【本編完結】星をなくした子   作:フクブチョー

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どれほど星に願っても想いだけではたどり着けない
どれほど最善を尽くしても行動だけでは意味がない
無責任な助言に耳を傾けすぎてはいけない
貴方のために言っているとは限らないのだから


21st take 難易度

 

 

 

 

 

 

 

芸能界トップといえど、毎日忙しいというわけではない。マネージャーがスケジュールを管理し、動けるギリギリで調整しているが、たまにポッカリと空き時間ができる事もある。

不知火フリルも例外ではない。常になんとか空き時間を作ろうと奔走しているおかげでスケジュールに穴が開く日があった。今日もそのうちの一つで、午前の仕事をこなしてしまえば、午後からはオフ。このところウィークデーは学校と仕事。土日は撮影とほぼ休む間なく動きまくっていた。ようやく得られた貴重な休み。思う存分心と体を休めるつもりだった。

 

「───だからって何でウチでだらけてるのよ」

 

ベッドの上でうつ伏せになって倒れ伏す金髪の少年に亜麻色髪の美女が呆れたように息を吐く。季節は初夏。夜とはいえ気温は上がりつつある。纏う衣服が薄くなってくる時期。まして自宅、風呂上がりならば尚更。ラフなシャツにホットパンツ一枚の寿ななみの姿は先程までの生まれたままの状態よりある意味劣情を煽る。優美な曲線が強調されるスタイルがハーフトゥルースの下に隠されていた。

 

「うちに泊まりに来ること自体は構わないけど、せめて前日に連絡してよね。何にも用意してないわよ」

「全然構いませんよ。何も言わずに隣にいてくれるだけで充分です」

 

───…………またコイツは。

 

ズキッと来ることを言ってくれる。出会ってから今に至るまで、自分の従姉妹と同じ歳の少年に振り回されっぱなしだ。

 

「何か飲む?」

「アイスコーヒーで」

「水出しよ?」

「充分です」

 

冷蔵庫を開き、ポットに入ったコーヒーを注ぐ。振り返るとアクアはまだ突っ伏している。クスリと笑ってしまう。カントル時代を思い出す。作詞で詰まるとよくああしていた。悩んだり疲れたりしている時のお決まりのポーズだ。

 

「不知火フリルの相手はやっぱり相当キツそうね」

「…………観てるんですか」

「一応。仲間が出ている番組ですもの。微々たる数字だけど、貢献したいと思うのは普通でしょう?」

「ありがたいですよ。1はデカいですから」

 

気遣いでも、謙遜でもなく、アクアの本心だった。どんな偉大な記録も1の積み重ねなくしては成し得ない。仮にも元バンド仲間でセフレ。少なからず好意はあるであろう相手の恋愛リアリティショーなんて普通観たくないだろうに、観ていてくれてることがありがたかった。

 

「…………ん?」

 

携帯が鳴る。LINKからの無料通話。画面表示に記載された名前は黒川あかね。ななみも名前は知っている。彼の今出演している番組の共演者だ。

 

「アクア」

 

ベッドで横になっている彼の耳元に携帯を持っていき、通話ボタンをタップする。手の中で僅かに振動が伝わる。彼の鼓膜のみを震わせるソレに応じて、アクアは突っ伏したまま、言葉を返した。

 

───頼られてるわね、相変わらず

 

ショーを観ていればわかる。『今ガチ』のエースは現在ハルの妹だが、キャプテンと司令塔は不知火フリルと星野アクアだ。対して黒川あかねはチームの末端。彼を頼りたくなる気持ちはわかる。

 

───いいな

 

彼より4年も歳上であり、ずっとお姉さんポジションを取ってきた自分はアクアに頼るということは難しい。甘える事はある。甘やかしてもらうことも。けど、どうすればいいとか、最近これに悩んでいて、とかの相談を彼にした事はなかった。したところでアクアは特に態度を変えないだろう。場合によっては助けになってくれるかもしれない。

