【本編完結】星をなくした子   作:フクブチョー

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真実を騙る見世物小屋
火と星は小屋を支える方へと回るだろう
降りてはいないステージに上がってはいけない
貴方にまだ配役はされていないのだから


20th take それぞれの立ち位置

 

 

 

 

『今ガチ』が始まり、数週が経った。芸能活動をしている高校生たちが放課後に集まり、様々なイベントを通じ、交流を深めていくリアリティショー。番組が始まった当初、当たり前といえば当たり前だが、中心にいたのは不知火フリル。そして唯一渡り合える星野アクアだった。

 

しかし、初回に彼女自身が言った通り、彼女はこの番組の中心に立とうという気はないらしい。フリルはMCを務めるアクアと共に、徐々に番組を支える方へと回り始めていた。今ガチでは放課後に男女がトークするだけでなく、男女対抗で争ったり、または男女混合でゲームを楽しんだりする事もあった。

 

そういう時、フリルとアクアは率先してイベントの口火を切り、メンバーがイベントに慣れてきたら他の人間たちが中心になるよう、裏方や支える方へと回っていた。

 

例えば、先日、男女混合チームでバスケの3on3勝負を行った時──

 

「じゃあマークは男同士で俺が──」

「11番には私が着くね」

「へ?え、ちょっと───!?」

 

ノブが作戦を話そうとした時、背中まで伸ばした艶やかな黒髪をポニーテールに纏めた少女が相手チームの選手へと近づく。白のゼッケン9番がこっちに来ていることに気づいた煌めく蜂蜜色の髪をアップにした赤のゼッケン11番はリストバンドを付け直した。

 

「バスケはコンタクトスポーツ。パワーで勝るオレの方が有利……そう思ってるでしょ?」

「…………だったら?」

「私はパワーでも負けないよ」

 

挑戦的に見上げてくる黒髪の美少女の挑発に対し、11番は嘲るように笑った。

 

「オレをパワーだけの男だとでも?アマいよ?」

 

ティップオフ。ジャンプボールの結果、先攻は白チーム。パスが9番へと渡った。

 

「オレが全国を制す」

「いいえ私が制す」

「来い北沢!」

「沢北よどあほう!」

「いや不知火だろ」

 

『うぉおおおおお!!』

 

素早くドリブルをつくフリル。腰を落とし、突破させまいと手を広げるアクア。2人の一対一を少し離れたところで他の4人は眺めていた。

 

「……何やってんのあの2人」

「スラダンごっこじゃね?」

「あの2人の演技力でやると、ごっこ遊びも無駄に迫真だね」

「しかも2人とも運動神経良いから無駄にレベル高いし」

「ホント、二人とも上手…演技も、バスケも」

「才能の無駄遣いしてるねぇ」

 

男女対決で身体的に有利な男が気後れしている時、このように真っ先に1on1をおふざけ混ぜながら繰り広げる事で緊張を緩和し、楽しくゲームができる雰囲気づくりをしたり───

 

男女対抗カラオケ大会では……

 

「これフリルはズルじゃねーか?」

「あら?アクアさんはハンデをご所望?お望みとあらば構わないけど?」

「いらねーし。コッチにはミュージシャンのケンゴいるし」

「そう。でも私はハンデが欲しいわね」

「へぇ、天下の不知火フリルがハンデをご所望とは。ケンゴってそんなに上手いのか」

「ちょ、ハードル上げるのやめてくれよ!」

「それもあるけど、私がハンデに欲しいのは貴方だよ、アクア」

 

意味を理解できずいると、イントロが変わる。フリルが選んだ曲が流れ始めたらしい。CDとか出してる持ち歌でも歌うのかと誰もが思ったが──

 

「私の今の気持ちを歌います……『わたしのきもち』」

 

悲しくて悲しくてLULULULU

どうして、貴方の一番になれないの

好きになんてならなければ、よかった

ただ一言 言って欲しかった

 

流れ出した失恋ソング。圧倒的歌唱力により歌われるそれは特定の人間の心に突き刺さる。

フリルの歌が上手ければ上手いほど、熱唱すればするほど、アクアの顔色は悪くなった。

 

