【本編完結】星をなくした子   作:フクブチョー

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12時を過ぎたシンデレラは休息の中
魔法が解けた世界で遊興に興じながら
魔法の時間を知らなかった世界に想いを馳せる
かの魔法使いが王子様であったならと


34th take もしも魔法のない世界を

 

 

 

 

 

 

 

 

芸能界生活14年。有馬かなは今、人生で最高潮の苦悩を味わわされている。

 

自室のクローゼットは全開になっており、ベッドの上はもちろん、部屋中足の踏み場がないほどとっ散らかっている。普段から家事片付けが得意ではない方だが、今はもう泥棒でも入ったかのような状態だ。広げられた衣服の数々の前で下着姿で仁王立ちする赤みがかった黒髪の少女は頭を悩ませていた。

 

───どういうのがアイツの好み!?

 

セクシーなの?キュートなの?どっちが好きなの?今ガチは全部見てたけど、アクアは女子の服装を褒めることはあっても、自分の好みを言っていたことはなかった。色とりどり、ジャンルバラバラの服たちを鏡の前で体に合わせるも、どれも違うような気がして一つに決められなかった。

 

「清楚めかつ身体のラインを綺麗に出るワンピ。大人っぽいし王道デートスタイルだけど……」

 

脳内でこの服装を見たアクアがどんな反応をするかイメージする。まあ貶しはしない。普通に褒めてくれるだろう。アイツはこういう機微には聡い方だから。でも…

 

『しかしお前、随分気合い入れてきたなぁ、そんなに楽しみだったか?』

 

 

お可愛いやつめ

 

 

「うっるさいわねぇ!!」

 

見下した顔で嗜虐的に笑うアクアに向けて体に当てていたワンピースを叩きつける。穿った妄想かもしれないが、あのドS捻くれ王子ならこれくらいのことは言いかねない。

 

「ならもっと私服っぽい感じにする?スポーツミックスにダストスニーカー。キャップはいつも被ってるから特別感はあんま出ないし…クールな感じも似合うじゃん、て言わせるのもありかも……けど」

 

『いかにもタレントの私服って感じだな。お前自分が女優である事にめちゃこだわるよなぁ』

 

 

お可愛いやつめ

 

 

「こだわって悪いかぁ!この道に来て14年こだわり続けてきたものをそう簡単に捨てられないわよ!…………いけないいけない。ならもっと私という素材をMAXに活かす服にする?あいつって才能とか長所とかを伸ばしてる人が好きそうだし。ロリandガーリー路線でいくならこれもアリ…けど」

 

『似合ってるけど……だからお前ルビーからロリ先輩って言われんだよ。歳考えろよな』

 

 

お可愛いやつめ

 

 

「…………ダメ、何着て行っても同じパターンにしかならない。」

 

どんなジャンルのどんな服を着ていってもお可愛いやつ扱いされて終わる。可愛いなんて本来なら褒め言葉なのにおが一つ付くだけでこんなに屈辱的になるなんて。日本語って不思議。

 

「いっそ制服?アリだと思うしちょっと憧れるけど制服デートって相手にも合わせてもらわなきゃ意味ないし……それに平日に制服着てサボってたら学校に連絡されるかも」

 

軽く変装はするつもりだが、この一億総カメラマン監視社会。平日に制服で遊んでいたら最悪警察とか呼ばれる可能性すらある。

 

そもそもアクアはどんな格好して来るつもりだろう。アイツも変装はするだろう。すっぴんで外を歩いて身バレする確率は今や私よりアクアの方が高い。私は帽子に眼鏡くらいのつもりだが、アイツは下手したらデートで女装してくるかもしれない。身の安全のためなら妥協はしない男だ。

 

───いやデートとは言ってなかったけど

 

憂さ晴らしに付き合え、という口調だった。アイツは友達と遊びに行くくらいの感覚かもしれない。待ち合わせ場所もアミューズメント施設が近くにある駅だし。

 

───なんか、馬鹿馬鹿しくなってきた

 

なんで女装男のために私がここまで服とか悩まなきゃいけないんだろう。アイツは恐らく事務所の適当な服選んでウィッグ被って不知火フリル仕込みの化粧してくるに違いない。アイツがどんな格好してきても私はデート気分でいられる自信はある。でももう気を使う気にはなれなかった。

 

