招待状を持たぬ異邦人がその戸を叩くだろう
招かれざる客に扉を開けてはいけない
火を知らぬ少女の炎は貴方を焼き尽くしてしまうから
「やっぱダメね、私たち」
東京。とあるライブハウス。演奏を終えた寿ななみと鷲見はるかは楽屋で手足をだらしなく伸ばして、今の感想を述べた。
「ダメって何が?人はそこそこ来てたし、盛り上がったじゃん」
「そこそこね。半年前はそこそこなんてもんじゃなかったでしょ?」
そう、自分で言うのも何だが、私たちはロックの世界では上手い部類に入る。演奏も、歌も。ルックスも。だからそこそこ人気があった。今も、今までも、別のバンドにいた時も。
でも、明らかに違うんだ。熱量も、熱気も、注目も。あの時とは。
「アクアくんがいた時とは比べ物にならない」
そう、三人がいたあの時とは、まるで違う。
それを指摘すると、ハルにしては珍しく、不快感をあらわにして舌打ちした。
「あのさぁ、それわざわざ指摘してなんになんの?アッくんが辞める時、私達は納得して送り出したじゃん」
そう、カントルの人気絶頂期。一度だけメジャーデビューの打診が来たことがあった。まだ本決まりではなかったけど、やってみないかと言う話だった。
しかし、その話が来た時、アクアくんはすぐにカントルから抜けた。
「オレはロックで大成する気ないし、モチベーションはパフォーマンスに出ます。それにメジャーデビューするなら女性ドラマー、マリンのままではいられないでしょう。カントルは美少女のみで構成されたバンドっていうのも強みの一つですし。話を受けるなら結成時に約束した通り、オレは抜けます。大丈夫。ナナさんとハルさんならやれますよ」
そう言ってマリン……いや、アクアはカントルをやめた。その時私もハルも特に問題視はしなかった。万が一、こういう話になれば辞めるというのは組んだ当初から言っていたことだ。有言実行。寧ろ妙な欲や願望でダラダラ居座られなくて良かったとすら思っていた。バンドにとって、ドラムは欠かせない存在だけど、技術さえあれば代わりは効く。ドラムはバンドの伴奏。伴奏者が大きく目立つ事は少ない。大手レーベルから代わりの女性ドラムスも送ってもらえる事になっていた。問題ないと思っていた。
しかし、現実は違った。
レーベルの人が送ってくれたドラムスは上手かった。多分アクアくんよりずっと。でも、それだけだ。上手いけど上手いだけ。三人が合わさった時のあの一体感、グルーヴ感、熱量、化学反応。1+1+1が10にも100にもなる感覚がなかった。
観客は正直だった。マリンが変わった途端、一人また一人と減っていき、いつのまにか私やハルがアクアと組む前程度の数にまで減っていた。メンバーが変わって、メジャーデビューはしばらく様子見されていたのだが、もうほぼ絶望的だった。
【
「解散しよう、ハル。私達は選ばれなかったんだよ。神様か、他の何かはわからないけど、そういう目に見えない何かに。もう私達高校も卒業だし。ちょうど良い機会だったよ」
「…………そうね。音楽は好きだし、一生音楽に関わって生きていきたいとは思ってるけど、ロックはもう潮時かもね」
「あーあ。世の中って不公平だよねー」
音楽に本気でぶつかっていた私達が選ばれず、趣味や腰掛けにしている人間が選ばれていたりする。二兎を追って、二兎を得てしまう人間がいる。天は与えるところには二物も三物も与えている。才能とは望んだところに降りてくるわけではないのだ。
「【
こうして、カントルは解散となった。アクアくんにも正式に解散することを告げた。残念がっていたけど、二人が決めたのなら仕方ないと言ってくれた。最後に解散ライブに出てくれと頼んだら、快諾してくれた。