「この後でオレに歌えってか」

「はは……アっくんこれまためちゃくちゃ燃えるんじゃね?」

「まさにアクア専用デバフだな」

「オレも失恋ソング探そうかな」

「これにしなよ。『3年目の浮気』」

「出会って数週だっつってんだろ。そんなレトロな曲サビ以外知らねーし。ドライローズにしてくれ。声も顔も性格も大嫌いだよってヤツ」

 

勝負そっちのけでウケ狙いの曲ばかりを選び、メインどころは譲るなど、他のメンバーに比べ明らかに実力の抜けているフリルとアクアは盛り上げ役に徹していた。

 

数週間経つとアクアとフリルの組み合わせも世間に受け入れられ始めていた。理由はいくつかある。一つはアクアが下手に燃料を投下する真似をしなかったこと。番組以外でツーショットが撮られるような事はなかったし、SNSで謝罪も弁明もしなかった。世の情勢は常に動いている。SNS界において一週間前はもう古い情報である。勢いよく燃え上がったアクアだったが、寧ろそのため、炎は燃料源をあっという間に燃やし尽くし、自然鎮火へと向かい始めていた。

 

そして最大の理由が、フリルの謝罪と弁明だった。

 

アクアは何もしなかったが、フリルとその事務所はSNSでネットマーケティングへの対策を行っていたのだ。

 

『星野さんとは、直接お会いしたのは本当に高校の入学式が初めてです』

 

SNSでフリルはただ真実のみを語った。

同じ高校に通っていること。とある出演作をきっかけにアクアを知ったこと。彼の才能に興味を持ったこと。アクアを知ってから今までに至る全てを。

 

『リアリティショーでの私の発言は軽率でした。私の事を悪く言う事は構いません。ですが出来れば星野さんのことを責める事はしないでください。お願いします』

 

普通に考えればSNSにおける謝罪や弁明はあまり良い手ではないが、行ったのが不知火フリルとなれば話は変わる。

日本人は自身が悪いと認めた人間を必要以上に責める。悪い奴には石を投げる。みんなが石を投げるなら自分も投げていい。空気という怪物に流されるのが日本人の風潮だ。

 

しかし、不知火フリルに石を投げられる者など、この国にはほとんどいないだろう。以前も記したが、彼女のセキュリティ態勢は芸能界でもトップクラス。圧倒的な支援者たちによるガードがある。下手に石を投げようものなら、それこそ日本中から袋叩きにされる。SNSにおける不知火フリルは真摯で健気だった。心中はともかく、表立って批判などできるはずがない。

 

下火になりつつあるアクアの炎上。

正式に行われたフリルのフォロー。

番組内で見せる2人の仲の良さ。

 

これら全てがアクアとフリルの関係を少しずつ世間に認めさせ始めていた。

 

『トップスターのフリル様だからこそ同年代の友達作りづらかっただろうしな』

『タレントである前に16歳の女の子だもん。男の子とだって仲良くしたいよね』

『それに星野アクア、顔だけならフリル様とタメ張れるしな』

『トークも面白いし、実質今リアリティショー回してるのはアイツ』

『お似合いかもね、アクフリ』

 

長い物には巻かれるのが日本人。あの不知火フリルが白と言えば大抵の黒いものも白になる。SNS内でお許し空気が流れ始めると、大衆はすぐに空気に流された。

 

それに加え、今ガチの中心から少しずつ離れ、アクアとフリルは少し高い位置から他の今ガチメンバーを見守るような形へと移り変わっていく。

 

『アクアとフリル、なんか大人だよね』

『歳はメンバーの中で一番若いのにね』

『2人とも子供の頃から芸能活動してるし、精神年齢は高いんだろうね』

『でもアクアといる時のフリル様って、なんか可愛くない?』

『わかるマン。年相応っていうか、今までのイメージになかったっていうか』

 