いつもの私服っぽい格好にちょっと女の子要素を入れたワンピースを掴むとタクシー呼んで部屋を出る。もう待ち合わせ時間が差し迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───ヤバ、ちょっと遅れた

 

ラインで通知は送ったが、それでも気は急いてしまう。あの皮肉屋ロジカルドS王子に付け入る隙を与えようものならネチネチ正論パンチをドスドス入れられるに違いないからだ。

 

『なんでタレントって時間守らねえの?』

『女って普段男女平等とか色々訴えてるけど、都合のいい時だけ女を言い訳に使うよな』

 

絶対言う。間違いなく言う。そりゃ私が悪いけど、せっかくのデートで開口一番そんなこと言われたらもうまたいつもみたいに喧嘩になっちゃう。それは嫌だ。

 

「そもそもアイツどこに……駅で待ち合わせって言ってもそこそこ広い……ん?」

 

タクシーがようやく待ち合わせの駅に到着し、待ち人の姿を探す。辺りを見渡した時、一箇所に人だかりが出来ているのが目についた。同時に聞こえてくるピアノの旋律。綺麗な曲だ。滑らかでいながらもポップで耳に楽しい。ダンスなどのバックミュージックに合いそうな曲。

 

音に誘われてフラフラと歩く。人垣の向こうで極彩色に塗装されたピアノが見えた。

ストリートピアノ。駅や庁舎など、公共施設に備え付けられた誰でも弾けるピアノ。

しかし、実際にこのピアノを弾こうとする人間は少ない。人前でパフォーマンスを披露するというのは相当の勇気と技量を必要とする。こんな大きな駅の中、このピアノに触れられるのは下手が許される年端もいかない子供か、超絶テクニシャンのどちらか。

そして今演奏している人間は完全に後者。音楽に関しては素人である有馬にすらわかるほどの技巧と表現力。まるで旋律から色が見えるかのような芳醇かつ厳かな演奏だった。

 

───いったい誰が……

 

人垣をすり抜け、演奏者の姿がようやく見える。旋律に沿って揺れる体と靡く黒髪はサラサラと音が鳴るかのような艶やかさ。ソリッドなスポーツグラスは美青年の怜悧な美しさを際立たせている。ほっそりとした指はまるで女性の手のように整っており、ふしくれだった関節は男性特有の色気を魅せる。

 

演奏者が誰であるか、有馬かなにだけはわかった。髪色もメガネも見慣れないが、その奥で光る星の瞳を見間違えるはずがない。

 

星野アクア。リアリティショーをキッカケに急速に世間に認知され始めた俳優。特技がピアノである事も一部では有名。

 

最後の小節が終わり、演奏者の足から力が抜ける。ペダルによって引き伸ばされた旋律がフッと消えた。

 

「ご清聴ありがとうございました」

 

黒髪の美少年が敬礼した。同時に周囲から拍手が巻き起こる。有馬かなもいつのまにか一人の聴衆となって思わず手を叩いてしまっていた。

 

ひとしきり挨拶すると演奏者がピアノから離れる。すると女子大生らしきグループがアクアの元へ集まった。

 

「素敵な演奏でした!お兄さんプロのピアニストさんですか?」

「今日はお仕事ですか?それともユーチューブとかの動画を?」

「ありがとう。素敵なお姉さん。まさか。趣味の素人マンですよ。暇つぶしに少しね」

「もしかしてこの後時間あったりしますか?もしよかったら一緒にご飯でも食べに行きません?」

「私たちもちょっと音楽やってるんですよ。少しお話とか…」

「あー…」

 

携帯を覗き込む。しばらく操作していたが、すぐにオフにした。

 

「ちょっと体動かしたいな、て思ってるんだけど、お姉さん付き合ってくれる?」

「えっ…もちろん!スポッチャ近くにありますもんね!是非!」

「ホント?いやツレ待ってたんだけど遅れてるみたいでさ。一緒に遊んでくれる人いないかなって思ってたんだ。そしたらこんな綺麗な人たちと出会えるなんて。ピアノやっててよかっ──うぉっ」

 

唐突な引力に肩ごと引っ張られる。力にかなり強い感情が込められているのがわかった。見下ろすといつのまにか隣に来ていたのは遅れていた待ち人だった。

 

「行くわよ」

「お兄さん!?」

「ごめん、お姉さん方。ツレ来たわ。またね。連絡してくれるならここに」

「渡すんじゃないわよ」

 

