだろうな、と思った。

 

「ごめん、今日は帰る。紅茶ご馳走さま。じゃね」

「…………やっぱ断ろうかな」

 

ハルが部屋から出て行った後、小さく呟かれたその言葉に動揺すると同時に昂揚する。

 

「断っちゃダメよ、アクアくん」

 

ツラツラと出てくる彼を想ったアドバイスのような言葉。もちろん本気の助言もある。ピアニストとして大成できなかった私だけど、本気で挑んだ挑戦から得た学びは沢山あった。彼に言った事に嘘はなかった。

 

けれど私の中に嘘はあった。100%アクアくんのことを想って言ったアドバイスではなかった。ハルに傾きかけた彼の心を引き込むための方便ではないのかと言われれば否とは言えなかった。

 

重い女として振る舞うのも戦略だが、私はハルの戦略を利用して自分の戦略を打ち出した。

 

私はハルが嫌いだった。昔も今も。

 

でも仲間だと思っている。昔も今も。

 

そんな仲間の失着を利用して、ちょっとだけ安堵してしまった私は、最低だろうか。

 

彼の温もりを身体の中で感じながら、身をよじり、声を上げる私の胸から罪悪感が消える事はなかった。

 

 

 

 

 

 

深夜の町。とある建物の前に一台の車が止まる。助手席側の扉だけが開いた。辺りの暗がりのおかげで顔は分からないが、体格は華奢。背格好から15〜6歳の少年だと推察できる。

 

「ここでいいの?明日学校の最寄駅まで送るよ?」

 

運転席に座る亜麻色髪の美女が少し不安そうに助手席から降りた少年を見上げる。流石にこの距離ならお互いの顔は認識できた。

 

「ありがとうございます、ナナさん。いいんですよ。明日の入学式はルビーと出席するって約束しちゃいましたから」

 

金のアシメヘアに星の瞳を持つ美少年は柔らかな微笑を浮かべる。その態度を可愛らしいと思うと同時に少し憎らしい。私と一緒に時間を過ごすことより、妹との約束を重くみた。それが少し悔しい。彼は私やハルより妹を優先する事が多い。みっともない嫉妬だとわかってはいたが、何か負けたみたいでいい気はしなかった。

 

「…………ね、次はいつ会える?」

「そうですね……いつ、と明言する事はできませんけど、リアリティショーが落ち着いたら、必ず」

「…………わかった」

 

アクアがこちらへと手を伸ばす。意図がわかったナナはシートベルトを外し、ウィンドウに身を少し乗り出した。

 

顎を優しく引き寄せられ、唇が重なる。ついさっきまで幾度も交わしていた熱く深いモノとは異なる、けれど親愛が込められたキスだった。

 

「おやすみ、ナナ。貴方が夢の中でオレと会ったことを忘れませんように」

「…………こういう時に作詞家が本気出すの、ずるいわよ」

 

顔が熱くなる。深夜の闇の中でも、頬の紅潮がわかった。

 

「おやすみ、アクア。良い夢を」

 

彼のように気の利いたセリフは言えない。なら行動で返す。首を抱き寄せ、もう一度、さっきより深く、情事の時より熱いキスを返した。

 

ウィンドウを閉じ、家路へと車をスタートさせた。逢瀬が終わってしまったことを残念に思いつつも少しホッとする。彼といる時は少しでも綺麗で、凛々しくて、優しく、エロいお姉さんを演じなければいけない。緊張からの解放による疲れと安堵で軽く息を吐く。バックミラーを覗くと、こちらを見送るアクアが小さく手を振っていた。

 

───ホント、ずるいわね

 

そして我ながらチョロい。こんな事で嬉しくなってしまう。少し濡れた唇を指で撫で、撫でた指を舐める。ゾクっと背筋が震えた。まるで媚薬か魔法にでも罹ったかのようだと震えた自分を嘲笑う。

 

車が見えなくなるまで、魔法使いは見送りをやめなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

限りなく呼吸音に近い、小さな溜息。少し疲労もあった。あの人達と接する時は嘘をつかなくていいから楽だけど、楽な関係だからこそグサリと来ることも言われる。オレは甘い。オレに覚悟がない。そんな事を自覚させてくれるのはあの人達だけだ。

 

───無くしたく、ないなぁ

 