今までその美しさで人気を誇っていたが、反面、あまりに神秘的かつ神聖すぎて近寄り難いと思われることもあった。

しかし今回の今ガチで古参ファンも知らない一面を見せることで、また新たな層を開拓し、ファンを増やしていっている。

そして今ガチも変化が訪れる。中心からフェードアウトしたアクアとフリルの代わりにその席に座ったのは鷲見ゆきだった。立ち回りの上手さ。キャラクターの表現力。カメラ映りの良さ。それら全てを駆使して鷲見ゆきはゲームメーカーとしてリアリティショーに居場所を作った。

 

そして最新の収録では───

 

「…………私、もう『今ガチ』やめたい」

【えぇっ!?】

 

夕暮れの校舎、高校生たちが放課後を思い想いに過ごす中、唐突にこぼれた涙からそんな一言が吐き出される。涙の主は鷲見ゆき。高校一年生にして、ファッションモデル。ウェーブのかかった黒髪を背中まで伸ばし、前髪は切り揃えている。美人というよりは可愛いという表現が似合う少女。

 

「こんな途中で!?」

「なんでそんなこと言うんだよ!」

「アクア、この問題なんだけど」

「ん、どれどれ……また数学か。フリル理系苦手だなぁ」

「最近ね、学校の男子がからかってくるんだ……お前こういう男が好きなんだ、とか」

「公式覚えるだけだから応用ができねーんだよ、本質を理解しろ。ここはな──」

「自分の好きって気持ちを皆にみせるって、こんなに怖いことだったなんて……始めるまで全然わかってなかった。注目されることの怖さも」

「…………メムも自分のチャンネルでバカやってるから、分かる……皆私のことバカだと思ってて……実際バカなんだけどぉ」

「ほ、本当に辞めちゃうの?」

「アクアだって現文苦手じゃない。作者の気持ちとか、登場人物の心情とか、理解できてるけど言葉にできてないっていうか。感覚派の役者にありがちだけど」

「そんなこと言わないでくれよ!俺がいつでも話聞くからさ!だから──」

「人の心情理解できないってフリルにだけは言われたくねぇなぁ。ガンガン爆弾投げてくるくせに」

「私は敢えて空気読んでないの。困る貴方を見るのが楽しいから」

「お前のこと天使だと思ってるファンが泣くぞ、サド」

「アクアは意外と尽くすタイプだよね。マゾ♪」

「───だからいつまでもイチャついてないで2人も説得に参加しろや!皆で頑張ってる『今ガチ』だろーがよ!」

 

教室の隅で向かい合わせに机を並べ、同じ参考書を広げるアクアとフリルについにノブから雷が落ちる。我関せずで2人の世界に入っていた黒髪のに美少女と星の瞳の美男子は揃えたように気怠げに視線を向けた。

 

「えっと、2人、話聞いてた?」

「聞いてたよ、ゆきがクラスメイトにバカにされて今ガチ辞めたいって話だろ?辞めたいなら辞めれば?としか」

「うわ、アクたんスーパードライ。薄々気づいてたけどぉ」

「失礼だな、思いやり込めて言ってんだぜ?ゆきが泣くほど嫌なら気持ち押し殺して頑張れなんてオレには言えねーよ。頑張んなきゃできないことならやらねー方がいい。この番組が全てじゃねーんだから」

 

アクアの言い分にも一理あると誰もが認めたのか。ドライな対応しかしていないアクアを責める者はいなくなった。寧ろ視聴者含め、アクアって結構いいヤツ?とさえ思われていた。一緒に続けようというのも優しさなら、辞めたいなら辞めればいいと教えてあげるのも思いやりなんだ。

しかし最初にドライな対応をしたからこそ、後で見せた優しさが本来以上の価値を持つ。アクアの得意とするテクニックの一つ、落としてあげる。ジャイアン映画版の原理である。

 

「私も概ねアクアと同じ意見。辞めたいなら辞めていいと思う。他にもこの番組に出たい人は沢山いるんだし、序盤の今ならまだ傷は浅いから。ただ、辞める理由が弱いなぁと私は思う。クラスメイトにちょっと噂話されただけなんでしょ?それでいちいち心折れてたら板の上には立てないよ?」

 

