【本編完結】星をなくした子   作:フクブチョー

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星達が作り出す舞台という名の星座
それぞれが影響し合い、光の川は佳境へと流れていく
名残惜しい終焉の鐘が鳴る
まずは12時を過ぎたシンデレラの手によって


64th take 陰陽太極図

 

 

 

 

 

 

 

「…………あんた達の入れ知恵?」

 

メルトの渾身を見た有馬が隣に座るアクアとフリルに問いかける。言い方は悪いが、自分の役割を果たすことすら満足に出来ていないメルトがあんなことを自力で思いつくとは思えない。

 

観客が油断しているところにギャップの一発を入れて大衆の意識を切り替える。星野アクアと不知火フリルが考えそうな回路だった。

 

「私は何もしてないよ。彼が練習してるところを偶然見ただけ。黒幕を言うならアクアただ一人」

「今ガチの時もそうだった。あかねへのバッシングが燃え上がっている時、誰が何を言ってもフィルターかけて自分の都合のいいように解釈してくる。あの炎上を止めるには流れを変える一発が必要だった」

 

あの時、あかねの擁護者を表面的にも増やし、状況をプラマイゼロに持っていくため、アクアはあかねの自殺未遂をタレ込んだ。連中が聞く耳を持ち、賛否の意見を持つ者の数を五分五分にし、日和見主義のサイレントマジョリティを最大派閥にした。

今回も同じだ、とアクアは言う。

 

「この大道芸で観客のメルトへの目線は変わった。だがまだフィフティ・フィフティ。演技力自体が低いのは変わってねーし、観客もこの後のメルトを汲み取ろうとしている状態。本番はここからだ」

 

ここからは大道芸やハッタリは効かない。純粋に演技力の勝負。キャラへの理解。感情の掘り下げ。内面への没入。キャラクターを考察し、潜り込み、心情を掴み、浮かび上がってくる。一ヶ月前まではアクアすら舞台で通用するレベルでは出来なかったこと。

 

「…………できるだろ、お前でも」

 

だからこそ出来ると思う。演技というものが好きじゃなく、あかねのような直向きさも、有馬のような執着も持っていないオレが出来たんだ。ならメルトでも出来る。

 

このシーンはキザミの最大の見せ場。ブレイド以外に喫する初めて敗北。しかも相手はブレイドのような強い意志を持っている敵ではない。親に刀を渡され、無理やり戦わされ、眼前に敵がいるというのに『戦いたくない』などとほざく戦士の気概を持たない男。

 

そんな相手に力の差を、才能の差を思い知らされ、打ちのめされる。けれどそれでもと立ち上がり、勝ち目のない敵に立ち向かうシーン。

 

───似てるだろう、メルト。キザミは、オレ達に

 

今までは顔の良さでさして苦労してこなかったヤツが、初めて才能に触れ、打ちのめされ、弱さを知る。情けない。みっともない。悔しい。

 

───全部経験してる、オレ達なら、できる

 

目から、顔から、声から、身体全身から、悔しさを迸らせ、それでもまだと叫んで見せる。出来るはずだ。オレでも出来たんだから。舞台ではない。あのステージで。ナナさんとハルさんの三人で。歌っていたあの時、オレでも出来た。

 

「おぅれはっ!誰にも負けねぇ!!」

 

映像越しでも伝わってくる。本気の感情が乗った演技。

 

───ほらな、出来た

 

観客席から伝わってくる。観ている者の驚きと戸惑い。そして感動。

 

「…………行くわよ」

 

有馬が立ち上がる。もうすぐ、ブレイドとつるぎ、シースの出番だ。立ち上がるもやはり力の差で敗れるキザミ。しかし最後の奮闘によって稼ぎ出した時間が救援を間に合わせる。盟刀を失ったはずのブレイドが、生まれ変わった【風丸・真打】をお披露目するシーン。

 

「アクアくん、私達も」

「ああ、スタンバイだ」

 

舞台袖へと向かう。メルトはベストを尽くした。10持つ実力のうち、20を出し尽くした。

 

───今度は、オレの番だ。

 

一度深く呼吸する。ブレイドの新たな盟刀のお披露目ののち、匁の戦いが終われば、渋谷クラスタの描写へ移る。その後はハイライト。渋谷、新宿クラスタの激突。そこに入って仕舞えば、あのシーンまでもういくらも時間はない。

 

 

『愛してる』

 

 

