【本編完結】星をなくした子   作:フクブチョー

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星をなくした子の光に吊られ、カストルも輝きを求め始める
光を求め、焦るカストルの元へ宛名のない推薦状が届くだろう
カストルの望みを援けよう
貴方の信じる人が、きっと正しく導いてくれるから


2nd take 悪夢を演じる

 

 

 

 

 

 

私のお兄ちゃんは、結構すごいと思う。

 

あんな事件があった後だというのに、お兄ちゃんはアレを実際に目で見て、肌で感じてしまったというのに。あのショックで茫然状態から抜け出して以来、明るく……はないけれど、前を向いて、母と約束した未来へ向けて歩き始めている。自分が同じ立場だったら一体どうなっていたか。母の死と向き合い、乗り越え、私に弱音も弱いところも一切見せず、10年間役者として努力し続ける兄を、私は尊敬している。

私はお兄ちゃんを信頼している。

あの日以来、お兄ちゃんは少し変わった。弱ったところを見せなくなった。役者としての勉強を始めてから、夜遅くに帰ってくることや、泊まりがけで出かけることも増えた。ある朝、いつもより早く目が覚めたルビーは自宅のドアがそっと開かれるのを見てしまった。別に隠れる必要はなかったのだが、まだ暗い部屋のドアが開くところは少し怖かった。

入ってきたのは兄だった。ホッと安心し、おかえりなさいを言おうとした時、兄は壁にもたれかかり、ずるずると座り込んでしまった。

 

「………ふぅっ」

 

呼吸音にも似た小さい声。しかしその一言に彼の心労全てが込められていた。この頃、兄は監督やカメラマンなどの勉強をしていた時期。まだ10歳にもならない少年がクソ重いカメラ機材や理不尽な指示など、ADのような仕事をこなす疲労は凄まじいだろう。この溜息を誰が責められるだろうか。

 

「お兄ちゃん」

 

声をかけた瞬間、兄の顔から一気に疲労の色が抜ける。抜ける、というか見えなくなった。

 

「ただいま。ごめんルビー、起こしちゃったな」

 

さっきまで疲れ切っていたのに、おくびにもださず、こちらに笑いかけてくれる。私は嘘が嫌いだけど、兄の嘘にはいつも愛があった。愛のある嘘しかつかないお兄ちゃんを私は信頼している。

 

私の兄は、結構ムカつく。私も結構ママから色々受け継いでると思う。自分で言うのもなんだが、顔は超可愛いし、運動神経だって悪くない。

けどお兄ちゃんは私よりもずっとママの才能を受け継いでる。あの事件以来、本格的に始めた役者としての修行。メキメキと上達していくのは素人目で見ても明らかだったし、たまにスタジオで歌の練習とかしてるのも聞いた。ムカつくことに上手かった。私はちょっぴりヘタなのに。ルックス、スタイル、演技力、歌唱力、運動能力、カリスマ、そしてなにより吸い込まれるような星の輝きを放つ瞳。私とは違う、ママの何もかもを受け継いだ、正統な後継者は多分お兄ちゃんだ。

お兄ちゃんは凄いと認めている。尊敬してるし、信頼してる。けど凄すぎて、ママに似すぎててムカつく。憧れと羨望、両方を持ってる人だった。

 

兄は間違いなくママの息子と胸を張って言えるだろう。なら私は?私はママの娘と言えるだろうか?前世の記憶を持っている私は結局【さりな】のままで『ルビー』ではないのではないか。

兄の事は嫌いじゃない。むしろ好きの部類にすら入っている。けれどこの人を見ているとどうしても焦らされる。コンプレックスを突きつけられているかのようで。

あの母の娘であるために、この兄に恥じない妹であるために、私は一刻も早くアイドルにならなければいけない。

それなのに。それだというのに。

 

「なんで苺プロはアイドル部門辞めちゃったのよー!ミヤえもーん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「理由は貴方達が一番よく知ってるでしょ」

 

芸能事務所苺プロダクション。現在はネットを主戦場にしている芸能事務所。アクアとルビーはこのオフィスに出入り自由だ。スタッフオンリールーム、そのソファに座る妙齢の美女がルビーに擦り寄られて嘆息していた。かつて苺プロでアイドル部門を担当し、今はオレたち双子の里親を務める社長、斎藤ミヤコ。バツイチ。

