次代を担う彼ら彼女らが一堂に会する舞台
かつての星もまた、そこにいた
死神を魅入り、死神に魅入られながら
「アクアー、本読み付き合ってー」
マリンが付き人をやっていた頃のとある平日の夜、私はアクアに本読みの相手を頼んだことがあった。
「撮影日は?」
「7日後だけど、リハが前日にあるから時間は実質5日」
「OK。5分で読み込むから設定資料見せて。それから本読みやって意見すり合わせていこう」
「基本だけど、いいね。アクアとの意見交換は楽しそう」
台本冊子とともに設定資料を渡す。テーマはスポーツもの。幼い頃、オリンピックを見た二人の少女はその試合に感銘を受け、スポーツ選手としての道を選ぶ。
『………わあ、凄いね。私たち、今からここで試合できるんだ』
家も裕福。優しく大らかな両親に育てられ、友達も沢山いる優等生。しかしそんななんの不満もない生活が何かイヤで、何かを変えたくて家を飛び出し、選手として生きることを決めた。
『………私は会場なんてどうでもいい。あの家から抜け出せるのなら、後はなんでも構わないわ』
対して隣に座る少女は彼女とは対照的。病で既に他界した母。家にいつもいない父。誰にも守られず、無視され続け、生きていくには自分の才能に縋るしかなかった。
「…………綺麗すぎだな」
一通りの本読みが終わった後、アクアは端的に感想を述べた。
「文句なく上手いが、フリルらしさが先行し過ぎてる。勿論それをなくせとは言わない。なくしたらフリルの演技じゃなくなるから。でももうちょい役の性格憑依させたほうがいい」
「アクアは感情掘り下げ過ぎ。カメラは役者に寄り添ってくれるからソレも一周回って才能だけど、演劇じゃソレ通用しないよ。深さと伝わりやすさを両立させなきゃ」
しばらく役と役の意見交換を重ねる。設定資料や映像資料もお互い読み直し、役作りを続けた。
「じゃあアクア、私の役やってみて。憑依するっていう点において貴方以上の才能はそうそうないでしょ。全力で憑依させてみて。ソレをみて私の演技にフィードバックするから」
「───わかった」
設定を読み直し、今度はアクアがフリルの役を演じてみる事となる。一度深呼吸し、輝く星の瞳を瞼に隠した。
───えっ
アクアがこういう役者だというのは知っていた。あのPVでも、今ガチの動画でも見せてもらった。私が誰よりもアクアがそういう役者だって、知ってるはずだった。
なのに声が出そうになった。
目の色が変わる。纏う空気が一変する。先ほどまでの陰鬱としたオーラから明朗とした、何不自由せず、夢を見て生きてきた少女のオーラへと変貌した。
『………わぁっ』
頬が紅潮している。声に興奮と感動が混ざる。見つめる視線が明らかに変わり映えのしない楽屋の壁を見ているものではない。輝く星の眼のせいか、瞳に宇宙の星々が反射しているようにさえ見えた。
───映像資料まで見てたのは不思議だったけど
視えているのだ、この男には。目の前に広がる、全国大会の大舞台。アップする選手。誰かのために集まった応援団。アドバイスする監督、コーチ、ソレら全てが。
生まれて初めて、マネできない才能を目の当たりにした。勿論系統が違うと言うのもある。私は俯瞰型でアクアは没入型。和食とフレンチを食べ比べているようなものだ。どちらが美味しいかなど、一定のレベルを超えて仕舞えばそこからは人の好み次第で、ハッキリとは決められない。けれど、この分野で戦ったら100回やって100回負ける。そう確信出来る相手に、生まれて初めて出会った。
「ありがとう」
本読みを終えたアクアに心から感謝する。同時に少し残念だった。もしアクアが同性だったら。本当にマリンだったら、きっとお互い刺激しあえる最高のライバルになっただろうに。
「…………それはそれで困るか」
