しかし星が輝ける場所には限りがあって
新たな星が空に上がる時
どこかでまた一つ、夜闇に星が流れている
「ねえ、アンタってシンデレラのこと、どう思う?」
今ガチが始まって暫くが経った頃。アクアの炎上騒ぎが下火になり、その才能を認めはじめた世間はアクアのことを一部でこう呼ぶようになっていた。『天才不知火フリルに見初められたシンデレラボーイ』。有馬かなが手にとっている、頬に傷を負ったアクアが表紙を飾ったティーン向けの雑誌にもその文言は大きく書かれていた。
「唐突だね、どしたの先輩」
「いいから。答えて」
「どうって……そりゃ女の子の夢っていうか。憧れ?」
「夢?憧れ?ハッ。あんなの地位に惚れた美人の女が着飾って城に出向いて顔見ただけで惚れるような面食い王子捕まえたっていう。脳みそ盛った男と打算女の利害が一致しただけの、超リアル話じゃない。物語の中でも結局男と女の恋愛の価値観なんて変わらないのよね。男は性欲。女はステータス。真実の愛なんて物語の中ですら滅多にお目にかかれないわ」
生物学的見地からすると、極論男はセックスできれば誰とでも恋に落ちうる。女は生まれた子を男に庇護してもらう必要があるため、自分と子供にリソースを払ってくれる人を相手に選ぶ。男は性欲。女はステータス。それが恋愛における男女の根本。
もし王子が継母達に虐められ、それでも懸命に働くシンデレラを見て、恋に落ちたというならまだわかる。けれど王子が知るのは魔法の力で美しく着飾られたシンデレラのみ。出会って、一眼で惚れて、ちょっと踊っただけで恋に落ちたというのなら、思慮の浅さに呆れざるを得ない。とんだ脳みそピンク王子だ。
「───私なら、魔法使いに恋をする」
きっと魔法使いにとってシンデレラは特別じゃない。あんな魔法を施すのがシンデレラが初めてなはずはないし、きっと彼女が最後でもない。コレからもあの魔法使いは哀れで本当に美しい人間を救うために、旅を続け、人を救い続けるだろう。
そもそも、魔法使いがあんな人助けを続ける理由はなんだろうか。あんな力があるのならいくらでも私腹を肥やせるはずだ。それなのにあの人は人を助けるために魔法を使う。
あの優れた技術を求め、一体どれだけの人間が群がっただろう。どれだけの人間があの
そんな人間達がイヤになって、行方を眩ました。自分がされなかった事を。技術や才能と言った表面的なところではなく、本当の美しさを持った人間だけを救う。その為に魔法使いはコレからも旅を続けるのだろう。だからシンデレラも救った。
懸命に働き、舞踏会を夢見て、涙する彼女を愛おしく思い、彼女のために力を尽くしてくれた。
私ならそんな人を好きになる。醜い姿を見ても愛情を示してくれる人を。技術や過去ではなく、今の自分を見てくれる人を、幸せにしてあげたいと思う。
本当の私を知る人に恋をする。
───アンタはどんな人に恋をするの?
