誰もが目を奪われる一番星の生まれ変わり
だから貴方達は今日も嘘をつく
いつか嘘が本当になる日を願って
今回アンケート取ります。詳細は活動報告に記載してますので、そちらもよろしくお願いします。
「アクアくん、もしお母さんが死んじゃったらどうする?」
子役時代、女の監督さんに言われたことがある。感情演技の場面で、泣き演技が求められた時だった。感情泣きや体泣きなど、泣き演技には色々手法はあるが、子供にとって最も手っ取り早く、良くあるのがコレだった。目の前の大切な何かをなくしたと思い込む。子役の世界ではよく使われる手法だ。
───お母さんが、死んじゃったら……
いくら想像しても、思い込んでも、オレはまるで悲しくならなかった。
顔も名前も知らない。何の思い出もない人が死んだら、と言われても何の感情も湧き上がらなかった。涙の一滴もこぼれる気がしなかった。
その時は結局、役そのものになりきって泣き演技をして事なきを得たが、この事をきっかけに一つの確信を得た。
オレは────
▼
観客たちは凍りついていた。ほんの数秒前まで、あんなに明るく、眩しかったステージから突然光が消え失せた。心から楽しそうに戦う「つるぎ」と「刀鬼」を観て、観ている観客たちもどこか楽しくなっていたところで、唐突に「鞘姫」が斬られた。歓声が上がるほど盛り上がっていたバトルシーンから一転、声を発することすら躊躇われるシリアスに転落する。倒れる鞘姫を抱き止めた刀鬼は茫然自失し、膝から崩れ落ちた。
『最期に、これだけは言わないと』
口の端から血を溢しながら、鞘姫は最後の力を振り絞って、刀鬼の頬へと手を伸ばす。
『愛してる』
「あ、あぁ……あぁあアああアああ!!!?」
力なく手が滑り落ちる。地面に激突するはずのその手を刀鬼が取り、握りしめた。同時に発せられる、絶望の慟哭。その声はあまりに真に迫り、迫があった。観ている観客たちの背筋を寒くさせるほどに。まるで本当に死んでしまったのでは、と錯覚させるほどに。
───スゲェな
五反田監督は星野アクアに驚嘆する。演技力についてではない。今のヤツならこれぐらいのことはやるだろう。知っている。
凄いと思うのは、自身の心の傷を最大限に活用して、今の演技をやっていること。
───うちのスタジオで稽古するのを何度も見た。その度にアイツは絶叫し、絶望の底に叩き落とされていた
そうなる理由はもう大方想像が付いている。
─── アクアとルビーの……アイツらの母親がアイである事に気付いたのはいつだっただろうか。
兄妹共に持つアイへの強い執着。初めて出会ったのもアイとの現場。一度気づいて仕舞えば色々一気に得心がいった。
12年前、アイが、母親が殺された。ストーカーによって自宅を突き止められ、刃物で刺された。
その場にアイツは居合わせていたとしたら。庇われ、刺され、血を流す母親を、目の前で見ていたとしたら。
───生涯心に残るトラウマだろう。自分の立場に置き換えて考えただけでゾッとする。
今、壇上はイメージだけで怖気が奔るその状況に酷似している。最愛の人。刃物による死因。大量の出血。過去のトラウマをフラッシュバックさせるには充分すぎる。
───しんどいな
アクアが演技というものが好きじゃないことは知っていた。「演技を楽しめる」という役者にとって最大の才能が欠けている役者だった。
けれど星野アクアはそれ以外の才能があまりに傑出し過ぎていた。
誰もが目を奪われる容姿。優れた頭脳。役の内面に深く潜れる想像力。共演者の心の機微を見抜く洞察力。観客に共感を促す表現力。全てを持っていた。持って生まれてしまった。
最大の才能が欠けている。なのに万人を魅了し、虜にする天才。大衆はそのあまりの多才さと眩しさで欠陥には気づかず、欠陥を見抜けるだけの力を持った人間は、その歪に惹かれる。
完璧を求め、完璧を体現する。欠けているところも魅力にできる。
───そっくりだよ、お前らは。本当に
アイも欠けている人間だった。その欠けをあまりある才能と嘘で隠した。
───しんどかっただろうな
好きでもない人間を好きだと言う。愛なんてわからないのに愛してると言い続ける。いつか嘘が本当になることを信じて、終わりの見えない道を走っていた。しんどいだろう。しんどかっただろう。アイはもしかしたら子供にすら愛してると言えなかったかもしれない。そんな人生はしんどすぎる。悲しすぎる。辛すぎる。
───同じ道を、行くんだな
ステージの上でアクアは楽しさを見せた。演じる事を楽しいと思いかけた。その瞬間、舞い降りた残酷な現実。楽しんだゆえに生まれた僅かな緩みが、最愛の人を死なせた。過去がフラッシュバックしている今のアクアなら、あの時何もできなかった自分のことを責めているかもしれない。4歳の子供に何もできるわけはないだろうに。