ライブハウスに帰ってきたアクアくんはかなり大きくなっていた。私よりも低かった背が今は超えていたし、声も少し低くなっていた。それでもまだ高音は出せるみたいだし、ドラムだから歌は目立たない。素性を明かさなくていいなら、まだマリンは演れると言って、ウィッグを被った。
「おはようございます!今日はよろしくお願いします!」
「…………貴方が、私たちの対バンの…」
「はい!渡辺あやか言います!私たちも女性3Peaceバンドです!カントルにはずっと憧れていました!対バンできるなんて、ホンマに光栄です!今日は胸をお借りします!」
「はは、関西弁かわいいね。こちらこそよろしく」
握手を求めてきたのは亜麻色髪をお団子にまとめた可愛らしい女の子。歳はハルやナナより少し下。アクアとほとんど変わらないくらいだった。握手した感じ、指先が硬い。多分ギターボーカルだなと思った。
「…………なにが胸を借りるよ。嫌味ね」
「嫌味?」
「あの子達、今度私たちに声かけてきたレーベルでメジャーデビューするらしいよ。謂わば後釜ね。私達ができなかったから」
「…………なら、負けられないね」
マリンがスティックをクルクルと手の中で回す。バンドは辞めたけど、ずっとカントルの応援はしていた。ハコにも何度か足を運んだ。彼女達の音も聞いたことはあったが、客観的に見ても、ナナさんやハルさんの方が上手かった。
「行こうか、ハル、ナナ。自由な
メジャーデビュー直前に立った舞台より遥かに小さく低い舞台。けれどどのステージよりも熱く、世界と溶け合うかのようなハーモニーの一時だった。
▼
人身御供を差し出したその日の夕方、というよりは午後。アクアはとあるスタジオに向かっている。来週から参加する恋愛リアリティショー【今からガチ恋始めます】。その初回直前の顔合わせ兼メディア用PV撮影で呼ばれていた。
参加者は全員で7名。アクアを含め、男子三人。女子四人の構成となっていた。わざわざ奇数にしているあたり、プロデューサーの性格の悪さが出ている。三角関係や男女トラブルが起こりやすいよう作られている。
───参加メンバーはみんな若手の芸能人
皆18歳未満の未成年で、まったくの無名、ではなく少しずつ名前が売れ始めた、まさに売り出し中の有望株を集めていた。まさに若手芸能人の登竜門。ここで名を売ることができれば、大きな躍進へと繋がる。
───………ん?
苺プロの事務所を出てしばらく歩くと歩道のすぐ横に車が止まる。可愛らしいワンボックスカーだ。思わず足を止めるとウィンドウが開いた。
「…………ハルさん」
「やほ、アッくん。今日撮影でしょ?乗りなよ。近くまで送ってあげる」
何で撮影日知ってんだよと思ったが、すぐに理由に思い至る。この人の血縁も今日参加するのだ。なら知っていても不思議ない。
逃げられないと悟ったのか、それとも違う理由か。黙ってアクアは扉を開き、助手席に腰掛けた。
しばらく無言で車が走る。何から話せばいいか、わからなかった。
「…………あの、ハルさん」
「んー?なにー?」
「まだ怒ってますか?」
あの日、リアリティショーに出演すると伝えた時、ハルさんは確実に怒っていた……いや、少し違うか。イヤそうにしていた。
「やぁね。別に怒ってないよ。あの時も、今もね」
「資料届いてやっと渋ってた理由が解りましたよ。一瞬同じ苗字なだけかとも思ったんですけどね」
資料に記載されていた共演者に見覚えのある名前があった。苗字は全く同じ。名前にも少し繋がりを感じる。ハルとユキ。どちらも季節を連想させる。
「鷲見ゆき。以前ハルさんから聞いたファッションモデルの妹さん。まさか共演する日が来るとはオレも思いませんでした」
「…………」
笑みを浮かべたまま、黙り込む。雄弁な沈黙だった。
「…………ゆき、私の妹さ」
「はい」
「私の妹だけあって、色々立ち回り上手いっていうか、強かというか、テクニカルなんだよね」