真っ先にルビーを引き取ると言ってくれて、それから10年、本当の娘のように育ててくれる、優しく綺麗な人だ。オレはといえば早々に監督の下で修行するようになって以来、たまに顔を出す程度のため、ミヤコさんもオレを育てていると言う感覚はあまりないらしい。

それに年相応といえばそうなのだが、ルビーはオレよりだいぶ幼い。双子なんだから歳も顔も身体の成長具合も似たようなもんだが、精神的に幼い。故にオレにとってルビーは妹であると同時に守るべき庇護対象。それはミヤコさんも同じらしい。だからオレとミヤコさんの関係は母と兄というより、対等の協力者という表現が一番近い。

 

「あんな事件が起こった後じゃなぁ。やる気失くすのもわかるけど」

 

あの事件以来、元社長は音信不通。今は斎藤ミヤコが後を引き継いでいる。アイというスターがいなくなったアイドルグループ『B小町』はあっという間に解散。以来、苺プロはアイドル業界から撤退している。

 

「私だってやれるならやりたいわよ。アイの見せてくれた夢は中々忘れられるものじゃないもの。でもあんな奇跡二度も起きるものじゃないのよ。この業界に長くいればいるほどわかる。アレは宝くじに当たったようなものだと思わなきゃ。現実は甘くないわ。オーディション落ちまくってる貴方も少しはわかってるでしょ」

「うぐっ」

 

辛辣だが、真実だ。星野アイの足跡を辿るとそのスター街道はまさにトントン拍子という言葉がふさわしい。無論本人に実力と才能があったのは間違いない。しかしその二つがあるからと言って売れるとは限らないのが芸能界なのだ。まして売れるアイドルなんて殆どが大手プロダクション所属の選ばれしエリート。オーディションを受けても大抵の人間は門前払いをくらうだろう。実力と才能、そして運。この三つがうまいタイミングで噛み合わなければならない。

 

「ルビーもそろそろアイドル以外の道も考えてみたらどうだ?基本薄給で定年はなんと三十手前。日常生活にも監視の目がつきまとい、卒業後の生き残りは激ムズ。はっきり言って役者より遥かにハードモードだ。オレ的にもあんま勧めたい道じゃないなぁ」

「だからなんだっていうの。したい事をするのが人生でしょ!私はママみたいになる!それが私の人生のテーマなの!何もできず終わる命だってある!私はそんなの嫌!」

「だから反対はしてねーだろ。オレだって後悔は失敗することより何もできないことだって思ってる。でもすこしはリスクとリターン考えて生きなさいよって話をだなぁ」

「リスクリターンが怖くてアイドルができますか!」

「ならせめてもう少し歌上手くなれよ。このアイドル飽和時代。実力ある程度備えてないと話にならねーぞ。ルックスだけでやってけるほど甘い世界じゃねーんだから」

「うっるさいなぁ!ちょっと自分が歌上手いからって!もう私のアイドルとしての道は出来上がってるもん!可愛い服買ってくる!」

 

バタンと勢いよく扉が閉まる。向こうみずというかなんというか、努力の方向間違ってないか、心配になる妹だった。

 

「で?どうなの、実際のところ」

「どうって?」

「あいつマジで全部落ちてんの?大手はともかく、ルックスとダンスだけでとりあえず合格くれそうな事務所もなくは無いと思うけど」

 

ミヤコの目をじっと見る。責める訳ではない、けれど逃げることも許さない。視線は逸らさず、逸らすこともさせない、そんな目を向け続けていると、思ったより早くミヤコが折れた。

 

「殆どは本当に落ちてる。けど、合格くれた所もあったわ」

「やっぱり」

 

保護者のハンコはミヤコが持ってる。彼女がNOといえば未成年のルビーはいくら合格を貰ってもNOだ。

 

「ねえ、貴方はどう思ってるの?ルビーにアイドルやらせたいと思う?」

 

今度は向こうがジッとこちらを見つめてくる。瞳には若干の緊張と希望。オレがどう答えるか、そしてその答えは自分の意に沿うものか、期待されている目。彼女の今までの行動。オレに求められている答えは…

 

「アイツの人生だ。好きにすればいいとは思ってるけど……出来ればやらせたくはないかな」

 