ポケットから取り出したメモを握りつぶされる。黒髪の美少年はベレー帽の少女に首根っこを引っ掴まれてそのまま人混みの中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………なー、有馬。有馬さんってばー」

 

握っていた手を離し、無言で前を歩き続ける小柄な少女に呼びかけ続けるも、返事はない。顔を見なくても背中からだけで不機嫌が伝わってくる。めんどくせ、と思いながら、アクアは乗ってきたバイクを手で押しながら声をかけ続けた。ここでやめたら余計に面倒になると知っているから。

 

「怒んなって。ちょっとした暇つぶしだろ。言っとくけど謝らねーからな。お前が来んのおせーからああなったんだから」

「…………」

「チッ、やめた」

 

踵を返す。こういうタイプは下手にでてたらつけあがる。このままだと本当にオレが頭下げなきゃならなくなりそうだ。そうなる前にこっちから手を引く。

 

───何人か当たってみるか。遊ぶ相手くらい当日でも……

 

スマホをイジろうとポーチに手を伸ばしたところで袖を引っ張られる。ようやく話をする気になったらしい。やっぱ有効だな。押してダメなら引いてみろ。

 

「誰でも良いんでしょ」

「は?」

「遊び相手なんて誰でも良いと思ってるんでしょ」

「…………」

 

まだ終わってなかった。面倒な拗ね方されてた。

 

「ルビーや不知火フリル誘えばよかったって思ってるでしょ」

「ないない」

 

ちょっと嘘だけど

 

「私を誘った理由なんてないんでしょお」

「拗ねんなよ。何も泣くことはねーだろーが」

「だってぇ」

 

悔しさと悲しさがないまぜになった雫がボロボロと有馬の目から流れ落ちる。この状況で泣くのは卑怯とわかっているのに止められない。そんな想いが溢れていた。

 

───こんなつもりじゃなかったのに

 

溢れる涙を拭いながら、かつての天才少女は後悔する。遅刻だってするつもりはなかった。なんならアクアより早く来て『ごめん、待たせたか?』『ううん、今来たとこ』もやりたかった。女装してくるかもと思ったけど、アクアはちゃんとデートの格好で来てくれた。綺麗な男性用の黒髪のウィッグを被り、眼鏡をかけていただけだった。金髪じゃない、黒髪のアクアもいつもとは違う気品に溢れていて魅力的だった。アイツのファッションをほめて、私の服も褒められたかった。それなのに…

 

───なんで私はこんなに可愛くないんだろう

 

思ったことがポロッと口に出ちゃうこともあるのに、肝心なところじゃ心と反対の言葉が出てしまう。アイツが誰でもいいなんて、思ってないことぐらいわかってる。遊ぶ女なんて沢山いる中で私を選んでくれたことも。それなのに私はあんなこと言って、こんなふうに泣いてしまう。なんて可愛くない。なんて卑怯。

 

「ま、確かに遊ぶだけならそれこそ今ガチのメンバーとか、誰でもよかったけど──」

「っ……」

「今回は有馬じゃないとダメなんだよ。ちょっとマジな話もしたいから」

 

さっきとは違う意味で息を呑む。振り返ると目線を上に逸らし、頬をかくアクアの少し照れた顔があった。

 

「アイツらとの関係は今のところビジネスだ。そういう相手に打算なく無駄な会話はしづらい。どこから綻びが出るかわかんねぇし。常に戦略と嘘を纏っている」

「…………」

 

言わんとすることはよくわかる。隙を見せたら誰が背中から刺してくるかわからない世界だ。カメラがあろうとなかろうと常に気を張っていなければならない。

 

「だからこそ、嘘には真心がなくてはいけないと心がけてはいるがな。真心のない嘘はメッキだ。偽りしかない嘘っぱちタレントはいずれ必ず馬脚を表す」

 

アイに嘘がなかったとは思わない。寧ろ嘘だらけだったろう。隠れて男もいたし、オレ達を産んでいる。アイドルとして売れるために、そして自分のために嘘と戦略を纏っていないはずがない。

 

だが、アイの嘘には真心があった。

 

ファンを好きだという想い。ミヤコや社長への感謝。ステージに立てる喜び。そしてオレとルビーに捧げてくれた愛。アイツの嘘にも戦略にも真心があった。それは間違いない。だからこそアイは本物だった。

 