囁かれる。背中からオレの首を抱きしめ、耳元に口を寄せる何かを振り払うように、アクアは小道具の刀を手にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

折れた盟刀を復活させるために必要な物は三つ。

 

一つは折れた盟刀そのもの。

 

一つは玉鋼。

 

そして最後の一つは刀の芯となる折れた盟刀以外の盟刀。

 

この三つがあれば現代の刀鍛冶でも盟刀を復活させることができる。

 

折れた盟刀は手元にある。玉鋼を手に入れる技術は現代にも残っている。問題は最後の一つ。折れた盟刀以外の盟刀。

 

『わ、私のはやだよ!剣がなきゃアンタの王道だって切り開けないだろう!?』

 

刀鍛冶のスミスから話を聞いた新宿クラスタの剣主、つるぎは当然拒否を示す。キザミはこの場にいない。となると残っているのは───

 

『主様、私の盟刀をお使いください』

 

一切の迷いも躊躇もなく、シースは自身の盟刀を差し出す。しかしブレイドには流石に躊躇と迷いがあった。

 

『───お前の盟刀だって…』

 

売れば普通に生涯遊んで暮らせる財は手に入るし、剣主にとって盟刀とは命に近い。あっさり差し出せるような物ではないはずだ。

 

『良いのです。私の盟刀も、私自身も、あの時から貴方様に捧げた物なのですから』

 

そして復活した盟刀【風丸・真打】。刀身が花弁となる盟刀【戦乙女】によって生まれ変わった刀をブレイドは【桜風吹】と名付けた。

 

【戦乙女】と【風丸】の力が混ざった新たな盟刀は以前のモノより力強く、そして握りやすかった。

 

修行を終えたブレイドら一行はキザミが渋谷クラスタとぶつかっていることを聞き、彼の元へと走る。

 

『よくやったわ!後は私たちに任せなさい!』

 

ブレイドとつるぎ、シースが合流し、キザミは手当のため、仲間達に連れられる形で退場する。

 

「アクア」

 

場面転換に備え、準備する刀鬼扮するアクアの元へメルトが歩み寄る。軽く手を差し出すと、音が鳴らないように静かにハイタッチをした。

 

「良かったぜ、メルト」

「全部お前のおかげだ。ありがとう」

「貸し一つだ。いつか返せよ」

「二つ目だろ。今日あまの分も含めて、必ず返す」

「期待しないで待ってる」

「アクアくん」

 

隣にいたあかねが「急いで」とジェスチャーする。頷くと二人は肩を並べて舞台袖へと向かった。

 

───まだ、めちゃくちゃ遠いな

 

汗だくで座り込むメルトは二人の背中を見て、素直にそう思った。でも今は遠いと実感できることが少し嬉しかった。距離感すらわからなかったあの時と比べれば、成長できてると思えたから。

 

「───いつか俺も、お前らに……」

 

今の自分の実力と才能では、そこから先を口にすることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台は続く。第二幕、キザミと匁の戦いに追いついたつるぎとブレイドはキザミを倒した匁と対峙する。

 

『よくも私の身内を傷つけてくれたわね!一兆倍にして返してあげる!』

『良いのですか?貴方のリーダーの盟刀は破壊されたと聞きましたが?』

『いつの話をしてやがる』

 

一歩前に出たブレイドが腰から刀を抜く。刀身が淡い紅色を帯びた美しい刀が風を伴って放たれた。

 

『これが俺の《風丸・真打》。【桜風吹】だ!』

 

風と共にモニターには桜が舞い散る。客席が360度回転し、観客達は実際に風を感じ取り、桜が舞う美しさを存分に感じ取れた。コレはステージアラウンドならではの映像演出だろう。まだまだ学校の劇の延長が主流の演劇。ステアラが初めてという観客も多い。感動している様子は舞台袖からでもよくわかった。

 

『これ以上攻め入るというなら、我々渋谷クラスタも黙っては──』

 

匁のセリフが中断される。【桜風吹】の風の演出がまだ残っていたらしい。セリフが効果音と被る。舞台ではままあるトラブル。本来なら言い直すべきだが、同じセリフを繰り返すというのは観客もかなり冷める。どうするべきか悩む数瞬、今度は風切り音が舞台の上で響いた。

 

『ごちゃごちゃうるさいわね!ただの肉塊になればその口も閉じるかしら!?』

 

つるぎが高々と剣を掲げ、振り回す。匁のセリフを遮っても不自然ないアドリブを挟んで。これなら効果音も匁がセリフを中断したのも不自然じゃない。

 