しかし誰もが一度は経験があるだろう。こんな想いをするくらいなら、最初から知らなければ良かった、と失って初めて後悔することは。アイツがもう演技を楽しむなんて二度としないと決意していたとしても不思議はない。
───才能ってのは、残酷だな。
苦しみを、絶望を、呪いを、力に変えることができてしまう。かつてアイがそうだったように。今アクアがそうしているように。
「うぁああああああああ!!!ぁあああああああ!!!」
刀鬼の泣き叫ぶ姿を、孫同然に思っている少年の慟哭を、五反田はあまりにも痛ましすぎて見ていられず、目を閉じた。
▼
物語は終幕へと進む。戦いが終わり、ブレイドたちは違和感に気づいた。あれだけの死闘を演じていたにも関わらず、誰一人傷を負っていなかったのだ。
鞘姫の盟刀は傷移しの剣。
自分が負った傷を配下たちに移し替えることができる支配者の刀。
それを鞘姫は仲間の傷を自分に移し変えることに使っていた。
『敵にこんなに情けをかけられたのは初めてよ』
『もしかして、はじめからこうして戦いを収めるつもりで……』
『まったく……』
冷徹な氷の姫の仮面の奥に隠された慈愛に気づいたつるぎは溜め息を吐き、【
『この鞘の本来の使い方は!』
『こういうことだろ!』
ブレイドと共に光り輝く刀身を鞘に納める。それとほぼ同時につるぎとブレイドが傷を負った。今まで鞘姫が引き受けていた傷を、二人に分散して移したのだ。
そして、傷をなくした鞘姫は。
『…………っ』
閉じていた瞼を、ゆっくりと開いた。
「うぁああああああああ!!!ぁあああああああ!!!」
刀鬼の絶叫が、ふたたび響き渡る。しかし、さっきの叫びとは違った。鞘姫が倒れた時は、絶望と悔恨が込められており、聞いている観衆達の背筋を寒くさせるほどの暗い絶叫だった。
今は違う。
安堵、後悔、罪悪感、感謝
陰と陽。二つの感情が複雑に入り混じった、聞いているものの心を震わせる咆哮だった。
───これが、アクアくんの感情演技…
最も近くで、強い力で抱きしめられているあかねは、思わず見惚れる。星の瞳から大粒の涙を零し、叫び続けるアクア。泣き顔など、たいてい醜くなるものだが……
───綺麗
歪んだ眉も、溢れる涙も、涙の奥の星の瞳も、全てが美しかった。美しく、綺麗で、愛おしい。できることなら、貴方を抱きしめ、キスをしたかった。不安にさせてごめんね、と。もう大丈夫だよ、と言いたかった。
───アクアの涙なんて、初めて見た
見惚れているのはあかねだけではなかった。少し引いたところから見ている有馬かなも、アクアの感情演技に魅了されていた。
───なんて真に迫る、心にくる声なんだろう
聞いているこちらも涙を流してしまいそうな。実際、観客は何人か泣いている。今のアクアには共感力の高い役者だけでなく、普通の人にすら共感を引き起こさせる力がある。
───まったく、嫌になるわね
コレで舞台演技初めてだと言うのだから。怒りを通り越して笑ってしまう。ああ、やっぱり自分は凡人でこの人は本物だと、改めて思い知らされた気分だった。
そして、同様の想いを抱きながら、二人とは全く異なる感情に支配されている女が、もう一人。
───アクア……
常に美しく、大衆の理想であり続ける不知火フリルが、今は美しさを損ねていた。眉を歪め、眉間に皺を寄せ、口元を真一文字に固く結んでいる。どんな顔もフリルは綺麗だが、今は明らかに『大衆の理想』からかけ離れていた。
───きっと今も発作は起こってるはず……なのに……
一触即発。現実とトリップの狭間。今のアクアの精神状態はギリギリだろう。表面張力限界の水面。何か一刺しあれば崩れ落ちてしまうかもしれない。極限の緊張状態。
───それでもギリギリ呑まれず、怒りを、悲しみを、絶望を、希望を、全て利用している。全ての感情を【刀鬼】に使っている
まさに役者。俳優の鑑。全てを芸能に捧げる覚悟を持った人。その覚悟を、美しさを、私は愛しいと思う。
───だけど、それなのに、今のアクアの姿に、どうして私はこんなに胸が締め付けられるんだろう
生の感情を役に落とし込む。役者であれば誰もがやっていること。しかしコレほどの深度でやられると、もはや演技と現実の境はなくなる。今のアクアは刀鬼でありながら星野アクアでもある状態だった。
───きっと今、貴方は曝け出している。その美しさと才能で作り上げた仮面の下を
仮面で隠した何か。それが何かを知りたくて、フリルはアクアに近づいた。そして今、ようやく見ることができた。人目に憚らず伏し、叫び、涙する星野アクア。美しく、醜く、強く、弱い。なんて魅力的な姿だろう。鼓動が逸る。心臓が跳ね回るのがわかる。
───ずっと見たかった。美しいだけじゃない貴方を。やっと見られた。
でも今は、そんな貴方を見るのが、とても辛い。
一体貴方には今何が見えてるの?