けれど、こちらを頼ってくる回数は確実に減る。そんな気がしてならない。

 

アクアにとっての私の価値は美貌とスタイル。そして芸術に理解のある頼れる相談相手という事。この三つがあるから彼は私を抱いてくれるし、私は彼を抱きしめられる。

 

───羨ましい

 

ノーリスクで悩みを打ち明けられる黒川あかねが。彼と一緒に番組を作れるメンバー達が、羨ましい。かつては自分達もやっていた。3人で音楽を作っていた。だからこそ知っている。あの楽しさ。あの快感。あの達成感。もう私が手に入れられない全てをこの電話の相手はまだいくらでも手に入れられる。

 

手にした携帯を叩き割りたい。そんな暴力的な衝動に駆られる。しかしできない。無防備に、そして無条件に信頼してくる彼の背中を見て、そんな真似ができるわけがない。

 

指に力が入る。のそりと身体を起こしたアクアを背中から抱きしめる。スマホが私の手から滑り落ちた。

 

───今だけは……全てをこの腕に。

 

指先から力が消える。代わりに全身をその無防備な背中に纏わりつかせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アクアさん』

 

耳に押し当てられたスマホから声が聞こえてくる。声主の名は黒川あかね。リアリティショーの共演者で、同業者だ。

 

彼女から電話なんて、珍し──くはない。真面目で努力家で、リアリティショーに慣れていない、そして性格的に向いてない彼女にとって『今ガチ』は難しいだろう。故にアドバイスやマニュアルを求めて色んな人に質問してメモを取ってる姿は何度も見てきた。あまり有効に活用できているとは思えないが。勿論オレも例外ではない。むしろ頻度はオレが一番高いと思う。共演者で実質的なMCを務め、現場から全体を把握しているのはフリルを除けばオレが一番出来ている。同業者で異性なのもあって、相談もしやすい相手だろうし、当たり前といえば当たり前だ。

 

「よう、あかね。どうした?」

『こんばんは、アクアさん。今お時間大丈夫ですか?』

「ああ、問題ない。何かあったか?」

『今ガチについての相談なんですけど……フリルさんとアクアさんが帰られた後の打ち上げで、ちょっと…』

「ああ、アレか。焼き肉美味かった?」

『はい、とても!……すみません。アクアさんは食べられなかったのに』

「気にしなくていいよ。美味かったならソレに越した事はないさ。MEMのヤツはちょっと可哀想だったけどな」

 

身体を起こす。いつまでも寝そべったままだと発声がおかしくなる。耳に当ててくれていたナナさんの手からスマホを受け取った。

 

「で?相談内容は?」

『あ、はい。あの後、今後の今ガチに求められているものは何かって話になって…』

「なるほど、で?」

『この数週間で交流を深めるイベントは充分やったから、視聴者としては今より過激なモノが見たくなるって言われたんです』

 

ソファに移動し、淹れてもらったアイスコーヒーを飲みながらしばらくあかねの話に耳を傾ける。恋愛リアリティショーは安全圏から人と人の駆け引きなどを愉しむ番組。仲が良くなっていく過程はもう充分。ここからは友達以上のやりとりが求められる。意見自体は間違っていない。

 

『でも過激なものって言っても限度があるじゃないですか。どの程度までならリスクを負えるか、とか……私、その辺りの加減なんて全然わからなくて…』

「オレもわかってるとは言い難いが…」

『そんなっ、あんなに上手く番組回してるのに』

「はは、そう言ってくれるのは素直に嬉しいけどな」

 

今のところやぶれかぶれがギリギリ上手くいってるとしか言いようがない。今ガチに関してはフリルに助けられてる面もかなりある。オレ1人ならあそこまで上手く出来ていたかどうか。フリルの凄さに引っ張られてオレもなんとかやれてるに過ぎないと、アクアは本気で思っていた。

 