オレも嘘はつく。戦略は常に持っている。だが、『今日あま』の時も『今ガチ』で動画を作った時も、有馬を最悪の現場で本気にさせてやりたい。あかねを炎上から救いたいという真心は忘れなかったつもりだ。

 

「その点お前はお互いもう本性知ってっから特段気とか使う必要ねぇし」

「使えやコラ」

 

苛立ちと共に胸を張りたくなる。そういう相手に選んでもらったことは悪い気はしない。この鉄壁完璧隙なし男の特別になれているという事だから。男女問わず、特別扱いされたら大概は嬉しいものだ。

 

「悪かったよ。ごめん」

 

有馬の心にグッと罪悪感と他の何かが湧いてくる。謝らないと言ったアクアに謝らせてしまった。これはストレートに謝罪するより威力がある。謝罪とは口にすればするほど軽くなる。なら絞り出した一言のごめん以上に重いものはない。

 

「…………もう良いわよ、遅れた私も悪かったんだし」

 

重い謝罪が功を奏したのか、彼女にしては素直に自分の非を認め、矛をおさめた。

 

───最初からペコペコするよりちょっと争ってこっちから折れたアピールする方が効くんだよな

 

ルビーと喧嘩した時などによく使うアクアのテクニックの一つだなどと、有馬かなには知る由もなかった。

 

「今日はワンピか。オーソドックスだが、いいじゃん。お前なら意外と王道も映える」

「っ、ふんっ!意外って何よ。当然よ当然!アンタこそ黒髪なんて初めて見たけど、シックで良いじゃない。そっちの方が品良く見えるわよ。今回はウィッグ?いっそ染めたら?」

「ウィッグだ。毛染めは遠慮しとく。染毛剤って結構身体に悪いから………ほら、乗れよ。すぐそこだけど、今日は他も周りたいから」

「うんっ」

 

押していたバイクに乗り、ヘルメットを渡す。タンデムシートに勢いよく座ったのを確認するとアクアはエンジンをスタートさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は〜〜〜っ!マジありえなくない!?学校サボって、バイク二人乗りして、こんなところで遊ぶなんて不良じゃん!あり得ない!マジさいあく!マジさいあく!」

 

───の割には機嫌良さそうだなオイ

 

都内某所アミューズメント。ボーリング、カラオケ、ゲーム、果ては室内スポーツまで、ありとあらゆる娯楽施設が敷き詰められた場所で有馬かなは両手を広げ、ステップを踏みながら小躍りしている。こいつ、ホントに女優か、と、聞きたくなるほど感情丸出しの姿にアクアは呆れの息を吐いた。

 

「めんどくせーな、帰るか」

「そうは言ってない」

 

出入り口に向きかけたアクアの肩をがしりと掴む。細い腕だが、思ったより力があった。

 

「マジな話したいんでしょ?ま、最近あんた思い詰めた顔してること多かったし?相談相手くらいにはなってあげようかなって。心が天使よね、私」

「自分のこと天使とかいう女でホントに天使だった奴には会ったことねぇなぁ、オレ」

「で?なにする?ボーリング?ゲームセンター?プリクラ?あ、カラオケは嫌よ。私音痴だから」

「体動かしたいって言ったろ。スポッチャ。テニスから」

「ええ……本気でスポーツするの?この服で?」

 

せっかくのデート服だというのに、汗まみれになるのは色々と困る。アクアの汗だくの姿は少し見たいが。

 

「そんなマジにはやらねーって。身体動かせればそれで良いから。軽くジョギングくらいの気持ちでやるぞ」

 

ヘアゴムでウィッグを軽く縛る。わずかに覗くうなじに少しドキッとした。

 

───ま、いっか

 

『今ガチ』ではスポーツ対決とかもやっているのも見た。少し羨ましかったのもやってみたかったのも事実だった。

 

ラケットから軽いサーブが打ち出される。見よう見まねで打ち返したボールは明後日の方向へ飛んでいった。

 

「15-0」

「ぐっ、コレからよ!」

 

それからしばらく二人はゲームに興じる。テニス、バスケ、サッカー、キャッチボール、ボーリング、シューティング、格ゲーetc.