「想像できますね」
ハルさんは社交的だ。明るくて可愛くて、誰にでもモテるタイプ。複数の男子と同時に付き合う、なんて事も幾度かあった。だが大きな問題を起こした事はアクアが知る限り、ない。どうすれば波風立たないか、どうすれば相手をメンヘラにまではしないか、よく心得ている。人との立ち回りという点において、ハルさんに学んだ事はアクアも多い。妹ならば尚更だろう。
「でも、あの子は私と似ているとこも多いけど、似てないところもあるんだ。当然よね、私とゆきには同じ血が流れてるけど、別の個人なんだから」
「当然ですね。オレにも双子の妹いますけど、容姿以外はまるで似てませんよ」
同じ家庭で、同じ環境、同じ教育を受けても、人は違う人間になる。だから面白いし、だから興味深い。
「…………ねぇ、アクア」
「──ハル」
「私ね、貴方が誰と付き合おうがセフレになろうが、文句を言うつもりはないの。私だって今まで好きにしてきたし。どんな女と何をしようと、私はアクアが好きだから」
「オレもハルが好きだよ」
「ありがと。だから貴方がゆきと付き合っても、私は構わない。妹の相手がアクアなら嬉しいとすら思うくらい」
「…………」
「でも、もしあの子と付き合うなら、彼氏彼女の関係になるなら、私と貴方のような関係にはしないであげて。付き合うならちゃんと恋して付き合ってあげて。あの子は私と違うの。私は飽き性だけど、ゆきはこうと決めたら結構一途だから」
ハルが見ている限り、ゆきは今まで夢を追いかけるのに必死で男と付き合ったことすらないはずだ。ハルの背中を見て育ってきただけあって、立ち振る舞いは軽いし、男遊びもしてそうだけど、中身は姉とは違う。あの子が男と付き合うとすれば、それはちゃんと相手に恋している時だけのはずだ。
「それを約束してくれるなら、私はアクアがリアリティショーに出る事、何も言わない。今まで通り、貴方の相談相手で、セフレでい続ける。私も貴方との付き合いをなくしたくないから」
アクアとハルは同じバンドで苦楽を共にした仲。一年以上、仲間であり、戦友だった。男と女というより、悩みを分かち合い、快楽を貪り合う関係。よく言えば気の置けない友人以上。悪く言えばなあなあ。人によっては互いが互いをキープしているかのように見えるだろう。
しかし、気軽に男女の関係でいられて、それぞれがいろんな場面で都合良く使える存在を、二人とも貴重に思っていた。
「…………オレは、結構気分屋だ」
「知ってる」
「場当たり的に動く事も多いし、その場のひらめきで行動してしまう事もある」
「そのくせ完璧主義で、秘密主義。理性的に見えて意外と破天荒。目的のためなら必死に積み上げてきたものを一瞬で捨てることができる人」
「ははは…流石、大変よくご存じでいらっしゃる」
一年と少し、同じユニットで活動し、苦楽を共にしていただけのことはある。最近はその傾向が特に顕著だ。ドラマではアドリブしまくったし、PVでは現場をぶち壊した。
「だから、このリアリティショーでオレがどんな行動に出るか、その結果、何を引き起こすか、オレにも予想はできない」
「うん、わかるよ。リアリティショーって台本ないらしいからね」
「でも、約束する。鷲見ゆきと付き合うことになるとすれば、その時はなあなあで済ませることはしない」
「じゅーぶん。すぐ別れたって全然いいから」
「じゃあ、仲直りしてくれるか?」
少し不安と緊張が声に出る。それに気づいたのか、車が止まった時、ハルさんの口端に笑みが上った。
「私は元々喧嘩してたつもりはないんだけど……ごめんね、変な空気にしちゃって」
「ありがとうございます」
唇が重なる。サラッとした花の香りが鼻腔をくすぐった。
▼
「おはようございます」