『どこまでが番組の許容範囲なんでしょう。アクアさんはそういうの、どうやってますか?』

「…………オレの意見でよければ、参考程度に話すけど」

『勿論です!あっ、ちょっと待ってください。メモの用意するんで』

 

僅かに何かを動かす音が聞こえる。真面目な事だが、少し不快だ。頭以外に記録し、見える化する事は確かに大事だが、この手の芸事は習うより慣れろな部分も多い。オレが今MCの真似事をやれているのは小中時代に重ねまくって身につけたコミュニケーション能力の部分が大きい。畳の上の水練、とまでは言わないが、メモを取ることにアクアはそこまで意味を見出せなかった。

 

『お待たせしました。どうぞ』

「オレはリスクリターン考える時、基本成功したら、はあまり考えない。失敗したらどうなるか、最悪のケースを常に想定している」

 

あのPVも、『今日あま』も、今ガチも、もし失敗したらを常に考えていた。たとえミスっても取り返しのつく範囲のリスクだと理解した上で賭けに出た。PVはモブだし、今日あまは元々クソが前提のドラマ。多少クソが増えたところで問題なし。今ガチも無名のオレが炎上したところで余計な反応さえ見せなければ大したダメージはない。

 

人間生きていればミスはする。大切なのは取り返しのつくミスなのか、そうでないのか。

 

「その辺見極められるようになるには小さな成功と小さな失敗、自分の中で繰り返して、少しずつ大きくいくしかない」

『小さな成功と失敗を、繰り返す…』

「そう。あかねも無理のない範囲でやれる事、やれない事を作って、一回の収録で一つでいいから挑戦すればいいとオレは思う」

『一つでいいから、挑戦する…』

 

メモをとってるのだろう。おそらく手書きで。真面目な事だ。録音すりゃいいのに。

 

「とまあ、オレから言える事はこんなものだけど、参考になったか?」

『はいっ、凄く!さすがです!ありがとうございました!』

「意気込むのはいいが、あんま無理するなよ?ゆきにも言ったけど、頑張らなきゃ出来ないことなんてやらないほうがいいんだから」

『はい。ありがとうございます!勇気出して電話して良かったです!』

「おやすみ、あかね。良い夢を」

『はい、おやすみなさい』

 

通話が切られる。なんか言ってる傍から頑張っちゃってるな、と少し心配になる。空回りしなければいいんだが。

 

「まとめ役も大変ね」

 

背中に豊かな胸を押しつけ、抱きつく亜麻色髪の美女が息を吹きかける。電話に気を取られていた罰か。それとも別の意味でかはわからないが、不機嫌そうだというのはなんとなく伝わった。

 

「ナナさん」

「ん?なに?」

「ナナさんは今ガチ観てるんですよね」

「ええ、一応ね」

「率直に言ってくれて構いません。どう思いますか?」

 

客観視。フリルと行動を共にする事で鍛えられてきたとは思うが、それでもオレは今ガチメンバー中枢の1人。主観的視点はどうしても捨てられない。他者から見てどのような意見があるか、オレの分析は間違っていないか、聞いてみたかった。

 

十数えるほど考え込む。何か葛藤があるのか、少し躊躇っていたが、少しずつ口を開いた。

 

「リアリティショー自体は面白いよ。今まで超然とした高嶺の花だった不知火フリルの年相応の態度や新しい一面。アクアくんのトーク。2人を中心にメンバー達が上っ面だけじゃなく、仲を深めていってるのがわかる」

 

そう、リアリティショーの序盤はいかにメンバー達が仲を深めていくか。その過程を見せる事が中心。会話や交流のとっかかりをアクアが作り、そこにフリルが積極的に参加する事で他のメンバーも参加しやすい空気を作っている。リアリティショーの進め方としては模範的と言っていい。

 

「でも、今ガチの本領は恋愛。誰かを好きになったり、同じ人を好きになってしまったり、そういった駆け引きや心理戦を安全圏から楽しめるのがリアリティショーの真髄。そういった部分は今のところ不足してる。仲良くなったと視聴者に思わせる儀式はもういいから、そろそろエグいのが見てみたいかなって普通の視聴者は思うんじゃない?」