たとえそれぞれに彼氏が出来て、セフレでいられなくなる日が来るとしても、友達であってほしい。心の底からそう思った。

 

「お帰り」

 

耳慣れた声が背中から響く。声主が誰かはわかったが、なんで?と思う。なんでこの人がここにいる?こういうことにならないように、わざわざ自宅から少し離れた場所に送ってもらったというのに。

 

今度は大きく息を吐く。このタイミングで現れたんだ。一部始終を見られていただろう。下手な言い訳は愚の骨頂。何事もないかのように、振り返った。

 

「ただいま、ミヤコ」

「お早いお帰りねぇ。しかも家からこんなに離れた場所で。まあ歩いて10分ってとこかしら?」

「よくわかったな」

「この時間だもの。電車は動いてないし、車通りは少ない。なら大きい車道近くから来るだろうなって」

「外泊してる可能性もあったろう」

「それはないわ。貴方、ルビーとの約束は守るもの。その辺は信用してるわよ」

 

信用している部分としていない部分、二つを照らし合わせた結果、というわけか。なるほど、この人らしい推察と行動だ。

 

「安心なさい。別に責める気ないわよ。ウチは異性関係に関して、そこまでうるさい事務所じゃないし。男は若いうちに遊んでおくべきだと私は思うし。ただ、帰りが遅くなるなら私にだけは連絡しなさい。心配するでしょ?」

「母親か」

「母親よ」

 

強い瞳でこちらを見つめる。虚勢でも思い込みでもない。強い自信がこもった瞳だった。この目から逃げられない。両手を挙げた。

 

「参った。オレの負けだ。悪かった。コレから夜に帰る時はアンタにだけは連絡入れる」

「そ、なら許すわ」

 

クルッと踵を返し、歩き始める。もっと文句言われると思っていたアクアはそのあっさりとした態度に思わず呆気に取られた。

 

「何してるの、帰るわよ」

 

歩きながら、ミヤコの背中がブルッと震える。もう4月とはいえ、夜はまだ流石に冷える。ストール一枚では寒いだろう。足早に義母に追いつき、上着をかけた。

 

「…………他の女の匂いのする上着ってイヤね」

「気に入らねーなら返せ」

「しょうがないからコレで我慢しておいてあげるわ」

 

肘に手をかけてくる。夜の街を歩く美魔女と美少年はバリキャリが少年にイケナイ事を教えてそう。少なくとも親子には見えなかった。

 

「あ、あと責任取れないようなこともするんじゃないわよ。貴方もアイの二の舞はイヤでしょ」

「その辺はご心配なく。ちゃんと飲んでもらって、ちゃんとつけてますから」

「私とも寝てみる?」

「勘弁してくれ。多分勃つ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月上旬。桜が咲き、多くの学生が新たな環境に身を投じる時期。新しい制服に身を包み、少年少女はまた一つ人生の階段を上がる。

星野ルビーとアクアももちろん例外ではない。私立陽東高校で執り行われる入学式。新しい環境での3年間を学ぶ事を許される儀式に二人とも出席していた。

 

「入学おめでとう、アクア──あとルビー」

 

入学式が終わった後、体育館の外で待っていたのは、かつて天才子役と呼ばれた童顔の少女。アクアとルビーより一年早く入学している、所謂先輩にあたる。

 

「オリエンテーリングでもしてるのか?有馬先輩」

「先輩として忠告と助言をしてあげるのよ、星野後輩。ウチは芸能科のある学校っていっても、普通の高校との違いは授業日数に融通が効く程度。赤点取ったり出席日数足りなかったりしたらフツーに留年するし、カリキュラムに差もほとんどない」

 

仮にも学舎としての施設。必要以上の特別扱いはしてもらえないし、許されない。学生である以上、その本分が勉強であることに違いはない。

 

「けど勿論、一つだけ、決定的に違う事があるわね」

 

庭を歩く男は俳優

 

木陰で談笑している女の子達は最大手アイドルグループのメンバー

 

ベンチに腰掛けるスタイルのいい女子はモデル。

 

他にも声優、配信者、ファッションモデルに歌手、果ては歌舞伎役者まで、多種多様な業界人、もしくはその卵達がひしめいている。

 

とある業界人がこう言った事がある。芸能界は規模の大きな学校のようなものだ、と。

 