スタジオに入り、受付を済ませると、アシスタントらしき人物が現れた。そのまま案内された部屋へと入る。部屋には既に五人が待機していた。アクアは六人目だった。
「おはよう、星野くん。好きなところにかけて」
オレで六人目。つまり参加者のほとんどは来ている。参加メンバーの中で唯一気になった名前の主をさりげなく探す。そして一眼でわかった。よく似ている。
───鷲見ゆき……彼女がハルさんの妹
お嬢様カットに、フワッとウェーブのかかった黒髪。卵型の大きな瞳と少しモードな衣装が特徴的。体型はスレンダー。美人というよりは可愛いという表現が似合う少女だ。
───オレのことは知らないようだが…
宣伝用の集合写真ではオレの右隣だったのに、特別なリアクションはなかった。まああのハルさんがたとえ妹といえど、言いふらすような真似をするとは思ってなかったが。
───それでも、あまり迂闊なことは言えないな
ハルさんの妹なんだ。カントルのライブに来ていた可能性は高いし、下手なことを喋ればオレがドラムだったこともバレる。ハルさんにはああ言ったが、オレが彼女とどうかなる可能性は極めて低いだろう。むしろ彼女とは出来るだけ距離を取ろうと決めていた。
「星野アクアさん、ですよね」
隣に腰掛けていた少女が話しかけてくる。肩近くまで伸ばした青みがかかった黒髪。凛々しくも柔らかい瞳。モデルやアイドルというよりは、こっち側の匂いのする少女だ。宣伝用の写真撮影でオレの隣にいた。名前は確か……
「黒川あかねです。ララライという劇団で舞台役者をやらせてもらっています」
───劇団ララライ
オレはどっちかというとカメラ演技の役者のため、舞台についてはあまり詳しくないが、ララライは知っている。舞台系の劇団の中では屈指の実力派集団。そこの舞台役者というなら彼女も相当の腕だろう。
「あの、お会いできて嬉しいです。私、子供の頃からずっと演技の稽古しかしてこなかったので、こういうのでどうしたらいいかわからなくて……それでも同業の方がいてくれて、安心しました。よろしくお願いします。どうか仲良くしてください」
───あんま、そんな感じには見えないが
一流特有の、技術に裏打ちされた自信というものを彼女からは感じない。仮にも歳上だというのに、ずいぶん腰が低い。役者なんて基本根拠のない自信家が多いのに。彼女は究極に謙虚なのか、完璧に隠しているのかのどちらかだ。
「星野さんも──」
「ごめん、苗字で呼ばれるの、慣れてないんだ。アクアと呼んでほしい。黒川さん」
「あっ…!あの、では……アクアさん、と」
視線を逸らし、軽く頬を染めながら辿々しく名前を呼ぶ。演技には見えなかった。だとしたら、ちょっとクサい。男慣れしていないのだろうか?美人なのに少し意外だ。
「オレも貴女を名前で呼んでいいかな?これからしばらくは一緒に仕事するんだし」
「あっ、はい!勿論です!」
「じゃ、オレに何か用かな?あかね」
「あかっ、」
呼び捨てにされたことに少し動揺する。けれど、自分で名前で呼んでいいと言った手前、今更拒否もできない。人とは一度許してしまうと2回目からはNOと言いにくい生き物だ。呼び方をこちらで決めることで優位を作り、距離を詰める。どちらかといえば歳下相手に使う戦略なのだが、腰の低い相手にも有効だ。
「オレの名前と顔を知ってるってことは、もしかして『今日あま』観た?」
「あっ、はい!拝見しました。かなちゃ……有馬さんが出てたから気にしてたんですけど」
「はは、流石は元天才子役。注目度高いな」
「でも、あのドラマで一番強く光っていたのはアクアさんでした。素晴らしかったです。まるで周囲丸ごと食べちゃうような演技……まるで昔のかなちゃんや姫川さんみたいな…」
「かなちゃん…それに姫川?」