「やっぱり今求められてるのは見ている人をハラハラさせる過激さか」

 

MCとしては頭の痛い話だ。そういった恋愛頭脳戦は一歩間違えれば人格否定に繋がる。動き次第で放送事故になる可能性さえ充分ある。番組を円滑に回しつつ、誰も批判の対象にならないよう火加減する。考えるだけでうんざりするほど厄介だ。

 

「1人でなんでもやろうと考えすぎじゃない?」

 

思考の海に囚われかけていた意識が浮上する。いつのまにか隣に座っていたナナさんが肩に頭を預けていた。

 

「貴方はスペック高いからなまじ何でも出来てしまう。周りもそれに甘えてしまう。でも、貴方は周囲の期待に応え続ける必要はないの。いつも言ってるでしょ?頑張らなきゃ出来ないことなら、やらない方がいいって」

 

頑張らなければできないことならやらないほうがいい。このアクアの持論はナナさんから教えてもらったことだった。その通りだと思って守っている。頑張らなくてもできる事を。その代わり全力で。ベストを尽くして。アクアの行動理念だった。

 

「あの子達だって一応プロなんだし、過保護はためにならないわよ。それに、貴方に人の心配してる余裕はないでしょ?MC役だって常に危険と隣り合わせなんだから」

「…………それもそうですね」

 

他人に頼るという事をしてこなかった12年だった。アドバイスを求める事はあったし、助けてもらったことも数えきれないほどあったが、オレから誰かに助けを求めた事は少なかった。借りを作るのは嫌いだったし、あまり他人を信用してもいないから。

 

だが高校生とは言え、カメラの前に立つ以上、彼らもプロだ。自分の身は自分で守ってもらう必要がある。全てをオレの手の上で回そうというのは少し傲慢だったかもしれない。

 

ソファの上にドカリと座り、天を仰ぐ。いけない。せっかくのオフだというのに仕事のことを考えすぎだ。今日はもう頭を空にしよう。

 

「アクアくん」

 

ピアニストらしい美しい両手が顎に添えられる。元々上を向いていた顔が、指の力によりさらに上へと上げられた。

 

「今日はいつまで一緒にいられる?」

「…………11時くらい、ですかね」

 

ただでさえこのところ家に帰る事が少なくなっている。フリルのマネージャーバイト始めてから朝帰りなんてしょっちゅうだが、流石に学校サボるのはまずい。ミヤコはともかく、ルビーに不審がられる。アイツはオレの女性関係をまったく知らない(ハズ)。フリルは出来るだけ登校するようにしてるから、明日は登校するはず。オレだけサボったら不審がられて、説明を求められる可能性は高い。そしたら言い訳は難しい。出来るだけアイツには嘘つきたくないし、今日は日が変わる前に帰るつもりだった。ナナさんのマンションからウチまでタクシーを使えば約30分。途中から徒歩で帰るからプラス10分。まあ1時間あれば帰れるだろう。己の欲望に流される事なく、アクアは少し短めの時間を告げた。

 

「…………そう」

 

唇を重ねられる。スルリとソファの横に座ったナナはそのままアクアを押し倒した。

 

「…………せめてベッドでしません?」

「いや。待てない」

 

覆いかぶさる。アクアもななみの腰をグッと抱き寄せ、濃厚なキスをする。

 

結局ななみが一度鎮まるまで、2人はソファの上から動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春に始まった『今ガチ』も季節の移ろいに沿って番組は進んでいく。

 

春は親交を深めるためのレクリエーションが多かったが、夏が近づいてくるとイベントを開催する企画が増えていった。

 