批判も歓声もこの場にいる誰よりも浴びて芸能界の頂点まで駆け上がったフリルの言葉は重かった。今でこそ彼女をおおっぴらに悪く言う人間はいなくなったが、駆け出しの頃というのはどんなスターにも必ずある。

 

夢見てんじゃない。

無理に決まってる。

世間に媚を売りたいか。

 

アイドルを目指すと人に言って、止められたり、笑われたりした事がない人間の方が少ないだろう。フリルはゆきの何万倍の言葉の矢で射抜かれてここまで来た。彼女に甘いと言われて、反論できる者はこの場にはいない。

 

「有名になるっていうことは他の誰かを無名にするってこと。妬み嫉みやっかみからは逃げられない。この番組から逃げることは出来るかもしれない。でも逃げ続ける事はできないよ。私達は世間と向き合ってナンボなんだから」

 

全員押し黙ってしまった。駆け上がった人間からの正論とプレッシャー。批判も賞賛も全て食らいつくしてきたからこそ生まれる、圧倒的な自負(オーラ)がゆき達5名を押し潰していた。

 

「大体な、批判くらいで番組やめなきゃいけねーならオレはどうなる?」

 

重い空気を切り裂いたのは軽い調子で放たれた言葉。重苦しかった雰囲気が一気に軽くなる。星野アクアの少しおどけた、自虐のような一言が、凍りついてしまった5名を溶かした。

 

「そうそう。死ねだのクズだの四股だの股裂の刑だの叩かれまくってるアクアが平気な顔して参加してるんだよ?」

「うっせーな、誰のせいだと思ってんだ」

「まあ流石にここまで顔の皮厚くなれとは言わないけど、鷲見さんなんか軽い軽い。アクアの好感度が1なら鷲見さんは95はあるね。間違いない」

「どんだけ低いんだオレの好感度。あと微妙な数字がリアルっぽくて腹立つ」

「これでもかなり甘めの見積もり。私ってホント親友に甘いよね」

「親友だと思ってくれてんなら無茶振りすんのやめてくれない?」

 

場が一気に軽くなり、笑いすら生まれる。今ガチを辞めたいという衝撃発言を発したのはゆきなのにも関わらず、場はいつの間にか完全にアクアとフリルに支配されていた。

 

「さて、これでアクアも私も言いたい事は全部言った。ノブたちの言い分も全部聞いた。ここからはゆきちゃんの決める事だよ」

「ゆき、これからどうしたい?お前が選んだ方をオレは応援する」

「俺はやっぱ続けてほしい!みんな揃ってねぇと今ガチじゃねえよ!ゆきが辞めるなら俺も辞めるから!頑張るのは辛いかもしれねーけど、一緒にやろうぜ!」

「…………私は───」

 

ここでカメラが止まる。ラストカットに映っていたのはアクア、フリル、ノブ、ゆきの4名。偶然か、狙ってか、わからないが、今ガチのコアを担う4人だった。

 

「はい、オッケーです。お疲れ様でしたー!」

 

参加者全員から力が抜ける。普段通りに過ごしてというのがリアリティショーのコンセプトだが、やはりカメラが回っていると、身体のどこかに力を入れずにはいられなかった。しかしそれゆえの解放感が少し心地良い。

 

放送後、ネットニュースに記事が挙がる。鷲見ゆき、リアリティ番組降板か、という見出しで書かれていた。SNSもコメントで溢れている。

 

『ゆきマジで辞めるかもな』

『メンタル繊細そうだもんね』

『ノブは熱くてカッケーな』

『アクアは逆にドライでクールだな』

『不知火フリルも現実的っていうか、大人だよね』

『あの2人絶対高校生じゃねーよ』

『フリル様は歳サバ読んでるからね………ってMEMちょが言ってた』

『アクアも人生二周目だからね………ってMEMちょが言ってた』

 

「言って、ぬぁあああい!!」

 

ネットニュースを見ていたMEMちょが叫ぶ。メンバー達は笑いでどっと包まれた。 

 