「ああっ、すみません!なんでもないです!」
聞いた事あるような無いような名だ。ララライの役者さんだろうか?オレはカメラ演技専門で舞台役者に関してはちょっと疎い。
「アクアさんは、子供の頃から役者を?それともアレが初仕事?」
「一応デビューは子役。3歳の頃にちょい役で映画に出させてもらった」
「やっぱり。随所に光る細かいテクニックから長くやられてる方だと思ってました。私も子役からなんです。5歳から」
「それは長いな……てゆーか敬語やめてくれよ。一応あかねの方が歳上だろ?」
「いえ!芸歴で言えばアクアさんの方が先輩ですし!」
芸能界は年功序列ではない。先輩後輩は芸歴で分けられる。オレは13年。あかねは12年。一応オレの方が一年先輩ということになる。あかねの態度は間違っていない。しかし、今まで自分に敬語を使う業界人はいなかったため、少し違和感があった。
「ま、言葉遣いくらいで人との距離は変わらないか。好きに呼んでくれ」
「はい!アクアさんとも是非一緒に仕事したいです。もちろん演劇で!」
「ありがとう。オレもあかねと演ってみたいよ……それにしても、遅いな」
時計を見る。集合時間はすでに過ぎていた。待つのあんまり好きじゃないため、結構ギリギリに来たのに。(←新人にあるまじきスタンス)
「全員で7人でしたよね。あと来てないのは……あの茶髪にお団子ヘアの」
「渡辺あやか。大手アイドルグループセンター。元バンドマンで一度メジャーデビューも経験したギターボーカル」
「詳しいですね、調べたんですか?」
「いやハコで結構話題になってたことがあって──」
そういや今はバンドやってないんだな。そんで現在大手アイドルグループ所属ってことは、メジャーデビューうまくいかなかったか?まあ良くある話だが。
「…………ハコ?」
「ンンッ、事務所!事務所で話題になってたことがあって!その、オレん家一応芸能事務所だから」
危ない。人の名前忘れっぽいオレだが、流石にあの解散ライブの対バン相手くらいは覚えている。宣材撮影の時もいたし。相手はオレの事をわかっていなかったようだが。まあそれも当然だ。彼女との初対面の時、オレはマリンだったから。気づかれていたらえらいこっちゃ。だが直前までハルさんと話をしてた事もあって、ついポロッと漏れてしまった。咄嗟についた嘘にしては結構上出来だったと思う。その証拠に、あかねもあまり疑わずに信じていた。
「そうなんですね。事務所の名前は?」
「苺プロダクション」
「…………聞いたこと、あるようなないような?」
「はは。素直に無いって言ってくれていいよ。ホントに小さい事務所だから。オレも身内が社長やってなきゃ入ってなかっただろうなぁ」
扉が開く。最後の一人が来たのかと思ったが、現れたのは男性だった。歳は三十を超えるかどうかといったところ。恐らくADだろう。オレ達よりは歳上だが、世間一般では若手と呼ばれる人物だ。
「皆さん、集まってますね。おはようございます。それでは早速、打ち合わせに入りたいと思います」
「待ってください。渡辺さんがまだ……」
「渡辺あやかさんは今回、出演をキャンセルされました。急遽別の仕事が入ったとかで」
出演者たちの空気がざわつく。オレも少し動揺していた。女子4人に男子3人の奇数組み合わせでは問題があるとは思っていたが、宣伝用のポスター撮影もやった後にドタキャンするとは。少し予想外だった。
「ああ、ご安心ください。渡辺さんの代わりにスペシャルゲストの参加が決定しています。ですから今回、メディア用の宣材撮影とPV撮り直しますので、よろしくお願いします」
「スペシャルゲスト?」
「ええ。本人たっての希望でして。多忙な方なので少し遅れているそうですが……お名前は──」
「遅れて申し訳ありません。集合時間には間に合わせたかったんですけど」