「?何に?」
「ううん、なんでもない。それじゃあやるね。見てて」
アクアを戦慄させる、監督がキャラを掴めてない故に生まれたシーンの撮影は、この7日後だった。
▼
「───というわけで、今回は……いや、今回も色んな意味で面倒そうだ。特にオレがな」
先日のデートで発覚した一件。黒川あかねと有馬かなの不仲。そして今ガチから波及する、あかね・フリル・アクアの三角関係。そのあらましを説明している際、フリルはオレの両肩に肘を預け黙って聞いていた。そして話が終わったと判断したのか、フッと軽く息を吐くと、両肩に預けられていた体重が一段重くなった。
「アクア、これは普通に親切心から言うんだけど、無責任に女の子落とすのやめた方がいいよ。思春期女子なんて思い詰めたら何するかわからないんだから。貴方も言ってたじゃない。四角以上は難しいって」
それはもちろんわかっている。だからフリルとあかねについてはオレに言い訳の余地はないし、そこまでは計算してやっている。だが有馬に関してはオレはそこまで勘違いさせる行動はしていないつもりなのだ。むしろ結構ぞんざいに扱っている自覚さえある。なのになぜこんなことになったのか、オレとしても不本意だ。
「カッコ良すぎるが故の罪、か」
「貴方みたいに普段はクールでドライな人が、急にウェットになられると特にね。女の子の勘違いはギャップから始まるの。誰にでも優しい人じゃなくて、自分だけに優しい人に
愛は真心。恋は勘違い。恋愛なんてつまるところ自身に都合のいい幻想を与えてくれる相手への偶像視でしかないのかもしれない。
「貴方みたいな顔の良い相手なら尚更。世のトレンドなんてうつろうものだけど、イケメンの不良が雨の中捨て猫を助ける姿に弱いのは二世紀前から変わらないんだよね」
「だがあかねと有馬の不仲に関してはオレだけの責任じゃねーだろ。元々因縁あったっぽいし」
同い年の子役で、二人とも相手を強くライバル視している。その理由にオレが介入する部分もなくはないんだろうが、メインは違う…はずだ。
「同期のライバルってそんなに嫌なものかなぁ。私は結構憧れるけど」
「お前、そういう相手には恵まれてねーからな」
オレ達の歳でNo. 1は誰かと言われれば誰もが間違いなくフリルを上げる。しかしNo.2が誰かと言われればこの人、と断言できる人はいない。候補は何人かいるが、フリルから下は結構ダンゴだ。まあこの怪物が突き抜けすぎていると言えばそれまでだが、確かにフリルにライバル的存在は同い年には今のところいないだろう。
「豊作な世代って言われること、あるじゃない?」
同世代に有望な若手が一気に出てくること。芸能界のみならず、スポーツなどでも見られる現象。古いところでは松坂世代とか言われるアレだ。
「私、アレって偶然才能ある人が同世代に揃ったとかじゃないと思うんだよ。同期にいい仲間やいいライバルがいて、切磋琢磨し合って、才能が磨かれる人たちが出てくるんだと思う。私が芸能界で売れたこと、運だって言う人もいる。けど、もしこの世界に運と呼ぶものがあるとするなら、それは人との出会いだと私は思う」
フリルの脳裏にあの本読みが過ぎる。初めてマネできないと思わされた才能、星野アクア。和食とフレンチの違い。
けれど完全にマネできないというわけではない。和の中に洋食のテイストを入れることはできるし、逆もまた然り。あの本読みのおかげでフリルはあのスポーツ選手の演技ができた。滝のような汗の中、一筋の涙を紛れさせることができたのは、間違いなくアクアのおかげだ。
「それだってオレに言わせりゃ、その人の行動の累積結果だと思うけどな」
「でも運要素ゼロとは絶対言えないでしょ?」
「───そうだな」