───流石、受けの上手さは天下一品だな

 

効果音と被って聞こえにくかったであろう渋谷クラスタというワードを口にしつつ、原作のつるぎが口にしても不自然ないセリフで再構成。間の取り方も違和感なく、まるで元々設定されていたかのようだ。アドリブとは思えない。

 

こういう役者は共演者にとっても脚本家にとってもありがたい。受けの上手い役者との共演は安心感があるし、演りやすい。コイツとならまた一緒に仕事をしたいと思うだろうし、口にもするだろう。そういった同業者の口コミというのは意外とバカにできない。噂が噂を呼び、評価へと繋がることも普通にある。

脚本家としてもこういうとっさのトラブルに対応できる役者は欲しいものだ。脚本に寄り添い、裏方に寄り添い、企画の意図を理解していて、脚本家の中にある正解を体現する役者を、いつだって喉から手が出るほど求めている。この演劇を見て、有馬かなを使いたい、と思う関係者も絶対にいるはずだ。

 

ただし、バイプレイヤーとして。

 

「嫌い」

 

舞台の上の有馬かなを見つめる青みがかった黒髪の美少女の瞳が冷たく暗くなっていることに、アクアだけが気づいていた。

 

『流石に2対1は分が悪いですね。また日を改めてお会いしましょう』

『こらぁ!逃げるなボケナス!このタルタルチキン!』

 

しばらくいざこざが続いたが、匁が引いたことでその場は取り敢えず収まり、場面転換へと移る。渋谷クラスタ本拠へと戻った匁が新宿クラスタについて鞘姫と刀鬼に報告した。

 

『…………ブレイドが、新たな盟刀を手にしていた?』

『はい、【桜風吹】と名付けておりました』

 

その報告に刀鬼が瞠目し、眉を顰める。No.2の明らかに動揺した姿を見て、匁は驚いたように声を上げた。

 

『貴方でもそのような顔をするのですね。刀鬼様はもはや身も心も刀になってしまわれたかと。人間味というものを失っていないようで安心しました』

『破壊された盟刀を復活させたと聞いて驚いただけだ。新宿クラスタの連中自体は取るにたらん』

『それに関しては僕も同意です。何も考えてない馬鹿の集まり。全員倒せばそれで良いと思ってる』

『油断はするな。向こうみずの開き直りというやつは侮れない』

『勿論油断なんてしませんよ。けどどうします?奴ら攻めてきますよ?』

『それを決めるのは俺ではない』

『そういうところは変わりませんね』

 

技量の高い役者同士の呼吸。観客に巧さを感じさせない日常さは、奥に佇むボスの非日常を強く引き立てる。

 

『鞘姫、ご決断を』

 

御簾の向こう。荘厳な衣装を纏った鬼女が暖色系のライトに照らされ、現れた。

 

『…………刀を抜けば、血が流れる』

 

至近距離で聞いているアクアの背に、ゾクリと寒気が走る。

 

───喉の震え、心の躊躇い、覚悟の逡巡。恐ろしいほどの深さで伝わってくる。

 

アクアは知っている。ここは脚本リテイクで最も変わった部分。本来長めのセリフで心情説明をするはずだった「語り」をざっくりカット。アビ子先生に見せてもらい、相談にも乗った部分。確かにあのままでは心情ベラベラ語り出すかまってちゃんに見えかねない。

 

───しかし、葛藤という部分を演劇で表現するとなると難しいのも事実。

 

漫画なら大ゴマ一つで表現できるが舞台だとどうしても長尺になってしまうし、東京ブレイドは登場人物も多い群衆劇。ある程度のシンプルさは必要になってくる。

 

───だからこそ動きだけで対立を決定する意思を表現しなければならない。

 

上に立つ者の義務と責任を重厚感ある演技で説明し、本来の彼女が持つ心優しさゆえの葛藤を座っているだけで表現しなければいけない。

 

───義務と責任。戦いの覚悟を、自らの盟刀にゆっくりと、そして威厳あふれる姿で掲げ、声の震えで葛藤を現す。

 

尊大だが決していやらしくなく、時間はかけているが決してわざとらしくない。カットされた鞘姫の思想を語るシーンも、この演技ならなんとなく察することはできる。

 

脚本にあった矛盾。舞台劇の弱点。全て克服してみせた。

 

───やっぱり、凄い

 