ADの言葉を遮るように扉が開く。そして現れたピンチヒッターが誰かを認識した面々が声を上げる。アクアもしばらく開いた口が塞がらなかった。
▼
鷲見ゆき
大手事務所に所属するファッションモデル。看板モデルの影に隠れがちだが、近年徐々に雑誌などの掲載も増えつつある。高校一年生。
熊野ノブユキ
Japan spirits family、通称JSFに所属する、ブレイク系を得意とするダンサー。お調子者なところもあるが、そこも彼の長所。高校2年生。
黒川あかね
劇団ララライの役者。舞台劇界では天才と名高い若きエース。舞台の外では少々引っ込み思案なところがある。高校2年生
森本ケンゴ
インディーズからメジャーへと這い上がったバンドマン。作曲を担当している。マッシュヘアーが特徴的。高校三年生
MEMちょ
メルヘン系ユーチューバー。天然おバカキャラでプチバズりを繰り返し少しずつ知名度が上がりつつある。18歳?
星野アクア
役者。デビューは13年前。映画に子役として出演。以来無名だったが、ネットドラマ『今日あま』で一部業界に話題を呼んだ俳優。高校1年生。
渡辺あやか
関西出身のアイドル。大人数グループのセンター。元バンドマンで歌唱力に定評あり。高校2年生
以上7名で執り行われる恋愛リアリティショー、【今からガチ恋始めます】。芸能活動をしている高校生がさまざまなイベントや行事を通じて関係を深めていく──様子を楽しむ、
───はず、だったんだけどなぁ
撮影初日。各々の学校の制服を身にまとい、自由に会話をしなければいけないはずなのに、誰一人言葉を発する事は出来なかった。
それもそのはず。本来なら呼ばれていないはずの人間が、この場にいてはいけない人物が、演者達の中心に座っていた。
そう、このリアリティショーは若手の有望株、つまりまだ名前が売れかけている芸能人達が呼ばれる企画。言うなれば甲子園をめざし、プロを夢見る高校球児。その中でも地元少年野球チームではエースで4番を張れる程度の選手達の舞台。県予選のようなものだ。
そんなところに甲子園どころかNPBでホームラン王で二刀流で完全試合達成したかのようなトップ中のトッププロが代打で入場してきたら、高校球児達はどうしていいかわからないだろう。リアリティショー参加者達はいつ爆発するかわからない核弾頭の前に立たされているかのような、錯覚に陥っていた。
ここでこの核弾頭の爆発処理に挑むことが出来るものなど、頭のネジが飛んだやつか…
「やぁフリル、千年ぶり」
「貴方に会えない半日は千秋に値する時間だったよ、アクア」
彼女と同等のポテンシャルを持った天才か
穏やかな風に吹かれる黒髪の美少女の前に、太陽の光を眩く反射する蜂蜜色の髪に、星の輝きを宿した瞳の美少年が座り込む。
不知火フリルと星野アクア。
この先、幾度となく比較され、並び称される二人の第一歩。記念すべき初共演企画。恋愛リアリティショー『今からガチ恋始めます』が始まった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。GWが終わりますね。明日から皆さんがんばりましょう!皆様の日常のひとつの彩りにこのSSがなってくれれば幸いです。
以下後書き。渡辺あやかさんはオリキャラですが、一応原作登場人物。今ガチ編冒頭の宣伝写真に写っていた森本ケンゴの隣にいた女の子です。あの子一体何者だったんだろう。名前は筆者がなんとなく考えました。
そして高校野球の代打にメジャーリーガーが現れました。才能を秘めたエース、アクアはどのような投球内容をみせるのか。それでは励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければ幸いです。