「ここは日本一観られる側の人間が多い高校。この世界に足を踏み入れた時点で、貴方達は引き返せない道に踏み出したことになるわ」

 

そう、ルビーも事務所と契約している芸能人。一般科のアクアはともかく、ルビーは少なくとも3年、芸能界からドロップアウトする事は許されない。

 

「歓迎するわよ、後輩。芸能界へようこそ」

 

 

 

 

 

 

 

美形には大きく分けて二つのパターンがある。

 

一つは親しみやすい、誰とでも仲良くなれる美形。

 

社交的で、明るく、朗らかで人に好かれる。今風に言うと会いに行けるアイドル系の、イケメンと呼ばれる存在。

 

そしてもう一つは近寄りにくい、高嶺の花の美形。

 

イケメンとは少し違う。整いすぎていて、自分とは違う人種にさえ見えてしまう、人間というよりはグラフィックや彫刻に近い、神秘的なオーラを持つタイプ。

 

星野アクアはどちらも演じる事ができるが、学校では前者を選ぼうと思っていた。この高校の普通科を選んだのは普通の高校生を経験するため。そのためには容姿をフルに利用して手っ取り早く男女の友人を作り、交流を深める事が必要だと考えていた。その方が人間観察はやりやすいし、いろんな人の感情を見て、聞いて、感じる事ができる。

 

───そう、思ってたんだけどなぁ

 

今、アクアの周りに人はいない。誰もが彼の座る席を避けるように円を作っている。円の中心にいるのは星野アクアのみ。

 

そう、このクラス、1ーAでは。

 

「えっ、なんで……もしかしてあの二人、知り合い?」

「うわ、ちょーキレー。テレビなんかよりずっと美人」

「でも、アイツも負けてなくね?」

「あそこだけ顔面偏差値最強すぎる」

 

星野アクアが座る席のひとつ前。本来一般科の生徒が座るべき椅子に1ーF。つまり、芸能科の生徒が座っていた。

 

「ここ、座っていい?」

「ははははいっ!?もももちろん!?」

「ありがとう………はじめまして、星野アクアさん。ようやくお会いできましたね」

「貴方に名前を知ってもらっていたとは、光栄です。あと、敬語は結構ですよ、不知火フリルさん」

「では、アクアと呼ばせてもらうわね。私のこともフリルでいいわよ」

「では、フリルさんと」

「さんもいらないわよ」

「流石にそれは……」

「なら、私がマリンと呼べば、呼び捨てにしてくれるかしら?」

 

ピクっと眉が震える。その一言は無視するにはあまりに大きすぎた。

 

───あのPV、出回りすぎじゃねーか?それとオレの女装、結構ヌルいか?カントル時代は疑われたことすらなかったんだが。

 

しかしそんな事を言っている場合ではない。アレが見破られたというならば、無視するわけにもいかない。

 

「───わかった、フリル」

「ええ、よろしくアクア。貴方とは長い付き合いになりそうね」

 

握手を求められる。握った手に力は感じなかったが、ジンと何かが身体の中に響いた。自分より遥かに華奢な身体が大きく見える。その光の眩しさと熱量はまさに火と呼ぶにふさわしい。油断すれば焼き殺されかねない、オーラ。

 

───コレが、同世代のトップ中のトップ、不知火フリル

 

アクアが熱気と存在感に圧倒される中、黒髪の少女もまたアクアのオーラに戦慄していた。

 

───映像とはまるで違う。見れば見るほどわからない。見れば見るほど興味深い。興味が尽きないほどに美しく、畏ろしい仮面

 

全てを飲み込むかのような、不気味なオーラ。だからこそ引き立つ、眩い輝きを宿した瞳。全てを呑み込む闇だからこそ、一条輝く星の光に目を奪われる。

 

───コレが、星野アクア。闇と光が同居する新星

 

今の芸能界から日本中を照らす輝きを放つ太陽、不知火フリル。

 

11年前に起こった、記憶喪失(ビックバン)によって生まれた、今は闇に包まれた新星、星野アクア。

 

最高の光と最深の闇が、ついに出会った。

 

 

 

 




後書きです。最新話ヤバいですね。ゴローだからこその展開多すぎでピンチです。なんとか頑張りますのでよろしくお願いします!それでは励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします。
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