脳裏にいくつか浮かぶ。ルビー、ミヤコ、レン先輩、ハルさん、ナナさん、有馬、メム、あかね、そして少し癪だがフリルも。出会えてよかったと思える人物達。全員自身、もしくは誰かの行動の結果による出会いだが、運の要素が大きいのは認めざるを得ない。
「マリンちゃんがもうちょっと早く私に出会ってればなぁ」
「この世にいない人間ねだるな」
「アクアがもう一人いればなぁ。それかモロッコ行く?取っちゃう?あ、でもそれはそれで私が困るか」
「───オレがもう一人、か」
冗談めいたフリルの言葉から、心当たりが一人だけ思い浮かぶ。二卵性だからまるで同じというわけではない。けれどオレと同じ血をその身に宿し、適正でいえばオレを超える、赤い宝石の名前を冠する少女を。
「フリル、お前を脅かすのは、きっとマリンでも無理だっただろう」
アクアは意外と自己評価が低い。他の誰が認めても、アクアだけは自分に才能があるなどとは思わないだろう。愛に勝る才能はないと知っているから。
「お前を脅かすのは……きっと───」
「アクア?」
これ以上口にするのはやめておこう。もし名前を出して、フリルに笑われたら流石に気に入らない。もちろん今のアイツとフリルの実力差なら笑われても文句言えないのだが、だからこそ不愉快だ。
「もうちょっと待ってろよ。お前が望むモノはそう遠くないうちに手に入るさ」
パックジュースを飲み干し、ベンチから立ち上がる。学生の本分の終了を告げる鐘が鳴り響いた。
「あ、アクア。待って」
「?」
「大事なモノ渡すの忘れてた。はい、これあげる」
ポケットから取り出したのは一枚の紙。ずいぶん細長い長方形でぱっと見はお札に似ているが、金よりは小さい感じ。ポケットに入ってた割には皺一つなく綺麗な状態だった。
「これは……」
「中列真ん中少し下。関係者用のプラチナチケット」
オレのとは別の、自分の手にも持っている紙をヒラヒラと風に靡かせながら見せつける。座席番号からして、オレの隣の席のようだ。
演目は2.5次元舞台。スパイの夫と暗殺者の妻、そして超能力者の娘という、風変わりでは済まされない家族が主演のファミリー系コメディの物語だった。
「一体何のつもりだ」
「なんのって?」
「こんなの二人で観に行ったらまためんどくせーことになるだろうが」
「大丈夫だよ。私たち共演するんだし。二人で舞台見る言い訳としては充分だって」
「余計な火種をわざわざ作らなくても───」
「姫川さんが出演する舞台だよ。アクア、見たいでしょ?」
その一言でゲームセット。こちらの主義や手の内を知り尽くしている妖怪に全てを封殺されたアクアはため息を吐くことしかできなかった。
▼
拝啓 天国のママへ
新生B小町のファーストライブが終わり、少しの時が過ぎました。
ネット配信はメムちょのサポートもあり順調で、小さいけれど、これから何度かライブも予定されています。
ウチの芸能科はみんなどこかの事務所に所属している芸能人で、実績のない私は芸能活動の話をされるたびに疎外感を感じていましたが、最近は話に乗れることも増えてきました。
「悪い事じゃないが、あんまり活動内容ベラベラ話すなよ?」
いつか、この話をしたとき、お兄ちゃんは私にこう忠告しました。あの仕事をしたとか、この仕事はどうだった、とかグチのつもりで話していても、人によっては自虐風自慢に取られることもある、と。
「あるある。アクアの言ってることは正しい」
お兄ちゃん繋がりだけど、恐れ多くも不知火さんとも仲良くなれて、最近はお昼を一緒にする仲です。このクラスでうまくやってく相談をした時、お兄ちゃん情報を渡す代わりに教えてくれました。
「私だって昨日俳優の堂山くんにDMで食事誘われちゃって、とか言いたいけど、言えないもんね」
「それは自慢やろ」
「バレた?」