雑誌の中でカッコつけてこちらを睨む男の顔を指で弾く。この男は顔や身体だけで女を選ぶような事はしないだろう。性格?才能?能力?それら全て?どれも違う?答えは、わからなかった。
「あの魔法使いっておばさんじゃなかったっけ?」
「…………もちろん男ならよ」
▼
スターステージ。JIFに十あるステージのうちの一つ。屋外型の舞台で大きさはステージとしては小さい部類。地下アイドルが多くこのステージに割り振られている。B小町もそのグループの一つであり、有馬かなをセンターに舞台に立った三人が出番を迎えていた。
「…………B小町、かぁ」
観客の一人が呟く。ステージに集まった客のほとんどはインフルエンサーMEMちょが目当て。グループ名など参考程度にしか知らない人たちばかりだったが、壮年の男性が郷愁を漂わせながら、その名前を口にした。
「店長、知ってるんですか?」
「ああ、今の若い子は知らんか。アイっていう伝説的な子がいた幻のアイドルグループ。そりゃもう凄かったんだけど、志半ばで死んじゃって、一人の大エースに支えられてたグループもそのまま解散。この子達は多分その襲名」
店長の言葉には期待も衝動もまるでなかった。名前だけ一緒でも、あの輝きに敵うはずがない。
「…………でもパフォーマンスは結構レベル高くないですか?」
MEMちょ目当てで会場に訪れていた一人が呟く。確かに先ほどまでの地下アイドルと比べれば、歌をダンスも上手い。もちろんまだまだ上には上がいるが、新米アイドルグループとして考えるなら充分高評価が与えられる。
しかし、壮年の男性はため息と共に首を振った。
「アイは上手いとか下手とか、そういうの超越してたんだよ。引きずり込まれるっていうか。光に目が焼かれるっていうか、そんな感じ。多少踊りや歌が上手い木端三人集めたところで、あのB小町とはまったく───」
別物、と言おうとして、止まる。ステージ上の踊り手の立ち位置が変わる。複数人のアイドルダンスはセンター固定ではない。もちろん曲の入りと終わりは固定だ。グループの顔とでも言うべきアイドルが最も映える位置に陣取る。しかし一曲まるまるそうかと言われるとまず違う。ステップの中で移動があり、他のメンバーが真ん中に来ることもある。B小町もその例に漏れない。センターが有馬かなから金髪の少女へと移った時、ステージの何かが変わった。
「でも、曲はいいっすね。歌詞とかはまあ普通っすけどリズム隊が良い。コレってドラムは生演奏っすかね?」
▼
心臓の音が、規則的に脈打つのがわかる。うるさくも、大人しくもない。理想的なリズムで鼓動を奏でている。
───不思議…
あんなに緊張してたのに。一度ステージに立てば、細かく震えていた身体は落ち着きを取り戻し、あんなにアクアへの怒りと自分の情けなさでぐらついた心はまるで揺れなくなっていた。
声が良く出る。何も考えなくても身体が勝手にステップを刻む。意識しなくても表情が作れて、胸を張って踊ることが出来る。
コレは場慣れのお陰か。それともあの男の
───いや、多分どっちも違う。
余計な事を考えながらも身体は勝手に動く。叩き込まれた腹式発声が自然にできている。レッスンしてきたことが、身を結んでいる。
───練習とは今までできなかった事をできるようにする為に。今まで知らなかった新しい事を覚える為に行う行為
そこまでは知っていた。しかし、もう一つ意義があることに有馬かなは気づく。
人間が呼吸する事をわざわざ意識しないように。染み込ませた動作は何も考えなくても行われる。
練習とは身体の奥に潜在する無意識に染み込ませる作業なのだと。
『無意識レベルまで叩き込みます』
レッスン中、事あるごとに言っていたレンの言葉。それが今になってようやく溶け込んでいく。
───演技の勉強だけで知る事はなかった。子供の頃にやってたなんちゃって歌手でも気付かなかった。けど、あいつは知ってた。だから私たちに教えられた。
コーチングとは先人の歩いてきた道を後進へ伝える事。踏みしめられた悪路は拙いながらも順路として刻まれており、後ろの人間に正しく伝えることができれば、歩きやすい獣道となって、人を導くことができる。
───あいつは一体誰に教えられたんだろう
アクアが歌もダンスも素人ではない事はわかってる。顔の良さに胡座をかいていた妹と違って、ありとあらゆる分野で広く深く学習し、努力してきたことも。けれど誰に教わったのかは気になった。だってどうせ女だ。あいつは顔の良さも、生まれ持った才能も、努力も、使えるものは全部使って、欲しいもの全て手に入れてきた奴だから。