「木陰は涼しいけど、日が出てるところは暑いねぇ」

「真夏じゃないからこれでもまだ気温はマシだけどさ」

「おーい、みんな遅いよー!もっと頑張って!」

「隊列間延びしてんなぁ。置いてくぞー」

「2人が早いんだよぉ!アクたん余裕あるなら背中押してぇ!」

「フリルさんももうちょっとお喋り楽しもうよー。あと出来れば手を引いていってー」

「頑張れゆき!俺が背中押してやるからさ!」

 

深緑が美しい山のトレッキング。

 

「ジャーン」

「うわ、さすがゆき。ファッションモデルだけあるね」

「浴衣に合わせて髪型も変えてるし、着こなしが上手いねぇ」

「すっげー可愛いぜゆき!浴衣超似合ってる!」

「ありがと。ノブが選んでくれたお陰だよ」

「…………アクア、普通にセンス良いね。キモい」

「理不尽すぎる。フリルが選べって言ったんだろ」

「もっと面白い感じとか、私にしか着こなせないようなモードなやつ期待してたのに。アクアって意外と冒険しないよね」

「リアリストなんでな。勝ち目の薄い博打はしても、意味のない博打はしねぇよ」

 

夏の装いをみんなで選び、それぞれのセンスで開かれるファッションショー。

 

「よーし、着いたー!」

「うーみー!」

「そういうのやるなら皆で揃ってやろーよー!」

「お前ら先々行くなよ。コッチは花火だのスイカだのクーラーボックスだの持ってんだから」

 

メンバー全員浴衣姿で海へと走っていく。女子達は手ぶら身軽な姿で。男は花火セットや消火用バケツ。アイスが入ったクーラーボックスやスイカを持ってえっちらおっちら歩いていた。

 

「おー、めっちゃデカい花火あるな。さすが業界のツテ」

 

カバンから取り出していく色とりどりの花火の中から一際デカいものがそこから出てくる。打ち上げ用の花火だ。普通に学生が買うだけでは用意できないだろう。少なくともアクアは初めて直に目にした。画面映えの良さを狙っての事だろうが、それでもテンション上がってしまった。

 

「花火ー!」

「スイカー!」

「カレー!」

「アイスー!」

「女子も花より団子か」

 

今日執り行われたのは前回みんなが選んだ浴衣で行う花火大会。男女の交流機会が本格的に始まり、恋愛の様相を見せていった。

 

「おーい!とりあえずメシは後にしてまず花火やろーぜー!最初はみんな揃って!」

「アクア、コレどうやって火つけるの?」

「マッチ使ったことねーのか」

「危ないものには近づかさせてもらえなかったの。お嬢様なので」

「ああ、そういやそうだったな。花火も初めてか」

「こんな風に自分の手でやるのはね」

 

デカい寸胴鍋の前でカレーを作るアクアの元にフリルが寄ってくる。材料は番組が用意してくれている。魚介類が主なシーフードカレー。そこにトマトだの野菜ジュースだのりんごだのを詰め込み、スパイスにもこだわったアクア特製カレーである。

 

「うわー、めっちゃいいにおーい。アクたんってピアノも弾けるし、料理も上手で何でも出来るねぇ」

「広く浅く色々やってるだけだよ……よし、あとはしばらく煮込むだけ。ほら、フリル、花火つけてやる。手で持って」

 

棒状の花火にマッチで火をつける。しばらく何も起こらなかったが、パッと弾け、凄まじい化学反応が巻き起こった。

 

「わっ、凄い。光ってる」

「そりゃ光るよ。花火だぞ」

「ははっ、凄い!煙くさい!火事みたい!」

「こらこら振り回すな人に向けるな!熱い熱い!」

「ははは!逃げ回るジョバンニ可愛い!今すごく楽しい!」

「このカムパネルラ、ドS通り越して猟奇的すぎる!怖え!」

「アクアくーん、カレーもう食べていーい?」

「鍋見たいからこの放火魔止めろぉ!」

「あははは!」

 

それぞれが花火を楽しみ、食事を楽しみ、思い思いに過ごす中、ノブとゆきがイベントを通して急速に接近していく。

 