「アクたんと不知火さんのせいでいつまでも私が2人の陰口言ったみたいになってんじゃん!どうしてくれるのぉ!?」

「いいじゃん。定番のネタ持ってるってのは武器になるぜ」

「こんな武器いらないよぉ!炎上と隣り合わせだよぉ!?」

「見て見て!記事になってる!私もちょっとは視聴者獲得に貢献できたかな?」

「そーだな」

 

少し前まで見せていた涙はなんだったのか。MEMちょが風評被害に悩む傍、笑顔でネットニュースを見せるゆきの姿を見てアクアは感心と、少し呆れが混ざった目で彼女を見る。ハルさんも切り替え上手い方だったが、ここまでではなかった。

 

───10秒で泣けるなんてのは、業界人なら当たり前のスキルなのかもしれねーな

 

「で、辞めるの?」

「えー、辞めれないでしょ?契約残ってるのに」

「おお。意外と現実的」

「え!?じゃあ演技って事!?」

「いやいや。黒川さんや不知火さんみたく女優じゃないし、演技なんてできないよ」

 

出来てるよ。涙見せた後で笑えるなら出来てるよ。

 

「ちょっと自分の気持ちを膨らませて話しているだけ。学校でイジられて悲しかったのはホントだし、辞めたいって思ったのもホント」

「それは立派に演技だぜ、ゆき」

 

渡された台本を読み込んで、キャラクターの心情を理解し、同調し、入り込む。その一環で感情の誇張というのは誰しもが行っている。無論それが演技の全てではないが、今回に関して、ゆきは演技と呼べるだけのことをやっている。

 

「えー、俳優のアクアくんに言われると自信持っちゃうなぁ」

「でも、私たちは嘘をホントに見せるところまでいけてようやく半人前だからね。そういう意味ではまだ演技とは呼べないかも」

「あはは、なるほど。嘘じゃなくて誇張」

「…………そういうのもトークではありなんだ」

 

手帳にメモを取るのは黒川あかね。ミディアムヘアに美麗な表情。黙っていればクールな美女。話してみると真面目な良い娘。しかし真面目すぎて、行動する前についつい考え込んでしまい、結局行動できなくなるタイプ。役者としては少し珍しい。基本的に待ったなしで、アドリブなどの独特の動きも求められる職だ。考える前に動くことが重要になってくる。

 

MCとしてどうすべきか、悩んでいると肩に手を回される。この距離感の近さと許される感じはノブ独特だ。

 

「アっくんメシ行こうぜ!今日はもうアガリだしいいだろ?」

「お、いいね。どこ行く?」

「メっさんが焼肉奢ってくれるって」

「言ってないよぉ!?このセリフ番組外で言わせないでぇ!」

 

なんか身内にすらあることないこと言ってるキャラ扱いされてる。発端のアクアは少しだけ罪悪感を覚えた。

 

「知ってるよ、最近登録者数増えてウハウハなんでしょ?」

「事務所の取り分5:5なんでしょ?」

「5:5!?まじですか!」

「へぇ、そりゃ高い」

 

大手であればあるほど事務所側の取り分は多い。所属タレントに取り分の内訳明かしてない事務所もザラ。苺プロもこのタイプである。大手は売れるまでのプロセスやノウハウを持っている分、色々と有利だが、売れるまでの期間、タレントの経済事情の厳しさは大手所属の方がキツイかもしれない。

 

「アクアさんはいくらですか?」

「さあ?ウチは取り分教えてくれないタイプ。まあ社長が一応身内だから、変な中抜きはしてないと思うけど。あかねは?」

「…………うちは8:2。もちろん私が2です……お金のためにやってるわけではないですけど……羨ましいなぁ」

 

カメラが止まっているからか、切実なお金事情がポロポロと漏れていく。そして支配される金持ち羨ましいの空気。根が善人であるMEMちょがこの手の空気に逆らう事は難しい。救いを求めて自分より遥かに金持ちであろうフリルへと目を向けるが……

 

「ごめん、参加したいけど私この後仕事なの。お金は置いていくから、みんなで行ってきて」

 

手荷物を整理すると本当にバッグから財布を取り出す。そこで完全にMEMちょは折れた。

 