「フリルちゃんの話は次元が違う…」
けれど、一緒にお昼を食べるグラドル寿みなみちゃんも、芸能科一年の中では大活躍している芸能人さんで、この二人と一緒にいるのは今でも少し気後れします。
「で……いくの?」
「まさか。あの人遊んでるって話そこかしこで聞くし、今は私本命いるし」
「…………フリルちゃんって、ホントにお兄ちゃんのこと好きなの?」
「好きだよ当然」
「えっ、でもお兄さんって確か…」
「彼女がいる男好きになっちゃいけないなんてルール、恋愛にはないよ」
口元についた米粒を指で拭い取りながら、不敵に笑うフリルちゃんの姿は、同性の私から見ても背筋に寒気が走るほど魅力的です。
「………こういっちゃなんやけど、アクアさんも遊んでそうやけどなぁ。あの見た目で経験ゼロはないやろうし」
「いいよ、最後私のところに戻ってくるなら」
「世紀末覇王やないんやから」
「そのかわり、戻ってきたら浮気許さないけどね」
「フリルちゃんも怖いなぁ」
気後れはするけど、芸能科には意外と売れっ子とそうでない子との間には上下関係はありません。お互いの恋愛事情を握り合う運命共同体的な仲間意識の方が強いです。だから女子同士なら結構オープンに恋バナします。
「堂山くんのこと、アクアにも言ったんだけど、いつものすまし顔で『行けば?』なんて言われた」
「想像つくなぁ」
「虚勢とかでなく本気で言ってるのわかるから、燃えるよね」
「燃えるんや……ムカつくとかじゃなくて」
笑みを浮かべたまま、フリルが携帯を覗き込む。画面にはお兄ちゃんが主演を務めるCMが流れていた。
「清涼飲料水のヤツやね。ウチも見た。爽やかやよねぇ」
「アクアほど水が似合う人はなかなかいないだろうね」
『今からガチ恋はじめます』という番組でハネたお兄ちゃんは、最近、雑誌やCMのお仕事が増えました。
ネットドラマからネットバラエティ。そして地上波。少しずつ自分が乗る公共の電波を大きくしていっています。「一過性の今ガチバブルではなく、知名度を確実に取りに行く作戦」らしいです。
無駄に豊かな才能をフル活用して、お兄ちゃんはスターダムを駆け上がっています。その売れ方は私なんか比較にならない、トントン拍子という言葉では言い表せないほど順調で、まさにママを思い出させます。
あっ、そうそう。お兄ちゃんには彼女ができました。さっき言った『今ガチ』という番組で付き合い始めたんだけれど、本人曰く『恋愛の勉強。芸の肥やし』だそうです。
クズ男、女の敵って思います。
女子の目線から見れば、あかねちゃんがお兄ちゃんにガチなのは明らかなので、直接会うことがあったら優しくしようと思います。早く会ってみたいなぁ。
「ママ」
私は、私たちは順調です。
いつかママの立てなかったドームのステージに立つ日まで、一生懸命アイドルを続けます。
お兄ちゃんも、ママとの約束を果たすまで、役者を続けると思います。クズだけど、クズなりに一生懸命に。私なんかとは比べ物にならないほどの努力と、ママから受け継いだ才能を発揮して。
どうか、私たち兄妹を見守って───
物思いに耽っていた意識が現実へと戻ってくる。とある外れの墓地。身内しか知らない星野家の墓に先客がいたからだ。煌めく蜂蜜色の髪を風に靡かせ、喪服のようなシックスーツに身を包む華奢な青年。手には花束を持っている。
名前は星野アクアといった。
「お兄ちゃん」
「………ルビー」
少し驚いた様子で兄は私を見る。しかし2秒数える間も無く、フッと微笑した。
「そうか、今日は月命日か」
そう、私は月に一度、このお墓へ近況報告に来る。これから仕事が忙しくなり始めたら多分そんな事できなくなるだろうけど、余裕のある今のうちはちゃんと毎月来ると決めていた。