───集客は悪くないわね
余計な事を考えすぎていると自覚し、周囲へと目を向けると、思ったよりステージ前に人が集まっていることに気づく。コレもアクアの言っていた通りだ。インフルエンサーMEMちょのファンが集まってくれている。彼女の2年間を見てきた人が来てくれている。
なぜMEMちょのファンだとわかるか。前列の人間たちが彼女の名前を呼んでいる、というのもある。しかし最大の理由は他にあった。
───ペンライト、黄色ばっかり
ステージが始まる前日、各々のサイリウムカラーを決めた。ルビーはアイと同じ赤。メムはキャラのイメージ的に黄色。そして私は白。
色なんてなんでも良いからあんまりキラキラしない色を選んだつもりだった。実際私の色は目立ってなかった。
───前よりの客が振っているのは黄色ばかり。でも赤のペンライトも思ったより目立つ。目に入ってくるのは黄色と赤だけ。白なんてほとんど無い
気持ちが落ちかけたからか、はたまた偶然か。ステップを踏むルビーと目が合う。まるで私を覗き込んでいるかのような錯覚に陥った。
先輩、笑って
右目を瞑る。兄とよく似た星の輝きを放つ左瞳をウィンクにより一層際立たせ、両の人差し指で口角を上げる。その仕草はあまりに魅力的で、可愛くて、思わず被った。かつて一度だけ共演した、売れるべくして売れた本物の天才アイドル『アイ』と。
───良いな
この子達は眩しい。ルビーも、勿論アクアも。才能だけじゃない。言葉にできない特別な何かを持ってて、自分から光り輝ける人。今この瞬間にも誰かの心を奪ってて、どんどんファンを増やしていく。血は争えないという事だろうか。きっとこういう子達が昇っていくんだろう。
───羨ましい
この子達は全部持ってる。家族も、母親も、マネージャーも、ファンも。今の自分を見てくれて、慈しんでくれて、求めてくれる人たちを。
『お兄ちゃんは大丈夫かなぁ』
『有馬、ルビーを頼む』
『ごめんなさい、有馬さん。ちょっとあの子達のところ行ってくるわ』
あの事務所に入り浸るようになって、何度も見てきた。喧嘩する事もある。突き放すことも、嘘をつくことだって。でも彼らの中にはいつも愛があった。真心があった。何をしていても常に気にかけ、お互いを思い遣っていた。
───私には何も無い
ママもマネージャーも私のことなんてほったらかし。ファンだって見ているのは過去の私の面影ばかり。
『誰か私を見て』
十数年間、それだけを叫び続けてきた。
自分の価値を証明する為にやりたくも無い歌を唄い、踊りたくも無い踊りを踊り、大嫌いなピーマンだって食べ続けた。
タダ同然のギャラで自分を売り込み、ど下手くそだらけの現場に挑み、不本意な演技にだって取り組んできた。
誰かに必要としてもらいたくて。
あの子は使えるって、言ってほしくて。
ただ一言、頑張ったねって褒めてもらいたくて。
ただ、それだけなのに
───誰か、だれか、ダレカ
アクア
助けて
「いいよ、かな」
シンバルの音が、鳴り響いた。
▼
「アクア、打ち込み終わった?」
「まあ、大体」
アイドルミュージックは基本的にポップな音が採用される。クラシカルにピアノやバイオリンが伴奏になることもあるが、殆どはギターやベース、ドラムが主なロックミュージック。それらを打ち込み、電子音に置き換え、シンセで流す。トップアイドルにもなればバンドが生で演奏してくれるが、売れないアイドル達はまず音源を利用している。
B小町もその例に漏れない。下積みが長く、この手の機械の扱いに慣れていて、ロックに理解が深いアクアにミヤコは音源の打ち込みを頼んでいた。
「大体ってなによ。何か不都合あった?」
「んー……音聴いてて思ったんだけど、やっぱ打ち込みじゃつまんねーなって」
───出た
アクアのつまらない。コレが出た時、アクアはどんな合理的なことでもやりたがらない。時間と手間がかかっても満足のいく仕事に仕上げる。完璧主義の完全主義者。しかし負の側面がないわけでは無い。
「もうフェスまで日もないし、バンド引っ張ってくるようなお金も練習してもらう時間もないのよ。そりゃ打ち込みじゃつまらないかもしれないけど、コレでやるしか今はないのよ」
「でもなぁ。ギターとベースはこっちで多少弄れなくもないけど、ドラムがなぁ。単調なエイトビートだけだと、幅が…」