何が映っているの?
貴方が心の奥底に蓋をした感情はなんなの?
忘却を選ばざるを得なかったほど貴方が愛した人は一体誰なの?
叶うならば飛び出したい。あかねを突き飛ばし、貴方を抱きしめ、押し倒して、キスをして、衣装を脱いで、貴方も生まれたままの姿にして。貴方を抱きしめたい。貴方に抱かれたい。
そして聞きたい。貴方が今最も愛しているのは誰なのか。
でも、役者として、プロとして、そんな事ができるはずもなく。
私に今できる事は、痛みの走る胸を握りしめ、ズクリと疼く下腹部を撫でるくらいだった。
▼
時は少し遡る。鞘姫が斬られ、倒れた体を受け止め、『愛してる』と言われたオレは絶望の叫びを上げる。その後はしばらく茫然自失状態でブレイド達とセリフを交わす。何も考えなくても口は勝手に動く。何も見えなくても、誰がどこにいて、何をしているのかがわかる。オレの目はステージを反射していたけれど、オレの心はまるで違うところにいた。
真っ白な世界。オレは向かい合っていた。オレを背後から抱きしめていた何か。黒いモヤは人の形を作り、次第に輪郭をはっきりとさせていく。身体のラインからして女だろう。紫がかった黒髪を背中まで伸ばしたロングヘア。顔はよくわからない。大人になったルビーのようにも見えるし、あの嵐の夜、オレに覆い被さったフリルにも見える。アイをトレースしたあかねにも見えたし、オレが化けたマリンにも見えた。見覚えがある、けれど記憶にはない。そんな女がオレと向かい合っていた。
「あなたも愛が分からないんだよね」
誰かに愛されたことも、誰かを愛したこともないから。
「だから貴方は『愛してる』を振りまいた。『
誰かを愛したこともない。だから愛が分からない。ならせめて愛されようと。愛されるために貴方はその笑顔で、愛してるで、たくさんの人に愛された。
「そんな貴方が、今更真心が愛だなんて言うの?」
嘘のない貴方は愛してもらえなかったのに。嘘を貼り付けた貴方は愛してもらえたのに。誰かに愛されるために、貴方は誰よりも努力してきた。だから貴方は知っているはずだ。素材そのものの、可愛いだけじゃ、綺麗だけじゃ愛されない事を。貴方は誰よりも知っているはずなのに。
「アクア、貴方は、本当に愛が分かってるの?」
女の問いかけに、蜂蜜色の髪の青年は立ち尽くし、目を閉じている。一度天を仰ぎ、大きく息を吐くと、青年はその星の輝きを秘めた瞳を見開き、真っ直ぐに女を見据えた。
「オレは貴方が誰かよくわからないけど、とりあえず母さん、と呼ばせてもらおう」
「えー。できればママって呼んでほしいなぁ」
「質問を返すようで悪いが、ならあなたがオレに言ったことも、嘘か?」
その言葉に、女は黙り込む。それは、それだけは、彼女にとって嘘ではないと心から言える唯一のことだったから。
「母さんの言葉を否定する気はないよ。愛と呼べる嘘も、あるんだと思う。けどそういう嘘にはその奥に相手を思う真心があるはずだ」
役者は、夢を見せる仕事だ。時に美しく、時に醜く、人の夢を、業を、感情を演じる。美しさの中の醜さ、醜さの中の美しさを、嘘の中で演じる。嘘を本当に見せる。
「なんてえらそーにいってるけどな。オレだって、わかんねーよ。愛なんて」
一つの答えは得たとは思う。でもこの答えが正しいかなんてわからないし、一生変わらないとも言いきれない。こんなものの答えなんて、人によって変わるだろう。それぞれに生きる環境があり、世界がある。母さんの哲学も、オレの哲学も、正しくも間違ってもいない。
「母さんにとって、嘘は愛だったのかもしれない。けど、オレにとっては嘘は愛じゃないんだ」
貴方は色んな人に
いつか嘘が本当になる事を信じて。
たくさんの人に愛を伝えてきた。
「オレに、そんな事はできない」
顔も名前も、なんの思い出もない不特定多数に、愛なんて囁けない。オレのことを何も知らない人に愛してもらいたいとも思わない。
『アクア君、お母さんが死んじゃったらどうする?』
幼い頃に言われた言葉が脳裏に蘇る。どうもしねーよ。顔も名前も、思い出も何一つ記憶にない母親が死んだとしても、何を悲しめばいい?何を嘆けばいい?