 

その全てでアクアはボロ勝ちした。

 

「くぁーっ、楽しかったぁ」

「…………そりゃアンタは楽しいでしょうよ!人のこと散々サンドバッグにしてくれて!」

「勝負事ってのはギリギリの勝負も悪くないが、やっぱ圧勝してる時が一番面白いなぁ。今ガチじゃ番組的にマジ出せなかったことも多かったし。いやー爽快爽快」

 

───フリルとやる時だけは常にマジでガチだったが…

 

あれはアレで面白かった。だから強敵との戦いを楽しむ連中の気持ちもよくわかる。が、少なくともアクアにとって、快感という意味では圧勝してる時の方が遥かに勝る。

 

「あんたねぇ。相手を楽しませようって心はないの!?」

「やるからには勝つ」

 

目覚めてから12年。練習から本番の舞台。スタジオからステージ。日々のちょっとした競争。何千何万と積み上げてきた戦いの日々。負けてもいいと思ったことは、一度もなかった。今ガチでも接戦に見せかけるため、手を抜いたことはあったが、その中で常に勝とうとしていた。手抜きの本気だった。

 

「それに、お前は接待(そういうの)嫌いだろ?」

「っ……」

 

纏めていた髪を下ろすと同時に放たれる不意打ち。アクアの色香と言葉に思わずドキッとしてしまう。コレだからこの男は手に負えないのだ。こちらをハネのけるような態度がスタンダードなのに、時折人の深い所を突くことを言う。散々変化球投げられた後にどストレートにズバンと来られたらそりゃ一番対応しにくいだろう。人がやられて嫌なこともわかってるが、人の喜ばせ方もこの男は深く理解している。

 

「っ、わかってないわね!こういうので楽しくやれるなら気遣いはアリよ!接待じゃなくて!ホントわかってない!」

「気遣いしなきゃいけねー相手なら有馬は誘ってない」

「…………ふんっ」

 

会話しながらアミューズメント内のフードコートへと足をすすめる。スポッチャで身体を動かし、ゲームセンターで遊んだ二人はいい感じに腹が減っていた。

 

───けど、楽しかったな

 

歩きながら身体を満たす充足感に有馬は心を弾ませる。確かにボロ負けだったが、もちろん全てにおいて完封されたわけではない。アイツからポイントを取った時は嬉しかったし、本気で悔しそうにするアクアを見るのは楽しかった。ゲームでは二人で協力プレイもした。一緒にクリアした時に交わしたハイタッチの痺れは今も手に残っている。手の痺れは身体全てを揺らし、甘い痺れとなって心を揺らした。

 

───もし私もアイツも芸能人じゃなかったら……

 

ずっとこんな関係でいられたのかもしれない。不知火フリルよりずっと先に私がアクアの親友になって、いろんな悩みを打ち明けて、こんなふうに学校サボったり、放課後にデートしたりして、いつのまにか彼氏彼女になってる。そんな恋愛ができたのかもしれない。私もアクアも普通の人だったら……

 

そこまで考えて、頭を振った。楽しい空想だったが、少し虚しかった。お互い子役やってなかったら私たちは出会わなかった。10年以上芸能人を続けてなければ同じ学校に通えてなかった。私たち二人とも何か一つでも欠けていたらきっと出会いも再会もなかった。二人とも今までの人生で諦めず、妥協を許さず、ここまで来たからこその今だ。それを否定することは今までの私やアイツの努力も才能も否定することになる。それだけは同じ役者としてやってはいけない。

 

「ん、オレはパンケーキプレート季節のフルーツを添えてで。ドリンクはアイスコーヒーにしよ。有馬は決まったか?」

 

───こっちの気も知らないで…

 

いつのまにか入店していたフードコートのカフェ。メニューを見ながら呑気に聞いてくる。苛立ちと諦め、両方の息を吐いた。

 

「そうね……私はグリーンスムージーにするわ」

「そんな植物みたいなもん食ってんじゃねぇよ。一番高い豪華デラックスケーキプレートにしろよな。そんで一口くれ」

「アンタこそ女子より女子みたいなモノ食べてんじゃないわよ。ていうか意外ね。アクアって甘いもの苦手そうなイメージだったわ」

「偏見だな。男子だってたまには甘いもの食いたい時はあるさ」

 

注文のブザーを鳴らす。威圧感も卑屈さもなくスラスラと私の分まで注文をしてくれる姿はポイント高いと同時に女との食事に慣れてるのがわかってイラッとした。

 

 

 




最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
やっぱり重曹ちゃんは不憫かわいい。
次回デート回終了。そして今ガチ編最終章。果たしてアクアはどちらを選ぶのか。それともどちらも選ばないのか。
それでは励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします。時間がかかっても感想には必ず返信します。
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