「いいよぉ不知火さん!前にも払ってもらったんだし!今日は私が出すからぁ!お仕事頑張って!」

「ごめんねMEMちょ。お礼に今度キスしてあげる。じゃあねアクア。私の事は気にしなくていいから。焼肉楽しんで来てね」

 

部屋から出て行く。さて、オレもと鞄に手をかけた時、二つの手がオレの両肩に触れた。背後に立っていたのは鷲見ゆきとMEMちょだった。

 

「───え?なに?オレなんかした?」

「何もしてないのが問題なの」

「アクたんならきっと知ってるよねぇ?」

 

一転してアクアが責められる空気。男性陣と黒川あかねはわかっていないようだが。アクアも次にくる言葉が何か、なんとなくわかった。

 

「女子が特定の個人に向けて気にしないで、って言った時は?」

「気にして欲しい時が多いと思います」

「わかってるなら追いかけなさい!」

「行ってこぉい!」

 

バシンと背中を叩かれる。言われなくても行くつもりだったのだが。アイツの仕事に帯同するのはマリンの業務の一環でもある。しかし2人から言ってくれたおかげで出て行きやすい空気にはなった。そこは助かった部分でもあるが……

 

───こうなることまで計算してあんな事言ったんじゃねーだろうな

 

鞄を背負い直しつつ、トイレに入る。服装を変え、ウィッグをかぶり、現場から出る。4、5分歩き、少し離れたところでスモークが貼られた車が止まっていた。

 

「遅い」

「ごめん」

 

後部座席で待ち構えていたのは少し不機嫌顔の不知火フリル。簡易的な変装だが、女の子にしか見えない黒髪の美少女が謝罪とほぼ同時に車の中へと乗り込んだ。

 

「焼肉、行きたかった?」

「仕事……というより、命の方が優先だ」

 

車の中に入ったアクアはコンパクトを取り出し、細かい化粧を施していく。待たせている事はわかっていたため、トイレでは最低限の変装しかできなかった。人目につかない今のうちに完全に仕上げておく必要がある。

 

「だが奢り肉食いっぱぐれたのは惜しいな」

「今度回らないお寿司連れてってあげるね」

「いらねー。見返りが怖い」

「アクアの手作りお弁当一ヶ月でいいよ?」

「長い。せめて一週間」

「二週間」

交渉成立(ディール)

 

───なんか、バリキャリと同棲してるホストとの会話聞いてるみたい

 

運転手を務める本来のマネージャー、辻倉麻美は2人のやり取りを間近で見聞きし、そんな事を思っていた。

 

「今ガチもだいぶ軌道に乗ってきたね」

「役割や立ち位置も大方固まってきたからな」

 

数回番組を共にしていれば各々のキャラクターや実力は概ねわかる。今、このリアリティショーは大きく分けて4種類に分かれている。

 

一つは上手い奴。視聴者が求めているもの。キャラクターの魅せ方。立ち回りを心得ている人間。小悪魔キャラの鷲見ゆき。養殖天然ムードメーカーMEMちょ。実質的なMCを務めることでメンバー間を取り持ち、番組を円滑に回している星野アクア。リアリティショーで自身の役割と居場所を獲得しているのがこの三人。

 

次に立ち回りとか細かいところは出来てないが、素のキャラクターに味があり、人間的に面白い奴。これは熊野ノブユキ。本人は嘘とか苦手っぽいがわかりやすい体育会系熱血キャラ。遠慮のない態度や物言いで積極的にコミュニケーションを取り、男女間の交流を活性化させている。

 

三つ目は番組映えが悪く、スポットが当たらない人間。ここに入るのが森本ケンゴと黒川あかねの2名。ミュージシャンと女優。2人ともアーティストだからか、こういったトークショーの経験が少ないため、前に出る動きが出来ていない。

 

不知火フリル:不知火フリル

 

「以上の4種類が『今ガチ』のキャラクターだな」

「私への説明少なくない?」

「だって、他に表現しようねえし。他とレベル違いすぎて」

 