ギターは多少リズムが違ってもコード進行さえ守っていればリズム隊でカバーできる。ベースも歌手が歌いやすいような打ち込みに変える事はできる。しかし、ドラムはどうしようもない。曲のノリ、観客のノリ、そしてアイドルのノリ。それらに合わせてリズムを保つロックミュージックの背骨。コレは生の演奏を聴きながらでなくては、ベストのパフォーマンスは発揮できない。打ち込みであらかじめ弄るなんて事は不可能だ。
「…………なあ、スターステージってピットある?」
演奏者のための場所。観客からは見えず、けれどステージの様子とアイドル達の様子が見える空間。一応あるにはある。フェスのスターステージに立つのは地下アイドルが主だが、それでも生演奏を持ってくる大手所属のコレから来るアイドルが立つ事だってあるんだから。
「───あなた、まさか」
「ま、ファーストステージだしな。大サービスだ。一度だけならやってやらんでもねぇ」
スティックを手の中でくるりと回す。柄の部分は赤と黄と白のトリコロールで彩られていた。
「ねえ、アクア。貴方バンドで作詞やってたのよね」
「まあね」
「もしかして作曲とかもできたりする?」
「…………やれと言われれば不可能じゃねぇと思うが、やだ」
「まだ何も言ってないでしょ」
「やだ」
「新生B小町の新曲、作ってくれない?ツテを頼りに探してるんだけど、なかなかうまくいってないの。お願い」
「私情抜きでやめとけ。オレの詞、結構暗いから。アイドルソングには向いてねぇよ」
▼
なんか、いつもより歌いやすいとは思ってた。
コンポから流れる音と違う。いつもは伴奏にこっちが合わせるような歌い方だったのに、今日は音が私たちに寄り添ってくれるような、そんな気はしていた。
けれど、ステージの上で、反転して初めて気づいた。観客から見えない空間。ステージのバックにあるその場所に一台のドラムが置かれているのを。
ハイタムロータムが、スネアドラムが、シンバルが。赤と白と黄で彩られたスティックにより振動している。真ん中に座るのは蜂蜜色の髪をスポットライトの飛び火で煌めかせる美少年。星の輝きを放つ瞳はステージに立つアイドル達に注がれ、黄金色の髪がかかる耳は微細な音も聞きもらさないよう、そば立てられている。
───あいつ、ドラムなんて出来たんだ
流麗に動く腕と足。まるで、それぞれが別の生き物のように独立した動きで旋律を奏でていく。ピットの奥からでも見える煌めく汗とこちらの背筋をゾクリと震わせる奏者の色気。
ロックに関してほとんど素人の有馬かなですらわかる。このドラムスが立つべき場所は、あんな小さなステージではないことぐらい。
チラッとメムとルビーを見る。アクアがドラムを叩いていることに気づいているのか、そうでないのか、ぱっと見ではわからない。でも二人ともいつもよりハツラツと歌っていた。リズム隊の小気味よさにノせられていると理解していたのは有馬とミヤコだけだった。
ギターもベースもアンプを通せば電子音だ。打ち込みだろうと生演奏だろうと、素人にその差はわからない。
だがドラムは違う。電子音などではなく、衝撃が大気を振動し、鼓膜を叩き、腹の底を痺れさせる。生の音とシンセの音では素人でもわかる違いが出る。アクアはステージの一挙手一投足を見逃さず、演者に寄り添い、観客に寄り添っていた。
─── 何やってんのよ、そんなところで
呆れと同時に笑みが溢れる。全く、この男は一体どれだけの魔術を使うのか。この男は芸術と名のつくモノならなんでもできるのではないか。演技、メイク、音楽、ダンス。どれもが並のレベルを遥かに超えている。一朝一夕でない年季を感じる。顔の良さに胡座を描いている妹と明らかに違う。この兄妹は似ている部分もあるが、分野によってはトコトン正反対だ。
バカみたいだとは思う。すましたツラの奥には血の滲むような努力の12年を隠している。ならもっとわかりやすくアピールすればいいのに、あんな見えるか見えないか、ギリギリのところで披露している。隠す事がカッコいいとでも思ってるのだろう。男の美学かもしれないが、女からすればバカみたいとしか思えない。
───魔法はオレがかけてやるってコレのこと?オレがお前らを支えてやるって?ご丁寧に三色でカラーリングされたスティック持って。後方理解者ヅラか?箱推し気取りか?この浮気者め