「ゆきちゃん、上手いなぁ。どの男子とも仲良くなって、フラグ立てしつつ、一番良いところをちゃっかり食べてる」

 

アイスをかじるフリルが独り言のようにゆきを評価する。実際上手い。序盤はアクアにも接近していたのだが、フリルとのカップリングが進んでゆき、相手が悪いと悟ったのか、すぐさまノブに切り替えた。賢明な判断だ。不知火フリルと正面から争うなど、アクアでも避けただろう。今フリルと渡り合えているのはお互い協力関係にあるからだ。

セレクトもいい。男子の中ではアクアの次に人気を得ていて、番組の中心になりつつあるノブの恋愛模様は番組的にも欲しかった画のはずだ。

番組序盤、早々と出来上がったカップリングであるアクアとフリルより、初めて知り合い、交流を深め、友達からカップルになっていくプロセスを撮れる熊野ノブユキと鷲見ゆきが番組の中心になり、最も目立つ位置に立つのは当然だった。

 

そして番組映えが悪かった森本ケンゴもノブの恋敵役として役割を獲得する。

ゆきを巡るノブとケンゴの三角関係が成立する事で、視聴者が求めていたハラハラドロドロの恋愛模様がスタートしていた。

 

ゆきはケンゴとノブにはボディタッチ多めで思わせぶりな態度を。アクアにはフリルが居ない時に誘惑するような少し大人なアプローチを仕掛けてくる。まさに小悪魔な彼女のキャラクターのおかげで番組が盛り上がっている。恋愛面だけで言えばフリルより貢献度は高いかもしれない。自分が目立ちながら視聴者の需要、番組の要求に応え、ゲームメーカーとして機能する。とても難しい事だ。少し前ならアクアにすらできなかった。

 

「確かに上手いな。近くに優秀なブレーンでもいるのかもしれない」

 

てか、ハルさんがアドバイスしてんだろう。あの人はこの手のことに関しては多分フリルより上手い。

 

「私たちも、そろそろ関係進めない?」

「進めない。いいだろ、もうしばらくは普通の放課後楽しむだけで」

 

花火を手渡す。自身が手にしている煌びやかな閃光を撒き散らす炎からフリルの花火に火をつけた。

 

「───ホント、アクアってずるいね。そんなこと言いつつ、こんなカップルっぽいこと平気でしてくるんだから」

「オレ達のカップリングも求められてるものの一つだからな」

「アっくーん!そろそろメインの一番デカいのやろうぜー!」

「打ち上げ花火?近くで見たい」

「バカ、フリル!危ねぇから離れろ!こういうのはちょっと引いたところから見るものなの!」

 

腕を引っ張り、勢い余って抱き抱えるような形になる。2人で砂浜の上に倒れ込んだ次の瞬間、夜空に光の華が咲いた。

 

『おお!』

 

そっと手を繋ぐノブとゆき。抱き抱える形で砂浜の上に座り込み、空を見上げるフリルとアクア。その様子を光の華の残滓が照らす、幻想的な一枚が締めくくったこの回は各所でバズり、大きな反響を呼び、トレンド上位に入った。

 

フリルが火をつけ、ゆきが油を注ぎ、アクアが火加減を調節する。観客への意識を理解する3人が番組を盛り上げ、中高生を中心に『今ガチ』は人気を獲得していった。

 

 

 

 

 

 

「アクたんはいいのぉ?ゆき争奪戦に参加しなくって」

 

花火大会から数週間後。ロケが終わり、帰路に着くバンの中、隣に座っていたMEMちょが話しかけてくる。『今ガチ』は朝からの収録で、今は夜。今日は一日中動きっぱなしでメンバー達は疲れて眠っていたが、日頃色んな場所で鍛えられているアクアと、メンバー最年長のMEMちょはまだ余裕があるらしく、起きていた。

 

「今日は不知火さんいなかったんだしぃ。鬼の居ぬ間に浮気ムーブは見てる分には面白いよぉ?」

 