「母さん、オレは貴方を愛していない」
だから貴方には
「オレが嘘をつけるのは、オレの守りたい人たちだけだ」
オレを本当の息子のように接してくれるミヤコ。
オレを共に真っ暗な世界で光を頼りに生きる仲間と言ってくれた有馬。
オレを親友と呼んでくれて、真っ直ぐにオレを好きだと言ってくれた、そして言い尽くせぬほど世話をかけたフリル。
何があってもオレの味方だと。良いことも悪いことも二人で分け合い、オレとこの世界で生きていきたいと言ってくれたあかね。
ハルさん、ナナさん、レン先輩、アビ子先生、吉祥寺先生。そして───
オレのことを世界で三番目に尊敬してて、世界一信頼していると言ってくれたルビー。
この人たちのためなら、オレは
「ルビーは、貴方のことを心から慕っている」
そしてオレにもそうであってほしいと思ってる。他の何で嘘をつかれても、秘密を持っていたとしても、親子の、家族の愛だけは絶対だと信じている。
「オレは貴方を愛していないけど、それでも…」
貴方を愛したいとは、思っている。
「今までの自分の人生、否定はしないし、後悔もしてないけど、それでも、もっと普通の。芸能界なんて狂気の世界に関係ない、普通の人生に、憧れた事はある」
普通に学校に通い、テストで満点をとって褒めてもらったり、運動会で一等賞を取って自慢したり、授業参観でお母さん綺麗だねって言ってもらったり、したかった。
そういう普通の思い出をたくさん重ねて、時間をかけて家族になって、心から母親に愛していると言える子供になりたかった。
「けど、それは無理だから。だからせめて大切な人に、愛してもらえる子供になりたい」
ミヤコが息子と思ってくれるオレに。
有馬が仲間だと思ってくれるオレに。
フリルが親友と言ってくれるオレに。
あかねが彼氏と、好いてくれるオレに。
ルビーが兄と慕ってくれるオレで、あり続けたい。
そのためならオレは、
「母さん、愛してる」
ああ。
やっと言えた。
申し訳ないと、心から思う。こんなありふれた一言を言えるようになるのに、12年もかかった。12年も言えなかった。
この言葉は嘘だけど。
これは絶対に嘘だけど。
それでも、やっと言えたんだ。
「嘘、なんだよね」
期待か、不安か、その両方か。わからないけど、少し揺れる声で紫がかった黒髪の美女は子供に尋ねた。
「ああ嘘だよ。ウソウソ。超嘘。大ウソだ。アンタさえいなければなんて考えたこと、この12年で数え切れねーよ」
だから言えなかった。12年間。写真や映像は死ぬほど見たけど、何度見ても他人としか思えなかった。プロファイルも何度も重ねたけど、母親なんてとても思えなかった。たとえ嘘でも、顔も名前も、なんの思い出もない貴方を愛してるなんて言えなかった。
「それでも、たとえ嘘でも、オレにとってはやっと踏み出せた一歩なんだ」
今まで嘘でも言えなかった。いつか嘘を本当にするというのは、嘘をつけて初めて目指せる目標だ。オレは今まで、目標を目指すことすらできなかった。
やっと一つ、踏み出せた気がする。オレが忘れてしまって、それゆえに縛られていた枷から。生前の星野アイ。そして記憶喪失前の星野アクアから。やっと一歩、抜け出せた気がする。
「多分今日が、この舞台が、最初の朝なんだ」
12年前からずっと続いていた暗闇。愛なんてわからず、愛の形も知らず、12年生きてきた。けれど今日、やっと光が差し込んだ気がする。
「ありがとう、母さん。たとえ妄想でも、トリップでも、貴方に会えたから、オレはこれから先を進める」
たとえ嘘でも、貴方に愛してると言えた。オレの愛の形もわかった。沼地を花畑に。ミミズを竜に。嘘を本当に見せられて初めて役者は三流。今のオレなら目の前で大切な人を失ったら、悲しく思える。涙を流せる。ようやくオレも天才達と戦うためのスタートラインに立てた。
喧騒が聞こえてくる。ああ、現実の声だ。鞘姫が倒れ、刀鬼が戦意を喪失し、戦いの決着がつく。負傷者の手当てへと移る中で、鞘姫の出血があまりに多く、生還は絶望的とされる場面だ。
「悪い。もう行かないと」
ここまでのシーン。絶望の底に叩き落とされた刀鬼なら、無感情にセリフを紡ぐだけで良かった。だがこの後。鞘姫の盟刀【