でも兄は違う。この人がお墓参りなんてことをするのを私は初めて見た。この人は良くも悪くも前しか見てない。盆も正月も墓参りなんてせず、神社でおみくじすら引かない人だ。私が月に一度お墓参りしていることすら知らないと思っていた。
「知ってたんだ。私が月命日に来てること」
「兄だぞ。妹の習慣くらい把握してる」
「そっちはどういう吹き回し?普段はもちろん、お盆とお正月すら来ないくせに」
「ちょっと縁を感じる出来事にあっちまってな。報告がてら1度くらい顔を見せに来ようと思ったのさ」
───なんか、儚い
柔らかな笑みを浮かべたまま、優しく言葉を紡ぐ兄が、綺麗に見えると同時に、ひどく儚い。目の前から消えてしまいそうな、今のアクアがまるで蜃気楼みたいな、そんな錯覚に陥ってしまう。そしてそんな姿が、寒気がするほど美しい。
「───此処、少し怖くてな」
儚い姿のまま、消え入りそうな声で兄が紡いだ。
「今のオレは、アイが知ってる……あの人が愛した息子をやれてるのかどうか。此処に来たらウソだらけのオレがバレるんじゃないかって……少し怖くて、来れなかった」
驚いた。心の底から驚いた。この人が私に弱みを見せている。弱っているところを見せている。4歳の頃から今日に至るまで、一度の弱みも見せなかったこの人が、不安と恐怖で揺れている姿を、私に見せている。
───嬉しい
ずっと守られてばかりだった。兄妹で、お互い唯一残された血の繋がりを持つ家族で、支え合って生きていこうって決めたのに、支えられてるのはいつも私だった。兄はその背中を私に支えさせてはくれなかった。でも、今日、ママが亡くなってから初めて、守る背中ではなく、揺れる背中を見せてくれた。そのことが嬉しかった。
───お兄ちゃんは……
いつも綺麗で、クールで、かっこよくて、頼りになる。どんなこともスマートにこなして、どんな時も結果を出す。その背中に私は憧れ、妬み、愛した。
でも、初めて気づいた。兄の背中はこんなにも小さかったんだ。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん」
そっと寄り添い兄の腕を抱き締める。背中から包み込んであげたかったけど、それをするには私と兄は体格差がある。
「お兄ちゃんがお兄ちゃんである限り、何をしても、何をやっても、ママはお兄ちゃんを愛してくれると思う」
「……………───ないから、怖いんだけどな」
聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声量で呟かれた言葉の意味は、私にはわからなかった。
「今度、劇団ララライが主催する舞台に、一応主演で出ることが決まった」
「───えっ、主演?凄いじゃん!いつの間に!?」
「つい先日。まあダブルキャストで、オレはかませだけどな」
「どんな舞台?題名は?何やるの?」
「東京ブレイド」
「東ブレ!大名作じゃん!その主演!?お兄ちゃんトントン拍子過ぎじゃない!?」
「運が良かっただけだよ」
「その運ちょっとこっちによこせぇ〜〜!私にもあやからせろ〜〜お兄ちゃん大明神〜〜!」
運気を吸い取ろうと、右腕を掴んで引っ張る。予想通りすぐにやめろ、と振り払われた。お兄ちゃんは意外とスキンシップ嫌いだ。
「でも、それがなんでママとの縁を感じるなんて話になるの?」
「………お前には教えとくが、誰にも言うなよ」
「うん」
お兄ちゃんの忠告は基本的に聞くようにしてる。この人の言葉が間違ってたことなんて、今までなかったから。
「アイ──母さんは昔、ララライのワークショップに参加していたらしい」
「ワークショップ?」
「体験型学習とか、研究集会とか、まあ実践的な社会科見学、インターンみたいなヤツ」