目から緊張が解け、安堵が宿る。どうやら意思に沿う事ができたようだ。彼女が求めるアクア像を演じることはできている。

 

「私も同じ思いよ。あんな事があってしまったから……未だに考えるもの。今ならこうしていたのに、とか」

「どうしようもないって分かってはいるけど、考えずにはいられないよな」

「そうなの。だから正直、不安なのよ。あの子にアイと同じ道を歩ませてもいいのかって」

 

声に矛盾の色が混ざっている。本人の夢を叶えさせてあげたい。けど危ない道を歩ませることに不安な気持ち。本当の親でもないのに……いや、だからこそ間違えられないという責任感。その二つがぶつかり合っている。いや、それだけでここまでの矛盾の色はすまい。求められている説得の言葉は……

 

「でも、ルビーには、華がある」

 

どちらを選んでも後悔する。ならルビーの後押しをする。それがミヤコがオレに求める役割。諦めるためのエクズキュートをやってもらいたいと思っているはず。実際、オレの言ってる事を否定せず、肯定の溜息を吐いた。

 

「客がアイドルに求めるのはダンスや歌のクオリティだけじゃない。役者もそうだけど、大切なのは客に向きあっているかどうか。客と目を合わせ、仲間と目を合わせ、ステージで繋がれるかどうか。それこそがエンターテイナーの資質。その資質においてルビーを上回るアイドルはオレが知る限り、アイくらいしかいない」

 

世間一般のほとんどは無名のアイドルなんて興味がない。そんな人達をファンにするためにはまず客と繋がる必要がある。感情を込めて言葉を紡ぎ、熱を持って視線を合わせる。それができて始めて、アイドルは偶像になれる。

 

「だからアイツはきっとなるよ。オレ達がいくら止めても、きっと」

「…………わかった。決めた」

 

パサっと何か投げられる。名刺だと気づいたのは3数えるほどの間が必要だった。

 

「地下アイドルにスカウトされたんだって」

「…………へぇ」

 

思春期女子が引っかかりやすい詐欺No.1。地下アイドルになりませんか?その毒牙が妹にかかる日が来るとは。アイドルの道が出来上がってるとはこういう意味か。

名刺を見るアクアが一気に疑惑の目に変化したところを見て、ミヤコも安堵する。話が早く、相談しやすい。

 

「軽く調べたわ。一応ホントにあるアイドルグループみたい」

「…………評判は?」

「詳しいところまでは分からなかったけど、パフォーマンス見る限り、一山いくらってかんじね」

 

ルビーにアイドルレッスンに付き合わされる機会が多かったからか、それとも違う理由か、アクアもアイドルを見る目はある。映像を見せてもらうが、可もなく不可もなしという感想だった。

 

「ま、遅かれ早かれアイツにこういう話はくると思ってたけど。で?オレにどうして欲しいの?」

「どうって?」

「とぼけんな。して欲しい事があるからわざわざオレに教えたんだろ」

 

決めた、と言ったからにはなんらかの決断をしたという事。ルビーにアイドルをやらせてみるという決断をしたのならもうオレに相談する意味はない。つまり、ミヤコが決めたのは他のことのはずだ。

10数えるほど押し黙っていたが、観念するように息を吐く。

 

「この地下アイドルの実態、すこし調べてくれない?外から見ただけじゃわかんない事は沢山あるから」

「…………やり方はなんでもいいんだな?」

「犯罪行為はやめてよ。あと寝業を使うのも禁止。良いわね?」

「了解。ちょっと事務所の名前借りるよ」

「…………何する気?」

「人を騙すには嘘とホントを混ぜるのがコツって事」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間が少し経ち、その日の夜。苺プロ事務所に一組の男女が訪れた。

 

「ようこそ、苺プロへ」

「わっ、本当に事務所だぁ。嬉しぃ〜。スカウトの人すっごく若いしイケメンだし、タチの悪い勧誘かと思っちゃいましたよぉ」

 

───タチの悪い悪夢だわ

 

輝く黄金色の髪をバックに纏め、見事な愛想笑いを見せる義息子にミヤコは心中で盛大なため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 




最後まで読んで頂きありがとうございます。このアクアがルビーのアイドルをあそこまで反対するとは思えなかったので止めてたのはミヤコさんということにしました。ちょっと無理がありましたかね?それでは感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければ幸いです。
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