「うん。アクアの、今の大切な人たちが待ってるもんね」
「ああ、今のオレはあいつらのために嘘をつけるオレでいたい」
「立派になったね、アクア。強く、大きく、美しくなった。ママも鼻が高いよ」
その言葉に、ずきりと胸が痛くなる。コレは妄想だ。オレが調べ、プロファイルし、作り上げた星野アイの偶像。受け答えするAIのようなもの。あかねのものより精度は低いだろうし、たとえあかねでも100%完璧にトレースするなんて事は不可能だろう。
今のオレは本当に、アイに褒めてもらえるほどのオレなのだろうか。オレは本当にこの人に愛してもらえる息子なのだろうか。
オレはこの人を、愛していないのに。
答えの出ない問いに、眉を歪めずにはいられなかった。
「───っ、」
いつのまにか目の前に来ていた女はオレの首に腕を回し、胸元へと抱き寄せる。
「ごめんね、貴方を一人にしちゃって。ごめんね、ルビーのこととか、全部背負わせちゃって」
かあ、さん
「ごめんね、ちゃんとお母さんできなくて」
謝ってもらう必要なんてない。だってどうしょうもない事だったじゃないか。貴方には、どうしようも…
「何もできなかった私に、何も言う資格はないけど」
謝らなければいけないのは、オレの方で……オレの方なのに。
「だからこそ、言わなきゃいけないことを言うね」
抱きしめる腕の力が強くなる。けれど決して痛くはなく、威圧感もない。ただ暖かく、柔らかく、愛しかった。
「アクア。貴方は私のことを、愛さなくたっていいんだよ。愛したいなんて思わなくていいの」
貴方がこれからどうなろうと。
「貴方が私のことを忘れちゃっても」
貴方が自分のことを愛されてないって不安に思っても。
「私は貴方を、貴方たちのことを、ずっと愛してる」
ああ、やっと言えた。
「……あ」
これは絶対
「あぁ……」
嘘じゃない
「うぁ……」
愛してる
「うぁああああああああ!!!ぁあああああああ!!!」
そこから先は、よく覚えていない。気がついた時、オレは舞台袖で壁にもたれかかり、座り込んでいた。歓声と大きな拍手の音が聞こえてくる。その声を聞いて、無事終わったみたいだな、と他人事のように思い、息を吐く。
頬を流れる涙が止まっていないことに気づいたのは、それからもう少し経ってからだった。
かくして、舞台東京ブレイドは大好評を受け、幕を下ろす。この後、芸能界はしばらく荒れる事となる。
巨星の喪失と新星の発見によって。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
今回はいつもよりちょっと早く投稿できました。やっぱり丁寧な感想や高評価はモチベ爆上がりして筆がノりますね。まあそうでなくても今回は筆のノリ良かったですが。この話を書きたかったからこその長い舞台編でしたからね。(逆にノラない時はいくら時間かけても書けないってていう)
ついに終幕しました。東京ブレイド舞台編。いかがだったでしょうか?拙作のアクアの愛の形や哲学。フリルとあかね、重曹ちゃんの四角関係やアビ子先生とのドロドロ、その他諸々筆者の趣味を詰め込みまくった割には綺麗に完結できたと思います。その分長くなったのはご愛嬌で。筆者の乏しい文才の精一杯です。
それでは励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければモチベーション爆上がりです。時間がかかっても感想には必ず返信します。
お気に入り件数五千突破しました!コレって凄いのかな、でももっと凄い人いっぱいいるしな、などと色々考えますが、フォロワー五千と考えると結構凄くね、と思って喜んでおきます。たくさんのお気に入り登録ありがとうございます!これからもよろしくお願いします!
アイは「星をなくした子」で救済されるべき?
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救済されるべき!(ただしひどいよ?)
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アイは星になって見守っているべき