アクアと目が合う。ほんの僅かだが口角が緩んだ。そして目が合ったのは一瞬。次の1秒ではまたルビーやメムに視線が行き、走り気味に歌う二人に寄り添うように演奏を紡いでいく。
───ホント、ムカつく
いつもいつも、私が諦めよう、もうやめよう、て思うたびに、光を見せやがって。今の私を見てくれてるかもしれないけど、アンタが見てるのは身内全員であって、私だけを見てはくれないくせに。
私がアクアに見惚れた姿をアンタは見ているだろう。息を呑み、言葉も出せず、頬を赤らめ、アイツ以外の何も目に入らなくなった姿を露わに見せた。他の誰が見てなくても、アイツだけは見たはずだ。あの屈辱を。あの快感を。アイツだけは。
苛立つ。ムカつく。ねじ伏せたくなる。喧嘩でではない。演技ででもない。感情で。
───絶対味わわせてやる
あの周り全て見えなくなってしまって、演技ができなかった屈辱を。初めて人前で演技をせず、ありのままの感情を曝け出してしまった快感を。アイツにも絶対に味わってもらう。私がアイドルをやってる間に。いつか演奏する側でなく、聴く側に立たせてやる。そんなところにアンタが立つなんて、逆立ちしてでも出来なくしてやる。
アンタが何を追いかけてるのか知らない。何を求めてるのかもわからない。けど、そんなの全て忘れさせてやる。今まではあんたが私の光だった。闇の中で彷徨ってしまった時、あんたが私の行くべき道を照らしてくれる星だった。けれど、今度はあんたに私を追いかけさせて見せる。
アンタの星になってやる
ピットに向かって指を突きつけ、親指を下に立てる。観客には決して見せられない最悪のジェスチャー。あの男は見ただろうか。それとも他に目を向けてて見えなかっただろうか。わからないが、どちらでもいい。私だけが見つけた、私だけのモチベーションだ。誰に理解されなくても構わない。もう後ろは気にならなかった。
▼
───やっと吹っ切れたか
ドラムを叩きながら心中で安堵の息を吐く。表情は見えないが、声を聞けば状態は大体わかる。さっきまではセンターのくせに消え入りそうなテンションだったが、ようやく声にハリが出てきた。コレならもう大丈夫だろう。
───あの親指はサムズアップの準備か、準備だよな、準備だと言ってくれ
もしオレに向けて放っていたとしたらこのスティックぶつけてやる、と思いながらも、スティックを握り直し、最後のシンバルを叩き鳴らした。
「…………アイドル、辞めるか」
B小町を偶然見にきていたとあるアイドル。名前は鈴城まな。芸能界歴6年。200人規模の巨大アイドルグループに所属していた大手事務所所属の芸能人。名もなく消えていく人間が大半の中、彼女は成功した部類に入るアイドルだった。地上波放送の番組にも出演し、年末の特番にも立った経験を持つ。JIFに出るのは4回目で、自他共に認めるアイドルオタク。
───本当にコレでいいのかな
そんな事を何度も自問してきた中で、今日、とんでもない毒に出会ってしまう。
チーム名は知らない。けれどステージの上でキラキラと輝く3人を見て、私もこうなりたかった、と無意識のうちに思わされてしまう。
3人とも他のグループなら充分エースを張れる容姿。歌も上手く、ダンスも躍動感があり、バックミュージックも良い。コレに比べれば大半の地下アイドルのパフォーマンスはお遊戯会だ。
この瞬間、夢にどれだけ執着しているかで道は変わる。執着心がある人間は、見てろ、いずれ超えてやる、と思う。しかし惰性で現状維持に甘んじている人間にとっては、辞める理由になってしまう。
鈴城まなは後者だった。
「お願いだから、いつまでもそのままでいてね」
最も単純で、最も難しい願いを唱え、また一つ、空に輝いていた偶像は夜闇に流れて消えた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
ファーストステージ編終了です。今回は難産でした。いやいつも難産なんですけど。原作との差がつけづらくて、いつも以上に難しかったです。いかがだったでしょうか?
さて、次回からは東京ブレイド舞台編に突入。迫る真実と死神。帰ってくるアイツ。加速するアクアのクズ。色々待ち構えておりますので、乞うご期待。
それでは励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければモチベーション爆上がりです。時間がかかっても感想には必ず返信します。