そう、今日の収録にフリルはいなかった。本人も最初に言っていたが、仕事の都合上、フリルは毎回出演できるわけではない。今ガチなんかより優先度の高い仕事はいくらでもある。それでも出来るだけコッチを優先してくれていた。オレのバイトも今ガチの収録には穴を開けないよう割り振られている。フリルが居ない時、オレはMCを務めつつ、孤高のイケメン俳優的ポジションで、ゆき争奪戦を眺めていた。

 

「バッカ。トライアングルまでは意外と人間関係単純だけど、四角以上は一気に複雑になって、立ち振る舞いの難易度も跳ね上がるんだよ。わざわざそんな見えてる地雷に突っ込む気はないね」

「ドラマとかで四角以上とか普通にあるけどぉ?」

「アレは作家という神が都合よく複雑になる部分を曖昧にしてくれてるから成り立っている。現実はそうはいかない。ご都合主義も残酷な現実も、全て平等に、ありのまま降り注いでくる」

 

ドラマだってある程度リアリティのある脚本にはしてくる。だからご都合主義的展開が現実で起こることもゼロではない。しかし、ドラマでは楽観も、非情も、作家という神の手で調節されている。現実ではそうはいかない。目の前で起こるリアルが全てなのだから。

 

「さすが役者さん。考えてる内容が脚本っぽいねぇ」

「役者ってのは演者であると同時に作家だ。自分の役のストーリーを組み立てる必要がある」

 

台本を渡され、読み込み、役のキャラクターを自分なりに解釈する。そして物語の中で、キャラクターのストーリーを創作する。役者誰もがやっているわけではないが、コレをしているしていないで演技の質はめちゃくちゃ変わる。解釈が一致しない場合もあるが、それでもいい。間違っていたら監督が違うと言ってくれる。だが注意すらされなくなったら役者は終わりだ。

 

「でもまぁリスク犯したくないってのはわかるなぁ。私も天然おバカキャラで癒し枠キープできれば充分だし」

「そう、オレ達はいいんだ。今このリアリティショーの中心はあいつら三人の三角関係。オレは女の奪い合いしてるあの二人を斜めに見てる孤高の俳優。そしてメムはバカ故にオレの人を拒む空気を読まずにグイグイ来る天然キャラ。オレもお前の馬鹿につられて少しずつ壁を無くしていく。フリルが居なくても番組内で役割とストーリーが成立している」

「でも、まだ自分の役割が成立していない人は……私達なんかよりずっと心配だよねぇ」

 

誰のことを言っているかはわかる。恐らく真面目ゆえに演技の勉強以外ほとんどせず、人間関係の訓練をしてこなかった黒川あかね。舞台なら役は与えてもらえるが、リアリティショーはそうはいかない。役は自分で作らなければいけないのだから。

 

「変に焦ったりしないといいんだけどねぇ。何かアドバイスしてあげたらぁ?同じ役者さんなんだしぃ」

「一応言えることは全部言った。ここからどうなるかはアイツ次第だ」

「アクたん、やっぱりスーパードライ」

「人生二周目ですから」

「謝るからそれやめてよぉ!言ってないってばぁ!」

 

肩をポカポカ叩かれながら、星の瞳の少年が嗜虐的にカカカと笑う。同乗していたカメラマンがその様子を撮影してる事に、2人とも気づかなかった。

 

 

 

 

 




最後まで読んで頂きありがとうございます。
祝!推しの子アニメ化決定!
いつかするだろうなと思ってましたが、内容暗いから難しいかなと考えてたらやっぱりしました!とても楽しみですが、声のイメージ、筆者と公式が違ってたらどうしよう。重曹ちゃんだけは皆さんと一緒だと思いますけど。誰のマキちゃんとは言いませんが。
ついでに拙作お気に入り千件突破しました!ありがとうございます!とても嬉しいです!
それでは今後も感想、評価よろしくお願いします!面白かったの一言でもいただければ幸いです。
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