立ち位置で言うなら3種類。少し高いところから他のメンバーを見守るのが不知火フリルと星野アクア。番組の中心で活躍しているのが鷲見ゆきと熊野ノブユキ。中心近くで囃し立てるのがMEMちょ。

下の位置から三人のやりとりを見上げているのが黒川あかねと森本ケンゴ。

リアリティショーという若手の登竜門に相応しいタレントが中心に座し、経験不足の2人が追いかける。そしてリアリティショーという枠で収まらない実力の2人がサポート役に回る。このような形で『今ガチ』は纏まりを見せ、バランスを保っていた。

 

「──電話?」

「ああ、ウチの社長からだ……あ、もしもし。オレ。うん、今日もフリルと仕事。メシいらねーから……え、ルビー?なんでお前が代わる…日曜ルール?仕方ねーだろ仕事なんだから……いや、ヤラセとは言わねーでやれよ。学業優先してくれてんだからこっちにはありがたい話だ。そう怒るな。テレビ局の高い弁当お土産にしてもらうから。じゃあな」

 

電話を切る。同時に電源も切った。これ以上アイツの相手をする気は起きない。

 

「日曜ルールってなに?」

「日曜は家族でご飯食べるって約束」

「え?なにそれ可愛い」

「オレもめんどくせーんだけど、アイツが怒るのもわかる。番組始まってから一度も守ってねーからな」

「今ガチ土日収録だもんね」

「さっきもその事でギャーギャー言ってたな。放課後って設定なのにヤラセだなんだと」

「でもリアリティショーって思ったよりヤラセ少ないよね」

「まあ、一部の人間はあからさまにやってるけどな。誰とは言わねーけど」

「あはは。鷲見さんとMEMちょくらいなら可愛いものだよ。少し前ならもっと酷いのもザラだったし」

 

規制やコンプライアンスが厳しくなり、どこからでも情報が洩れ、誰でも気軽に通報ができるようになった現在。極力あからさまなウソはテレビも避けるようになっている。

 

「自分をよく見せようなんてこと、人間なら誰でもやってる事だしね」

「合コンとかでもザラだな」

「アクア合コン行くんだ」

「中学までの話だがな」

「じゃあアクアは恋愛する気ないの?」

「今のところ。フリルは?」

「私はアクア次第だよ?」

「こえー」

 

リアリティショーにヤラセは想像以上に少ない。だからといって全員マジで恋愛しているわけではない。スタンスはまちまちだった。

 

「鷲見さんは……表向きしてないように見せかけて実はやってるタイプだね」

「MEMちょもな」

「ノブはガチだよね。良くも悪くも嘘つけないヤツだし」

「ケンゴは……カメラ回ると固くなるタイプだから、ねえかな」

「黒川さんは……そんな余裕無さそうだね」

「役割まだ見つけられてねーからな」

 

あかねは立ち回りというか、嘘が下手だ。リアルを売りにしてるからって、別にありのままでいなきゃいけないことなんてないのに。少しはキャラ作りしてくれればMCとしても楽なんだが。まあ、ゆきやMEMちょほど露骨にやれとは言わないが。

 

───こればかりは生まれ持った性格だ。オレも一応フォローはしているが……あかねはどうもカメラ慣れしてないっぽいな

 

「…………ま、オレも他人の心配してる場合じゃねーんだけど」

「炎上下火になったとはいえ、まだまだ足元危ないもんね」

「うるせーな、わかってるからこうしてマリンやってんだろーが」

「……そろそろ現場よ」

 

唐突に切り替わる話題と空気。しかしこの辺りは流石一流。2人とも一気に仕事モードへと切り替わった。

 

「行こう」

「ああ」

 

『今ガチ』程度はこの2人にとってもはや息抜きでしかない。フリルとアクアの本当の仕事は寧ろここからといってよかった。

 

 

 

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。カラオケ大会でフリル様が歌っていたのは早坂愛がカラオケで歌っていたのと同じ曲です。曲を知らない人かぐや様は告らせたい3期のDVDを買いましょう。
それでは励みになりますので感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でもいただければ幸いです。評価コメントも全て目を通してますので、そちらもよろしくお願いします!
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