役の内面への没入だけなら大きく劣っているつもりはないが、この辺りの表現力は才能というより技術と経験値。今回が初めての舞台である今のアクアでは絶対届かない領域。

 

───積み重ねてきた12年が違う。演技から「私が正しい」という主張が聞こえてくるかのようだ。

 

あかねの才能と努力に舌を巻いているアクアだったが、あかねもまた、アクアの瞳に目を奪われていた。

 

───そう、その瞳だよ。アクアくん

 

あの時、美術館でデートしていた時に見せた、作品を見つめる目。私の一挙手一投足に注目して、それら全ての意図を理解し、想いを馳せ、喜怒哀楽を見せている。まさに鑑賞と呼ぶに相応しい。冥利に尽きる。

 

───見て

 

もっと見て。もっと感じて。もっと考えて。フリルちゃんもかなちゃんも見ないで。私だけを見て。私だけで頭の中をいっぱいにして。もちろん私もそうする。貴方の全てを見て、感じて、貴方で私をいっぱいにする。何よりも大切で、誰よりも特別で、誰よりも愛しい。

 

私の彼氏

 

私の神様

 

私の全て

 

貴方がその目で見てくれるなら、私はもっと輝ける。

 

 

『ならば刀を抜きましょう。合戦です』

『御意のままに。我らが姫に勝利を!』

 

うぉおおおおおおお!!!

 

渋谷クラスタの面々から鬨の声が上がる。星野アクアと黒川あかね。二人の異才に引き上げられ、他のキャスト達の演技にも熱がこもっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからのシーンはハイライト。それぞれのクラスタが決戦の準備を進めていく様子をダイジェスト形式で描写する。フォーカスは決戦前夜。渋谷、新宿両クラスタのNo. 1と2にスポットが当てられた。

 

まずは渋谷。刀鬼と鞘姫が、天守閣の一室で二人きりで身体を寄せ合っていた。

 

『良いのですか?』

『何がでしょう?』

『ブレイドと再び戦う事です。今度は刀を折るだけではすみません。どちらかが倒れるまでお互い引かないでしょう』

『…………』

『貴方の勝利は疑いません。ですが貴方の心を案じます。貴方を兄と慕う弟子を、貴方は殺せますか?』

『無論です。俺は貴方の懐刀。貴方に危害を及ぼす者であれば、誰であろうと斬ってみせます』

 

表情一つ変えず、淡々とセリフを返す。冷徹に徹する刀鬼。婚約者を心配する鞘姫。二人の様子はあまりに自然で、あまりにハマっている。本当に上手い演技を見た時、大衆は「上手い」と感じることすらできない。ただ見入り、感情移入し、没頭してしまう。

 

観客達の何人かは無意識のうちに胸元を握りしめる。姫を心配させないために葛藤を押し込め、冷徹を演じる刀鬼。刀鬼の思いやりを察し、彼の躊躇いに気づいていないフリをする鞘姫。

 

互いを思いやる上で生じるすれ違いと闇をアクアとあかねは見事に演じてみせた。

 

対してブレイドとシースは対照的だった。盟刀を主に捧げたシースは普通の刀を持って決戦に挑む。ブレイドはシースを止めるが、主様の役に立ちたいという裏表のない真っ直ぐな思いに、ブレイドもまた偽りを纏わず応える。

 

『守るよシース。俺が、必ず』

『私も祈ります。主様にご加護がありますように、と』

 

お互いを想う裏表のない心。絆が二人を強く結ぶ思いやりをフリルと姫川が演じてみせる。観客達はその真っ直ぐさに感化され、頬を染める者もいた。

 

隠と陽。二組の主従の葛藤と愛が表現された後、物語はついに最終決戦へと向かう。渋谷クラスタ本拠地【無限城】に乗り込んだ新宿クラスタの面々はそれぞれの決闘へと身を投じる。

 

キザミは匁。

 

ブレイドは刀鬼。

 

シースはブレイドの背中を守る戦いへ。

 

そして決戦の冒頭、注目を集めるのはこの対決。

 

かつて天才と呼ばれた者と、今天才と認められつつある者。

 

【つるぎ】と【鞘姫】が、対峙した。

 

 

 

 

 




最後まで読んで頂き、ありがとうございます。今回はちょっと短めですがキリがいいのでここまで。次回からは重曹ちゃん+不知火フリルVSあかね。主役級として光り輝く二人にスポットが当たるように立ち回るあの子に対してアクアは……って感じの話になると思います。お楽しみに。
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