初耳だった。ママがそんなのに参加してたなんて。そこで役者やアイドルのノウハウを学んだのだろうか?そしてそのワークショップを開いたララライが主催する舞台に、アクアも立つ。確かに縁を感じる。お兄ちゃんは確実にママと同じ道を歩いている。
「………なぁ、ルビー」
「なに?」
「お前、オレ達の父親について、興味あるか?」
「は?何言ってんのお兄ちゃん。昔にも言ったじゃん。ママは処女受胎に決まってるでしょ。アイドルは恋愛しちゃいけないし、ママに男なんて存在しないんだよ」
「……………」
何言ってんだコイツ、みたいな目で見てくる。私だってバカなこと言ってるのはわかってるけど、世の中見たくない現実はあるし、知りたくない真実はあるものだ。知って仕舞えば無視はできないが、知らない無知は許されるのだから。
「…………お前が気にしてないならそれでいいんだけどよ。もしかしたら今度の舞台でその辺の話聞けるかも、て思っただけだから」
「聞きたくない。てゆーかお兄ちゃんだって聞けない。そんなの存在するわけないんだから」
「そうか」
「───でもね」
認めたくはない。けれどバカなこと言ってるのはわかってる。お兄ちゃんも聞きたくはなくても自然と耳に入ってくることがあるかも知れない。だから──
「もしお兄ちゃんがそんな話聞いちゃって、その与太話を抱えきれなくなったら、私にも話していいからね。私はウソだってわかってるから、サラッと聞き流しちゃうから」
せめて私に話すくらいはしてほしい。なんでも出来て、なんでも抱え込んでしまうこの人は、いつかママの全てを受け継いでしまうかもしれないから。容姿や才能だけじゃない。あの人のやり残しも、心残りも、負の遺産も。文字通り全て。
「───ありがとう、ルビー」
「やめてよ、お兄ちゃんに普通にお礼なんて言われたら、鳥肌立って鳥になっちゃいそう」
「礼は言えるときに言っとかねーとって決めてるんだ。いつ死んでもおかしくねー職種だからな」
「ちょっと、ホントやめてよお兄ちゃん。私がそういうの嫌いだって知ってるでしょ。いつもみたいに偉そうにしてて」
「なんだよ、素直に感謝してんのに」
カアと鳴く声が響き渡る。音に釣られ、見上げると不吉を思わせる漆黒の鳥が夕暮れの空を横切っていった。
「日が暮れるの、ちょっと早くなってきたな」
「もう秋だしねー」
「帰ろうか、暗くなったら面倒だ」
「お兄ちゃん、バイクは?」
「そんなのに乗ってきたら花束吹っ飛ぶだろう。今日は歩きだ。行くぞ」
墓石を掃除するために使った道具を片付ける。最後にもう一度だけ、兄妹は墓の前で手を合わせた。
「舞台が終わったら、また来るよ」
「二人でねっ」
二人で墓地を後にする。兄の肘に手をかけ、肩を並べて歩くよく似た二人は、誰が見ても仲睦まじい兄妹の姿だった。
「星野、アクア……星野、ルビー」
誰もいなくなった墓地で、帽子とメガネで顔を隠した男が呟く。
「二人とも美しく育ったね……そして彼はよく似ている。容姿も、才能も、足跡も………流石、僕と君の子だ」
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
書けてしまった……年内無理かな、と思ってたので自分でも驚きです。ギリ間に合いました。やっぱり感想と評価、ランキングは執筆の原動力ですね。でも毎話四行詩考えるの難しすぎる。誰だよ前書きで四行詩毎回入れようなんて言い出したやつ!(←筆者です)
次回は(も)舞台観劇で修羅場か?対峙するあかねとフリル、そしてアクアと姫川。ハブられる重曹ちゃん。
それでは励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければモチベーション爆上がりです。時間がかかっても感想には必ず返信します。良いお年を。